RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

収益性・収支

収益物件の前提は、どれを一番慎重に見るべきか|9変数を同一尺度で比較すると、IRR5%までの余裕は空室率で現実的ブレ幅の0.30倍しかなかった

収益物件の前提は、どれを一番慎重に見るべきか|9変数を同一尺度で比較すると、IRR5%までの余裕は空室率で現実的ブレ幅の0.30倍しかなかった

収益物件の収支シミュレーションは、必ずどこかで「前提」を置きます。空室率は5%、金利は2.8%、出口利回りは7.5%、家賃下落は年0.5%。どれも根拠のある数字ですが、どれも将来の実績ではありません。

ここで問題になるのは、どの前提が外れたときに一番痛いのかです。一般的な記事は「金利上昇に注意」「空室リスクに注意」と個別に警告しますが、金利と空室率と出口利回りを同じ尺度で並べて順位をつけたものはほとんど見かけません。単位が違うため、そのままでは比較できないからです。

この記事では、ひとつの基準ケースに対して9つの前提を1つずつ動かし、10年IRRへの影響を同一尺度で並べました。そのうえで、公開データから「その変数が現実にどれくらい動くか」を当てはめ、感応度 × 現実のブレ幅=リスク寄与度という形で順位を付け直しています。

結論を先に書くと、1単位あたりの感応度で1位だった変数は、リスク寄与度では4位に落ちました。順位は入れ替わります。そして目標IRR5.0%までの余裕は、主要6変数のうち5つで現実的なブレ幅の0.30〜0.45倍しかありませんでした。

この記事で検証する疑問

  • 金利・空室率・出口利回り・運営費・家賃下落・融資条件・取得価格を同じ尺度に並べると、IRRを最も削るのはどれか
  • 「1単位あたりの感応度が大きい変数」は、そのまま「危険な変数」なのか
  • 目標IRRを割らないために、各前提に許容できるブレ幅はどこまでか
  • 複数の前提が同時に外れたとき、影響は単独の足し算になるのか
  • 感応度の大きさは、物件価格で決まるのか、それ以外の条件で決まるのか

使用データの区分

本記事の数値は性質が異なるため、先に区分を明示します。

区分

内容

本記事での用途

公開データ

日本銀行の政策金利、総務省の消費者物価指数・住宅土地統計調査、国土交通省の建設工事費デフレーター、日本不動産研究所の不動産投資家調査

各変数の「現実的なブレ幅」を設定する根拠

架空ケース

後述する基準ケースの物件条件・融資条件

感応度を測るための土台

シミュレーション

IRR・DSCR・CF・売却手残りの計算結果

本記事の分析結果すべて

実データ

—

本記事では使用していません

つまり本記事の結果は実際の物件統計ではなく、条件を固定したシミュレーションです。情報確認日は2026年10月9日です。

基準ケースをこう置いた理由

感応度を測るには土台が必要ですが、物件価格そのものを主役にする分析ではありません。そこで、読者層と分析目的から条件を逆算しました。

  • 想定読者:1〜2棟目を検討する個人投資家。収支表の前提をどこまで慎重に置くべきか迷っている段階
  • 想定物件:地方中核都市の築10年前後・木造一棟アパート8戸。融資期間と出口の双方に不確実性が残り、前提の置き方で結論が変わりやすい
  • 価格の決め方:総額から決めず、1戸あたり800万円という積み上げから6,400万円としました。月額賃料6.0万円×8戸=年576万円が表面9.00%に対応し、賃料・価格・戸数の整合が取れます
  • 金利の決め方:日本銀行の政策金利が2026年9月18日の決定で1.25%程度へ引き上げられた局面を踏まえ、地域金融機関のアパートローン実勢として2.8%を基準にしました

項目

基準値

算出

物件価格

6,400万円

1戸800万円×8戸

満室想定年間家賃(GPI)

576.0万円

月6.0万円×8戸×12ヶ月

表面利回り

9.00%

576.0÷6,400

空室・滞納損

5.0%

GPI×5%=28.8万円

年間運営費

115.2万円

GPI×20%(管理料・固都税・保険・共用光熱・原状回復・小修繕)

初年度NOI

432.0万円

576.0×0.95−115.2

NOI率(価格比)

6.75%

432.0÷6,400

借入額(LTV80%)

5,120万円

6,400×80%

金利/融資期間

2.80%/20年

元利均等・月払い

年間返済額

334.63万円

月27.886万円×12

初年度DSCR

1.291倍

432.0÷334.63

初年度CF(税引前)

97.4万円

432.0−334.63

購入諸費用

448万円

価格×7%

初期自己資金

1,728万円

1,280+448

CCR

5.64%

97.4÷1,728

家賃下落率/運営費上昇率

年0.5%/年1.5%

—

保有期間/出口利回り

10年/7.50%

11年目NOIを7.50%で還元

売却諸費用

4.0%

仲介手数料・登記等

この条件での10年末の姿は、売却価格5,156.7万円、残債2,915.7万円、売却手残り2,034.8万円、10年累計CF771.3万円、10年IRR(税引前・自己資金ベース)5.938%です。初年度DSCR1.291倍は融資が付く水準で、極端に良くも悪くもない現実的なスタート地点です。

表面利回り・実質利回り・NOI・DSCR・IRRの定義そのものは収益物件の収支計算完全ガイドに整理しています。IRRとNPVの使い分けは不動産投資のNPV(正味現在価値)とは?、DSCRの目安は不動産投資のDSCRとは?をご覧ください。

分析方法:3段階で比較する

  1. 単位あたり感応度:各変数を1単位だけ悪化させ、10年IRRの変化(pt)を測る。他の条件は基準のまま固定
  2. リスク寄与度:公開データから各変数の「現実的に起こりうるブレ幅」を設定し、その幅だけ動かしたときのIRR変化を測る。単位の違いを吸収して順位比較できるようにする
  3. 許容ブレ幅の逆算:10年IRR5.0%を下回らない範囲で、各変数にどこまでのブレを許せるかを逆算し、現実的なブレ幅との比率を出す

固定した条件と変更した条件

固定:物件価格・戸数・満室想定家賃・購入諸費用率・保有期間10年・売却諸費用率・返済方式(ただし各試行では検証対象の1変数のみ変更)

変更(検証対象):金利、出口利回り、空室・滞納率、家賃下落率、運営費上昇率、運営費率(初期水準)、融資期間、LTV、取得価格の9変数

現実的なブレ幅の根拠

変数

設定したブレ幅

根拠となる公開データ

金利

+1.00pt

無担保コールレート誘導目標は2024年3月のマイナス金利解除以降に引き上げが続き、2026年9月18日の決定で1.25%程度。2年半で1pt超の上昇実績

出口利回り

+1.00pt

第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)では半年で0.1pt前後の動き。局面が変われば累積で1pt規模になる

空室・滞納率

+5.0pt

令和5年住宅・土地統計調査では賃貸用の空き家443.6万戸・借家1,946.2万戸で、賃貸ストックに対する空室率は18.6%

家賃下落率

+0.5pt/年

東京都区部の民営家賃は2026年9月に前年同月比+2.2%(中旬速報値)。全国の築古物件では下落も併存し、上下双方に0.5pt/年規模の幅がある

運営費上昇率

+1.5pt/年

建設工事費デフレーター(木造住宅、2020年度基準)は2026年6月に126.7で前年同月比+4.5%

運営費率

+3.0pt

原状回復・広告料・共用部費用など計上漏れが起きやすい科目で3pt程度は動く

融資期間

−5年

同じ物件でも金融機関により期間設定が大きく異なる

LTV

−10pt

担保評価の出方で融資額は1割前後変動する

取得価格

+5%

指値が通らず売出価格に近づくケース

結果①:1単位あたりの感応度

まず各変数を1単位だけ悪化させた結果です。単位が異なるため、この表だけで順位を決めてはいけません。

変数

1単位

1単位あたりΔIRR

運営費率(初期水準)

+1.0pt

−0.713pt

空室・滞納率

+1.0pt

−0.617pt

取得価格

+1.0%

−0.438pt

家賃下落率

+0.1pt/年

−0.406pt

出口利回り

+0.1pt

−0.278pt

金利

+0.1pt

−0.223pt

運営費上昇率

+0.1pt/年

−0.100pt

LTV

−1.0pt

−0.092pt

融資期間

−1年

−0.087pt

この表を素直に読むと「運営費率がいちばん怖い」「金利は6番目」という結論になります。しかしこれは、1ptという刻みが変数ごとにまったく違う重さを持っているために生じる錯覚です。

結果②:リスク寄与度では順位が入れ替わる

各変数に公開データ由来のブレ幅を当てはめ直したものが次の表です。これが本記事の中心です。

順位

変数

現実的なブレ幅

ΔIRR

単位感応度での順位

1

空室・滞納率

5%→10%

−3.274pt

2位

2

出口利回り

7.50%→8.50%

−2.790pt

5位

3

金利

2.80%→3.80%

−2.311pt

6位

4

運営費率

20%→23%

−2.217pt

1位

5

取得価格

6,400→6,720万円

−2.187pt

3位

6

家賃下落率

年0.5%→1.0%

−2.133pt

4位

7

運営費上昇率

年1.5%→3.0%

−1.678pt

7位

8

LTV

80%→70%

−0.731pt

8位

9

融資期間

20年→15年

−0.479pt

9位

単位感応度で1位だった運営費率は4位へ下がり、6位だった金利は3位へ上がりました。感応度が大きい変数が危険なのではなく、「感応度 × 動く幅」が大きい変数が危険ということです。運営費率は1pt動けばよく効きますが、実務で3pt以上ずれることは多くありません。金利は1ptあたりの効きは小さいものの、政策金利が2年半で1pt超動いた実績があり、投資家側でコントロールできません。

そして上位3変数のΔIRRが−2.3〜−3.3ptに収まっている点も重要です。「ここだけ見ておけば大丈夫」という変数は存在しません。上位6変数が−2pt台で並んでいるため、どれか1つを厳しく見るのではなく、全体で何ptまで許せるかという発想が必要になります。

結果③:目標IRR5.0%までの余裕はどこまでか

基準ケースのIRRは5.938%です。目標を5.0%に置くと、使える余裕は0.938ptしかありません。この余裕を各変数で使い切る点を逆算しました。

変数

許容ブレ幅

到達する絶対水準

現実的ブレ幅に対する比率

空室・滞納率

+1.51pt

空室率6.51%

0.30倍

出口利回り

+0.34pt

出口CR 7.84%

0.34倍

金利

+0.42pt

金利3.22%

0.42倍

取得価格

+2.14%

価格6,537万円

0.43倍

運営費率

+1.31pt

運営費率21.31%

0.44倍

家賃下落率

+0.227pt/年

年0.727%

0.45倍

運営費上昇率

+0.884pt/年

年2.384%

0.59倍

LTV

−14.02pt

LTV 65.98%

1.40倍

融資期間

−8.50年

期間11.50年

1.70倍

比率が1を下回る変数は、現実に起こりうる範囲を使い切る前に目標IRRを割ることを意味します。空室率は想定した5ptのブレのうち3割、出口利回りは1ptのうち3分の1、金利は1ptのうち4割強で5.0%に到達します。

逆に、LTVと融資期間は比率が1を超えました。LTVが10pt下がって自己資金が増えても、融資期間が5年短くなっても、IRR5.0%は維持できます。融資条件の交渉より、空室・出口・金利の見積りのほうがIRRを決めているという結果です。融資期間やLTVがIRRではなくDSCRと手元資金に効くことは融資期間25年・30年・35年で何が変わるか、「頭金を薄くして大きく買う」と手残りは増えるのかで個別に検証しています。

出口利回りについては、単独でも−2.790ptという大きさでした。保有期間ごとの効き方の違いは出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるかに、金利上昇のうち何割が売却価格経由で効くのかは金利1%上昇でIRRは6.15pt低下、うち74%は返済額ではなく売却価格が原因だったにまとめています。

なお、この逆算は基準ケースのNOI・融資条件・出口条件を固定した結果です。保有年数や出口利回りを自分の条件で動かして目標IRRに必要な売却価格を確認したい場合は、売却・出口戦略シミュレーターで出口条件を変えながら試算すると、Exit Cap Rateの感応度表と目標IRRから逆算した必要売却価格を同時に確認できます。

結果④:同時に外れると、足し算より大きく悪化する

感応度表の使い方で最も多い誤りは、単独の数値を足し算することです。実際に3変数を同時に悪化させて確かめました。

シナリオ

10年IRR

ΔIRR

初年度DSCR

初年度CF

10年累計CF

売却手残り

BASE(基準)

5.938%

—

1.291倍

97.4万円

771万円

2,035万円

①金利3.80%

3.627%

−2.311pt

1.181倍

66.1万円

459万円

1,911万円

②空室率10%

2.664%

−3.274pt

1.205倍

68.6万円

490万円

1,684万円

③出口CR 8.50%

3.148%

−2.790pt

1.291倍

97.4万円

771万円

1,452万円

STRESS(①②③同時)

−3.945%

−9.883pt

1.102倍

37.3万円

177万円

1,019万円

SEVERE(①②③+家賃下落年1.0%+運営費上昇年3.0%)

−12.852%

−18.790pt

1.102倍

37.3万円

−23万円

507万円

①②③を単独で足すと−8.375ptですが、同時に起こしたときの実測は−9.883ptでした。差は1.508pt、単純合計は実際の悪化を15.3%過小評価します。理由は、空室率の上昇がNOIを下げ、そのNOIを出口利回りで割って売却価格を出すため、収入面の悪化と出口面の悪化が掛け算になるからです。金利上昇は残債の減りも遅らせるため、売却手残りをさらに削ります。

STRESSケースでは初年度DSCRは1.102倍で、融資返済そのものは回っています。初年度CFも37.3万円の黒字です。毎年の収支は黒字のまま、IRRだけがマイナスになるという形です。これは収支表の年次CFだけを見ていると気づけない悪化の仕方で、出口を含めて評価する必要がある理由でもあります。

SEVEREケースでは10年累計CFが−23万円となり、保有期間中の手残りが消えます。ただし売却手残り507万円は残るため、投資元本1,728万円のうち約3割が戻る計算です。金利と空室率を同時に動かした場合のCFへの影響だけを詳しく見たい場合は金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減る?で20パターンを試算しています。

結果⑤:感応度を決めているのは価格ではなくLTV

ここまでの結果は6,400万円という特定の価格で計算しています。では価格が違う読者には使えないのか、を確かめました。

物件価格

初期自己資金

初年度CF

初年度DSCR

10年IRR

3,200万円

864万円

48.7万円

1.291倍

5.938%

4,800万円

1,296万円

73.0万円

1.291倍

5.938%

6,400万円

1,728万円

97.4万円

1.291倍

5.938%

9,600万円

2,592万円

146.1万円

1.291倍

5.938%

1億6,000万円

4,320万円

243.4万円

1.291倍

5.938%

表面利回り・LTV・金利・期間・運営費率・出口利回りという比率を固定したまま価格だけを変えると、IRRもDSCRも完全に一致します。金利+1ptのΔIRRも空室+5ptのΔIRRも、どの価格でも−2.311pt/−3.274ptで変わりません。IRRと感応度を決めているのは物件価格ではなく、比率の組み合わせです。したがって本記事の順位表は、価格帯が違っても同じ比率なら読み替えずに使えます。

では何が感応度を変えるのか。LTVです。

LTV

初期自己資金

基準IRR

初年度DSCR

金利+1ptのΔIRR

空室+5ptのΔIRR

出口CR+1ptのΔIRR

60%

3,008万円

4.749%

1.721倍

−1.088pt

−2.058pt

−1.767pt

70%

2,368万円

5.207%

1.475倍

−1.559pt

−2.526pt

−2.162pt

80%

1,728万円

5.938%

1.291倍

−2.311pt

−3.274pt

−2.790pt

90%

1,088万円

7.303%

1.148倍

−3.715pt

−4.671pt

−3.946pt

LTVを60%から90%へ引き上げると、金利+1ptのΔIRRは−1.088ptから−3.715ptへ3.41倍に拡大します。空室+5ptは2.27倍、出口CR+1ptは2.23倍で、金利感応度のLTV弾性が最も大きいという結果でした。借入比率を上げることは、金利リスクを他のリスクより選択的に増やす行為だということです。

リスク寄与度の順位もLTVで変わります。LTV60%・70%では金利は6位でしたが、LTV80%・90%では3位に上がります。自己資金を厚く入れる投資家にとって金利は6番目の論点、フルローンに近い投資家にとっては3番目の論点になります。同じ物件でも、融資の組み方によって注意すべき前提の順番が変わるわけです。

金利が1pt上がると、レバレッジ効果はほぼ消える

さらに踏み込んで、金利ごとにLTVを変えたIRRを並べました。

金利\LTV

60%

70%

80%

90%

2.00%

5.57%

6.38%

7.65%

10.03%

2.50%

5.06%

5.65%

6.59%

8.35%

2.80%(基準)

4.75%

5.21%

5.94%

7.30%

3.00%

4.54%

4.90%

5.49%

6.59%

3.50%

3.99%

4.13%

4.34%

4.74%

4.00%

3.44%

3.32%

3.14%

2.80%

金利2.00%ではLTV60%とLTV90%のIRR差は4.46ptあります。基準の2.80%では2.55pt。3.50%では0.75ptまで縮み、4.00%では符号が反転して−0.64pt、つまり借入を増やすほどIRRが下がります。

LTV60%とLTV90%のIRRが一致する金利を逆算すると3.773%でした。この条件では、金利3.773%を超えるとレバレッジはIRRを下げる方向に働きます。

興味深いのは、よく使われる「ローンコンスタントがNOI率を上回ったらレバレッジはマイナス」という目安との差です。本ケースのNOI率は6.75%で、期間20年のローンコンスタントが6.75%になる金利は3.157%です。IRRベースの中立金利3.773%とは0.616ptのギャップがあります。元本返済による資産形成と売却時の手残りがIRRには含まれるため、年次CFだけで見る目安よりも後ろに中立点がずれるのです。イールドギャップの考え方そのものはイールドギャップは「利回り−金利」では測れないで扱っています。

転換点のまとめ

基準ケースで他の条件を固定したまま1変数だけを動かしたときの境界値です。

見たい境界

転換点

初年度DSCRが1.20倍を割る金利

3.616%

初年度DSCRが1.20倍を割る空室率

10.29%

初年度CFがゼロになる金利

5.768%

初年度CFがゼロになる空室率

21.91%

10年IRRが5.0%を割る金利

3.22%

10年IRRが5.0%を割る出口利回り

7.84%

売却手残りが初期自己資金1,728万円を割る出口利回り

7.995%

10年IRRが0%になる出口利回り

9.588%

注目したいのは、IRR5.0%を割る金利3.22%のほうが、DSCR1.20倍を割る金利3.616%より先に来ることです。融資審査の基準を満たしていても、投資としての目標利回りは先に割れます。CFがゼロになる金利5.768%まではまだ距離がありますが、その手前に判断ラインが2本あるということです。これらの数値は本分析の条件限定の結果で、NOI率や融資期間が違えば位置は変わります。

改善方向も確認する

悪化方向だけを並べると不安だけが残るので、良い方向も同じ尺度で測りました。

シナリオ

10年IRR

ΔIRR

初年度DSCR

BASE

5.938%

—

1.291倍

指値5%成功(6,080万円)

8.144%

+2.206pt

1.359倍

出口CR 7.00%

7.337%

+1.399pt

1.291倍

空室率3%で運営

7.126%

+1.188pt

1.325倍

金利2.50%

6.595%

+0.657pt

1.327倍

IMPROVE(上記4つを同時)

11.079%

+5.141pt

1.434倍

単独の改善幅が最も大きいのは指値の成功で+2.206ptでした。購入時に一度だけ確定できる価格交渉が、10年にわたる運営努力や金利交渉より大きくIRRを動かすという結果です。空室率を5%から3%に下げ続ける運営は+1.188pt、金利を0.3pt下げる交渉は+0.657ptでした。価格の上限を逆算する考え方は売出8,000万円の物件、自分はいくらまで払えるのか、必要表面利回りの逆算はDSCR1.3に必要な表面利回りは7.5%か9.4%かで扱っています。

結果から分かること

  • 単位あたりの感応度では順位を決められない。運営費率は1単位感応度では1位(−0.713pt/pt)だが、現実的なブレ幅を当てると4位(−2.217pt)。金利は6位から3位へ上がる
  • リスク寄与度の上位は空室率・出口利回り・金利。いずれも−2.3〜−3.3ptで、ひとつに絞れるほどの差はない
  • IRR5.0%までの余裕は、主要6変数で現実的ブレ幅の0.30〜0.59倍しかない。空室率0.30倍、出口利回り0.34倍、金利0.42倍が最も余裕が少ない
  • 融資期間とLTVは、IRRの観点では余裕が大きい。許容比率1.70倍・1.40倍で、IRRよりDSCRと手元資金に効く
  • 同時悪化は単独の足し算より1.508pt大きい。単純合計は実際の悪化を15.3%過小評価する
  • 毎年のCFが黒字でもIRRはマイナスになりうる。STRESSケースはDSCR1.102倍・初年度CF37.3万円の黒字でIRR−3.945%
  • 感応度は価格では変わらず、LTVで変わる。比率を固定すれば3,200万円でも1.6億円でもIRRは5.938%。一方LTVを60%→90%にすると金利感応度は3.41倍に拡大
  • この条件ではレバレッジ中立金利は3.773%。ローンコンスタント基準の3.157%より0.616pt後ろにある
  • 購入時の価格交渉の効果が最も大きい。指値5%成功で+2.206pt

投資判断への使い方

  1. 自分のLTVを先に決めてから、注意する前提の順番を決める。自己資金を厚く入れるなら金利は6番目の論点、フルローンに近いなら3番目です。順位表は融資の組み方で変わります
  2. 目標IRRから逆算した許容ブレ幅を、レントロールと融資提案の検証項目にする。本ケースなら「空室率6.5%まで」「出口CR7.84%まで」「金利3.22%まで」が目標IRR5.0%の境界です。この3つを現地の募集状況・近隣の取引利回り・金利タイプで確認します
  3. 感応度表を足し算しない。単独の数値を並べたあとに、必ず複数同時のケースを1本計算します。本ケースでは15.3%の過小評価が生じました
  4. DSCRの余裕とIRRの余裕を別に管理する。DSCR1.20倍を割る金利3.616%より、IRR5.0%を割る金利3.22%のほうが先に来ます。融資が通ることと目標が達成できることは別の条件です
  5. 価格交渉に最もコストをかける。改善幅が最大(+2.206pt)で、購入時に一度で確定できる唯一の変数です

ここまでの前提はすべて基準ケースのものです。自分の物件価格・満室家賃・借入条件・空室率・家賃下落率で同じ構造を確認したい場合は、キャッシュフローシミュレーターで自分の条件のDSCRと損益分岐点を試算すると、CF損益分岐空室率・CF損益分岐金利と金利×空室率のストレス表を自分の数値で確認できます。

なお本記事は税引前・自己資金ベースのIRRに絞って9変数を比較しています。減価償却や所有形態、売却時の譲渡税まで含めた総合的な判断が必要な段階では、RE-AIの診断で収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を横断して確認する使い方もできます。ただしどちらも投資判断そのものを保証するものではありません。

この分析で分からないこと

  1. 税引後の順位は検証していません。本記事は税引前IRRです。減価償却費・所得税率・譲渡税を入れると順位は変わる可能性があります。税引後の挙動は減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減った、5年目売却と6年目売却で税引後IRRは7.17pt違うで個別に扱っています
  2. 「現実的なブレ幅」は分析者の設定です。公開データを根拠にしていますが、確率分布として推定したものではありません。幅の置き方を変えれば順位も変わります
  3. 個別物件の競争力は反映できません。同じエリア・同じ空室率の想定でも、間取り・設備・築年数・管理状態によって実際の稼働は大きく違います
  4. 変数間の相関を入れていません。金利上昇と出口利回り上昇、人口減少と家賃下落は現実には連動しますが、本記事では独立に動かしています。連動させた場合の挙動は金利と出口価格の連動率を0・50・100%で試算した記事をご覧ください
  5. 相関と因果は区別が必要です。公開データで家賃や空室率が動いていても、その原因が人口や金利だけとは限りません。新規供給、競合物件のリニューアル、地域の雇用動向など複数の要因が重なります
  6. 実際の融資条件は検証できません。金利・期間・LTVは金融機関と属性で決まり、本記事のような自由な組み合わせが実現するとは限りません
  7. 大規模修繕の山を織り込んでいません。運営費を一定率で上昇させる形にしており、特定年の集中支出は入れていません。その影響は大規模修繕の年、手元資金はいくら必要か、修繕費「家賃の5%」で足りるのかで扱っています
  8. 保有期間10年に固定しています。保有年数を変えれば出口利回りの寄与度は変わります

まとめ

収支シミュレーションの前提は、どれも同じ重さではありません。そして「1pt動かしたときの効き方」で順位をつけると、実務の判断を誤ります。重要なのは効き方と動く幅の積です。

この基準ケースでは、リスク寄与度の上位は空室・滞納率(−3.274pt)、出口利回り(−2.790pt)、金利(−2.311pt)でした。目標IRR5.0%までの余裕は、空室率で現実的ブレ幅の0.30倍、出口利回りで0.34倍、金利で0.42倍しかありません。一方で融資期間とLTVには1.4〜1.7倍の余裕があり、IRRという軸では融資条件の交渉より需給と出口の見積りが効いていました。

そして感応度の大きさを決めているのは物件価格ではなくLTVでした。比率を固定すれば3,200万円でも1.6億円でもIRRは同じ5.938%ですが、LTVを60%から90%へ上げると金利感応度は3.41倍に拡大し、金利3.773%を超えるとレバレッジ自体がIRRを下げる側に回ります。

どの前提を慎重に見るべきかは、物件の価格帯ではなく、自分がどれだけ借りるかで決まります。その順番を先に決めてから、レントロールと融資提案を読むほうが順序として正しいはずです。

参考資料・出典

情報確認日:2026年10月9日

本記事の計算結果は、記載した条件を固定したシミュレーションです。実際の物件統計・取引実績ではありません。投資判断は物件個別の調査と、金融機関・税理士等の専門家への確認を併せて行ってください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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