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出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか|保有5年・10年・15年・20年で検証

出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか|保有5年・10年・15年・20年で検証

収益物件の検討では、購入時の利回り・金利・空室率までは丁寧に計算する人が多い一方、「売るときの利回り」を数字で置いている人はほとんどいません。しかし投資の成否は、保有期間中のキャッシュフローよりも、出口の売却価格で決まることが少なくありません。

この記事では、価格8,000万円・年間家賃640万円(購入時表面利回り8.0%)の一棟アパートを想定し、出口利回りが購入時から0.5〜2.0ポイント悪化した場合に、売却価格・手残り・通算IRRがどう変わるかを、保有5年・10年・15年・20年の4パターンで実際に計算しました。

結論を先に書くと、同じ「出口利回り+1.0ポイント」という悪化でも、通算IRRへの打撃は保有5年で約12ポイント、保有20年で約0.6ポイントと、20倍以上の差が出ました。

この記事で検証する疑問

  • 出口利回り(売却時の表面利回り)が1ポイント上がると、売却価格はいくら下がるのか
  • その下落は、保有期間中に貯めたキャッシュフローで何年分に相当するのか
  • 保有年数によって、出口利回りの悪化に対する耐性はどれだけ変わるのか
  • 「売却できるが損をする」のと「売却しても残債が残る」のは、どちらが先に来るのか
  • 短期売却を前提にするなら、購入価格をいくら下げれば出口の悪化を吸収できるのか

前提条件(すべて固定)

本記事の数値は実際の取引統計ではなく、条件を固定したシミュレーションです。特定の物件・エリアの将来を予測するものではありません。

項目

設定

物件価格

8,000万円

年間満室家賃(購入時)

640万円(表面利回り8.0%)

自己資金

1,000万円

購入諸費用

物件価格の7%=560万円

初期投下資金

1,560万円

借入額 / 金利 / 期間

7,000万円 / 2.0%(全期間固定) / 30年元利均等

年間返済額

310.5万円

空室率

5%(全期間一定)

運営費(管理費・修繕・固都税等)

満室家賃の20%

売却諸費用

売却価格の4%

税金

本分析では考慮しない(税引前で比較)

この条件での初年度は、NOI 480.0万円、年間キャッシュフロー 169.5万円、DSCR 1.55。数字だけ見れば余裕のある案件です。「購入時点では問題がない物件」を出発点にしている点が、この検証の前提になります。

変更する条件

  • 出口表面利回り:8.0%(購入時と同水準)/8.5%/9.0%/9.5%/10.0%の5パターン
  • 保有年数:5年/10年/15年/20年の4パターン
  • 後半の複合ストレスでのみ、家賃下落率を年0%/0.5%/1.0%/1.5%で変更

計算方法

売却価格は、実務で一棟物件の値付けに最も使われる表面利回りベースで算出しました。

  • 売却価格 = 売却時点の年間満室家賃 ÷ 出口表面利回り
  • 売却時点の満室家賃 = 640万円 ×(1 − 家賃下落率)保有年数(基本ケースは年0.5%下落)
  • 純手取り = 売却価格 −(売却価格 × 4%)− 残債
  • 通算IRR = 初期投下1,560万円をマイナス、毎年の税引前CF、最終年に純手取りを加えた資金の流れから算出

指標そのものの意味は収益物件の収支計算完全ガイドで整理しています。

結果1:保有10年、出口利回り別の売却結果

10年後の残債は5,114万円、売却時点の満室家賃は608.7万円(年0.5%下落後)。10年間の累計キャッシュフローは1,589万円です。

出口表面利回り

売却価格

売却諸費用

残債

純手取り

通算IRR

8.0%(購入時と同じ)

7,609万円

304万円

5,114万円

2,190万円

12.57%

8.5%

7,161万円

286万円

5,114万円

1,760万円

11.08%

9.0%

6,763万円

271万円

5,114万円

1,378万円

9.55%

9.5%

6,407万円

256万円

5,114万円

1,037万円

7.96%

10.0%

6,087万円

243万円

5,114万円

729万円

6.27%

出口利回りが8.0%から9.0%へ1ポイント開くだけで、売却価格は7,609万円から6,763万円へ846万円下がります。この846万円は、この物件の初年度キャッシュフロー169.5万円の約5年分に相当します。10年かけて貯めた累計CF 1,589万円のうち、半分以上が売却の1回で消える計算です。

結果2:保有年数 × 出口利回りの通算IRR

保有年数

出口8.0%

出口8.5%

出口9.0%

出口9.5%

出口10.0%

5年

8.71%

3.17%

−3.21%

−11.25%

−23.97%

10年

12.57%

11.08%

9.55%

7.96%

6.27%

15年

12.65%

12.04%

11.45%

10.88%

10.31%

20年

12.21%

11.91%

11.62%

11.36%

11.10%

税引前の手取り総額(初期投下1,560万円を差し引いた後)で見ると、差はさらに直感的になります。

保有年数

出口8.0%

出口8.5%

出口9.0%

出口9.5%

出口10.0%

5年

+649万円

+209万円

−183万円

−533万円

−849万円

10年

+2,219万円

+1,789万円

+1,407万円

+1,065万円

+758万円

15年

+3,839万円

+3,420万円

+3,048万円

+2,714万円

+2,414万円

20年

+5,523万円

+5,115万円

+4,751万円

+4,426万円

+4,134万円

出口利回り+1ポイントの重さは、保有年数で20倍違う

出口利回りが8.0%から悪化したときの、通算IRRの低下幅だけを取り出しました。

保有年数

出口+1.0pt(8.0%→9.0%)

出口+2.0pt(8.0%→10.0%)

5年

−11.92pt

−32.67pt

10年

−3.02pt

−6.30pt

15年

−1.19pt

−2.34pt

20年

−0.58pt

−1.11pt

同じ市場環境の悪化でも、保有5年のIRRへの打撃は保有20年の約20倍です。理由は3つあります。

  • 元利均等返済の初期は元金の減りが遅く、5年後の残債は6,104万円(借入の87%)が残る
  • 5年間の累計CFは824万円で、売却損を吸収する原資が小さい
  • IRRは年率換算のため、短い期間で発生した損失ほど年率への影響が大きく出る

逆に言えば、保有期間そのものが出口リスクの緩衝材として機能しているということです。これは「長く持てば必ず得をする」という意味ではなく、「短期売却前提の投資は、出口利回りの前提を1ポイント間違えるだけで結果が反転する構造になっている」という意味です。

転換点:どこから危険域に入るのか

各保有年数について、通算IRRが5%・3%・0%になる出口利回りと、売却しても残債を返しきれなくなる出口利回りを逆算しました。

保有年数

IRR5%を確保できる上限

IRR3%の上限

元本割れ(IRR0%)ライン

残債割れライン

5年

8.34%

8.51%

8.76%

9.82%

10年

10.35%

10.86%

11.49%

11.43%

15年

14.56%

15.92%

17.35%

14.17%

20年

28.41%

34.55%

39.03%

19.77%

最も重要なのは5年の行です。購入時8.0%で買った物件を5年で売る場合、出口利回りが8.34%を超えた時点でIRRは5%を割り、8.76%で元本割れに入ります。購入時からわずか+0.76ポイントです。一方で10年保有なら+3.49ポイント(11.49%)まで耐えます。

「売れること」と「損しないこと」は別の話

上の表でもう一つ注目したいのが、5年の行で元本割れライン8.76%が、残債割れライン9.82%より1ポイント以上手前にあることです。

つまり出口利回りが9.0%程度に開いた局面では、この物件は「売却して残債は返せるが、投下した自己資金は回収できない」という状態になります。仲介会社からは「問題なく売れます」と言われる価格帯でも、投資としては失敗している水準です。売却可能性と投資成果は、別々に確認する必要があります。

この構造は、築15年の一棟アパート、「売る」か「持ち続ける」かを決める7つの確認項目で挙げた「残債と売却想定価格の差」を、数字で裏付けた形になります。

複合ストレス:家賃下落と出口利回りが同時に悪化したら

現実には、出口利回りが開く局面では家賃も弱含んでいることが多く、両者は独立ではありません。家賃下落率を年0%〜1.5%まで変えて、同時に悪化させた場合の通算IRRを計算しました。

保有10年の場合

家賃下落率

出口8.0%

出口9.0%

出口10.0%

年0.0%

14.17%

11.44%

8.58%

年0.5%(基本ケース)

12.57%

9.55%

6.27%

年1.0%

10.81%

7.41%

3.49%

年1.5%

8.87%

4.92%

−0.10%

保有5年の場合

家賃下落率

出口8.0%

出口9.0%

出口10.0%

年0.0%

11.03%

0.16%

−15.86%

年0.5%(基本ケース)

8.71%

−3.21%

−23.97%

年1.0%

6.21%

−7.11%

年1.5%

3.49%

−11.81%

※印の2ケースは、売却しても残債を返しきれずIRRが意味を持たない水準です。家賃下落年1.0%・出口10.0%では、売却価格6,086万円に対し残債6,104万円で純手取りは−261万円、初期投下1,560万円と合わせた通算では−1,021万円となります。

注目すべきは、保有10年では家賃下落年1.5%かつ出口10.0%という厳しい組み合わせでようやくIRRがゼロ近辺(−0.10%)になるのに対し、保有5年では家賃下落0%でも出口9.0%だけでIRRが0.16%まで落ちる点です。短期保有では、出口利回り単独でストレスシナリオが完成してしまいます。

金利と空室を同時に動かした場合の分析は金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減る?で行っています。本記事はその続きとして、保有期間の出口側を検証したものです。

逆算:5年で売る前提なら、いくらで買えばいいのか

結果を裏返して、「出口利回りが9.0%に開くことを織り込んだうえで、5年保有で目標IRRを確保するには購入価格をいくらにすべきか」を逆算しました。自己資金1,000万円と家賃640万円は固定し、価格のみを変えています。

目標

必要な購入価格

購入時表面利回り

8,000万円との差

通算IRR 5%

7,564万円

8.46%

−436万円

通算IRR 3%

7,681万円

8.33%

−319万円

元本割れ回避(IRR 0%)

7,843万円

8.16%

−157万円

出口利回りが1ポイント開くリスクを5年保有で吸収するには、購入時点で約436万円(価格の5.5%)の値引き、言い換えれば購入時表面利回りを8.0%ではなく8.46%以上で押さえる必要がある、という結果です。出口利回りの前提は、売却時の判断材料ではなく、購入価格の交渉材料として使えるということでもあります。

市場データとの照合

本記事の出口利回りは仮定値ですが、「利回りが開く方向のリスクを見ておくべきか」については、公開データが参考になります(情報確認日:2026年8月8日)。

  • 日本不動産研究所「第54回不動産投資家調査」(2026年4月時点)では、賃貸住宅一棟の期待利回り(ワンルームタイプ)は東京・城南3.7%、札幌5.0%、仙台5.0%、大阪4.3%、福岡4.5%と、史上最低水準が続いています。過去最低圏にあるということは、統計的には今後さらに低下する余地より、上昇(=価格下落)方向の余地が大きい局面だと解釈できます。
  • 同調査で、不動産投資市場の今後のリスク要因として最も多く挙げられたのは「金利の上昇」(122社)でした。
  • また、2027年3月末の長期金利水準の予想として「2%超〜3%以下」を挙げた回答が61.7%と最多でした。日銀は2025年12月に政策金利を0.50%程度から0.75%程度へ引き上げた後、2026年6月にも1.00%程度まで追加利上げしており(7月は据え置き)、2026年9月にはさらなる利上げも市場で観測されています。新発10年国債の利回りも2026年9月1日に一時3.005%まで上昇しており、上記調査が「2027年3月末時点」の予想として挙げた「2%超〜3%以下」という水準に、調査時点より半年以上早く到達している点には注意が必要です(情報確認日:2026年9月4日)。長期金利と短期金利がそれぞれ何に影響するかは「長期金利3%台、不動産投資への影響は?「短期金利」との違いから整理する」で整理しています。

ただし、機関投資家が対象とする都心の賃貸住宅と、本記事が想定する表面8%の一棟アパートでは市場も買い手も異なります。上記の数値をそのまま出口利回りに当てはめることはできません。「調査上の期待利回りが上がったから自分の物件の出口利回りも同じだけ上がる」という因果関係は成立しません。ここでは、出口利回りが開く可能性を検討に入れる根拠として参照しています。

結果から分かること

  1. 出口利回りの前提は、保有期間とセットでしか意味を持たない。 同じ+1ptでも、IRRへの影響は5年で−11.92pt、20年で−0.58ptと20倍以上違います。
  2. 短期保有ほど、出口利回りの精度が投資成果を支配する。 5年保有では、購入時から+0.76ptで元本割れに入ります。
  3. 売却できることと、損をしないことは別。 5年保有では、残債割れの1ポイント以上手前で元本割れが始まります。
  4. 出口リスクは、購入価格に織り込める。 5年で売る前提なら、出口+1ptを吸収するのに約436万円の価格調整が必要という具体的な数字が出ます。
  5. 保有期間の長さ自体が、出口変動に対する保険として働く。 ただしこれは建物が持ち、賃貸需要が続くことが前提であり、無条件に成立するものではありません。

投資判断への使い方

  • 物件資料の収支計算に、売却時の表面利回りを購入時+0.5pt / +1.0pt / +2.0ptで置いた3ケースを追加してみてください。1ケースだけでは感応度が見えません。
  • 短期での売却を想定しているなら、出口利回りの前提を保守的に置いたうえで、逆算した価格を交渉のスタートラインにする使い方ができます。
  • すでに保有している物件なら、今の残債・今の家賃・今の相場利回りで純手取りを計算し直すと、「売る/持ち続ける」の判断材料になります。
  • 融資条件を含めた返済余力の見方は不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例を、金融機関ごとの評価差は金融機関3タイプで審査の見られ方はここまで違いましたを参照してください。

今回のように金利・空室・家賃下落・修繕・出口利回り・保有年数を同時に動かすと、表計算ソフトだけでは確認項目が急速に増えます。RE-AIでは、こうした複数条件をまとめて確認できるよう設計していますが、個別物件の建物状態や地域事情まで判定できるわけではありません。最終的な判断は、実地の確認と組み合わせて行う必要があります。

この分析で分からないこと

  1. 実際の出口利回りは予測できません。 本記事は「もし+1pt開いたら」という条件付きの計算であり、開くかどうか、いつ開くかは分かりません。
  2. 税金を含んでいません。 譲渡所得税、減価償却による簿価の減少、短期譲渡(5年以下)の重い税率などを含めると、特に保有5年の結果はさらに悪化します。この点で本記事の5年ケースは楽観側の数字です。
  3. 大規模修繕を織り込んでいません。 運営費を家賃の20%で一定としており、突発的な支出は反映していません。修繕が収支を反転させる構造は「空室率10%なら黒字」の物件が、大規模修繕で赤字に転落した理由で扱っています。
  4. 個別物件の競争力を反映していません。 同じエリアでも、築年数・間取り・設備・周辺の新規供給によって家賃と売却しやすさは大きく変わります。
  5. 金利を全期間2.0%固定としています。 変動金利の場合、返済額の上昇が累計CFを圧縮し、出口の悪化と重なる可能性があります。
  6. 買い手の融資環境を考慮していません。 出口利回りは市場心理だけでなく、買い手がその物件に融資を引けるか(築年数と法定耐用年数の関係など)に強く左右されます。

まとめ

価格8,000万円・表面利回り8.0%・借入7,000万円という条件で検証した結果、出口表面利回りが1ポイント悪化したときの通算IRRの低下幅は、保有5年で11.92ポイント、保有10年で3.02ポイント、保有20年で0.58ポイントでした。

この物件の収益性そのものは、初年度DSCR 1.55と決して弱くありません。それでも保有5年・出口9.0%というシナリオでは、通算IRRは−3.21%、手取り総額は−183万円になります。収支表の見た目が良いことと、出口まで含めて成立することは別問題です。

出口利回りは、購入時に唯一「自分で保守的に置ける」変数です。金利も空室も相手のある話ですが、出口利回りの前提を厳しく置いて、それでも成立する価格まで交渉する、という使い方はできます。この記事の逆算表が、その入口になれば幸いです。

参考資料・出典

  • 一般財団法人 日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査®(2026年4月現在)」(賃貸住宅一棟の期待利回り、リスク要因、長期金利見通し)
  • 一般財団法人 日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査® 特別アンケート(Ⅰ)金利上昇下の不動産投資市場」(日銀の政策金利引き上げ経緯、2027年3月末の長期金利予想)
  • 国土交通省「不動産価格指数」(住宅価格の推移)

情報確認日:2026年9月4日。本記事の試算は条件を固定したシミュレーションであり、特定物件の将来価格や収益を保証するものではありません。実際の投資判断は、個別の物件調査・融資条件・税務条件を確認したうえで行ってください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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