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収益性・収支

家賃収入で生活費を賄うにはいくら必要か|金利1.78%超ではLTVを上げても自己資金は減らず、減価償却が切れると必要規模は7.06倍に膨らんだ

家賃収入で生活費を賄うにはいくら必要か|金利1.78%超ではLTVを上げても自己資金は減らず、減価償却が切れると必要規模は7.06倍に膨らんだ

「家賃収入で生活費を払えるようになりたい」という目標は、たいてい表面利回りと物件価格の掛け算で語られます。表面利回り8%で1億円なら年800万円、だから月66万円――という計算です。

しかしこの800万円から、空室損・運営費・元本返済・所得税・住民税・修繕積立を引くと、実際に生活に回せる現金はまったく違う額になります。そこでこの記事では、総務省「家計調査」2025年平均の消費支出をそのまま目標額に置き、税金と元本返済と修繕積立を引いたあとの「可処分キャッシュフロー」で生活費を賄うには、いくら買う必要があるのかを逆算しました。

結果は3つに分かれました。初年度の数字で測ると必要総投資額は2億1,664万円・自己資金8,016万円です。ところが金利1.78%を超えると、LTVを上げても必要自己資金はもう減りません。そして減価償却が終わる15年目には、同じ目標額を維持するための必要規模が7.06倍に膨らみます。

1.この記事で検証する疑問

「家賃収入で生活費を賄う」という問いは、どの年の数字で測るかによって答えが変わります。買った直後は減価償却が効いて税金がほとんど出ないため、手残りは大きく見えます。償却が終われば同じ家賃・同じ返済額でも納税額だけが跳ね上がります。

そこで検証するのは次の4点です。

  • 税・元本返済・修繕積立を引いた「可処分CF」で生活費を賄うには、総額いくら必要なのか
  • 借入を増やせば、必要な自己資金は本当に減るのか
  • 減価償却が終わった年に、必要規模はどこまで膨らむのか
  • 膨らんだ分は、買い増し以外の方法で埋められるのか

利回りやDSCRの基本的な計算方法は収益物件の収支計算完全ガイドで整理しています。この記事はその続きとして、「複数棟を合算したときに、生活費として使える現金がいくら残るか」だけを見ます。1棟あたりの上限価格を決める計算は自分はいくらまで払えるのかを3条件から逆算した記事が担当しています。

2.使ったデータの区分

数字の性質が混ざらないよう、先に区分を示します。

  • 【公開データ】総務省統計局「家計調査」2025年平均。二人以上の世帯の1か月平均消費支出は314,001円(名目+4.6%、実質+0.9%)、単身世帯は173,042円でした。この2つを目標額として使います。
  • 【公開データ】健美家「収益物件市場動向 四半期レポート(2026年7月〜9月期)」2026年10月19日公表。一棟アパートの全国平均価格9,079万円、全国平均表面利回り7.91%。利回りは直近10年間の最低値です。この1棟を「平均的な一棟アパート1棟」の基準単位として使います。
  • 【公開データ】日本銀行「貸出約定平均金利」。2026年8月の国内銀行・新規・長期は1.999%で、1年前(1.378%)から0.62pt上昇しています。基準金利2.0%はこの水準に合わせました。
  • 【シミュレーション】運営費率・空室損率・修繕積立率・融資条件・税率は後述のとおり固定した仮定です。実際の物件統計ではありません。
  • 【架空ケース】保有形態は「給与所得がある個人が兼業で保有する」ケースを設定しました。限界税率と社会保険料の扱いが変わるためです(8章参照)。

情報確認日:2026年10月25日。

3.分析条件(何を固定し、何を変えたか)

固定した条件

項目

設定

根拠・区分

1棟あたり価格

9,079万円

【公開データ】健美家2026年7〜9月期 一棟アパート全国平均

表面利回り

7.91%(満室賃料718.1万円)

【公開データ】同レポート全国平均

構造・築年

木造・築10年

中古簡便法で減価償却14年(22−10+10×0.2)

建物割合

60%(建物5,447万円)

【シミュレーション】設定値

空室・滞納損

満室賃料の8%

【シミュレーション】入替コストを別建てしないため織り込み

運営費

満室賃料の20%

【シミュレーション】管理料5%+固都税・保険・共用費・小修繕15%

修繕積立

満室賃料の5%

【シミュレーション】生活費に回せない積立として可処分CFから控除

購入諸費用

価格の7%

【シミュレーション】自己資金に加算

融資

元利均等・25年

【シミュレーション】

限界税率

30%(所得税20%+住民税10%)

課税所得330〜694万円の給与所得者を想定

目標額

月314,001円/月173,042円

【公開データ】家計調査2025年平均

変更した条件

  • 金利:1.0%〜4.0%
  • LTV:40%〜100%
  • 表面利回り:6.5%〜10.0%
  • 融資期間:20年〜35年
  • 評価年次:1年目/1〜10年平均/15年目(減価償却終了後)

4.「可処分CF」をどう計算したか

この記事で生活費の原資とみなすのは、次の順番で引き算したあとの金額です。

  • 満室賃料 718.1万円
  • −空室・滞納損(8%)−運営費(20%)= NOI 517.1万円
  • −年間返済額(元本+利息)323.2万円
  • −所得税・住民税
  • −修繕積立(満室賃料の5%=35.9万円)
  • = 可処分CF

課税所得は「NOI−減価償却−支払利息」で計算し、赤字になる年は土地等の取得に係る負債利子を損益通算の対象外として処理しました。青色申告特別控除65万円はポートフォリオ単位で1回だけ、課税所得がプラスの範囲で適用しています。

修繕積立を引いているのは、これを生活費に回すと大規模修繕の年に資金が不足するためです。修繕費を家賃の5%で見る妥当性は国交省の長期修繕計画事例から逆算した記事で検証しています。空室率を5%で置くと年CFが過大に出ることは戸数別のDSCR試算でも確認しているため、ここでは8%としました。

基準条件のDSCRは1.600倍です。融資審査の観点では余裕のある水準で、この記事の結論は「DSCRが悪い物件だから成立しない」という話ではありません。

5.結果①:初年度の数字で測ると、必要総投資額は2億1,664万円

基準条件(金利2.0%・LTV70%・25年・表面7.91%)で1棟あたりの初年度可処分CFは157.1万円でした。減価償却389.1万円と支払利息125.3万円がNOI 517.1万円をほぼ使い切るため、初年度の課税所得は2.7万円、納税額は0.8万円しかありません。

目標(家計調査2025)

必要棟数

必要総投資額

必要自己資金

必要借入額

二人以上世帯 月314,001円

2.39棟

2億1,664万円

8,016万円

1億5,165万円

単身世帯 月173,042円

1.31棟

1億1,939万円

4,417万円

8,357万円

1〜10年平均で測っても必要規模はほぼ同じ(2.39棟)です。家賃下落を織り込んでいないため、償却期間中の可処分CFは年1〜2万円ずつしか減らないからです。

ここで注意したいのは、自己資金8,016万円は「2億1,664万円の物件を買うための頭金3割+諸費用7%」であって、生活費を得るための投資額ではないという点です。8,016万円を年376.8万円で回収すると考えると、自己資金に対する利回りは4.70%になります。自己資金の回収構造は自己資金は何年で戻るのかを検証した記事で別途扱っています。

6.結果②:金利1.78%を超えると、LTVを上げても必要自己資金は減らない

「自己資金が少なくても借入を増やせば家賃収入は作れる」という説明をよく見ます。これを検証するため、LTVだけを40%から90%まで動かし、同じ目標額(月314,001円)に必要な規模を逆算しました。

LTV

1棟の可処分CF

必要棟数

必要総投資額

必要自己資金

DSCR

15年目の1棟可処分CF

40%

279.5万円

1.28棟

1億1,605万円

7,775万円

2.80倍

151.9万円

45%

259.1万円

1.38棟

1億2,518万円

7,761万円

2.49倍

130.1万円

50%

238.7万円

1.51棟

1億3,669万円

7,791万円

2.24倍

108.3万円

60%

197.9万円

1.85棟

1億6,762万円

7,878万円

1.87倍

64.8万円

70%

157.1万円

2.39棟

2億1,664万円

8,016万円

1.60倍

21.2万円

80%

111.7万円

3.37棟

3億0,617万円

8,267万円

1.40倍

▲22.3万円

90%

65.6万円

5.75棟

5億2,183万円

8,871万円

1.24倍

▲65.9万円

必要自己資金は、LTV40%の7,775万円からLTV90%の8,871万円まで、全域で7,761〜8,871万円のレンジ(最小値比+14.3%)に収まりました。一方で必要総投資額は1億1,605万円から5億2,183万円へ4.50倍に膨らみます。

つまりこの条件では、レバレッジを上げても必要な自己資金はほとんど減らず、抱える借入額と物件数だけが増えます。LTV90%を選ぶと、同じ生活費を得るために負う債務は4億6,965万円になります。

反転が起きる金利を逆算する

この関係は常に成り立つわけではありません。金利を下げていくと、どこかでレバレッジが効き始めます。LTV90%とLTV50%の必要自己資金が一致する金利を逆算すると、1.78%でした。

金利

表面利回りとの差

LTV50%の必要自己資金

LTV90%の必要自己資金

差

1.0%

6.91pt

7,371万円

5,665万円

▲1,706万円

1.5%

6.41pt

7,546万円

6,534万円

▲1,013万円

1.78%

6.13pt

一致(反転点)

0

2.0%

5.91pt

7,791万円

8,871万円

+1,080万円

2.5%

5.41pt

8,235万円

1億4,089万円

+5,854万円

3.0%

4.91pt

8,751万円

2億7,220万円

+1億8,469万円

反転点1.78%は、表面利回り7.91%との差が6.13ptになる水準です。レバレッジが正に効く「表面利回り−金利」を12万回試算で逆算した記事では、IRRを基準にした境界が6.8〜8.1ptでした。評価指標が違うため数値は一致しませんが、必要なスプレッドが6pt台にあるという点は両方の分析で共通しています。

日銀の新規・長期の貸出約定平均金利は2026年8月に1.999%です。実際の投資用ローンはこれより高い水準になることが多く、現在の金利環境は、すでに反転点の向こう側にある可能性が高いということになります。

7.結果③:減価償却が終わると、必要規模は7.06倍になる

ここまではすべて初年度の数字です。基準条件(LTV70%)で2.39棟を保有したときの、30年分の可処分CFを年次で並べました。

年次

減価償却

納税額(2.39棟)

可処分CF(年)

可処分CF(月)

1年目

あり

1.9万円

374.9万円

31.24万円

5年目

あり

13.7万円

363.1万円

30.26万円

10年目

あり

29.8万円

347.0万円

28.92万円

14年目

あり(最終年)

43.9万円

332.9万円

27.74万円

15年目

終了

326.2万円

50.6万円

4.22万円

20年目

なし

345.9万円

30.9万円

2.58万円

25年目(完済年)

なし

367.7万円

9.2万円

0.76万円

26年目(完済後)

なし

370.1万円

778.0万円

64.83万円

14年目と15年目のあいだで、月の可処分CFは27.74万円から4.22万円へ、▲84.8%落ちます。家賃は変わらず、返済額も変わりません。変わったのは減価償却が消えたことによる納税額(1棟あたり18.4万円→136.7万円)だけです。この段差の構造は減価償却が終わった年に税引後CFがいくら減るかを検証した記事と、デッドクロスが何年目に来るかを逆算した記事で詳しく扱っています。

この15年目の水準で同じ目標額(月314,001円)を満たそうとすると、必要規模は次のようになります。

評価年次

1棟の可処分CF

必要棟数

必要総投資額

必要自己資金

1年目基準

157.1万円

2.39棟

2億1,664万円

8,016万円

15年目基準

21.2万円

16.84棟

15億2,931万円

5億6,584万円

必要棟数は7.06倍、必要自己資金は7.06倍です。買い増しで埋めるという解法は、この条件では成立しません。

可処分CFがゼロになる金利を逆算する

金利を動かすと、この問題は一気に悪化します。

金利

年間返済額

1年目の可処分CF

15年目の可処分CF

1年目基準の必要棟数

15年目基準の必要棟数

1.5%

305.0万円

165.9万円

34.4万円

2.15棟

10.38棟

2.0%

323.2万円

157.1万円

21.2万円

2.39棟

16.84棟

2.5%

342.1万円

139.0万円

7.7万円

2.71棟

46.62棟

2.78%

353.0万円

128.2万円

0万円

2.94棟

成立しない

3.0%

361.7万円

119.5万円

▲6.2万円

3.15棟

成立しない

3.5%

381.8万円

100.5万円

▲20.5万円

3.75棟

成立しない

金利2.78%を超えると、減価償却が終わった年の可処分CFはマイナスになります。このとき1棟あたりのDSCRは1.465倍で、融資審査の基準では問題のない水準です。初年度の可処分CFがゼロになる金利は6.55%ですから、初年度の数字は3.77pt分の金利耐性を見せているのに、償却終了後の耐性は0.78ptしかないということになります。

この「DSCRは足りているのに生活費が残らない」という状態は、DSCRが返済能力の指標であって手取りの指標ではないことから生じます。初期DSCRがどう劣化していくかはDSCR1.30で買った物件が何年目に1.20を割るかを検証した記事で扱っています。

8.結果④:買い増し以外の選択肢を逆算する

15年目の不足分(2.39棟で年326.2万円)を埋める方法を、3通り逆算しました。

(1)借換えで返済期間を組み替える

14年末の残債は1棟あたり3,189万円です。これを新たな期間で組み替えると、15年目の可処分CFは次のように戻ります。

借換え後の期間

金利2.0%

金利2.5%

金利3.0%

2.39棟合計(金利2.0%)

残り11年(借換えなし)

21.2万円

17.2万円

13.0万円

50.7万円

15年

98.4万円

94.2万円

89.7万円

235.1万円

20年

151.2万円

146.7万円

142.0万円

361.4万円

25年

182.7万円

177.9万円

172.9万円

436.6万円

期間20年で組み替えれば、2.39棟のまま年361.4万円(目標の95.9%)まで戻ります。ただし築24年の木造に20年の融資を付けられるかは別の問題で、年齢と築年数のどちらが先に効くかは融資期間を縛るのは年齢か築年数かを検証した記事で分析しています。借換えそのものの損益分岐は金利差何ptから得かを逆算した記事を参照してください。

(2)購入時の表面利回りを上げる

2.39棟のまま15年目も目標を満たすには、1棟あたり149.5万円の可処分CFが必要です。これを表面利回りだけで実現しようとすると11.02%が必要になります。全国平均7.91%の1.39倍で、健美家のデータでは一棟アパートの全国平均が直近10年間の最低値を記録している局面です。

表面利回り

1年目の可処分CF

15年目の可処分CF

1年目基準の必要総投資額

15年目基準の必要棟数

6.50%

84.0万円

▲36.9万円

4億0,746万円

成立しない

7.00%

104.6万円

▲16.3万円

3億2,715万円

成立しない

7.91%

157.1万円

21.2万円

2億1,664万円

16.84棟

9.00%

202.0万円

66.1万円

1億6,056万円

5.40棟

10.00%

243.3万円

107.4万円

1億3,335万円

3.33棟

11.02%

285.3万円

149.4万円

1億1,370万円

2.39棟

表面利回り6.50%では、初年度は黒字でも15年目の可処分CFはマイナスです。利回りが低い物件は「儲けが薄い」のではなく、「償却が切れたあとに生活費を一切生まない」という性質を持ちます。

(3)最初から融資期間を長く取る

融資期間

年間返済額

1年目の可処分CF

15年目の可処分CF

1年目基準の必要自己資金

20年

385.8万円

94.4万円

▲47.6万円

1億3,274万円

25年

323.2万円

157.1万円

21.2万円

8,016万円

30年

281.9万円

198.6万円

66.7万円

6,352万円

35年

252.6万円

227.9万円

98.9万円

5,539万円

期間35年でも15年目の可処分CFは1棟98.9万円で、目標に必要な149.5万円には届きません。期間延長は段差を緩やかにしますが、消しはしません。

9.結果から分かること

  • 「家賃収入で生活費を賄えるか」は、どの年で測るかで答えが7倍変わる。初年度基準の2.39棟(2億1,664万円)と15年目基準の16.84棟(15億2,931万円)は、同じ目標額に対する答えです。初年度のキャッシュフロー表だけで規模を決めると、償却が切れた年に生活費の85%が消えます。
  • レバレッジは「必要な自己資金」をほとんど減らさない。金利2.0%ではLTV40〜90%の全域で必要自己資金が7,761〜8,871万円に収まり、変わるのは借入額と物件数だけでした。必要自己資金が減る方向に反転するのは金利1.78%以下です。
  • DSCRが十分でも生活費は残らない。金利2.78%・DSCR1.465倍のとき、償却終了後の可処分CFはゼロです。DSCRは銀行に返せるかの指標で、生活できるかの指標ではありません。
  • 段差への対処は「買い増し」ではなく「返済構造の組み替え」に寄る。14年末残債を期間20年で借り換えると目標の95.9%まで戻りますが、買い増しで埋めるには7.06倍の規模が必要です。
  • 低利回り物件の弱点は、償却後に現れる。表面6.50%は初年度こそ黒字(84.0万円)でも、15年目は▲36.9万円です。

どの前提を一番慎重に置くべきかという順位づけは9変数を同一尺度で比較した記事で扱っています。

10.投資判断への使い方

この分析は「何棟買えばいいか」を決めるためのものではありません。使いどころは次の3つです。

  • 目標額を、税引前ではなく可処分ベースで言い換える。「月30万円の家賃収入」ではなく「月30万円の可処分CF」で考えると、必要な満室賃料は約2.4倍(基準条件では年718.1万円×2.39棟=1,714万円、月143万円)になります。
  • 規模を決める前に、償却終了後の年を1行だけ計算する。NOI−年間返済額−(NOI−利息)×限界税率−修繕積立。この1行がマイナスなら、その物件は生活費の原資にはなりません。
  • 段差を越える手段を、買う前に決めておく。借換え(期間を取り直せるか)、売却(5年目と6年目の税引後IRR差)、法人化(家賃収入いくらから有利になるか)のどれを使うかで、必要な築年数と融資条件が変わります。

なお、2.39棟=約20戸規模は事業的規模(5棟10室)を満たすため、青色申告特別控除65万円は使える前提で計算しています。

この記事では1棟あたり価格・利回り・運営費率を固定していますが、実際の数字は物件ごとに違います。自分の物件条件での税引前キャッシュフロー・DSCR・損益分岐空室率までであれば、RE-AIの無料キャッシュフローシミュレーターで年次推移を試算できます。ただしこのツールは税引前の計算で、減価償却と所得税・住民税は含みません。この記事の「可処分CF」に相当する数字を出すには、ツールの税引前CFから(NOI−支払利息−減価償却)×限界税率と修繕積立を引く必要があります。

収益性・融資・リスク・出口を合わせて判断する段階では、融資条件の見方とRE-AIの総合診断を併せて確認してください。RE-AIは複数条件をまとめて確認するために設計したツールで、将来の家賃・金利・売却価格を当てるものではありません。

11.分析の限界

この分析で分からないことを明示します。

  • 完全にリタイアした場合の社会保険料を含んでいません。給与所得がある個人を前提にしているため、社会保険料は給与側で負担されるものとして計算しました。専業で保有する場合は国民健康保険料・国民年金保険料が自己負担になり、国民健康保険料は所得に連動するため、必要規模はさらに大きくなります。保険料率は市区町村ごとに異なるため、ここでは試算していません。
  • 家賃下落と空室率の悪化を織り込んでいません。満室賃料と空室損8%を30年間固定しています。実際には償却終了の段差と家賃下落が重なる可能性があり、その場合の悪化幅はこの試算より大きくなります。
  • 建物割合60%・減価償却14年という設定に強く依存します。建物割合が高いほど償却期間中の可処分CFは大きく、段差も深くなります。実際の建物割合は売買契約と固定資産税評価で決まります。
  • 複数棟を同時に取得する前提です。実際には1棟ずつ買い進めるため、償却終了の時期は棟ごとにずれ、段差も分散します。何年かけて何棟買うかという時間軸は含んでいません。
  • 限界税率30%固定です。給与所得の水準で変わります。限界税率43%では償却終了後の可処分CFは1棟▲38.0万円になり、買い増しでは成立しません。
  • 融資が付くかどうかは判定していません。LTV40〜90%、期間20〜35年をすべて計算しましたが、実際に同一条件で複数棟の融資を受けられるかは金融機関の与信判断によります。追加融資の枠の考え方は返済比率と債務償還年数を分けて検証した記事を参照してください。
  • 相関と因果を区別しています。「金利が上がると必要規模が増える」という関係は、この固定条件下での計算結果です。現実には金利上昇局面では物件価格が下がって利回りが上がる可能性があり、両者を同時に動かした場合の結果はここでは検証していません。価格と金利の連動は別の分析が必要です。

12.まとめ

  • 家計調査2025年平均の消費支出(二人以上世帯 月314,001円)を可処分CFで賄うには、初年度基準で総投資額2億1,664万円・自己資金8,016万円が必要でした(表面7.91%・LTV70%・金利2.0%・25年)。
  • LTVを40%から90%へ上げても必要自己資金は7,775万円→8,871万円とほぼ変わらず、必要総投資額だけが4.50倍に膨らみました。必要自己資金が減る方向に反転するのは金利1.78%以下です。
  • 減価償却が終わる15年目に、月の可処分CFは27.74万円から4.22万円(▲84.8%)に落ち、同じ目標額を満たす必要規模は7.06倍になりました。
  • 金利2.78%を超えると償却終了後の可処分CFはマイナスです。このときDSCRは1.465倍で、融資指標上は問題がありません。
  • 段差は買い増しでは埋まらず、14年末残債を期間20年で借り換えることで目標の95.9%まで戻りました。表面利回りで埋めるには11.02%が必要です。

この条件では収益性そのものは維持されますが、生活費の原資としての安定性は減価償却と融資期間の設計に強く依存します。利回りが高いことより、償却が切れたあとの返済構造を取り直せるかどうかが、この目的では効きました。

13.参考資料・出典

  • 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」https://www.stat.go.jp/data/kakei/2025np/pdf/summary.pdf(二人以上の世帯 消費支出314,001円、単身世帯173,042円)
  • 健美家「収益物件 市場動向 四半期レポート(2026年7月〜9月期)」2026年10月19日公表https://lifull.com/news/50717/(一棟アパート全国平均価格9,079万円、全国平均表面利回り7.91%)
  • 日本銀行「貸出約定平均金利(月次)」https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/mtshtml/ir04_m_1.html(2026年8月 国内銀行・新規・長期1.999%)
  • 国税庁「所得税の税率」「中古資産の耐用年数」(簡便法:法定耐用年数−経過年数+経過年数×20%)
  • 国税庁「不動産所得が赤字のときの損益通算(土地等を取得するために要した負債の利子)」

情報確認日:2026年10月25日。本記事の数値は上記公開データと、記事内に明示した固定条件に基づく条件付きシミュレーションです。実際の物件統計や将来の予測ではありません。

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鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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