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融資

「頭金を薄くして大きく買う」と手残りは増えるのか|税引前と税引後で結論が逆転する境界を、融資期間と表面利回りから逆算

「頭金を薄くして大きく買う」と手残りは増えるのか|税引前と税引後で結論が逆転する境界を、融資期間と表面利回りから逆算

「頭金を抑えて、できるだけ大きい物件を買ったほうが手残りは増える」——収益物件の融資では、よく聞く考え方です。借入を大きくすればNOIの絶対額が増え、レバレッジが効く、という理屈です。

ただ、この比較には2つの落とし穴があります。1つは物件価格を固定して頭金だけを動かしていること。実際の投資家が固定しているのは価格ではなく「用意できる自己資金」です。もう1つは税引前のキャッシュフローで比べていること。借入が大きければ支払利息が増え、物件が大きければ減価償却も増えるため、税引後では前提が変わります。

そこで今回は、自己資金1,500万円という予算を固定したまま頭金比率を10%〜50%で動かし、買える物件規模ごとに税引後キャッシュフロー・DSCR・損益分岐・自己資本の増え方・2棟目までの年数を計算しました。

結果は、税引前と税引後で結論が入れ替わるというものでした。そしてその入れ替わりが消える境界は、融資期間25.8年という具体的な数値として求まりました。

この記事で検証すること

  • 同じ自己資金でも、頭金比率を変えると買える物件規模はどれだけ変わるか
  • 税引前CFと税引後CFで、頭金比率の優劣は変わるのか
  • 優劣が入れ替わる境界(融資期間)は何年か。その境界は表面利回り・金利でどう動くか
  • 手残りが同じでも、耐えられる空室率・金利はどれだけ違うか
  • 税引後CFを貯めるだけで、2棟目には何年で到達できるのか

なお本記事は条件を固定したシミュレーションであり、実在物件の統計や実測値ではありません。以下の数値はすべて、次に示す前提条件のもとで筆者が計算したものです。

前提条件|何を固定し、何を変えたか

固定した条件

項目

設定値

設定した理由

投下自己資金

1,500万円(頭金+購入諸費用の合計)

今回は「予算」を固定軸にするため。物件価格は自己資金から逆算する

購入諸費用

物件価格の8.0%

当ブログで法定税率から積み上げた 諸費用の実額(7.98〜9.23%) の下限付近を採用

物件

RC造 一棟マンション・築15年

融資期間20〜30年をすべて現実的な範囲に収めるため(法定耐用年数47年・残存32年)

表面利回り

8.0%(満室想定)

地方・郊外のRC築15年で成立し得る水準。後段で6〜10%に振って感応度を確認する

空室・滞納率

5.0%

ベースケース。後段でストレスをかける

運営費

満室想定家賃の20%

管理委託費・固都税・通常修繕・保険等の合計。NOI率は75%になる

金利/返済方式

2.0%/元利均等

分析用の基準値。後段で1.5〜3.5%に振る

融資期間

25年(基準)

後段で15〜30年に振る

建物比率/償却年数

65%/35年

国税庁の簡便法により(47−15)+15×0.2=35年

実効税率

30%

所得税20%+住民税10%相当。赤字時の還付(損益通算)は織り込まない保守設定

家賃・運営費

横ばい

頭金比率だけの影響を切り出すため。下落・上昇を入れると効果が混ざる

変更した条件

  • 頭金比率:10%/20%/30%/40%/50%(主軸)
  • 融資期間:15/18/20/22/25/28/30年
  • 表面利回り:6/7/8/9/10%
  • 金利:1.5/2.0/2.5/3.0/3.5%
  • ストレス:空室率5→9→13%、金利2.0→2.5→3.0%

計算式は次のとおりです。年間元利返済額は「借入額×r÷(1−(1+r)−n)」、NOI=満室家賃×(1−空室率−運営費率)、課税所得=NOI−支払利息−減価償却費、税引後CF=NOI−年間元利返済額−税額。すべて円単位で計算し、表示のみ丸めています。

結果1|同じ1,500万円でも、買える物件は3.2倍変わる

まず出発点です。自己資金1,500万円は「頭金+諸費用」に充てるので、買える物件価格は1,500万円 ÷(頭金比率+0.08)で決まります。

頭金比率

物件価格

借入額

LTV

満室想定家賃

NOI

年間返済額

DSCR

10%

8,333万円

7,500万円

90%

666.7万円

500.0万円

384.2万円

1.30

20%

5,357万円

4,286万円

80%

428.6万円

321.4万円

219.5万円

1.46

30%

3,947万円

2,763万円

70%

315.8万円

236.8万円

141.5万円

1.67

40%

3,125万円

1,875万円

60%

250.0万円

187.5万円

96.0万円

1.95

50%

2,586万円

1,293万円

50%

206.9万円

155.2万円

66.2万円

2.34

頭金10%なら8,333万円、40%なら3,125万円。同じ予算で買える規模は2.7倍(50%と比べれば3.2倍)違います。ここで注意したいのは、頭金比率を10ポイント下げても買える価格が10%増えるわけではないという点です。分母が「頭金比率+諸費用8%」なので、頭金比率が小さいほど諸費用の8%が効き、価格の伸びは加速度的になります。頭金10%では、投下した1,500万円のうち44.4%(667万円)が諸費用で、頭金は833万円しかありません。

DSCRは1.30から2.34まで開きます。DSCRが1.2を下回ると融資審査で厳しく見られることを踏まえると、頭金10%の1.30はすでに余力の小さい水準です。

結果2|税引前は頭金10%が有利、税引後は逆転する

次に、融資期間25年での初年度キャッシュフローを、税引前と税引後の両方で計算しました。

頭金比率

NOI

年間返済額

税引前CF

支払利息

減価償却費

課税所得

税額

税引後CF

10%

500.0万円

384.2万円

115.8万円

150.0万円

154.8万円

195.2万円

58.6万円

57.3万円

20%

321.4万円

219.5万円

101.9万円

85.7万円

99.5万円

136.2万円

40.9万円

61.0万円

30%

236.8万円

141.5万円

95.3万円

55.3万円

73.3万円

108.3万円

32.5万円

62.8万円

40%

187.5万円

96.0万円

91.5万円

37.5万円

58.0万円

92.0万円

27.6万円

63.9万円

50%

155.2万円

66.2万円

88.9万円

25.9万円

48.0万円

81.3万円

24.4万円

64.6万円

税引前では頭金10%が115.8万円で最も多く、40%の91.5万円を24.3万円上回ります。ところが税引後では順位が入れ替わり、頭金40%の63.9万円が10%の57.3万円を6.6万円上回りました。

なぜ逆転するのか。頭金10%のケースは、税引前CFが24.3万円多い一方で、税額が58.6万円と40%ケースの27.6万円より31.0万円多くなっています。物件が2.7倍大きいので支払利息も減価償却費も増えますが、それ以上にNOIの増え方が大きいため、課税所得は195.2万円と40%ケースの92.0万円の2.1倍になります。税引前CFの差(24.3万円)より、税額の差(31.0万円)のほうが大きい。これが逆転の中身です。

言い換えると、借入を増やして得られるレバレッジ効果の一部は、課税所得の増加という形で税金に持っていかれるということです。税引前CFだけを比べると、この部分が見えません。

結果3|逆転が消える境界は「融資期間25.8年」

この逆転は融資期間によって変わります。融資期間を15年から30年まで動かし、初年度の税引後CFを比較しました。

融資期間

頭金10%

頭金20%

頭金30%

頭金40%

頭金50%

DSCR(10%/40%)

15年

▲142.3万円

▲53.0万円

▲10.7万円

14.0万円

30.2万円

0.86/1.28

18年

▲58.8万円

▲5.3万円

20.1万円

34.8万円

44.5万円

1.00/1.50

20年

▲17.2万円

18.5万円

35.4万円

45.2万円

51.7万円

1.09/1.64

22年

16.7万円

37.9万円

47.9万円

53.7万円

57.6万円

1.18/1.77

25年

57.3万円

61.0万円

62.8万円

63.9万円

64.6万円

1.30/1.95

28年

89.0万円

79.2万円

74.5万円

71.8万円

70.0万円

1.42/2.13

30年

106.6万円

89.2万円

81.0万円

76.2万円

73.1万円

1.49/2.24

表を縦に読むと、25年より短い期間では頭金が厚いほど税引後CFが多く、28年以降は薄いほど多くなります。頭金10%と40%の税引後CFが一致する融資期間を二分探索で求めると、25.8年でした。

つまり、「頭金を薄くして大きく買う」戦略がこの条件で税引後の手残りを増やすのは、融資期間が約26年を超えたときだけです。融資期間15年では頭金10%の税引後CFは▲142.3万円、DSCRは0.86で、そもそも運営が成立しません。

この境界は固定値ではありません。表面利回りと金利を振ると、次のように動きます。

変更した条件

逆転が消える融資期間

表面利回り6.0%

34.6年

表面利回り7.0%

29.5年

表面利回り8.0%(基準)

25.8年

表面利回り9.0%

22.9年

表面利回り10.0%

20.6年

金利1.5%

24.8年

金利2.5%

26.9年

金利3.0%

28.2年

金利3.5%

29.8年

感応度は表面利回りのほうが圧倒的に大きいことが分かります。金利が2.0%から3.5%へ1.5ポイント上がっても境界は4.0年しか動きませんが、表面利回りが8.0%から6.0%へ2ポイント下がると8.8年動きます。

実務的な意味は明確です。表面利回り6%台の物件で頭金を薄くして規模を追うと、融資期間が35年近く出ない限り税引後では報われません。一方、表面利回り10%の物件なら20.6年以上の融資が付けば、頭金を薄くしたほうが税引後の手残りは多くなります。「フルローンに近づけるべきか」の答えは、物件の利回り水準と融資期間の組み合わせで変わります。

結果4|手残りが近くても、耐えられる空室率は2.4倍違う

融資期間25年では、頭金10%と40%の税引後CFの差は6.6万円しかありませんでした。では、この2つは同じくらいの投資と言えるのか。損益分岐点を計算すると、まったく違う姿が見えます。

頭金比率

初年度DSCR

税引後CFが0になる空室率

税引後CFが0になる金利

10%

1.30

17.3%

4.22%

20%

1.46

25.3%

5.56%

30%

1.67

33.4%

6.99%

40%

1.95

41.5%

8.78%

50%

2.34

48.0%

11.15%

手残りはほぼ同じでも、頭金10%は空室率17.3%で赤字に転じるのに対し、40%は41.5%まで耐えます(2.4倍)。損益分岐金利も4.22%と8.78%で2.1倍の差です。10戸の物件なら、17.3%は2戸弱の空室が常態化した状態です。

ここが今回の分析でもっとも実務的な部分だと考えています。同じ税引後の手残りを、まったく違うリスク量で買っているということです。融資期間25年前後の条件では、頭金を薄くすることの見返りが税引後にはほとんど残らないのに、リスクだけが確実に増えます。

ただし、これは「保有中のキャッシュフロー」に限った話です。次の項目で、別の軸を見ます。

結果5|資産形成の速度では、頭金10%が2.4倍速い

キャッシュフローだけを見ると頭金を厚くしたほうが有利に見えますが、借入が大きいほど元金返済額も大きくなります。物件価格が横ばいという前提で、10年後の自己資本(物件価格−残債)を計算しました。

頭金比率

借入額

10年後残債

元金返済累計

10年間の累積税引後CF

10年間の増分合計

10年後の自己資本

10%

7,500万円

4,936万円

2,564万円

506万円

3,070万円

3,397万円

20%

4,286万円

2,821万円

1,465万円

572万円

2,037万円

2,537万円

30%

2,763万円

1,819万円

945万円

604万円

1,548万円

2,129万円

40%

1,875万円

1,234万円

641万円

622万円

1,263万円

1,891万円

10年間の増分合計(元金返済累計+累積税引後CF)は、頭金10%が3,070万円、40%が1,263万円で2.4倍の差がつきます。頭金10%のケースは、手元の現金では負けているのに、残債の減少という形で資産を積んでいます。

ただしこの数字には重要な留保があります。第一に、物件価格が横ばいという前提です。実際には築25年に向かって収益価格も積算価格も下がるため、自己資本の増加はこの計算より小さくなります。当ブログの検証では、出口利回りが1%上がるだけでIRRは大きく低下します。第二に、元金返済で積み上がった自己資本は現金ではありません。売却するか、共同担保として次の融資に使うか、いずれにせよ換金するには追加の手続きが必要です。次の項目でこの点を数値化します。

結果6|複合ストレス下では、頭金10%だけが赤字に転じる

金利と空室率を同時に悪化させた3シナリオで比較しました。融資期間は25年で固定しています。

シナリオ

条件

頭金10%

頭金20%

頭金30%

頭金40%

BASE

金利2.0%・空室5%

DSCR1.30/CF57.3万円

DSCR1.46/CF61.0万円

DSCR1.67/CF62.8万円

DSCR1.95/CF63.9万円

STRESS

金利2.5%・空室9%

DSCR1.16/CF26.9万円

DSCR1.31/CF42.4万円

DSCR1.50/CF49.7万円

DSCR1.74/CF54.0万円

SEVERE

金利3.0%・空室13%

DSCR1.04/CF▲4.1万円

DSCR1.17/CF23.3万円

DSCR1.33/CF36.3万円

DSCR1.56/CF43.9万円

BASEでは4ケースの税引後CFは57.3〜63.9万円で、差は6.6万円しかありません。ところがSEVEREでは▲4.1万円〜43.9万円へ広がり、差は48.0万円になります。頭金10%のケースだけが税引後で赤字に転じ、DSCRも1.04と返済がほぼ限界です。

重要なのは、この差はベースケースの数字を見ているだけでは分からないことです。BASEの表だけを見て「どれも似たようなもの」と判断すると、悪化局面で初めて差が現れます。金利上昇と空室悪化は独立に起きるとは限らず、景気後退局面では同時に起きうる点も考慮が必要です。

今回は金利と空室率だけを動かしましたが、実際にはこれに大規模修繕や家賃下落が重なります。ご自身の借入額・金利・空室率でこの組み合わせを確認したい場合は、RE-AIのキャッシュフローシミュレーターで金利×空室率のマトリクスを試算できます(同ツールは税引前の計算で、本記事のような税額の織り込みは行っていません)。DSCRだけを確認したい場合はDSCRシミュレーターが使えます。

逆算|税引後CFを貯めるだけでは、2棟目まで27年かかる

ここまでは1棟目の話です。では、この1棟目から得られる税引後CFを貯めて、同じ規模の2棟目(=再び自己資金1,500万円が必要)に到達するまで何年かかるでしょうか。

頭金比率

初年度税引後CF

累積が1,500万円に達する年

10%

57.3万円

27年目

20%

61.0万円

27年目

30%

62.8万円

26年目

40%

63.9万円

26年目

いずれも26〜27年です。「1棟目のキャッシュフローを貯めて2棟目へ」という説明はよく見かけますが、表面利回り8%・金利2.0%・融資25年という条件では、税引後CFの再投資だけで規模を倍にするのに四半世紀以上かかる計算になります。

自己資金を増やしても、年数は変わらない

では元手を増やせば早くなるのか。頭金20%で自己資金の額だけを変えて計算しました。

投下自己資金

買える物件価格

初年度税引後CF

2棟目到達

800万円

2,857万円

32.6万円

27年目

1,500万円

5,357万円

61.0万円

27年目

3,000万円

10,714万円

122.1万円

27年目

5,000万円

17,857万円

203.5万円

27年目

自己資金を6倍にしても、到達年数は27年で変わりません。キャッシュフローも必要自己資金も物件規模に比例するため、比率が同じなら年数も同じになるからです(実際には所得が増えると累進税率が上がるため、大きいケースほど不利に働く可能性があります。今回は税率30%で固定しています)。

年数を縮める2つの方法

では何が年数を縮めるのか。計算上、効くのは「表面利回りを上げる」か「物件外から現金を足す」かのどちらかです。

方法1:必要な表面利回りを逆算する

頭金比率

15年で到達

10年で到達

7年で到達

10%

9.22%

10.27%

11.69%

20%

9.60%

11.30%

13.54%

30%

9.98%

12.32%

15.39%

40%

10.37%

13.35%

17.23%

10年で2棟目に到達するには、頭金10%でも表面利回り10.27%、頭金40%なら13.35%が必要です。RC造築15年でこの水準の物件は、立地または建物状態に相応の理由があると考えるのが自然です。「高利回りだから早く拡大できる」は計算上は正しいのですが、その利回りが空室率や修繕費として跳ね返らない前提が必要です。当ブログの検証では、金利と空室率が同時に悪化した場合、高いはずの利回りは短期間で失われます。

方法2:物件外から現金を足す

年間の追加拠出

頭金10%

頭金20%

頭金30%

頭金40%

0円

27年目

27年目

26年目

26年目

50万円

16年目

15年目

14年目

14年目

100万円

10年目

10年目

10年目

10年目

150万円

8年目

8年目

8年目

8年目

200万円

6年目

6年目

6年目

6年目

年100万円を給与などから足すと、27年が10年に縮みます。年200万円なら6年です。この表で目を引くのは、追加拠出があると頭金比率による差がほぼ消える点です。年100万円のケースでは、頭金10%でも40%でも到達は10年目で同じになります。物件が生む税引後CF(57〜64万円)より、物件外からの拠出(100万円)のほうが大きくなるためです。

これは、拡大のスピードが「1棟目をどう買ったか」より「本業の可処分所得」に強く依存することを示しています。逆に言えば、追加拠出ができないのであれば、頭金比率を薄くして規模を追っても拡大速度はほとんど変わらず、リスクだけが増えることになります。

結果から言えること

今回の条件で確認できたのは、次の点です。

  • 税引前と税引後で結論が変わる。融資25年では税引前CFは頭金10%が24.3万円多いが、税引後は頭金40%が6.6万円多い。レバレッジの効果の一部は課税所得の増加として税に吸収される。
  • 逆転が消える境界は融資期間で決まる。基準条件では25.8年。表面利回り6%なら34.6年、10%なら20.6年。金利より表面利回りの影響がはるかに大きい。
  • 手残りが近くても、リスク量は同じではない。損益分岐空室率は17.3%と41.5%で2.4倍、損益分岐金利は4.22%と8.78%で2.1倍の差がある。
  • 頭金を薄くする見返りは、キャッシュフローではなく資産形成速度に出る。10年間の増分合計は3,070万円と1,263万円で2.4倍。ただしそれは現金ではなく残債の減少である。
  • 複合ストレス下では差が開く。金利3.0%・空室13%では頭金10%だけが税引後で赤字に転じ、4ケースの差は6.6万円から48.0万円へ広がる。
  • 税引後CFの再投資だけでは2棟目まで26〜27年。自己資金額を変えても年数は変わらない。年100万円の追加拠出で10年に縮む。

投資判断への使い方

この分析は「頭金は何%が正解か」を決めるものではありません。使い方としては、次の3つの確認をおすすめします。

1. 検討中の物件の表面利回りと、提示されている融資期間を境界表に当てはめる。表面利回り7%で融資期間25年なら、境界は29.5年なので、頭金を薄くしても税引後の手残りは増えません。この場合、頭金を厚くして損益分岐に余裕を持たせるほうが、税引後では合理的です。

2. 税引前CFではなく税引後CFで比較する。販売資料やポータルの収支シミュレーションはほぼ税引前です。減価償却が終わる年には、税引後CFが大きく落ち込みます。今回のRC築15年のケースでは償却は35年間続きますが、木造築古では10年前後で終わります。

3. 拡大計画は、物件のCFではなく物件外の拠出額から逆算する。2棟目を何年後に買いたいのかが先にあるなら、必要な年間拠出額は「必要自己資金 ÷ 目標年数 − 年間税引後CF」でおおよそ求まります。1棟目のスペックを詰めるより、この式の第1項を見直すほうが効きます。

なお、金利・空室率・融資期間・頭金比率を同時に動かして確認する作業は、表計算では条件の組み合わせが増えるほど管理が難しくなります。RE-AIでは、こうした複数条件をまとめて確認できるよう設計しています。ただし本記事の数値も含め、シミュレーションは前提条件が変われば結論も変わります。

この分析では分からないこと

今回の計算には、次の限界があります。

  • 実際の融資条件は反映していません。頭金比率が下がれば金利が上がる、あるいは融資期間が短くなるという実務上の関係を織り込んでいません。実際には頭金10%と40%で同じ金利2.0%・25年が提示されるとは限らず、その場合は頭金10%の結果はさらに悪化します。
  • 家賃・運営費・物件価格を横ばいとしています。頭金比率だけの影響を切り出すための単純化で、実際には家賃下落と運営費上昇が加わります。結果5の自己資本は、価格下落を織り込めば小さくなります。
  • 大規模修繕を織り込んでいません。RC造では10〜15年周期の外壁・防水・給排水の更新が発生し、その年の税引後CFは大きくマイナスに振れます。
  • 税額は実効税率30%の一律計算です。実際は累進税率で、青色申告特別控除、他の所得との損益通算、土地取得に係る負債利子の損益通算制限、法人か個人かによって変わります。今回は赤字時の還付を織り込まない保守設定にしています。具体的な税務の取り扱いは税理士にご確認ください。
  • 売却を含んでいません。2棟目への到達を「税引後CFの蓄積」だけで測っており、1棟目の売却益や共同担保による与信活用を考慮していません。実務ではこれらが拡大の主要な手段になることがあります。
  • 物件個別の競争力は評価していません。同じ表面利回り8%でも、立地・間取り・築年数・周辺供給によって実際の空室率と家賃の推移は大きく変わります。
  • 境界となる融資期間25.8年は、この前提条件に限定された数値です。建物比率、償却年数、運営費率、税率のいずれかが変われば動きます。

まとめ

「頭金を薄くして大きく買う」は、税引前のキャッシュフローで比べれば有利に見えます。しかし自己資金を固定して税引後で比べ直すと、融資期間25.8年(表面利回り8%・金利2.0%の場合)を境に結論が入れ替わりました。それより短い融資期間では、頭金を厚くしたほうが税引後の手残りが多く、しかも損益分岐空室率は2.4倍、損益分岐金利は2.1倍の余裕があります。

一方で、頭金を薄くしたケースは10年間の資産増分が2.4倍でした。両者は「どちらが得か」ではなく、キャッシュフローと安全余裕を取るか、資産形成の速度を取るかという選択です。そして拡大の速度そのものは、1棟目の買い方より物件外からの拠出額で決まる、というのが今回の計算結果でした。

ご自身の物件価格・家賃・融資条件で同じ形の試算をしたい場合は、キャッシュフローシミュレーターで金利と空室率を動かしながら確認できます(税引前の計算です)。融資条件そのものの検討は不動産投資ローン完全ガイド、自己資金比率の基本的な考え方は頭金10%・20%・30%の比較、融資期間の選び方は融資期間25年・30年・35年の検証で整理しています。収支計算の全体像は収益物件の収支計算完全ガイドをご覧ください。

参考資料・出典

情報確認日:2026年8月30日

本記事の数値は、上記の前提条件にもとづき筆者が計算したシミュレーション結果です。実在物件の統計データ、RE-AIの診断実績データ、市場の実測値ではありません。将来の家賃・空室率・金利・修繕費・売却価格を予測または保証するものではなく、投資助言でもありません。融資条件は金融機関、税務の取り扱いは税理士にご確認のうえ、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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