RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

管理・空室対策

大規模修繕の年、手元資金はいくら必要か|国交省の計画修繕データを年次に展開し、取得築年別に「山」と資金ショート額を逆算

大規模修繕の年、手元資金はいくら必要か|国交省の計画修繕データを年次に展開し、取得築年別に「山」と資金ショート額を逆算

収益物件の収支表で、修繕費は「家賃の5%」「年間○万円」といった一定額で置かれることが多い(収支計算全体の組み立ては収益物件の収支計算完全ガイドにまとめている)。総額の水準が正しければ、長期の利回りやIRRはそれでほぼ正しく出る。

しかし現金は一定額では出ていかない。外壁塗装、屋根の葺替、給湯器の一斉交換、給排水管の更新は、特定の1年に集中する。そしてその年は、平常年の10年分に相当する現金が一度に出る。

今回は、国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」が公表している5年帯別の修繕費データを年次カーブへ展開し、次の3点を検証した。

  • 修繕費を年平均で置くと、10年の修繕負担をどれだけ過小に見積もるのか
  • 「山」が来た年、キャッシュフローとDSCRはどこまで落ちるのか
  • 取得時の築年数によって山が保有何年目に来るか、そして購入時にいくら手元資金を用意しておけば足りるのか(逆算)

結論を先に書くと、IRRは年次配分にほとんど反応しない。同じ10年総額を「帯内で均等に配分」しても「1年に集中させて配分」しても、10年IRRの差は0.005ptしかなかった。それでも資金ショート額は644万円変わる。IRRだけを見ていると、この山は最後まで見えない。

1.この記事で使ったデータの区分

数値の出どころを先に分けておく。

区分

内容

公開データ

国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」の5年帯別・戸あたり修繕費(木造10戸、RC10戸、RC20戸の3パターン)、および同資料の部位別修繕時期の目安

当方の仮定

5年帯の合計額を「帯内の各年へどう配分するか」。国交省資料は帯合計のみを示しており、年次配分は公表されていない

シミュレーション

キャッシュフロー、DSCR、10年IRR、必要手元資金の計算

架空ケース

物件価格・家賃・融資条件(下記2章)。実在物件の統計ではない

RE-AIの診断データは今回使用していない。以下はすべて、条件を固定した上での計算結果である。

2.分析する疑問と前提条件

2-1.分析する疑問

「修繕費の総額を正しく見積もっていても、その年に払えなければ投資は続かない。では、払えなくなる年はどこに来て、いくら足りないのか」

2-2.なぜこの物件条件にしたか

今回の分析軸は「修繕の山が保有何年目に当たるか」である。したがって必要な条件は、戸数が特定できること(国交省データが戸あたり単価で示されているため)と、保有10年の間に少なくとも1つの山を通過する築年数であることの2点だ。

木造築15年では法定耐用年数(22年)の残存が7年となり、融資期間の制約そのものがDSCRを支配してしまう。修繕タイミングの影響を切り出すため、残存耐用年数に余裕のあるRC造を基準ケースに採用した。木造については5章で構造間比較として扱う。

2-3.基準ケース(架空ケース)

項目

設定

設定理由

構造・規模

RC造3階建 10戸(1K)

国交省資料に「RC10戸(1K)」の修繕費モデルが存在し、単価を推定せずに使える

築年数(取得時)

15年

保有10年(築16〜25年)の間に、11〜15年目の山を通過済みで21〜25年目の山を通過する

所在

地方中核市・駅徒歩圏

—

満室想定家賃

月5.8万円 × 10戸 = 年696万円

地方中核市の1K実勢レンジ

物件価格

8,500万円(戸当たり850万円)

上記家賃と表面利回り8.19%が整合する水準。築15年RC・1K中心の地方物件として置いた

空室・滞納率

5%

—

運営費(修繕・設備更新を除く)

134.1万円
管理委託料33.1万円(実効収入の5%)/固定資産税・都市計画税65万円/共用部光熱・清掃24万円/火災保険12万円

修繕費を二重計上しないため、運営費から修繕・更新費を分離した

借入

6,800万円(LTV80%)・金利2.0%・25年・元利均等

RC築15年の残存耐用年数32年に収まる期間

購入諸費用

722.5万円(価格の8.5%)

—

ここから導かれる基準値は次のとおり。

指標

値

表面利回り

8.19%

実効総収入

661.2万円

NOI(修繕費控除前)

527.1万円(NOI率75.7%)

取得時NOI利回り

6.20%

年間元利返済額

348.3万円

DSCR(修繕費控除前)

1.513倍

キャッシュフロー(修繕費控除前)

178.8万円

総投下自己資金

2,422.5万円

出口は保有10年後の売却とし、出口NOI利回り7.0%(取得時6.20%+0.80pt)、売却諸費用4%とした。売却価格7,531万円、残債4,475万円、売却手残り2,754万円である。IRRはすべて税引前で計算している(税引後にすると減価償却と譲渡税の影響が加わり、修繕タイミングの効果を切り出せないため)。

2-4.固定した条件と変更した条件

固定:物件価格、満室想定家賃、空室・滞納率、運営費(修繕を除く)、借入額、金利、融資期間、出口利回り、売却諸費用

変更:修繕費の年次配分方法(3シナリオ)、および取得時の築年数(山が保有何年目に来るか)

3.国交省データを年次カーブへ展開する

3-1.元データ

国交省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」は、5年帯ごとの戸あたり修繕費を次のように示している(単位:万円/戸)。

経過年

木造10戸
(1LDK〜2DK)

RC10戸
(1K)

RC20戸
(1LDK〜2DK)

主な工事内容

5〜10年目

7

9

9

ベランダ・階段・廊下の塗装、室内設備修理、排水管高圧洗浄

11〜15年目

52

64

55

屋根・外壁塗装、ベランダ塗装・防水、給湯器等の修理・交換

16〜20年目

18

23

23

ベランダ塗装、室内設備修理、給排水管洗浄・交換、外構

21〜25年目

80

98

116

屋根・外壁の塗装・葺替、ベランダ塗装・防水、浴室設備等の修理・交換

26〜30年目

18

23

23

ベランダ塗装、室内設備修理、給排水管洗浄・交換、外構

30年合計

175

217

226

すでにこの段階で、修繕費が一定額ではないことが読み取れる。RC10戸(1K)の場合、30年平均は7.23万円/戸/年だが、11〜15年目は年12.8万円/戸、21〜25年目は年19.6万円/戸に達する。5〜10年目の年1.5万円/戸と比べると13.1倍の開きがある。

3-2.年次配分の3シナリオ

国交省資料は帯合計しか示していないため、帯内の各年への配分は仮定を置く必要がある。ここでは3つの置き方を比較する。

シナリオ

配分方法

想定する実務

①平準化

30年合計 ÷ 30年 を毎年計上

収支表で「修繕費を年○万円」と一定額で置く一般的な方法

②帯内均等

各帯の合計を帯の年数で割り、帯内の各年へ均等計上

帯ごとの水準差は反映するが、工事を分割実施する想定

③集中

各帯の合計のうち一定割合を帯の中央年へ集中させ、残りを帯内均等
(5〜10年目60%を8年目/11〜15年目75%を13年目/16〜20年目50%を18年目/21〜25年目80%を23年目/26〜30年目50%を28年目)

足場を組む工事(屋根・外壁・ベランダ防水)は同時施工が一般的で、実務では1年に集中しやすい

③の集中割合は当方の仮定である。根拠は、足場設置費用を分割すると重複コストが発生するため屋根・外壁・ベランダを同時施工するのが通常であること、および給湯器は国交省資料が「故障がちになったら一斉交換が望ましい」と記載していることによる。実際の集中度は物件ごとに異なる。

RC10戸(1K)を③集中で展開した年次カーブは次のようになる(戸あたり万円)。

経過年

1〜4

5〜7

8

9〜10

11〜12

13

14〜15

16〜17

18

19〜20

21〜22

23

24〜25

修繕費/戸

0

0.6

6.0

0.6

3.2

51.2

3.2

2.3

13.8

2.3

3.92

82.3

3.92

4.結果:同じ総額でも、見える危険がまったく違う

4-1.10年の修繕負担

築15年で取得し10年保有(築16〜25年)した場合の修繕キャッシュアウトを、3シナリオで比較する。

シナリオ

10年累計(棟)

10年累計(戸)

最大単年(棟)

最小年CF

最小DSCR

10年税引前IRR

①平準化

723.3万円

72.3万円

72.3万円

+106.5万円

1.306倍

5.46%

②帯内均等

1,210.0万円

121.0万円

196.0万円

▲17.2万円

0.951倍

3.83%

③集中

1,210.0万円

121.0万円

823.2万円

▲644.4万円

▲0.850倍

3.83%

※DSCRは(NOI − その年の修繕費)÷ 年間元利返済額で計算している。修繕費を控除しない定義のDSCRは全年1.513倍で一定になるため、山を捉えられない。

読み取れることは3つある。

第一に、平準化は10年の修繕負担を486.7万円(1.67倍)過小に見積もった。これは配分の問題ではなく水準の問題である。30年平均を使うと、修繕費が軽い築1〜10年の期間が平均を引き下げ、築16〜25年という重い期間に当てはめたときに不足する。この物件を築15年で買う投資家にとって、30年平均は自分が負担しない期間を含んだ平均である。

第二に、②と③のIRRはほぼ同じだった。3.8263%と3.8313%で、差は0.005pt。10年総額が同じなら、それを5年に分けて払うか1年で払うかは、IRRをほとんど動かさない。

第三に、それでもキャッシュフローの底は▲17.2万円と▲644.4万円で、37.5倍違う。IRRが同じでも、投資が続けられるかどうかは同じではない。

これが「IRRでは修繕の山が見えない」という意味である。IRRは10年間のキャッシュフローを1つの率に圧縮する指標なので、総額が同じならタイミングの偏りは打ち消される。年次のどこかで現金が尽きるという事象は、率の世界には現れない。

4-2.ピーク年に何が起きているか

③集中シナリオの保有8年目(築23年)を分解する。

項目

金額

満室家賃比

NOI(修繕費控除前)

527.1万円

75.7%

その年の修繕費

▲823.2万円

118.3%

年間元利返済額

▲348.3万円

50.0%

年間キャッシュフロー

▲644.4万円

▲92.6%

修繕費がNOIの156.2%、満室想定家賃の118.3%に達している。つまりこの年の工事費は、その年の家賃収入全額でも足りない。

ここから重要な帰結が出る。この山は、借入を減らしても消えない。仮に無借金(返済額ゼロ)で保有していても、823.2万円はNOI 527.1万円を296.1万円上回る。LTVを下げてもDSCRを高くしても、この年は手元資金か修繕ローンでしか埋められない。

4-3.逆算:ピーク年にDSCRを維持できる修繕額の上限

維持したいDSCR

その年に許容できる修繕費(棟)

戸あたり

実額823.2万円との差

1.30倍

74.4万円

7.44万円

▲748.8万円

1.20倍

109.2万円

10.92万円

▲714.0万円

1.10倍

144.0万円

14.40万円

▲679.2万円

1.00倍

178.8万円

17.88万円

▲644.4万円

DSCR1.2を維持できる修繕額は戸あたり10.92万円まで。国交省データの21〜25年目の帯合計は戸あたり98万円で、これを5年に均等分割しても年19.6万円になり、DSCR1.0も維持できない。この帯の工事を「その年の収益で払う」という前提自体が成立しないと見たほうがよい。

5.取得築年で、山は保有何年目に来るか

5-1.山までに貯まるCFで賄えるか

ここが投資判断に直接関わる。山そのものの金額は物件で決まるが、山までに何年分のキャッシュフローを貯められるかは、いつ買うかで決まる。

物件条件・家賃・融資条件をすべて固定し、取得時の築年数だけを変えて計算した(③集中シナリオ)。「直前までのCF累計」は、保有開始から山の前年までの税引前CFを全額留保した場合の累計額である。

取得築年

山が来る保有年

山の金額(棟)

直前までのCF累計

その年の不足額

判定

築8年

5年目

512.0万円

639.4万円

333.2万円

充足(余裕306万円)

築9年

4年目

512.0万円

466.5万円

333.2万円

充足(余裕133万円)

築10年

3年目

512.0万円

293.7万円

333.2万円

不足(39.5万円)

築12年

1年目

512.0万円

0万円

333.2万円

不足(333.2万円)

築15年

8年目

823.2万円

943.5万円

644.4万円

充足(余裕299万円)

築16年

7年目

823.2万円

787.6万円

644.4万円

充足(余裕143万円)

築17年

6年目

823.2万円

631.8万円

644.4万円

不足(12.6万円)

築18年

5年目

823.2万円

591.0万円

644.4万円

不足(53.4万円)

築20年

3年目

823.2万円

279.3万円

644.4万円

不足(365.1万円)

築22年

1年目

823.2万円

0万円

644.4万円

不足(644.4万円)

転換点は2つある。

築9年取得と築10年取得の間。11〜15年目の山(512万円)に対し、築9年取得なら4年分のCF466.5万円で不足額333.2万円を賄えるが、築10年取得では3年分293.7万円で足りなくなる。

築16年取得と築17年取得の間。21〜25年目の山(823.2万円)に対し、築16年取得なら7年分787.6万円で不足額644.4万円を賄えるが、築17年取得では6年分631.8万円でわずかに足りない。差は12.6万円で、境界は極めて薄い。

なお築15年取得のケースでも、「充足」の内訳は楽ではない。保有7年分のCF累計943.5万円のうち68.3%が8年目の1回で出ていく。7年間の手残りを一度も使わずに積んでおいた場合にはじめて足りる、という意味である。

5-2.逆算:購入時に用意しておくべき手元資金

上の不足額を、購入時に別途用意しておく現金として逆算した。

取得築年

必要な購入時手元資金

満室家賃換算

総投下自己資金比

築8年

0万円

—

0.0%

築10年

39.5万円

0.7ヶ月

1.6%

築12年

333.2万円

5.7ヶ月

13.8%

築15年

0万円

—

0.0%

築17年

12.6万円

0.2ヶ月

0.5%

築18年

53.4万円

0.9ヶ月

2.2%

築20年

365.1万円

6.3ヶ月

15.1%

築22年

644.4万円

11.1ヶ月

26.6%

築22年で取得した場合、自己資金1,700万円・諸費用722.5万円に加えて644.4万円、つまり投下自己資金の26.6%を修繕用に別枠で持っていなければ初年度に現金が尽きる。融資の自己資金要件を満たしていても、この枠は別に必要になる。

5-3.必要な積立率

築15年取得・10年保有の場合、修繕に必要な額は満室想定家賃の17.4%だった。平準化(30年平均)で見積もると10.4%にしかならない。収支表で修繕費を家賃の5%で置いていた場合、水準として3.5倍の乖離がある。

修繕費の水準そのものについては、国交省の長期修繕計画事例から検証した修繕費「家賃の5%」で足りるのかを参照いただきたい。今回の記事は、水準が正しくても年次では足りない年があるという点に焦点を当てている。

5-4.構造・規模による違い

3つの国交省モデルで、取得築年別の10年累計(戸あたり)を比較する。「平準化比」は30年平均で置いた場合の10年分に対する倍率である。

取得築年

木造10戸(1LDK〜2DK)

RC10戸(1K)

RC20戸(1LDK〜2DK)

10年累計/戸

平準化比

10年累計/戸

平準化比

10年累計/戸

平準化比

築0年

7.0万円

0.12倍

9.0万円

0.12倍

9.0万円

0.12倍

築5年

57.8万円

0.99倍

71.5万円

0.99倍

62.5万円

0.83倍

築10年

70.0万円

1.20倍

87.0万円

1.20倍

78.0万円

1.04倍

築15年

98.0万円

1.68倍

121.0万円

1.67倍

139.0万円

1.85倍

築20年

98.0万円

1.68倍

121.0万円

1.67倍

139.0万円

1.85倍

集中時の最大単年/戸

67.2万円

82.3万円

97.4万円

新築取得(築0年)の10年は、平準化前提の12%で済む。一方、築13年以降に取得すると平準化前提の1.5〜1.9倍になる。同じ物件を平準化前提で評価している限り、築浅は過大に厳しく、築古は過小に甘く評価されることになる。

規模別では、RC20戸(1LDK〜2DK)が最も山が大きい(平準化比1.85倍、最大単年97.4万円/戸)。21〜25年目の帯合計が戸あたり116万円と最も重いためである。

5-5.表面利回りへの換算

築13年以降の取得は、築0〜2年の取得より10年間の修繕負担が戸あたり112.0万円(RC10戸1K)多い。これを表面利回りのプレミアムに換算すると次のようになる。

換算式:10年負担差 ÷ 10年 ÷ 戸当たり価格

モデル

10年負担差/戸

戸当たり価格850万円のとき

RC10戸(1K)

112.0万円

1.318 pt

木造10戸(1LDK〜2DK)

91.0万円

1.071 pt

築15年のRC物件は、築浅と同じ投資成績を得るには表面利回りが約1.3pt高くなければ釣り合わない、という計算になる。戸当たり価格が下がればプレミアムは比例して大きくなるため、上式で自分の検討物件に当てはめてほしい(戸当たり600万円なら1.867pt)。

ただしこれは修繕費だけを切り出した数値である。築年数が上がれば融資期間、減価償却、出口価格も同時に動く。築年数を総合的に比較した試算は築5年・15年・25年・35年の木造アパート、同じ価格ならどれが有利かにまとめている。

6.結果から分かること

この分析から出るのは「築古を買うな」という結論ではない。次の4点である。

1.IRRとDSCR(修繕費控除前)は、修繕の山を検知できない。IRRは総額に反応するが年次配分にはほぼ無反応で、修繕費を控除しないDSCRは全年一定になる。山を見るには、修繕費を年次で入れた「年次のDSCR」と「年次の累積CF」を見る必要がある。

2.修繕の山は、レバレッジを下げても消えない。ピーク年の工事費はNOIの156%に達しており、無借金でもその年の収益では払えない。LTVを下げることは山の対策にならず、手元資金または修繕資金の借入枠が対策になる。

3.同じ物件でも、取得築年で必要手元資金が0円から644万円まで変わる。山が保有後半に来れば留保CFで賄え、保有前半に来れば購入時に別枠で用意する必要がある。境界は築16年と築17年の間(差12.6万円)、および築9年と築10年の間(差39.5万円)にあった。

4.30年平均は、保有期間の実態を表していない。築15年取得の10年では、30年平均で置いた場合の1.67倍の修繕費が発生した。30年平均には自分が保有しない築1〜15年の軽い期間が含まれている。

7.投資判断への使い方

購入検討時に確認できることを3つ挙げる。修繕と空室対策を含む運営全体の考え方は収益物件の管理会社選びと空室対策 完全ガイドにまとめている。

売主に直近の修繕履歴を年単位で聞く。「外壁塗装はいつ実施したか」「給湯器の交換年次と交換済み戸数」の2点が分かれば、次の山が保有何年目に来るかを推定できる。大規模修繕の直後であれば、この記事の試算とは逆に、保有前半の修繕負担は軽くなる。区分所有の場合は長期修繕計画と修繕積立金の残高が同じ役割を果たす(区分マンションの管理組合、財政は健全か)。

自己資金の枠を「購入用」と「修繕用」に分ける。融資の自己資金要件と、修繕の山に備える現金は別の枠である。必要額の考え方は購入後の手元資金は家賃の何ヶ月分必要かで戸数・LTV別に検証している。

年次の収支表を作り、山の年を明示的に入れる。平均値で置いた収支表では、この山は構造的に見えない。

今回の試算は特定の物件条件・融資条件を固定したものである。物件価格・家賃・空室率・運営費・融資条件は読者ごとに異なり、山の金額も修繕履歴で変わる。RE-AIの無料キャッシュフローシミュレーターには「修繕年と金額を自分で入力」する機能があり、自分の物件で山が来る年と金額を指定して、その年のキャッシュフローと年次の累積CFを確認できる。上の表で不足額が出た年に、自分の条件ではいくらになるかを試算するのに使える。登録は不要である。

なお、修繕費として一括で経費計上できるか、資本的支出として資産計上になるかで税引後の手残りは変わる。この区分については修繕費で落とせないと手残りはいくら減るのかを参照されたい。今回の試算は税引前であり、この効果を含んでいない。

8.この分析で分からないこと

結果を一般化する前に、次の限界を確認しておきたい。

  1. 年次配分は当方の仮定である。国交省資料は5年帯の合計のみを示しており、帯内のどの年に集中するかは公表されていない。③集中シナリオの集中割合(75〜80%)は、足場工事の同時施工という実務慣行から置いた想定にすぎない。実際には2年に分けて施工される物件も、1年に完全集中する物件もある。
  2. 修繕履歴が反映されていない。築15年で取得する物件が、11〜15年目の工事をすでに実施済みなのか未実施なのかで、保有期間の負担は大きく変わる。今回は「ガイドブックどおりの時期に実施される」と仮定している。個別物件では修繕履歴の確認が前提になる。
  3. 国交省モデルは標準的な想定であり、地域・仕様・業者による価格差を含まない。近年の建築費・人件費上昇も反映されていない(同資料は平成25年住宅・土地統計調査を基礎データとしている)。実勢では上振れする可能性がある。
  4. 工事の先送り・縮小という実務上の選択肢を織り込んでいない。実際には、資金が足りなければ塗装だけ実施して葺替を延期するといった判断が行われる。ただしそれは空室率と出口価格への影響として跳ね返る可能性があり、その相互作用は今回計算していない。
  5. 修繕の実施と入居率・家賃の関係を定量化していない。国交省の管理会社アンケートでは計画修繕の効果として「高い入居率」(52.7%)「家賃水準の維持」(47.3%)が挙げられているが、これは回答者の認識であり、修繕が入居率を何pt改善するかを示す因果関係の測定ではない。今回の試算では修繕を実施しても家賃・空室率は変えていない。
  6. 税引前の計算である。修繕費の損金算入による節税効果、減価償却、譲渡税を含まない。修繕費が全額経費になる場合、税引後の負担は表示額より軽くなる。
  7. 修繕資金の借入という選択肢を評価していない。実務では修繕ローンやリフォームローンで山を分割する方法があるが、その金利負担とDSCRへの影響は今回計算していない。
  8. 実際の融資条件・建物状態・管理状態・周辺供給・個別物件の競争力は反映していない。これらは物件ごとに確認が必要である。

9.まとめ

国交省の計画修繕データを年次カーブへ展開すると、修繕費を年平均で置いた収支表では見えない2つの事実が出てきた。

1つは水準の問題である。築15年取得・10年保有では、30年平均で置いた場合の1.67倍(486.7万円多い)の修繕費が発生し、10年税引前IRRは5.46%から3.83%へ1.63pt低下した。

もう1つは配分の問題である。同じ10年総額でも、工事を1年に集中させるとその年のキャッシュフローは▲644.4万円、修繕費控除後のDSCRは▲0.850倍になる。それでも10年IRRは3.83%で、帯内均等配分との差は0.005ptしかない。IRRは修繕の山を検知しない。

そして、山が保有何年目に来るかは取得時の築年数で決まる。必要な購入時手元資金は0円から644.4万円(満室家賃11.1ヶ月分、投下自己資金の26.6%)まで変動し、転換点は築16年と築17年の間にあった。

この物件は「買い」か「見送り」かという二択では答えられない。10年IRR3.83%という収益性は許容範囲内としても、保有前半に山が来る取得タイミングでは資金繰りの耐性が不足する。収益性の判断と資金繰りの判断は別の軸であり、年次で見なければ後者は評価できないということが、今回の試算から言えることである。

今回のように、修繕の年次集中・金利・空室率・家賃下落・出口価格を同時に年次で追うと、表計算では確認項目が増えていく。RE-AIでは35年分の年次キャッシュフローとして、大規模修繕を含めた条件をまとめて確認できるよう設計している。ただし本記事の限界に挙げたとおり、個別物件の修繕履歴と建物状態の確認は、いかなる試算にも代えられない。

参考資料・出典

  • 国土交通省 住宅局住宅総合整備課賃貸住宅対策室「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」
    https://www.mlit.go.jp/common/001231406.pdf
    (5年帯別・戸あたり修繕費/部位別修繕時期の目安/計画修繕の効果に関する管理会社アンケート)
  • 国土交通省「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン」(平成20年6月、令和6年6月改定)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747006.pdf
  • 上記ガイドブックが参考とした資料:(公財)日本賃貸住宅管理協会「賃貸住宅版 長期修繕計画案作成マニュアル(改訂版)」(2014年)、国土交通省「公営住宅等長寿命化計画策定指針(改定)」(2016年)
  • 総務省「平成25年住宅・土地統計調査」(同ガイドブックの民間賃貸住宅建築時期データの出典)

情報確認日:2026年10月1日

本記事は特定の条件を固定したシミュレーションであり、投資助言ではありません。実際の修繕費・融資条件・税務の取り扱いは、施工業者・金融機関・税理士にご確認ください。

この記事をシェアする

この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

分析実績 87件(2026/08/07時点)X(旧Twitter)プロフィールと執筆記事 →