
「表面利回り8%」という数字だけで購入を決めた結果、大規模修繕や空室で収支が悪化した——という相談は少なくありません。収益物件の収支計算には、表面利回りのほかにNOI・DSCR・IRRなど複数の指標があり、それぞれ見ている範囲が異なります。本記事では、各指標の意味と計算方法、そして実際の購入判断でどう組み合わせて使うのかを整理します。
物件選びから融資・契約・出口までの全体の流れを先に把握したい方は、不動産投資初心者完全ガイドも参考にしてください。
収益物件の広告に表示されている利回りは、多くの場合「表面利回り」です。表面利回りは年間家賃収入を物件価格で割っただけの数字で、管理費や修繕費、固定資産税、空室損失といったコストを一切含んでいません。そのため、表面利回りが高くても、経費や空室率を加味すると手残りがほとんど残らない物件は珍しくありません。
実際、空室率10%を見込んだ収支計算では黒字でも、築年数の経過とともに発生する大規模修繕費まで織り込んでいなかったために赤字に転落したケースもあります(「空室率10%なら黒字」の物件が、大規模修繕で赤字に転落した理由)。また、高利回り物件そのものが問題なのではなく、利回りの根拠となる家賃設定や修繕計画を検証せずに購入したことが失敗の原因になっているケースも見られます(「高利回り物件で失敗した」は、本当に利回りのせいなのか)。
こうした失敗を避けるには、表面利回り以外の指標も含めて、複数の角度から収支を確認する必要があります。
収益物件の投資判断でよく使われる指標は、主に以下の7つです。それぞれ計算式と、投資判断でどう使うのかを解説します。
表面利回り(%)=年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100
物件広告で最も目にする指標ですが、経費や空室を考慮していないため、物件同士をおおまかに比較する初期スクリーニングの材料として使うにとどめ、この数字だけで購入を決めるのは避けたい指標です。
実質利回り(%)=(年間家賃収入-年間運営経費)÷(物件価格+購入諸費用)× 100
管理費、修繕積立、固定資産税、火災保険料などの運営経費を差し引いて計算するため、物件が実際に生み出す収益力に近い数字になります。運営経費は家賃収入の15〜25%程度を見込むのが一般的ですが、築年数や設備の状態によって変動するため、個別に見積もる必要があります。特に戸数が少なく1戸あたり賃料が低い小規模物件では、消防設備点検や共用部清掃のように戸数が減っても大きくは下がらない「棟単位固定費」の比重が重くなり、この目安を上回る運営経費率になることがあります。戸数と賃料水準を16通りで試算した結果は戸数×賃料でNOI利回りがどこまで変わるかを試算した記事で確認できます。なお「実質利回り」という言葉には、分母を物件価格のままにする計算方法と、購入諸費用まで加えて計算する方法の2通りがあり、どちらで計算したかによって数値が変わります。区分マンションと一棟アパートを例にこの2つの計算方法を比較した記事は表面利回りと実質利回りの違いとは|計算方法と、区分マンション・一棟アパートでの差を試算したにまとめています。また、同じ戸数を1棟にまとめるか複数棟に分けるかによっても、空室が悪化した年の手残りの深さは変わります。40万回のモンテカルロシミュレーションで分散効果の上限を検証した記事は収益物件は1棟集中か2棟分散か|同じエリアに分けると分散効果はゼロ、割に合う追加コストの上限は年24.3万円だったで確認できます。
NOI=年間家賃収入-年間運営経費(ローン返済は含まない)
NOIは「物件そのもの」が生み出す収益力を表す指標で、ローンの組み方に左右されません。金融機関が収益還元法で物件の担保価値を評価する際にも使われる、収支計算の土台となる数字です。
運営経費の中でも固定資産税・都市計画税は、木造アパートの場合、建物の評点区分によって税額が下限に落ち着くまでの年数が15年〜35年まで分かれ、新築減額が切れる4年目には一段と重くなります。「家賃の一定%」で固定して計算するとNOIの精度が落ちるため、年ごとの推移を35年分試算した木造アパートの固定資産税カーブを試算した記事もあわせて確認してください。
NOIが分かれば、そこから年間返済額を差し引いた実際の手残り(キャッシュフロー)も確認できます。ご自身の物件条件では → 自分の物件でキャッシュフローを計算する(無料ツール)
単年の数字だけでなく、保有期間を通じたキャッシュフローの推移を表に整理して管理したい場合は、不動産投資のキャッシュフロー表の作り方|DSCRは1.41倍でも、金利・空室・修繕費が重なる年は手元資金が223.9万円のマイナスだったで、金利・空室・修繕費を加味した表の組み方を解説しています。
NOIから年間の元利返済額を差し引いた手残りとは別に、年間の元金返済額と年間の減価償却費のどちらが大きいかという関係も、保有中の税負担を左右します。元金返済額が減価償却費を上回る「デッドクロス」以降は、帳簿上の利益が増えても手元の現金が増えにくくなるためです。発生する年は物件価格ではなく「借入額÷年間減価償却費」「金利」「融資期間」で決まり、中古物件では融資期間を延ばしても自己資金を厚くしても動かないケースがあることを6パターンで試算した記事はデッドクロスは何年目に来るのかで確認できます。
DSCR=NOI ÷ 年間元利返済額
DSCRは「NOIで年間のローン返済を何倍まかなえるか」を示す指標です。DSCRが1.0を下回ると、家賃収入だけでは返済をまかなえない状態を意味します。金融機関の融資審査でも重視される指標で、一般的に1.2〜1.3以上を目安とする金融機関が多いといわれますが、この基準は金融機関や融資商品によって異なるため、実際の審査基準は各金融機関への確認が必要です。
DSCRの計算方法や、金利上昇と空室悪化が同時に重なった場合にDSCRがどこまで下がりうるかについては、試算例とともに不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例で詳しく解説しています。
また、表面利回りが同じでも、運営費や空室損を引いた後のNOI率は地域によって差があり、DSCR1.3を確保するために必要な表面利回りも変わります。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会・IREM JAPANの全国40,979件の実データを使って地域別に逆算した結果はDSCR1.3に必要な表面利回りは7.5%か9.4%か|全国4万件のNOI率実データで地域別に逆算で確認できます。
さらに、運営費そのものがCPIベースで年何%上昇し、家賃改定でどこまで吸収できるかを項目別に積み上げて検証した記事が運営費の上昇は家賃で吸収できているのか|CPIから積み上げた運営費+2.27%に対し、必要な家賃改定率は年0.57%、木造の実績は+0.2%だったです。
IRRは、保有期間中のキャッシュフローと売却時の手残りを合わせて、年率換算でどれだけの投資効率だったかを示す指標です。表面利回りとの決定的な違いは「時間軸」を含む点にあります。同じ利回り8%の物件でも、5年で売却する場合と20年保有する場合とでは、資金の使われ方も税引き後の手残りも大きく異なります。IRRはこうした保有期間・売却時期の違いまで含めて投資効率を比較したいときに使う指標です。
ここで計算するIRRは、原則として名目値(物価上昇を反映しない金額ベース)です。長期保有を前提にする場合、名目IRRだけでなく、物価上昇を差し引いた実質IRRも確認しておくと判断を誤りにくくなります。家賃の物価追随率とLTV別に実質IRRを試算した結果は「不動産投資はインフレに強い」は本当か|実質IRRを守るのに必要な家賃追随率を試算した記事で確認できます。
NPVは、将来得られるキャッシュフローを現在の価値に割り引いて合計し、初期投資額を差し引いた金額です。プラスであれば、想定した割引率(求める投資利回り)を上回る投資効果が見込めることを意味します。IRRが「利回りの水準」を示すのに対し、NPVは「金額としてどれだけの価値が生まれるか」を示す点が異なります。
IRRの水準が同じでも、物件規模や保有期間が異なればNPVの金額は大きく変わります。「IRRは高いのにNPVは小さい」という物件を具体例で比較した不動産投資のNPV(正味現在価値)とは?IRRが高くても価値が小さい物件を見抜く計算法もあわせて確認してください。
CCR(%)=年間税引前キャッシュフロー ÷ 自己資金 × 100
CCRは、自己資金に対して年間でどれだけの現金収益を得られるかを示す指標です。同じ物件でも借入額を増やして自己資金を抑えるほどCCRは高くなりやすい一方、DSCR(返済余力)は下がりやすいという裏表の関係にあります。自己資金の割合とDSCR・月々の返済の関係は不動産投資の自己資金はいくら必要?頭金10%・20%・30%でDSCRと月々の返済を比較で試算しています。NOIやIRRが物件そのものの収益力を示すのに対し、CCRは「自分が投じた自己資金がどれだけ働いているか」を確認する指標です。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在する物件や取引を示すものではありません。
項目 | 数値 |
|---|---|
物件価格 | 8,000万円 |
自己資金 | 1,000万円 |
借入額 | 7,000万円 |
金利 | 2.0%(元利均等) |
返済期間 | 30年 |
満室想定年間家賃収入 | 660万円 |
想定空室率 | 10% |
年間運営経費 | 家賃収入の20% |
この場合、表面利回りは660万円÷8,000万円=8.25%です。空室率10%を織り込んだ実効家賃収入は594万円、そこから運営経費(家賃収入の20%、約132万円)を差し引くと、NOIはおよそ462万円になります。年間元利返済額をおよそ311万円とすると、DSCRは462万円÷311万円=約1.49倍で、一般的に目安とされる1.2〜1.3倍を上回る水準です。
一方で、金利が2.0%から3.0%に上昇した場合、年間返済額は増加し、DSCRは低下します。空室率が10%から20%に悪化した場合も同様にDSCRは低下します。重要なのは、金利上昇と空室悪化を「それぞれ別々に」ではなく、同時に発生した場合にどこまで耐えられるかを確認しておくことです。金融機関の融資審査でDSCRが重視される背景には、こうした変動への耐性を見極める狙いがあります(自己資金1,000万円、価格8,000万円の一棟アパート。金融機関3タイプで審査の見られ方はここまで違いました)。
収支計算というと、多くの場合「今の家賃・今の金利・今の空室率」を前提にした一時点の数字を確認して終わってしまいがちです。しかし実際の収益物件は、10年、20年という長期にわたって保有するものです。その間に金利が上昇したり、周辺の賃貸需要が変化して家賃が下落したり、想定より空室が長引いたりする可能性は十分にあります。
RE-AIでは、こうした複数の条件を同時に変化させた場合の収支(ストレステスト)を確認することを重視しています。金利だけ、空室率だけを個別に確認しても、実際の物件が直面するリスクは「複数の悪条件が重なったとき」に顕在化することが多いためです。金利上昇と空室悪化を同時に組み合わせた場合にキャッシュフローがどこまで悪化するかは、8,000万円の物件条件で20パターン試算した金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減る?で具体的な数値を確認できます。表面的な利回りの高さだけでなく、価格の妥当性・融資条件・出口戦略までを切り離さずに一体で検討することが、収支計算を購入判断に活かすうえでの土台になります。
同じ投資額でも、物件の築年数によって選べる融資期間や10年後の出口利回りの水準は変わり、IRRは大きく動きます。総投資額8,000万円という同じ条件で築5年・15年・25年・35年を比較した実測は築5年・15年・25年・35年の木造アパート、同じ8,000万円ならどれが有利かで確認できます。また、物件価格や融資条件が同じでも、売買契約書に記載する土地建物の按分比率は税引後IRRを動かします。木造・重量鉄骨・RCの3構造×建物比率45/60/75%×課税所得3水準で27通り試算したところ、保有中に減った税金の44.0〜313.2%は売却時に譲渡税として戻り、木造かつ課税所得が約562万円を下回る層では、建物比率を上げるほど税引後IRRがむしろ下がる逆転も確認されました。按分比率がIRRに与える影響の詳細は建物比率を上げると税引後IRRは上がるのか|木造・重量鉄骨・RCで27通り試算で確認できます。
なお、物件価格・金利・空室率・出口利回りなど複数の前提のうち、IRRへの影響度が実際にどう並ぶかは、一つずつ机上で見積もるよりも同一尺度で比較したほうが優先順位を把握しやすくなります。9つの前提を同一尺度で比較し、目標IRRまでの余裕を前提ごとに確認した収益物件の前提は、どれを一番慎重に見るべきか|9変数を同一尺度で比較すると、IRR5%までの余裕は空室率で現実的ブレ幅の0.30倍しかなかったでは、按分比率以外にも優先して確認すべき前提が整理されています。按分の対象を建物比率だけでなく設備区分までさらに細かく分けた場合の効果は建物価格を設備に按分すると税引後IRRは上がるのか|効果のピークは保有6年、按分30%が逆効果になるのは課税所得87万円未満だったで試算しています。
収支計算で物件の収益力を把握したあとは、その収支が保有期間を通じて成立し続けるかどうかを、出口(売却)まで見据えて確認する必要があります。保有を続けるべきか、売却すべきかの判断には、残債の減り方や減価償却の進み方、市場価格の動向など複数の要素が関わります(築15年の一棟アパート、「売る」か「持ち続ける」かを決める7つの確認項目)。また、家賃収入の規模が大きくなった場合は法人化のタイミングも収支に影響するため、あわせて検討しておくとよいでしょう(家賃収入960万円、法人化すべきタイミングはいつか。後悔しないための5つの確認項目)。
複数の指標を自分で計算し、金利上昇や空室悪化を組み合わせたシミュレーションまで行うのは手間がかかる作業です。RE-AIの無料診断では、物件情報を入力することで、こうした収支指標とストレステストを組み合わせた分析結果を確認できます。ただし診断結果はあくまで入力条件に基づく試算であり、投資の成果や物件の適否を保証するものではない点にご留意ください。
物件を比較する初期段階では表面利回りで大まかにスクリーニングし、購入を具体的に検討する段階では実質利回りとNOIを必ず確認してください。表面利回りは経費や空室を考慮していないため、実質利回りより高く出るのが通常です。両者の差が大きい物件は、運営経費や空室率の前提を個別に確認する必要があります。
DSCR1.2という水準はあくまで多くの金融機関が参考にする目安であり、絶対的な合否ラインではありません。自己資金の割合や他の収入源、金融機関ごとの評価方針によって判断は変わります。DSCRが低い場合は、家賃設定や運営経費の見積もりを見直したうえで、複数の金融機関に相談し、実際の審査結果を確認することをおすすめします。
保有期間や売却時期が異なる物件を比較する場合はIRR、投資判断の基準となる利回りに対してどれだけの金額的価値が生まれるかを確認したい場合はNPVが適しています。単一物件の購入可否を判断する場面ではまずIRRで投資効率の水準を確認し、複数物件を比較検討する場面ではNPVも併用すると判断材料が増えます。
CCRが高い物件は自己資金に対する現金収益率が高いことを意味しますが、多くの場合は借入額を増やしてレバレッジを効かせた結果でもあります。借入を増やすとCCRは上がりやすい一方、DSCR(返済余力)は下がりやすいため、CCR単体で「良い投資」と判断せず、DSCRやIRRと合わせて返済の安全性まで確認することが重要です。
収益物件の収支計算では、表面利回りだけでなく、実質利回り・NOI・DSCR・IRR・NPV・CCRを組み合わせて確認することで、物件の収益力と返済余力、長期的な投資効率を多角的に把握できます。特にDSCRは金融機関の融資審査でも重視される指標であり、金利上昇や空室悪化が重なった場合の耐性まで確認しておくことが、購入後の想定外の赤字を避けることにつながります。個々の指標の計算方法を理解したうえで、価格・融資・出口戦略を切り離さずに検討することが、収益物件の収支計算を実際の購入判断に活かす第一歩になります。
情報確認日:2026年10月15日(収支計算の各指標の定義・計算式に変更がないことを確認したうえで、関連する独自分析記事への内部リンクを追加しました)。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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