
不動産投資のキャッシュフロー表を自分で作ろうとして、どの項目を入れればいいのか、エクセルでどう組めばいいのか迷っている方向けの記事です。DSCRが基準を上回っていても、金利・空室・修繕費が重なる年には手元資金が尽きることがあります。架空例の5年間の表で、その見落としやすい年をどう見抜くかを確認します。
収益物件のキャッシュフロー表は、最低限、次の7項目で構成します。各指標の計算方法そのものは収益物件の収支計算完全ガイドで解説しているため、本記事では「どの順番で並べ、どう1枚の表にまとめるか」に絞って整理します。
ここで重要なのは、6番目の「一時的な大きな支出」を、2番目の「運営費」に混ぜて計上しないことです。大規模修繕のような数百万円単位の支出を毎年の運営費に均してしまうと、実際に支出が発生する年の資金繰りの深刻さが表から見えなくなります。DSCRの算出でも、この一時支出は分子(NOI)に含めないのが一般的です。運営費の季節的な変動については、運営費の上昇は家賃で吸収できているのかで確認できる長期データも参考になります。
なお、5番目の「税引前キャッシュフロー」は、あくまで所得税・法人税を考慮する前の数字です。実際の手残りは、減価償却費や個人の所得状況によって税引後に変わります。減価償却が終了した年に税引後CFがどこまで減るかを試算した減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減ったも、表をさらに精緻にする際の参考になります。本記事では、まず税引前の表を正しく組み立てる段階に絞って解説します。
多くの人が最初に作るキャッシュフロー表は、現在の家賃・現在の金利・現在の空室率を前提にした1年分の静的な表です。この表でDSCRが1.2〜1.3倍を超えていれば、一見「安全な物件」に見えます(DSCRの目安については不動産投資のDSCRとは?で解説しています)。
しかし収益物件は10年、20年という期間で保有するものです。保有期間中には、金利が上昇する年もあれば、競合物件の増加で空室率が悪化する年もあり、建物が古くなれば大規模修繕や設備更新がまとまって発生する年もあります。問題は、これらの変化が同時期に重なりやすいことです。金利が上昇する局面は不動産市況全体が変化する局面でもあり、建物の築年数が進むほど修繕のタイミングと空室の悪化が重なりやすくなります。金利と空室が同時に悪化した場合のキャッシュフローへの影響は、金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減る?で20パターン試算していますので、あわせて確認してください。
以下は仕組みを理解するために単純化した架空例です。実在する物件や取引を示すものではありません。
年 | 家賃収入 | 運営費 | NOI | 元利返済 | 一時支出 | 最終CF | DSCR |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
1〜3年目 | 392.2万円 | 90.8万円 | 301.3万円 | 168.3万円 | - | 133.1万円 | 1.79倍 |
4年目 | 392.2万円 | 90.8万円 | 301.3万円 | 184.0万円 | - | 117.4万円 | 1.64倍 |
5年目 | 350.9万円 | 90.8万円 | 260.1万円 | 184.0万円 | 300万円 | ▲223.9万円 | 1.41倍 |
5年目のDSCRは1.41倍で、金融機関が審査で重視する1.2〜1.3倍の目安を単体では上回っています。ところがこの年の最終的なキャッシュフローは223.9万円のマイナスです。理由は単純で、DSCRの分子であるNOIには大規模修繕のような一時支出が含まれないためです。DSCRだけを確認して「この物件は大丈夫」と判断すると、修繕費がまとまって発生する年の資金ショートを見落とすことになります。
このマイナスを埋められるかどうかは、取得時にどれだけの手元資金を残しておけるかで決まります。戸数・LTV・大規模修繕の有無から必要な手元資金を試算した購入後の手元資金は家賃の何ヶ月分必要かや、修繕費が重なる年の資金ショート額を築年別に逆算した大規模修繕の年、手元資金はいくら必要かも、表を作る際の参考になります。なお、大規模修繕のタイミング自体は建物の構造・仕様によって異なり、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでも、新築からおおむね12〜15年目以降に最初の大きな修繕を迎える想定が一般的に示されています。今回の例のように2回目の大きな支出が築20年前後で発生するケースも珍しくありません。
自分でエクセルに表を作る場合は、次の2点を特に意識してください。
1つ目は、金利・空室率・大規模修繕の発生年を、数式の中に直接書き込まず、別のセルに「前提条件」として置くことです。数式の中に数値を埋め込んでしまうと、金利を2.3%から3.3%に変えて試したいだけなのに、5年分すべての数式を書き直す必要が出てきます。前提条件を別セルにまとめておけば、1か所を変えるだけで表全体が再計算されます。
2つ目は、運営費と一時支出の行を分けたまま、両方を合計した「最終CF」の行と、一時支出を含めない「DSCR計算用のCF」の行を別に用意することです。この2つを1つの行にまとめてしまうと、どちらの数字を見ているのか分からなくなり、上の例のような「DSCRは健全だが資金は尽きる年」を見逃しやすくなります。
前提条件を変えるたびにエクセルを修正する方法でも、表の作り方自体は上記の通りで対応できます。ただし、金利・空室率・修繕の発生年という3つの条件を、それぞれ数パターンずつ組み合わせて確認しようとすると、手作業では組み合わせの数が増えるほど確認が大変になります。
自分の物件の条件で、保有期間全体の年次キャッシュフローをまとめて試算したい場合は、RE-AIのキャッシュフローシミュレーターで前提条件を入れ替えながら確認できます。また、金利や自己資金の条件を変えたときのDSCRだけを単独で確認したい場合は、DSCRを無料で計算するツールも利用できます。表の作り方を理解したうえで、実際の数値は物件ごとの条件に当てはめて確認することが重要です。
キャッシュフロー表は、家賃収入・運営費・NOI・元利返済・税引前CF・一時的な大きな支出・DSCRの7項目を、一時支出を他の項目と混ぜずに並べることが基本です。1年分の静的な表だけで判断すると、DSCRが基準を超えていても、金利上昇・空室悪化・大規模修繕が重なる年に資金が尽きるリスクを見落とします。保有期間全体を通じて、複数の条件が同時に悪化した場合の年次キャッシュフローまで確認してから購入を判断することをお勧めします。
物件全体の収益性・価格・融資・リスク・出口戦略まで含めて総合的に判断したい場合は、RE-AIの無料診断も利用できます。
本記事の数値は仕組みを理解しやすくするための架空例であり、実際の金利・空室率・修繕費は物件・地域・金融機関によって異なります。融資条件や税務上の取り扱いについては、金融機関や税理士など専門家にご確認ください。
#不動産投資 #キャッシュフロー #キャッシュフロー表 #DSCR #大規模修繕 #エクセル #収益物件
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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