
「金利が上がったらキャッシュフローが減る」「空室が増えたら苦しくなる」——このふたつは、不動産投資をしている人なら誰でも知っている一般論です。ただし実際の投資判断で怖いのは、金利と空室率が同時に悪化するケースです。今回は8,000万円の一棟アパートを例に、金利5パターン×空室率4パターン、合計20通りの組み合わせでキャッシュフロー(CF)とDSCR(返済余裕率)を実際に計算し、どこまでなら耐えられるのか、どこから危険域に入るのかを検証しました。
日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で、政策金利の誘導目標を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げました。これは1995年以来およそ31年ぶりの水準で、アパートローン・不動産投資ローンの金利にも上昇圧力がかかっています(変動金利のボリュームゾーンはおおむね1.5〜3%台、金融機関によっては3%台後半も見られます)。金利が上がると返済額が増える一方、空室率が悪化すれば収入も減ります。このふたつが同時に進んだとき、CFとDSCRはどこまで悪化するのか。そして「この物件はどこまでなら耐えられるのか」を、感覚ではなく数字で確認することがこの記事のテーマです。
本シミュレーションは実在の物件データではなく、条件を固定した仮想ケース(シミュレーション)です。以下の条件を固定しています。
この条件は、本サイトの別記事「自己資金1,000万円、価格8,000万円の一棟アパート。金融機関3タイプで審査の見られ方はここまで違いました」と同一のケースを使用しています。融資審査の違いを扱った前回の記事と、返済後の収支を扱う今回の記事をあわせて読むことで、購入判断の全体像が見えるように設計しています。不動産投資ローンの審査基準や種類そのものから確認したい方は「不動産投資ローンとは?審査基準・種類・金利をまとめて理解する基礎ガイド」もあわせてご覧ください。
以下の2つの変数を同時に動かし、20通りの組み合わせを計算しました。
NOI(営業純収益)=満室想定家賃×(1−空室率)×(1−運営費率20%)
年間返済額=元利均等返済の計算式(借入額7,000万円、融資期間30年、月利換算)で算出
年間CF=NOI−年間返済額 / DSCR=NOI÷年間返済額(DSCRの意味や1.2を下回った場合に起きやすいことは「不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例」で解説しています)
減価償却・税金・大規模修繕の積立は今回のモデルには含めていません(理由は「分析の限界」を参照)。
空室率\金利 | 1.5% | 2.0% | 2.5% | 3.0% | 3.5% |
|---|---|---|---|---|---|
0% | 222.1 | 201.5 | 180.1 | 157.9 | 134.8 |
5% | 196.5 | 175.9 | 154.5 | 132.3 | 109.2 |
10% | 170.9 | 150.3 | 128.9 | 106.7 | 83.6 |
15% | 145.3 | 124.7 | 103.3 | 81.1 | 58.0 |
空室率\金利 | 1.5% | 2.0% | 2.5% | 3.0% | 3.5% |
|---|---|---|---|---|---|
0% | 1.77 | 1.65 | 1.54 | 1.45 | 1.36 |
5% | 1.68 | 1.57 | 1.47 | 1.37 | 1.29 |
10% | 1.59 | 1.48 | 1.39 | 1.30 | 1.22 |
15% | 1.50 | 1.40 | 1.31 | 1.23 | 1.15 |
今回設定した条件の範囲では、最も厳しい組み合わせ(空室率15%×金利3.5%)でもCFは年間58.0万円のプラス、DSCRは1.15を確保しており、CFがマイナスになる組み合わせは20パターン中ひとつもありませんでした。これは「この条件のシミュレーションでは崩れない」という結果であり、「どんな物件でも安全」という意味ではない点に注意してください。
ここでは価格8,000万円・自己資金1,000万円という1つのケースを前提にしています。ご自身の物件条件では → 自分の条件で金利×空室のマトリクスを試算する(無料ツール)
DSCR1.3・1.2は、金融機関や投資家がよく目安にする水準です。今回のケースで、各金利における「DSCRが基準を下回り始める空室率」を逆算すると次のようになります。
金利 | 年間返済額 | DSCR1.3を下回る空室率 | DSCR1.2を下回る空室率 | CFがゼロになる空室率 |
|---|---|---|---|---|
1.5% | 289.9万円 | 26.4%超 | 32.1%超 | 43.4%超 |
2.0% | 310.5万円 | 21.2%超 | 27.2%超 | 39.4%超 |
2.5% | 331.9万円 | 15.7%超 | 22.2%超 | 35.2%超 |
3.0% | 354.1万円 | 10.1%超 | 17.0%超 | 30.8%超 |
3.5% | 377.2万円 | 4.2%超 | 11.6%超 | 26.3%超 |
金利が2.5%から3.5%に上がると、「DSCR1.3を維持できる空室率の上限」は15.7%から4.2%まで縮みます。金利上昇そのものよりも、金利が上がった後に許容できる空室悪化の余地が急速に狭くなる点が、この物件の弱点だと分かります。
結果から逆算すると、次のようなことが言えます(いずれも今回の前提条件でのシミュレーション値です)。
今回のシミュレーションからは、次の2つの判断軸が見えてきます。
ひとつは、このケース(表面利回り8%、自己資金比率12.5%)は、単独の悪化要因に対しては比較的強いということです。金利だけが3.5%まで上がっても、空室率だけが15%まで悪化しても、CFはプラスを維持します。
もうひとつは、金利と空室率が同時に悪化する局面では、DSCRの余裕が想定より早く失われるということです。特に金利3%を超える水準では、空室率10%前後でDSCR1.3の目安を割り込みます。「単一の指標が基準を満たしているから安心」ではなく、「複数の指標が同時に動いたときにどこまで耐えられるか」を確認しておく価値があることが、今回の検証で数字として裏付けられました。
この記事の数値は、あくまで今回設定した条件(価格・家賃・自己資金比率・運営費率)のもとでの結果です。同じ考え方を自分の物件に当てはめる場合は、次の手順が参考になります。
今回のように金利・空室率という2条件だけでも組み合わせは20通りになります。修繕費や家賃下落まで加えると条件はさらに増え、表計算での管理が煩雑になりやすいところです。借入額や融資期間を変えた場合にDSCRと出口の手残りがどう動くかは「融資期間25年・30年・35年で何が変わるか|自己資金4パターン×12通りでDSCR・CF・出口の手残りを検証」で、収支計算の基本用語や考え方は「収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方」で整理しています。RE-AIでは、こうした複数条件を組み合わせた収支確認をまとめて行えるよう設計しており、無料診断で自分の物件条件を試算することもできます。
この分析には、以下の限界があります。
本シミュレーションは特定物件の購入・保有・売却を推奨するものではありません。実際の投資判断には、個別物件の詳細な条件確認が必要です。
8,000万円・自己資金1,000万円というケースでは、金利と空室率が単独で悪化する分には一定の耐性がありますが、両方が同時に悪化すると、DSCRの余裕は金利3%を境に急速に縮小します。「金利が上がっても大丈夫」「空室が増えても大丈夫」を別々に確認するだけでなく、両方が同時に動いた場合の数字も確認しておくことが、購入判断や借入額の決定において重要だと言えます。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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