RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

収益性・収支

自己資金は何年で戻るのか|回収年数は物件価格では決まらず、LTVの効き方が反転する金利は3.26%だった

自己資金は何年で戻るのか|回収年数は物件価格では決まらず、LTVの効き方が反転する金利は3.26%だった

収益物件を買うとき、多くの投資家が最初に用意するのは「自己資金」です。頭金と諸費用を合わせた数百万円から数千万円。この資金が家賃収入で何年かけて戻ってくるのかは、利回りやDSCRと並んで重要な判断材料のはずですが、実際には「利回り8%だから12年くらい」といった感覚で語られがちです。

そこで今回は、投下自己資金の回収年数(エクイティ・ペイバック)を正面から計算しました。結果として、3つの発見がありました。

  • 回収年数は物件価格には一切依存しない。3,000万円でも1.2億円でも、同じ条件なら回収年数は同一になる。
  • LTV(借入比率)を上げると回収が早まるか遅くなるかは条件によって反転する。今回の前提では分岐点は金利3.26%だった。
  • 税引後で見ると、回収年数は連続的に悪化しない。減価償却が切れる年を境に「10年」か「25年超」のほぼ二択になる。中間がほとんど存在しない。

いずれも、条件を固定して実際に計算しないと見えてこない性質です。順に確認していきます。

今回検証する疑問

整理すると、検証したいのは次の4つです。

  1. 自己資金の回収年数は、何によって決まるのか
  2. 頭金を薄くすると(LTVを上げると)、回収は早まるのか遅くなるのか
  3. 減価償却と税金を織り込むと、回収の姿はどう変わるのか
  4. 「減価償却期間内に自己資金を回収し、かつDSCR1.3を守る」ことは可能なのか

なお本記事の数値は、すべて条件を固定したシミュレーションです。RE-AIの診断実データや市場統計の実測値ではありません。金利水準や建築費などの前提置きにあたっては公開データを参照しており、出典は記事末尾に記載しています。

前提条件(架空ケース)

想定するのは、地方都市の中古木造一棟アパートです。個人が自己資金を入れて1棟目または2棟目として取得するケースを念頭に置いています。この物件種別を選んだのは、①減価償却期間が短く税引後の姿が大きく動く、②融資期間が構造で制約されやすい、という2点が回収年数の分析に最も影響するためです。

項目

設定

設定理由

物件種別

中古木造一棟アパート(築15年)

法定耐用年数22年、簡便法で償却10年になる帯

表面利回り

8.5%(7.0〜10.0%で変動)

地方の中古木造で現実的に出会う水準

空室損

7%

複数戸のアパートで平均的な稼働想定

運営費率

満室家賃の20%

管理料・固定資産税・保険・共用光熱・小修繕の合計

NOI利回り(対物件価格)

6.324%

8.5%×(1−0.07)×(1−0.20)

購入諸費用

物件価格の8.0%

税率から積み上げた下限値を採用

金利

2.5%(2.0〜4.0%で変動)

地方銀行のアパートローン相場帯の中位

融資期間

25年(20〜35年で変動)

築15年木造で現実的に出る期間

LTV

80%(60〜95%で変動)

頭金20%を基準に前後を検証

返済方式

元利均等

アパートローンの標準

建物比率

55%

減価償却の計算基礎

限界税率

30%(所得税20%+住民税10%)

課税所得330万〜695万円の個人を想定。損益通算可とする

投下自己資金 = 物件価格×(1−LTV) + 物件価格×8.0% と定義します。LTV80%なら物件価格の28.0%です。購入諸費用を自己資金に含めるのがポイントで、これを無視すると後述の分岐点が0.7pt前後ずれます。諸費用の積み上げ内訳は不動産投資の諸費用は本当に7%なのかで検証しており、8.0〜9.2%という結果でした。今回は保守的に下限の8.0%を使います。

発見1:回収年数は物件価格では決まらない

まず、回収年数を数式で書いてみます。物件価格をP、NOI利回り(対価格)をn、LTVをL、諸費用率をc、ローン定数をK(年間返済額÷借入額)とすると、

  • 投下自己資金 = P×(1−L+c)
  • 年間税引前CF = P×n − P×L×K = P×(n−L×K)
  • 回収年数 = P×(1−L+c) ÷ P×(n−L×K) = (1−L+c) ÷ (n−L×K)

分子と分母の両方にPがあるため、物件価格が約分で消えます。実際に3つの価格帯で計算して確認しました。

物件価格

投下自己資金

年間税引前CF

CCR

回収年数

3,000万円

840万円

60.5万円

7.20%

13.88年

6,000万円

1,680万円

121.0万円

7.20%

13.88年

1億2,000万円

3,360万円

242.1万円

7.20%

13.88年

金額は4倍に開いているのに、回収年数は0.01年も変わりません。回収年数はCCR(自己資金利回り)の逆数そのものであり、CCRが比率である以上、規模には中立だからです。

これは実務的に重要な意味を持ちます。「予算が小さいから回収が遅い」「大きく買えば早く戻る」というのは、少なくとも税引前CFの世界では成り立ちません。回収年数を決めるのは、LTV・諸費用率・NOI利回り・ローン定数K(=金利と融資期間の組み合わせ)の4つだけです。裏を返せば、回収年数を改善したいなら価格帯を変えるのではなく、この4つのどれかを動かすしかない、ということになります。

発見2:LTVを上げると回収が早まる条件、遅くなる条件

「頭金を薄くすれば自己資金が小さくなるから、早く戻るはず」という直感は正しいでしょうか。LTVを動かして計算します。

固定した条件と変更した条件

固定:表面利回り8.5%、空室損7%、運営費率20%、諸費用8.0%、融資期間25年、金利2.5%
変更:LTV(60/70/80/90/100%)

LTV

投下自己資金
(対価格)

年間税引前CF
(対価格)

CCR

DSCR

回収年数

60%

48.0%

3.094%

6.45%

1.958

15.51年

70%

38.0%

2.556%

6.73%

1.678

14.87年

80%

28.0%

2.017%

7.20%

1.468

13.88年

90%

18.0%

1.479%

8.22%

1.305

12.17年

100%(諸費用のみ自己資金)

8.0%

0.941%

11.76%

1.175

8.51年

金利2.5%では、たしかにLTVを上げるほど回収は早まります。60%の15.51年に対し90%では12.17年で、3.34年短縮されます。ただしDSCRは1.958から1.305へ落ちています。

では金利が違う場合はどうなるか。ここで結果が反転します。

金利

LTV60%

LTV70%

LTV80%

LTV90%

2.0%

14.67年
(DSCR2.072)

13.75年
(1.776)

12.42年
(1.554)

10.31年
(1.382)

2.5%

15.51年
(1.958)

14.87年
(1.678)

13.88年
(1.468)

12.17年
(1.305)

3.0%

16.50年
(1.852)

16.23年
(1.588)

15.81年
(1.389)

14.97年
(1.235)

3.5%

17.65年
(1.754)

17.94年
(1.504)

18.45年
(1.316)

19.62年
(1.170)

4.0%

19.02年
(1.664)

20.10年
(1.426)

22.28年
(1.248)

28.88年
(1.109)

金利2.0〜3.0%では、右に行くほど(LTVが高いほど)回収が早い。ところが金利3.5%と4.0%では逆で、LTVを上げるほど回収が遅くなります。金利4.0%のLTV90%は28.88年で、LTV60%の19.02年より約10年も遅い。「頭金を薄くすれば早く戻る」は無条件には成立しません。

反転はどこで起きるのか:K = NOI利回り ÷ (1+諸費用率)

回収年数 = (1−L+c)÷(n−L×K) をLで微分してゼロになる条件を解くと、Lが消えて次の1本の式になります。

K = n ÷ (1+c)

つまり、ローン定数Kがこの値と一致するとき、LTVをどう動かしても回収年数は変わりません。Kがこれより小さければLTVを上げるほど早まり、大きければLTVを上げるほど遅くなる。LTVの水準に関係なく成り立つ、きれいな閾値です。

今回の前提ではn=6.324%、c=8.0%なので、閾値はK=5.856%。これを金利に換算します。

融資期間

閾値金利
(諸費用8%を算入)

閾値金利
(諸費用を無視した場合)

差

20年

1.62%

2.44%

0.82pt

25年

3.26%

3.98%

0.72pt

30年

4.18%

4.84%

0.66pt

35年

4.74%

5.35%

0.61pt

2つのことが読み取れます。

ひとつは、諸費用を自己資金に数えるかどうかで閾値が0.6〜0.8pt動くこと。諸費用はLTVを上げても減らない固定的な自己資金なので、その分だけレバレッジの効きが鈍ります。ローン定数Kと利回りを比べる考え方自体はイールドギャップは「利回り−金利」では測れないで扱っていますが、諸費用を含めると閾値がさらに下がる点は今回初めて計算しました。

もうひとつは、融資期間20年しか出ない物件では閾値が1.62%しかないこと。2026年9月時点の金利環境では、20年融資の物件はすでに反転側にいる可能性が高い。つまり融資期間が短い物件で頭金を薄くすると、自己資金の回収はかえって遅くなります。

表面利回り別に見ると閾値金利は次のように動きます(融資期間25年)。

表面利回り

NOI利回り

閾値金利

7.0%

5.208%

1.54%

8.0%

5.952%

2.71%

8.5%

6.324%

3.26%

9.0%

6.696%

3.80%

10.0%

7.440%

4.82%

表面7.0%の物件は、閾値がすでに1.54%。現在の調達金利を下回っているため、この物件で頭金を薄くする行為は、DSCRを削りながら回収も遅くするという二重の悪手になります。

発見3:税引後で見ると、回収年数は「10年」か「25年超」の二択になる

ここまでは税引前CFでした。実際に手元に残るのは税引後です。築15年の木造なので、簡便法で耐用年数は(22−15)+15×0.2=10年。建物比率55%なら年間の減価償却費は物件価格の5.5%にあたります。

NOI利回りが6.324%なのに償却費が5.5%あるため、支払利息を引くと課税所得はマイナスになります。給与所得と損益通算できる個人を想定すると、最初の10年は税金がマイナス(還付)になり、税引後CFが税引前CFを上回ります。

LTV

支払利息
(1年目・対価格)

課税所得
(対価格)

税額
(対価格)

税引前CF

税引後CF

60%

1.480%

−0.656%

−0.197%

3.094%

3.291%

70%

1.727%

−0.903%

−0.271%

2.556%

2.826%

80%

1.973%

−1.149%

−0.345%

2.017%

2.362%

90%

2.220%

−1.396%

−0.419%

1.479%

1.898%

支払利息が損金になるため、税引後で見るとレバレッジはより有利に働きます。反転閾値を税引後で計算し直すと、金利3.26%から5.24%まで上がります。税引前では「金利3.3%を超えたらLTVを上げると損」だったものが、税引後(限界税率30%・償却期間中)では金利5.2%まで「LTVを上げた方が早い」に変わる。結論が逆転します。

ただし11年目に崖がある

問題は、この有利さが10年で終わることです。LTV80%・金利2.5%・25年のケースで、累積の税引後CFを年次で追います(すべて物件価格に対する%)。

年

支払利息

減価償却

税額

税引後CF

累積回収額
(自己資金28.0%に対して)

1年

1.973%

5.500%

−0.345%

2.362%

2.36%

5年

1.728%

5.500%

−0.271%

2.289%

11.63%

10年

1.385%

5.500%

−0.168%

2.186%

22.77%

11年

1.311%

0%

+1.504%

0.514%

23.28%

15年

0.997%

0%

+1.598%

0.419%

25.10%

20年

0.557%

0%

+1.730%

0.287%

26.81%

25年

0.058%

0%

+1.880%

0.137%

27.80%

26年(返済終了)

0%

0%

+1.897%

4.427%

32.23%

10年目までに自己資金28.0%のうち22.77%を回収し、あと5.23%というところで償却が切れます。11年目の税引後CFは2.186%から0.514%へ、76.5%減少します。しかも支払利息が減っていくほど課税所得が増えるため、税引後CFは年々さらに細っていきます。結果として、残り5.23%を回収するのに15年かかり、完了は25年目。返済が終わる26年目に一気に跳ねるまで、ほとんど前に進みません。

減価償却が切れた年のCF減少そのものは減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減ったで検証しています。今回新しいのは、その崖が回収年数を連続量ではなく二択に変えてしまうという点です。

LTV

金利2.0%

金利2.5%

金利3.0%

金利3.5%

60%

19.5年

21.3年

23.6年

25.4年

70%

18.7年

21.8年

25.3年

26.2年

80%

16.4年

25.0年

26.0年

27.0年

90%

9.2年

10.0年

26.7年

27.8年

95%

7.4年

8.2年

9.2年

28.2年

※累積税引後CFベース。太字は償却期間10年以内に回収できるケース。

数字が「9年台」と「25年台」に二極化しているのが見て取れます。11〜24年という答えはほぼ出てきません。金利2.5%ではLTV80%で25.0年、LTV90%で10.0年。LTVが10pt違うだけで回収年数が15年変わるのは、連続的な感応度ではなく、償却期間内に間に合ったかどうかという離散的な判定の結果です。

発見4:「償却期間内に回収」と「DSCR1.3」は同時に満たせるのか

ここまでで、償却期間10年以内に自己資金を回収するには高いLTVが必要だと分かりました。一方でLTVを上げればDSCRは落ちます。この2つを同時に満たせるのかを逆算します。

条件A:累積税引後CFで10年以内に自己資金を回収する → 必要な最低LTV
条件B:DSCR1.3以上 → 許容される最大LTV

金利

10年回収に必要な最低LTV

DSCR1.3が許容する最大LTV

成立する窓

2.0%

87.2%

95.6%

8.4pt

2.2%

88.5%

93.5%

5.0pt

2.4%

89.5%

91.4%

1.9pt

2.5%

90.0%

90.4%

0.4pt

2.6%

90.7%

89.4%

窓なし

3.0%

93.2%

85.5%

窓なし

境界は金利2.51%でした。これを超えると、「償却期間内に自己資金を回収し、かつDSCR1.3を維持する」という組み合わせは、表面利回り8.5%の物件では成立しません。しかも金利2.5%での窓はLTV90.0〜90.4%というわずか0.4pt。現実には融資条件をpt単位で調整できるわけではないので、事実上ぎりぎりです。

では表面利回りを上げれば窓は戻るのか。金利3.0%で計算しました。

表面利回り

10年回収に必要なLTV

DSCR1.3が許容するLTV

判定

8.5%

93.2%

85.5%

窓なし

9.0%

88.0%

90.5%

成立(2.5pt)

9.5%

83.0%

95.5%

成立(12.5pt)

10.0%

77.7%

100%

成立(22.3pt)

金利3.0%の環境で「償却期間内回収」を目標にするなら、表面利回り9.0%以上が必要という逆算になります。8.5%では届きません。

結果から分かること

4つの分析を並べると、ひとつの構図が見えてきます。

第一に、回収年数の改善手段は限られている。物件価格は無関係で、動かせるのはLTV・諸費用率・NOI利回り・ローン定数K(金利×期間)の4つだけです。このうち諸費用率はほぼ圧縮できず、金利は交渉余地が限られる。実質的にはNOI利回りと融資期間が主戦場になります。

第二に、LTVは万能のアクセルではない。K=NOI利回り÷(1+諸費用率)という閾値を超えた領域では、LTVを上げることはDSCRを削りながら回収も遅らせる純粋な損になります。融資期間が短い物件、利回りが低い物件ほど、この領域に入りやすい。

第三に、「償却期間内に自己資金を回収する」という目標設定そのものが、現在の金利環境では無理筋に近い。表面8.5%・金利2.5%超では窓がほぼ消えます。これは投資が成立しないという意味ではなく、回収の設計を保有中のCFだけに求めるべきではないという意味です。

実際、売却を含めて10年で見るとまったく違う絵になります。LTV80%・金利2.5%・25年・表面8.5%で10年保有した場合(家賃下落年0.5%、譲渡費用4%、長期譲渡税20.315%を織り込み)、

出口NOI利回り

売却価格
(取得価格比)

売却後手残り

10年累積CF+売却手残り

投下自己資金の何倍か

6.32%(購入時と同水準)

95.2%

28.1%

50.9%

1.82倍

6.80%

88.5%

23.0%

45.8%

1.63倍

7.30%

82.4%

18.3%

41.1%

1.47倍

7.80%

77.1%

14.3%

37.1%

1.32倍

8.30%

72.5%

10.8%

33.5%

1.20倍

保有CFだけでは10年で22.77%(自己資金の81%)しか戻らないのに、売却を含めれば出口利回りが2pt悪化しても1.20倍になります。回収は保有中ではなく出口で完結する構造です。出口利回りの感応度は出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるかで保有期間別に検証しています。

投資判断への使い方

この分析は、次のような場面で使えます。

1. 頭金をいくら入れるかを決めるとき。まずローン定数K(年間返済額÷借入額)を計算し、NOI利回り÷(1+諸費用率)と比べてください。Kが上回っているなら、頭金を削って大きく買う戦略は回収面でも逆効果です。この判断は物件価格に依存しないので、検討中の物件すべてに同じ基準で当てられます。

2. 融資期間が短い物件を検討するとき。20年融資の閾値金利は1.62%です。ここが今回もっとも実務的な示唆でした。期間が出ない物件は、DSCRだけでなく自己資金回収の観点からも高LTVと相性が悪い。

3. 回収目標を立てるとき。「自己資金を◯年で回収する」という目標を保有CFだけで置くなら、償却期間が実質的な期限になります。それが難しいと分かった時点で、目標を「出口を含めた◯年で◯倍」に組み替えた方が現実的です。

今回の試算では表面8.5%・金利2.5%・25年を基準にしていますが、ローン定数Kと閾値の位置関係は物件ごとに変わります。自分の物件価格・家賃・融資条件でCCRとDSCRを確認したい場合は、RE-AIのキャッシュフローシミュレーターでCCR・DSCR・35年収支を試算することができます。CCRの逆数がそのまま税引前の回収年数になるので、この記事の閾値判定はその場で再現できます。

この分析で分からないこと

今回の結果は、設定した条件の内側でのみ成立します。特に次の点は織り込めていません。

  1. 実際の融資条件。LTV90%以上が現実に出るかは金融機関・属性次第です。今回はLTVを連続変数として扱いましたが、実務では離散的にしか選べません。
  2. 限界税率の変動。30%固定で計算しています。所得が累進区分をまたぐ場合、税引後の回収年数は物件価格に依存するようになり、価格非依存という発見1の性質は崩れます。法人の場合も結論は変わります。
  3. 建物比率と償却年数。建物比率55%・償却10年は仮定です。売買契約書の按分や築年数が変わると、11年目の崖の位置と深さが動きます。
  4. 運営費の実額と上昇。満室家賃の20%固定で、インフレによる運営費上昇を織り込んでいません。
  5. 空室損の分布。7%を毎年一定としていますが、実際は退去の発生タイミングで年ごとにばらつきます。戸数が少ないほど振れ幅は大きくなります。
  6. 大規模修繕。小修繕は運営費に含めていますが、外壁・屋根などの一時的な支出は入っていません。これが入ると回収年数は確実に伸びます。
  7. 売却時の市場環境。出口の試算は出口利回りを外生的に与えたものです。実際の売却価格は買い手の融資環境に強く左右されます。
  8. 因果の方向。「金利が高いとLTVを上げると損」という関係は、今回の計算式の中での構造的な帰結です。現実には金利が高い物件ほど利回りも高い傾向があるなど、条件間に相関があるため、単独で動かした結果がそのまま現実に対応するとは限りません。

まとめ

  • 自己資金の回収年数は物件価格に依存しない。3,000万円でも1.2億円でも、同条件なら13.88年だった。決めるのはLTV・諸費用率・NOI利回り・ローン定数Kの4つ。
  • LTVを上げて回収が早まるのはK<NOI利回り÷(1+諸費用率)のときだけ。今回の前提では融資期間25年で金利3.26%、20年では1.62%が分岐点だった。
  • 諸費用8%を自己資金に算入すると、この分岐金利は0.6〜0.8pt下がる。諸費用を無視した試算は、レバレッジの効きを過大に見せる。
  • 税引後では支払利息が損金になるため分岐金利は5.24%まで上がるが、減価償却が切れる11年目に税引後CFが76.5%減少し、回収年数は「10年前後」か「25年超」の二択に分かれた。
  • 「償却期間内に回収」と「DSCR1.3維持」を同時に満たせる金利の上限は2.51%。金利3.0%で成立させるには表面利回り9.0%以上が必要だった。
  • 一方、売却を含めれば10年で自己資金の1.20〜1.82倍が戻る。回収は保有中のCFではなく出口で完結する構造として設計する方が現実的。

収益性は維持できても回収の速度は融資条件に強く縛られ、その速度は税制の切れ目で不連続に変わります。単一の指標で「買い」「見送り」を決められるテーマではなく、回収速度(CCR)・返済余力(DSCR)・出口の感応度を並べて見る必要があります。指標の全体像は収益物件の収支計算完全ガイド、DSCRの水準感は不動産投資のDSCRとは、頭金と手残りの関係は「頭金を薄くして大きく買う」と手残りは増えるのかで整理しています。

分析条件の一覧(再掲)

固定した条件:空室損7%、運営費率(満室家賃比)20%、購入諸費用8.0%、返済方式は元利均等、建物比率55%、減価償却10年(中古木造築15年・簡便法)、限界税率30%(損益通算可)、家賃下落年0.5%(出口試算のみ)、譲渡費用4%、長期譲渡税20.315%

変更した条件:LTV(60〜95%)、金利(2.0〜4.0%)、融資期間(20〜35年)、表面利回り(7.0〜11.0%)、出口NOI利回り(6.32〜8.30%)

データの区分:本記事の数値はすべて上記条件によるシミュレーションおよび架空ケースです。RE-AIの診断実データ、および市場の実測統計ではありません。前提値の置き方(金利水準、耐用年数、譲渡税率など)に公開情報を参照しています。

情報確認日:2026年9月30日

参考資料・出典

  • 日本銀行「金融市場調節方針に関する公表文(2026年)」:2026年9月の金融政策決定会合で無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標が1.25%程度へ引き上げ。金利前提の置き方の参照。
  • 日本銀行「コール市場関連統計」
  • 国税庁「中古資産の耐用年数」(簡便法:法定耐用年数−経過年数+経過年数×0.2):減価償却10年の算定根拠
  • 国税庁「土地や建物を売ったとき(譲渡所得)」:長期譲渡所得の税率20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)
  • 金利水準の相場帯(都市銀行1.0〜2.0%、地方銀行・信用金庫2.0〜4.0%程度)については複数の民間調査を参照し、本記事では基準2.5%・検証レンジ2.0〜4.0%を設定
  • 購入諸費用率の積み上げは自社記事「不動産投資の諸費用は本当に7%なのか」(8.0〜9.2%)の算定を使用

本記事の計算はすべて上記の前提に基づく試算であり、特定の物件の投資成果を保証するものではありません。実際の判断にあたっては、個別の融資条件・建物状態・税務条件をご確認ください。

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鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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