RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

出口戦略

収益物件を3棟持っていて1棟売るなら、どれから売るべきか|手残り現金はほぼ同額でも、外せる借入は5.7倍、査定1%のズレは手残りを6.4%動かした

収益物件を3棟持っていて1棟売るなら、どれから売るべきか|手残り現金はほぼ同額でも、外せる借入は5.7倍、査定1%のズレは手残りを6.4%動かした

収益物件を複数棟持っていて、借入を圧縮したい、現金を作りたい、次の融資枠を空けたい。そういう局面で出てくるのが「どれを売るか」という問いです。

このとき多くの人が最初に見るのは表面利回りです。一番利回りが低い棟から外す。直感的には筋が通っています。

ただ、売却で手元に残る現金は「売却価格 − 譲渡費用 − 残債 − 譲渡所得税」で決まります。この4つはどれも物件ごとに違い、表面利回りとは連動しません。とくに譲渡所得税は減価償却の進み方と所有期間で決まるため、同じ価格で売っても棟によって税額が数百万円変わります。

そこでこの記事では、構造・築年・取得時期・融資条件の違う一棟物件3棟を個人で保有している条件を設定し、1棟だけ売る場合の手残り現金、外せる借入、税引後キャッシュフローの変化、残る2棟の合算DSCRと債務償還年数を、棟ごとに計算して並べました。さらに、売却を1年待つ価値と、同じ年に2棟売った場合の譲渡税を逆算しています。

結論を先に書くと、この条件では手残り現金は3棟とも1,950万〜2,425万円でほぼ同額でした。それでも外せる借入は5.7倍違い、査定が1%ズレたときに手残りが動く幅は最大6.4%(棟間で3.7倍の差)でした。そして表面利回りが最も低い棟は、6つの判断指標のうち4つで最下位、つまり売ってはいけない棟でした。

この記事で検証した疑問

  • 同じ「1棟売る」でも、手元に残る現金は棟によってどれだけ違うのか
  • 外せる借入、税引後キャッシュフロー、合算DSCR、債務償還年数は、どの棟を売ると最も改善するのか
  • 表面利回りの低い棟から売る、という判断は正しいのか
  • 査定(出口利回り)が1%ズレると、手残りはどれだけ動くのか。棟によって差があるのか
  • 売却を1年待つことに、いくらの価値があるのか
  • 2棟を同じ年に売ると、譲渡所得税はどう変わるのか

使用データの区分

本記事の数値は、RE-AIの診断実績データではありません。区分は次のとおりです。

区分

内容

公開データ

譲渡所得の長期・短期の判定と税率、中古資産の耐用年数の簡便法、譲渡損失の取扱い(国税庁)、一棟アパートの平均表面利回りと築年別の利回り差(健美家)、賃貸住宅一棟の期待利回り(日本不動産研究所)、平均入替率(IREM JAPAN/日本賃貸住宅管理協会)

シミュレーション

手残り現金、税引後CF、DSCR、債務償還年数、価格弾性、待機価値など本記事の全計算結果

架空ケース

3棟の物件条件・融資条件・運営費率・空室損率

実データ

本記事では使用していません

情報確認日:2026年11月2日。税制は確認日時点の内容に基づきます。

前提条件|3棟をどう設定し、なぜその条件にしたか

物件価格を先に決めていない

この分析では、総額をいくらにするかを先に決めていません。決めたのは「売却順序の判断を分ける要因」です。具体的には次の4つです。

  • 構造と築年:減価償却の耐用年数(簡便法)が決まり、建物の簿価と譲渡所得が決まる。同時に買い手が組める融資期間を通じて出口利回りが決まる
  • 取得からの経過年数:残債の進み方と、譲渡所得の長期・短期の区分が決まる
  • LTVと融資期間:残債/売却価格の比率が決まり、手残りの価格感応度が決まる
  • 表面利回り:売却で失う将来キャッシュフローが決まる

この4つを意図的にばらした結果として、価格は5,600万円・9,900万円・1億6,500万円になりました。3棟合計で約3億2,000万円、年間満室家賃2,952万円(取得時)という規模です。価格はあくまで条件の結果であり、分析の主役ではありません。

3棟の設定

項目

A棟

B棟

C棟

構造

木造

軽量鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下)

鉄筋コンクリート造

法定耐用年数

22年

27年

47年

取得時の築年

22年

14年

25年

取得からの経過年数

8年

5年

2年

現在の築年

30年

19年

27年

取得価格

5,600万円

9,900万円

1億6,500万円

建物比率/建物価格

55%/3,080万円

60%/5,940万円

50%/8,250万円

簡便法の耐用年数

4年

15年

27年

年間減価償却費

770.0万円

396.0万円

305.6万円

償却累計額(現在)

3,080.0万円

1,980.0万円

611.1万円

当年の減価償却費

0円(償却終了)

396.0万円

305.6万円

戸数

10戸

14戸

20戸

取得時の満室想定家賃

624万円

840万円

1,488万円

取得時の表面利回り

11.14%

8.48%

9.02%

家賃下落率(年)

▲1.0%

▲0.5%

▲0.3%

現在の満室想定家賃

575.8万円

819.2万円

1,479.1万円

空室損率

8%

5%

6%

運営費率(満室家賃比)

24%

21%

25%

NOI

391.5万円

606.2万円

1,020.6万円

借入額(LTV)

4,480万円(80%)

8,415万円(85%)

1億4,025万円(85%)

金利/期間/方式

2.30%/15年/元利均等

1.90%/20年/元利均等

2.60%/20年/元利均等

年間元利返済額

353.4万円

506.1万円

900.0万円

現在の残債

2,283.1万円

6,600.7万円

1億2,927.1万円

DSCR

1.108

1.198

1.134

減価償却の耐用年数は国税庁の簡便法で求めています。法定耐用年数の全部を経過していれば「法定耐用年数×20%」、一部経過なら「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%」で、1年未満は切り捨て、2年未満は2年です。A棟は取得時に築22年で木造の法定22年を全部経過しているため22×0.2=4.4→4年となり、取得から8年が経った現在はすでに償却が終わっています。構造別の償却の差は木造とRCで年間減価償却費が321万円違う理由で別途検証しています。

出口利回りは、健美家「収益物件 市場動向四半期レポート」(2026年7〜9月期)で東京23区の一棟アパートが築10年未満5.07%、築20年以上6.03%と報告されていることから、築年の進行に対して年0.08〜0.10ポイントの上昇として置きました。水準そのものは、同レポートの一棟アパート全国平均7.91%に対し、地方中核市の築古という前提で上乗せしています。買い手の融資年数が出口価格を決める構造は売却価格の天井は「買い手が何年借りられるか」で決まるで検証済みです。家賃下落率の置き方は家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかに従っています。

固定した条件と変更した条件

固定:所有形態(個人)、不動産所得への限界税率43.693%(所得税33%+復興特別所得税0.693%+住民税10%。課税所得900万円超1,800万円以下。給与所得と3棟の不動産所得の合計でこの帯に入る想定)、譲渡費用=仲介手数料(売却価格×3%+6万円)×1.1+30万円(印紙税・抵当権抹消・司法書士報酬等の概算)、取得費=取得価格−償却累計額、売却は現時点で1棟のみ。

変更:売却する棟(A/B/C)、売却時期(即時/1〜4年後)、出口利回り(基準±1.0ポイント)、同一年に売る棟数。

結果1|手残り現金は、3棟ともほぼ同額だった

項目

A棟

B棟

C棟

出口利回り

10.50%

8.80%

9.30%

想定売却価格

5,483.7万円

9,309.2万円

1億5,904.1万円

譲渡費用

217.6万円

343.8万円

561.4万円

取得費(取得価格−償却累計)

2,520.0万円

7,920.0万円

1億5,888.9万円

譲渡所得

2,746.2万円

1,045.4万円

▲546.2万円

所有期間区分(1月1日基準)

長期

短期

短期

適用税率

20.315%

39.63%

39.63%

譲渡所得税

557.9万円

414.3万円

0円

残債

2,283.1万円

6,600.7万円

1億2,927.1万円

手残り現金

2,425.2万円

1,950.4万円

2,415.6万円

残債/売却価格

41.6%

70.9%

81.3%

売却価格は5,484万円から1億5,904万円まで2.9倍の幅がありますが、手元に入る現金は1,950万〜2,425万円に収まりました。差は最大475万円、比率では1.24倍です。

ここで注意が必要です。これは一般法則ではありません。3棟とも「投下した自己資金」と「これまでに返した元金」の累計が結果的に近い水準になったために、手残りが揃っただけです。たとえばC棟は自己資金2,475万円を2年前に入れたばかりで元金返済は1,098万円しか進んでおらず、A棟は自己資金1,120万円に対して8年分の元金2,197万円が積み上がっています。入口と経過年数が違っても手残りが近くなることはありうる、という例として読んでください。

ただし、ここから言えることは一つあります。手残り現金だけを並べても、3棟の優劣はほとんど判定できないということです。

結果2|外せる借入は5.7倍違う

では何が違うのか。売却で消える残債です。

売る棟

売却価格

消える残債

手残り現金

手残り+消える残債(売却で動く総額)

A棟

5,483.7万円

2,283.1万円

2,425.2万円

4,708.3万円

B棟

9,309.2万円

6,600.7万円

1,950.4万円

8,551.1万円

C棟

1億5,904.1万円

1億2,927.1万円

2,415.6万円

1億5,342.7万円

C棟を売れば1億2,927万円の借入が消え、A棟の2,283万円に対して5.66倍です。手元に入る現金はほぼ同じなのに、バランスシートから外せる負債は5.7倍違う。これが表面利回りからは見えない部分です。

残る2棟の状態も大きく変わります。

ケース

残債合計

LTV

合算DSCR

税引後CF合計

債務償還年数(手元現金控除後)

売らない

2億1,810.9万円

71.1%

1.147

▲97.8万円

18.8年

A棟を売る

1億9,527.8万円

77.5%

1.157

+13.6万円

17.7年

B棟を売る

1億5,210.2万円

71.1%

1.127

▲159.4万円

18.5年

C棟を売る

8,883.8万円

60.1%

1.161

▲49.8万円

10.1年

債務償還年数は「残債−手元現金 ÷(税引後CF+元金返済額)」で計算しています。金融機関が次の融資を検討するときに見る指標で、目安は10〜15年とされることが多い水準です。現状18.8年のポートフォリオは、C棟を売ったときだけ10.1年まで改善し、目安の範囲に入ります。A棟・B棟の売却では17.7年・18.5年で、ほぼ動きません。次の融資枠の作り方は返済比率と債務償還年数を分けて、次が買える条件を逆算した記事で詳しく扱っています。

一方でLTVは、A棟を売ると71.1%から77.5%へ悪化します。A棟は残債/売価が41.6%と最も軽く、ポートフォリオ全体のLTVを押し下げていた棟だからです。「古い棟を外して身軽になる」という直感が、指標の上では逆に出ることがあります。

結果3|税引後CFで見ると、売って改善する棟がある

売却で失うのは将来のキャッシュフローです。ただし税引前と税引後で、様子がまったく違いました。

項目

A棟

B棟

C棟

合計

NOI

391.5万円

606.2万円

1,020.6万円

2,018.3万円

年間元利返済額

353.4万円

506.1万円

900.0万円

1,759.5万円

税引前CF

+38.1万円

+100.1万円

+120.5万円

+258.7万円

当年の減価償却費

0円

396.0万円

305.6万円

701.6万円

課税される不動産所得

342.2万円

88.1万円

385.7万円

816.0万円

所得税・住民税(43.693%)

149.6万円

38.5万円

168.5万円

356.5万円

税引後CF

▲111.4万円

+61.6万円

▲48.0万円

▲97.8万円

税引前では3棟すべてプラスで、合計258.7万円です。ところが税引後では合計が年97.8万円のマイナスに反転します。原因は減価償却です。A棟は償却が4年で終わっており、NOI391.5万円から利息49.3万円を引いた342.2万円がそのまま課税所得になります。税金149.6万円は税引前CF38.1万円を大きく超えるため、表面利回り10.50%の棟が、年111.4万円の持ち出しになっています。これはデッドクロスそのもので、発生の仕組みはデッドクロスは何年目に来るのかで検証しています。

この表が示すのは、売却で「失う」ものがある棟と、売却で「身軽になる」棟が混ざっているということです。A棟を売れば税引後CFは年111.4万円改善し、C棟を売れば48.0万円改善します。逆にB棟を売ると61.6万円失います。B棟は3棟で唯一、税引後CFがプラスの棟です。

結果4|目的別に並べ替えると、先に決まるのは「売ってはいけない棟」

ここまでの結果を、判断の目的ごとに順位にしました。

判断の目的

1位

2位

3位

手元現金を最大化したい

A棟 2,425万円

C棟 2,416万円

B棟 1,950万円

借入残高を圧縮したい

C棟 1億2,927万円

B棟 6,601万円

A棟 2,283万円

次の融資枠を作りたい(債務償還年数)

C棟 10.1年

A棟 17.7年

B棟 18.5年

税引後CFを改善したい

A棟 +111.4万円

C棟 +48.0万円

B棟 ▲61.6万円

合算DSCRを守りたい

C棟 1.161

A棟 1.157

B棟 1.127

査定ズレに強い(価格弾性の小ささ)

A棟 1.74倍

B棟 2.79倍

C棟 6.37倍

1位はA棟とC棟に分かれ、目的によって答えが変わります。現金とCF改善を優先するならA棟、借入圧縮と次の融資枠を優先するならC棟です。どちらが正解かは、そのとき何に困っているかで決まります。

一方でB棟は6指標のうち4つで最下位でした。表面利回りは3棟で最も低い8.80%。普通に並べれば最初に売却候補になる棟です。しかし税引後CFが唯一のプラスで、売ると全体のDSCRは1.147から1.127へ下がり、LTVは71.1%のまま改善せず、債務償還年数も18.5年とほぼ動かない。さらに所有期間が短期区分のため譲渡所得税414.3万円が重くのしかかります。

つまりこの条件では、「どれを売るか」より「どれを売ってはいけないか」が先に、しかもはっきりと決まりました。そして表面利回りで並べた順位は、その判断とちょうど逆でした。

結果5|査定が1%ズレると、手残りは最大6.4%動く

ここまでの手残り現金は、想定売却価格が当たった場合の数字です。実際の成約価格は査定から動きます。そこで出口利回りを基準から±1.0ポイント動かしました。

出口利回り

A棟

B棟

C棟

▲1.0pt(高く売れる)

2,870万円

2,647万円

3,751万円

▲0.5pt

2,636万円

2,278万円

3,160万円

基準

2,425万円

1,950万円

2,416万円

+0.5pt

2,233万円

1,658万円

1,631万円

+1.0pt(安くしか売れない)

2,058万円

1,396万円

922万円

基準では1位だったC棟が、出口利回りが0.5ポイント悪化するだけで最下位の1,631万円へ落ちます。1.0ポイント悪化すると922万円で、A棟の2,058万円の半分以下です。

この違いは残債比率から説明できます。売却価格が1%下がったときに手残りが何%減るかを計算すると次のようになりました。

項目

A棟

B棟

C棟

残債/売却価格

41.6%

70.9%

81.3%

手残りの価格弾性

1.74倍

2.79倍

6.37倍

手残りがゼロになる出口利回り

24.00%

11.94%

11.03%

現況からの余裕

+13.50pt

+3.13pt

+1.73pt

残債は売却価格が下がっても減りません。したがって残債比率が高い棟では、価格の変動がそのまま手残りに増幅して効きます。C棟は売却価格が1%下がると手残りが6.37%減り、A棟の1.74%に対して3.7倍の感応度です。

そして出口利回りが11.03%まで悪化すると、C棟は売っても手元に1円も残りません。現況9.30%からの余裕は1.73ポイントしかありません。A棟の余裕13.50ポイントとは8倍の差です。残債と手残りが逆転する時期の考え方は残債と売却手残りが逆転するのは何年目かで扱っています。

ここから出てくる実務上の順序は明確です。残債比率の高い棟を売却候補にするなら、査定の精度を上げることが、売却順序の検討より先に来ます。1社の査定だけで手残りを見積もると、1億円超の物件では数百万円単位でズレます。

結果6|「取得から5年」では長期にならない|1年待つと譲渡税が151万円減る

B棟の譲渡所得税414.3万円には理由があります。取得から5年が経っていますが、税率の判定は譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかです。取得から5年しか経っていなければ、1月1日時点ではまだ5年以下で、短期譲渡所得として39.63%が適用されます。

売却を1年遅らせると、同じ棟が長期譲渡所得20.315%になります。

項目

A棟

B棟

C棟

即売却の手残り

2,425.2万円

1,950.4万円

2,415.6万円

1年後の手残り

2,647.6万円

2,339.8万円

2,809.4万円

その1年の税引後CF

▲111.4万円

+61.6万円

▲48.0万円

合計

2,536.2万円

2,401.5万円

2,761.4万円

即売却との差

+111.0万円

+451.0万円

+345.8万円

うち譲渡所得税の減少

20.8万円

151.1万円

0円

B棟の譲渡所得税は414.3万円から263.2万円へ151.1万円減ります。これが1年待つ価値のうち最も大きな部分です。残りは元金返済による残債の減少(384.0万円)から価格下落(150.6万円)を差し引いた分と、1年分の税引後CFです。なお元金返済はCFから支出されているため、表の税引後CFに織り込まれており二重計上していません。

C棟は所有期間2年なので、長期になるのは4年後です。ただしC棟は譲渡所得がマイナスで譲渡税がすでにゼロのため、待っても税のメリットはありません。待機価値345.8万円は残債減少だけから来ています。

3棟すべてで「1年待つ」方が有利に出ています。手残り現金を売却せずに運用した場合の利回りを年1%と置けば、A棟で約87万円、B棟で約431万円、C棟で約322万円が純粋な待機の価値です。つまりこの条件では、今すぐ1棟売らなければならない事情が本当にあるのかを先に確認すべきという結論になります。売却を急ぐことのコストは売り急ぎの値引きは何%までなら割に合うのかでも検証しています。

結果7|同じ年に2棟売ると、譲渡損が使える

C棟は譲渡所得が▲546.2万円の損失です。取得から2年で、取得費に対して価格が下がり、譲渡費用561.4万円が乗るためです。

この譲渡損は、同じ年に他の土地建物等を売って譲渡益が出ていれば、そこから控除できます。国税庁は「他の土地や建物の譲渡所得の金額から控除できます」としています。一方で、控除しきれなかった損失を不動産所得や給与所得と損益通算することはできません(居住用財産を除く)。繰越控除も居住用財産に限られます。

売却の組み合わせ

個別に課税した場合

同一年に売った場合

差

B棟+C棟(ともに短期)

414.3万円

197.8万円

▲216.5万円

A棟+C棟(長期+短期)

557.9万円

446.9万円

▲111.0万円

A棟+B棟(損失なし)

972.2万円

972.2万円

0円

B棟とC棟はどちらも短期区分なので、同じ区分の中での通算です。この2棟を同じ年に売れば譲渡所得税は216.5万円減ります。A棟とC棟は長期と短期で区分が異なるため、区分をまたぐ通算の適用関係は個別事情で変わります。実行前に税理士へ確認してください。

逆に言えば、C棟の譲渡損546.2万円は、売る年に他の売却益がなければ何にも使えずに消えます。売却順序の問題は、ここで「売る年を揃えるかどうか」の問題にも変わります。譲渡所得税の計算の基本は収益物件を売ると税金はいくら?、売却時の費用の内訳は売却の流れと費用はいくらかで整理しています。

結果から見えた転換点

  • 出口利回り11.03%:C棟は売っても手残りがゼロになる。現況9.30%からの余裕は1.73ポイント
  • 出口利回り+0.5ポイント:C棟の手残りが1位から最下位へ入れ替わる
  • 出口利回り8.09%:B棟の手残りがA棟に並ぶ水準(現況8.80%から0.71ポイントの改善が必要)
  • 1月1日基準で所有5年超:B棟の譲渡所得税が414.3万円から263.2万円へ。1年の経過で151.1万円
  • 債務償還年数15年:金融機関の目安に入るのはC棟売却(10.1年)のみ

いずれもこの3棟の条件に限った数値です。残債比率、償却の残り、所有期間が変われば境界は動きます。

投資判断への使い方

この分析から取り出せるのは、特定の答えではなく確認の順序です。

  1. 目的を1つに絞る。現金か、借入圧縮か、次の融資枠か、税引後CFか。目的が決まらないと順位が決まりません
  2. 棟ごとに「手残り現金」と「消える残債」を別々に出す。手残りだけでは差が出ないことがあります
  3. 税引後CFで持ち出しになっている棟を特定する。償却が終わった棟は、売却が収支の改善になる場合があります
  4. 残債/売却価格の比率を確認する。70%を超える棟は査定のズレが手残りに増幅して効くため、査定の精度を先に上げる
  5. 1月1日時点の所有期間を数える。取得から5年でも短期区分なら、1年待つ価値が税率差として出ます
  6. 譲渡損が出る棟があれば、売る年を揃えるかを検討する

棟ごとの手残り現金と長期・短期の判定は、RE-AIの売却・出口戦略シミュレーターで自分の条件を入力して確認できます。取得日から1月1日基準の長期・短期を判定し、残債・譲渡費用・譲渡所得税を差し引いた手残りを保有1〜35年で並べるため、この記事で行った「棟ごとに並べて比較する」作業をそのまま再現できます。今回の出口利回りや運営費率は設定値ですので、実際のレントロールと査定で置き換えてください。

複数棟をまとめて見るときは、合算DSCRだけでは担保の重なりが見えません。共同担保が入っている場合は共同担保で2棟目を買う前にも確認してください。売却で得た現金の使い道については余剰資金は繰上返済か2棟目か、売却時期そのものの選び方はIRRが一番高い年に売るべきかで検証しています。全体の枠組みは収益物件の出口戦略完全ガイドにまとめています。

この分析では分からないこと

  • 実際の成約価格。想定売却価格は「現在の満室想定家賃 ÷ 出口利回り」で機械的に出しています。空室の有無、レントロールの内容、買い手の属性で実勢は上下します
  • 繰上返済(一括返済)に伴う手数料と、固定金利の場合の清算金。金融機関と契約内容で変わるため、本計算には含めていません。固定金利期間中の売却では手残りがこの分減ります
  • 建物部分の消費税。課税事業者に該当する場合、建物の譲渡に消費税が発生します。本計算では免税事業者を前提にしています(売却で消費税が発生する条件)
  • 取得時の諸費用の取扱い。取得費は取得価格から償却累計額を引いた額としており、取得時の仲介手数料・不動産取得税などの資産計上・費用処理の選択は反映していません。実際の譲渡所得はこの分だけ変わります
  • 買い替え特例などの課税の繰延。要件を満たせば税額は変わります(買い替え特例は使うべきか)
  • 残す棟の将来。B棟の減価償却は取得から15年で終わります。今プラスの税引後CFが、将来も続く保証はありません
  • 売却後の金融機関との関係。1棟を売ることで取引実績や担保提供の構成が変わり、次の融資条件に影響することがあります。数値では表せません
  • 限界税率の前提。43.693%としていますが、他の所得や所得控除で変わります。税率が下がれば償却の価値も下がり、A棟とB棟の順位は接近します

相関と因果についても一点補足します。本記事で残債比率の高い棟の手残りが価格に敏感だったのは、計算構造上そうなるためです(残債が価格に連動しないため)。一方で「築年が古いほど税引後CFが悪い」という関係は、償却期間の短さという別の要因が間に入っています。築年そのものが原因ではありません。

まとめ

一棟物件3棟を個人で保有し、1棟だけ売る条件で計算した結果は次のとおりです。

  • 手残り現金は1,950万〜2,425万円でほぼ同額。ただしこれは3棟の投下自己資金と元金返済累計が近かった結果で、一般法則ではない
  • 外せる借入は2,283万円と1億2,927万円で5.7倍違った
  • 税引前CFは3棟すべてプラスだが、税引後では合計が年97.8万円のマイナス。償却が終わったA棟は表面利回り10.50%で年111.4万円の持ち出しだった
  • 目的別の1位はA棟とC棟に分かれたが、表面利回りが最も低いB棟は6指標のうち4つで最下位で、売ってはいけない棟だった
  • 売却価格が1%下がったときの手残りの減り方は、残債比率81.3%のC棟で6.37%、41.6%のA棟で1.74%。3.7倍の差があった
  • C棟は出口利回りが11.03%まで悪化すると手残りがゼロになる。現況からの余裕は1.73ポイント
  • 取得から5年のB棟は1月1日基準ではまだ短期区分。1年待つと譲渡所得税が151.1万円減る
  • 譲渡損が出るC棟をB棟と同じ年に売れば、譲渡所得税は216.5万円減る。別の年に売れば譲渡損546.2万円は使えずに消える

売却順序の判断は、表面利回りの高低では決まりませんでした。決めていたのは残債比率、減価償却の残り、1月1日時点の所有期間という3つです。いずれも売出情報には書かれておらず、自分の取得時の書類と償却計算から拾う必要があります。

今回のように残債・簿価・譲渡税・DSCR・債務償還年数を棟ごとに同時に並べると、表計算では確認項目が増えます。RE-AIは収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を同じ条件で突き合わせて確認できるよう設計していますが、実際の成約価格や金融機関の判断を予測するものではありません。最終的な売却判断は、査定と税理士・金融機関への確認を前提にしてください。

参考資料・出典

  • 国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」(長期・短期の判定と税率)
  • 国税庁「No.5404 中古資産の耐用年数」(簡便法)
  • 国税庁「No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」(譲渡損の取扱い)
  • 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」(木造22年・軽量鉄骨造27年・鉄筋コンクリート造47年)
  • 健美家株式会社「収益物件 市場動向四半期レポート」2026年7〜9月期(2026年10月19日公表。一棟アパート全国平均表面利回り7.91%、東京23区の築10年未満5.07%/築20年以上6.03%)
  • 一般財団法人日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」(2026年4月現在。賃貸住宅一棟の期待利回り、東京・城南ワンルーム3.6%)
  • IREM JAPAN/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「第13回 全国賃貸住宅実態調査報告書」(2025年版。平均入替率・空室率・運営費の水準)

情報確認日:2026年11月2日

この記事をシェアする

この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

分析実績 87件(2026/08/07時点)X(旧Twitter)プロフィールと執筆記事 →