
収益物件を複数棟持っていて、借入を圧縮したい、現金を作りたい、次の融資枠を空けたい。そういう局面で出てくるのが「どれを売るか」という問いです。
このとき多くの人が最初に見るのは表面利回りです。一番利回りが低い棟から外す。直感的には筋が通っています。
ただ、売却で手元に残る現金は「売却価格 − 譲渡費用 − 残債 − 譲渡所得税」で決まります。この4つはどれも物件ごとに違い、表面利回りとは連動しません。とくに譲渡所得税は減価償却の進み方と所有期間で決まるため、同じ価格で売っても棟によって税額が数百万円変わります。
そこでこの記事では、構造・築年・取得時期・融資条件の違う一棟物件3棟を個人で保有している条件を設定し、1棟だけ売る場合の手残り現金、外せる借入、税引後キャッシュフローの変化、残る2棟の合算DSCRと債務償還年数を、棟ごとに計算して並べました。さらに、売却を1年待つ価値と、同じ年に2棟売った場合の譲渡税を逆算しています。
結論を先に書くと、この条件では手残り現金は3棟とも1,950万〜2,425万円でほぼ同額でした。それでも外せる借入は5.7倍違い、査定が1%ズレたときに手残りが動く幅は最大6.4%(棟間で3.7倍の差)でした。そして表面利回りが最も低い棟は、6つの判断指標のうち4つで最下位、つまり売ってはいけない棟でした。
本記事の数値は、RE-AIの診断実績データではありません。区分は次のとおりです。
区分 | 内容 |
|---|---|
公開データ | 譲渡所得の長期・短期の判定と税率、中古資産の耐用年数の簡便法、譲渡損失の取扱い(国税庁)、一棟アパートの平均表面利回りと築年別の利回り差(健美家)、賃貸住宅一棟の期待利回り(日本不動産研究所)、平均入替率(IREM JAPAN/日本賃貸住宅管理協会) |
シミュレーション | 手残り現金、税引後CF、DSCR、債務償還年数、価格弾性、待機価値など本記事の全計算結果 |
架空ケース | 3棟の物件条件・融資条件・運営費率・空室損率 |
実データ | 本記事では使用していません |
情報確認日:2026年11月2日。税制は確認日時点の内容に基づきます。
この分析では、総額をいくらにするかを先に決めていません。決めたのは「売却順序の判断を分ける要因」です。具体的には次の4つです。
この4つを意図的にばらした結果として、価格は5,600万円・9,900万円・1億6,500万円になりました。3棟合計で約3億2,000万円、年間満室家賃2,952万円(取得時)という規模です。価格はあくまで条件の結果であり、分析の主役ではありません。
項目 | A棟 | B棟 | C棟 |
|---|---|---|---|
構造 | 木造 | 軽量鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下) | 鉄筋コンクリート造 |
法定耐用年数 | 22年 | 27年 | 47年 |
取得時の築年 | 22年 | 14年 | 25年 |
取得からの経過年数 | 8年 | 5年 | 2年 |
現在の築年 | 30年 | 19年 | 27年 |
取得価格 | 5,600万円 | 9,900万円 | 1億6,500万円 |
建物比率/建物価格 | 55%/3,080万円 | 60%/5,940万円 | 50%/8,250万円 |
簡便法の耐用年数 | 4年 | 15年 | 27年 |
年間減価償却費 | 770.0万円 | 396.0万円 | 305.6万円 |
償却累計額(現在) | 3,080.0万円 | 1,980.0万円 | 611.1万円 |
当年の減価償却費 | 0円(償却終了) | 396.0万円 | 305.6万円 |
戸数 | 10戸 | 14戸 | 20戸 |
取得時の満室想定家賃 | 624万円 | 840万円 | 1,488万円 |
取得時の表面利回り | 11.14% | 8.48% | 9.02% |
家賃下落率(年) | ▲1.0% | ▲0.5% | ▲0.3% |
現在の満室想定家賃 | 575.8万円 | 819.2万円 | 1,479.1万円 |
空室損率 | 8% | 5% | 6% |
運営費率(満室家賃比) | 24% | 21% | 25% |
NOI | 391.5万円 | 606.2万円 | 1,020.6万円 |
借入額(LTV) | 4,480万円(80%) | 8,415万円(85%) | 1億4,025万円(85%) |
金利/期間/方式 | 2.30%/15年/元利均等 | 1.90%/20年/元利均等 | 2.60%/20年/元利均等 |
年間元利返済額 | 353.4万円 | 506.1万円 | 900.0万円 |
現在の残債 | 2,283.1万円 | 6,600.7万円 | 1億2,927.1万円 |
DSCR | 1.108 | 1.198 | 1.134 |
減価償却の耐用年数は国税庁の簡便法で求めています。法定耐用年数の全部を経過していれば「法定耐用年数×20%」、一部経過なら「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%」で、1年未満は切り捨て、2年未満は2年です。A棟は取得時に築22年で木造の法定22年を全部経過しているため22×0.2=4.4→4年となり、取得から8年が経った現在はすでに償却が終わっています。構造別の償却の差は木造とRCで年間減価償却費が321万円違う理由で別途検証しています。
出口利回りは、健美家「収益物件 市場動向四半期レポート」(2026年7〜9月期)で東京23区の一棟アパートが築10年未満5.07%、築20年以上6.03%と報告されていることから、築年の進行に対して年0.08〜0.10ポイントの上昇として置きました。水準そのものは、同レポートの一棟アパート全国平均7.91%に対し、地方中核市の築古という前提で上乗せしています。買い手の融資年数が出口価格を決める構造は売却価格の天井は「買い手が何年借りられるか」で決まるで検証済みです。家賃下落率の置き方は家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかに従っています。
固定:所有形態(個人)、不動産所得への限界税率43.693%(所得税33%+復興特別所得税0.693%+住民税10%。課税所得900万円超1,800万円以下。給与所得と3棟の不動産所得の合計でこの帯に入る想定)、譲渡費用=仲介手数料(売却価格×3%+6万円)×1.1+30万円(印紙税・抵当権抹消・司法書士報酬等の概算)、取得費=取得価格−償却累計額、売却は現時点で1棟のみ。
変更:売却する棟(A/B/C)、売却時期(即時/1〜4年後)、出口利回り(基準±1.0ポイント)、同一年に売る棟数。
項目 | A棟 | B棟 | C棟 |
|---|---|---|---|
出口利回り | 10.50% | 8.80% | 9.30% |
想定売却価格 | 5,483.7万円 | 9,309.2万円 | 1億5,904.1万円 |
譲渡費用 | 217.6万円 | 343.8万円 | 561.4万円 |
取得費(取得価格−償却累計) | 2,520.0万円 | 7,920.0万円 | 1億5,888.9万円 |
譲渡所得 | 2,746.2万円 | 1,045.4万円 | ▲546.2万円 |
所有期間区分(1月1日基準) | 長期 | 短期 | 短期 |
適用税率 | 20.315% | 39.63% | 39.63% |
譲渡所得税 | 557.9万円 | 414.3万円 | 0円 |
残債 | 2,283.1万円 | 6,600.7万円 | 1億2,927.1万円 |
手残り現金 | 2,425.2万円 | 1,950.4万円 | 2,415.6万円 |
残債/売却価格 | 41.6% | 70.9% | 81.3% |
売却価格は5,484万円から1億5,904万円まで2.9倍の幅がありますが、手元に入る現金は1,950万〜2,425万円に収まりました。差は最大475万円、比率では1.24倍です。
ここで注意が必要です。これは一般法則ではありません。3棟とも「投下した自己資金」と「これまでに返した元金」の累計が結果的に近い水準になったために、手残りが揃っただけです。たとえばC棟は自己資金2,475万円を2年前に入れたばかりで元金返済は1,098万円しか進んでおらず、A棟は自己資金1,120万円に対して8年分の元金2,197万円が積み上がっています。入口と経過年数が違っても手残りが近くなることはありうる、という例として読んでください。
ただし、ここから言えることは一つあります。手残り現金だけを並べても、3棟の優劣はほとんど判定できないということです。
では何が違うのか。売却で消える残債です。
売る棟 | 売却価格 | 消える残債 | 手残り現金 | 手残り+消える残債(売却で動く総額) |
|---|---|---|---|---|
A棟 | 5,483.7万円 | 2,283.1万円 | 2,425.2万円 | 4,708.3万円 |
B棟 | 9,309.2万円 | 6,600.7万円 | 1,950.4万円 | 8,551.1万円 |
C棟 | 1億5,904.1万円 | 1億2,927.1万円 | 2,415.6万円 | 1億5,342.7万円 |
C棟を売れば1億2,927万円の借入が消え、A棟の2,283万円に対して5.66倍です。手元に入る現金はほぼ同じなのに、バランスシートから外せる負債は5.7倍違う。これが表面利回りからは見えない部分です。
残る2棟の状態も大きく変わります。
ケース | 残債合計 | LTV | 合算DSCR | 税引後CF合計 | 債務償還年数(手元現金控除後) |
|---|---|---|---|---|---|
売らない | 2億1,810.9万円 | 71.1% | 1.147 | ▲97.8万円 | 18.8年 |
A棟を売る | 1億9,527.8万円 | 77.5% | 1.157 | +13.6万円 | 17.7年 |
B棟を売る | 1億5,210.2万円 | 71.1% | 1.127 | ▲159.4万円 | 18.5年 |
C棟を売る | 8,883.8万円 | 60.1% | 1.161 | ▲49.8万円 | 10.1年 |
債務償還年数は「残債−手元現金 ÷(税引後CF+元金返済額)」で計算しています。金融機関が次の融資を検討するときに見る指標で、目安は10〜15年とされることが多い水準です。現状18.8年のポートフォリオは、C棟を売ったときだけ10.1年まで改善し、目安の範囲に入ります。A棟・B棟の売却では17.7年・18.5年で、ほぼ動きません。次の融資枠の作り方は返済比率と債務償還年数を分けて、次が買える条件を逆算した記事で詳しく扱っています。
一方でLTVは、A棟を売ると71.1%から77.5%へ悪化します。A棟は残債/売価が41.6%と最も軽く、ポートフォリオ全体のLTVを押し下げていた棟だからです。「古い棟を外して身軽になる」という直感が、指標の上では逆に出ることがあります。
売却で失うのは将来のキャッシュフローです。ただし税引前と税引後で、様子がまったく違いました。
項目 | A棟 | B棟 | C棟 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
NOI | 391.5万円 | 606.2万円 | 1,020.6万円 | 2,018.3万円 |
年間元利返済額 | 353.4万円 | 506.1万円 | 900.0万円 | 1,759.5万円 |
税引前CF | +38.1万円 | +100.1万円 | +120.5万円 | +258.7万円 |
当年の減価償却費 | 0円 | 396.0万円 | 305.6万円 | 701.6万円 |
課税される不動産所得 | 342.2万円 | 88.1万円 | 385.7万円 | 816.0万円 |
所得税・住民税(43.693%) | 149.6万円 | 38.5万円 | 168.5万円 | 356.5万円 |
税引後CF | ▲111.4万円 | +61.6万円 | ▲48.0万円 | ▲97.8万円 |
税引前では3棟すべてプラスで、合計258.7万円です。ところが税引後では合計が年97.8万円のマイナスに反転します。原因は減価償却です。A棟は償却が4年で終わっており、NOI391.5万円から利息49.3万円を引いた342.2万円がそのまま課税所得になります。税金149.6万円は税引前CF38.1万円を大きく超えるため、表面利回り10.50%の棟が、年111.4万円の持ち出しになっています。これはデッドクロスそのもので、発生の仕組みはデッドクロスは何年目に来るのかで検証しています。
この表が示すのは、売却で「失う」ものがある棟と、売却で「身軽になる」棟が混ざっているということです。A棟を売れば税引後CFは年111.4万円改善し、C棟を売れば48.0万円改善します。逆にB棟を売ると61.6万円失います。B棟は3棟で唯一、税引後CFがプラスの棟です。
ここまでの結果を、判断の目的ごとに順位にしました。
判断の目的 | 1位 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
手元現金を最大化したい | A棟 2,425万円 | C棟 2,416万円 | B棟 1,950万円 |
借入残高を圧縮したい | C棟 1億2,927万円 | B棟 6,601万円 | A棟 2,283万円 |
次の融資枠を作りたい(債務償還年数) | C棟 10.1年 | A棟 17.7年 | B棟 18.5年 |
税引後CFを改善したい | A棟 +111.4万円 | C棟 +48.0万円 | B棟 ▲61.6万円 |
合算DSCRを守りたい | C棟 1.161 | A棟 1.157 | B棟 1.127 |
査定ズレに強い(価格弾性の小ささ) | A棟 1.74倍 | B棟 2.79倍 | C棟 6.37倍 |
1位はA棟とC棟に分かれ、目的によって答えが変わります。現金とCF改善を優先するならA棟、借入圧縮と次の融資枠を優先するならC棟です。どちらが正解かは、そのとき何に困っているかで決まります。
一方でB棟は6指標のうち4つで最下位でした。表面利回りは3棟で最も低い8.80%。普通に並べれば最初に売却候補になる棟です。しかし税引後CFが唯一のプラスで、売ると全体のDSCRは1.147から1.127へ下がり、LTVは71.1%のまま改善せず、債務償還年数も18.5年とほぼ動かない。さらに所有期間が短期区分のため譲渡所得税414.3万円が重くのしかかります。
つまりこの条件では、「どれを売るか」より「どれを売ってはいけないか」が先に、しかもはっきりと決まりました。そして表面利回りで並べた順位は、その判断とちょうど逆でした。
ここまでの手残り現金は、想定売却価格が当たった場合の数字です。実際の成約価格は査定から動きます。そこで出口利回りを基準から±1.0ポイント動かしました。
出口利回り | A棟 | B棟 | C棟 |
|---|---|---|---|
▲1.0pt(高く売れる) | 2,870万円 | 2,647万円 | 3,751万円 |
▲0.5pt | 2,636万円 | 2,278万円 | 3,160万円 |
基準 | 2,425万円 | 1,950万円 | 2,416万円 |
+0.5pt | 2,233万円 | 1,658万円 | 1,631万円 |
+1.0pt(安くしか売れない) | 2,058万円 | 1,396万円 | 922万円 |
基準では1位だったC棟が、出口利回りが0.5ポイント悪化するだけで最下位の1,631万円へ落ちます。1.0ポイント悪化すると922万円で、A棟の2,058万円の半分以下です。
この違いは残債比率から説明できます。売却価格が1%下がったときに手残りが何%減るかを計算すると次のようになりました。
項目 | A棟 | B棟 | C棟 |
|---|---|---|---|
残債/売却価格 | 41.6% | 70.9% | 81.3% |
手残りの価格弾性 | 1.74倍 | 2.79倍 | 6.37倍 |
手残りがゼロになる出口利回り | 24.00% | 11.94% | 11.03% |
現況からの余裕 | +13.50pt | +3.13pt | +1.73pt |
残債は売却価格が下がっても減りません。したがって残債比率が高い棟では、価格の変動がそのまま手残りに増幅して効きます。C棟は売却価格が1%下がると手残りが6.37%減り、A棟の1.74%に対して3.7倍の感応度です。
そして出口利回りが11.03%まで悪化すると、C棟は売っても手元に1円も残りません。現況9.30%からの余裕は1.73ポイントしかありません。A棟の余裕13.50ポイントとは8倍の差です。残債と手残りが逆転する時期の考え方は残債と売却手残りが逆転するのは何年目かで扱っています。
ここから出てくる実務上の順序は明確です。残債比率の高い棟を売却候補にするなら、査定の精度を上げることが、売却順序の検討より先に来ます。1社の査定だけで手残りを見積もると、1億円超の物件では数百万円単位でズレます。
B棟の譲渡所得税414.3万円には理由があります。取得から5年が経っていますが、税率の判定は譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかです。取得から5年しか経っていなければ、1月1日時点ではまだ5年以下で、短期譲渡所得として39.63%が適用されます。
売却を1年遅らせると、同じ棟が長期譲渡所得20.315%になります。
項目 | A棟 | B棟 | C棟 |
|---|---|---|---|
即売却の手残り | 2,425.2万円 | 1,950.4万円 | 2,415.6万円 |
1年後の手残り | 2,647.6万円 | 2,339.8万円 | 2,809.4万円 |
その1年の税引後CF | ▲111.4万円 | +61.6万円 | ▲48.0万円 |
合計 | 2,536.2万円 | 2,401.5万円 | 2,761.4万円 |
即売却との差 | +111.0万円 | +451.0万円 | +345.8万円 |
うち譲渡所得税の減少 | 20.8万円 | 151.1万円 | 0円 |
B棟の譲渡所得税は414.3万円から263.2万円へ151.1万円減ります。これが1年待つ価値のうち最も大きな部分です。残りは元金返済による残債の減少(384.0万円)から価格下落(150.6万円)を差し引いた分と、1年分の税引後CFです。なお元金返済はCFから支出されているため、表の税引後CFに織り込まれており二重計上していません。
C棟は所有期間2年なので、長期になるのは4年後です。ただしC棟は譲渡所得がマイナスで譲渡税がすでにゼロのため、待っても税のメリットはありません。待機価値345.8万円は残債減少だけから来ています。
3棟すべてで「1年待つ」方が有利に出ています。手残り現金を売却せずに運用した場合の利回りを年1%と置けば、A棟で約87万円、B棟で約431万円、C棟で約322万円が純粋な待機の価値です。つまりこの条件では、今すぐ1棟売らなければならない事情が本当にあるのかを先に確認すべきという結論になります。売却を急ぐことのコストは売り急ぎの値引きは何%までなら割に合うのかでも検証しています。
C棟は譲渡所得が▲546.2万円の損失です。取得から2年で、取得費に対して価格が下がり、譲渡費用561.4万円が乗るためです。
この譲渡損は、同じ年に他の土地建物等を売って譲渡益が出ていれば、そこから控除できます。国税庁は「他の土地や建物の譲渡所得の金額から控除できます」としています。一方で、控除しきれなかった損失を不動産所得や給与所得と損益通算することはできません(居住用財産を除く)。繰越控除も居住用財産に限られます。
売却の組み合わせ | 個別に課税した場合 | 同一年に売った場合 | 差 |
|---|---|---|---|
B棟+C棟(ともに短期) | 414.3万円 | 197.8万円 | ▲216.5万円 |
A棟+C棟(長期+短期) | 557.9万円 | 446.9万円 | ▲111.0万円 |
A棟+B棟(損失なし) | 972.2万円 | 972.2万円 | 0円 |
B棟とC棟はどちらも短期区分なので、同じ区分の中での通算です。この2棟を同じ年に売れば譲渡所得税は216.5万円減ります。A棟とC棟は長期と短期で区分が異なるため、区分をまたぐ通算の適用関係は個別事情で変わります。実行前に税理士へ確認してください。
逆に言えば、C棟の譲渡損546.2万円は、売る年に他の売却益がなければ何にも使えずに消えます。売却順序の問題は、ここで「売る年を揃えるかどうか」の問題にも変わります。譲渡所得税の計算の基本は収益物件を売ると税金はいくら?、売却時の費用の内訳は売却の流れと費用はいくらかで整理しています。
いずれもこの3棟の条件に限った数値です。残債比率、償却の残り、所有期間が変われば境界は動きます。
この分析から取り出せるのは、特定の答えではなく確認の順序です。
棟ごとの手残り現金と長期・短期の判定は、RE-AIの売却・出口戦略シミュレーターで自分の条件を入力して確認できます。取得日から1月1日基準の長期・短期を判定し、残債・譲渡費用・譲渡所得税を差し引いた手残りを保有1〜35年で並べるため、この記事で行った「棟ごとに並べて比較する」作業をそのまま再現できます。今回の出口利回りや運営費率は設定値ですので、実際のレントロールと査定で置き換えてください。
複数棟をまとめて見るときは、合算DSCRだけでは担保の重なりが見えません。共同担保が入っている場合は共同担保で2棟目を買う前にも確認してください。売却で得た現金の使い道については余剰資金は繰上返済か2棟目か、売却時期そのものの選び方はIRRが一番高い年に売るべきかで検証しています。全体の枠組みは収益物件の出口戦略完全ガイドにまとめています。
相関と因果についても一点補足します。本記事で残債比率の高い棟の手残りが価格に敏感だったのは、計算構造上そうなるためです(残債が価格に連動しないため)。一方で「築年が古いほど税引後CFが悪い」という関係は、償却期間の短さという別の要因が間に入っています。築年そのものが原因ではありません。
一棟物件3棟を個人で保有し、1棟だけ売る条件で計算した結果は次のとおりです。
売却順序の判断は、表面利回りの高低では決まりませんでした。決めていたのは残債比率、減価償却の残り、1月1日時点の所有期間という3つです。いずれも売出情報には書かれておらず、自分の取得時の書類と償却計算から拾う必要があります。
今回のように残債・簿価・譲渡税・DSCR・債務償還年数を棟ごとに同時に並べると、表計算では確認項目が増えます。RE-AIは収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を同じ条件で突き合わせて確認できるよう設計していますが、実際の成約価格や金融機関の判断を予測するものではありません。最終的な売却判断は、査定と税理士・金融機関への確認を前提にしてください。
情報確認日:2026年11月2日
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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