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収益物件の買い替え特例は使うべきか|税金の繰延の仕組みと、令和8年度改正・取得費引継ぎの注意点

収益物件の買い替え特例は使うべきか|税金の繰延の仕組みと、令和8年度改正・取得費引継ぎの注意点

所有期間が10年を超える収益物件を売って、別の物件に買い替えようとすると、売却益に対する譲渡所得税の重さに驚くオーナーは少なくありません。措置法37条の「特定事業用資産の買換え特例」を使うと一定の要件のもとで税負担を将来へ繰り延べられますが、要件の細かさと、令和8年度税制改正での見直し内容、そして繰延後に何が起きるのかまで理解しておく必要があります。出口戦略全体の考え方は「収益物件の出口戦略完全ガイド」で整理していますが、本記事では「売って終わり」ではなく「買い替える」ケースに絞って掘り下げます。

収益物件の買い替えで譲渡所得税が重くなる理由

収益物件を長期保有すると、家賃収入から減価償却費を経費として差し引ける一方、その分だけ帳簿上の取得費は目減りしていきます。所有期間10年を超えるころには、購入時の取得価額の多くが償却済みとなり、売却価格との差額である譲渡益が大きく膨らんでいるケースが珍しくありません。長期譲渡所得の税率は20.315%ですが、譲渡益そのものが大きければ納税額も大きくなります。譲渡所得税の基本的な計算方法は「収益物件を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法と短期・長期の分かれ目」で解説しています。売却して終わりではなく、別の物件へ資産を組み替えたいというオーナーにとって、この譲渡益への課税をどう扱うかは出口戦略上の重要な論点です。

特定事業用資産の買換え特例(措置法37条)とは

対象となる要件

数ある区分のうち、個人の収益物件オーナーに関係しやすいのは「国内における所有期間10年超の資産の買換え」の区分です。国税庁の解説(タックスアンサーNo.3405)によると、主な要件は次のとおりです。

  • 譲渡した年の1月1日時点で、譲渡資産の所有期間が10年を超えていること
  • 買換資産を、譲渡した年・その前年・翌年のいずれかで取得すること
  • 取得した買換資産を、取得の日から1年以内に事業の用に供すること
  • 買換資産のうち土地等については、面積がおおむね300平方メートル以上であること

譲渡が収用・贈与・交換によるものである場合や、買換資産を贈与・交換で取得した場合は対象外です。

「賃貸事業」はこの特例の対象になるのか

ここで注意したいのが、区分マンションや小規模な一棟アパートの賃貸が、この特例でいう「事業の用に供している」と認められるかどうかです。特例の対象となる旧資産・買換資産はいずれも「事業用」であることが前提であり、貸付の規模や実態によって判断が分かれる可能性があります。自分のケースが要件を満たすかどうかは、確定申告を依頼している税理士、または所轄の税務署に事前に確認することを強くおすすめします。

繰延の仕組みと届出の期限

この特例は非課税ではなく、あくまで課税の「繰延」です。買換資産の取得価額が譲渡資産の譲渡価額以上であれば、譲渡益のうち一定割合への課税を将来に繰り延べられます。適用を受けるには「特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出書」の提出が令和6年4月1日以後の譲渡から必須となっており、譲渡日と取得日のいずれか早い日を含む3か月期間の末日の翌日から2か月以内に、納税地の所轄税務署へ提出する必要があります(出典:国税庁)。確定申告時にまとめて手続きすればよいと誤解しやすい点なので注意が必要です。

令和8年度税制改正で何が変わったか

財務省が公表した令和8年度税制改正の大綱によると、この特例は次のように見直されました。

  • 適用期限が3年間延長され、令和11年3月31日までとなった
  • 市街地再開発事業による買換えのうち、防災再開発促進地区など一定区域以外での買換えは、繰延割合が80%から60%に引き下げられた
  • 所有期間10年超の資産の買換えでは、買換資産の建物・附属設備が「特定施設の用に供されるもの」に、構築物が「特定施設に係る事業遂行上必要なもの」に限定された
  • 防衛施設周辺の航空機騒音障害区域(第二種区域)に関する措置が対象から除外された

特に建物用途の限定は、買換資産の使い方によっては適用可否に影響する可能性があるため、令和8年度以降に買い替えを検討する場合は改正後の要件で確認することが欠かせません。

架空例で見る、買い替え特例を使った場合の税額イメージ

以下は仕組みを理解するために単純化した架空例です。実在の物件・取引を示すものではありません。今回は、所有期間10年超の木造一棟アパート(8戸)を売却し、より条件の良い軽量鉄骨造一棟アパート(10戸)へ買い替える個人投資家を想定し、比較用の条件として売却価格3,900万円・買換資産の取得価格6,100万円を設定します。減価償却の進行により、譲渡益(課税対象となる譲渡所得金額)は1,200万円だったとします。

ケース

当面の課税対象額

概算納税額(長期譲渡20.315%)

特例を使わない場合

1,200万円

約244万円

特例を使う場合(繰延割合80%と仮定)

240万円(即時課税分のみ)

約49万円

この架空例では、特例により当面の納税額は約195万円軽くなる計算です。買い替え直後の資金繰りを楽にできる点は、この特例の実務的なメリットといえます。

特例を使う前に確認したい「取得費引継ぎ」の影響

ここがこの特例の見落とされやすい部分です。繰り延べた譲渡益は消えたわけではありません。買換資産の取得費は、実際の購入価格からこの繰延相当額を差し引いた金額に置き換わります。上記の例でいえば、買換資産の取得価格6,100万円のうち、税務上の取得費は6,100万円から繰延額960万円を差し引いた金額に圧縮されます。取得費が圧縮されるということは、買換資産を保有している間の減価償却費が少なくなり、毎年の税引後キャッシュフローを押し下げる方向に働くうえ、将来この物件をさらに売却する際の譲渡益はその分大きくなります。減価償却費が家賃収入の税負担にどう影響するかは「減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減った」で試算しています。特例は税負担をなくす制度ではなく、「今」の税負担を「将来」に付け替える制度だと理解したうえで、次の出口までの保有期間や、法人化による税率差の活用も含めて比較検討することが望ましいといえます。法人化のタイミングについては「不動産投資の法人化 完全ガイド」で、保有中・売却時にかかる税金全体の整理は「不動産投資の税金 完全ガイド」で解説しています。

RE-AIの視点:買い替え判断は「税金」だけで決めない

買換え特例は当面の納税額を軽くしますが、買い替え自体が有利かどうかは、税金だけで判断できるものではありません。売却物件の残債・売却手残り、買換資産の価格の妥当性、新たな融資条件、そして買換後の出口利回りまで、複数の条件を同時に見る必要があります。実際の残債や売却価格を入れて手残りを試算したい場合は、売却・出口戦略シミュレーターで残債と売却手残りを試算することができます。売却物件と買い替え候補の物件をあわせて、収益性・価格・融資・出口まで横断的に比較したい場合は、RE-AIの無料診断で両方の物件を診断し、買い替えによって収支全体がどう変わるかを確認する方法もあります。

まとめ

特定事業用資産の買換え特例は、所有期間10年超の収益物件を売って買い替える際に、譲渡益への課税を将来へ繰り延べられる制度です。令和8年度税制改正で適用期限が令和11年3月31日まで延長された一方、市街地再開発事業に関する繰延割合の引き下げや、買換資産の建物用途の限定など見直しも行われています。届出書の提出期限が短いことに加え、賃貸事業がこの特例の「事業用」に該当するかどうかはケースによって判断が分かれるため、適用を検討する場合は税理士や税務署への事前確認が欠かせません。また、繰り延べた税額は将来の取得費圧縮という形で先送りされるだけである点も踏まえ、買い替え後の減価償却・出口戦略まで含めて判断することをおすすめします。

情報確認日:2026年9月16日。本文中の制度内容は、国税庁タックスアンサーNo.3405および財務省「令和8年度税制改正の大綱」に基づいています。税制は改正される可能性があるため、適用にあたっては最新情報を国税庁公式サイトでご確認いただくか、税理士にご相談ください。

参考資料・出典

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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