
収益物件を仲介で売ろうと決めたあと、多くの人が次に迷うのが「専任媒介契約」と「一般媒介契約」のどちらを選ぶかです。専任にすると囲い込みに遭うのではという不安がある一方、一般で複数社に頼むと本気で動いてもらえないのではという不安もあります。この記事では、囲い込みが起きる経済的な理由を仲介手数料の計算から確認し、収益物件特有の「買い手の層の薄さ」を踏まえた選び方を整理します。
収益物件を仲介で売却する場合の媒介契約には、専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約の3種類があります。違いは主に、依頼できる業者数と、業者側に課される義務の強さです。
項目 | 専属専任媒介契約 | 専任媒介契約 | 一般媒介契約 |
|---|---|---|---|
契約期間の上限 | 3ヶ月(依頼者の申出がない限り自動更新不可) | 3ヶ月(依頼者の申出がない限り自動更新不可) | 法律上の上限なし |
指定流通機構(レインズ)への登録 | 契約締結日の翌日から5日以内(休業日を除く) | 契約締結日の翌日から7日以内(休業日を除く) | 登録義務なし |
業務処理状況の報告 | 1週間に1回以上 | 2週間に1回以上 | 法律上の義務なし |
自分で買主を見つけた場合(自己発見取引) | 不可(業者を通す必要がある) | 可 | 可 |
他の業者への同時依頼 | 不可(1社のみ) | 不可(1社のみ) | 可(複数社に依頼できる) |
出典:宅地建物取引業法第34条の2及び同法に基づく標準媒介契約約款。契約内容の詳細は、締結前に必ず契約書本文で確認してください。仲介にかかる費用の全体像は「収益物件を売却するときの流れと費用はいくらか」で、出口戦略全体の考え方は「収益物件の出口戦略完全ガイド」にまとめています。
「囲い込み」とは、専任媒介契約などを受けた仲介会社が、他の仲介会社から買主候補の紹介や物件照会を受けても、「商談中」などと伝えて断ったり、物件情報を十分に開示しなかったりすることで、自社の顧客だけで売主・買主の両方を仲介(両手仲介)しようとする行為を指します。
以下は仲介手数料の構造を理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件・取引を示すものではありません。法人が所有する一棟RCマンション(15戸、築16年、売却想定価格9,600万円)を、専任媒介契約で仲介会社に売却を依頼するケースを想定します。
仲介手数料(税込)は、国土交通省「宅地建物取引業者が受けることのできる報酬額」に基づく速算式(売買価格×3.3%+6.6万円)で計算すると、一方の当事者から受け取れる金額は323.4万円です。
買主を見つけたのが誰か | 仲介会社の受取額(税込) |
|---|---|
他社の顧客が買主になった場合(片手仲介) | 売主側のみ:323.4万円 |
自社の顧客が買主になった場合(両手仲介) | 売主・買主双方:646.8万円 |
両手仲介が成立すると、仲介会社の受取額はほぼ2倍の646.8万円になります。この323.4万円の差額が、他社からの照会を断る・物件情報を十分に開示しないといった囲い込みの経済的な動機になっていると指摘されています。物件価格が大きくなるほど、この差額も比例して大きくなる点に注意してください。
レインズへの登録を期限内に行わないことや、登録状況について事実と異なる説明をすることは、宅地建物取引業法第34条の2第5項・同法施行規則第15条の8に反する可能性があり、同法第65条第1項・第2項に基づく指示処分や業務停止処分の対象になり得るとされています。国土交通省は近年、こうした囲い込みに該当する行為の考え方を整理し、監督を強化する方向を示していると報じられています。
イタンジ株式会社が2024年12月に実施したアンケート調査(有効回答205件、囲い込みを認知している不動産売買仲介業者が対象)では、囲い込みを「受けた」「受けたと感じた」、または「見聞きした」と回答した割合が57.6%だったと報告されています。この調査は囲い込みを認知している業者に限定した自己回答式アンケートであり、業界全体を代表する数値ではない点に留意してください。
自己居住用の住宅と異なり、収益物件、特に一棟アパート・マンションの買主は、自己居住者ではなく投資家・事業者にほぼ限られます。地域・規模・利回りの条件が合う買主の数自体が少なく、1社の営業力だけでその限られた買主層に確実に届くとは限りません。
一方で、専任媒介・専属専任媒介にはレインズという業者間の共有データベースに登録される利点があり、一般媒介にはその登録義務がありません(前の表を参照)。買い手の層が薄い物件ほど、業者間のネットワークに広く情報が回ることの価値が大きくなるため、「専任は情報が狭まる」「一般は広く届く」と単純に決めつけることはできません。専任であっても登録と報告が適切に行われていれば広く届きますし、一般であっても各社が本気で動かなければ届きません。
専任媒介契約と一般媒介契約のどちらが正しいという単純な答えはありません。両手仲介の仲介手数料という経済的な動機を理解したうえで、自分の物件がどれだけ買い手の層が薄いかを踏まえ、専任を選ぶ場合は本記事の確認ポイントを実行することが、収益物件の売却では特に重要になります。出口戦略全体の考え方は「収益物件の出口戦略完全ガイド」で整理しています。収益性・価格査定・融資・リスク・出口までを合わせて見直したい場合は、RE-AIの無料診断も活用できます。
本記事の法令・調査に関する情報は2026年10月時点で確認できる公開情報に基づきます。制度は改正される場合があるため、最新の内容は国土交通省の公表資料でご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。