
収益物件の売却を考え始めると、次に気になるのは「結局いくら税金がかかり、手取りはどれくらい残るのか」という点ではないでしょうか。譲渡所得税は保有期間によって税率が2倍近く変わるうえ、判定日を誤解すると想定より重い負担になることがあります。計算の仕組みと、見落としやすいポイントを整理します。
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税・住民税がかかります。これが譲渡所得税です。給与所得などとは合算せず、単独で税額を計算する「分離課税」という仕組みが採られています。
ここで収益物件の売却において特に注意したいのが、マイホーム(居住用財産)を売ったときに使える「3,000万円の特別控除」は、賃貸中のアパートや区分マンションなど事業用・投資用の不動産には原則として適用されない、という点です。一般的な不動産売却の解説記事では、この特例を前提にした説明が多く見られますが、収益物件のオーナーがそのまま当てはめると、想定していた税負担と実際の税額が大きく食い違うおそれがあります。
譲渡所得は、国税庁の計算式に沿うと以下のように求めます。
譲渡所得金額 = 譲渡価格 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額
先代から相続した物件などで購入時の契約書が残っておらず取得費が分からない場合、国税庁は譲渡価格の5%相当額を取得費とみなすことを認めています。実際の取得費がこの5%を下回る場合も同様です(国税庁 No.3258)。ただし本来の取得費より不利になりやすいため、契約書や領収書は保有中も保管しておくことが望まれます。
建物部分の取得費は、購入代金からその時点までの減価償却費相当額を差し引いて計算します(国税庁 No.3261)。つまり、保有期間が長く減価償却が進んだ物件ほど取得費は小さくなり、同じ売却価格でも譲渡所得は大きく計算されやすくなります。減価償却が耐用年数を超えて進んだ場合の税引後キャッシュフローへの影響は、別記事「減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減った」でも試算していますので、あわせて確認してください。
譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有期間によって「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の2区分に分かれ、税率がおよそ2倍違います(国税庁 No.1440)。

区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計(復興特別所得税込み) |
|---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 約39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 約20.315% |
復興特別所得税は、所得税額の2.1%を上乗せするものです(令和19年分まで)。
ここが最も誤解されやすいポイントです。所有期間の判定は「売却した日」からの単純な経過年数ではなく、「譲渡した年の1月1日時点」で5年を超えているかどうかで決まります(国税庁 No.1440)。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。2021年6月に取得した物件を2026年7月に売却する場合、取得から売却までは丸5年1か月が経過していますが、判定基準となる2026年1月1日の時点ではまだ所有期間5年に達していません。そのため長期譲渡所得ではなく、税率の高い短期譲渡所得として扱われます。長期譲渡所得の税率を使うには、2027年1月1日以降の売却まで待つ必要があります。「取得からちょうど5年経てば長期になる」という理解のまま売却時期を決めると、税額を読み違える可能性があります。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件や取引を示すものではありません。
取得費 = 土地3,000万円 +(建物5,000万円-減価償却累計1,800万円)+ 諸費用250万円 = 6,450万円
譲渡所得 = 9,000万円 -(6,450万円+300万円)= 2,250万円
区分 | 税率 | 税額の目安 |
|---|---|---|
短期譲渡所得の場合 | 約39.63% | 約891.7万円 |
長期譲渡所得の場合 | 約20.315% | 約457.1万円 |
同じ譲渡所得2,250万円でも、短期か長期かで税額の差は約434.6万円になります。この差の大きさが、売却時期を検討する際に保有期間を意識すべき理由です。
ここまでは売却益(譲渡所得)が出るケースを前提に説明してきましたが、取得費や譲渡費用の合計が売却価格を上回り、譲渡損失(赤字)になることもあります。マイホーム(居住用財産)の買い替えで譲渡損失が生じた場合は、一定の要件を満たせば給与所得など他の所得と損益通算し、さらに最大3年間繰り越して控除できる特例があります。
しかし、賃貸中の収益物件のように事業用・投資用の不動産を売却して生じた譲渡損失には、この損益通算の特例は原則として適用されません。損失はまず他の土地・建物の譲渡所得と通算できるにとどまり、それでも引ききれない損失があっても、給与所得や事業所得と相殺して税負担を軽くすることはできないとされています(国税庁 No.3203)。「損失が出れば税金の心配はしなくていい」わけではなく、損失そのものが手取りキャッシュフローを直接押し下げる点を踏まえて、出口価格やタイミングを検討する必要があります。
ここまでは個人が所有する収益物件を前提にした譲渡所得税の説明です。物件を法人名義で保有している場合、売却益は譲渡所得税ではなく法人税等の対象となり、短期・長期という区分もありません。法人化を検討する際に売却時の税負担がどう変わるかは、別記事「家賃収入960万円、法人化すべきタイミングはいつか」で確認できる5つの確認項目のひとつとして関わってきます。法人化した場合の税引後手取りを保有年数別に試算した「法人化は家賃収入いくらから有利になるのか」もあわせて参考にしてください。
「長期譲渡になるまで待てば税額は下がる」という事実は正しい一方、それだけを理由に売却時期を決めるのは危険です。保有を続ける間も、金利上昇や空室率の悪化によるキャッシュフローの変化、出口利回りの変動という別のリスクが動き続けています。出口利回りが1%悪化した場合にIRRがどこまで下がるかは、保有期間別に試算した記事「出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか」で確認できます。税金・キャッシュフロー・出口利回りを別々に見るのではなく、同時に確認して初めて、保有継続と売却のどちらが手取りベースで有利かを判断できます。これは、複数の投資指標を同時にストレステストするRE-AIの無料診断でも重視している考え方です。
売却するか保有を続けるかという判断そのものの整理は、「築15年の一棟アパート、『売る』か『持ち続ける』かを決める7つの確認項目」、出口戦略全体の考え方は「収益物件の出口戦略完全ガイド」で解説しています。売却時にかかる税金は譲渡所得税だけとは限らず、売上規模によっては消費税の課税事業者になるケースもあるため、「収益物件の売却で消費税が発生することがある」もあわせて確認しておくと見落としを防げます。
収益物件の譲渡所得税は、譲渡価格から取得費・譲渡費用・特別控除額を差し引いて計算し、所有期間5年を境に税率がおよそ2倍変わります。判定日は売却した年の1月1日時点である点、マイホーム特例が収益物件には原則使えない点は特に見落としやすいポイントです。そのうえで、税額の大小だけでなく、保有を続けた場合のキャッシュフローや出口利回りの変化まで含めて、売却時期を総合的に検討することが重要です。税制は法改正により変わる可能性があるため、実際の売却にあたっては最新情報を国税庁の公表資料で確認するか、税理士に相談することをおすすめします。
参考資料・出典(情報確認日:2026年8月16日)
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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