
「築古の木造アパートを早く手放したいが、買取業者の提示額は仲介の相場よりかなり低い」。そう感じて検索している方に向けて、買取と仲介の違い、価格差の目安とその出典、そして価格差が正当化できる条件を数字で整理します。
仲介は、不動産会社が売主と買主の間に入り、一般の買主候補を探して契約を成立させる方法です。買取は、不動産会社自身が買主となり、物件を直接購入する方法です。この違いから、価格以外の条件も変わります。
比較項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
買主 | 一般の個人・投資家(未確定) | 不動産会社(確定) |
成約までの期間 | 物件や条件により数ヶ月〜1年以上 | 多くの場合、数日〜1ヶ月程度 |
仲介手数料 | 発生する(売買価格×3.3%+6.6万円が上限の目安) | 発生しないことが多い |
契約不適合責任 | 負うことが多い(特約で一部軽減可能) | 免責の特約が付くことが多い |
販売活動 | 広告掲載・内見対応が必要 | 原則不要 |
対応できる物件の幅 | 融資が付きにくい物件は買主が見つかりにくい | 訳あり物件も対象になりやすい |
出典:国土交通省「宅地建物取引業者が受けることのできる報酬額」。契約不適合責任の扱いは個々の契約内容によるため、必ず契約書で確認してください。仲介で売却する場合の費用の全体像は「収益物件を売却するときの流れと費用はいくらか」で、出口戦略全体の考え方は「収益物件の出口戦略完全ガイド」にまとめています。
不動産業界のメディアでは「買取価格は仲介の7〜8割程度」という目安がよく紹介されています。ただし、この数字がどの調査・統計にもとづくものかを確認できる一次情報は見当たりませんでした。買取業者各社が独自に提示する事例を根拠にした経験則であり、公的機関や業界団体が公表した統計ではないと考えられます。
実際の比率は、物件の流動性(再建築不可・既存不適格・旧耐震・残置物の有無など)、買取業者の在庫状況、立地や構造によって大きく変わります。そのため本記事では「7〜8割」を事実として採用せず、複数の比率を想定したうえで、自分の物件条件で妥当性を検算する考え方を示します。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件・取引を示すものではありません。相続などで取得し、ローンの残債がない木造一棟アパート(1K×8戸、築33年、地方中核都市郊外)を想定します。
項目 | 設定 |
|---|---|
満室想定年間家賃 | 326.4万円(1戸月3.4万円×8戸×12) |
空室率 | 37.5%(3戸相当、築古・郊外のため高めに設定) |
実効収入 | 204.0万円 |
運営費率 | 35%(老朽化により修繕・維持費を高めに設定) |
年間NOI | 132.6万円 |
還元利回り | 7.5%(地方・築古・流動性の低い木造一棟の想定値) |
仲介想定成約価格(NOI÷還元利回り) | 1,768万円 |
仲介手数料は、売買価格×3.3%+6.6万円(税込・上限の目安)で計算すると約64.9万円です。加えて、売却活動中も固定資産税・火災保険・最低限の管理費などの保有コストがかかります。ここでは月4万円の固定費が空室によって賃料で相殺できないと仮定し、販売期間別に保有コストを計算します。
販売期間 | 保有コスト | 仲介ネット手残り |
|---|---|---|
2ヶ月 | 8.0万円 | 1,695.1万円 |
6ヶ月 | 24.0万円 | 1,679.1万円 |
12ヶ月 | 48.0万円 | 1,655.1万円 |
買取は仲介手数料がかからず、原則として即時に現金化できるため、保有コストもほぼ発生しません。仲介想定成約価格(1,768万円)に対する比率別のネット手残りは次のとおりです。
買取比率 | 買取ネット手残り |
|---|---|
90% | 1,591.2万円 |
85% | 1,502.8万円 |
80% | 1,414.4万円 |
75% | 1,326.0万円 |
70% | 1,237.6万円 |
買取で今すぐ受け取る金額を、仲介でTヶ月後に受け取る金額と比べ、その差を年率に換算すると「資金を何%で運用できる見込みがあれば、待って仲介で売る方が得になるか」という基準が得られます。計算式は(仲介ネット手残り÷買取ネット手残り)の(12÷Tヶ月)乗−1です。
買取比率 | 仲介に2ヶ月想定 | 仲介に6ヶ月想定 | 仲介に12ヶ月想定 |
|---|---|---|---|
90% | 46.2% | 11.4% | 4.0% |
85% | 106.0% | 24.8% | 10.1% |
80% | 196.3% | 40.9% | 17.0% |
75% | 336.4% | 60.3% | 24.8% |
70% | 560.4% | 84.1% | 33.7% |
この表が示すのは、買取が数字の上で正当化されやすいのは「仲介で売ろうとすると時間がかかりそうで、かつ買取比率が高め(90%前後)」の組み合わせだという点です。反対に、仲介でも数ヶ月程度で売れる見込みがあるなら、70〜80%程度の買取価格を年率換算で正当化するのは難しくなります。ただし、この比較は「仲介でも同じ価格帯で売れる」という前提に立っています。再建築不可・既存不適格・残置物が多いなど、そもそも一般の買主の融資が付きにくい物件では、仲介側の前提そのものが崩れる点に注意してください。
通常の仲介取引のなかで、どこまで指値(値引き交渉)に応じるべきかを月単位の近似式まで一般化した内容は、「売り急ぎの値引きは何%までなら割に合うのか」で詳しく試算しています。本記事が扱う買取と仲介の選択は、同じ仲介取引の中での値引き交渉とは異なる、販売方法そのものを選ぶ判断です。
価格差の計算以前に、そもそも仲介で一般の買主を見つけにくい物件では、買取が唯一の現実的な出口になる場合があります。代表的な条件は次のとおりです。
これらの条件に当てはまらない、稼働率の高い物件であれば、仲介で時間をかけて売ったほうが手取りが大きくなりやすい傾向があります。
なお、所有者のいない期間が長引くと、2023年の空家法改正により「管理不全空家等」として勧告を受けた場合、固定資産税の住宅用地特例が解除される可能性があります。売却を先延ばしにすること自体にもコストが生じ得る点は、判断材料のひとつになります。
ここまでの試算はすべて架空条件です。実際の物件価格・NOI・融資条件を入力すると、売却価格・仲介手数料・残債・譲渡税を踏まえた売却手残りとIRRを同じ考え方で計算できる売却・出口戦略シミュレーターをRE-AIで無料公開しています。仲介手数料を0円に、Exit Cap Rateを高めに設定すれば、買取に近い条件での手残りも同じ画面で比較できます。登録不要です。物件全体の収益性・価格査定・融資・リスクまで含めて総合的に判断したい場合は、無料診断も利用できます。
買取と仲介のどちらが得かは、価格の割合だけでは判断できません。仲介で売るまでにかかる期間とコスト、買取価格の比率、そして契約不適合責任や確実性といった数値化しにくい要素を合わせて考える必要があります。「買取は仲介の7〜8割」という目安は出典が確認できないため、まずは自分の物件で仲介にかかりそうな期間と買取の提示額を並べ、年率に換算して検算することをおすすめします。税制や契約実務は個別の事情で変わるため、最終的な判断の前に宅地建物取引業者や税理士への確認をあわせて行ってください。
本記事の数値・制度は2026年10月15日時点で確認できる情報にもとづいています。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。