
「そろそろ売却も検討したい」と思ったとき、多くの収益物件オーナーが最初につまずくのは、売却の流れそのものより「手元にいくら残るのか」という点です。本記事では、査定から引き渡しまでの流れと、仲介手数料・印紙税・譲渡所得税を価格帯別に試算し、売却でかかる費用の全体像を数字で確認します。
税引後の手残りとローン残債がいつ逆転するかという時間軸の問題は「残債と売却手残りが逆転するのは何年目か」で、保有期間と税率の関係は「5年目売却と6年目売却で税引後IRRは7.17pt違う」で詳しく試算しています。本記事はその手前にある、費用の内訳と売却全体の流れを整理するものです。出口戦略全体の考え方は「収益物件の出口戦略完全ガイド」にまとめています。
収益物件の売却は、一般的に次の流れで進みます。物件の規模やエリアによって期間は変わりますが、査定依頼から引き渡しまで3〜6ヶ月程度を目安に計画すると進めやすくなります。
このうち、オーナーが事前に把握しにくいのが③以降でかかる費用です。次の章で内訳を確認します。
不動産会社に支払う仲介手数料は、宅地建物取引業法第46条にもとづき、国土交通省の告示で上限が定められています。売買価格が400万円を超える部分については、速算式「売買価格×3%+6万円(税抜)」で計算するのが実務上一般的です(出典:国土交通省「宅地建物取引業者が受けることのできる報酬額」)。これは上限額であり、実際の手数料は不動産会社との合意で決まります。
なお、2024年7月1日から、売買価格800万円以下の低廉な空家等については、売主から通常より高い仲介手数料(上限33万円・税込)を受け取れる特例が設けられています。収益物件でも、地方の小規模区分マンションなどはこの価格帯に該当する場合があります。
不動産の売買契約書には印紙税がかかります。記載金額が500万円を超える契約書は、2027年3月31日までに作成されるものについて軽減措置が適用されます(出典:国税庁No.7108)。電子契約を利用した場合は印紙税がかかりません。
ローンが残っている場合は、決済と同時に残債を一括返済し、抵当権抹消登記を行います。この登記にかかる登録免許税は不動産1個につき1,000円で、土地1筆・建物1棟の一棟アパートなら合計2,000円が目安です(出典:法務局「抵当権の抹消登記に必要な書類と登録免許税」)。司法書士に依頼する場合の報酬は、案件により1.5万〜3万円程度が目安です。これに加えて、金融機関によっては残債を期限より前に一括返済する際に「繰上返済手数料」が数千円〜数万円程度発生することがあります。金額は金融機関・契約内容によって異なるため、決済日が決まった段階で早めに確認しておくと資金計画に組み込みやすくなります。
売却益(譲渡所得)に対しては、所得税・住民税が課税されます。税率は売却した年の1月1日時点での所有期間によって決まり、5年以下の短期譲渡所得は39.63%、5年を超える長期譲渡所得は20.315%です(出典:国税庁No.3208・No.3211)。この5年の考え方や、取得費・減価償却の扱いについては「収益物件を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法と短期・長期の分かれ目」で詳しく解説しています。なお、課税事業者に該当する場合は消費税の申告が必要になることがあり、この点は「収益物件の売却で消費税が発生することがある」で確認できます。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件・取引を示すものではありません。想定読者ごとに物件種別と価格帯を分け、区分マンションを保有する個人投資家、木造一棟アパートを保有する個人投資家、RC一棟マンションを保有する資産管理法人の3つのケースで、売却価格から仲介手数料・印紙税・ローン残債・譲渡所得税を差し引いた手取り額を試算しました。
項目 | ケースA:区分マンション(個人・保有7年) | ケースB:木造一棟アパート(個人・保有10年) | ケースC:RC一棟マンション(資産管理法人・保有8年) |
|---|---|---|---|
売却価格 | 2,200万円 | 6,000万円 | 1億5,000万円 |
仲介手数料(税込上限) | 約79.2万円 | 約204.6万円 | 約501.6万円 |
印紙税(軽減後・紙契約) | 1万円 | 3万円 | 6万円 |
ローン残債 | 1,200万円 | 3,500万円 | 9,000万円 |
譲渡所得税(概算・長期譲渡所得) | 約85.3万円 | 約323.5万円 | 法人のため個別計算(他の所得と合算) |
売却手取り(概算) | 約834.5万円 | 約1,968.9万円 | 約5,492.4万円(法人税等控除前) |
3つのケースはいずれも取得費(減価償却後の帳簿価格)・譲渡費用を仮定した架空条件です。仲介手数料は売買価格が上がるほど料率換算では3.3%前後に収れんしますが、絶対額は価格に比例して大きくなるため、資金計画では率ではなく金額で把握しておく必要があります。法人が売却する場合、売却益は他の事業所得と合算して法人税等が課税されるため、個人の譲渡所得税率をそのまま当てはめることはできません。
仮にケースAを保有3年で売却した場合、同じ譲渡益(419.8万円)でも短期譲渡所得の税率39.63%が適用され、税額は約166.4万円と、長期譲渡所得(約85.3万円)のおよそ2倍になります。保有期間が5年の前後にあるときは、売却時期を1年ずらすだけで手取りが大きく変わる場合があるため注意が必要です。この境界を条件付きで詳しく試算した内容は「5年目売却と6年目売却で税引後IRRは7.17pt違う」で確認できます。
決済時には、原則としてローンの残債を一括返済し、抵当権を抹消したうえで買主に引き渡します。売却価格から仲介手数料・税金を差し引いた手取りが残債を下回る場合、その差額は自己資金で用意する必要があります。フルローンやオーバーローンで購入した直後は、この状態になりやすい点に注意が必要です。
何年目に残債と手取りの大小関係が逆転するかは、融資期間・金利・売却価格の下落ペースによって変わります。フルローンで購入した場合を融資期間20・25・30年別に逆算した内容は「残債と売却手残りが逆転するのは何年目か」で確認できます。
ここまでの仲介手数料・印紙税・抵当権抹消費用は決済日に清算されますが、譲渡所得税だけは決済時に源泉徴収されません。譲渡所得が生じた場合、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行い、その時点で納税する必要があります(出典:国税庁No.3102「譲渡所得の申告期限」)。
決済で受け取った手取り額をそのまま次の物件の頭金や繰上返済に回してしまうと、翌年の申告期限までに納税資金が不足する事態になりかねません。前章の試算例で言えば、区分マンションのケースなら約85.3万円、木造一棟アパートのケースなら約323.5万円の譲渡所得税を、決済から数ヶ月〜1年近く経った申告期限までに別途用意しておく必要があります。決済日を迎えた時点で、手取りの一部を納税用の口座に分けておくと、翌年になって資金繰りに慌てずに済みます。
ここまでの試算はいずれも架空条件です。実際の売却価格・残債・保有期間・取得費を入力すると、仲介手数料・印紙税・譲渡所得税・売却手残りを同じ考え方で計算できる売却・出口戦略シミュレーターをRE-AIで無料公開しています。登録不要で、保有1〜35年の売却時期ごとにIRRと手取りを比較できます。物件全体の収益性・価格査定・融資・リスクまで含めて総合的に判断したい場合は、無料診断も利用できます。
収益物件の売却では、査定から引き渡しまで3〜6ヶ月程度の期間がかかり、仲介手数料・印紙税・譲渡所得税という3つの費用が発生します。これらを差し引いた「売却手取り」は、売却価格が同じでも取得費・残債・保有期間によって大きく変わります。売却を検討する際は、査定価格そのものより先に、自分の物件条件でこれらを試算しておくことが実務上重要です。
本記事の税率・報酬額の上限・軽減措置は2026年9月17日時点で確認できる情報にもとづいています。税制は改正される可能性があるため、実際の売却にあたっては税理士・宅地建物取引業者への確認を推奨します。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。