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IRRが一番高い年に売るべきか|売却資金の受け皿に必要な税引後利回りは6.00%、実勢の上限は4.44%だった

IRRが一番高い年に売るべきか|売却資金の受け皿に必要な税引後利回りは6.00%、実勢の上限は4.44%だった

収益物件を何年で売るかを決めるとき、保有年数ごとにIRR(内部収益率)を計算して、一番高い年を選ぶ――という手順はよく使われます。保有5年でIRR3.5%、10年で4.0%、15年で4.5%なら15年、という決め方です。

しかしIRRには、計算式の構造上どうしても入り込む前提があります。期中のキャッシュフローと売却代金を、そのIRRと同じ利回りで再投資できるという前提です。IRR4.6%という数字は、「売却後の2,600万円も、毎年の手残りも、年4.6%で回し続けられる」と言っているのと同じです。

2026年10月時点で、その受け皿は実際にいくらで用意できるのでしょうか。定期預金(1年)の店頭表示金利の平均は0.472%、10月発行分の10年国債の表面利率は3.1%、J-REITの平均分配金利回りは5.57%です。利子・分配金には20.315%の源泉分離課税がかかるため、税引後にすると0.376%・2.470%・4.440%になります。

本記事は、地方中核市の木造一棟アパートを1件設定し、保有6年〜20年の売却年ごとにIRRを計算したうえで、同じ20年という時間軸に揃えて終価(最終的に手元に残る金額)を比べ直した記録です。最後に、早期に売って乗り換えるために必要な「受け皿の最低利回り」を逆算しています。

情報確認日:2026年10月15日

この記事で検証する疑問

  • 保有年数を変えると、同じ物件のIRRはどう動くのか。ピークは何年目か
  • IRRが暗黙に置いている再投資利回りは、実際にいくらで用意できるのか
  • 保有年数の違う案を同じ時間軸に揃えると、どちらが多く残るのか
  • IRRは年率を何pt過大に見せているのか
  • 早期に売って乗り換えるには、受け皿の税引後利回りが何%必要なのか
  • 金利や出口利回りの前提を変えても、その境界値は動かないのか

前提の確認:IRRは「売った後のお金の行き先」を決め打ちしている

IRRは、投下自己資金と将来のキャッシュフローの現在価値が一致する割引率です。式で書くと、投下自己資金を E、t年目のキャッシュフローを CF(t)、売却年を T としたとき、

E = CF(1)÷(1+IRR) + CF(2)÷(1+IRR)² + … + 〔CF(T)+売却手残り〕÷(1+IRR)^T

を満たす IRR を探します。この式を変形すると、両辺に (1+IRR)^T を掛けた形になります。

E×(1+IRR)^T = CF(1)×(1+IRR)^(T−1) + CF(2)×(1+IRR)^(T−2) + … + CF(T) + 売却手残り

右辺が意味しているのは、1年目に受け取った手残りを、売却年まで IRR と同じ利回りで運用し続けるということです。IRRは割引率として導出されますが、同時に再投資利回りを自分自身の値に固定しています。

ここから2つのことが出てきます。1つは、保有年数が違う案をIRRの大小だけで比べられないということです。保有6年の案と20年の案を並べたとき、6年の案には「7年目から20年目までお金をどこに置くか」という問題が残りますが、IRRはその14年間をIRR自身の利回りで埋めてしまいます。もう1つは、現実の受け皿がIRRより低い利回りしか出せない場合、IRRは実際に増える速さを過大に見せるということです。

この2つがどれくらいの大きさなのかを、実際に計算して確かめます。

分析の前提条件

使用データの区分

  • 物件条件・融資条件・収支:条件付きシミュレーション(架空ケース)。RE-AIの診断実データは使用していません
  • 再投資利回りの水準(定期預金・国債・J-REIT):公開データ。日本銀行、財務省、東京証券取引所系の集計値
  • 物件価格・表面利回りの水準感:公開データ。健美家の収益物件市場動向四半期レポート
  • 借入金利の水準感:公開データ。日本銀行の政策金利と、金融機関が公表しているアパートローンの金利レンジ

物件価格と表面利回りを、この水準にした理由

先に価格を決めてから利回りを当てはめると、融資条件と噛み合わない数字になります。本記事ではローン定数から逆算して条件を決めました。

日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を1.25%程度へ引き上げています。短期プライムレート連動のアパートローンもこれに合わせて上昇しており、投資用ローンの変動金利は2.4%台から4%台のレンジにあります。本記事では金利3.0%を採用しました。

金利3.0%・融資期間25年の元利均等返済では、ローン定数K(年間返済額÷借入額)は5.69%になります。借入で買う物件は、NOI利回り(NOI÷物件価格)がこのKを上回らないと正のレバレッジが働きません。

稼働率95%・運営費率22%(満室想定年収比)の条件では、NOI利回り=表面利回り×0.73です。したがって表面利回り8.0%ではNOI利回りが5.84%にとどまり、K=5.69%をわずか0.15pt上回るだけになります。健美家の「収益物件市場動向四半期レポート(2026年4月〜6月期)」では一棟アパートの全国平均が表面利回り8.01%・価格9,004万円ですが、この平均値のままでは金利3.0%下でレバレッジがほとんど効きません。

そこで本記事では、正のレバレッジが明確に成立する水準として表面利回り9.60%(NOI利回り7.01%、Kとの差1.32pt)を設定し、価格は地方中核市の木造8戸・築10年として7,800万円(月額賃料7.8万円×8戸=年748.8万円)としました。全国平均より利回りが1.59pt高く価格が小さいのは、地方圏の実勢に寄せたためです。

なお、この記事で逆算する「受け皿の最低利回り」は比率で表れる数字であり、物件価格に比例しません。価格を2倍にしても境界値はほぼ動きません。価格を固定したのは、終価の差額を金額で示すためです。

固定する条件

項目

設定

設定理由

物件種別

木造一棟アパート8戸・築10年

法定耐用年数22年に対し残存12年。20年保有しても築30年で、出口が成立する範囲に収まる

物件価格

7,800万円

上記のとおりローン定数から逆算。地方中核市の木造一棟の実勢に合わせた

満室想定年収

748.8万円(表面利回り9.60%)

月額7.8万円×8戸。NOI利回りがローン定数を1.3pt超える水準

稼働率

95%

退去時の空室期間と募集期間を平均化した水準

運営費率

満室想定年収の22%(初年度164.7万円)

管理委託料・固定資産税・保険料・原状回復費・小修繕の年平均。入替コストの年割りを含む

家賃下落

年0.8%

築10年以降の帯の下落ペース

運営費上昇

年1.5%

人件費・資材費の上昇を反映

購入諸費用

物件価格の8.5%(663万円)

仲介手数料・不動産取得税・登録免許税・司法書士報酬・火災保険料等

借入

LTV80%=6,240万円/金利3.0%/期間25年・元利均等

2026年の投資用ローンの実勢。LTVは融資姿勢の厳格化を踏まえ80%

投下自己資金

2,223.0万円(頭金1,560万円+諸費用663万円)

全ケース共通。これが比較の起点

建物価格

3,510万円(価格の45%)

減価償却の基礎。中古木造の簡便法で耐用年数14年、年償却250.7万円

所得税+住民税

33.693%

課税所得900万円超の個人を想定。復興特別所得税を含む

譲渡所得税

長期20.315%

保有6年目以降の売却のみを比較対象とし、短期譲渡39.63%の段差は分析から外した

売却費用

売却価格の3.5%

仲介手数料・印紙税・抵当権抹消費用

出口利回り

NOI利回り基準で年+0.05pt

木造は買い手の融資期間が築年数とともに短くなるため、出口の要求利回りが上がる

比較の時間軸

20年

保有年数の違う案を同じ長さに揃えるための共通軸

変更する条件

  • 売却年:6年・8年・10年・12年・15年・18年・20年
  • 売却資金と期中キャッシュフローの再投資利回り(税引後):0.376%・2.470%・4.440%・4.607%
  • 感応度確認:借入金利2.5%/3.0%/3.5%、出口利回りの上昇ペース年0.03pt/0.05pt/0.08pt

計算方法

  • NOI(t) = 満室想定年収×(1−0.008)^(t−1)×0.95 − 164.7万円×1.015^(t−1)
  • 年間返済額 = 355.1万円(6,240万円/金利3.0%/25年・元利均等)。初年度DSCRは1.539
  • 課税所得 = NOI − 支払利息 − 減価償却費。元金返済は経費にならない
  • 税引後CF = NOI − 年間返済額 − 課税所得×33.693%(課税所得がマイナスの年は損益通算による還付として計上)
  • 売却価格 = 翌年のNOI ÷ 出口利回り。買い手が見る初年度NOIで評価されるため翌年の数字を使う
  • 税引後売却手残り = 売却価格 − 売却費用 − ローン残債 − 譲渡所得税
  • IRR = 投下自己資金を初期支出、期中の税引後CFと売却手残りを収入としたときの内部収益率
  • 終価 = 期中の税引後CFを再投資利回りで20年目まで運用した合計 + 売却手残りを20年目まで運用した額。マイナスの年はその運用資産から取り崩す
  • 実効年率 = (売却年時点の終価 ÷ 投下自己資金)^(1÷保有年数) − 1。期中CFがすべてプラスの場合はMIRR(修正内部収益率)と一致する

結果1:保有年数別のIRR。ピークは17年目だった

売却年

出口利回り

売却価格

購入価格比

税引後売却手残り

IRR

6年

7.31%

6,811万円

▲12.68%

1,435万円

0.252%

8年

7.41%

6,500万円

▲16.67%

1,548万円

2.336%

10年

7.51%

6,197万円

▲20.55%

1,690万円

3.509%

12年

7.61%

5,902万円

▲24.33%

1,828万円

4.103%

15年

7.76%

5,474万円

▲29.82%

2,151万円

4.546%

18年

7.91%

5,061万円

▲35.11%

2,645万円

4.590%

20年

8.01%

4,794万円

▲38.54%

2,980万円

4.497%

IRRは保有年数とともに上がり、17年目に4.607%でピークを打ち、そこから下がります。周辺は15年4.546%、16年4.585%、18年4.590%、20年4.497%で、15年から20年の6年間はIRRの差が0.11pt以内という平坦な山でした。

注目すべきは短期側です。保有6年のIRRは0.252%しかありません。購入諸費用8.5%と売却費用3.5%、そして6年間で売却価格が12.68%下がることが重なるため、期中の手残り(6年累計816.4万円)では取引コストを埋めきれないのです。「短期保有ならIRRが高く出る」という一般的な説明は、諸費用を実額で計上した木造一棟では成り立ちませんでした。

税引後CFは14年目まではプラスですが、減価償却が14年で終わるため15年目にマイナス35.7万円へ転落します。15年目から20年目の累計は-336.7万円で、この間は毎年手元から資金を入れる状態です。それでもIRRが17年目まで上がるのは、ローン残債の減少が売却手残りを押し上げる効果(6年目1,435万円→18年目2,645万円)がそれを上回るためです。

結果2:売却したお金は、実際にいくらで運用できるのか

ここまでがIRRの話です。次に、IRRが暗黙に置いている再投資利回りを、公開データで埋めていきます。

受け皿

表示利回り

税引後

確認日・出典

定期預金(1年、預入1,000万円以上)の平均

0.472%

0.376%

2026年9月/日本銀行「預金種類別店頭表示金利の平均」

10年国債(2026年10月発行分の表面利率)

3.100%

2.470%

2026年10月/財務省

J-REIT平均分配金利回り

5.570%

4.440%

2026年10月14日/東証REIT指数構成銘柄の集計

この物件のIRR(17年売却)

4.607%

4.607%

IRRが自分自身に置いている前提

税引後は、利子・分配金に対する20.315%の源泉分離課税を引いた値です。再投資利回りを税引後で見ないと、税引後キャッシュフローで計算したIRRと比較の尺度が揃いません。

この表で分かるのは、IRR4.607%という数字は「J-REIT並みの利回りで17年間回し続けられる」という前提と同じ強さを持っているということです。定期預金(税引後0.376%)に置くなら、前提と現実の差は4.23ptあります。10年国債(税引後2.470%)でも2.14ptの差です。

なお、J-REITの分配金利回りは価格変動リスクを伴います。ここでは「元本が維持されたまま分配金利回りで複利運用できた場合」という上限側のケースとして扱い、無リスクの比較対象としては扱っていません。

結果3:同じ20年軸に揃えて、終価を比べ直す

保有年数の違う案を比べられる尺度は、終価(20年目に手元に残る金額)だけです。投下自己資金2,223.0万円に対する20年後の金額を、再投資利回り別に計算しました。

売却年

定期預金(1年)

10年国債(表面利率)

J-REIT平均分配金利回り

IRRが暗黙に置く前提

6年

2,381万円

3,246万円

4,324万円

4,430万円

8年

2,712万円

3,591万円

4,663万円

4,767万円

10年

3,038万円

3,911万円

4,955万円

5,055万円

12年

3,325万円

4,163万円

5,154万円

5,248万円

15年

3,720万円

4,473万円

5,355万円

5,439万円

18年

4,036万円

4,653万円

5,391万円

5,462万円

20年

4,205万円

4,709万円

5,337万円

5,399万円

再投資利回りが低いほど、長く持つほうが有利になります。定期預金前提(税引後0.376%)では、20年持ち切りの終価4,205万円に対し、10年売却は3,038万円、6年売却は2,381万円で、差は1,167万円・1,824万円に開きました。投下自己資金に対する倍率は、20年持ち切りで1.89倍、6年売却で1.07倍です。

一方、再投資利回りが税引後4.440%(J-REIT水準)まで上がると順位が変わります。この前提では終価が最大になるのは17年売却で5,396万円、20年持ち切りは5,337万円となり、17年売却が59万円上回りました。受け皿の利回りが高いと、税引後CFがマイナスに転じた物件を持ち続ける理由が薄れるためです。

つまりIRRのピーク年(17年目)と、終価が最大になる売却年は、再投資利回りによって一致したりずれたりします。定期預金前提では20年、J-REIT前提では17年、IRR自身の前提でも17年でした。IRRのピーク年をそのまま売却時期として採用すると、定期預金に置く投資家の場合は3年早く売ることになります。

結果4:IRRは年率を何pt過大に見せていたか

終価を年率に直すと、IRRとの差が直接見えます。

売却年

IRR

実効年率(定期預金前提)

差

実効年率(10年国債前提)

差

6年

0.252%

0.272%

+0.020pt

0.618%

+0.366pt

8年

2.336%

1.943%

-0.393pt

2.364%

+0.028pt

10年

3.509%

2.787%

-0.722pt

3.261%

-0.248pt

12年

4.103%

3.153%

-0.950pt

3.668%

-0.435pt

15年

4.546%

3.363%

-1.182pt

3.923%

-0.623pt

18年

4.590%

3.325%

-1.264pt

3.906%

-0.683pt

20年

4.497%

3.239%

-1.258pt

3.824%

-0.673pt

IRRの過大評価幅は、保有年数が長いほど大きくなります。定期預金前提では6年売却で+0.020pt(ほぼ一致)、10年で−0.722pt、15年で−1.182pt、18年で最大の−1.264ptでした。保有が長いほど期中CFの再投資期間が延びるため、前提と現実の差が積み上がるのです。

具体的には、18年売却のIRR4.590%は、定期預金に置く投資家にとっては実効年率3.325%を意味していました。10年国債(税引後2.470%)に置けるなら3.906%で、差は0.683ptに縮まります。

ただし実効年率も、保有年数が違う案の直接比較には使えません。6年売却の実効年率と20年売却の実効年率は、分母の年数が違うからです。保有年数が違う案を比べる尺度は終価であり、実効年率は「同じ保有年数の案を年率で読む」ための補助指標として使います。

結果5:逆算。早期売却が持ち切りに勝つための受け皿利回り

ここが本記事の中心です。各売却年が20年持ち切りの終価に並ぶために必要な再投資利回り(税引後)を逆算しました。

売却年

20年持ち切りに並ぶ最低再投資利回り(税引後)

終価(定期預金前提)

20年持ち切りの終価

定期預金前提での判定

6年

7.59%

2,381万円

4,205万円

持ち切り有利

8年

6.81%

2,712万円

4,205万円

持ち切り有利

10年

6.00%

3,038万円

4,205万円

持ち切り有利

12年

5.35%

3,325万円

4,205万円

持ち切り有利

15年

4.30%

3,720万円

4,205万円

持ち切り有利

18年

3.48%

4,036万円

4,205万円

持ち切り有利

10年で売って乗り換える場合、受け皿の税引後利回りが6.00%を超えないと、20年持ち切りに負けます。6年売却なら7.59%、8年売却なら6.81%が必要です。保有が長くなるほど必要水準は下がり、15年売却で4.30%、18年売却で3.48%でした。

結果2で確認した実勢の受け皿は、税引後で定期預金0.376%、10年国債2.470%、J-REIT4.440%です。10年売却に必要な6.00%に届く受け皿は、公開データで確認できる範囲にはありませんでした。18年売却に必要な3.48%は、10年国債(2.470%)では届かず、J-REIT(4.440%)なら超えます。

6.00%を超えうるのは、同等以上の収益物件をもう1棟買うケースです。ただし当サイトの別の分析では、10年ごとに築浅へ買い替える戦略は30年IRRを1.54pt下げ、優位が出るのは金利2.0%以下の場合に限られました。買い替えのたびに購入諸費用8.5%と売却費用3.5%が発生するため、「物件を受け皿にする」選択は自動的に6.00%を満たすわけではありません。

感応度:金利と出口利回りを変えても境界値は動くか

10年売却の境界値6.00%が、前提の置き方に依存していないかを確認します。借入金利と出口利回りの上昇ペースを変えて、同じ逆算を繰り返しました。

借入金利

出口利回り+0.03pt/年

出口利回り+0.05pt/年

出口利回り+0.08pt/年

2.5%

6.32%

6.31%

6.70%

3.0%

6.03%

6.00%

6.35%

3.5%

5.69%

5.62%

5.93%

境界値は5.62%〜6.70%の範囲に収まりました。幅は1.08ptで、中心は約6%です。金利が高いほど境界値は下がります(金利3.5%では5.62〜5.93%)。これは金利が高いと持ち切りの終価自体が小さくなり、早期売却が相対的に有利になるためです。出口利回りの上昇ペースを年0.08ptまで速めると、境界値はむしろ上がります(長く持つと価格が下がるので早期売却が有利になりそうですが、残債の減少効果のほうが大きいためです)。

どの組み合わせでも、定期預金(税引後0.376%)と10年国債(税引後2.470%)は境界値に届きません。この結論は前提の置き方に対して頑健でした。

結果から分かること

  • IRRは保有年数とともに上がり、17年目に4.607%でピークを打った。15〜20年の差は0.11pt以内で、ピークは平坦だった
  • 保有6年のIRRは0.252%。購入諸費用8.5%・売却費用3.5%・6年間の価格下落12.68%を実額で計上すると、「短期保有はIRRが高い」は成り立たなかった
  • IRRは期中CFと売却代金を自分自身の利回りで再投資できる前提を置いている。2026年10月時点でその水準に近い受け皿はJ-REIT(税引後4.440%)だけで、定期預金は0.376%、10年国債は2.470%だった
  • 同じ20年軸で終価を比べると、定期預金前提では20年持ち切り4,205万円に対し10年売却は3,038万円で、1,167万円の差がついた
  • J-REIT水準(税引後4.440%)まで受け皿の利回りが上がると、終価の最大は17年売却へ移り、20年持ち切りを59万円上回った
  • IRRは実効年率を最大1.264pt(18年売却、定期預金前提)過大に見せていた。過大評価の幅は保有年数が長いほど大きい
  • 10年で売って乗り換えるには、受け皿の税引後利回りが6.00%必要だった。金利2.5〜3.5%・出口利回り+0.03〜0.08pt/年の9通りでも5.62〜6.70%に収まった
  • IRRのピーク年と、終価が最大になる売却年は一致しない。この条件では定期預金前提で20年、J-REIT前提で17年だった

投資判断への使い方

この分析から取り出せる判断の手順は3つです。

1.売却年を比べるときは、IRRの前に「次の受け皿」を決める

保有年数の違う売却案をIRRで並べる前に、売却代金を何に置くかを先に決めます。現金(定期預金)に戻すつもりなら、IRRの順位は使えません。売却後に同等の物件を買う計画が具体的にあるなら、IRRの順位がそのまま使えます。受け皿が決まっていない段階でIRRの最大値を探すのは、順序が逆です。

2.保有年数が違う案は、終価で比べる

投下自己資金2,223.0万円に対して、20年後にいくらになっているかを計算します。期中CFも売却代金も、決めた受け皿の税引後利回りで20年目まで運ばせます。本記事の条件では、この比較で初めて「定期預金に戻すなら持ち切り、J-REIT水準の受け皿があるなら17年」という結論が出ました。

3.境界値を「受け皿の必要利回り」として持っておく

6.00%という数字は、物件の良し悪しではなく「10年で売るなら次に何が必要か」を示す基準です。乗り換え先の候補が税引後6%を出せないなら、その売却は終価を減らします。逆に税引後6%を超える受け皿が実在するなら、10年での売却は合理的な選択になります。

なお本記事の条件では、税引後CFが15年目にマイナス35.7万円へ転じます。減価償却が14年で切れるためで、終価の計算ではこのマイナスを運用資産から取り崩しています。持ち切りを選ぶ場合は、15年目以降に年35.7万円〜76.8万円を手元から入れられるかという資金計画の問題が別に発生します。IRRや終価の数字だけでは、この「払えるかどうか」は判定できません。

今回の試算は、金利3.0%・LTV80%・出口利回り+0.05pt/年という1つの条件セットの結果です。自分の物件の借入額・金利・返済期間・NOI・出口利回りを入れて売却年別のIRRと手残りを確認したい場合は、売却年別のIRRと税引後手残りを試算する(RE-AIの無料の売却・出口戦略シミュレーター)で、35年分の出口比較と感応度を数値で出せます。そこで得たIRRに対して、本記事の手順で「自分の受け皿の税引後利回り」を当てはめ直してください。

この分析では分からないこと

  • 実際の売却価格。出口利回りの上昇ペースを年0.05ptと置きましたが、売却時点の金融環境・買い手の融資条件・個別物件の競争力で大きく変わります
  • 再投資利回りの実現値。定期預金・国債の利率は確認できますが、20年間その水準が続く保証はありません。J-REITの分配金利回りは価格変動を含まないため、元本が維持される前提での上限側の数字です
  • 実際の融資条件。LTV80%・期間25年・金利3.0%が出るかは金融機関と属性で決まります。木造築10年に25年融資を出すのは、法定耐用年数の残存12年を超えて建物の経済的残存年数を評価する金融機関に限られます
  • 税務条件。所得税+住民税33.693%は課税所得900万円超の個人を想定した値です。法人保有、課税所得の水準、他の不動産所得との通算で結果は変わります
  • 建物・管理の状態。大規模修繕の時期と金額、設備更新の重なり方は織り込んでいません。15年目以降のマイナスCFはこれらを含まない数字です
  • 相関と因果の区別。再投資利回りが高い局面(金利上昇局面)は、同時に借入金利も高く、出口利回りも上がりやすい局面です。本記事は再投資利回りだけを独立に動かしていますが、現実にはこれらは連動します。したがって「受け皿の利回りが上がったから早期売却が有利」という単純な因果では読めません

まとめ

IRRは保有年数とともに上がり、この条件では17年目の4.607%がピークでした。しかしIRRは、期中の手残りと売却代金を同じ4.607%で再投資できる前提を置いています。2026年10月時点で確認できる受け皿は、税引後で定期預金0.376%・10年国債2.470%・J-REIT4.440%でした。

同じ20年軸に揃えて終価を比べ直すと、定期預金に戻す投資家の場合は20年持ち切り(4,205万円)が最も多く残り、10年売却(3,038万円)との差は1,167万円でした。10年で売って乗り換えるために必要な受け皿の税引後利回りは6.00%で、金利と出口利回りを9通りに振っても5.62〜6.70%に収まりました。

この条件で言えるのは、「収益性は保有を延ばすほど改善するが、延ばした分の資金計画(15年目以降のマイナスCF)が別の制約になる」ということと、「売却の是非はIRRの大小ではなく、次の受け皿の利回りで決まる」ということです。どちらか一方だけで買い・売りを決められる数字ではありません。

IRRという指標そのものが悪いわけではなく、同じ保有年数の物件同士を比べるなら有効な尺度です。保有年数が違う案を並べる場面でだけ、終価に直す手順が必要になります。

参考資料・出典

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鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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