
収益物件を探すとき、多くの人がまず表面利回りを見ます。6.4%より8.1%のほうが良い物件に見えます。
ところが、健美家が2026年10月19日に公表した築年帯別の実勢利回りを使って10年保有・売却まで通して計算すると、購入時の表面利回りが6.41%の大阪市と6.52%の川崎市で、10年IRRは▲14.28%と+0.40%に分かれました。差は14.68ptです。
この記事では、同じ融資条件・同じ運営条件を15エリアすべてに当てはめ、「築古化したときに利回りがどこまで開くか」だけが違う状態をつくって比較しました。購入時の利回りとIRRの相関は+0.443にとどまり、利回りの開きとIRRの相関は▲0.770でした。
中古の一棟アパートは、築年数が上がるほど表面利回りが高くなります。これは「築古は収益性が高い」のではなく、「買い手が同じ家賃に対して安い値段しか払わない」ということです。つまり築年帯別の利回り差は、そのまま保有中に起きる価格下落の予告でもあります。
そこで検証するのは次の3点です。
数字の性質を混ぜないよう、最初に区分を示します。
情報確認日は2026年10月24日です。
比較の目的は「エリアの利回り構造の違いだけを取り出すこと」です。そのため融資条件を全エリアで完全に同一にしました。現実には金融機関の姿勢も金利もエリアで異なりますが、それを入れると何が効いたのか分からなくなります。
固定した条件
変えた条件
検証した移行シナリオは2つです。①築10年未満の物件を買い、10年後に築10年台の帯で売る。②築10年台の物件を買い、10年後に築20年以上の帯で売る。いずれも観測された帯の値だけを使い、外挿はしていません。
家賃の経年減価と、帯が移ることによる利回り上昇を同時に反映すると、10年後の価格はこうなります。
エリア | 築10年未満 | 築10年〜 | 築20年〜 | ①築浅→築10年台 | ②築10年台→築20年台 |
|---|---|---|---|---|---|
東京23区 | 5.07% | 5.63% | 6.03% | -17.6% | -14.6% |
川崎市 | 5.75% | 6.52% | 6.90% | -19.3% | -13.6% |
横浜市 | 6.33% | 6.82% | 7.55% | -15.1% | -17.4% |
東京市部 | 5.57% | 6.02% | 7.18% | -15.4% | -23.3% |
埼玉主要都市 | 5.89% | 5.58% | 6.94% | -3.4% | -26.4% |
千葉主要都市 | 6.19% | 6.37% | 7.59% | -11.1% | -23.2% |
一都三県 | 5.76% | 6.24% | 7.64% | -15.6% | -25.3% |
札幌市 | 7.37% | 8.14% | 9.58% | -17.2% | -22.3% |
仙台市 | 6.25% | 7.12% | 10.13% | -19.7% | -35.7% |
名古屋市 | 6.36% | 7.03% | 8.06% | -17.2% | -20.2% |
京都市 | 5.13% | 5.48% | 7.20% | -14.4% | -30.4% |
大阪市 | 5.86% | 6.41% | 9.22% | -16.4% | -36.4% |
神戸市 | 6.25% | 7.08% | 13.16% | -19.2% | -50.8% |
福岡市 | 5.83% | 5.93% | 7.28% | -10.1% | -25.5% |
全国 | 5.95% | 6.77% | 9.30% | -19.6% | -33.4% |
読み取れるのは2点です。
第一に、①の区間(築浅の10年)はエリア差が小さい。▲10%〜▲20%にほぼ収まります。第二に、②の区間(築10年台の10年)で差が一気に開く。川崎市の▲13.6%に対し、大阪市は▲36.4%です。2.7倍の開きがあります。
築浅のうちは、どのエリアでも価格は似たペースで下がる。エリアの差が出るのは、物件が「築20年以上」として扱われ始めるときだ、ということです。
シナリオ②について、同一の融資・運営条件で10年保有・売却まで計算した結果です。
エリア | 購入利回り | 売却時利回り | 開き | 価格変化 | 初年度 | 10年IRR |
|---|---|---|---|---|---|---|
札幌市 | 8.14% | 9.58% | 1.44pt | -22.3% | 1.34 | +1.80% |
川崎市 | 6.52% | 6.90% | 0.38pt | -13.6% | 1.07 | +0.40% |
横浜市 | 6.82% | 7.55% | 0.73pt | -17.4% | 1.12 | -0.15% |
名古屋市 | 7.03% | 8.06% | 1.03pt | -20.2% | 1.16 | -0.66% |
東京23区 | 5.63% | 6.03% | 0.40pt | -14.6% | 0.93 | -2.29% |
千葉主要都市 | 6.37% | 7.59% | 1.22pt | -23.2% | 1.05 | -3.98% |
東京市部 | 6.02% | 7.18% | 1.16pt | -23.3% | 0.99 | -5.12% |
一都三県 | 6.24% | 7.64% | 1.40pt | -25.3% | 1.03 | -5.50% |
福岡市 | 5.93% | 7.28% | 1.35pt | -25.5% | 0.98 | -6.64% |
埼玉主要都市 | 5.58% | 6.94% | 1.36pt | -26.4% | 0.92 | -8.45% |
全国 | 6.77% | 9.30% | 2.53pt | -33.4% | 1.12 | -9.18% |
仙台市 | 7.12% | 10.13% | 3.01pt | -35.7% | 1.17 | -9.72% |
京都市 | 5.48% | 7.20% | 1.72pt | -30.4% | 0.90 | -11.94% |
大阪市 | 6.41% | 9.22% | 2.81pt | -36.4% | 1.06 | -14.28% |
神戸市 | 7.08% | 13.16% | 6.08pt | -50.8% | 1.17 | 算定不能 |
購入利回りの順番と、IRRの順番がまったく一致していません。
とくに分かりやすいのが次の3組です。
なお神戸市は売却時の利回りが13.16%と突出しており、計算上は10年後の売却手取りが残債を下回ってIRRが算定できませんでした。築20年以上の帯に極端な高利回り物件が少数含まれている可能性があり、他エリアと同列には扱えません。
IRRの水準そのものが全体に低いのは、金利3.0%・LTV80%・運営費20%という厳しめの条件を全エリアに一律で当てはめているためです。この表で意味があるのは水準ではなく、順位と差の大きさです。
神戸市を除く14エリアで相関係数を計算しました。
購入利回りとIRRにも正の関係はありますが、弱いものです。はるかに強く効いていたのは、保有中に利回りが何pt開くかでした。
理屈は単純です。購入利回りが1pt高いことで増えるのは年間のキャッシュフローですが、売却時の利回りが1pt開くことで減るのは売却価格そのものです。利回り7%の物件で出口利回りが1pt上がれば、価格は約12.5%下がります。10年分のキャッシュフロー差より、1回の売却価格差のほうが大きくなりやすいということです。
同じ条件でシナリオ①も計算すると、順位の構造が変わります。
エリア | 購入利回り | 売却時利回り | 開き | 価格変化 | 10年IRR |
|---|---|---|---|---|---|
埼玉主要都市 | 5.89% | 5.58% | -0.31pt | -3.4% | +1.98% |
札幌市 | 7.37% | 8.14% | +0.77pt | -17.2% | +1.42% |
千葉主要都市 | 6.19% | 6.37% | +0.18pt | -11.1% | +0.38% |
福岡市 | 5.83% | 5.93% | +0.10pt | -10.1% | -0.16% |
横浜市 | 6.33% | 6.82% | +0.49pt | -15.1% | -0.64% |
名古屋市 | 6.36% | 7.03% | +0.67pt | -17.2% | -1.37% |
一都三県 | 5.76% | 6.24% | +0.48pt | -15.6% | -2.33% |
大阪市 | 5.86% | 6.41% | +0.55pt | -16.4% | -2.38% |
神戸市 | 6.25% | 7.08% | +0.83pt | -19.2% | -2.50% |
仙台市 | 6.25% | 7.12% | +0.87pt | -19.7% | -2.70% |
東京市部 | 5.57% | 6.02% | +0.45pt | -15.4% | -2.75% |
京都市 | 5.13% | 5.48% | +0.35pt | -14.4% | -3.50% |
全国 | 5.95% | 6.77% | +0.82pt | -19.6% | -3.52% |
川崎市 | 5.75% | 6.52% | +0.77pt | -19.3% | -3.96% |
東京23区 | 5.07% | 5.63% | +0.56pt | -17.6% | -5.09% |
①では利回りの開きが最大でも0.87pt(仙台市)、多くが0.5pt前後に収まります。埼玉主要都市のように築10年台のほうが利回りが低い=価格が落ちにくい逆転も出ています(ただしこれは四半期単位のサンプル変動の可能性があり、過度に読み込むべきではありません)。
一方、東京23区が①で最下位になっているのは、購入利回り5.07%に対してLTV80%・金利3.0%という条件が過大だからです。低利回りエリアは、そもそもこの借り方を前提にできないという結果として読むのが妥当です。
ここまでは「実勢で買ったらどうなるか」でした。逆に、10年IRR5%を確保するには実勢よりどれだけ高い利回りで買う必要があるかを逆算します。読者の物件が特定の価格帯でなくても使えるよう、必要な値引き率も併記しました。
エリア | 実勢の購入利回り | 10年IRR5%に | 必要なプレミアム | 実勢価格からの |
|---|---|---|---|---|
札幌市 | 8.14% | 8.68% | +0.54pt | 6.2% |
川崎市 | 6.52% | 7.26% | +0.74pt | 10.2% |
横浜市 | 6.82% | 7.64% | +0.82pt | 10.8% |
名古屋市 | 7.03% | 7.92% | +0.89pt | 11.3% |
東京23区 | 5.63% | 6.69% | +1.06pt | 15.9% |
千葉主要都市 | 6.37% | 7.66% | +1.29pt | 16.9% |
一都三県 | 6.24% | 7.69% | +1.45pt | 18.9% |
東京市部 | 6.02% | 7.43% | +1.41pt | 18.9% |
仙台市 | 7.12% | 8.92% | +1.80pt | 20.2% |
福岡市 | 5.93% | 7.49% | +1.56pt | 20.8% |
全国 | 6.77% | 8.55% | +1.78pt | 20.8% |
埼玉主要都市 | 5.58% | 7.28% | +1.70pt | 23.4% |
大阪市 | 6.41% | 8.51% | +2.10pt | 24.7% |
京都市 | 5.48% | 7.44% | +1.96pt | 26.3% |
神戸市 | 7.08% | 10.06% | +2.98pt | 29.6% |
札幌市は実勢8.14%に対して必要が8.68%で、差は0.54pt(値引き6.2%相当)。大阪市は実勢6.41%に対して8.51%が必要で、差は2.10pt(値引き24.7%相当)です。
「どこで買うか」より「そのエリアで何ptのプレミアムを取れたか」が判断軸になるということです。大阪市の物件を実勢利回りで買うことと、札幌市の物件を実勢利回りで買うことは、同じ行為ではありません。
13四半期の系列があるエリアについて、築20年以上と築10年未満の利回り差(築年プレミアム)の変化を見ます。
エリア | 2023年7-9月期 | 2026年7-9月期 | 変化 |
|---|---|---|---|
川崎市 | 0.22pt | 1.15pt | +0.93pt |
全国 | 3.03pt | 3.35pt | +0.32pt |
一都三県 | 2.00pt | 1.88pt | -0.12pt |
東京23区 | 1.12pt | 0.96pt | -0.16pt |
千葉主要都市 | 1.66pt | 1.40pt | -0.26pt |
札幌市 | 2.72pt | 2.21pt | -0.51pt |
埼玉主要都市 | 1.65pt | 1.05pt | -0.60pt |
仙台市 | 5.10pt | 3.88pt | -1.22pt |
全国平均は3.03pt→3.35ptと拡大、仙台市は5.10pt→3.88ptと縮小しています。方向は一様ではありません。
ここで注意が必要です。利回り差の縮小は「築古の価格が持ち直した」とも「築浅の価格が下がった」とも解釈できます。実際、この3年間は築10年未満の利回りがほぼ全エリアで低下(=価格上昇)しており、差の縮小の少なくとも一部は築浅側の値上がりによるものです。差だけを見て築古の出口が改善したと結論づけることはできません。
「利回りの開きが大きいエリアはIRRが低い」という関係はデータで確認できますが、開きが大きいこと自体が原因ではありません。背後には、将来の賃貸需要、人口・世帯の見通し、建て替えや再開発の余地、買い手がどれだけ融資を引けるかといった要因があり、それらが価格に織り込まれた結果として利回り差が現れていると考えるのが自然です。
したがって「利回りの開きが小さいエリアを選べば儲かる」ではなく、「利回りの開きは、そのエリアの出口リスクが価格に織り込まれている度合いを測る指標として使える」という読み方になります。
実務に落とすと、次の3点になります。
①「利回りが高い」を単独で評価しない。その利回りが、同じエリアの築浅帯と比べて何pt高いのかを見ます。全国平均では築20年以上と築10年未満の差が3.35pt。これより小さければ、築古の割に市場が評価している(=出口が取りやすいと見られている)と読めます。
②出口は「何年後に売るか」ではなく「何年後に築何年か」で考える。築12年の物件を10年持てば築22年です。築20年以上の利回り帯に入った瞬間、エリアによっては価格の前提が変わります。
③必要なプレミアムを先に決めてから指値する。上の逆算表の「必要な値引き」は、そのエリアの実勢価格から何%引けば10年IRR5%に届くかを示しています。
ただし、この記事の試算は金利3.0%・LTV80%・融資期間25年・運営費20%という共通条件に固定したものです。実際には借入条件も運営費率もエリアと物件で変わり、出口利回りをいくつで置くかでも結論は動きます。自分の条件で出口を試算したい場合は、RE-AIの売却・出口戦略シミュレーターで保有年数とExit Cap Rateを変えながら試算できます。Exit Cap Rateを±1pt動かしたときの感応度表や、目標IRRから必要売却価格を逆算する機能もあります。
表面利回りは「今の収益性」を表しますが、築年帯別に並べると「これから起きる価格下落」も同時に表しています。15エリアで同じ融資条件を当てて計算した結果、10年IRRを強く説明していたのは購入時の利回り(r=+0.443)ではなく、築古化による利回りの開き(r=▲0.770)でした。
この条件下では、購入利回りがほぼ同じ大阪市と川崎市でIRRが14.68pt分かれ、10年IRR5%に必要な利回りプレミアムは札幌市+0.54pt、大阪市+2.10ptと開きました。
ひとつの結論に寄せるなら、「高利回りエリアは危ない」でも「都心が安全」でもありません。収益性は購入利回りで、出口リスクは築年帯の利回り差で、別々に測るということです。この2つは同じ数字から読めますが、同じことを意味していません。
複数条件を同時に動かすと確認項目が増えます。RE-AIでは収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を分けて確認できるよう設計していますが、個別物件の賃貸需要や建物状態までは代替できません。最終的な判断には現地確認と専門家の確認が必要です。
情報確認日:2026年10月24日
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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