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出口戦略

売却価格の天井は「買い手が何年借りられるか」で決まる|木造は築3年から下がり始め、10年保有で38.7%落ちた

売却価格の天井は「買い手が何年借りられるか」で決まる|木造は築3年から下がり始め、10年保有で38.7%落ちた

収益物件のシミュレーションで、出口(売却)価格を「購入時の利回り+0.5pt」といった出口利回りの仮定から置くやり方は広く使われています。ただ、この置き方には前提が一つ抜けています。出口価格を実際に決めるのは、自分の期待ではなく「次の買い手がいくら借りられるか」だという点です。

買い手の多くは融資を使います。そして融資可能額は、買い手の金利・融資期間・DSCR基準・LTV上限で決まります。ここから逆算すると、「買い手が払える価格の天井」と、それに対応する「最低出口利回り」が計算できます。この記事では、その天井を構造別・築年数別に計算し、家賃も金利も一切変わらなくても価格天井がどれだけ落ちるかを検証しました。

結論を先に書くと、木造一棟アパートでは築3年目から価格天井が下がり始め、築10年で買って10年保有すると、NOIも金利も不変のまま天井は38.7%低下しました。一方RCでは同じ条件で天井の低下は0%でした。使用したデータは、国税庁の耐用年数、金融庁の融資実態調査、日本銀行の貸出金利、日本不動産研究所の期待利回りです(情報確認日:2026年9月17日)。

この記事で検証する疑問

検証するのは次の3点です。

  1. 買い手の融資条件から逆算すると、出口利回りの下限は何%になるのか
  2. 保有期間が延びると、その下限はどれだけ上がるのか(=価格天井はどれだけ落ちるのか)
  3. 一般的に使われる「出口利回り=購入時+0.5pt」という仮定は、どういう条件でしか成り立たないのか

なお、指標そのものの説明は既存記事に譲ります。DSCRの定義と目安は不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例、ローン定数Kの考え方はイールドギャップは「利回り−金利」では測れない|ローン定数Kで測り直すと負のレバレッジだった、出口戦略の全体像は収益物件の出口戦略完全ガイドで扱っています。

計算方法:買い手の融資制約から最低出口利回りを導く

買い手が融資を使って物件を買うとき、払える上限は次の順序で決まります。

  1. 買い手が許容できる年間返済額 = 物件のNOI ÷ 買い手のDSCR基準
  2. 買い手の借入可能額 = 年間返済額 ÷ ローン定数K(金利と融資期間で決まる、借入1円あたりの年間返済額)
  3. 買い手が払える価格の天井 = 借入可能額 ÷ 買い手のLTV上限

これを1本の式にまとめると、天井価格でのNOI利回り(=出口利回り)は次のようになります。

融資制約が示す最低出口利回り = DSCR基準 × ローン定数K(金利, 融資期間) × LTV上限

この式にはNOIも物件価格も入っていません。つまり最低出口利回りは、物件の規模や価格帯とは無関係に、買い手の融資条件だけで決まります。これが、特定の物件価格を置かずに検証できる理由です。ローン定数Kは元利均等・月払いで計算しています(K=年間返済額÷借入元金)。

買い手の融資期間をどう置くか

融資期間は建物の残存耐用年数に連動します。ここは金融機関ごとに扱いが違うため、金融庁の実態調査で実務の主流を確認しました。

金融庁「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」(2019年3月、有効回答:銀行115、信用金庫・信用組合304)によると、融資期間の設定に法定耐用年数を用いる先は「必ず行っている」が銀行6%、信金・信組12%にとどまります。一方経済的耐用年数を用いる先は「必ず行っている」が銀行50%、信金・信組36%、「概ね2/3以上の案件で行っている」を加えると銀行81%、信金・信組57%でした。

したがって「木造は築22年で融資が終わる」という説明は、法定耐用年数だけを見た話であり、実務の主流ではありません。ただしどちらを使っても「残存年数が融資期間を縛る」構造は同じです。そこで本記事では、経済的耐用年数を法定耐用年数+10年とみなし、融資期間の上限を30年とする前提で計算します(これは計算のための仮定であり、金融機関共通のルールではありません)。

法定耐用年数は国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」の店舗用・住宅用の値を使いました。木造・合成樹脂造22年、木骨モルタル造20年、金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下)27年、金属造(4mm超)34年、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造47年です。

分析条件

結果だけを見て誤解しないために、何を固定し、何を動かしたかを明示します。

区分

項目

設定

固定条件

買い手のDSCR基準

1.2倍

買い手のLTV上限

80%

買い手の金利

2.5%(別表で2.0〜4.0%も検証)

融資期間の上限

30年

NOI

一定(複合ストレスの表のみ変動)

税金

考慮せず(すべて税引前)

変更条件

建物構造

木造/重量鉄骨(4mm超)/RC

購入時の築年数

0・5・10・15・20年

保有年数

5・10・15年

購入時の表面利回り

7.5〜10.0%

使用データの区分は次の通りです。【公開データ】国税庁の耐用年数、金融庁の融資実態調査、日本銀行の政策金利・貸出約定平均金利、日本不動産研究所の期待利回り。【シミュレーション】ローン定数・最低出口利回り・天井価格・IRRの計算結果。【架空ケース】後半で使う木造一棟8戸の物件条件。RE-AIの診断実データは使用していません。

結果1:融資期間が縮むと、最低出口利回りは加速的に上がる

買い手のDSCR1.2・LTV80%・金利2.5%を置いて、融資期間ごとに最低出口利回りを計算しました。右端は、NOI率75%(空室・滞納損5%、運営費が満室年収の20%)を前提に表面利回りへ換算した値です。

買い手の融資期間

ローン定数K

融資制約が示す最低出口利回り(NOIベース)

表面利回り換算

30年

4.74%

4.55%

6.07%

25年

5.38%

5.17%

6.89%

22年

5.91%

5.68%

7.57%

20年

6.36%

6.10%

8.14%

17年

7.23%

6.94%

9.25%

15年

8.00%

7.68%

10.24%

12年

9.65%

9.27%

12.36%

10年

11.31%

10.86%

14.48%

7年

15.59%

14.96%

19.95%

融資期間が30年から22年へ8年縮むと最低出口利回りは1.13pt上がるだけですが、22年から12年へ10年縮むと3.59pt上がります。ローン定数Kは期間が短くなるほど加速的に大きくなるため、残存年数の減少が効いてくるのは後半です。

この数値は市場の実勢と整合するか

計算結果が現実離れしていないかを、公開データで確認しました。日本不動産研究所「不動産投資家調査」第54回(2026年4月現在)の賃貸住宅の期待利回りは、ワンルームタイプで東京城南3.6%、大阪4.3%、名古屋4.5%、福岡4.5%、札幌・仙台5.0%、広島5.1%です。

表1に照らすと、期待利回り4.5〜5.1%という水準は、買い手が25〜30年借りられることを前提にしないと成立しません。これは長期融資が付くRC・築浅の賃貸マンションが調査対象であることと整合します。逆に、地方の築古木造アパートが表面12%前後で売買されるのは、買い手の融資期間が12年程度しか取れないことの裏返しと読めます(表1の12年=表面12.36%)。式が市場の利回り水準を再現できている点は、この分析の妥当性を支える材料になります。

結果2:「天井が下がり始める築年数」は構造で3年・15年・28年に分かれた

融資期間の上限を30年とすると、残存耐用年数が30年を上回っている間は融資期間が30年で頭打ちになるため、築年数が進んでも価格天井は動きません。天井が下がり始めるのは、残存耐用年数が30年を割った瞬間からです。

売却価格の天井は「買い手が何年借りられるか」で決まる|木造は築3年から下がり始め、10年保有で38.7%落ちた

構造

法定耐用年数

価格天井が下がり始める築年数

融資が付かなくなる築年数

木骨モルタル造

20年

築1年

築30年

木造・合成樹脂造

22年

築3年

築32年

金属造(3mm超4mm以下)

27年

築8年

築37年

金属造(4mm超・重量鉄骨)

34年

築15年

築44年

RC・SRC

47年

築28年

築57年

木造で語られる「築22年の壁」は、融資がゼロになる地点の話ではなく(この前提では築32年)、実際には築3年目から毎年少しずつ天井が落ち続けています。壁は一段の崖ではなく、早い時期から始まる下り坂です。

結果3:NOIも金利も変わらなくても、天井は保有年数分だけ落ちる

次に、NOI・金利・DSCR基準・LTV上限をすべて据え置き、「買い手の融資期間が保有年数分だけ短くなる」効果だけを取り出しました。天井の下落率は K(購入時の期間) ÷ K(売却時の期間) の比で決まります。

構造

購入時の築年数

購入時の融資期間

保有5年

保有10年

保有15年

木造

築0年

30年

−7.0%

−19.8%

−34.4%

築5年

27年

−13.8%

−29.5%

−47.2%

築10年

22年

−18.2%

−38.7%

−62.1%

築15年

17年

−25.1%

−53.6%

−85.9%

築20年

12年

−38.1%

−81.2%

融資不可

重量鉄骨

築0年

30年

0.0%

0.0%

−2.3%

築5年

30年

0.0%

−2.3%

−14.5%

築10年

30年

−2.3%

−14.5%

−28.3%

築15年

29年

−12.5%

−26.7%

−42.7%

築20年

24年

−16.2%

−34.6%

−55.4%

RC

築0年

30年

0.0%

0.0%

0.0%

築5年

30年

0.0%

0.0%

0.0%

築10年

30年

0.0%

0.0%

0.0%

築15年

30年

0.0%

0.0%

−7.0%

築20年

30年

0.0%

−7.0%

−19.8%

同じ「築10年で買って10年保有」でも、木造は−38.7%、重量鉄骨は−14.5%、RCは0.0%です。差は建物の物理的な劣化ではなく、買い手に付く融資期間の残り方から生まれています。建物の減価そのものは構造別に同じ中古アパートでも木造とRCで年間減価償却費は321万円違うで扱っていますが、ここで見ているのは税務上の減価ではなく融資可能額の減り方です。

この結果は、保有期間とIRRの関係を扱った出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか|保有5年・10年・15年・20年で検証の続きにあたります。あちらは出口利回りの上昇幅を外から与えていましたが、本記事はその上昇幅が「どこから来るのか」を融資期間から導いています。

結果4:「出口利回り+0.5pt」が成立する条件を逆算する

では、一般的な「出口利回り=購入時+0.5pt」という仮定は、どこまで許されるのでしょうか。想定する出口利回りごとに、買い手に必要な融資期間と、そこから逆算した売却時の築年数の上限を計算しました(買い手DSCR1.2・LTV80%・金利2.5%)。

想定する出口利回り

買い手に必要な融資期間

木造:売却時築年数の上限

重量鉄骨

RC

5.50%

23年以上

築9年以内

築21年以内

築34年以内

6.00%

21年以上

築11年以内

築23年以内

築36年以内

6.50%

19年以上

築13年以内

築25年以内

築38年以内

7.00%

17年以上

築15年以内

築27年以内

築40年以内

7.50%

16年以上

築16年以内

築28年以内

築41年以内

8.00%

15年以上

築17年以内

築29年以内

築42年以内

つまり「出口利回り6.5%で売れる」と置けるのは、木造なら売却時が築13年以内のときだけです。築10年で買って10年保有する計画なら売却時は築20年で、この仮定は使えません。RCであれば築38年まで許容されるため、同じ仮定が成り立つ余地はずっと広くなります。

結果5:基準ケースで、必要な購入利回りを逆算する

ここからは架空ケースを1つ置いて、投資判断に使える形へ落とします。この物件条件は説明のために設定したもので、実在の物件統計ではありません。

基準ケースの設定

今回の分析対象は「木造一棟アパートを地方で買い、10年前後で売却する」個人投資家です。木造を選んだのは、表2の通り価格天井の低下がもっとも早く始まる構造であり、検証の意義が大きいためです。物件価格は入力せず、戸数と賃料から満室年収を先に決め、表面利回りを変数として価格を後から導きます。

  • 木造一棟アパート・8戸、1戸あたり月額賃料6.0万円 → 満室想定年収576万円
  • 空室・滞納損5%、運営費は満室年収の20% → NOI 432.0万円(NOI率75.0%)
  • 購入時の築年数:築10年 → 自分の融資期間22年、金利2.5%、LTV80%
  • 購入諸費用8.5%、売却諸費用3.5%、家賃一定、税引前
  • 売却価格は買い手の融資天井(買い手DSCR1.2・LTV80%・金利2.5%)

諸費用8.5%は不動産投資の諸費用は本当に7%なのか|税率から積み上げると8.0〜9.2%で積み上げた水準を採用しています。

購入時の表面利回り別に見たIRR

購入時表面利回り

購入価格

購入時DSCR

年間CF(税引前)

保有5年 売却額/IRR

保有10年 売却額/IRR

保有15年 売却額/IRR

7.50%

7,680万円

1.19

68.6万円

6,227万円/−10.46%

4,661万円/−5.22%

2,887万円/−3.61%

8.00%

7,200万円

1.27

91.3万円

6,227万円/−3.45%

4,661万円/−1.09%

2,887万円/−0.40%

8.50%

6,776万円

1.35

111.4万円

6,227万円/2.21%

4,661万円/2.24%

2,887万円/2.23%

9.00%

6,400万円

1.43

129.2万円

6,227万円/7.04%

4,661万円/5.07%

2,887万円/4.50%

9.50%

6,063万円

1.51

145.1万円

6,227万円/11.28%

4,661万円/7.58%

2,887万円/6.53%

10.00%

5,760万円

1.59

159.5万円

6,227万円/15.09%

4,661万円/9.84%

2,887万円/8.40%

売却額が表面利回りによらず同じなのは、天井価格がNOIと買い手の融資条件だけで決まるためです(NOIは全ケース432.0万円で固定)。購入価格が高いほど、同じ天井に対する下落率が大きくなります。表面7.5%で買うと保有10年の売却額は購入価格の−39.3%、表面10.0%なら−19.1%です。

ここから逆算すると、税引前IRR5%を確保するのに必要な購入時の表面利回りは次の通りでした。

保有年数

売却時築年数

買い手の融資期間

天井価格

必要な購入時表面利回り

そのときの購入時DSCR

5年

築15年

17年

6,227万円

8.80%

1.39

10年

築20年

12年

4,661万円

9.00%

1.43

15年

築25年

7年

2,887万円

9.15%

1.45

注目したいのは、保有年数を5年から15年へ延ばしても、必要な表面利回りが8.80%→9.15%と0.35ptしか動かない点です。天井の下落は大きいのに必要利回りがあまり増えないのは、保有期間が長いほど残債の減少とCFの累積が価格低下を相殺するためです。残債と手残りの関係は残債と売却手残りが逆転するのは何年目か|フルローンの「出口が開く年」を逆算で詳しく扱っています。

この試算では買い手の金利を2.5%で固定していますが、実際の借入条件・返済期間・NOIによって結果は変わります。自分の物件条件で売却価格と手残りを確かめたい場合は、RE-AIの無料 出口・売却シミュレーションで試算することができます。

結果6:融資期間の短縮に、家賃下落と金利上昇を重ねる

現実には複数の条件が同時に動きます。購入 表面9.0%(6,400万円)・保有10年を基準に、融資期間の短縮に加えて家賃下落と買い手金利の変化を重ねました。

シナリオ

家賃

買い手金利

売却時NOI

最低出口利回り

売却価格

売却手残り

税引前IRR

改善

年+0.5%

2.0%

454.1万円

9.00%

5,043万円(−21.2%)

1,730万円

7.31%

BASE

一定

2.5%

432.0万円

9.27%

4,661万円(−27.2%)

1,362万円

5.07%

STRESS

年−0.5%

3.0%

410.9万円

9.54%

4,309万円(−32.7%)

1,021万円

2.55%

SEVERE

年−1.0%

3.5%

390.7万円

9.81%

3,983万円(−37.8%)

707万円

−0.43%

買い手金利が2.5%から3.5%へ1pt上がっても最低出口利回りは9.27%→9.81%と0.54ptしか動きません。買い手金利より、家賃(NOI)の変化のほうが天井価格に直接効いています。これは、融資期間が12年まで短くなった段階ではローン定数Kのうち元金返済部分の比重が大きく、金利の影響が相対的に薄まるためです。金利と出口価格の連動そのものは金利1%上昇でIRRは6.15pt低下、うち74%は返済額ではなく売却価格が原因だったで別途検証しています。家賃下落カーブの置き方は家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかを参照してください。

結果7:慣行の出口利回り仮定を使うと、IRRは4.75pt過大になった

同じ基準ケース(購入 表面9.0%・保有10年)を、2つの出口価格の置き方で比較しました。

出口価格の置き方

出口利回り

売却価格

売却手残り

税引前IRR

慣行の仮定(購入時NOI利回り6.75%+0.5pt)

7.25%

5,959万円

2,614万円

9.82%

買い手の融資制約から逆算

9.27%

4,661万円

1,362万円

5.07%

2.02pt

1,298万円

1,252万円

4.75pt

売却価格の天井は「買い手が何年借りられるか」で決まる|木造は築3年から下がり始め、10年保有で38.7%落ちた

売却価格で1,298万円、税引前IRRで4.75ptの差です。投資判断としては「IRR9.8%なので買う」と「IRR5.1%なので条件次第」の違いになり、結論が変わり得る水準です。

結果から分かること

今回の計算条件のもとで、次のことが言えます。

  1. 最低出口利回りは物件価格と無関係に決まる。DSCR基準×ローン定数K×LTV上限で計算でき、融資期間30年なら4.55%、12年なら9.27%(金利2.5%・DSCR1.2・LTV80%)。
  2. 木造の価格天井は築3年目から下がり始める。「築22年の壁」のような一段の崖ではなく、早期から続く下り坂である。融資が付かなくなるのは築32年(経済的耐用年数=法定+10年の前提)。
  3. 家賃も金利も変わらなくても天井は落ちる。木造・築10年購入・10年保有で−38.7%。同条件でRCは0.0%、重量鉄骨は−14.5%。
  4. 「出口利回り+0.5pt」が使えるのは、木造なら売却時築13年以内まで。それ以降は融資制約のほうが厳しい。
  5. 保有を延ばしても必要な購入利回りはあまり上がらない。基準ケースで保有5年8.80%、15年9.15%。天井低下を残債減少とCF累積が相殺する。
  6. 天井価格に効くのは買い手金利よりNOI。買い手金利1pt上昇で最低出口利回りは0.54ptしか動かない(融資期間12年時点)。

投資判断への使い方

この分析は「買ってよい/買ってはいけない」を決めるものではありません。判断軸を増やすために使います。

  • 出口利回りを仮定する前に、売却時の築年数と買い手の融資期間を確認する。木造で売却時が築20年になるなら、出口利回り6.5%の仮定は表4の条件を満たしません。
  • 天井は「買ってよい価格」ではなく「超えてはいけない線」として使う。天井ぴったりで買うと買い手のDSCRは1.2、売却時には天井がさらに下がっているため、天井で買って天井で売る前提では手残りが残りません。
  • 構造の選択は出口の自由度の選択でもある。RCは売却時期の裁量が広い一方、購入時の利回りは低くなります(表1で融資期間30年=表面6.07%相当)。木造は高利回りを取れますが、売却時期の選択肢が早く狭まります。どちらが有利かは保有方針で変わります。
  • 収益性が保てていても、出口の感応度は別に見る。基準ケースは購入時DSCR1.43・年間CF129万円で保有中の収支は安定していますが、出口価格は購入価格比−27.2%です。保有中の指標と出口の指標は分けて評価する必要があります。

買い手が何年・何%で借りたときに年間返済額がいくらになるかは、RE-AIの無料 融資返済シミュレーションで返済額を確認すると、表1のローン定数を自分の条件に置き換えて確かめられます。今回のように金利・融資期間・空室・家賃下落・出口を同時に動かすと確認項目が増えるため、RE-AIでは収益性・融資・出口を並べて確認できるように設計していますが、実際の融資条件や建物の状態は個別に確認が必要です。

この分析で分からないこと

結果は前提に強く依存します。次の点はこの分析では扱えていません。

  1. 実際の融資期間は金融機関ごとに違う。「経済的耐用年数=法定+10年、上限30年」は計算のための仮定です。金融庁調査が示すのは経済的耐用年数を用いる先が多いという事実までで、具体的な年数の決め方は開示されていません。上限を35年とすれば木造の天井は築0年から下がり始め、逆に法定耐用年数のみで判断する金融機関(調査では銀行6%)が相手なら天井はさらに低くなります。
  2. 現金購入者や自己資金比率の高い買い手は融資制約を受けない。この分析はレバレッジを使う買い手の上限を示すもので、実際の成約価格は現金買い手の期待利回りで決まる場合があります。地方の築古物件では特にこの影響が大きいと考えられます。
  3. 相関と因果を混同できない。築古木造の利回りが高いことと、買い手の融資期間が短いことは整合しますが、高利回りの原因が融資期間だけとは言えません。建物の競争力、修繕リスク、エリアの賃貸需要なども同時に影響します。
  4. 税金・減価償却を考慮していない。すべて税引前です。売却時の譲渡所得税や減価償却の影響を含めると結論は変わります。
  5. NOIの実現可能性は検証していない。NOI率75%は設定値で、実際の空室率・運営費・修繕費は物件ごとに異なります。
  6. 売却時の市場環境は織り込めない。金利水準、投資家の資金流入、金融機関の融資姿勢は時期により変動します。
  7. 建物個別の評価は対象外です。耐震性、劣化等級、検査済証の有無などによって融資期間が延びる場合も短くなる場合もあります。

まとめ

出口価格は、自分が置く出口利回りではなく、次の買い手が借りられる金額から天井が決まります。その天井は「DSCR基準×ローン定数K×LTV上限」で計算でき、物件価格には依存しません。

木造では価格天井が築3年目から下がり始め、築10年で買って10年保有するとNOIも金利も不変のまま38.7%低下しました。同じ条件でRCは0.0%です。慣行の「出口利回り+0.5pt」を使うと、基準ケースで税引前IRRを4.75pt過大に見積もる結果になりました。

収益性が十分でも、出口の自由度は構造と築年数で先に決まっています。購入を検討する段階で「自分が売るとき、買い手は何年借りられるのか」を確認しておくと、出口の見積り誤差を小さくできます。

参考資料・出典

情報確認日:2026年9月17日。金利・期待利回り・融資姿勢は時点によって変動します。本記事の数値は上記の公開データと、記事内に明示した条件によるシミュレーション結果であり、個別物件の融資可否・売却価格を保証するものではありません。実際の判断は金融機関・税理士・不動産会社への確認と併せて行ってください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

分析実績 87件(2026/08/07時点)X(旧Twitter)プロフィールと執筆記事 →