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融資

余剰資金は繰上返済か2棟目か|繰上返済に勝つ表面利回りは7.35%、一都三県の実勢6.82%では届かなかった

余剰資金は繰上返済か2棟目か|繰上返済に勝つ表面利回りは7.35%、一都三県の実勢6.82%では届かなかった

手元に自由に使える現金が積み上がったとき、不動産投資家の選択肢は大きく2つに分かれます。既存ローンを繰上返済するか、それを自己資金にして2棟目を買うか。

この判断は「どちらが儲かるか」と言葉で語られることが多く、数字で突き合わせた比較はあまり見かけません。繰上返済は利息が減る、2棟目は家賃が増える。単位が違うので、そのままでは比べられないからです。

そこで今回は、両方を「投入した現金1円あたりの税引後の増分リターン(増分IRR)」という同じ尺度に揃えて計算しました。そのうえで、2棟目が繰上返済に勝つために必要な表面利回りを既存借入金利別に逆算し、実際の市場で売りに出ている物件の利回り水準と突き合わせています。

結論を先に書くと、既存借入金利2.0%・10年保有の条件では、2棟目に必要な表面利回りは7.35%でした。健美家の2026年4〜6月期データでは一棟アパートの全国平均表面利回りは8.01%で届きますが、一都三県の平均は6.82%、東京23区は5.57%で届きません。「買える物件の利回り」で判断が反転します。

この記事で検証する疑問

  • 繰上返済の「実質的な利回り」は、借入金利そのものなのか
  • 2棟目は、表面利回りが何%あれば繰上返済に勝てるのか
  • その利回りは、いま実際に売られている物件で達成できる水準なのか
  • 年収(税率)が高いほど2棟目が有利、というのは本当か
  • 余剰資金が多いほど2棟目が有利、というのは本当か
  • 何年で売るつもりかによって、答えは変わるのか

使用したデータの区分

本記事の数値は、以下の3種類が混在しています。混同を避けるため先に区分を示します。

区分

内容

公開データ

日本銀行の貸出約定平均金利、健美家の収益物件市場動向、日本不動産研究所の期待利回り、国税庁の税率

シミュレーション

繰上返済・2棟目購入の増分キャッシュフローとIRR(すべて本記事で実際に計算)

架空ケース

2棟目の物件条件(表面利回り・空室率・運営費率・建物比率など、後述の前提表)

RE-AIの診断実績データは使用していません。「○件を分析した結果」という形の実測値は本記事には含まれません。情報確認日は2026年10月13日です。

前提条件:何を固定し、何を変えたか

固定した条件

項目

設定

設定の根拠

余剰資金(投入額)

1,000万円

計算単位として置いた値。後述のとおり結果は金額に依存しません

既存ローンの残存期間

25年以上

期間短縮型の繰上返済が成立する前提

2棟目の頭金

物件価格の20%

投資用ローンの標準的な自己資金比率

2棟目の購入諸費用

物件価格の9.0%

税率から積み上げた8.0〜9.2%のレンジ上限寄り

2棟目の融資期間

25年

築10年木造を想定

空室・滞納損

満室想定賃料の8%

入替期間の空室を含めた実効値として設定

運営費

満室想定賃料の20%

管理料・固定資産税・保険・小規模修繕・共用費の合計

建物比率/償却年数

45%/14年

築10年木造の簡便法:(22−10)+10×0.2=14年

家賃下落

年1.0%

-

出口還元利回り

取得時NOI利回り+0.5pt

10年分の築年数経過を反映

譲渡費用/長期譲渡税率

売却価格の4%/20.315%

個人・保有5年超

保有期間

10年(基準)

-

変更した条件

  • 既存借入金利(=2棟目の調達金利):1.5%/2.0%/2.5%/3.0%/3.5%/4.0%
  • 投資家の限界税率:20.21%/30.42%/33.48%/43.69%/50.84%
  • 2棟目の表面利回り:逆算対象の変数
  • 保有期間:5年/10年/15年/20年
  • 空室率・家賃下落率・出口利回りの3点同時悪化(BASE/STRESS/SEVERE)

限界税率は所得税(復興特別所得税2.1%込み)と住民税10%の合算です。たとえば課税所得900万〜1,800万円の層は33%×1.021+10%=43.69%となります。基準ケースはこの43.69%を使いました。

計算方法:2つの選択肢を同じ尺度に揃える

比較の肝は、どちらも「何もしなかった場合との差額キャッシュフロー」に変換することです。

繰上返済(期間短縮型)の増分キャッシュフロー

期間短縮型では毎月の返済額が変わりません。したがって年々のキャッシュフローは一見まったく動きませんが、税金だけは動きます。

  1. 投入時点:△1,000万円
  2. 各年:支払利息が減る → 不動産所得が増える → 追加納税が発生(減った利息×限界税率のマイナス)
  3. 保有終了時点:残債が少ない分だけ売却手残りが増える(+)

返済額が一定なので、繰上返済による残債の差額は借入金利で複利的に拡大します。10年後の残債削減額は、金利2.0%なら1,000万円が1,221万円に育ちます。簿価は変わらないので譲渡所得税への影響はありません。

この流れのIRRを計算すると、税引前IRRは借入金利とほぼ一致します(金利2.5%→2.53%、月複利分のわずかな上振れ)。計算モデルが正しく組めているかの検算にもなります。

2棟目購入の増分キャッシュフロー

  1. 投入時点:△1,000万円(頭金+諸費用)。購入可能価格は 1,000万円 ÷(20%+9.0%)= 3,448万円
  2. 各年:NOI − 元利返済 − 税金。税金は(NOI − 支払利息 − 減価償却)×限界税率
  3. 保有終了時点:売却価格 − 譲渡費用 − 残債 − 譲渡所得税

売却価格は、11年目のNOIを「取得時NOI利回り+0.5pt」で割り戻して求めています。

結果①:繰上返済の実質リターンは「金利」ではなく「金利×(1−税率)」

まず繰上返済側です。

既存借入金利

税率20.21%

税率30.42%

税率43.69%

税率50.84%

1.5%

1.21%

1.05%

0.85%

0.74%

2.0%

1.61%

1.40%

1.14%

0.99%

2.5%

2.02%

1.76%

1.42%

1.24%

3.0%

2.43%

2.12%

1.71%

1.50%

3.5%

2.84%

2.47%

2.00%

1.75%

(10年保有・期間短縮型・繰上返済手数料なしの場合の税引後増分IRR)

金利2.0%・税率43.69%の投資家にとって、繰上返済は税引後1.14%の運用でした。金利の2.0%ではありません。利息は経費なので、利息を減らすと同時に節税効果も失うためです。式で書けば、繰上返済の税引後リターンはおおむね金利×(1−限界税率)になります。

ここは直感と逆になりやすい部分です。「金利3.5%もあるから繰上返済は確実に得」と考えても、税率50.84%の層では実質1.75%の運用に過ぎません。一方で、この1.14%や1.75%には空室も修繕も出口価格のブレもありません。低いが確実性の高いリターンが繰上返済の正体です。

結果②:2棟目は投入額の31%を初日に失ってスタートする

2棟目側で最初に効くのは、利回りではなく購入諸費用です。

頭金

諸費用7.0%

諸費用9.0%

購入可能倍率(諸費用9.0%)

10%

投入額の41.2%

投入額の47.4%

5.26倍

20%

投入額の25.9%

投入額の31.0%

3.45倍

30%

投入額の18.9%

投入額の23.1%

2.56倍

頭金20%・諸費用9.0%なら、投入した1,000万円のうち310万円は購入した瞬間に資産として残りません。繰上返済の手数料は0〜2%程度ですから、スタート地点で約30ポイントのハンデを背負うことになります。2棟目はこの穴を家賃と売却益で埋め戻してから、ようやく繰上返済と同じ土俵に立ちます。

結果③:10年後の差引はどうなったか

既存借入金利2.0%、2棟目の表面利回り8.01%(全国平均)、税率43.69%、10年保有での比較です。

項目

繰上返済

2棟目購入

投入額

△1,000万円

△1,000万円(うち諸費用310万円)

購入可能価格

—

3,448万円(借入2,759万円)

10年間の増分CF

△86万円(追加納税)

+354万円(税引後CF累計)

10年後の一時金

+1,221万円(残債削減額)

+854万円(売却手残り)

差引

+135万円

+207万円

税引後増分IRR

1.14%

2.25%

2棟目の売却手残りの内訳は、売却価格2,870万円 − 譲渡費用115万円 − 残債1,817万円 − 譲渡所得税84万円=854万円です。売却価格が取得価格3,448万円から約17%下がっているのは、家賃下落1.0%×10年と出口還元利回り+0.5ptを両方織り込んだためです。

この条件では2棟目が勝ちました。ただし差はIRRで1.1pt、10年の金額差で72万円です。空室が1戸長引けば消える程度の差でしかありません。

2棟目の年次推移(単位:万円)

年

NOI

利息

元金

減価償却

課税所得

税金

税引前CF

税引後CF

期末残債

1

198.9

54.4

85.9

110.8

33.6

14.7

58.6

43.9

2,673

2

196.9

52.7

87.7

110.8

33.4

14.6

56.6

42.0

2,585

3

194.9

50.9

89.4

110.8

33.2

14.5

54.6

40.1

2,496

5

191.0

47.2

93.1

110.8

33.0

14.4

50.7

36.3

2,311

7

187.2

43.4

96.9

110.8

33.0

14.4

46.9

32.5

2,119

10

181.7

37.5

102.9

110.8

33.4

14.6

41.4

26.8

1,817

初年度DSCRは1.42倍です。税引後CFは初年度43.9万円から10年目26.8万円へ、家賃下落と利息減(=課税所得増)の両方で約4割減っています。

結果④:繰上返済に勝つために必要な表面利回りを逆算する

ここが本記事の中心です。既存借入金利ごとに、2棟目の増分IRRが繰上返済の増分IRRと一致する表面利回りを求めました。

既存借入金利

繰上返済の税引後IRR

2棟目に必要な表面利回り

その時の初年度DSCR

1.5%

0.85%

6.78%

1.27倍

2.0%

1.14%

7.35%

1.30倍

2.5%

1.42%

7.94%

1.33倍

3.0%

1.71%

8.54%

1.35倍

3.5%

2.00%

9.16%

1.37倍

4.0%

2.29%

9.79%

1.38倍

(税率43.69%・10年保有・2棟目の調達金利=既存借入金利)

金利が1pt上がると、必要表面利回りは約1.2pt上がります。1対1ではなく増幅されるのは、金利上昇が「繰上返済のハードルを上げる」と「2棟目の返済額を増やす」の両方に効くからです。

もう一つ注目したいのは右端の列です。分岐点の物件は、どの金利水準でも初年度DSCRが1.27〜1.38倍の範囲に収まりました。「繰上返済に勝てる最低ライン」は、おおむねDSCR1.3倍前後の物件だと言い換えられます。覚えやすい目安ですが、これは本記事の前提(頭金20%・融資期間25年・空室8%・運営費20%)の下での結果であり、普遍的な基準ではありません。

結果⑤:その利回りは実際に買えるのか

逆算した必要利回りを、市場で売りに出ている物件の利回り水準と突き合わせます。健美家の「収益物件 市場動向 四半期レポート(2026年4〜6月期、2026年7月22日公表)」では、一棟アパートの全国平均表面利回りは8.01%(平均価格9,004万円)、一都三県は6.82%、東京23区は5.57%でした。

既存借入金利

必要表面利回り

全国平均8.01%

一都三県6.82%

東京23区5.57%

1.5%

6.78%

届く

届く

届かない

2.0%

7.35%

届く

届かない

届かない

2.5%

7.94%

届く

届かない

届かない

3.0%

8.54%

届かない

届かない

届かない

3.5%

9.16%

届かない

届かない

届かない

これを金利側から逆算すると、転換点はこうなります。

買える物件の表面利回り

これを超えると繰上返済が勝つ既存借入金利

全国平均 一棟アパート 8.01%

2.56%

全国平均 一棟マンション 7.39%

2.03%

一都三県 一棟アパート 6.82%

1.53%

全国平均 区分マンション 6.61%

1.35%

東京23区 一棟アパート 5.57%

0.37%

参考として、日本銀行の貸出約定平均金利(国内銀行・新規・長期)は2026年8月時点で1.999%です。個人の投資用ローンはこれより高いことが多いので、実際の既存借入金利が2%を下回っているケースは限られます。

つまり、首都圏の実勢利回りで2棟目を買うなら、いまの金利水準では繰上返済のほうが有利になりやすいという結果です。全国平均水準(8.01%)の物件を見つけられるかどうかが分岐点を決めています。

なお、日本不動産研究所の「第54回 不動産投資家調査(2026年4月現在)」では、東京・城南の賃貸住宅一棟(ワンルーム)の期待利回りは3.6%、ファミリー向けは3.7%です。これはNOIベースの機関投資家向け指標で表面利回りとは定義が違いますが、都心の価格水準が本記事の必要表面利回りから大きく離れていることは読み取れます。

結果⑥:直感が外れる3つの条件

年収(税率)は、ほぼ判断を変えない

既存借入金利

税率20.21%

税率30.42%

税率43.69%

税率50.84%

2.0%

7.36%

7.36%

7.35%

7.35%

2.5%

7.98%

7.97%

7.94%

7.92%

3.0%

8.61%

8.59%

8.54%

8.51%

(必要表面利回り。10年保有)

税率を20.21%から50.84%へ2.5倍に動かしても、必要表面利回りは0.1pt程度しか動きません。高い税率は繰上返済のリターン(金利×(1−税率))を下げますが、同時に2棟目の税引後CFも同じ割合で削るため、両者が相殺されます。「高年収だから2棟目を買うべき」という推論は、この比較の枠組みでは成立しませんでした。

頭金の厚さも、ほぼ判断を変えない

頭金

諸費用7.0%

諸費用9.0%

10%

7.46%

7.93%

20%

7.46%

7.94%

30%

7.47%

7.95%

(必要表面利回り。既存借入金利2.5%・税率43.69%・10年保有)

頭金10%でも30%でも、必要表面利回りは0.01pt差です。頭金を薄くすれば大きく買えてレバレッジが効く一方、投入額に対する諸費用の比率が上がり、ちょうど打ち消し合います。むしろ効いているのは諸費用率で、7.0%と9.0%の差(2pt)が必要表面利回りを0.48pt動かしました。

ただしIRRが同じでも、頭金10%の初年度DSCRは20%の場合より明確に低くなります。同じ期待リターンに対して、頭金が薄いほど金利上昇や空室に対する耐久力が落ちるという点は、IRRの比較には現れません。

余剰資金の金額は、まったく判断を変えない

余剰資金

購入可能価格

繰上返済IRR

2棟目IRR

500万円

1,724万円

1.14%

2.25%

1,000万円

3,448万円

1.14%

2.25%

2,000万円

6,897万円

1.14%

2.25%

3,000万円

10,345万円

1.14%

2.25%

(既存借入金利2.0%・表面利回り8.01%・税率43.69%・10年保有)

比率で定義された前提の下では、増分IRRは投入額に対して完全に不変でした。だから本記事では「○○万円の物件で検証」という形を取っていません。判断を決めているのは金額ではなく、金利・利回り・保有期間・諸費用率という比率側の条件です。

現実には金額が無関係とは言えません。投入額が小さいと選べる物件種別や融資条件が変わり、投入額が大きいと金融機関の与信枠や物件の流動性が制約になります。あくまで「同じ比率条件なら金額は結論を動かさない」という意味です。

結果⑦:保有期間が最も効く

ここまでの比較で、実は最も結論を動かした変数が保有期間でした。

既存借入金利

5年保有

10年保有

15年保有

20年保有

1.5%

10.49%

6.78%

5.47%

5.07%

2.0%

11.08%

7.35%

6.04%

5.64%

2.5%

11.69%

7.94%

6.62%

6.23%

3.0%

12.30%

8.54%

7.23%

6.83%

3.5%

12.92%

9.16%

7.84%

7.45%

(必要表面利回り。税率43.69%)

5年で売る前提だと、金利2.0%でも必要表面利回りは11.08%に跳ね上がります。全国平均8.01%ではまったく届きません。購入諸費用9.0%と売却コスト(譲渡費用4%+譲渡所得税)を5年で回収しなければならないためです。金利別の分岐点を出すと、5年保有では既存借入金利がほぼ0%でも繰上返済が勝ちました。

逆に20年保有なら必要表面利回りは5.64%まで下がり、一都三県の6.82%でも成立します。

買える物件の表面利回り

5年保有

10年保有

15年保有

20年保有

全国平均8.01%

0.05%

2.56%

3.63%

3.94%

一都三県6.82%

0.05%

1.53%

2.67%

2.99%

東京23区5.57%

0.05%

0.37%

1.59%

1.94%

(これを超えると繰上返済が勝つ既存借入金利。税率43.69%)

2棟目は、長期保有を前提にできるときだけ繰上返済に勝てる選択肢でした。「数年で売って次に乗り換える」計画と「繰上返済より2棟目が有利」という判断は、同時には成り立ちにくいという結果です。

結果⑧:複数条件が同時に悪化した場合

現実の投資では、空室率・家賃下落・出口利回りは別々に悪化するのではなく、同じ局面で一緒に悪化します。3条件を同時に動かした3シナリオで必要表面利回りを計算しました。

シナリオ

空室・滞納損

家賃下落

出口利回り

BASE

8%

年1.0%

取得時+0.5pt

STRESS

12%

年1.5%

取得時+1.0pt

SEVERE

16%

年2.0%

取得時+1.5pt

既存借入金利

BASE

STRESS

SEVERE

1.5%

6.78%

9.01%

11.34%

2.0%

7.35%

9.60%

11.93%

2.5%

7.94%

10.20%

12.54%

3.0%

8.54%

10.81%

13.17%

3.5%

9.16%

11.44%

13.80%

(必要表面利回り。税率43.69%・10年保有)

STRESSでは必要表面利回りが2.2〜2.3pt上振れし、金利2.0%でも9.60%が必要になります。全国平均8.01%の物件では足りません。全国平均利回りで買ったときの分岐金利は、BASEの2.56%からSTRESSでは0.61%まで下がりました。SEVEREでは、既存借入金利が0%でも繰上返済が勝ちます(2棟目の増分IRRは△3.82%)。

この非対称性が、繰上返済側の本質的な強みです。繰上返済のリターンは金利×(1−税率)で固定されており、空室が増えても家賃が下がっても出口が悪化しても変わりません。2棟目の優位はシナリオ依存で、繰上返済の優位はシナリオ非依存です。ただし、3条件が同時にSEVEREまで悪化する確率そのものは本記事では評価していません。悲観シナリオの存在は、2棟目が常に不利であることを意味しません。

繰上返済手数料を入れるとどうなるか

一部繰上返済には手数料がかかる場合があります(固定金利期間中の違約金は別途)。

繰上返済手数料

税引後増分IRR

0%

1.42%

1%

1.33%

2%

1.23%

(既存借入金利2.5%・税率43.69%・10年保有)

手数料2%でもリターンの低下は0.19ptで、必要表面利回りの分岐を0.3pt程度動かすにとどまります。2棟目の諸費用9.0%が投入額の31%を奪うのに対し、繰上返済側の摩擦はずっと小さいという構図は変わりません。

投資判断への使い方

この分析から取り出せる手順は3つです。

  1. まず自分の既存借入金利を確認する。これが「ハードルレート」になります。繰上返済の税引後リターンは金利×(1−限界税率)で、ほぼそれ以上でもそれ以下でもありません。
  2. 次に、何年持つつもりかを決める。保有期間は税率や頭金率より圧倒的に効きます。5年以内の売却を想定しているなら、2棟目が繰上返済に勝つ条件はかなり厳しくなります。
  3. 最後に、候補物件の表面利回りを分岐点と比べる。金利2.0%・10年保有・標準条件なら7.35%が目安です。この水準に届かない物件を「規模拡大のため」に買う判断は、収益性では説明できません。

ただし、収益性だけで決めるべき判断でもありません。本記事の比較には含めていない要素が両側にあります。

  • 繰上返済側の未評価の価値:残債が減ることで債務償還年数とLTVが改善し、次の融資枠が広がります。本記事はこれを金額換算していないため、繰上返済を過小評価している可能性があります。
  • 2棟目側の未評価の価値:戸数が増えることで空室の分散が働き、規模が大きくなることで将来の融資条件が改善する余地があります。一方で、同一エリアに増やすと分散効果は小さくなります。

結論を1つに絞るなら、こう言えます。この条件では「どちらが得か」は物件の利回り水準と保有期間で決まり、投資家の年収や余剰資金の額では決まりませんでした。収益性では近い勝負になりますが、繰上返済はリスクへの耐久力を買う選択で、2棟目はリスクを取ってリターンの幅を取る選択です。両者は同じ軸の上にありません。

なお本記事の計算は、既存借入金利・保有期間・表面利回りを本記事の前提で固定したものです。実際の借入額・金利・残存期間・返済額はひとつずつ違います。自分の既存ローンの残債推移や、金利が上がった場合の返済額を確認したい場合は、不動産投資ローンシミュレーターで返済額・DSCR・5年後10年後の残債を試算すると、繰上返済を検討する際の出発点になる数字が揃います。

この分析では分からないこと

  1. 実際の融資条件:2棟目の金利を既存借入と同じと仮定しました。実務では2棟目のほうが条件が厳しくなることも、既存借入のほうが古い高金利であることもあります。
  2. 繰上返済の融資枠への効果:債務償還年数・LTVの改善を金額に換算していません。次の1棟を買える時期が早まる価値は計算外です。
  3. 諸費用の税務上の取扱い:購入諸費用9.0%をすべて投入キャッシュとして扱い、経費算入分と取得価額算入分を区分していません。この簡略化は2棟目をやや過小評価します。
  4. 土地取得にかかる負債利子の損益通算制限:個人で不動産所得が赤字になる場合の制限は反映していません。本記事の基準ケースは課税所得が黒字なので影響は限定的ですが、低利回り物件では影響します。
  5. 法人の場合:法人税率の構造、役員報酬との組み合わせ、法人の譲渡益課税(分離課税ではない)は反映していません。個人・長期譲渡の前提です。
  6. 個別物件の競争力と建物状態:同じ表面利回りでも、設備・間取り・築年数・周辺供給で実際の稼働率と修繕費は大きく変わります。
  7. 売却時の市場環境:出口還元利回りを取得時+0.5ptと置きましたが、金利局面や買い手の融資環境で大きく振れます。買い手が何年借りられるかが出口価格の天井を決めます。
  8. 市場利回りデータの性質:健美家のデータは売出(登録)物件ベースで、成約ベースではありません。実際に買える利回りはこれより低いことがあります。また「平均」なので、個別には8%を超える物件も存在します。
  9. 手元流動性:どちらの選択肢も現金を固定します。繰上返済した資金は原則取り戻せず、2棟目に入れた資金も売却まで回収できません。手元に残すという第3の選択肢は本記事の比較に含めていません。

まとめ

  • 繰上返済(期間短縮型)の税引後リターンは、借入金利ではなく金利×(1−限界税率)。金利2.0%・税率43.69%なら1.14%だった。
  • 2棟目は頭金20%・諸費用9.0%なら投入額の31.0%を購入時に失い、そこからスタートする。
  • 繰上返済に勝つために2棟目に必要な表面利回りは、既存借入金利2.0%で7.35%、2.5%で7.94%、3.0%で8.54%。金利1ptにつき約1.2pt上がる。
  • 分岐点の物件は、どの金利水準でも初年度DSCRが1.27〜1.38倍に収まった。
  • 全国平均(一棟アパート8.01%)で買えるなら分岐金利は2.56%。一都三県(6.82%)なら1.53%、東京23区(5.57%)なら0.37%。日銀の新規長期貸出金利は2026年8月で1.999%。
  • 投資家の税率(20.21〜50.84%)、頭金率(10〜30%)、余剰資金の額(500〜3,000万円)は、必要表面利回りをほとんど動かさなかった。
  • 最も効いたのは保有期間。5年保有なら必要表面利回りは11.08%(金利2.0%)で、金利0%でも繰上返済が勝つ。20年保有なら5.64%まで下がる。
  • 空室・家賃下落・出口を同時に悪化させると、全国平均利回りでの分岐金利は2.56%→0.61%に低下。繰上返済の優位はシナリオに依存しないが、2棟目の優位は依存する。

今回は既存借入金利と表面利回りを軸に逆算しましたが、実際の判断では自分のNOI・返済額・空室率・運営費を入れ替える必要があります。候補物件の表面利回り・NOI利回り・DSCR・CCR・損益分岐空室率を自分の数字で確認したい場合は、キャッシュフローシミュレーターでNOI・DSCR・損益分岐点を試算するのが近道です。

また今回のように、金利・空室率・家賃下落・運営費・出口利回りを同時に動かしながら税引後の手残りと売却後の結果まで追うと、表計算では確認項目が増えて取り違えが起きやすくなります。RE-AIでは収益性・融資・リスク・出口戦略を複数の視点から並行して確認できるよう設計していますが、前提の置き方で結果が変わる点は本記事と同じです。最終的な投資判断は、必ずご自身で前提を確認したうえで行ってください。

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参考資料・出典

本記事の数値はすべて上記の前提に基づく条件付きシミュレーションであり、特定の物件・特定の投資家の将来の収益を予測するものではありません。実際の投資判断にあたっては、個別の融資条件・税務条件を専門家にご確認ください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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