
「駅から遠いけれど、そのぶん利回りが高い」。収益物件の検討で最も頻繁に出てくる比較です。ただ、この比較には決まった答えがありません。「利回りがいくら高ければ、駅から遠い分を取り返せるのか」が示されていないからです。
そこで今回は、建物・戸数・仕様がまったく同じアパートを、徒歩5分・10分・15分・20分の4立地に置いたと仮定し、10年保有のIRRを実際に計算しました。そのうえで、徒歩5分の物件と同じ投資成績にするために、駅から遠い物件は購入時の表面利回りが何pt高くなければいけないかを逆算しています。
結論を先に書くと、必要なプレミアムは徒歩10分で+0.45pt、徒歩15分で+1.11pt、徒歩20分で+1.99ptでした。そして劣後の54%は、購入時の収支表には現れない「出口」で発生していました。
なお、駅距離が賃貸需要やDSCRにどう効くかという基本的な整理は投資用物件は駅から徒歩何分まで?賃貸需要とDSCRへの影響から許容範囲を考えるで扱っています。本記事はその先にある「では価格差・利回り差はいくらが妥当か」を数値で詰めるものです。
駅距離が投資成績に効く経路は、少なくとも3つあります。
このうち①は購入時の表面利回りに織り込まれますが、②と③は購入時の利回り表示には一切現れません。さらに、見落とされやすいのが運営費の構造です。
建物・戸数・仕様が同じなら、固定資産税・保険料・共用部の光熱費・原状回復費・修繕費は、駅距離が変わってもほとんど変わりません。つまり賃料だけが下がって運営費が下がらないので、駅から遠いほどNOI率(NOI÷満室想定家賃)が悪化します。表面利回りが同じでも、実質利回りは同じになりません。
物件価格を固定すると、読者の投資規模によって使えない分析になります。そこで本記事では徒歩5分物件の満室想定年間家賃を「100」とする指数で計算し、購入価格は「家賃指数÷表面利回り」で内生的に決めています。この方法なら、5,000万円の物件でも2億円の物件でも、比率としての結論は同じように使えます。
項目 | 設定 |
|---|---|
建物・戸数・間取り・築年 | すべて同一(築浅木造アパートを想定) |
徒歩5分物件の満室想定年間家賃 | 100(指数) |
管理委託料 | 実効総収入(EGI)の5% |
その他運営費(固都税・保険・修繕・原状回復・共用費) | 指数15.0の固定額(立地によって変えない) |
家賃下落率 | 年▲1.0% |
購入諸費用 | 価格の8.5% |
融資 | LTV80%・金利2.0%・期間25年・元利均等(月次返済) |
保有期間 | 10年 |
売却費用 | 売却価格の3.5% |
出口表面利回り | 購入時表面利回り+0.6pt(築10年経過分)+立地スプレッド |
税金 | 税引前で比較(税引後は構造別・所得別に振れが大きいため別記事に分離) |
購入諸費用8.5%は、税率から積み上げると8.0〜9.2%になるという別記事の試算(不動産投資の諸費用は本当に7%なのか)の中央値を採用しています。
立地 | 賃料指数 | 年間稼働率 | 出口の立地スプレッド |
|---|---|---|---|
徒歩5分 | 100.00 | 96% | ±0.0pt |
徒歩10分 | 95.10 | 94% | +0.2pt |
徒歩15分 | 90.44 | 91% | +0.5pt |
徒歩20分 | 86.01 | 87% | +0.9pt |
賃料指数は「徒歩1分あたり▲1.0%」を基準に置いています(徒歩5分→20分で▲14.0%)。この数値は市場によって幅があるため、後段で▲0.5%/分・▲1.0%/分・▲1.5%/分の3水準に振って結論が変わらないかを確認します。
出口の立地スプレッドは、国土交通省が地価公示を駅距離区分別に集計した資料に根拠を置いています。同資料では住宅地・全国平均で、駅から0.5km未満の地点が年+1.3%だったのに対し、5km以上の地点は年▲1.0%と、同じ年に同じ全国平均のなかで年2.3ptの開きがありました(平成30年地価公示)。三大都市圏でも+1.7%対▲1.1%です。土地価格のトレンドがこれだけ分かれる以上、10年後の売却時に駅遠物件の買い手が要求する利回りは、駅近より高くなると考えるのが自然です。
まず、4立地すべてを「購入時表面利回り7.0%」で買ったと仮定します。同じ利回りで買うのだから、賃料が低い駅遠物件は購入価格も低くなります。
立地 | 購入価格 | NOI | NOI率 | 実質利回り | DSCR | 年間CF | 10年後 | 対購入価格 | 10年IRR |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
徒歩5分 | 1,428.6 | 76.20 | 76.20% | 5.33% | 1.311 | 18.07 | 1,190.0 | ▲16.7% | 3.27% |
徒歩10分 | 1,358.6 | 69.92 | 73.53% | 5.15% | 1.265 | 14.64 | 1,102.6 | ▲18.8% | 1.93% |
徒歩15分 | 1,292.0 | 63.18 | 69.86% | 4.89% | 1.202 | 10.61 | 1,009.8 | ▲21.8% | ▲0.08% |
徒歩20分 | 1,228.7 | 56.08 | 65.21% | 4.56% | 1.122 | 6.09 | 915.1 | ▲25.5% | ▲2.92% |
同じ表面利回り7.0%でも、10年IRRは3.27%から▲2.92%まで、6.19ptの幅が出ました。徒歩15分の時点で、10年IRRはほぼゼロです。
注目したいのはNOI率です。建物も戸数も同じなのに、76.20%から65.21%まで10.99pt低下しています。運営費のうち賃料に連動するのは管理委託料だけで、残りは賃料が下がっても下がらないためです。その結果、表面利回りは全立地7.0%で同じなのに、実質利回り(NOI÷購入価格)は5.33%から4.56%まで開きました。表面利回りが同じ物件は、実質利回りが同じ物件ではありません。
規模(戸数・賃料帯)の違いでもNOI率は割れます。そちらの軸は同じ表面利回り8%でも実質利回りは1.68pt割れる|戸数×賃料16通りで、小規模物件に必要な利回りプレミアムを逆算で別途検証しています。駅距離と規模は独立に効くので、両方が不利な物件では差が重なります。
徒歩15分と徒歩5分の差▲3.35ptが、3つの経路のどこから来ているかを分解します。賃料差だけを反映した場合、そこに稼働率差を加えた場合、さらに出口利回り差まで加えた場合を順に計算しました。
段階 | 10年IRR | 前段階からの変化 | 寄与率 |
|---|---|---|---|
徒歩5分(基準) | 3.27% | — | — |
+賃料差だけを反映 | 2.87% | ▲0.40pt | 12% |
+稼働率差を反映 | 1.72% | ▲1.15pt | 34% |
+出口利回り差を反映 | ▲0.08% | ▲1.80pt | 54% |
合計 | — | ▲3.35pt | 100% |
賃料の差は、購入価格が連動して下がるためIRRへの影響が小さく、全体の12%にとどまりました。物件資料を見比べたときに最も目につく「家賃がこれだけ安い」という情報が、実は投資成績への寄与が最も小さいことになります。
一方、稼働率差と出口利回り差で88%を占めます。このうち出口利回り差(54%)は、購入時点の収支表にも利回り表示にも一切現れません。駅遠物件の不利は、買うときにはほとんど見えず、売るときにまとめて現れる構造になっています。
出口利回りをいくつに置くかで結論が動いてしまわないよう、次章でこの前提の感応度も確認します。
なお、出口利回りが1pt動いたときにIRRがどう反応するかという単独の感応度は、出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか|保有5年・10年・15年・20年で検証で保有年数別に検証しています。
ここが本記事の中心です。徒歩5分・表面7.0%の10年IRR(3.27%)と同じ成績にするために、駅から遠い物件は購入時の表面利回りが何%必要かを逆算しました。賃料ディスカウント率を3水準に振っています。
賃料ディスカウント | 徒歩5分 | 徒歩10分 | 徒歩15分 | 徒歩20分 |
|---|---|---|---|---|
▲0.5%/分 | 7.00%(基準) | 7.42%(+0.42pt) | 8.02%(+1.02pt) | 8.83%(+1.83pt) |
▲1.0%/分 | 7.00%(基準) | 7.45%(+0.45pt) | 8.11%(+1.11pt) | 8.99%(+1.99pt) |
▲1.5%/分 | 7.00%(基準) | 7.49%(+0.49pt) | 8.20%(+1.20pt) | 9.16%(+2.16pt) |
賃料ディスカウントを3倍に振っても、必要プレミアムは徒歩15分で1.02pt〜1.20ptの範囲に収まりました。賃料の前提をどう置くかは、結論をほとんど動かしません。結果②で見たとおり、賃料差は購入価格に吸収されるためです。
では、結論を大きく左右している出口の立地スプレッドを弱めたらどうなるか。ゼロ(駅距離による出口利回り差はないと仮定)から1.5倍まで振って再計算しました。
出口の立地スプレッド | 徒歩10分 | 徒歩15分 | 徒歩20分 |
|---|---|---|---|
ゼロと仮定(駅距離で出口利回りは変わらない) | +0.23pt | +0.58pt | +1.08pt |
設定の半分 | +0.35pt | +0.86pt | +1.57pt |
設定どおり(+0.2/+0.5/+0.9pt) | +0.45pt | +1.11pt | +1.99pt |
設定の1.5倍 | +0.56pt | +1.33pt | +2.34pt |
出口利回りの差をまったく認めない、駅遠にとって最も有利な仮定を置いても、徒歩15分には+0.58pt、徒歩20分には+1.08ptのプレミアムが必要でした。稼働率と運営費の構造だけで、これだけの差が残るということです。
実務的な読み方としては、徒歩15分の物件に必要な利回りプレミアムは+0.6pt〜+1.3ptのレンジ、徒歩20分では+1.1pt〜+2.3ptのレンジ、と押さえておくのが妥当です。市場で提示されている利回り差がこのレンジの下限にも届いていない場合、駅遠物件は「利回りが高いぶん有利」ではなく、単に割高です。
徒歩15分の購入時表面利回り | 購入価格(指数) | DSCR | 年間CF | 10年IRR | 徒歩5分7.0%との差 |
|---|---|---|---|---|---|
7.00% | 1,292.0 | 1.202 | 10.61 | ▲0.08% | ▲3.35pt |
7.50% | 1,205.8 | 1.288 | 14.12 | 1.47% | ▲1.80pt |
8.00% | 1,130.5 | 1.374 | 17.18 | 2.96% | ▲0.31pt |
8.11% | 1,115.4 | 1.392 | 17.80 | 3.27% | ±0.00pt |
8.50% | 1,064.0 | 1.459 | 19.89 | 4.39% | +1.12pt |
9.00% | 1,004.9 | 1.545 | 22.30 | 5.79% | +2.52pt |
「駅近7.0%、駅遠7.5%」という、市場でよく見る0.5ptの利回り差では、徒歩15分はまだ1.80pt劣後します。損益分岐は8.11%。7.0%と8.11%の間には1.11ptの差があり、これは価格に直すと徒歩5分物件比で▲21.9%に相当します(同じ建物・同じ戸数の物件で、価格指数1,428.6に対し1,115.4)。
今回の試算では出口の立地スプレッドを+0.5pt、保有期間を10年に固定していますが、実際には売却時期・その時点の市況・Exit Cap Rateの置き方で結果は大きく変わります。自分の検討物件のNOIと融資条件で、Exit Cap Rateを動かしながら売却手残りとIRRを確認したい場合は、RE-AIの無料「売却・出口戦略シミュレーター」で1〜35年の出口比較と感応度を試算できます。
ここで終わると「必要なプレミアムさえ取れば同じ」という単純な結論になってしまいます。そうはなりませんでした。徒歩5分を7.00%、徒歩15分を8.11%で買った2つ(10年IRRはどちらも3.27%)を、ストレス下で比べます。
指標 | 徒歩5分・表面7.00% | 徒歩15分・表面8.11% |
|---|---|---|
購入価格(指数) | 1,428.6 | 1,115.4(▲21.9%) |
初年度DSCR | 1.311 | 1.392 |
初年度CF | 18.07 | 17.80 |
10年IRR | 3.27% | 3.27% |
金利3.0%時のDSCR | 1.172 | 1.244 |
年間CFがゼロになる金利 | 4.50% | 5.09% |
金利3.0%時の10年IRR | 0.74% | 0.58% |
プレミアムを取って安く買った駅遠物件は、借入額そのものが小さくなるため、金利上昇に対する返済面の耐性はむしろ強くなりました。年間CFがゼロになる金利は4.50%から5.09%へ0.59pt上がります。「駅遠=危険」と単純に言えるわけではありません。
ただし、金利上昇が最終的なIRRに与える影響では順位が逆転します。返済で守れても、出口で取り返せないためです。
金利だけでなく、家賃下落と稼働率が同時に悪化するケースを3段階で見ます。駅遠ほど賃貸需要の層が薄く、悪化局面での稼働率低下幅が大きくなると想定しました。
シナリオ | 条件 | 徒歩5分・7.00% | 徒歩15分・8.11% | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
DSCR | 年CF | 10年IRR | DSCR | 年CF | 10年IRR | ||
BASE | 家賃▲1.0%/年・金利2.0%・稼働96/91% | 1.311 | 18.07 | 3.27% | 1.392 | 17.80 | 3.27% |
STRESS | 家賃▲1.5%/年・金利3.0%・稼働93/86% | 1.128 | 8.32 | ▲2.13% | 1.160 | 8.11 | ▲3.26% |
SEVERE | 家賃▲2.0%/年・金利4.0%・稼働90/80% | 0.974 | ▲1.89 | ▲9.37% | 0.951 | ▲2.79 | ▲12.95% |
BASEとSTRESSでは徒歩15分のDSCRが上回りますが、SEVEREで逆転します(0.974対0.951)。IRRの差はBASEでゼロ、STRESSで1.13pt、SEVEREで3.58ptと、悪化するほど開いていきます。利回りプレミアムは平常時の成績を揃えることはできても、下振れ時の非対称性までは埋めません。
これは「駅遠を買うな」という意味ではなく、同じ期待IRRでも分布の形が違うということです。表面上のIRRが同じ2物件を比べるときは、ストレス下での挙動まで確認する必要があります。
参考までに、購入時表面利回りを7.0%で揃えた場合に、DSCR1.30を維持できる最大LTVを逆算しました(金利2.0%・25年)。
立地 | DSCR1.30を維持できる最大LTV | 必要な自己資金比率 |
|---|---|---|
徒歩5分 | 80.7% | 19.3% |
徒歩10分 | 77.8% | 22.2% |
徒歩15分 | 74.0% | 26.0% |
徒歩20分 | 69.0% | 31.0% |
同じ利回りで買う限り、駅遠物件は同じDSCRを保つのに自己資金が11.7pt多く必要になります。これは自己資金効率(CCR)にも直接効きます。
今回の試算から、実務で使える判断材料は次の4つです。
今回は稼働率を96/94/91/87%、家賃下落を年▲1.0%に固定していますが、実際の稼働率と運営費は物件ごとに違います。検討中の物件の価格・満室想定家賃・空室率・運営費・融資条件を入れて、RE-AIの無料キャッシュフローシミュレーターでNOI・DSCR・CCRと、金利×空室が同時に悪化した場合の変化を確認できます。登録は不要です。
収益性・価格・融資・リスク・出口をまとめて確認したい場合は登録不要の無料診断もありますが、今回のような「利回り差が妥当か」の確認だけなら、上のシミュレーターで足ります。
今回の結果は、置いた条件のもとでの計算です。次の点は本分析では扱えていません。
駅距離の判断は、「何分までなら買っていいか」という線引きよりも、「その距離に対して、利回り差と価格差がいくら付いているか」で見るほうが実務的です。今回の数値は、その差が十分かどうかを確認するための目安として使えます。
本記事の数値のうち、地価公示の変動率および家賃下落率の出典は上記の公開データです。賃料指数・稼働率・出口の立地スプレッド・融資条件は、分析のために設定した条件付きシミュレーションであり、実際の物件統計ではありません。情報確認日:2026年9月12日。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の物件の購入・売却を推奨するものではありません。実際の投資判断は、個別物件の調査と、税理士・金融機関等の専門家への確認のうえで行ってください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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