
家賃収入が入り始めると、次に気になるのが税金です。不動産投資では、保有中にかかる所得税・住民税と、売却時にかかる譲渡所得税という性格の異なる税金が発生します。法人化の判断も、この2つを切り離さずに考える必要があります。本記事では、国税庁の一次情報をもとに、保有から売却までの税金の全体像を整理します。
不動産投資の税金を理解するうえで最初に押さえておきたいのは、保有中の税金と売却時の税金が、まったく別の仕組みで計算されるという点です。保有中の家賃収入は「不動産所得」として給与所得など他の所得と合算し、累進税率で課税されます(総合課税)。一方、売却時の利益は「譲渡所得」として他の所得と分離して計算されます(分離課税)。この違いを理解しないまま節税策を考えると、保有中は有利でも売却時に負担が増える、といった見落としが起こりやすくなります。
不動産所得は「総収入金額-必要経費」で計算します。必要経費には、管理費、修繕費、損害保険料、租税公課、借入金利子のうち建物部分、そして減価償却費などが含まれます。家賃収入から経費を差し引いた収支全体の考え方は、「収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方」で表面利回り・NOI・DSCR・IRRとあわせて解説しています。
国税庁によると、所得税の税率は課税所得金額に応じて5%から45%までの7段階に区分されています(国税庁 No.2260)。これに住民税(原則10%)と、令和19年まで課される復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わるため、課税所得が大きい人ほど、家賃収入に対する実質的な負担率は上がっていきます。給与所得と不動産所得を合算した金額に対して税率が決まる点にも注意が必要です。
減価償却費は、実際に現金が出ていく費用ではなく、建物の取得価額を法定耐用年数に応じて分割計上する会計上の経費です。この年間の減価償却費は建物の構造によって大きく異なり、法定耐用年数が短い木造・軽量鉄骨は年間の計上額が大きくなる一方、耐用年数が長いRCは小さくなります。同じ8,000万円の中古アパートでも構造だけを変えると年間で300万円以上差が出るケースを「同じ8,000万円の中古アパートでも、木造とRCで年間減価償却費は321万円違う|耐用年数の求め方と計算例」で試算しています。保有中は税引後キャッシュフローを押し上げる効果がありますが、償却が終わった年からキャッシュフローがどう変化するかは、木造・重量鉄骨・RC構造ごとに試算した「減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減った|木造・重量鉄骨・RCの8,000万円物件で30年分を試算」で具体的な数値を確認できます。
不動産所得を青色申告で申告する場合、正規の簿記による記帳、貸借対照表・損益計算書の添付、e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存などの要件を満たすことで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます(国税庁 No.2072)。これらの要件を満たさない場合は55万円、簡易な記帳にとどまる場合は10万円の控除となります。控除額は要件の充足度によって変わるため、記帳方法を検討する際は現行の要件を確認してください。
減価償却費などの計上によって不動産所得が赤字になった場合、その赤字は給与所得など他の所得と損益通算でき、確定申告によって源泉徴収された所得税・住民税の一部が還付される可能性があります(国税庁タックスアンサーNo.1391)。ただし、赤字のすべてが対象になるわけではなく、土地等を取得するために要した借入金の利子に相当する部分は損益通算の対象から除外されます(租税特別措置法第41条の4)。この土地分の利子按分の考え方や、課税所得別の還付額の目安、減価償却が終わったあとに節税効果がどう反転するかは、「不動産投資の損益通算とは?給与所得との相殺の仕組みと、節税効果が消える理由」で具体的な数値とともに解説しています。
ここまでの所得税・住民税は、家賃収入という「利益」に対する税金です。これとは別に、物件を保有している限り利益の有無にかかわらず毎年課税されるのが固定資産税・都市計画税です。毎年1月1日時点の所有者に、市町村(東京23区は都)から納税通知書が届きます。
固定資産税は、土地・建物の固定資産税評価額に標準税率1.4%を乗じて計算します。都市計画税は市街化区域内の土地・建物が対象で、上限0.3%の範囲で自治体ごとに税率が定められています(出典:総務省「固定資産税の概要」)。年の途中で物件を売買した場合も納税義務者は1月1日時点の所有者のままですが、実務上は引き渡し日を基準に売主・買主で日割り精算するのが一般的です。固定資産税評価額は実勢価格のおおむね7割程度が目安とされ、収益還元価格や積算価格とは別の指標である点にも注意してください。価格査定の考え方は「収益物件の価格査定は何を見る?収益還元法・取引事例比較法・原価法の使い分けと確認手順」で解説しています。
固定資産税・都市計画税は空室が発生していても満額課税されるため、収支シミュレーションの必要経費に必ず織り込んでおく必要があります。
個人の所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる累進課税で、住民税・復興特別所得税を含めると最高税率は55%を超える水準になります。一方、法人税は所得金額や資本金規模に応じた実効税率で計算され、個人の最高税率より低い水準にとどまるケースが多くあります。家賃収入が一定規模を超えると、法人化によって税負担を抑えられる場合がありますが、法人化には設立費用、社会保険料負担、赤字でも発生する法人住民税均等割といったコストも伴うため、税率差だけで判断すると見誤ります。法人化の税率差・コスト・出口の税金までを整理した内容は「不動産投資の法人化 完全ガイド|税率差・コスト・出口の税金までつなげて判断する」で、家賃収入いくらから有利になるかの試算例は「法人化は家賃収入いくらから有利になるのか|8,000万円物件で個人と法人の税引後CF+売却手取りを保有10〜30年で逆算」で確認できます。法人化のタイミングを判断する際の確認項目は「家賃収入960万円、法人化すべきタイミングはいつか。後悔しないための5つの確認項目」にまとめています。
不動産を売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下であれば短期譲渡所得に区分されます(国税庁 No.3208、No.3211)。税率は長期譲渡所得が20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)、短期譲渡所得が39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)と、約2倍の差があります。売却時期を数ヶ月調整するだけで税負担が大きく変わる可能性があるため、所有期間の起算日は事前に確認しておく必要があります。
区分 | 所有期間 | 税率(所得税+復興税+住民税) |
|---|---|---|
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% |
譲渡所得の計算では、建物の取得費から保有中に計上した減価償却費相当額を差し引きます(国税庁 No.3208)。つまり、保有中に減価償却で所得税を抑えるほど取得費が小さくなり、売却時の譲渡所得(課税対象額)は増える構造になっています。保有中の節税と売却時の税負担は、常にトレードオフの関係にあることを押さえておく必要があります。特に、法定耐用年数を超えた木造アパートを4年で償却するようなケースでは、保有中に得た節税額のうち売却時にどこまで目減りするかを、課税所得帯・売却時期(短期・長期譲渡)別に試算した「減価償却で減らした税金は、売却時にいくら返すことになるのか|築古木造4年償却の「正味の節税額」を課税所得別・売却年別に逆算」もあわせてご確認ください。売却時の譲渡所得税の具体的な計算例は「収益物件を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法と短期・長期の分かれ目」で、売却が課税事業者に該当する場合の消費税の注意点は「収益物件の売却で消費税が発生することがある|課税事業者になる条件と「売却2年後」の注意点」で解説しています。
RE-AIで収益物件の収支を分析していて感じるのは、税金を「保有中の節税」だけで判断すると、出口での手取りを見誤りやすいという点です。減価償却を積極的に使えば保有中の税引後キャッシュフローは増えますが、その分だけ売却時の譲渡所得税は重くなります。法人化も同様で、税率差だけでなく、保有期間中のコストと出口の税金までを合わせて比較する必要があります。価格・融資・出口を別々に検討するのではなく、保有から売却までを一つの時間軸でシミュレーションする視点を持つことが、税金を含めた投資判断の精度を左右します。
ここまでは、自分で購入した収益物件を保有・売却する場合の税金を整理しました。相続によって収益物件を取得する場合は、保有中・売却時の税金とは別に「相続税評価」という仕組みが関わってきます。貸家建付地・小規模宅地等の特例による評価減の考え方や、相続登記の義務化への対応は「収益物件の相続税評価はどう決まる?貸家建付地・小規模宅地等の特例と生前対策の考え方」で解説しています。
なお、自由民主党・日本維新の会がまとめた「令和8年度税制改正大綱」(2025年12月19日公表)には、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産について、路線価や固定資産税評価額ではなく取得価額を基準に評価する「5年ルール」が盛り込まれています。2027年(令和9年)1月1日以後に発生する相続から適用される見込みで、実行されると「相続開始の直前に組み替えた物件ほど評価減の効果が薄れる」という影響が生じます。生前対策として物件の組み替えを検討している場合に影響する評価額の変化を試算した内容は「相続前5年以内に買った収益物件は、相続税評価額が1.69倍になる|令和8年度改正「5年ルール」で圧縮効果を再計算」で確認できます(2026年9月時点で通達は未発遣のため、詳細は今後の情報を確認してください)。
給与所得がある会社員の場合、給与・退職所得以外の所得(不動産所得を含む)の合計額が年20万円を超えると確定申告が必要です(国税庁 No.1900)。給与所得がない場合は、不動産所得を含む合計所得が各種控除額を上回れば申告義務が生じます。必要経費や減価償却費を差し引いた「所得」が基準になる点に注意してください。
居住用として貸し付けるアパート・マンションの家賃収入は消費税が非課税です。一方、事業用テナントや駐車場の賃料は課税対象になる場合があります。また、建物価格が大きい物件を売却すると、売却の2年後に消費税の課税事業者になることがあります。詳しくは「収益物件の売却で消費税が発生することがある|課税事業者になる条件と「売却2年後」の注意点」で解説しています。
不動産投資の税金は、保有中の所得税・住民税と、売却時の譲渡所得税という2つの異なる仕組みで構成されています。青色申告や減価償却による保有中の節税は、売却時の譲渡所得を増やす要因にもなるため、法人化の判断も含めて、保有から売却までを通してシミュレーションすることが欠かせません。税率や控除の要件は条件や税制改正によって変わる可能性があるため、実際の申告にあたっては最新の国税庁の情報や税理士への確認をおすすめします。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方
2026/8/8

減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減った|木造・重量鉄骨・RCの8,000万円物件で30年分を試算
2026/8/12

収益物件の価格査定完全ガイド|収益還元法・積算法・取引事例比較法の使い分けと適正価格の出し方
2026/8/8

不動産投資の法人化 完全ガイド|税率差・コスト・出口の税金までつなげて判断する
2026/8/15

法人化は家賃収入いくらから有利になるのか|8,000万円物件で個人と法人の税引後CF+売却手取りを保有10〜30年で逆算
2026/8/14

家賃収入960万円、法人化すべきタイミングはいつか。後悔しないための5つの確認項目
2026/8/6

収益物件を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法と短期・長期の分かれ目
2026/8/14

収益物件の売却で消費税が発生することがある|課税事業者になる条件と「売却2年後」の注意点
2026/8/16

収益物件の相続税評価はどう決まる?貸家建付地・小規模宅地等の特例と生前対策の考え方
2026/8/19

減価償却で減らした税金は、売却時にいくら返すことになるのか|築古木造4年償却の「正味の節税額」を課税所得別・売却年別に逆算
2026/8/24

不動産投資の損益通算とは?給与所得との相殺の仕組みと、節税効果が消える理由
2026/9/4

同じ8,000万円の中古アパートでも、木造とRCで年間減価償却費は321万円違う|耐用年数の求め方と計算例
2026/8/21

相続前5年以内に買った収益物件は、相続税評価額が1.69倍になる|令和8年度改正「5年ルール」で圧縮効果を再計算し、節税が消える価格下落率を逆算
2026/9/5