
「このエリアは地価が下がっている」と言われた物件を検討するとき、多くの人は表面利回りや現在の家賃だけを見て判断してしまいます。しかし出口(売却)で効いてくるのは、10年後にその物件がいくらで売れるかです。この記事では、公示地価・基準地価の変動率をExit Cap Rate(出口還元利回り)に反映させると、10年保有のIRRがどこまで変わるかを、地方の一棟アパートを想定した架空例で試算します。
収益物件の売却価格は、一般に「売却年の想定NOI÷Exit Cap Rate」で決まります。同じNOIでも、買い手が求める利回り(Exit Cap Rate)が高くなれば、売却価格は下がります。そして買い手がそのエリアにどの利回りを求めるかは、家賃相場だけでなく、そのエリアの土地の資産価値がどう推移してきたかという印象にも影響されます。
公示地価や都道府県基準地価が継続的に下落しているエリアでは、将来の買い手も同様に価格の先安観を織り込みやすく、Exit Cap Rateは上振れしやすくなります。逆に地価が横ばい〜上昇しているエリアでは、出口の利回り要求はそれほど上がりません。つまり地価トレンドは、家賃収入そのものより先に、出口の価格設定に表れることがあります。出口戦略全体の考え方(売却タイミングやデッドクロスとの関係を含む)は「収益物件の出口戦略完全ガイド」で整理しています。
公示地価(国土交通省、毎年3月公表、1月1日時点)と都道府県基準地価(都道府県、毎年9月公表、7月1日時点)は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で誰でも無料で確認できます。検討中のエリアを地図上で選択すると、地点ごとの1㎡単価と前年比の変動率、簡単な地価動向コメントが表示されます。
確認する際は、市区町村の平均値ではなく、検討している物件になるべく近い地点を選ぶことと、単年の変動率だけでなく過去5年程度の推移を見ることが重要です。1年だけ下落していても、5年単位では横ばいというエリアもあります。
以下は仕組みを理解するために単純化した架空例です。実在する物件・エリアのデータではありません。想定読者は、地方中核都市の郊外で木造一棟アパートを検討している個人投資家です。地価の変動が収益性に与える影響は、都市部の値上がり基調のエリアより、地方・郊外の横ばい〜下落傾向のエリアでより判断に直結しやすいため、この価格帯・物件種別を設定しています。
項目 | 設定値 |
|---|---|
物件価格 | 4,200万円(木造一棟アパート、8戸想定) |
表面利回り | 9.5%(年間満室想定家賃399万円) |
空室率 | 8% |
運営費率 | 実効収入の20% |
初年度NOI | 約293.7万円 |
自己資金・諸費用 | 頭金15%(630万円)+取得諸費用8.5%(357万円)=987万円 |
融資条件 | 借入3,570万円、金利2.6%、期間25年、元利均等 |
保有期間 | 10年 |
取得諸費用の8.5%という数値は、当ブログの別記事「不動産投資の諸費用は本当に7%なのか」で税率から積み上げた7.98〜9.23%という範囲の中間的な値を採用しています。
同じ物件・同じ融資条件のまま、10年間の地価トレンドだけを3パターンに分けて試算しました。地価上昇エリアほど家賃も緩やかに上昇し、下落エリアほど家賃も緩やかに下落するという前提を置いています。
地価トレンド(5年〜10年の傾向) | Exit Cap Rate | 10年目売却価格 | 税引後売却手残り | 10年IRR |
|---|---|---|---|---|
上昇基調(年+1%前後) | 8.5% | 約3,560万円 | 約1,004万円 | 約10.6% |
横ばい(前年比±0%前後) | 9.0% | 約3,263万円 | 約721万円 | 約8.2% |
下落継続(年-2%前後) | 10.0% | 約2,793万円 | 約269万円 | 約2.9% |
購入時の利回りも融資条件もまったく同じにもかかわらず、地価トレンドの想定だけで10年IRRは約2.9%〜10.6%まで、7.7ポイントの差が出ました。表面利回りが高く見える物件でも、出口のExit Cap Rateを甘く見積もっていると、保有中のキャッシュフローだけでは埋まらない差になります。
この試算のExit Cap Rateは、地価公示・基準地価そのものを直接価格式に代入したものではなく、地価トレンドが買い手の利回り要求に与える影響を仮定として置いたものです。実際の物件価格は土地と建物に分かれており、地価が下落しても建物部分の価値(再調達価格や残存率で決まる部分)は地価と連動しません。積算価格の計算方法と、路線価が公示地価のおおむね8割の水準になる関係については「木造・鉄骨・RC、同じ8,000万円の物件で積算価格はいくら変わるか」で詳しく解説しています。地価トレンドを見るときも、土地部分と建物部分を分けて、どちらの価値がどう動いているのかを意識することが判断のヒントになります。
公示地価・基準地価は、あくまで標準地・基準地という特定の地点の価格であり、市区町村全体やそのエリアの賃貸需要そのものを表すものではありません。地価が横ばいでも人口が急速に減少しているエリアもあれば、地価が下落していても再開発や新駅計画で将来の需要が見込めるエリアもあります。エリアの賃貸需要そのものの調べ方は「賃貸需要の調べ方完全ガイド」で、人口減少エリアの考え方は「『人口減少エリアは危ない』は本当か」で整理しています。地価トレンドは判断材料の一つであり、これだけで購入や売却の結論を出すものではない点に注意してください。
今回の試算はExit Cap Rateと地価トレンドの関係を理解するための単純化した例です。実際に検討している物件の価格・NOI・融資条件・保有期間を入れて、Exit Cap Rateを動かしながら売却価格や手残り、IRRを比較したい場合は、RE-AIの売却・出口戦略シミュレーター(無料・登録不要)で試算できます。金利上昇がExit Cap Rateと出口価格に与える影響については「金利1%上昇でIRRは6.15pt低下、うち74%は返済額ではなく売却価格が原因だった」も参考になります。
収益物件の出口価格は、売却年のNOIだけでなく、買い手が求めるExit Cap Rateにも大きく左右されます。公示地価・基準地価の変動率は、そのエリアで将来Exit Cap Rateがどう動きやすいかを考える一つの手がかりになります。今回の架空例では、地価トレンドの違いだけで10年IRRに7.7ポイントの差が出ました。表面利回りや現在の家賃だけでなく、公示地価・基準地価の5年程度の推移を確認したうえで、出口の利回り想定を保守的に置いておくことが、購入判断の精度を上げる一つの方法です。
情報確認日:2026年8月28日。地価公示・基準地価は毎年更新されるため、実際に確認する際は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の最新データをご参照ください。本記事の数値例はすべて架空の設定であり、特定の物件・エリアの実データではありません。税制は今後変更される可能性があるため、実際の税額は税理士等の専門家にご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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