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価格査定

同じ表面利回り8%でも実質利回りは1.68pt割れる|戸数×賃料16通りで、小規模物件に必要な利回りプレミアムを逆算

同じ表面利回り8%でも実質利回りは1.68pt割れる|戸数×賃料16通りで、小規模物件に必要な利回りプレミアムを逆算

収益物件を探していると、表面利回りだけで物件を並べて比較する場面が出てきます。売出情報に必ず載っている数字で、計算も「年間満室想定賃料 ÷ 物件価格」だけなので、比較の入口としては便利です。

ただし表面利回りには、運営費がまったく入っていません。そして運営費のうちいくつかは、戸数が何戸であっても、ほぼ同じ金額が「1棟あたり」で発生します。消防用設備の点検、共用部の電気、共用部の清掃などです。4戸のアパートでも30戸のマンションでも、消防設備の点検を半分の回数にすることはできません。

だとすれば、同じ表面利回り8%でも、戸数や賃料水準が違えば実質的な利回りは変わるはずです。今回は運営費を「棟単位で発生する費用」「戸数に比例する費用」「収入に比例する費用」の3層に分解したうえで、表面利回り8%を固定したまま戸数と1戸あたり賃料を動かし、NOI利回り(実質利回り)がどこまで割れるかを16通りで試算しました。さらに、小規模物件が大型物件と同じ収益力を持つために必要な「表面利回りの上乗せ幅」と「価格の割引率」を逆算しています。

結論を先に書くと、同じ表面利回り8%でもNOI利回りは3.944%〜5.627%に分かれ、その差は1.68ポイントありました。そして差を生んでいた主因は、多くの人が想像する「戸数の少なさ」よりも「1戸あたり賃料の低さ」でした。

この記事で検証する疑問

  • 表面利回りが同じなら、4戸のアパートと30戸のマンションは同じ収益力なのか
  • 棟単位で発生する固定費は、小規模物件の利回りをどれだけ削るのか
  • 小規模物件を大型物件と等価にするには、表面利回りを何ポイント上乗せする必要があるのか
  • 規模のメリットは何戸あたりで頭打ちになるのか
  • 金利・空室・家賃下落が同時に悪化したとき、小規模物件は大型物件より脆いのか

なお、この記事で扱う数値はすべて条件を固定したシミュレーションです。実際の物件統計や取引データではありません。運営費の単価も後述のとおり設定値であり、実測値ではない点を先にお断りしておきます。

前提:運営費を3つの層に分ける

NOI(純営業収益)は「実効総収入 − 年間運営費」で求めます。この運営費を一括りに「家賃の20%」などと置くと、規模による違いが消えてしまいます。今回は次の3層に分けました。

第1層:棟単位固定費(戸数にほぼ比例しない)

建物が1棟あることによって発生し、戸数を減らしても大きくは下がらない費用です。今回は木造・軽量鉄骨の一棟アパート(エレベーターなし、受水槽なし、浄化槽なし)を想定し、年間18万円と設定しました。

項目

年額(設定値)

金額が戸数に比例しにくい理由

消防用設備等の点検

6.0万円

機器点検は6か月に1回、総合点検は1年に1回。共同住宅は3年に1回の報告義務があり、いずれも棟単位で実施する

共用部の電気代(外灯・共用廊下)

3.6万円

照明は敷地・共用部の広さで決まり、入居戸数では変わらない

共用部清掃(月2回想定)

6.0万円

清掃は1回あたりの出張・作業単位で発生する

建物点検・小修繕の手配等の雑費

2.4万円

棟単位で発生する管理事務

合計(F)

18.0万円

この層は、物件が大きくなっても金額がほとんど増えない一方、小さくなっても減りません。ここが規模の経済の源泉です。

第2層:戸数比例費(1戸あたり一定)

1戸ごとに発生する費用です。今回は年8.7万円/戸と設定しました。

項目

年額(設定値)

設定の根拠

入退去コスト(原状回復・広告費・空室期間)

6.25万円

退去1回あたり25万円、平均入居年数4年として年換算

給湯器の更新積立

1.67万円

1台20万円 ÷ 12年

エアコンの更新積立

0.77万円

1台10万円 ÷ 13年

合計(U)

8.69万円 → 8.7万円

入退去コストの水準については、退去1回あたりの入替コストを平均入居年数別に試算した記事で別途詳しく検証しています。今回はそれより保守的な25万円で置いています。

第3層:収入比例費・価格比例費

  • 実効総収入の6%:賃貸管理委託料5%+共用部の経常小修繕1%
  • 物件価格の1.0%:固定資産税・都市計画税0.9%+火災保険料0.1%

管理委託料の水準が結果に与える影響については、管理委託料2%の差を金利換算した記事で検証しています。

固定した条件と変更した条件

区分

項目

設定

固定

表面利回り

8.0%(全ケース共通)

空室・滞納損失率

5%

棟単位固定費 F

年18.0万円

戸数比例費 U

年8.7万円/戸

収入比例費率

実効総収入の6%

価格比例費率

物件価格の1.0%

建物条件

木造・軽量鉄骨の一棟。エレベーター・受水槽・浄化槽なし

変更

戸数

4戸/8戸/16戸/30戸(追加検証で2〜50戸)

1戸あたり月額賃料

4万円/6万円/8万円/12万円

物件価格は独立に決めていません。表面利回り8%を固定しているため、物件価格=年間満室想定賃料 ÷ 8%として自動的に決まります。たとえば1戸6万円×4戸なら満室賃料288万円、価格3,600万円。1戸6万円×30戸なら満室賃料2,160万円、価格2億7,000万円です。特定の物件価格を先に決めて他の条件を合わせる、という組み方はしていません。

検証1:表面利回り8%を固定して、戸数と賃料を動かす

NOI利回り(=NOI ÷ 物件価格)は次のようになりました。すべて表面利回り8.0%の物件です。

1戸あたり月額賃料\戸数

4戸

8戸

16戸

30戸

4万円

3.944%

4.319%

4.506%

4.594%

6万円

4.677%

4.927%

5.052%

5.111%

8万円

5.044%

5.231%

5.325%

5.369%

12万円

5.411%

5.536%

5.598%

5.627%

最も低い「4戸×月4万円」が3.944%、最も高い「30戸×月12万円」が5.627%。同じ表面利回り8%の物件でありながら、実質的な利回りは1.683ポイント離れました。

NOI率(NOI ÷ 満室想定賃料)で見ると差はさらに分かりやすくなります。

1戸あたり月額賃料\戸数

4戸

8戸

16戸

30戸

4万円

49.3%

53.99%

56.33%

57.43%

6万円

58.47%

61.59%

63.15%

63.88%

8万円

63.05%

65.39%

66.57%

67.11%

12万円

67.63%

69.2%

69.98%

70.34%

「4戸×月4万円」ではNOI率が49.3%まで落ちます。満室想定賃料の半分が運営費で消える計算です。一方「30戸×月12万円」は70.34%。NOI率が地域や物件種別でどれだけ振れるかについては、地域別NOI率から必要表面利回りを逆算した記事も併せて確認してください。

計算の中身(1戸6万円の場合)

戸数

満室賃料

物件価格

実効総収入

運営費

NOI

NOI利回り

4戸

288万円

3,600万円

273.6万円

105.2万円

168.4万円

4.677%

8戸

576万円

7,200万円

547.2万円

192.4万円

354.8万円

4.927%

16戸

1,152万円

1億4,400万円

1,094.4万円

366.9万円

727.5万円

5.052%

30戸

2,160万円

2億7,000万円

2,052万円

672.1万円

1,379.9万円

5.111%

4戸の運営費105.2万円のうち18万円、つまり17.1%が棟単位固定費です。30戸では672.1万円のうち18万円で、2.7%にしかなりません。同じ18万円が、小さい物件ほど重くのしかかります。

検証2:効いていたのは「戸数」より「1戸あたり賃料」だった

検証1の表を横方向(戸数)と縦方向(賃料)で比べると、縦の変化のほうが大きいことが分かります。これを条件を揃えて確認します。

ケース

満室賃料

物件価格

NOI

NOI利回り

月12万円 × 4戸

576万円

7,200万円

389.6万円

5.411%

月6万円 × 8戸

576万円

7,200万円

354.8万円

4.927%

満室賃料も物件価格も表面利回りもまったく同じ2物件です。それでもNOI利回りは0.484ポイント違いました。差額34.8万円は、戸数比例費8.7万円×4戸分そのものです。入退去も、給湯器も、エアコンも、戸数の分だけ発生するからです。

もう一段極端な比較をします。

ケース

戸数

満室賃料

NOI利回り

月12万円 × 4戸

4戸

576万円

5.411%

月4万円 × 30戸

30戸

1,440万円

4.594%

戸数が7.5倍、賃料収入が2.5倍ある30戸物件のほうが、NOI利回りは0.817ポイント低くなりました。「大きいほど有利」という一般的な理解は、賃料単価が同じ場合にしか成り立ちません。

この結果は直感に反するように見えますが、理由は単純です。棟単位固定費は収入が大きいほど薄まる一方で、戸数比例費は戸数が増えるほど積み上がります。1戸あたり賃料が低い物件は、この2つの力のうち後者だけを強く受けます。「戸数が多いこと」自体は有利ではなく、有利なのは「収入が大きいこと」であり、そのうえで「戸数が少ないこと」です。

ただし、これはNOIだけを見た場合の話です。戸数が少ない物件は空室1戸あたりの収入インパクトが大きく、稼働率のばらつきも大きくなります。この点は戸数別にDSCR1.2割れ確率を試算した記事で別途検証しており、今回の結果と合わせて読む必要があります。

検証3:NOI利回り5.0%を確保するのに必要な表面利回り

ここからは逆算です。「NOI利回りで5.0%を確保する」という目標を先に置いたとき、各ケースで表面利回りが何%必要になるかを求めました。表面利回りは価格を通じて固定資産税等にも影響するため、目標NOI利回りから価格を解いて求めています。

計算式は次のとおりです。

物件価格 = {満室賃料 ×(1 − 空室率5%)×(1 − 収入比例費率6%)− 棟単位固定費 − 戸数比例費} ÷(目標NOI利回り + 価格比例費率1.0%)

1戸あたり月額賃料\戸数

4戸

8戸

16戸

30戸

4万円

9.709%

9.024%

8.717%

8.581%

6万円

8.455%

8.098%

7.931%

7.855%

8万円

7.942%

7.703%

7.589%

7.537%

12万円

7.488%

7.344%

7.275%

7.243%

同じ「NOI利回り5.0%」という目標に対して、必要な表面利回りは7.243%から9.709%まで、2.47ポイントの幅がありました。

1戸あたり月6万円の帯で見ると、4戸物件に必要な表面利回りは8.455%、30戸物件は7.855%。差は0.60ポイントです。これが今回の条件下での「小規模物件に必要な利回りプレミアム」ということになります。

「利回り9%台の物件」と聞くと高利回りに見えますが、月4万円×4戸の物件であれば、9.709%でようやくNOI利回り5.0%です。表面利回りの高さが、そのまま収益力の高さを意味しないケースがここに現れています。

検証4:規模のメリットは何戸で止まるのか

戸数を細かく刻んで、必要表面利回り(目標NOI利回り5.0%・1戸月6万円)の変化を見ます。

戸数

必要表面利回り

1つ前の戸数からの改善幅

2戸

9.271%

4戸

8.455%

−0.817pt

6戸

8.214%

−0.241pt

8戸

8.098%

−0.115pt

10戸

8.030%

−0.068pt

12戸

7.986%

−0.045pt

16戸

7.931%

−0.055pt

20戸

7.898%

−0.033pt

30戸

7.855%

−0.043pt

50戸

7.821%

−0.034pt

2戸から50戸までの改善幅は合計1.450ポイント。そのうち1.285ポイント(88.6%)が12戸までに発生していました。12戸から50戸へ4倍以上に大きくしても、必要表面利回りは0.165ポイントしか下がりません。

つまり、この条件では規模の経済は12戸前後でほぼ出尽くします。「大きいほど効率が良い」という発想は、6〜12戸の帯を超えたあたりから、利回りの面ではほとんど根拠を失います。ここから先で規模を追う理由は、利回りではなく融資枠・分散・管理の手離れといった別の軸に求めるべきだ、という読み方になります。

逆に、2戸・4戸という極小規模帯では影響が急激に大きくなります。2戸物件は4戸物件より0.817ポイント高い表面利回りが必要でした。区分マンションを複数戸まとめて買うようなケースでは、この帯に入ることを意識しておく価値があります。

検証5:同じ収益力にするには、価格をいくら引く必要があるか

実務では「表面利回りを上げてくれ」ではなく「価格を下げてくれ」という交渉になります。そこで、1戸6万円・30戸・表面8.0%の物件(NOI利回り5.111%)を基準に、小規模物件が同じNOI利回りになるための価格を逆算しました。

戸数

表面8%での価格

NOI利回り5.111%となる価格

必要な値引き額

値引き率

その時の表面利回り

4戸

3,600万円

3,344.7万円

255.3万円

7.09%

8.611%

8戸

7,200万円

6,984.0万円

216.0万円

3.00%

8.247%

16戸

1億4,400万円

1億4,262.5万円

137.5万円

0.95%

8.077%

4戸物件は7.09%の値引きで、ようやく30戸物件と同じNOI利回りになります。16戸まで来ると必要な値引きは0.95%で、交渉の誤差の範囲です。

この「値引き率」は、そのまま収益還元法の価格差として説明できます。収益還元法では価格=NOI ÷ 還元利回りですから、同じ還元利回りを当てるなら、NOIが小さい物件の収益価格はその分だけ低く出ます。還元利回りそのものの決め方は還元利回り(キャップレート)の調べ方と価格への影響を試算した記事で、収益還元法・積算法・取引事例比較法の使い分けは収益物件の価格査定完全ガイドで整理しています。

今回の値引き率は、棟単位固定費18万円・戸数比例費8.7万円という設定値に依存します。実際の物件では点検費用も清掃費も入退去コストも違いますし、受水槽やエレベーターがあれば棟単位固定費はさらに増えます。自分の物件のNOIと還元利回りで収益価格を確かめたい場合は、RE-AIの無料の収益還元法・収益価格シミュレーターでNOIと還元利回りから収益価格を計算すると、売出価格との乖離率や、その売出価格を説明するために必要なNOIまで確認できます。

検証6:空室・家賃下落が同時に起きたときのDSCR

ここまではNOIだけを見てきました。融資を入れた場合にどうなるかを、複合ストレスで確認します。

融資条件は借入比率90%、金利2.0%、期間25年(元利均等)で固定しました。この条件のローン定数Kは5.0863%です。物件は1戸6万円の4戸(価格3,600万円)と30戸(価格2億7,000万円)で、購入価格は変えずに空室率と家賃下落率だけを悪化させます。

シナリオ

空室率

家賃下落

BASE

5%

0%

STRESS

10%

−5%

SEVERE

18%

−10%

物件

シナリオ

NOI

NOI利回り

年間返済額

DSCR

税引前CF

4戸(3,600万円)

BASE

168.4万円

4.677%

164.8万円

1.022

+3.6万円

STRESS

142.7万円

3.963%

164.8万円

0.866

−22.1万円

SEVERE

111.0万円

3.083%

164.8万円

0.674

−53.8万円

30戸(2億7,000万円)

BASE

1,379.9万円

5.111%

1,236.0万円

1.116

+143.9万円

STRESS

1,187.0万円

4.396%

1,236.0万円

0.960

−49.0万円

SEVERE

949.4万円

3.516%

1,236.0万円

0.768

−286.5万円

ここで注意したいのは、ストレス下での悪化スピードは戸数でほとんど変わらなかったことです。BASEからSEVEREへのNOI減少率は4戸で−34.08%、30戸で−31.19%。差は2.9ポイントにとどまります。棟単位固定費は収入が減っても減りませんが、収入比例費のほうは収入と一緒に減るため、両者が部分的に相殺し合うためです。

つまり小規模物件が抱えている不利は「悪化しやすさ」ではなく「出発点の低さ」です。4戸物件はBASE時点でDSCR1.022しかなく、金融機関が目安とする1.2をすでに下回っています。同じ表面利回り8%・同じ借入条件でも、30戸物件は1.116を確保しました。どちらも余裕があるとは言えませんが、小規模物件は最初から余白が小さい状態で走り出すことになります。

この点は借入条件を変えれば動きます。表面利回りと金利の差だけを見る「イールドギャップ」がなぜ判断材料にならないかは、ローン定数Kでイールドギャップを測り直した記事で検証しています。自己資金比率や金利を変えたときのDSCRを自分の条件で確かめたい場合は、RE-AIの無料DSCRシミュレーターでNOI・借入額・金利・期間を入力して返済余力を計算することができます。

結果から分かること

  1. 表面利回り8.0%を固定しても、NOI利回りは3.944%〜5.627%に分かれた。差は1.683ポイント。
  2. 差の主因は戸数ではなく1戸あたり賃料だった。満室賃料・価格・表面利回りが完全に同じ「月12万円×4戸」と「月6万円×8戸」でも、NOI利回りは0.484ポイント違う。
  3. 戸数7.5倍の「月4万円×30戸」は、「月12万円×4戸」よりNOI利回りが0.817ポイント低い。規模そのものは有利さの保証にならない。
  4. NOI利回り5.0%を確保するのに必要な表面利回りは7.243%〜9.709%。幅は2.47ポイント。
  5. 1戸月6万円の帯では、4戸物件に必要な利回りプレミアムは30戸比で0.60ポイント。価格に直すと7.09%の値引きに相当する。
  6. 規模のメリットは12戸前後で頭打ちになる。2戸→50戸の改善幅1.450ポイントのうち88.6%が12戸までに出る。
  7. ストレス下での悪化率は戸数でほぼ変わらない(4戸−34.08%、30戸−31.19%)。小規模物件の不利は出発点の水準にある。

投資判断への使い方

この分析は「小規模物件を買うな」という結論ではありません。使い方は次の3つです。

1.表面利回りを比較するときは、規模と賃料単価を揃える。異なる戸数・異なる賃料帯の物件を表面利回りだけで並べることには意味がありません。比較したいなら、NOIまで落としてから比べる必要があります。

2.小規模・低賃料の物件には、利回りの上乗せを要求する。今回の条件では、月6万円帯の4戸物件は30戸物件より0.60ポイント高い表面利回りが必要でした。月4万円帯の4戸物件では、30戸比で1.128ポイント(9.709%対8.581%)です。売出利回りがこの上乗せ分を含んでいないなら、価格交渉の根拠になります。

3.規模拡大の目的を利回り以外に置く。12戸を超えたあたりから、規模を追っても利回りはほとんど改善しません。それ以上の規模を狙う理由は、融資枠、空室分散、管理の効率、出口での買い手層など、別の軸で説明できる必要があります。

購入上限価格そのものを条件から逆算する方法については、DSCR・年間CF・IRRの3条件から上限価格を逆算した記事を、NOIやDSCRといった指標の基本的な計算方法は収益物件の収支計算完全ガイドを参照してください。

この分析で分からないこと

  1. 運営費の単価は設定値です。棟単位固定費18万円、戸数比例費8.7万円は今回の分析のために置いた条件であり、実測統計ではありません。地域・管理会社・建物仕様で大きく変わります。受水槽(有効容量10㎥超の簡易専用水道は年1回の法定検査と年1回以上の清掃が義務)、浄化槽、エレベーターがある物件では、棟単位固定費はこの設定値を大きく上回ります。
  2. 賃料単価と空室リスクの関係を織り込んでいません。今回は空室率を全ケース一律5%としましたが、実際には低賃料帯と高賃料帯で稼働の安定性は異なります。1戸あたり賃料が高いことがそのまま有利とは限りません。
  3. 建物の状態・築年・構造を考慮していません。同じ戸数でも、築年が進めば修繕発生頻度は上がり、融資期間は短くなります。修繕費の水準がCF・DSCR・IRRに与える影響は別記事で検証しています。
  4. 出口価格を含んでいません。今回はNOIとDSCRまでの分析で、売却時の価格や保有期間全体のIRRは対象外です。小規模物件は買い手層が広い一方、大型物件は融資が付く買い手が限られるなど、流動性の違いも別途評価が必要です。
  5. 因果の断定はできません。「戸数が少ないからNOI率が低い」のではなく、今回のモデルでは「棟単位固定費に対して収入が小さいから」です。実際の物件では、小規模物件が立地の劣る場所に多い、といった別要因が同時に働いている可能性があります。
  6. 税金と減価償却は対象外です。NOIは償却前・返済前の指標であり、税引後の手残りは物件の構造・保有主体・所得水準で変わります。

まとめ

表面利回りが同じでも、棟単位で発生する固定費の重みが違えば、実質的な収益力は変わります。今回の設定では、表面利回り8.0%を固定してもNOI利回りは1.683ポイントの幅に分かれ、NOI利回り5.0%を目標に置いたときの必要表面利回りは2.47ポイントの幅がありました。

そして規模の効果は12戸前後で頭打ちになる一方、1戸あたり賃料の影響は最後まで効き続けます。物件を比較するときに揃えるべきなのは、戸数よりも先に「1戸あたり賃料と、棟単位固定費に対する収入の大きさ」だと言えます。

ただし今回の結果は、あくまで設定した運営費水準・空室率・融資条件のもとでの数字です。棟単位固定費が18万円ではなく40万円の物件なら、小規模物件に必要なプレミアムはさらに大きくなります。今回のように棟単位固定費、戸数比例費、空室、金利、出口を同時に動かすと確認項目が増えるため、RE-AIではこれらを同じ物件条件でまとめて確認できるよう設計しています。ただしRE-AIの診断も入力条件に依存する参考情報であり、投資判断を保証するものではありません。

参考資料・出典

情報確認日:2026年9月7日

本記事の数値はすべて、記載した前提条件にもとづく条件付きシミュレーションです。RE-AIの診断データ、市場の取引統計、実測された運営費統計ではありません。実際の物件では運営費・空室率・融資条件が異なるため、結果も変わります。本記事は投資助言ではなく、最終的な判断はご自身の責任で、金融機関・税理士・不動産鑑定士等の専門家への確認と併せて行ってください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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