RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

管理・空室対策

「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せる|退去1回30.7万円の入替コストを平均入居年数3年3ヶ月〜8年で試算

「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せる|退去1回30.7万円の入替コストを平均入居年数3年3ヶ月〜8年で試算

収益物件の収支計算をするとき、多くの人は「空室率5%」「空室率10%」という一つの数字で空室リスクを織り込みます。しかし実際に現金が出ていくのは、空室期間の家賃損失だけではありません。入居者が退去するたびに、原状回復費・広告料(AD)・仲介手数料が同時に発生します。

そこで今回は、空室率という「率」ではなく、入居者の入替という「イベント」から収支を組み直すとどうなるかを検証しました。価格8,000万円・12戸の一棟アパートを条件に、平均入居年数を3年3ヶ月〜8年まで動かし、年間キャッシュフロー・DSCR・10年IRRがどこまで変わるかを計算しています。

結論から書くと、一般的な「空室率5%」の収支計算は、この物件条件では年間キャッシュフローを46%過大に見せていました。しかも見落とし額の71%は、空室期間の家賃損失ではありませんでした。

1. この記事で検証する疑問

検証したのは次の4点です。

  • 入居者が1回入れ替わると、オーナーの手元からいくら出ていくのか
  • 平均入居年数が1年変わると、年間キャッシュフローはいくら変わるのか
  • 「空室率5%で計算した収支」と「入替コストを全額計上した収支」はどれだけ違うのか
  • 長期入居を取りに行くために、家賃はどこまで下げてよいのか(逆算)

なお本記事の数値は、RE-AIの診断実績データではなく、条件を固定したシミュレーションです。使用データの区分は次のとおりです。

区分

内容

公開データ

平均居住期間(日本賃貸住宅管理協会「2022年日管協短観」)、原状回復の費用負担区分(国土交通省ガイドライン)、AD(広告料)の一般的な相場水準

シミュレーション

年間キャッシュフロー・DSCR・IRRなど本記事の全計算結果

架空ケース

物件条件(価格8,000万円・12戸・家賃月4.5万円など)

実データ

本記事では使用していません

2. 前提条件|何を固定し、何を変えたか

固定した条件

項目

設定

物件価格

8,000万円(木造一棟アパート・12戸)

月額家賃

1戸あたり4.5万円

満室想定年間家賃

648万円(表面利回り8.10%)

借入

7,000万円/金利2.0%/30年/元利均等

年間返済額

310.5万円

自己資金

1,000万円+購入諸費用560万円(価格の7%)= 初期投下1,560万円

管理委託料

実収賃料の5%

固定資産税・都市計画税

年50万円

共用部光熱費・清掃等

年20万円

建物修繕(経年起因・入替とは別枠)

年20万円

損害保険

年8万円

家賃下落

年間CFの比較表では0%(入替コストの効果を分離するため)/IRR計算のみ年▲0.5%

変更した条件

  • 平均入居年数(2年6ヶ月/3年3ヶ月/4年/5年1ヶ月/6年/8年)
  • 退去から次の入居までの空室期間(1ヶ月/2ヶ月/3ヶ月/4ヶ月)
  • 1回あたりの原状回復オーナー負担額(10万円/15万円/25万円/35万円/40万円)
  • 募集費用(AD+仲介手数料オーナー負担分:家賃1.0〜2.5ヶ月分)

本記事の最大の特徴は、空室率を「前提として与える」のではなく、平均入居年数と空室期間から計算で導いている点です。計算式は次のとおりです。

  • 年間入替回数 = 総戸数 ÷ 平均入居年数
  • 空室率 = (年間入替回数 × 空室期間ヶ月)÷(総戸数 × 12ヶ月)

つまり「空室率5%」という数字は独立した前提ではなく、平均入居年数3年3ヶ月・空室期間2ヶ月というイベントの結果として現れる数字である、という整理です。情報確認日:2026年8月15日。

3. 入替1回あたりのコストを分解する

入居者が1回入れ替わると、オーナー側には次の3種類の支出・機会損失が同時に発生します。

項目

設定(基準ケース)

金額

空室期間の家賃損失

2ヶ月 × 4.5万円

9.00万円

原状回復のオーナー負担分

1回あたり

15.00万円

募集費用(AD+仲介手数料)

家賃1.5ヶ月分

6.75万円

合計

30.75万円

ここで注目したいのは構成比です。30.75万円のうち、空室期間の家賃損失は9.00万円(29%)にすぎません。残りの21.75万円(71%)は、原状回復と募集費用という「空室率には表れない支出」です。

原状回復のオーナー負担が発生する理由は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方にあります。壁紙などは経過年数を考慮して残存価値を直線的に減らしていくため、入居期間が長いほど賃借人負担割合は小さくなり、その分オーナー負担が増えます。長期入居は入替回数を減らす一方、1回あたりの原状回復オーナー負担は増えるという逆方向の力が働く点は、後述の「分析の限界」でも触れます。

4. 【表1】平均入居年数別の年間コストとキャッシュフロー

空室期間2ヶ月・原状回復15万円・募集1.5ヶ月分を固定し、平均入居年数だけを動かした結果です。日管協短観による平均居住期間(単身3年3ヶ月/ファミリー5年1ヶ月)を基準点として含めています。

平均入居年数

年間入替回数

空室損失

原状回復

募集費用

入替コスト計

導出された空室率

NOI

年間CF

DSCR

2年6ヶ月

4.80回

43.2万

72.0万

32.4万

147.6万

6.7%

372.2万

61.7万

1.20

3年3ヶ月(単身世帯平均)

3.69回

33.2万

55.4万

24.9万

113.5万

5.1%

405.7万

95.2万

1.31

4年

3.00回

27.0万

45.0万

20.2万

92.2万

4.2%

426.7万

116.2万

1.37

5年1ヶ月(ファミリー世帯平均)

2.36回

21.2万

35.4万

15.9万

72.6万

3.3%

446.1万

135.6万

1.44

6年

2.00回

18.0万

30.0万

13.5万

61.5万

2.8%

457.0万

146.5万

1.47

8年

1.50回

13.5万

22.5万

10.1万

46.1万

2.1%

472.1万

161.7万

1.52

読み取れることは3つです。

  • 平均入居年数3年3ヶ月と6年で、年間CFは95.2万円と146.5万円。差は51.3万円です。同じ物件・同じ家賃・同じ融資条件でも、入居者がどれだけ長く住むかだけで年間CFは1.5倍以上変わります。30年間の累計では1,538万円、物件価格の約19%に相当します。
  • 平均入居年数を1年延ばす価値は、年26.3万円です(3年3ヶ月→4年3ヶ月で試算)。
  • 入替コスト全体のうち原状回復と募集費用が占める割合は、どの行でも約71%で一定です。入替コストは「空室期間を短くする」だけでは3割しか削れません。

5. 【表2】「空室率5%」で計算した収支との差

ここが今回の検証の中心です。上記の基準ケース(平均入居年数3年3ヶ月)から導出される空室率は5.1%でした。そこで、まったく同じ物件を「空室率5.1%だけ」で計算した場合と比較します。

計算方法

NOI

年間CF

DSCR

空室率5.1%のみ計上(一般的な収支計算)

486.0万円

175.6万円

1.57

入替コストを全額計上(本記事の計算)

405.7万円

95.2万円

1.31

▲80.3万円

▲80.3万円(▲46%)

▲0.26

空室率という指標は、定義上「家賃が入らなかった期間」しか表現できません。原状回復費と募集費用は、空室率をいくら精緻にしても構造的に入ってこない項目です。この物件条件では、その見落とし額が年80.3万円、年間キャッシュフローの46%に達しました。

この乖離は入居年数や原状回復費の前提によって変わります。ご自身の物件条件では → 空室率を変えて年間キャッシュフローを比較する(無料ツール)

DSCRへの影響も見逃せません。1.57であれば多くの金融機関の基準を余裕をもって満たしますが、1.31は「基準は満たすが余裕は小さい」水準です。DSCRの基本的な見方は不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例で整理しています。

6. 【表3】空室期間 × 原状回復費のマトリクス

平均入居年数を3年3ヶ月に固定し、空室期間と原状回復費を同時に動かした年間CFです(募集費用は1.5ヶ月分で固定)。

原状回復(1回あたり)\空室期間

1ヶ月

2ヶ月

3ヶ月

10万円

129.5万円

113.7万円

97.9万円

15万円(基準)

111.0万円

95.2万円

79.5万円

25万円

74.1万円

58.3万円

42.5万円

40万円

18.7万円

2.9万円

▲12.8万円

感応度を比べると、空室期間を1ヶ月縮めると年15.8万円の改善原状回復費を5万円下げると年18.5万円の改善です。この物件条件では、原状回復費5万円の削減のほうが空室期間1ヶ月の短縮よりわずかに効きます。空室対策というと募集力・広告に意識が向きやすいのですが、退去立会いと工事発注の精度も同程度の金額インパクトを持つことになります。

設備更新の費用対効果については築古アパートの空室対策、費用対効果で選ぶリフォーム優先順位ランキングTOP5も参考になります。

7. 【表4】複数条件が同時に悪化した場合

現実には、入居年数の短縮・空室期間の長期化・原状回復費の増加・AD競争の激化は、同じ市場環境で同時に起こりがちです。4シナリオで複合的に動かしました。

シナリオ

条件

入替回数

入替コスト計

導出空室率

NOI

年間CF

DSCR

BASE

入居5年1ヶ月/空室1.5ヶ月/原状回復10万/募集1.0ヶ月

2.36回

50.2万

2.5%

468.2万

157.7万

1.51

STANDARD

入居3年3ヶ月/空室2ヶ月/原状回復15万/募集1.5ヶ月

3.69回

113.5万

5.1%

405.7万

95.2万

1.31

STRESS

入居2年6ヶ月/空室3ヶ月/原状回復25万/募集2.0ヶ月

4.80回

228.0万

10.0%

292.8万

▲17.6万

0.94

SEVERE

入居2年/空室4ヶ月/原状回復35万/募集2.5ヶ月

6.00回

385.5万

16.7%

137.5万

▲173.0万

0.44

STRESSシナリオは、極端な想定ではありません。導出される空室率は10.0%で、収支計算で広く使われる「空室率10%」とちょうど同じ水準です。ところが年間CFは▲17.6万円、DSCRは0.94。空室率10%を織り込んだつもりの収支計算と、実際に空室率10%が発生する運営状態とでは、結論が黒字と赤字で逆転します。

これは金利上昇と空室率悪化を同時に見た金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減る?8,000万円物件で20パターン試算と同じ構図で、単一変数の感応度分析では捉えきれない領域です。

8. 転換点|どこから危険水域に入るのか

空室期間2ヶ月・原状回復15万円・募集1.5ヶ月分を固定し、平均入居年数だけを連続的に動かして境界値を探しました。

境界

平均入居年数

年間CFが100万円を下回る

3.39年(3年5ヶ月)

DSCRが1.3を下回る

3.19年(3年2ヶ月)

年間CFがゼロになる

1.75年(1年9ヶ月)

注意したいのは、DSCR1.3を割る境界(3年2ヶ月)が、単身世帯の平均居住期間3年3ヶ月とほぼ重なっていることです。単身向けの間取りで、平均的な入居年数で回っているだけの物件が、この融資条件では余裕のあるDSCRを確保できない計算になります。これらの数値は本記事の条件(金利2.0%・30年・自己資金1,000万円)に限定された結果であり、融資条件が変われば境界も動きます。融資期間や自己資金の影響は融資期間25年・30年・35年で何が変わるか|自己資金4パターン×12通りでDSCR・CF・出口の手残りを検証で検証しています。

9. 【逆算1】家賃をいくら下げてまで長期入居を取るべきか

ここからは結果から条件を逆算します。「家賃を下げると長く住んでもらえる」という主張は定性的には広く語られますが、いくらまで下げてよいのかは計算されないことが多い部分です。

基準ケース(月4.5万円・平均入居年数3年3ヶ月・年間CF95.2万円)と年間CFが同額になる家賃を、入居年数ごとに逆算しました。

実現できる平均入居年数

許容できる月額家賃

現行4.5万円からの下げ幅

下げ率

4年

4.33万円

▲1,657円

▲3.7%

5年1ヶ月

4.19万円

▲3,133円

▲7.0%

6年

4.11万円

▲3,944円

▲8.8%

8年

4.00万円

▲5,044円

▲11.2%

読み方はこうです。月3,133円(7.0%)の家賃減額と引き換えに平均入居年数が3年3ヶ月から5年1ヶ月へ延びるなら、年間CFは変わりません。それ以上の効果が出るなら減額のほうが有利になります。

ただしこの逆算には重要な留保があります。家賃を下げれば入居年数が延びるという因果関係は、この計算では仮定として置いているだけで、証明されたものではありません。長期入居している部屋の家賃が相対的に安いという相関が観察されることはありますが、それは「安いから住み続けた」のか「住み続けたから据え置かれた」のか、あるいは間取り・立地・入居者属性という第三の要因によるものか、この分析からは区別できません。表は「もし入居年数が延びるなら、いくらまでが割に合うか」という損益分岐を示しているにすぎません。

また、家賃減額は出口価格を直接押し下げます。収益還元の考え方では家賃が7%下がれば評価も同方向に動くため、保有中CFが同じでも売却時の手取りは減ります。売却前提の投資では、この表の下げ幅をそのまま使うのは危険です。出口価格の感応度は出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか|保有5年・10年・15年・20年で検証を参照してください。

10. 【逆算2】退去1回を防ぐために使える上限額

もう一つの逆算です。入替1回のコストは30.75万円でした。ここから、退去を防ぐために1件あたりいくらまで投じてよいかが計算できます。

  • 更新のたびに15.4万円(=30.75万円 ÷ 2)を投じて、退去確率を半分に下げられるなら損益はトントン
  • 更新のたびに6.2万円を投じて、退去確率を2割下げられるなら損益はトントン
  • 更新料を1ヶ月分(4.5万円)免除する判断は、それによって退去確率が15%以上下がるなら合理的

エアコン交換・給湯器の先行更新・浴室乾燥機の追加といった設備投資は、多くの場合この15.4万円の範囲に収まります。「入居者が困る前に替える」ことの経済価値を、この形なら金額で比較できます。

11. 【表5・表6】10年保有IRRと出口価格への波及

ここからは家賃下落年▲0.5%を加え、10年保有・譲渡費用3%・税引前でIRRを計算しました。出口価格の決め方を2通り用意しています。

出口A:満室想定家賃 ÷ 出口表面利回り9.5%(全ケース同一価格)

売り出し時に満室想定家賃で価格が付き、実際の運営品質は価格に反映されない前提です。売却価格は全ケース6,520万円、売却手取りは1,210万円で同一となるため、IRRの差は保有中CFの差だけを表します

平均入居年数

10年累計CF

売却価格

売却手取り

10年IRR

2年6ヶ月

496万円

6,520万円

1,210万円

1.06%

3年3ヶ月

828万円

6,520万円

1,210万円

3.44%

4年

1,036万円

6,520万円

1,210万円

4.92%

5年1ヶ月

1,227万円

6,520万円

1,210万円

6.28%

6年

1,335万円

6,520万円

1,210万円

7.04%

8年

1,485万円

6,520万円

1,210万円

8.10%

出口B:10年目の実績NOI ÷ 出口NOI利回り5.5%

買主がレントロールと実績決算から利回りを判断し、運営実績が価格に反映される前提です。10年後残債は5,114万円です。

平均入居年数

10年目NOI

売却価格

売却手取り

10年IRR

2年6ヶ月

348.2万円

6,332万円

1,027万円

▲0.28%

3年3ヶ月

381.1万円

6,928万円

1,606万円

5.62%

4年

401.6万円

7,301万円

1,968万円

8.52%

5年1ヶ月

420.5万円

7,646万円

2,302万円

10.88%

6年

431.2万円

7,840万円

2,490万円

12.11%

8年

446.0万円

8,109万円

2,751万円

13.72%

2つの表を並べると、次のことが分かります。

  • 出口Aでは、平均入居年数3年3ヶ月と6年のIRR差は3.60ポイント
  • 出口Bでは、同じ差が6.49ポイントまで拡大する(出口Aの1.8倍)
  • 入替コストは、保有中のCFを削り、その削られたNOIが出口価格を通じてもう一度効いてくるという二重構造になっている

買主がレントロールと実績決算を精査するほど、運営品質は価格に織り込まれます。入替コストの管理は、保有中の手残りだけでなく売却価格の問題でもあると言えます。

12. この分析を投資判断にどう使うか

「この条件なら買い」という単一の結論は、この分析からは出せません。代わりに、次の判断軸として使えます。

  • 収支計算の作り直し:空室率の1項目ではなく、「空室損失」「原状回復」「募集費用」の3項目に分けて計上する。空室率5%の物件は、この物件条件では追加で年80万円の運営費を見込む必要がありました。
  • 物件検討時の確認項目:レントロールの入居開始日から、既存入居者の平均入居年数を計算する。3年を切る物件は、表面利回りが同じでも実質的な収益力が1〜2割低い可能性があります。収益物件購入前のリスクチェック完全ガイドの確認項目に加えることをおすすめします。
  • 間取り構成の評価:単身向けとファミリー向けでは平均居住期間が約2年違います(日管協短観)。同じ利回りなら、間取り構成が入替頻度を通じてCFに効きます。
  • 売却前の運営改善:出口Bの表が示すとおり、売却の数年前から入替を抑えられれば、実績NOIの改善を通じて価格に反映される余地があります。収益物件の出口戦略完全ガイドも併せてご覧ください。
  • 設備投資の判断基準:退去1回30.75万円という金額を、更新時対応やリフォームの意思決定の比較対象にする。

なお今回のように、入居年数・空室期間・原状回復費・募集費用・金利・出口利回りを同時に動かすと、表計算ソフトでは確認すべき組み合わせが急速に増えます。RE-AIでは、こうした複数条件をまとめて確認できるよう設計しています。もっとも、RE-AIも実際の建物状態や個別の入居者事情まで分かるわけではなく、判断材料の一つとして使っていただくものです。

13. この分析で分からないこと

今回の試算には、次の限界があります。

  • 原状回復費と入居年数の相互作用を織り込んでいません。国交省ガイドラインの経過年数の考え方では、入居期間が長いほど賃借人負担割合は下がり、1回あたりのオーナー負担は増えます。表1では原状回復費を全ケース15万円で固定しているため、長期入居のメリットをやや大きめに評価している可能性があります。
  • 家賃と入居年数の因果関係は検証していません。逆算1は「入居年数が延びた場合の損益分岐」を示すもので、家賃を下げれば入居年数が延びることを証明したものではありません。
  • 建物・エリア固有の要因を含みません。周辺の新規供給、競合物件の設備水準、駅距離、企業や大学の移転、災害リスクなどは織り込んでいません。
  • 税引前の計算です。減価償却、所得税・住民税、譲渡所得税、法人化の有無は反映していません。売却時の税負担については収益物件を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法と短期・長期の分かれ目を、減価償却終了の影響については減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減ったを参照してください。
  • 大規模修繕を含みません。建物修繕は年20万円の平準化した積立として扱っており、屋根・外壁の一括工事は計上していません。実際の必要額は修繕費「家賃の5%」で足りるのか|国交省の長期修繕計画事例4件から逆算で検証しています。
  • 金利は2.0%固定です。変動金利の上昇局面では結果が変わります。
  • 架空の物件条件によるシミュレーションです。実在物件の統計ではありません。家賃水準・戸数・費目設定が変われば、金額も感応度も変わります。

14. まとめ

  • 入替1回のコストは30.75万円。うち空室期間の家賃損失は29%にすぎず、71%は原状回復と募集費用だった
  • そのため「空室率5.1%」だけで組んだ収支は、年間CFを175.6万円と表示するが、入替コストを全額計上すると95.2万円。46%の乖離が生じた
  • 平均入居年数3年3ヶ月と6年では、年間CFが51.3万円、30年累計で1,538万円変わる
  • この条件では、平均入居年数が3年2ヶ月を割るとDSCR1.3を下回る。単身世帯の平均居住期間3年3ヶ月とほぼ重なる水準
  • 平均入居年数が3年3ヶ月から5年1ヶ月へ延びるなら、月3,133円(7.0%)までの家賃減額は割に合う計算。ただし出口価格への影響は別途考慮が必要
  • 退去1回を防ぐために15.4万円まで投じても、退去確率が半減すれば損益はトントン
  • 買主が実績NOIで価格を出す場合、入居年数によるIRR差は3.60ポイントから6.49ポイントへ1.8倍に拡大する

いずれも本記事の条件(価格8,000万円・12戸・家賃月4.5万円・金利2.0%・30年)に限定された結果です。ご自身の検討物件では、レントロールの入居開始日から平均入居年数を算出したうえで、同じ枠組みで置き換えて確認してみてください。基本的な収支計算の手順は収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方、管理会社の選定と空室対策の全体像は収益物件の管理会社選びと空室対策|キャッシュフローを守るための完全ガイドにまとめています。

参考資料・出典

  • 公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「2022年日管協短観(第26回)」
    平均居住期間:単身世帯3年3ヶ月/ファミリー世帯5年1ヶ月(調査対象期間2021年3月〜2022年4月、管理会社504社回答)
    https://www.jpm.jp/marketdata/pdf/tankan26.pdf
  • 国土交通省 住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
    経過年数を考慮した賃借人負担割合の考え方
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html
  • 国土交通省 住宅局参事官「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に関する参考資料」令和5年3月
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001611293.pdf
  • AD(広告料)の水準は、家賃1〜2ヶ月分が一般的とされる業界慣行を参照し、本記事では基準1.5ヶ月分(仲介手数料オーナー負担分を含む)として設定しました。地域・時期により変動します。

情報確認日:2026年8月15日
本記事の数値は、記載の条件を設定して算出したシミュレーション結果です。実在する物件の統計値ではなく、また投資成果を保証するものでもありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

この記事をシェアする

この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

分析実績 87件(2026/08/07時点)X(旧Twitter)プロフィールと執筆記事 →