
「赤字が出るほど税金が戻ります」という説明だけを聞いて、不動産投資の損益通算に興味を持った方へ。損益通算は給与所得と不動産所得の赤字を相殺できる制度ですが、土地の借入利子は対象外になるなど誤解しやすい点があります。仕組みと、節税効果がいつまで続くのかを具体的な数字で確認します。
損益通算とは、複数ある所得の種類のうち、赤字になったものの金額を他の黒字の所得から差し引く制度です。不動産所得に赤字が生じた場合、給与所得や事業所得など他の所得と相殺できることが所得税法上認められており、国税庁もこの仕組みを公開しています。
給与所得者であれば、年末調整だけでは還付されない所得税・住民税の一部を、確定申告によって取り戻せる可能性があります。ただし、これから説明するとおり「赤字であれば全額が無条件に通算できる」わけではありません。
不動産所得が赤字になりやすい主な理由は、減価償却費という「支出を伴わない経費」を計上できるためです。建物の取得価格を法定耐用年数に応じて配分し、毎年の経費として計上する仕組みで、現金は出ていかないのに帳簿上の利益を押し下げます。表面利回りやNOIの考え方そのものは、収支計算の基本を整理した収益物件の収支計算完全ガイドで解説していますので、あわせて確認してください。
特に木造やその他の耐用年数が短い構造の中古物件は、短期間で大きな減価償却費を計上できるため、不動産所得の赤字額が大きくなりやすい傾向があります。構造ごとの減価償却費の違いは同じ8,000万円の中古アパートでも、木造とRCで年間減価償却費は321万円違うで試算しています。
見落とされやすいのが、租税特別措置法41条の4に定める特例です。不動産所得の赤字がある場合でも、その赤字のうち「土地等を取得するために要した借入金の利子」に相当する部分は、損益通算の対象から除外されます(国税庁タックスアンサーNo.1391)。土地と建物を一括で取得した場合、借入金はまず建物の取得対価に充て、残りを土地の取得対価に充てたものとして計算できるとされています。
以下は損益通算の仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。実在する物件や実際の取引ではありません。
想定読者は、課税所得(損益通算前)がおよそ950万円程度の給与所得者です。物件は、法定耐用年数を超えた築22年超の木造アパート一棟(土地1,500万円・建物3,000万円、合計4,500万円)とし、表面利回り9.0%(満室想定家賃405万円)、借入4,000万円(金利2.8%、融資期間25年)、自己資金・諸費用で800万円程度を投じるケースを設定します。物件価格・投資規模・想定読者の関係については建物比率を上げると税引後IRRは上がるのかもあわせてご覧ください。
項目 | 金額(初年度・概算) |
|---|---|
満室想定家賃収入 | 405万円 |
運営費(管理費・修繕費・固定資産税等) | ▲81万円 |
支払利息(借入4,000万円×2.8%、概算) | ▲112万円 |
減価償却費(建物3,000万円÷4年、簡便法) | ▲750万円 |
不動産所得 | ▲538万円(赤字) |
借入4,000万円は、建物3,000万円分がまず建物取得に充当され、残り1,000万円が土地取得に充当されたとみなします。支払利息112万円のうち、土地対応分(1,000万円÷4,000万円)は28万円です。この28万円は損益通算の対象外となるため、実際に給与所得と相殺できる赤字は「538万円-28万円=510万円」にとどまります。
課税所得(損益通算前)950万円は所得税率33%の区分に該当し、速算表で計算すると所得税額は約159.9万円です。ここから不動産所得の赤字510万円を差し引くと課税所得は440万円となり、税率区分は20%に下がって所得税額は約45.3万円になります。所得税の差額は約114.7万円、住民税(所得割10%と仮定)の差額は約51万円で、合計すると初年度の税負担軽減額はおよそ166万円という試算になります(復興特別所得税・社会保険料等は考慮していません)。
この166万円という数字は、あくまで上記の架空条件における概算です。課税所得の水準や適用される税率区分によって節税額は大きく変わるため、実際の金額は税理士に確認してください。
この物件は簡便法により4年で建物の減価償却が終わります。5年目以降は減価償却費を計上できなくなるため、同じ家賃・運営費でも不動産所得は一転して黒字になります。概算では、家賃405万円から運営費81万円と利息(残債減少により初年度より少ない約100万円と仮定)を差し引いた224万円ほどが黒字として給与所得に上乗せされます。
課税所得の水準が変わらないと仮定すると、この224万円には所得税33%・住民税10%が課され、年間で約96万円の税負担増になる計算です。つまり、初年度に得られた166万円の節税効果は、5年目以降の税負担増によって2年足らずで打ち消されるペースになります。この「減価償却の終了に伴う税負担の反転」は、保有期間全体で見たときの手残りに直結する論点で、木造・重量鉄骨・RC別に30年分を試算した減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減った、および正味の節税額を売却年別に逆算した減価償却で減らした税金は、売却時にいくら返すことになるのかでさらに詳しく検証しています。
損益通算による節税は、税金を減らしているというより、多くの場合「先送りしている」側面があります。減価償却で圧縮した分だけ物件の取得費(簿価)は下がるため、売却時の譲渡所得はその分増えやすくなります。さらに、保有期間が5年以下か5年超かで譲渡所得税の税率は大きく変わり、この判断を誤ると節税効果そのものが逆転しかねません。保有期間と税率の関係は5年目売却と6年目売却で税引後IRRは7.17pt違うで試算していますので、出口を具体的に検討する段階であわせて確認してください。
損益通算はあくまで税金の計算上の効果であり、物件そのものの収益性や適正価格を保証するものではありません。初年度の節税額の大きさだけで購入を決めるのではなく、保有期間全体のキャッシュフロー、DSCR、出口での残債と売却価格を合わせて確認する必要があります。自分の物件条件でのキャッシュフローの推移を確認したい場合は、RE-AIのキャッシュフローシミュレーター(無料・登録不要)で、家賃・空室率・運営費・融資条件を入力して試算できます。このツールが表示するのは税引前の金額で、減価償却による節税効果は含まれていない点に注意してください。物件全体の収益性・価格・融資・出口をまとめて確認したい場合は、RE-AIの無料診断も選択肢になります。
損益通算は、不動産所得の赤字を給与所得と相殺できる制度ですが、土地取得に対応する借入利子は対象外になるなど、単純な「赤字=節税額」ではありません。さらに減価償却が終わる年からは税負担が増える方向に転じるため、初年度の節税額だけで投資判断をすると、保有後半で想定と異なる結果になる可能性があります。損益通算はあくまで保有期間全体の判断材料の一つとして位置づけ、収支・融資・出口までを合わせて確認することをおすすめします。
本記事の税額試算は理解のための概算であり、実際の税額は個々の状況により異なります。税務判断は税理士に、融資条件は金融機関にご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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