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人口減少エリアでも成立する購入価格を逆算する|家賃下落率×空室率×出口利回りを24通り試算

人口減少エリアでも成立する購入価格を逆算する|家賃下落率×空室率×出口利回りを24通り試算

「人口が減るエリアは家賃が下がるから危ない」——収益不動産の世界でよく聞く話です。ただ、この言い方には抜けている前提があります。人口が減っていなくても、家賃は建物が古くなるだけで下がるということです。

総務省統計局の研究では、木造の民営借家の家賃は築年数の経過だけで年率0.9%下がると推計されています。人口動向とは無関係に、全国どこでも働いている下方圧力です。

そこでこの記事では、この0.9%を「下落率の下限」として起点に置き、そこへ需給要因(人口・世帯減、供給過剰など)を上乗せしたときに、収益物件の20年間がどう変わるのかを実際に計算しました。家賃下落率5水準 × 空室率3水準(15通り)、家賃下落率3水準 × 出口利回り3水準(9通り)の合計24通りを試算し、さらに「その下落率でも成立する購入価格はいくらか」を逆算しています。

結論から書くと、表面利回り8.0%・借入7,000万円の一棟アパートでは、家賃下落率が年1.5%を超えた時点で、保有20年以内に年間キャッシュフローが赤字へ転落します。経年減価の0.9%からの余裕は、年0.6ポイントしかありません。

1.この記事で検証する疑問

検証したのは次の3つです。

  • 家賃が毎年一定率で下がり続けたとき、キャッシュフローとDSCRは何年目に危険水域へ入るのか
  • 家賃下落は「毎年の手残り」と「出口の売却価格」のどちらへ、より強く効くのか
  • その下落率を織り込んだ場合、いくらで買えば投資として成立するのか(購入価格の逆算)

指標の定義そのものについては収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方で解説しています。この記事は、その指標を実際に20年分動かしたらどうなるかを見る回です。

2.家賃下落率を考えるときの2つの公的データ

2-1.建物が古くなるだけで年0.9%下がる(総務省統計局)

総務省統計局『統計研究彙報』第79号に掲載された尾中裕一(2022)「消費者物価指数における民営家賃の経年減価調整」では、住宅・土地統計調査(2013年・2018年)の個票データ約111万レコードを使ったヘドニック回帰により、民営借家の経年減価率が推計されています。

推計モデル

木造(年率)

非木造(年率)

基本モデル

▲0.842%

▲0.702%

拡張モデル(築浅・築古の補正あり)

▲0.898%

▲0.747%

この数字には、注意すべき2つの性質があります。

ひとつは、この推計値が継続家賃(すでに住んでいる入居者が払っている家賃)を含む借家全体の平均的な変化だという点です。新規募集家賃だけを見ると、下落幅はもっと大きくなる可能性があります。

もうひとつは、論文自身が「築年数変数の回帰係数にはリフォームによる品質回復による家賃上昇分がある程度含まれている」と明記している点です。つまりこの0.9%は、一定の修繕・原状回復を行ったうえでなお下がる分と読むのが妥当です。修繕をしなければ、これより悪くなります。修繕費がNOIとIRRに与える影響は修繕費「家賃の5%」で足りるのか|国交省の長期修繕計画事例4件から逆算し、CF・DSCR・IRRへの影響を検証で別途検証しました。

なお同論文によれば、消費者物価指数の民営家賃指数は1999年から2018年までの20年間、緩やかな下落が続いています。2014年以降の物価上昇局面でも上昇へ転じていません。

2-2.市区町村の60.5%が2050年に人口3割以上減(社人研)

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」(2023年12月22日公表)では、2020年から2050年までの30年間について次の結果が示されています。

2050年の総人口(2020年比)

市区町村数

構成比

年率換算

増加または横ばい

77

4.5%

0〜3割減

605

35.0%

0〜▲1.18%

3〜5割減

705

40.8%

▲1.18〜▲2.28%

5割以上減

341

19.7%

▲2.28%〜

※政令指定都市を1市としてカウントした1,728市区町村ベース。年率換算は30年複利で筆者が算出。

3割以上減少する市区町村は合計1,046、全体の60.5%にのぼります。都道府県レベルでも、2050年の総人口が2020年比で30%以上減る県が11県あります。エリアの調べ方は賃貸需要の調べ方完全ガイド|収益物件のエリア判断に使う公的データと読み方にまとめています。

2-3.人口減少率をそのまま家賃下落率にしてはいけない

ここが最も注意すべき点です。人口が30年で3割減るからといって、家賃が3割下がるわけではありません。両者は相関しますが、間に複数の要因が挟まります。

  • 世帯数は人口ほど減らない:単身化・世帯分離が進むため、賃貸需要の単位である世帯数は人口より緩やかに減ります
  • 供給側も減る:滅失・建替え見送り・新規着工の減少により、需要減の一部は供給減で吸収されます
  • エリア内で需要が偏る:人口が減る地域でも、駅近・築浅・設備の整った物件へ需要が集中し、そこだけ家賃が維持されることがあります
  • 逆方向もある:人口が横ばいでも新築供給が過剰なエリアでは、人口動向以上に家賃が下がります

したがってこの記事では、人口減少率を家賃下落率へ直接変換していません。「経年減価0.9%」+「需給要因α(年0〜2.0ポイント)」という形で、家賃下落率そのものをシナリオ変数として振っています。社人研のデータは、このαがどの程度の幅まで想定に値するかを考える手がかりとして参照しました。人口減少エリアの投資判断をめぐる論点整理は「人口減少エリアは危ない」は本当か。賛成派と反対派、それぞれの根拠をご覧ください。

3.分析の前提条件

以下はすべて条件付きシミュレーションです。実在物件の統計でも、RE-AIの診断実績データでもありません。基準となる物件条件は架空のケースとして設定しています。

固定した条件

項目

設定

物件

木造一棟アパート(購入時 築10年)

物件価格

8,000万円

購入諸費用

物件価格の7%=560万円

満室想定年間家賃(初年度)

640万円(購入時 表面利回り8.0%)

借入額

7,000万円(頭金1,000万円)

初期投下自己資金

1,560万円(頭金+諸費用)

金利・期間

年2.0%固定・30年・元利均等

年間返済額

310.5万円

運営費

定額50万円(固定資産税・保険等)+ 満室想定家賃×15%(管理料・修繕・原状回復)

保有期間

20年(保有後に売却)

売却諸費用

売却価格の3%

税金

考慮しない(税引前キャッシュフロー)

運営費のうち固定資産税・保険相当分を定額としたのは、家賃が下がっても固都税は同じようには下がらないためです。すべてを家賃比例にすると、下落シナリオが実態より楽観的になります。

初年度の数字は次のとおりです。満室想定家賃640万円 × (1−空室率5%) = 実効収入608万円、運営費は50+640×15%=146万円、したがってNOIは462万円。年間返済310.5万円を引いた税引前CFは151.5万円、DSCRは1.49です。20年後の残債は2,811.9万円になります。

変更した条件

変数

水準

設定の考え方

家賃下落率(年・複利)

0.9%/1.4%/1.9%/2.4%/2.9%

0.9%=経年減価のみ。以降は需給要因を0.5ポイント刻みで上乗せ

空室率

5%/10%/15%

全期間一定と仮定

出口利回り(売却時の表面利回り)

9%/11%/13%

売却時点で築30年の木造という前提を反映

売却価格は「売却翌年(21年目)の満室想定年間家賃 ÷ 出口利回り」で算出しています。

4.検証1:家賃下落率×空室率で20年間はどう動くか

出口利回りを11%に固定し、家賃下落率5水準 × 空室率3水準の15通りを計算しました。金額の単位は万円です。

下落率

空室率

20年目
満室想定家賃

20年目CF

20年目
DSCR

CF赤字
転落年

DSCR1.2
割れ年

20年
累計CF

売却
純手取

20年
総手残り

0.9%

5%

539

+71

1.23

+2,200

+1,898

+2,539

0.9%

10%

539

+44

1.14

16年目

+1,612

+1,898

+1,950

0.9%

15%

539

+17

1.05

8年目

+1,024

+1,898

+1,362

1.4%

5%

490

+31

1.10

15年目

+1,776

+1,445

+1,661

1.4%

10%

490

+7

1.02

11年目

+1,215

+1,445

+1,100

1.4%

15%

490

−18

0.94

17年目

6年目

+653

+1,445

+538

1.9%

5%

445

−5

0.98

20年目

12年目

+1,377

+1,033

+850

1.9%

10%

445

−27

0.91

16年目

8年目

+840

+1,033

+314

1.9%

15%

445

−49

0.84

13年目

5年目

+303

+1,033

−223

2.4%

5%

403

−38

0.88

16年目

9年目

+1,000

+660

+100

2.4%

10%

403

−58

0.81

13年目

7年目

+487

+660

−413

2.4%

15%

403

−78

0.75

10年目

4年目

−26

+660

−926

2.9%

5%

366

−68

0.78

13年目

8年目

+645

+321

−594

2.9%

10%

366

−86

0.72

11年目

6年目

+154

+321

−1,085

2.9%

15%

366

−104

0.66

9年目

3年目

−337

+321

−1,576

※「20年総手残り」=20年累計CF+売却純手取−初期投下自己資金1,560万円。税引前。

この表から読み取れることを整理します。

経年減価「だけ」でも20年で家賃は約16%下がる

下落率0.9%のケースでも、20年目の満室想定家賃は640万円→539万円、▲15.8%です。人口が増えているエリアでも、建物が古くなる分はこれだけ効きます。空室率10%なら16年目にDSCRが1.2を割り、空室率15%なら8年目に割ります。DSCRが融資審査でどう見られるかは不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例を参照してください。

DSCRはCFよりずっと早く崩れる

15通りのうち、20年以内にCFが赤字転落したのは10通りですが、DSCRが1.2を割ったのは14通りです。しかも割れる時期はCF赤字より平均して数年早い。手残りがまだプラスのうちに、金融機関から見た返済余力は先に細っています。追加融資や借り換えを前提にした戦略は、CFではなくDSCRの推移で判断すべきということになります。

空室率の影響は「毎年」、下落率の影響は「毎年+出口」

空室率が5%→15%へ10ポイント悪化しても、売却純手取は変わりません(同じ1,898万円)。空室は毎年のCFだけを削ります。一方、家賃下落率が0.9%→2.9%になると、CFが削られるうえに売却純手取が1,898万円→321万円へ、1,577万円減ります。同じ「収益の悪化」でも、効き方の構造が違います。

5.転換点:年1.5%を超えると20年以内にCFが赤字へ

空室率10%・出口利回り11%に固定し、家賃下落率を0.1ポイント刻みで動かして、保有20年以内に年間CFが赤字転落する境界を探しました。

家賃下落率(年)

CFが赤字転落する年

0.9%(経年減価のみ)

20年以内には転落しない

1.2%

20年以内には転落しない

1.4%

20年以内には転落しない

1.5%

20年目

1.6%

19年目

1.9%

16年目

境界は年1.5%でした。経年減価の0.9%を差し引くと、需給要因に許される余裕は年0.6ポイントしかありません。

この境界値は本記事の前提条件(価格8,000万円・金利2.0%など)に固有の結果です。ご自身の物件条件では → 家賃下落率を入れて長期収支を試算する(無料ツール)

この「0.6ポイント」という数字が、この記事でいちばん実務的な意味を持つと考えています。人口減少エリアかどうかを議論するとき、多くの人は「家賃が2割下がったら」といった大きな幅を想像します。しかし表面利回り8.0%・借入7,000万円・金利2.0%という、決して無理をしていない条件でも、経年減価に年0.6ポイント上乗せされただけで20年以内にCFが赤字へ入ります

ただしこの1.5%という値は、この記事の前提条件に固有の結果です。金利、借入額、運営費率、空室率のいずれかが変われば境界も動きます。金利側から同じ構造を見た検証は金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減る?8,000万円物件で20パターン試算にあります。

6.検証2:同じCFでも出口利回りで結果が逆転する

次に空室率を10%に固定し、家賃下落率3水準 × 出口利回り3水準の9通りを計算しました。

下落率

出口
利回り

21年目
満室想定家賃

売却価格

20年後
残債

売却
純手取

20年
累計CF

20年
総手残り

IRR

0.9%

9%

534

5,935

2,812

+2,945

+1,612

+2,997

7.77%

0.9%

11%

534

4,856

2,812

+1,898

+1,612

+1,950

6.25%

0.9%

13%

534

4,109

2,812

+1,174

+1,612

+1,226

4.80%

1.9%

9%

436

4,845

2,812

+1,888

+840

+1,168

4.04%

1.9%

11%

436

3,964

2,812

+1,033

+840

+314

1.47%

1.9%

13%

436

3,354

2,812

+442

+840

−278

−1.89%

2.9%

9%

355

3,947

2,812

+1,017

+154

−389

−2.11%

2.9%

11%

355

3,230

2,812

+321

+154

−1,085

算出不能※

2.9%

13%

355

2,733

2,812

−161

+154

−1,567

算出不能※

※途中でキャッシュフローの符号が複数回変わるため、IRRが一意に定まりません。この2ケースは総手残りで判断すべきものとして扱っています。

注目したいのは、下落率1.9%の3行です。20年累計CFはどれも840万円で同じなのに、出口利回りが9%か13%かによって20年トータルの結果は「+1,168万円」から「−278万円」へ、1,446万円ぶれます。

さらに下落率2.9%・出口13%では、売却価格2,733万円に対して残債が2,812万円。売っても79万円足りず、諸費用込みで161万円を持ち出すことになります。20年間毎年のCFはプラスだった年も多いのに、出口で回収不能になるパターンです。

ここには2つの下落が同時に効いています。家賃が下がることで分子(売却時の家賃)が縮み、出口利回りが上がることで分母が膨らむ。売却価格は両方の悪化を掛け算で受けます。出口利回り単体の影響については出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか|保有5年・10年・15年・20年で検証で保有期間別に検証しました。

7.3シナリオ比較(BASE/STRESS/SEVERE)

ここまでの変数を組み合わせ、3つのシナリオにまとめます。

項目

BASE

STRESS

SEVERE

家賃下落率

0.9%(経年減価のみ)

1.9%

2.9%

空室率

5%

10%

15%

出口利回り

9%

11%

13%

初年度CF

+152万円

+120万円

+88万円

10年目CF

+112万円

+43万円

−17万円

20年目CF

+71万円

−27万円

−104万円

初年度DSCR

1.49

1.38

1.28

20年目DSCR

1.23

0.91

0.66

CF赤字転落

なし

16年目

9年目

20年累計CF

+2,200万円

+840万円

−337万円

売却純手取

+2,945万円

+1,033万円

−161万円

20年総手残り

+3,585万円

+314万円

−2,058万円

IRR

9.48%

1.47%

算出不能

ここで重要なのは、3シナリオの初年度DSCRがすべて1.28以上だという点です。購入時点の数字だけを見れば、SEVEREでさえ「DSCR1.28、CF年88万円、表面8.0%」で、多くの金融機関の審査を通り得る水準に見えます。購入時点のDSCRとCFは、20年後の結果をほとんど説明しません。

SEVEREを「不安を煽るためのケース」として提示しているわけではありません。社人研の推計では2050年に人口が5割以上減る市区町村が341(19.7%)あり、そうしたエリアで供給過剰が重なれば年2.9%の下落は想定外の数字ではない、というのが設定の根拠です。ただし前述のとおり、人口減少率がそのまま家賃下落率になるわけではないため、SEVEREは「起きる確率が高い将来」ではなく「起きた場合に何が起きるかを見るための条件」として扱ってください。

8.逆算:この下落率でも成立する購入価格はいくらか

ここからが、この記事のもうひとつの目的です。「下落率が高いエリアは買わない」ではなく、「その下落率なら、いくらまでなら買えるのか」を逆算します。

満室想定家賃640万円と頭金1,000万円を固定し、購入価格だけを動かして「20年IRRが5%になる最大購入価格」を求めました(借入額=購入価格−1,000万円、諸費用は購入価格の7%)。

シナリオ
(下落率/空室率/出口利回り)

最大購入価格

必要な
購入時表面利回り

そのときの
初年度CF

そのときの
初年度DSCR

BASE(0.9%/5%/9%)

9,299万円

6.88%

+94万円

1.26

MILD(1.4%/10%/10%)

8,027万円

7.97%

+118万円

1.38

STRESS(1.9%/10%/11%)

7,363万円

8.69%

+148万円

1.52

SEVERE(2.9%/15%/13%)

5,896万円

10.85%

+181万円

1.83

同じ家賃640万円の物件が、想定する下落率次第で9,299万円にも5,896万円にもなります。差は3,403万円、率にして37%です。

必要な表面利回りに言い換えると、BASEの6.88%からSEVEREの10.85%まで、約4ポイントの開きがあります。「高利回り物件は危ない」という言い方をよく聞きますが、この計算から見えるのは逆の構造です。下落リスクの高いエリアで表面利回りが高いのは、リスクに対する当然の対価であり、むしろ十分に高くなければ成立しないということになります。高利回り物件の失敗要因については「高利回り物件で失敗した」は、本当に利回りのせいなのかでも扱っています。

参考:20年間ずっとCF黒字を保てる購入価格

IRRではなく「20年間一度もCFを赤字にしない」を条件にすると、上限価格はこうなります。

シナリオ

最大購入価格

必要な購入時表面利回り

BASE(0.9%/5%)

9,594万円

6.67%

MILD(1.4%/10%)

8,151万円

7.85%

STRESS(1.9%/10%)

7,389万円

8.66%

SEVERE(2.9%/15%)

5,647万円

11.33%

STRESS条件では、IRR5%基準(8.69%)とCF黒字維持基準(8.66%)がほぼ一致しました。この条件下では、2つの異なる目的関数がほぼ同じ購入価格を指しています。

9.逆算:8,000万円で買うなら頭金はいくら必要か

価格交渉ができない場合、調整できるのは自己資金です。物件価格8,000万円・出口利回り11%を固定し、20年間DSCR1.2を一度も割らないために必要な頭金を逆算しました。

シナリオ(下落率/空室率)

必要な頭金

自己資金比率

頭金1,000万円との差

BASE(0.9%/5%)

838万円

10.5%

−162万円

MILD(1.4%/10%)

2,040万円

25.5%

+1,040万円

STRESS(1.9%/10%)

2,676万円

33.4%

+1,676万円

SEVERE(2.9%/15%)

4,127万円

51.6%

+3,127万円

下落率が0.9%から1.9%へ、たった1ポイント動くだけで、必要な頭金は838万円から2,676万円へ3.2倍になります。SEVEREでは価格の半分以上を自己資金で入れないと、20年間DSCR1.2を維持できません。

自己資金比率とDSCRの関係そのものは不動産投資の自己資金はいくら必要?頭金10%・20%・30%でDSCRと月々の返済を比較で扱っていますが、そこでは家賃を一定と置いていました。家賃下落を織り込むと、必要な自己資金の水準は大きく変わります。

10.この分析を投資判断にどう使うか

結果を「買い/買わない」の二択には落とせません。判断軸として使えるのは、次の4点だと考えています。

① 検討中の物件で、下落率の「損益分岐点」を先に出す

この記事のケースでは1.5%でした。あなたの検討物件では違う値になります。金利・借入額・運営費率を入れて、まず「年何%の下落まで20年間CFがもつか」を計算し、それを経年減価0.9%と比べてください。差が0.5ポイントを切るなら、需給要因の余地がほとんどない物件だということになります。

② 購入時のDSCRを安全性の根拠にしない

SEVEREでも初年度DSCRは1.28ありました。見るべきは水準ではなく推移です。10年目・15年目・20年目のDSCRを出し、1.2を割る年を特定してください。その年が保有予定期間より手前にあるなら、借り換えや追加融資の前提が崩れます。

③ 出口の感応度を、CFとは別に測る

検証2で見たとおり、累計CFが同じでも出口利回り次第で結果は逆転します。出口利回りを購入時+1%/+3%/+5%の3通りで置いて、残債を割るケースがあるかどうかだけは確認する価値があります。売却か保有かの判断軸は築15年の一棟アパート、「売る」か「持ち続ける」かを決める7つの確認項目にまとめました。

④ 土地値を出口の下限として別に把握する

この分析は売却価格を収益還元(家賃÷出口利回り)だけで計算しています。実際には土地値が価格の下支えになります。国土交通省の2026年(令和8年)地価公示では、全国平均で住宅地+2.1%、全用途+2.8%と5年連続の上昇でした。ただし地価公示は全国平均であり、人口が大きく減るエリアでは下落している地点もあります。収益価格と積算価格の両面から見る手順は収益物件の価格査定は何を見る?収益還元法・取引事例比較法・原価法の使い分けと確認手順で解説しています。

なお、今回のように家賃下落率・空室率・出口利回りを同時に動かすと、確認すべき組み合わせは一気に増えます。この記事の24通りも、手作業の表計算では管理が難しい量です。RE-AIの無料診断では、こうした複数条件をまとめて確認できるよう設計しています。ただしこの記事の計算と同様、前提条件を置いたシミュレーションであることに変わりはなく、個別物件の将来を保証するものではありません。

11.この分析で分からないこと

今回の試算には、次の限界があります。

  • 家賃下落を一定率の複利と置いている:実際の家賃は毎年少しずつ下がるのではなく、退去のたびに段階的に切り下がることが多く、リフォーム直後には戻ることもあります。平均的な傾向を単純化したモデルです。
  • 経年減価0.9%は全国平均の推計値:総務省の推計は継続家賃を含む民営借家全体の平均であり、個別物件・個別エリアの下落率ではありません。新規募集家賃だけで見れば下落幅が大きくなる可能性があります。
  • 空室率を全期間一定と置いている:現実には築年数とともに空室率も上昇します。この点で今回の試算はやや楽観的です。
  • 大規模修繕を運営費に均していない:屋根・外壁の一括支出を年ごとの均等額として扱っているため、実際のCFは特定年に大きく凹みます。
  • 金利を20年間2.0%固定と置いている:変動金利であれば、家賃下落と金利上昇が同時に起きる可能性があります。
  • 税金・減価償却を計算していない:すべて税引前です。デッドクロス到来後は税引後CFがさらに悪化します。
  • 土地値・建物状態・競合供給を織り込んでいない:同じエリアでも駅距離、間取り、設備、周辺の新築供給によって結果は変わります。
  • 売却時の市場環境は予測できない:出口利回りは前提として置いた数字であり、20年後の実際の取引利回りではありません。

12.まとめ

  • 総務省統計局の推計では、木造民営借家の家賃は経年だけで年0.898%下がる。人口減少とは別に、全国どこでも働く下方圧力である
  • この条件(価格8,000万円・表面8.0%・借入7,000万円・金利2.0%30年)では、家賃下落率が年1.5%を超えると保有20年以内にCFが赤字転落する。経年減価からの余裕は年0.6ポイント
  • DSCR1.2割れはCF赤字より数年早く来る。購入時のDSCRは20年後を説明しない(SEVEREでも初年度1.28)
  • 累計CFが同じでも、出口利回りが9%か13%かで20年トータルは1,446万円ぶれる。家賃下落は毎年のCFと出口価格の両方に効く
  • 逆算すると、同じ家賃640万円の物件でも成立する購入価格は9,299万円(BASE)〜5,896万円(SEVERE)。必要な表面利回りは6.88%〜10.85%
  • 8,000万円で買う場合、20年間DSCR1.2を維持するのに必要な頭金は838万円〜4,127万円。下落率1ポイントの違いで3.2倍変わる

「人口減少エリアだから買わない」ではなく、「想定する下落率に見合う価格と自己資金でしか買えない」。この記事の計算が示しているのは、そういう構造です。

参考資料・出典

  • 尾中裕一(2022)「消費者物価指数における民営家賃の経年減価調整」統計研究彙報 第79号, 93-110頁, 総務省統計局(木造▲0.898%/非木造▲0.747%の推計値)
    https://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/ihou/79/pdf/2-2-796.pdf
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」2023年12月22日公表(市区町村別の人口減少率分布)
    https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/1kouhyo/yoshi.pdf
  • 総務省統計局「消費者物価指数」民営家賃・持家の帰属家賃
  • 国土交通省「地価公示」令和8年(2026年)1月1日時点調査(全国住宅地+2.1%、全用途+2.8%)

情報確認日:2026年8月11日。地価・人口・家賃に関する数値はいずれも公表時点のものであり、以降の改定により変動する可能性があります。

本記事の試算は、記載した前提条件のもとで筆者が実際に計算したものです。RE-AIの診断実績データや実在物件の統計ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

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