
土地から新築の一棟アパートを検討していると、坪単価がほぼ同じ2つの土地なのに、片方は担当者の話がすんなり進み、もう片方は「その用途地域だとこの規模は建ちません」と止まることがあります。この記事では、用途地域の違いが建築可能な部屋数と収益性にどこまで跳ね返るのかを、建蔽率・容積率をもとに試算して確認します。
用途地域とは、都市計画法に基づいて市区町村が指定する土地利用の区分です。全国は「住居系」「商業系」「工業系」の3つの系統、合計13種類の用途地域に分けられており、それぞれの区分ごとに建てられる建物の用途や規模の上限が定められています。
収益物件の購入検討では、「賃貸住宅を建てられるかどうか」という用途の制限だけでなく、「同じ土地にどれだけの延床面積を建てられるか」という規模の制限も、事業全体の収益性に直結します。この規模を決めているのが、建築基準法第53条が定める建蔽率と、同法第52条が定める容積率です。
建蔽率・容積率の上限は用途地域ごとに法令で候補となる数値の範囲が示されていますが、実際にどの数値を採用するかは市区町村の都市計画によって個別に指定されます。同じ「第一種住居地域」でも自治体によって数値が異なるため、対象地の数値は必ず個別に確認する必要があります。
建蔽率は、敷地面積に対して建築面積(建物を真上から見た面積)がどこまで占められるかを示す割合です。住居系の用途地域では30〜80%、近隣商業地域や商業地域では60〜80%の範囲で指定されるのが一般的です。建蔽率が高いほど、同じ土地でも1フロアあたりの床面積を広く取れます。
容積率は、敷地面積に対する延床面積(各階の床面積の合計)の割合です。住居系の用途地域では50〜500%、近隣商業地域や商業地域ではより高い数値まで指定されることがあります。容積率が高いほど、階数を重ねて建てられる延床面積が増え、区分できる部屋数が増える方向に働きます。
なお、前面道路の幅員が狭い場合は、指定容積率とは別に「幅員×法定乗数」で算出される基準容積率とのいずれか低い方が適用されます。用途地域だけを確認し、前面道路の幅員を見落とすと、実際に建てられる延床面積を過大に見積もってしまうことがあります。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実際の建築計画では、高さ制限・日影規制・斜線制限・地域独自の条例など、建蔽率・容積率以外の制約も関わります。
想定する読者は、土地から木造・軽量鉄骨の小規模アパートを新築しようとしている個人投資家です。地方中核都市の住宅地に近いエリアで、面積100㎡・価格1,200万円という条件が近い2つの土地を比較しており、一方は第一種住居地域(建蔽率60%・容積率200%)、もう一方は近隣商業地域(建蔽率80%・容積率300%)に指定されているケースを想定します。どちらも3階建てで計画し、延床面積の80%が実際に貸せる面積になり、1部屋あたり25㎡(1K想定)で区割りするという条件で試算します。
項目 | Case A 第一種住居地域 | Case B 近隣商業地域 |
|---|---|---|
建蔽率 | 60% | 80% |
容積率 | 200% | 300% |
建築面積 | 60㎡ | 80㎡ |
延床面積(3階建て) | 180㎡ | 240㎡ |
賃貸可能面積(延床の80%) | 144㎡ | 192㎡ |
想定部屋数(25㎡/戸) | 5戸 | 7戸 |
土地価格 | 1,200万円 | 1,200万円 |
建築費(26万円/㎡と仮定) | 4,680万円 | 6,240万円 |
総事業費 | 5,880万円 | 7,440万円 |
満室想定年間家賃(月5.8万円/戸と仮定) | 348万円 | 487.2万円 |
NOI(空室率5%・経費率20%と仮定) | 264.5万円 | 370.3万円 |
表面利回り | 5.92% | 6.55% |
NOI利回り | 4.50% | 4.98% |
土地価格が同じ1,200万円でも、用途地域の違いによって部屋数は5戸から7戸へ40%増え、NOIも264.5万円から370.3万円へ40%増加しました。総事業費はCase Bの方が1,560万円多くかかっていますが、その差額は「同じ土地の上に、より多くの賃貸面積を上乗せするための建築費」であるため、NOI利回りで見てもCase Bが4.98%とCase Aの4.50%を上回っています。これは、土地という固定費に対して回収できる賃貸面積が多いほど、事業全体の効率が上がりやすいことを示す一例です。
表面利回りやNOIの基本的な計算方法については「収益物件の収支計算完全ガイド」で整理しています。
建蔽率・容積率の数値を確認するだけでは、購入判断として不十分な点がいくつかあります。
用途地域は、収益物件を購入する前に確認しておきたいリスク項目の一つです。物件・契約・エリアの3層で確認すべき項目全体は「収益物件購入前のリスクチェック完全ガイド」で整理しています。用途地域の変更によって既存不適格になった建物を購入する場合の融資条件への影響については、「既存不適格物件は買っても大丈夫か」で試算しています。また、接道義務を満たさないことで再建築ができない「再建築不可物件」は、用途地域とは別の制限であり、「再建築不可物件は「投資」になるか」で出口戦略まで含めて試算しています。
用途地域は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で地図上から確認できるほか、対象地の市区町村の都市計画課でも「都市計画図」として閲覧・入手できます。確認する際は、次の3点をセットで見ておくと過大評価を避けやすくなります。
エリアの人口動態や空室率など、賃貸需要に関わる公的データの調べ方は「賃貸需要の調べ方完全ガイド」で整理しています。用途地域は建築可能な規模を、人口動態は需要の持続性を確認するためのデータであり、両方を組み合わせて初めて土地の評価に近づきます。
用途地域の違いによって延床面積や部屋数の前提が変わると、NOIや妥当な価格の目安も変わります。想定NOIを入力して、その物件の売出価格が収益力から見て妥当かを確認したい場合は、RE-AIの収益還元法・収益価格シミュレーターで、還元利回りを変えながら試算できます。価格査定の考え方全体は「収益物件の価格査定完全ガイド」でも解説しています。
用途地域による建築規模の違いは、価格査定・収益性の一部にすぎません。融資条件やエリアの需要、出口戦略まで含めて土地・物件全体を確認したい場合は、RE-AIの無料診断で物件情報を入力すると、これらの要因を組み合わせた分析結果を確認できます。
市区町村は都市計画の見直しにより、用途地域や指定容積率を変更することがあります。変更によって、購入時点では適法だった建物が現行の基準に合わなくなる「既存不適格」になる可能性があるため、長期保有を前提とする場合は、過去の変更履歴も自治体の都市計画課で確認しておくと安心です。
同じ価格の土地でも、建蔽率・容積率が異なれば建築できる延床面積が変わり、賃貸収入の上限やNOI利回りも変わります。土地価格の比較だけでなく、建築可能な規模を反映した事業計画ベースで比較することが望ましいといえます。
用途地域は、「賃貸住宅を建てられるか」という用途の制限だけでなく、建蔽率・容積率を通じて「どれだけの規模を建てられるか」を左右し、部屋数・賃貸収入・NOI利回りにまで影響します。数値は自治体ごとに異なるため、不動産情報ライブラリや都市計画課で対象地の数値を個別に確認し、前面道路の幅員や高さ制限もあわせて見ておくことが、購入判断の精度を上げることにつながります。
参考資料・出典(情報確認日:2026年9月6日)
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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