
一棟アパートや区分マンションの購入を検討すると、家賃収入や利回りには目が向いても、火災保険料は「見積もりが出てから考えればいい」と後回しになりがちです。しかし保険料は物件価格ではなく建物の構造と延床面積で決まるため、同じ利回りの物件でも運営費として毎年のキャッシュフローに与える影響は違います。保険料が決まる仕組みと、木造・鉄骨・RCの3つの架空例でのキャッシュフローへの影響を試算します。
火災保険は、万が一の火災や台風・水災などで建物が損害を受けた場合に、同等の建物を再び建てるための費用(再調達価格)を補償する仕組みです。そのため保険金額は物件の購入価格ではなく、再調達価格をもとに設定されます。
再調達価格に影響する主な要素は、建物の構造(木造・鉄骨造・RC造など)、延床面積、築年数、所在地、補償範囲(水災・水濡れ・盗難などの特約の有無)です。保険会社ごとに料率や割引制度が異なるため、同じ建物でも見積もりを取る保険会社によって金額差が出ます。正確な保険料は、物件の詳細情報をもとに保険会社に見積もりを依頼しないと分かりません。
地震保険は火災保険とは料率の決まり方が異なります。損害保険料率算出機構が算出する基準料率にもとづき、建物の構造を「イ構造(主に鉄骨造・RC造など耐火性能が高い構造)」と「ロ構造(主に木造など)」の2区分に分け、さらに所在地の都道府県ごとに過去の地震被害データや将来の発生確率を踏まえて料率を設定しています。
地震保険は政府が再保険を引き受ける制度のため、どの保険会社で契約しても基準料率は共通です。会社によって保険料が大きく変わるのは火災保険部分であり、地震保険部分ではない点は誤解されやすいところです。また地震保険は単独では契約できず、火災保険とセットで契約する必要があります。
以下は、保険料が構造や延床面積によってどう変わり、収支にどれだけ影響するかを理解しやすくするために設定した架空条件です。実在する物件の見積もりではありません。保険料は複数の保険比較サイトが公開している目安レンジを参考に、説明用の金額として設定しています。
地方の郊外エリアにある小規模木造アパートを想定します。表面利回り9.2%、満室想定年間家賃239.2万円、空室率10%として実効総収入は215.3万円です。管理費・修繕費・固定資産税などの運営費(保険料を除く)を年43万円とすると、保険料抜きのNOIは172.3万円になります。ここに火災保険・地震保険(ロ構造)の年間保険料を合計7万円とした場合、NOIは165.3万円まで下がります。保険料はNOIの約4.1%に相当します。
中規模の重量鉄骨アパートを想定します。表面利回り8.0%、満室想定年間家賃512万円、空室率8%で実効総収入は471.0万円です。保険料を除く運営費を年102万円とすると、保険料抜きのNOIは369.0万円です。鉄骨造は準耐火構造として扱われることが多く、地震保険はイ構造に区分されるケースがあります。火災・地震保険を合計年13万円とすると、NOIは356.0万円まで下がります。保険料はNOIの約3.5%です。
都市部のRC一棟マンションを想定します。表面利回り7.2%、満室想定年間家賃1,044万円、空室率6%で実効総収入は981.4万円です。保険料を除く運営費を年235万円とすると、保険料抜きのNOIは746.4万円です。RC造はイ構造に区分され、鉄骨造より耐火性能が高いぶん構造区分上は有利ですが、延床面積が大きいため保険金額(再調達価格)自体は高くなります。火災・地震保険を合計年23万円とすると、NOIは723.4万円まで下がります。保険料はNOIの約3.1%です。
ケース | 物件価格 | 構造 | 延床面積 | 年間保険料(架空例) | NOIに占める割合 |
|---|---|---|---|---|---|
A:木造 | 2,600万円 | ロ構造 | 210㎡ | 約7万円 | 約4.1% |
B:重量鉄骨 | 6,400万円 | イ構造想定 | 420㎡ | 約13万円 | 約3.5% |
C:RC造 | 1億4,500万円 | イ構造 | 820㎡ | 約23万円 | 約3.1% |
物件価格は2,600万円から1億4,500万円まで約5.6倍の開きがありますが、保険料は7万円から23万円までの約3.3倍にとどまっています。保険料が主に構造と延床面積で決まり、価格そのものには比例しないことが分かります。逆にいえば、価格が近い物件同士でも構造が違えば運営費の差になり、表面利回りだけを比べていると見落としやすい部分です。
ご自身が検討している物件の家賃・空室率・運営費に、見積もりで分かった保険料を加えて年間キャッシュフローがどう変わるかを確認したい場合は、RE-AIのキャッシュフロー計算機(無料)で「詳細計算」モードを選び、保険料の項目に見積金額を入力すると試算できます。
保険料は年間数万円から数十万円程度で、家賃収入に対する割合はそれほど大きくありません。しかしこの記事の収益物件の収支計算完全ガイドでも触れているとおり、NOIは家賃収入から運営費を差し引いた金額であり、保険料を計算に入れないまま試算すると、NOIも年間キャッシュフローもその分だけ過大に表示されます。特に融資を使って購入し、DSCR(返済余力)に余裕が少ない物件では、保険料のような固定費の入れ忘れが返済余力の見誤りにつながります。
複数の物件を比較検討する際は、価格や表面利回りだけでなく、構造の違いによって運営費(保険料を含む)がどれだけ変わるかまで含めて見る視点が必要です。
国税庁のタックスアンサー「No.1370 不動産収入を受け取ったとき」では、不動産所得の必要経費の例として損害保険料が挙げられています。賃貸事業で契約した火災保険・地震保険の保険料は、不動産所得の必要経費として計上できます。
一方で、確定申告でよく混同されるのが「地震保険料控除」という所得控除です。これは自分や家族が住む住宅にかけた地震保険が対象で、賃貸に出している物件の保険料は対象になりません。賃貸物件の保険料は所得控除ではなく必要経費として処理する点を押さえておく必要があります。複数年契約で保険料を一括払いした場合の経費計上方法など、実務の詳細は税理士に確認することをおすすめします。
保険料の金額だけでなく、免責金額(自己負担額)や補償範囲も物件の収支に影響します。浸水想定区域にある物件を検討している場合は水災補償の有無、旧耐震基準の木造アパートを検討している場合は地震保険の補償割合や免責の設定を、見積もり段階で必ず確認してください。保険料を安く抑えるために補償範囲を削りすぎると、実際に被害が出たときの自己負担が保険料の差額以上に大きくなることもあります。
また、修繕費や固定資産税など、保険料以外にも見落とされやすい運営費はあります。購入前のリスクチェックと合わせて、運営費全体を洗い出しておくと収支計算の精度が上がります。
火災保険・地震保険の保険料は、物件価格ではなく建物の構造と延床面積(再調達価格)によって決まります。同じ利回りの物件でも構造が違えば運営費に差が出るため、表面利回りだけで比較すると保険料の違いを見落とすことになります。保険料は不動産所得の必要経費にできますが、地震保険料控除とは別の扱いになる点にも注意が必要です。正確な金額は保険会社の見積もりでしか分かりませんが、見積もりが出たらキャッシュフロー計算に必ず組み込み、他の運営費や融資条件と合わせて総合的に判断することが重要です。
情報確認日:2026年8月25日。税務・保険の取り扱いは制度改正や個別条件により変わる場合があるため、最終判断の前に保険会社・税理士など専門家にご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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