
市の人口が10年で8%減る見込み。そう聞くと、その市の収益物件は避けたほうがいいと感じるかもしれません。ただ、同じエリアの中でも、駅から徒歩5分の物件と、車がないと生活できない立地の物件では、話がまったく変わってきます。
不動産投資の情報を集めていると、「人口が減っているエリアには投資すべきではない」という意見をよく見かけます。空室が増える、家賃が下がる、売却しにくくなる。たしかに、どれも理屈としては成り立ちます。
一方で、「エリア全体の人口動態だけで判断するのは早すぎる」という意見もあります。ここでは、仮に人口10万人、今後10年で人口が8%減少すると予測されているB市を例に、両方の根拠を並べてみます。

人口減少エリアへの投資に慎重な立場は、主に次のような根拠を挙げます。
エリア全体の需要が縮小すれば、新規入居者を確保する競争が激しくなり、家賃の下落圧力がかかりやすくなります。将来的に人口がさらに減少した場合、売却時の買い手も見つかりにくくなり、出口戦略が読みにくくなります。人口減少は自治体の税収減にもつながり、インフラや生活利便性の維持が難しくなる可能性も指摘されます。
これらは、35年という長期の収益物件の保有期間を考えると、無視できないリスクです。
一方で、人口減少エリアでも一定の条件が揃えば投資対象になりうる、という立場もあります。
市全体の人口が減っても、駅前や中心市街地など、生活利便性の高いエリアには人口が集中する傾向が見られる地域があります。いわゆる「コンパクトシティ化」です。人口減少エリアでは新築供給が減る傾向があり、既存物件の競争力が相対的に保たれやすいという見方もあります。市場価格が下がっている分、表面利回りが高く出やすく、価格が下がりきった後に購入すれば、将来の値下がり余地が限定的というケースもあります。
仮にB市の駅徒歩5分・単身者向けエリアでは、市全体の人口減少予測とは別に、直近5年の賃貸成約件数がほぼ横ばいというデータがあったとします。この場合、「市の人口減少率」と「対象エリアの賃貸需要」は、必ずしも同じ方向に動いていないことになります。
人口減少エリアかどうかを判断するとき、多くの人は市区町村の総人口の増減だけを見てしまいがちです。ただし、賃貸需要により直結するのは、総人口そのものよりも「世帯数」と「社会増減(転入・転出)」の2つです。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(令和5(2023)年推計)では、市区町村単位で将来の人口だけでなく世帯数の推計も公表されています。総人口が減少局面に入った後も、単身世帯・2人世帯の増加によって世帯数はしばらく増え続ける地域が少なくありません。賃貸物件の需要は世帯単位で発生するため、総人口よりも世帯数の推移を優先して確認する方が実態に近い判断材料になります。
もう一つは社会増減です。総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」では、市区町村別・年齢層別の転入超過数・転出超過数を確認できます。出生数と死亡数の差である自然増減は短期間では大きく動きませんが、社会増減は雇用の変化や再開発、大学・企業の立地移転によって数年単位で改善することがあります。B市のように市全体の人口減少が見込まれるエリアでも、特定の年齢層で転入超過が続いていれば、その層をターゲットにした賃貸需要は維持されている可能性があります。
世帯数の推計や転入・転出データを実際にどう調べればよいかは、「賃貸需要の調べ方完全ガイド」で市区町村単位の確認手順を具体的に解説しています。

関連記事
賃貸需要の調べ方完全ガイド|収益物件のエリア判断に使う公的データと読み方
「賃貸需要があるエリア」と言われても、何を根拠に判断すればよいか迷う投資家は少なくありません。人口動態・空室関連統計・地価という3つの公的データの調べ方と、収支計算への反映方法を具体例つきで整理し、公的データだけでは分からない部分を補う現地確認・不動産会社への聞き込みのポイントもFAQで解説しました。
この議論に、一律の正解はありません。大切なのは、「人口減少エリアだから危ない」「人口減少エリアでもチャンスがある」のどちらかを鵜呑みにするのではなく、対象物件がある具体的なエリアの、より細かい需要データを確認することです。
市区町村単位の人口動態だけでなく、最寄り駅の乗降者数の推移、周辺の賃貸募集件数と成約までの平均日数、競合物件の空室状況など、もう一段階細かい情報を見る必要があります。

関連記事
築古アパートの空室対策、費用対効果で選ぶリフォーム優先順位ランキングTOP5
築古アパートを持つと、必ず頭をよぎる悩みがある。「そろそろリフォームしたほうがいいのは分かってるけど、どこから手をつければいいんだ」問題だ。予算は...
RE-AIのエリア分析機能では、周辺の人口動態や賃貸需要、空室リスクといったデータを一度に確認できます。ただし、これらのデータが示すのはあくまで傾向であり、「この物件は絶対に安全」「この物件は絶対に危険」と断定するものではありません。最終的にそのエリアに実際に足を運び、周辺の店舗や人の流れを自分の目で確認する作業は、AIでは代替できない部分です。
市全体の人口減少率と家賃下落率・空室率を掛け合わせた場合に、実際どこまでの価格なら購入が成立するのかを数値で確認したい方は、家賃下落率×空室率×出口利回りを24パターンで試算した記事もあわせてご覧ください。

関連記事
人口減少エリアでも成立する購入価格を逆算する|家賃下落率×空室率×出口利回りを24通り試算
家賃下落は人口減少エリア固有の問題ではありません。総務省統計局の推計では、木造民営借家の家賃は経年だけで年0.898%下がります。この0.9%を起点に下落率・空室率・出口利回りを24通り試算したところ、表面8%の物件は下落率が年1.5%を超えると20年以内にCFが赤字転落しました。成立する購入価格と必要な頭金も逆算しています。
人口減少エリアの物件が良いか悪いかは、市区町村単位のデータだけでは決まりません。賛成派、反対派、どちらの根拠にも一理あります。だからこそ、対象物件のより細かい需要データを、自分で確認する姿勢が欠かせません。
あなたなら、市全体の人口が減少傾向にあるエリアでも、駅から近く単身者需要が読めるなら、投資対象として検討しますか。それとも、人口動態のマイナス予測が出ている時点で、候補から外しますか。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定のエリアや物件への投資を推奨または否定するものではありません。人口動態や賃貸需要は地域や時期によって大きく異なるため、実際の投資判断は最新の統計データや現地調査、必要に応じて不動産の専門家への相談をもとに行ってください。
※本記事のB市の人口減少率・賃貸成約件数は理解のための架空例であり、実在の自治体のデータではありません。将来推計人口・人口移動の実際の数値は、上記の公表元で最新の情報をご確認ください。情報確認日:2026年8月13日。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

既存不適格物件は買っても大丈夫か|自己資金が2倍に増える融資試算で検証した
2026/8/27

収益物件の火災保険料はいくらか|木造・鉄骨・RCで変わる保険料とキャッシュフローへの影響
2026/8/24

借地権付き収益物件は買いか?高利回りに見える理由と出口までの注意点
2026/8/13

収益物件購入前のリスクチェック完全ガイド|物件・契約・エリアの3層で見落としを防ぐ
2026/8/12

同じ土地価格でも用途地域が違うと収益性は変わるのか|建蔽率・容積率の差を新築アパートで試算した
2026/9/5

融資特約(ローン特約)とは?不動産投資で手付金を守る条件と契約前の確認点
2026/9/4

投資用物件は駅から徒歩何分まで?賃貸需要とDSCRへの影響から許容範囲を考える
2026/9/1

収益物件の契約不適合責任とは|「満室」表示や設備不良、代金減額請求はいくらまで求められるか
2026/8/30