RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

価格査定

空室2戸の物件はいくら値引けば引き合うのか|必要値引きは売出価格の1.9%、同じDSCR基準の借入余力は419万円縮んだ

空室2戸の物件はいくら値引けば引き合うのか|必要値引きは売出価格の1.9%、同じDSCR基準の借入余力は419万円縮んだ

収益物件の広告に載っている表面利回りは、ほとんどの場合「満室想定」です。10戸のうち2戸が空いていても、売出利回りは10戸すべてが埋まっている前提で計算されています。つまり空室がもたらすコストは、売出価格には一切織り込まれていません。

では、空室2戸の物件を満室物件と同じ投資条件で買うには、いくら値引けばいいのでしょうか。「2割空いているから2割引き」でしょうか。

10戸・満室想定表面利回り10.0%の条件で10年間のキャッシュフローと売却まで計算し、満室物件と同じ税引前IRRになる購入価格を逆算しました。結論から書くと、空室2戸でも必要な値引きは112.5万円(売出価格の1.9%)にとどまりました。空室の一時コストは、価格に対しては驚くほど小さいのです。

ところが同じ条件で、初年度DSCR1.20を基準に金融機関が貸せる額を逆算すると、空室0戸の4,729万円に対し空室2戸では4,310万円。借入余力が419万円縮みました。同じ価格で買うなら自己資金を419万円多く用意する必要があるということで、必要な値引き額の3.7倍です。空室は価格ではなく、融資枠と資金計画に効いていました。

この記事で検証する疑問

  • 空室1戸を埋めるまでに、実際いくら現金が出ていくのか
  • 空室がある物件を満室物件と等価にするには、売出価格から何%引く必要があるのか
  • その必要値引き率は、物件価格を知らなくても計算できるのか
  • 空室が「想定どおりの賃料で埋まらない」場合、必要値引き率はどこまで増えるのか
  • 空室は価格・融資枠・自己資金のうち、どこに一番強く効くのか(逆算)

一般的な記事では「満室想定利回りは実際の利回りではないので注意」「空室が多い物件は慎重に」という定性的な説明までで、いくら引けば釣り合うのかという金額の境界は示されていません。今回はそこを計算します。

収益物件の価格をどの手法で評価するか、収益還元法・積算法・取引事例比較法の使い分けは収益物件の価格査定完全ガイドにまとめています。本記事はそのうち「収益還元で価格を見るときに、稼働率をどう織り込むか」を掘り下げたものです。

なお、空室がなく満室であっても現況賃料そのものが相場より高い物件は別の論点です。そちらは現況賃料が相場より10%高い満室物件は、何%値下げすれば引き合うのかで検証済みのため、本記事では「稼働率が100%未満であること」自体が価格にどう効くかに絞り、両者の切り分けを行います。

分析の前提条件(条件付きシミュレーション)

使用データの区分

区分

内容

公開データ

運営費率・NOI率・平均入替率・平均入居期間(IREM JAPAN/日本賃貸住宅管理協会「第13回 全国賃貸住宅実態調査報告書」2025年版)、原状回復費用の負担区分の考え方(国土交通省ガイドライン)、投資家の期待利回り水準(日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」)

シミュレーション

本記事のNOI・DSCR・キャッシュフロー・IRR・必要値引き率・必要自己資金のすべての計算結果

架空ケース

物件条件(10戸・想定賃料5.0万円・満室想定表面利回り10.0%など)と3つの空室消化シナリオ

実データ

本記事では使用していません(RE-AIの診断実績データは使用していません)

情報確認日:2026年10月20日。本記事は税引前で統一しています。

物件条件をこう置いた理由

このテーマで検証したいのは「稼働率が価格にどう効くか」です。そのため条件設定は次の順で決めました。

  1. 戸数を10戸にした理由。空室1戸=稼働率10ポイントとなり、空室戸数の影響を他の条件から分離して読み取れます。区分1戸では稼働率が0%か100%しかなく、この分析が成立しません。
  2. 「満室想定利回りで売られる」状況が最も多い物件帯。空室が複数出たまま売りに出る一棟は、地方中核市の築古木造・単身向けに集中します。そこで築20年・木造・1K〜1DK・10戸としました。
  3. 価格は先に決めず、年収と売出利回りから逆算。満室想定年収600万円(5.0万円×10戸×12ヶ月)を売出表面利回り10.0%で割って6,000万円としています。価格を先に置いていないため、賃料・利回り・価格の整合が保たれます。

項目

設定

設定の根拠

物件

地方中核市・木造・築20年・1K〜1DK・10戸

満室想定利回りで売り出される帯

想定賃料

5.0万円/戸・月

地方中核市の単身向け住戸として設定

満室想定年収

600万円

5.0万円×10戸×12ヶ月

売出価格

6,000万円(1戸あたり600万円)

満室想定表面利回り10.0%から逆算

運営費

年90万円(満室想定賃料の15.0%)

固都税・管理委託料・共用部光熱費・損害保険・経常修繕。一棟木造の運営費率17.79%、築20年以上の単身向け26.54%(IREM調査)を踏まえ、入替コストを別建てするため15.0%に設定

経常の入替コスト

年59.1万円

入替率19.7%(年1.97戸)×(空室1.5ヶ月+募集費1.5ヶ月+原状回復15万円=30万円)

満室時NOI(初年度)

450.9万円(NOI率75.1%/実質利回り7.51%)

600万円−90万円−59.1万円

借入

4,200万円(LTV70%)/金利2.4%/15年/元利均等

築20年木造に対する地方金融機関の想定条件

年間返済額

333.69万円

元利均等で計算

初期投下自己資金

2,220万円

自己資金1,800万円+諸費用420万円(価格の7%)

満室時の初年度DSCR

1.35

450.9万円÷333.69万円

家賃下落

年▲0.7%

地方築古木造の想定

運営費上昇

年+1.0%

人件費・資材価格の上昇を反映

保有期間/出口

10年/還元利回り9.0%(NOIベース)/売却費用4%

売却時築30年。取得時NOI利回り7.51%から1.5ポイント拡大

固定した条件:戸数10戸、想定賃料5.0万円、売出価格6,000万円、運営費率、融資条件(金利2.4%・15年・LTV70%)、保有10年、家賃下落年▲0.7%、出口還元利回り9.0%

変更した条件:空室戸数(0/1/2/3戸=稼働率100/90/80/70%)、空室が埋まる賃料水準、空室の消化期間、リフォーム費用、出口還元利回り(感応度のみ8.0〜10.0%)、購入価格(逆算の解として求める)

3つの空室消化シナリオ

空室は「必ず想定賃料で埋まる」とは限りません。そこで消化の難易度を3段階に分けました。

シナリオ

埋まる賃料

空室期間

募集費(AD+仲介)

リフォーム

1戸の消化コスト

A 想定どおり

5.0万円(±0%)

4ヶ月

2.0ヶ月分

25万円

55.0万円(想定賃料11.0ヶ月分)

B 相場に合わせる

4.65万円(▲7%)

6ヶ月

2.5ヶ月分

40万円

79.5万円(15.9ヶ月分)

C 構造的に劣る

4.40万円(▲12%)

9ヶ月

3.0ヶ月分

70万円(水回り更新)

122.8万円(24.6ヶ月分)

BとCでは、空室を埋めるために賃料を下げた水準が「その物件の市場賃料」だったことになります。したがって既存入居戸も退去のたびに同じ水準へ収斂させました。収斂速度には入替率19.7%/年(平均入居期間5.1年)を使っています。シナリオAでは賃料水準が変わらないため、空室戸数の影響だけが残ります。

検証1:空室1戸を埋めるのに、現金はいくら出るのか

空室を「家賃が入らない状態」と捉えると、空室期間の家賃損失だけを見てしまいます。実際には3種類の支出が同時に発生します。

項目

シナリオA

シナリオB

シナリオC

空室期間の家賃損失

20.0万円(4ヶ月)

27.9万円(6ヶ月)

39.6万円(9ヶ月)

募集費(AD+仲介手数料)

10.0万円(2.0ヶ月)

11.6万円(2.5ヶ月)

13.2万円(3.0ヶ月)

原状回復・リフォーム

25.0万円

40.0万円

70.0万円

1戸あたり合計

55.0万円

79.5万円

122.8万円

想定賃料(5.0万円)換算

11.0ヶ月分

15.9ヶ月分

24.6ヶ月分

注目したいのは構成比です。シナリオAの55.0万円のうち、空室期間の家賃損失は20.0万円(36%)にすぎません。残り64%は募集費と原状回復という、「空室率」という指標にはまったく表れない支出です。この構造は「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せるで検証した入替コストと同じで、空室物件の取得時にはそれが戸数分まとめて前倒しで発生します。

原状回復のオーナー負担が生じる根拠は国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方です。クロスなどは経過年数に応じて残存価値を減らすため、入居が長かった住戸の通常損耗はほぼ全額オーナー負担になります。売主が「前の入居者が長く住んでいた」と説明する住戸は、原状回復費が重くなる側だと考えたほうが安全です。

検証2:必要値引き率は、物件価格を知らなくても書ける

ここで一つ、使い回せる式が出てきます。空室の消化コストを価格比で表すと、物件価格が約分されて消えます。

必要値引き率 = 空室率 ×(1戸の消化コスト月数 ÷ 12)× 満室想定表面利回り

導出は単純です。売出価格は「満室想定年収÷満室想定表面利回り」、消化コストは「空室戸数×月額賃料×消化月数」です。両者の比を取ると月額賃料と戸数が約分され、残るのは空室率・消化月数・売出利回りの3つだけになります。どれも物件情報と募集状況から読み取れる数字で、物件価格を入れる必要がありません。

消化コスト月数

空室1戸(10%)

空室2戸(20%)

空室3戸(30%)

6ヶ月分

0.50%

1.00%

1.50%

8ヶ月分

0.67%

1.33%

2.00%

11ヶ月分(シナリオA)

0.92%

1.83%

2.75%

14ヶ月分

1.17%

2.33%

3.50%

16ヶ月分(シナリオB)

1.33%

2.67%

4.00%

20ヶ月分

1.67%

3.33%

5.00%

25ヶ月分(シナリオC)

2.08%

4.17%

6.25%

満室想定表面利回り10.0%・10戸の場合の値です。この表の意味するところは明快です。空室3戸・消化25ヶ月分という相当に厳しい条件でも、一時コストから説明できる値引きは価格の6.3%まで。「空室が3割だから3割引き」は、一時コストの観点からは5倍近い過大評価になります。

売出利回りが違う物件でも同じ式が使えます。空室2戸・消化11ヶ月分で売出利回りだけを変えると次のようになります。

満室想定表面利回り

売出価格

必要値引き率

必要値引き額

6.0%

1億円

1.10%

110万円

8.0%

7,500万円

1.47%

110万円

10.0%

6,000万円

1.83%

110万円

12.0%

5,000万円

2.20%

110万円

値引き額は110万円で一定です。空室の消化コストは円建てで決まるため、物件価格が大きいほど値引き「率」は小さく見えるだけだという関係が確認できます。低利回り・高価格帯の物件で「空室が1戸あるから5%引いてくれ」という交渉が通りにくい理由はここにあります。

検証3:10年間を回して逆算した必要値引き率

検証2は一時コストだけを見た近似です。実際には空室が初年度のキャッシュフローを削り、返済が先に進み、出口価格にも影響します。そこで10年間のキャッシュフローと売却までを計算し、満室物件(空室0戸・シナリオA)の税引前IRR 6.14%と等しくなる購入価格を逆算しました。

シナリオ

空室

稼働率

成立価格

必要値引き額

必要値引き率

売出価格で買った場合の10年IRR

基準

0戸

100%

6,000万円

―

―

6.14%

A 想定どおり

1戸

90%

5,943.7万円

56.3万円

0.9%

5.84%

A 想定どおり

2戸

80%

5,887.5万円

112.5万円

1.9%

5.55%

A 想定どおり

3戸

70%

5,831.2万円

168.8万円

2.8%

5.27%

B 相場に合わせる

1戸

90%

5,441.4万円

558.6万円

9.3%

3.00%

B 相場に合わせる

2戸

80%

5,352.2万円

647.8万円

10.8%

2.56%

B 相場に合わせる

3戸

70%

5,263.0万円

737.0万円

12.3%

2.14%

C 構造的に劣る

1戸

90%

5,056.2万円

943.8万円

15.7%

0.57%

C 構造的に劣る

2戸

80%

4,917.2万円

1,082.8万円

18.0%

▲0.07%

C 構造的に劣る

3戸

70%

4,778.2万円

1,221.8万円

20.4%

▲0.68%

シナリオAの0.9%/1.9%/2.8%は、検証2の近似式が示した0.92%/1.83%/2.75%と0.1ポイント以内で一致しました。つまり空室が想定賃料で埋まる限り、必要値引き額は「空室の消化コストそのもの」であり、10年分のキャッシュフローや出口価格を計算しても結論は変わりません。現場で紙と電卓だけで判断してよい領域です。

一方、シナリオBとCでは桁が変わります。空室2戸で647.8万円、1,082.8万円。シナリオCに至っては、売出価格のまま買うと10年IRRがマイナスになります。この差はどこから来たのかを次に分解します。

検証4:必要値引きの大半は「空室」ではなく「賃料水準」だった

シナリオBとCでは、空室を埋めるために下げた賃料が既存入居戸にも波及します。これは空室の問題ではなく、その物件の市場賃料が売主の想定より低いという問題です。そこで同じシナリオで空室0戸(=満室だが想定賃料が市場より高い)の必要値引き率を計算し、差分を空室固有の寄与として切り出しました。

シナリオ

空室

必要値引き率(合計)

うち賃料水準による分

うち空室固有の分

空室固有の寄与

B 相場に合わせる(▲7%)

1戸

9.3%

7.8%

1.5ポイント

16.0%

B 相場に合わせる(▲7%)

2戸

10.8%

7.8%

3.0ポイント

27.5%

B 相場に合わせる(▲7%)

3戸

12.3%

7.8%

4.5ポイント

36.3%

C 構造的に劣る(▲12%)

1戸

15.7%

13.4%

2.3ポイント

14.7%

C 構造的に劣る(▲12%)

2戸

18.0%

13.4%

4.6ポイント

25.7%

C 構造的に劣る(▲12%)

3戸

20.4%

13.4%

7.0ポイント

34.1%

シナリオB・空室2戸の10.8%のうち、空室そのものが説明するのは3.0ポイント(27.5%)だけで、残る7.8ポイントは稼働率と無関係です。空室がゼロだったとしても、想定賃料が市場より7%高ければ7.8%の値引きは必要でした。

これは実務上、見積もりの順序を変える話です。空室戸数を見て値引き額を決めるのではなく、空室が「いくらで埋まるか」を先に確かめる。空室が3戸あっても想定賃料で埋まるなら必要値引きは2.8%、空室が0戸でも想定賃料が7%高ければ7.8%です。空室戸数という目に見える数字と、必要値引き率は比例しません。

なお、賃料水準そのものがNOIと価格をどう動かすかは現況賃料が相場より10%高い満室物件は、何%値下げすれば引き合うのかで、固定運営費による増幅(賃料ギャップ10%がNOIを12.9%削る構造)まで検証しています。本記事の「賃料水準による分」は、そこで示した効果が空室物件にも同じように乗っていることを意味します。

空室期間の家賃損失は一時的でも、下げた賃料はレントロールに残って出口価格に資本化されます。この非対称性が、必要値引き率の大半を賃料水準側に寄せている原因です。買い手がレントロールをどう評価するかは収益還元法の還元利回り(キャップレート)はどう決める?で整理しています。

自分が検討している物件の現況稼働率と想定運営費を入れて収益価格を出したい場合は、収益還元法・収益価格シミュレーターで売出価格との乖離率を試算すると、本記事と同じ考え方(詳細計算モードで満室想定賃料・空室損失率・運営費からNOIを組む)で確認できます。本記事の売出価格6,000万円は架空ケースなので、実際の判断は必ず自分の物件の数字で行ってください。

検証5:必要値引き率は、出口利回りの想定にほとんど左右されない

収益物件の分析では、出口の還元利回りをどう置くかで結論が大きく変わることが普通です。空室の必要値引き率でも同じかを確認しました。

出口還元利回り

基準IRR(満室)

A 想定どおり

B 相場に合わせる

C 構造的に劣る

8.0%

7.73%

2.0%

10.9%

18.2%

8.5%

6.92%

1.9%

10.8%

18.1%

9.0%(基準)

6.14%

1.9%

10.8%

18.0%

9.5%

5.39%

1.8%

10.8%

18.0%

10.0%

4.67%

1.8%

10.7%

17.9%

空室2戸のケースです。出口還元利回りを8.0%から10.0%まで2ポイント動かすと基準IRRは7.73%から4.67%へ3.06ポイント動きますが、必要値引き率はシナリオAで2.0%→1.8%、Bで10.9%→10.7%とほぼ動きません。

理由は単純です。賃料水準の低下は買値と売値を同じ方向に動かすため、還元利回りの水準そのものは相殺されます。収益物件の前提は、どれを一番慎重に見るべきかで確認したとおり、出口利回りはIRRの絶対水準に最も強く効く前提ですが、「空室のある物件といくらで折り合うか」という相対比較においては、出口の読みを詰める必要がないという結果です。これは交渉の場で使える性質です。出口利回りの見立てが売主と合わなくても、必要値引き額の議論は成立します。

検証6:本当の制約は価格ではなく、初年度のDSCRだった

ここまでは「いくらで買えば釣り合うか」でした。しかし空室物件には別の壁があります。初年度は空室分の家賃が入らないまま、満額の返済が始まります。売出価格6,000万円・借入4,200万円で買った場合の初年度を計算しました。

シナリオ

空室

初年度NOI

初年度DSCR

初年度CF(消化コスト込み)

満室(基準)

0戸

450.9万円

1.35

+117.2万円

A 想定どおり

1戸

430.9万円

1.29

+62.2万円

A 想定どおり

2戸

410.9万円

1.23

+7.2万円

A 想定どおり

3戸

390.9万円

1.17

▲47.8万円

B 相場に合わせる

1戸

411.9万円

1.23

+26.6万円

B 相場に合わせる

2戸

380.8万円

1.14

▲56.1万円

B 相場に合わせる

3戸

349.7万円

1.05

▲138.9万円

C 構造的に劣る

1戸

392.3万円

1.18

▲24.6万円

C 構造的に劣る

2戸

347.2万円

1.04

▲152.9万円

C 構造的に劣る

3戸

302.1万円

0.91

▲281.2万円

空室戸数を小数まで連続化して境界値を解くと、次のようになりました。

シナリオ

初年度CFが0になる空室

DSCR1.20を割る空室

DSCR1.00を割る空室

A 想定どおり

2.13戸

2.52戸

5.86戸

B 相場に合わせる

1.32戸

1.37戸

3.51戸

C 構造的に劣る

0.81戸

0.82戸

2.30戸

シナリオAなら空室3戸までDSCR1.17を保ち、返済そのものは回ります。しかしシナリオBでは空室が1.37戸を超えた時点でDSCR1.20を割り、シナリオCでは0.82戸、つまり10戸のうち1戸空いているだけで1.20を割ります。DSCR1.20前後は金融機関が融資判断で見る水準であり、不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由で整理したとおり、ここを割ると融資条件そのものが変わります。

ここが本記事の分岐点です。価格の側では空室2戸が112.5万円の問題にしかならないのに、融資の側では同じ空室2戸が、シナリオBなら借入条件そのものを変えてしまいます。なおシナリオAの空室2戸は初年度DSCR1.23で、LTV70%の前提は保てています。価格交渉で解決できる問題と、借入余力を落として自己資金で埋めるしかない問題は別だということになります。

検証7:逆算|同じDSCRを保つために、自己資金はいくら増えるのか

そこで売出価格6,000万円で買う前提のまま、「初年度DSCRを一定水準(1.20/1.30)に保つには借入をどこまでに抑える必要があるか」を逆算しました。これは金融機関がDSCR基準で貸せる上限額、つまり借入余力に相当します。自己資金は「6,000万円−借入額+諸費用420万円」です。

シナリオ

DSCR基準

空室0戸

空室1戸

空室2戸

空室3戸

A 想定どおり

1.20

借入4,729万/自己1,691万

借入4,520万/自己1,900万

借入4,310万/自己2,110万

借入4,100万/自己2,320万

A 想定どおり

1.30

借入4,366万/自己2,054万

借入4,172万/自己2,248万

借入3,978万/自己2,442万

借入3,785万/自己2,635万

B 相場に合わせる

1.20

借入4,647万/自己1,773万

借入4,321万/自己2,099万

借入3,994万/自己2,426万

借入3,668万/自己2,752万

B 相場に合わせる

1.30

借入4,289万/自己2,131万

借入3,988万/自己2,432万

借入3,687万/自己2,733万

借入3,386万/自己3,034万

「自己」は諸費用420万円を含む必要現金です。シナリオA・DSCR1.20基準で見ると、借入上限は空室0戸で4,729万円、空室2戸で4,310万円。借入余力が419万円縮み、同じ価格で買うなら自己資金は1,691万円から2,110万円へ419万円増えます。

同じ空室2戸について、2つの数字を並べると構造が見えます。

何で調整するか

必要額

何が揃うか

価格を引く

112.5万円(売出価格の1.9%)

10年の税引前IRRが満室物件と同じ6.14%になる

借入余力の縮小を自己資金で埋める

419万円(借入上限4,729万円→4,310万円)

初年度DSCR1.20を満室物件と同じ基準で満たす

自己資金の増加は、必要な値引き額の3.7倍です。空室2戸の物件を「112.5万円引いてもらえたから問題ない」と判断すると、10年の収益性は確かに釣り合いますが、同じDSCR基準で借りられる額は419万円少ない。空室は価格の問題としてはほとんど現れず、融資枠と資金計画の問題として現れます。この順序を取り違えると、価格交渉に成功したのに決済資金が足りないという事態になります。

シナリオBではさらに開きます。空室2戸で必要値引きは647.8万円、必要自己資金は1,773万円から2,426万円へ653万円増。こちらは値引き額と自己資金の増加がほぼ同額になります。賃料水準の低下は収益性と返済余力の両方を同時に削るため、片方だけ手当てしても足りません。

自分の物件で同じ確認をする場合は、DSCRシミュレーターで空室率を入れた初年度DSCRと金利ストレスを試算すると、詳細計算モードで満室想定家賃・空室率・運営費からNOIを組み、借入額を変えながらDSCRがどこで1.20を割るかを確認できます。空室2戸は空室率20%として入力すれば本記事と同じ計算になります。

結果から分かること

  1. 空室の一時コストから説明できる値引きは、価格の数%。空室2戸(稼働率80%)で112.5万円、売出価格の1.9%。空室率がそのまま値引き率になるわけではありません。
  2. 必要値引き率は物件価格を知らなくても計算できる。「空室率×(消化コスト月数÷12)×満室想定表面利回り」で、フルモデルの結果を0.1ポイント以内で再現しました。
  3. 必要値引き額は、売出利回りが変わっても同額。空室2戸・消化11ヶ月分なら、売出利回り6%でも12%でも110万円です。率が違って見えるだけです。
  4. 必要値引きの大半は空室ではなく賃料水準から来る。シナリオBの10.8%のうち空室固有は3.0ポイント(27.5%)にすぎません。
  5. 出口利回りの想定は、必要値引き率をほとんど動かさない。8.0〜10.0%の範囲で0.2ポイント以内。相対比較では出口の読みを詰める必要がありません。
  6. 制約は価格ではなく初年度DSCR。シナリオAでも空室2.52戸でDSCR1.20を割り、シナリオCでは0.82戸で割ります。初年度CFがマイナスになる境界はシナリオBで1.32戸です。
  7. 同じDSCR基準での借入余力は419万円縮む。空室2戸(シナリオA)で、必要値引き112.5万円に対し借入上限は4,729万円から4,310万円へ。同じ価格で買うなら自己資金は419万円増え、値引き額の3.7倍です。

これらはいずれも、本記事で設定した条件(10戸・満室想定表面利回り10.0%・LTV70%・金利2.4%・15年・出口還元利回り9.0%)のもとでの結果です。条件が変われば境界値も変わります。

投資判断への使い方

  1. 空室戸数より先に「いくらで埋まるか」を確かめる。同じエリア・同じ間取り・同じ築年数の募集中物件の賃料を3〜5件集め、売主の想定賃料と比べます。差が5%以内ならシナリオA寄り、10%以上ならシナリオB〜Cとして見積もるのが安全側です。レントロールの読み方はレントロールの見方にまとめています。
  2. 消化コストを月数で見積もる。空室期間+募集費(AD+仲介)+リフォーム費を、月額賃料の何ヶ月分かに換算します。この1つの数字と空室率、売出利回りだけで必要値引き率が出ます。
  3. 必要値引き率が指値の実勢に収まるかを確認する。シナリオA相当(2〜3%)なら交渉の射程ですが、10%を超える場合は売主が応じにくい水準です。指値の通りやすさは収益物件の指値はどこまで通るかで参考データを整理しています。値引きで届かないなら、売主側で空室を埋めてから引き渡す条件を交渉するか、見送るという判断になります。
  4. 価格ではなく自己資金で足りるかを別に確認する。初年度DSCRが1.20を割るなら、必要なのは値引きではなく借入の圧縮です。借入余力の縮小分は自己資金で埋めることになるため、手元資金が足りなければ価格が妥当でも買える物件ではありません。購入後に必要な手元資金の目安は購入後の手元資金は家賃の何ヶ月分必要かで検証しています。
  5. 自分が払える上限を別途押さえる。必要値引き率は「満室物件と等価になる価格」であり、自分の資金と目標利回りから見た上限とは別物です。後者は売出8,000万円の物件、自分はいくらまで払えるのかの考え方で確認してください。

今回のように、空室戸数・埋まる賃料・消化期間・リフォーム費・LTV・金利・出口利回りを同時に動かすと、確認すべき組み合わせは数十通りになります。RE-AIでは収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を同じ条件セットでまとめて確認できるよう設計していますが、個別物件の建物状態や売主の事情まで判定できるものではありません。現地確認と資料精査の代わりにはなりません。

この分析で分からないこと

  • その空室が「なぜ空いているか」。募集条件の問題か、建物・設備の問題か、エリアの需給の問題かで消化コストは大きく変わります。本記事はシナリオとして3段階を置いたにすぎず、実際の原因は現地と募集履歴を見るしかありません。
  • 実際の融資条件。金利2.4%・15年・LTV70%は想定です。空室が多い物件は融資審査そのものが通らない、あるいは期間が短くなる可能性があり、その場合DSCRはさらに悪化します。
  • 建物・設備の個別状態。リフォーム費25万〜70万円は想定です。給排水や屋根・外壁に問題があれば桁が変わります。設備の寿命はアパートの給湯器・エアコンはいつ壊れるかで検証しています。
  • 周辺の新規供給。近隣に新築が供給されれば、埋まる賃料も消化期間も想定を外れます。
  • 税務条件。本記事は税引前です。リフォーム費が修繕費か資本的支出かの判定、減価償却、売却時の課税で税引後の結論は変わります。
  • 売却時の市場環境。出口還元利回り9.0%は想定です。感応度は検証5で示しましたが、流動性そのもの(買い手が付くか)は計算に入っていません。
  • 因果関係。シナリオB・Cでは「空室が埋まる賃料が低い」ことと「既存入居戸の賃料も下がる」ことを連動させていますが、これは市場賃料が1つであるという仮定にもとづく設計です。住戸ごとの仕様差や方位差で、実際には空室戸だけが安いという状態もあり得ます。その場合の必要値引き率は本記事の値より小さくなります。

まとめ

満室想定利回りで売られている空室あり物件について、満室物件と同じ10年税引前IRRになる購入価格を逆算しました。

空室が想定賃料で埋まるなら、空室2戸(稼働率80%)でも必要な値引きは112.5万円、売出価格の1.9%にとどまりました。必要値引き率は「空室率×(消化コスト月数÷12)×満室想定表面利回り」という式でほぼ再現でき、物件価格を知らなくても計算できます。一方、空室を埋めるために賃料を7%下げる必要があるなら必要値引きは10.8%に跳ね上がり、そのうち空室固有の寄与は3.0ポイントだけでした。見るべきは空室の数ではなく、空室がいくらで埋まるかです。

そして最も大きな差は価格ではなく融資枠に出ました。空室2戸では、初年度DSCR1.20を基準にした借入上限が4,729万円から4,310万円へ419万円縮み、同じ価格で買うなら自己資金はその分増えます。必要値引き額の3.7倍です。空室がある物件は「安く買えるか」ではなく「初年度を自己資金で持ちこたえられるか」で判断が分かれます。

ただし本記事の数値はすべて特定の条件下のシミュレーションであり、実在の物件統計ではありません。空室の原因・建物状態・実際の融資条件は個別に確認が必要です。

参考資料・出典

情報確認日:2026年10月20日。本記事のNOI・DSCR・キャッシュフロー・IRR・必要値引き率・必要自己資金はすべて、上記の前提条件にもとづくシミュレーション結果であり、RE-AIの診断実績データではありません。また特定の物件の購入・売却を推奨するものではなく、投資成果を保証するものではありません。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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