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収益物件の指値はどこまで通るか|収益還元価格との差12%を基準に、値引き幅とDSCRの変化を試算した

収益物件の指値はどこまで通るか|収益還元価格との差12%を基準に、値引き幅とDSCRの変化を試算した

収益物件の売出価格を見て「指値を入れたいが、いくらなら妥当か分からない」という段階で止まっていないでしょうか。ネットでは「値引き幅は5〜10%が目安」という情報が目立ちますが、これは物件ごとの収益力を反映した数字ではありません。本記事では、収益還元法で算出した収益価格を基準に指値額を考える方法と、指値が通った場合にDSCR・キャッシュフローがどこまで変わるかを試算例で確認します。

指値とは何か、交渉の基本的な流れ

指値(さしね)とは、買主が売主へ提示する希望購入価格のことです。売出価格(出値)に対して低い金額を提示することを、一般に「指値を入れる」と呼びます。実務では、購入希望者が「購入申込書」や「買付証明書」に希望価格を記載し、仲介する不動産会社を通じて売主に伝える流れが基本です。

指値が承諾されるかどうかは売主の事情次第であり、必ず通るものではありません。交渉が不成立でも、売主側から譲歩案が出て折り合うケースもあります。

指値はどこまで通るのか|公表データで見る値引き幅

中古マンションの価格乖離率(2024年・東京カンテイ)

収益物件そのものを対象にした価格乖離率の公的統計は確認できませんでしたが、近い市場として中古マンション(主に居住用の区分マンション)のデータを参考情報として紹介します。東京カンテイが2025年7月31日に公表した資料によると、首都圏における中古マンションの売出価格と成約価格の乖離率は、2024年上期が-4.38%、下期が-4.19%でした。売出から成約までの期間(売却期間)は上期5.10ヶ月、下期5.11ヶ月と、通年で5ヶ月を超える水準です。

売却期間別に見ると、売出から1ヶ月以内に成約したケースの乖離率は平均-2.41%、専属専任媒介・専任媒介契約の有効期間にあたる3ヶ月以内では平均-3.45%にとどまります。一方、売却期間が長引くほど乖離率は拡大する傾向があり、10ヶ月まで長期化した事例では-20%を超えるシェアが2割前後まで広がっています。

市況で変わる値引き幅(過去の土地取引データ)

値引き幅は市況によっても変わります。参考情報として、東日本不動産流通機構が公表した2008〜2017年の10年間における首都圏の土地の登録価格(売出価格に相当)と成約価格を見ると、10年平均で成約価格は登録価格の89.9%、つまり平均乖離率は約10.1%でした。リーマンショック直後は乖離が10%近くまで広がり、市況が良い局面では縮小する傾向が読み取れます。ここで紹介した2つの数字は、いずれも収益物件(一棟アパート・一棟マンション等)そのものの統計ではなく、隣接する市場の参考値である点にご注意ください。

「何%引けるか」ではなく「いくらが妥当か」から考える

相場の値引き率だけを指値の基準にすると、そもそも売出価格が相場より高い物件では、10%引いてもまだ割高という事態になりかねません。指値額を考えるときは、値引き率ではなく、その物件固有の収益力から見た妥当価格(収益価格)を先に出し、そこから逆算する方が根拠を持ちやすくなります。

以下は仕組みを理解するために単純化した架空例です。個人投資家が一棟アパートを検討する場面を想定しています。

  • 物件種別:軽量鉄骨造アパート、築13年、8戸、最寄駅徒歩9分
  • 満室想定年間賃料:580万円、空室・滞納損失率5%、その他収入8万円、年間運営費175万円
  • NOI(純営業収益)=580万円×0.95+8万円-175万円=384万円
  • 還元利回り(構造・最寄アクセスから設定した前提):7.2%
  • 収益価格=384万円÷7.2%=約5,333万円
  • 売出価格:5,980万円

売出価格は収益価格を646.7万円、率にして約12.1%上回っています。売出価格を基準に見ると、収益価格まで届くには約10.8%の値引きが必要な計算です。この「10.8%」は、先ほどの中古マンションの相場(-4%台)や土地の過去データ(-10%前後)と比べても小さくない水準で、根拠を示さずに通すのは簡単ではないことが分かります。逆に言えば、この物件がなぜ収益価格を上回って売り出されているのか(賃料の伸びしろ、土地値、供給の少なさなど)を確認したうえで交渉に臨む必要があります。

自分の物件のNOIと還元利回りを使ってこの計算を試したい場合は、収益還元法・収益価格シミュレーターで無料で試算できます。NOIの定義や運営費の扱いは本記事と同じ考え方です。

指値が通ると、返済余力はどう変わるか

試算条件

上記の物件を前提に、値引き幅ごとにDSCRとキャッシュフローがどう変わるかを試算しました。自己資金1,000万円、残額を金利2.6%・融資期間25年・元利均等返済で借り入れる前提です(諸費用は自己資金とは別に現金で用意するものとし、計算には含めていません)。これも理解のために単純化した架空条件です。

値引き幅ごとの試算結果

値引き幅

価格

借入額

年間返済額

DSCR

税引前CF

表面利回り

0%(売出価格)

5,980万円

4,980万円

271.1万円

1.42倍

112.9万円

9.70%

3%引き

5,801万円

4,801万円

261.3万円

1.47倍

122.7万円

10.00%

5%引き

5,681万円

4,681万円

254.8万円

1.51倍

129.2万円

10.21%

8%引き

5,502万円

4,502万円

245.1万円

1.57倍

138.9万円

10.54%

10%引き

5,382万円

4,382万円

238.6万円

1.61倍

145.4万円

10.78%

NOIは値引きの有無にかかわらず384万円で変わりませんが、借入額が減ることで年間返済額が下がり、DSCRと税引前キャッシュフローはどちらも改善します。5%の指値(約300万円の値引き)が通るだけで、DSCRは1.42倍から1.51倍、年間CFは112.9万円から129.2万円まで変わる計算です。表面利回りの見た目の変化(9.70%→10.21%)よりも、DSCRの絶対水準がどこまで安全域に入るかの方が、その後の運営や次の融資審査に直結します。指値の価値は「何万円安く買えたか」だけでなく、この返済余力の変化で測る方が実態に近いといえます。

指値交渉の材料にできること

指値には、金額の根拠になる材料があるほど通りやすくなります。代表的な確認ポイントは次のとおりです。

  • 修繕履歴と直近の大規模修繕の予定時期(未実施の修繕は値引き材料になりやすい)
  • 販売開始からの経過期間(レインズ掲載日など。長期化している物件は交渉の余地が大きくなる傾向がある)
  • 金融機関の融資可能額と売出価格の差(積算評価が低く出た場合、その差を交渉材料にできることがある)
  • レントロール上の退去予定・賃料減額交渉の有無

ただし、これらの材料があれば必ず指値が通るわけではありません。最終的には売主の事情や市況によって結果は変わります。強引な値引き要求は交渉自体を壊すリスクがあるため、根拠を丁寧に示すことが前提になります。

収益価格だけで判断しないために

収益価格は、入力したNOIと還元利回りという2つの前提に大きく依存する概算値であり、土地の価値を直接は反映しません。指値の基準として使う場合も、積算価格周辺の取引事例と突き合わせて確認することをおすすめします。還元利回りの置き方そのものについては還元利回り(キャップレート)の決め方で、価格査定全体の考え方は収益物件の価格査定ガイドで整理しています。自己資金や目標リターンから「自分はいくらまでなら払えるか」を先に逆算したい場合は、上限価格の逆算も参考になります。銀行の融資可能額を指値の材料にする考え方は、銀行はいくらまで貸せるのかで詳しく試算しています。

指値が通っても、DSCRが低い水準のままでは運営の安全域は十分とはいえません。価格だけでなく、融資条件・空室リスク・出口までを含めて総合的に確認したい場合は、RE-AIの無料診断で物件全体を分析できます。

まとめ

収益物件の指値は「5〜10%が相場」という一般論だけで決めるのではなく、収益還元法で算出した収益価格と売出価格の差を基準に考えると根拠を持ちやすくなります。指値が通った場合にDSCRやキャッシュフローがどこまで改善するかまで試算しておくと、金額交渉と運営後の安全域を切り離さずに判断できます。

参考資料・出典

  • 東京カンテイ「中古マンションの価格乖離率&売却期間(首都圏)」2025年7月31日発表(対象期間:2024年)
  • 東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」土地の登録価格・成約価格データ(2008〜2017年)
  • 国土交通省「不動産鑑定評価基準」(収益還元法・直接還元法の定義)

情報確認日:2026年9月10日。本記事は投資助言ではありません。指値の成立可能性や金額は物件・売主の状況により異なり、最終的な購入判断はご自身の責任で行い、不動産会社・金融機関・税理士等の専門家にもご確認ください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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