
区分マンションの収益物件を検討していて、「積算価格を計算してみたら売出価格よりかなり低かった」という経験をした人は多いはずです。一棟物件と同じ感覚で積算価格を出すと、区分マンションでは価格の3〜5割程度にしかならないことが珍しくありません。この差は「割高な物件をつかまされている」ことを直接には意味しません。区分所有という権利の構造上、積算法では土地の評価が伸びにくいからです。本記事では、なぜそうなるのかを整理したうえで、投資判断により使える収益還元法での価格の確かめ方を、架空の計算例とあわせて解説します。
検証するのは次の3点です。
なお、収益還元法・積算法・取引事例比較法という3手法そのものの基本的な使い分けは、収益物件の価格査定完全ガイド|収益還元法・積算法・取引事例比較法の使い分けと適正価格の出し方で扱っています。積算法の計算方法を一棟物件で確認したい場合は木造・鉄骨・RC、同じ8,000万円の物件で積算価格はいくら変わるかもあわせてご覧ください。本記事は、その積算法が区分マンションでは特有の理由で低く出やすいという点に絞って掘り下げます。
積算法(不動産鑑定の分野では原価法と呼びます)は、「今その土地を買い、今その建物を建て直すといくらかかるか」から価格を求める手法です。土地は路線価などをもとにした評価額、建物は再調達価格を耐用年数に応じて減価した金額を使い、両者を足し合わせます。一棟物件であれば、敷地全体をそのオーナー一人が所有しているため、この計算はシンプルです。
区分マンションでは事情が変わります。区分所有者が持つのは専有部分(部屋そのもの)の所有権と、敷地全体に対する共有持分である敷地利用権(敷地権)です(建物の区分所有等に関する法律 第2条)。マンション1棟の敷地面積は変わらないまま、それを数十戸で分け合うため、1戸あたりの敷地権割合は数%にとどまるのが一般的です。積算価格のうち土地の取り分が、戸数で割られた分だけ小さくなる構造になっています。これが、区分マンションの積算価格が売出価格に対して低く出やすい最大の理由です。
以下は仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。特定の物件データではありません。東京23区内、鉄筋コンクリート(RC)造、築22年(2004年築を想定)、専有面積21㎡のワンルーム区分マンションを想定し、売出価格を2,180万円とします。
区分 | 設定(架空) |
|---|---|
マンション全体の敷地面積 | 500㎡ |
想定路線価 | 45万円/㎡ |
マンション全体の専有床面積合計 | 850㎡ |
対象住戸の専有面積 | 21㎡ |
まず敷地権割合は、対象住戸の専有面積を専有床面積合計で割って21㎡÷850㎡=約2.47%です。敷地全体の評価額は500㎡×45万円=2億2,500万円ですから、対象住戸の敷地持分評価額は2億2,500万円×2.47%=約556万円になります。
建物部分は、国税庁「建物の標準的な建築価額表」の鉄筋コンクリート造・2004年(平成16年)の値である176.1千円/㎡(約17.61万円/㎡)を使うと、専有部分の再調達価格は21㎡×17.61万円=約370万円です。住宅用RC造の法定耐用年数47年(国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)に対し、築22年で残存年数は25年ですから、残存価値は370万円×25/47=約197万円になります。
したがって積算価格は、敷地持分約556万円+建物残存価値約197万円=約753万円です。売出価格2,180万円に対して約34.5%にしかなりません。同じ考え方を一棟物件(敷地全体を単独所有)に当てはめると、土地の取り分がここまで小さくならないため、積算価格と売出価格の差はもっと縮まります。区分マンションで積算価格が極端に低く出るのは、計算が間違っているからではなく、権利の持ち方の違いによるものです。
積算価格は「土地と建物を今つくり直したらいくらか」という原価の視点であり、賃貸needsや家賃収入という収益の視点を含みません。区分マンションの価値の大部分は、専有部分の使用収益権と、管理組合が維持する共用部分・立地の利便性にあります。これらは原価法では正しく評価できません。積算価格が売出価格の3〜4割にとどまっていても、それだけで「割高」と結論づけるのは早計です。投資判断に使うべきは、家賃収入という収益からその価格が説明できるかどうかを見る収益還元法になります。
収益還元法では、年間の純収益(NOI)を還元利回りで割って収益価格を求めます。区分マンションのNOIを計算するときに見落としやすいのが、管理費・修繕積立金です。これは入居者の有無にかかわらずオーナーが毎月負担する固定費であり、経費として計上します。
還元利回りの置き方に唯一の正解はありませんが、公表データを参考点にすることはできます。一般財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査」第54回(2026年4月現在)では、東京・城南エリアの賃貸住宅一棟・ワンルームタイプの期待利回りは3.6%とされています。ただしこれは一棟物件の数値であり、区分マンションは流動性や管理組合の運営状況、融資条件が一棟とは異なるため、一般に一棟よりやや高めの利回りが求められる傾向があります。本記事の架空例では、この違いを踏まえて還元利回り4.5%を基準に置き、3.8〜5.2%のレンジで感応度も確認します。
想定家賃を月8.4万円(年間100.8万円)、空室率5%として実効収入95.76万円とします。経費は管理費・修繕積立金(月1.2万円=年14.4万円)、賃貸管理委託料(実効収入の5%=約4.8万円)、固定資産税等の概算(年6万円)、その他修繕引当(年2万円)を合計した約27.2万円です。NOIは95.76万円−27.2万円=約68.6万円になります。
還元利回り | 収益価格 | 売出価格2,180万円に対する比率 |
|---|---|---|
3.8%(強気) | 約1,805万円 | 約82.8% |
4.5%(基準) | 約1,524万円 | 約69.9% |
5.2%(保守的) | 約1,319万円 | 約60.5% |
積算価格(約753万円、売出比34.5%)に比べると、収益価格はどの還元利回りでも売出価格に近づきます。ただし基準ケースの4.5%でも収益価格は売出価格の約7割にとどまり、強気の3.8%まで置いてようやく8割台です。還元利回りの設定ひとつで結論が変わるため、この数値だけを見て一般化はできません。実際に検討している物件では、自分が置いた還元利回りの根拠(周辺の成約事例、管理組合の財政状況、駅距離など)を確認してください。自分のNOIと還元利回りで試算したい場合は、RE-AIの無料 収益還元法シミュレーターで収益価格を計算すると、売出価格との差や、価格を説明するために必要なNOI・利回りの感応度まで確認できます。
ここまでの結果を整理すると、同じ物件でも見る手法によって「妥当性」の答えは変わります。積算価格(約753万円)は原価から見た下限に近い参考値、収益価格(約1,319万〜1,805万円)は賃貸収入から見た説明可能なレンジ、そして売出価格(2,180万円)は周辺の成約事例を踏まえた取引事例比較法に近い水準、という役割分担です。不動産の一括査定サイトが示す「相場」の多くも、この取引事例比較法に近い考え方に基づいています。つまり一括査定サイトの相場観と、投資判断のための収益還元法は、そもそも見ている目的が異なります。取引事例比較法そのものの限界は取引事例比較法とは?収益物件で「周辺相場並み」を鵜呑みにできない理由で解説しています。どれか1つの数字だけで判断せず、3つの手法がそれぞれ何を根拠にしているかを踏まえて価格を見ることが、区分マンションでは特に重要になります。指値の余地を数値で確認したい場合は、収益物件の指値はどこまで通るか|収益還元価格との差を基準に、値引き幅とDSCRの変化を試算したも参考にしてください。
積算価格は投資判断だけでなく、金融機関の担保評価でも参照されることがあります。融資可能額を売出価格ではなく積算価格や収益価格をベースに算定する金融機関もあり、この記事の例のように積算価格が大きく下振れる物件では、想定より自己資金の負担が増える可能性があります。区分マンションの空室時のキャッシュフローとDSCRの考え方は区分マンション投資のキャッシュフローとDSCR|「空室=収入ゼロ」を試算で確認する、融資審査全体の基礎は不動産投資ローン完全ガイド|審査基準・金利・融資期間・自己資金とDSCRの見方で扱っています。また管理組合の財政状況も担保価値に影響するため、修繕積立金の滞納状況は区分マンションの管理組合、財政は健全か|重要事項調査報告書で確認すべき数字と修繕積立金滞納30.1%の実態で確認しておくと安心です。
区分マンションの積算価格が売出価格よりかなり低く出るのは、敷地利用権(敷地権)が戸数で分割される区分所有の構造上、土地の取り分が小さくなるためです。今回の架空例では積算価格は売出価格の約34.5%にとどまりましたが、これは物件そのものが割高であることを直接示すものではありません。投資判断に使うべきは、NOIと還元利回りから価格の説明可能性を見る収益還元法です。ただし還元利回りの置き方ひとつで結論は変わるため、一つの数字を鵜呑みにせず、周辺の成約事例や管理組合の財政状況とあわせて確認することが欠かせません。
情報確認日:2026年9月18日。路線価・建築価額・期待利回りは時点や個別物件によって変動します。本記事の数値は上記の公開データと、記事内に明示した架空条件によるシミュレーション結果であり、個別物件の適正価格や融資可否を保証するものではありません。実際の購入判断は、不動産鑑定士・金融機関・税理士への確認とあわせて行ってください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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