
大学の近くにある1Kアパートは、同じエリアの社会人向け物件より表面利回りが高く出ていることが多くあります。「学生需要は減るから、その分だけ利回りが高いのは当然」と説明されますが、「その分」が何ptなのかを計算した資料はほとんど見当たりません。
そこで今回は、年間満室家賃をそろえた2つの架空アパート(学生需要に依存するケースと、一般の単身社会人向けケース)を用意し、10年IRRが等しくなる表面利回りを逆算しました。
結論を先に書くと、運営面(入替頻度・空室期間・原状回復)だけを比べた場合、学生物件は一般単身向けより0.43pt低い表面利回りでも成立します。必要プレミアムを生んでいるのは運営ではなく、需要母数の確定的な減少と、出口で買い手が付ける利回りでした。中位シナリオでの必要プレミアムは+0.35pt(売出4,320万円に対して146万円の値引き)、地方の小規模大学に依存するケースでは+1.89pt(685万円の値引き)まで広がります。
情報確認日:2026年10月29日
学生向け賃貸の特徴は、需要の母数が推計ではなく確定値で分かる点です。2026年に18歳になるのは2008年生まれで、その人数は厚生労働省の人口動態統計で確定しています。2040年代前半までの18歳人口は、すでに生まれた人数で上限が決まっています。
出生数(日本における日本人)の確定値から18歳人口を並べると、次のようになります。
18歳になる年 | 生まれ年 | 出生数 | 2026年比 | 2026年からの年率 |
|---|---|---|---|---|
2026年 | 2008年 | 1,091,156人 | — | — |
2030年 | 2012年 | 1,037,232人 | ▲4.9% | ▲1.26% |
2034年 | 2016年 | 977,242人 | ▲10.4% | ▲1.37% |
2036年 | 2018年 | 918,400人 | ▲15.8% | ▲1.71% |
2038年 | 2020年 | 840,835人 | ▲22.9% | ▲2.15% |
2040年 | 2022年 | 770,759人 | ▲29.4% | ▲2.45% |
2042年 | 2024年 | 686,061人 | ▲37.1% | ▲2.86% |
出典:厚生労働省「人口動態統計」確定値(2024年は概数)。年率は筆者による計算です。
注意すべきなのは、減少ペースが一定ではなく、2030年代後半から加速することです。2026年から2030年代前半までは年率1.3%前後ですが、2036年以降は年率1.7%→2.9%へと速くなります。これは2019年以降の出生数の落ち込みがそのまま18年遅れで現れるためで、今後の出生率がどうなろうと、2040年代前半までの母数は変わりません。
ただし18歳人口の減少がそのまま大学生数の減少になるわけではありません。進学率が上がれば一部は吸収されます。文部科学省が2024年11月に公表した進学者数の将来推計(出生低位・死亡低位)を使って、18歳人口と大学進学者数の減少ペースを比べました。
年 | 18歳人口 | 年率 | 大学進学者数 | 年率 | 進学率 | 進学率上昇による吸収率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
2025年 | 1,100,314人 | — | 623,368人 | — | 56.7% | — |
2030年 | 1,051,986人 | ▲0.89% | 612,514人 | ▲0.35% | 58.2% | 60.8% |
2035年 | 964,129人 | ▲1.31% | 570,194人 | ▲0.89% | 59.1% | 32.4% |
2040年 | 739,050人 | ▲2.62% | 440,489人 | ▲2.29% | 59.6% | 12.6% |
出典:文部科学省「進学率・進学者数推計結果(出生低位・死亡低位)」(2024年11月)。年率と吸収率は筆者による計算です。
吸収率は、18歳人口の年率減少のうち進学率上昇で打ち消される割合です。2030年までは6割が吸収されますが、2035年までで3割、2040年まででは1割強しか残りません。進学率が6割に近づくほど、伸びしろが小さくなるためです。つまり、今の10年と次の10年では、同じ18歳人口の減少に対する学生数の減り方が変わります。
賃貸需要になるのは、自宅から通わず下宿・アパートに住む学生だけです。日本学生支援機構(JASSO)の令和6年度学生生活調査(2024年11月調査)によると、大学学部(昼間部)の下宿・アパート等の比率は設置者で大きく異なります。
設置者 | 下宿・アパート等 | 学寮 | 自宅 | 学部学生数(令和7年度) |
|---|---|---|---|---|
国立 | 59.2% | 6.3% | 34.5% | 435,622人(16.5%) |
公立 | 55.8% | 3.8% | 40.3% | 149,758人(5.7%) |
私立 | 28.0% | 6.0% | 66.0% | 2,060,457人(77.9%) |
出典:居住形態はJASSO「令和6年度学生生活調査結果」、学部学生数は文部科学省「学校基本調査」令和7年度ベースの集計。
学部学生数で加重平均すると、下宿・アパート等の比率は34.71%です。学生の約3人に1人しか賃貸需要になりません。そして自宅外率がもっとも低いのは私立(28.0%)で、その私立が学部学生数の77.9%を占めています。今後も私立のシェアが上がる、あるいは学費負担を理由に自宅通学が選ばれると、自宅外率そのものが下がります。
この2つを組み合わせて、自宅外進学者数(1学年あたり)を試算しました。
シナリオ | 2025年 | 2035年 | 10年間の変化 | 年率 |
|---|---|---|---|---|
自宅外率 34.71%で横ばい | 216,374人 | 197,917人 | ▲8.53% | ▲0.89% |
自宅外率 34.71%→33.0%へ低下 | 216,374人 | 188,164人 | ▲13.04% | ▲1.39% |
これは筆者によるシミュレーションで、実測値ではありません。学生向け賃貸の需要母数は、今後10年で年率▲0.9%〜▲1.4%程度のペースで縮むという見積りになります。
ここまでは全国の数字ですが、物件が依存するのは特定の大学です。日本私立学校振興・共済事業団の「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」を見ると、私立大学594校全体の入学定員充足率は101.61%まで回復した一方、入学定員充足率が100%未満の大学は316校(53.2%)あります。
入学定員規模 | 学校数 | 入学定員充足率 |
|---|---|---|
100人未満 | 42校 | 79.74% |
100人以上200人未満 | 104校 | 86.90% |
300人以上400人未満 | 71校 | 91.01% |
600人以上800人未満 | 44校 | 99.92% |
1,000人以上1,500人未満 | 51校 | 104.09% |
3,000人以上 | 26校 | 105.85% |
地域別でも開きがあります。
地域 | 学校数 | 入学定員充足率 |
|---|---|---|
福岡 | 27校 | 106.95% |
大阪 | 51校 | 105.06% |
東京 | 115校 | 104.91% |
愛知 | 45校 | 103.62% |
東北(宮城を除く) | 22校 | 85.57% |
四国 | 10校 | 84.67% |
中国(広島を除く) | 21校 | 82.82% |
近畿(京都・大阪・兵庫を除く) | 14校 | 82.38% |
出典:日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」。同資料は、未充足であることが直ちに経営状況の悪化を示すものではないと注記しています。
大規模大学と大都市では定員を満たし、小規模・地方単独立地では8割前後にとどまる構図です。定員充足率が8割の大学では、18歳人口の減少を待たずに、すでに2割分の空きが現実になっています。後半の分析では、この違いをシナリオとして分けます。
ここから先は条件を固定したシミュレーションです。実際の物件統計ではありません。
今回の分析は「同じ家賃を稼ぐ2つの物件を、学生依存かどうかだけで比べる」ことが目的なので、物件価格ではなく年間満室家賃を出発点に固定しました。価格は「年間満室家賃÷表面利回り」で後から決まります。
想定したのは、地方中核都市にある学生向け1Kアパート8戸です。1戸あたり月額賃料45,000円は、学生が負担できる水準として置きました。年間満室家賃は432万円になります。比較対象は、同じエリア・同じ戸数・同じ年間満室家賃の単身社会人向け1Kアパートです。
比較の基準となる一般単身向けケースの売出表面利回りは10.0%とし、価格は432万円÷10.0%=4,320万円(1戸540万円)となります。この水準にしたのは、融資条件(LTV80%・金利2.5%・期間20年)でDSCRが1.25前後になり、実際に融資が通る物件として比較の土台になるからです。表面利回りを9.0%に下げるとDSCRは1.13まで落ち、そもそも融資が通りにくい前提になってしまいます。
項目 | 設定 | 設定の考え方 |
|---|---|---|
戸数 | 8戸(1K) | 地方の学生向け一棟アパートの標準的規模 |
1戸月額賃料 | 45,000円 | 年間満室家賃432万円 |
諸費用 | 価格の8.5% | 仲介手数料・登記・不動産取得税等 |
借入 | LTV80%・金利2.5%・期間20年(元利均等) | 日銀の貸出約定平均金利(新規・長期)が2026年6月に約25年ぶりに2%を超えた水準に、アパートローンの上乗せを加えた設定 |
保有期間 | 10年 | — |
管理委託料 | 実収入の5% | — |
固定資産税・都市計画税 | 年36万円(定額) | 同じ建物・同じ評価額なので両ケース同額 |
共用部光熱費・損害保険 | 年8万円・年6万円 | — |
日常修繕・設備更新 | 満室家賃の6% | — |
入替1回のAD・仲介 | 賃料2.0ヶ月分(AD1.5+仲介0.5) | 両ケース同額として差を作らない |
出口 | 11年目NOI÷出口キャップレート、売却費用3.5% | 一般ケースの出口キャップは購入時キャップ6.401%+0.5pt=6.901% |
項目 | 一般単身向け | 学生向け | 根拠 |
|---|---|---|---|
平均入居期間 | 3.25年 | 4.0年 | 一般は日管協短観(2022年・第26回)の単身世帯「3年3ヵ月」。学生は4年制の在学期間 |
年間入替率 | 30.8% | 25.0% | 1÷平均入居期間 |
1回の空室期間 | 2.0ヶ月(年間を通じて募集可能) | 3月に決まれば0.5ヶ月、外すと7.0ヶ月 | 学生は退去が3月に集中し、募集機会が年1回に偏る |
原状回復のオーナー負担 | 6.0万円/回 | 7.5万円/回 | 入居期間が長い分、経年劣化によるオーナー負担が増える |
家賃下落率(年) | ▲1.0% | ▲1.0%/▲1.5%/▲2.0%/▲2.5% | 需要母数の減少(年▲0.9〜1.4%)をどこまで家賃に転嫁するかで変える |
出口キャップレートの上乗せ | なし | +0.0pt/+0.5pt/+1.0pt | 売却時に買い手が同じリスクをどこまで織り込むかで変える |
家賃下落率のシナリオは、需要母数の減少(年▲1.0%前後)を家賃にどれだけ転嫁するかで決めています。▲1.0%は転嫁率0%(古いアパートの取り壊しや用途転換で供給側が吸収する場合)、▲1.5%は転嫁率約50%、▲2.0%は約100%、▲2.5%はそれを上回る場合です。需要母数が減れば家賃が同率で下がる、という因果を前提にはしていません。家賃は供給の退出、留学生、再開発、学生以外の需要など複数の要因で決まるため、転嫁率そのものを分からないものとして幅で扱っています。家賃下落率の置き方そのものについては家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかで検証しています。
「学生は出入りが激しいから損」という説明をよく聞きます。しかし数字を並べると逆でした。
項目 | 一般単身向け | 学生向け(3月決着85%) |
|---|---|---|
平均入居期間 | 3.25年 | 4.0年 |
年間入替率 | 30.8% | 25.0% |
1回あたり期待空室期間 | 2.00ヶ月 | 1.475ヶ月 |
年間空室損率 | 5.13% | 3.07% |
計算式は「年間空室損率=年間入替率×1回の空室期間÷12」です。学生向けは入替が少なく(4年在学=入替率25.0%)、3月の繁忙期に決まれば空室期間も短いため、年間空室損率は一般単身向けより2.06pt低く出ます。退去時期が3月に集中することの影響については退去が3月か8月かで、年間キャッシュフローは22万円違うでも検証しています。
ただし、この有利さは「3月に決まること」が前提です。3月に決まる確率pを変えると空室損率は次のように動きます。
3月に決まる確率p | 1回あたり期待空室期間 | 年間空室損率 | 一般単身(5.13%)との差 |
|---|---|---|---|
95% | 0.825ヶ月 | 1.72% | ▲3.41pt |
90% | 1.150ヶ月 | 2.40% | ▲2.73pt |
85% | 1.475ヶ月 | 3.07% | ▲2.06pt |
80% | 1.800ヶ月 | 3.75% | ▲1.38pt |
75% | 2.125ヶ月 | 4.43% | ▲0.70pt |
70% | 2.450ヶ月 | 5.10% | ▲0.03pt |
3月決着率が70%まで落ちると、学生物件の空室損率は一般単身向けと並びます。言い換えると、3月決着率が7割を割らないかぎり、運営面では学生物件のほうが効率的という計算になります。
比較の基準となる一般単身向けケースの数値は次のとおりです。
項目 | 金額・数値 |
|---|---|
購入価格(表面10.0%) | 43,200,000円(1戸540万円) |
借入/自己資金(諸費用込み) | 34,560,000円/12,312,000円 |
1年目NOI(NOI率64.01%) | 2,765,108円 |
購入時キャップレート | 6.401% |
年間元利返済額/DSCR | 2,197,613円/1.258 |
1年目税引前CF | 567,494円 |
10年累計CF | 4,179,430円 |
11年目NOI/出口キャップ6.901%での売却価格 | 2,438,783円/35,341,031円 |
10年後残債/売却手残り(税引前) | 19,426,608円/14,677,487円 |
10年IRR(税引前) | 5.028% |
この10年IRR 5.028%と等しくなる学生ケースの購入価格を、家賃下落率と出口キャップの上乗せを変えて逆算しました(3月決着率85%)。
学生ケースの家賃下落率 | 出口キャップ +0.0pt | 出口キャップ +0.5pt | 出口キャップ +1.0pt |
|---|---|---|---|
年▲1.0%(転嫁率0%) | 9.57%(▲0.43pt) | 9.91%(▲0.09pt) | 10.22%(+0.22pt) |
年▲1.5%(転嫁率約50%) | 10.00%(±0.00pt) | 10.35%(+0.35pt) | 10.67%(+0.67pt) |
年▲2.0%(転嫁率約100%) | 10.46%(+0.46pt) | 10.82%(+0.82pt) | 11.15%(+1.15pt) |
年▲2.5% | 10.94%(+0.94pt) | 11.31%(+1.31pt) | 11.65%(+1.65pt) |
括弧内は一般単身ケース(10.0%)に対する必要プレミアムです。同じことを「売出4,320万円からいくら値引けばよいか」に換算すると次のようになります。
学生ケースの家賃下落率 | 出口 +0.0pt | 出口 +0.5pt | 出口 +1.0pt |
|---|---|---|---|
年▲1.0% | 196万円高くても可 | 41万円高くても可 | 94万円の値引き(2.2%) |
年▲1.5% | 1万円の値引き(0.0%) | 146万円の値引き(3.4%) | 273万円の値引き(6.3%) |
年▲2.0% | 190万円の値引き(4.4%) | 326万円の値引き(7.6%) | 445万円の値引き(10.3%) |
年▲2.5% | 372万円の値引き(8.6%) | 500万円の値引き(11.6%) | 611万円の値引き(14.1%) |
注目したいのは左上です。家賃下落率も出口キャップも一般と同じと置いた場合、学生物件は表面9.57%(4,516万円)でも一般ケースと同じIRRになります。売出4,320万円なら196万円高く買っても成立する、という計算です。学生物件の表面利回りが高いこと自体が有利さの証明にはならないことが分かります。
必要プレミアム+0.35pt(中位シナリオ)が、どの要因から来ているのかを段階的に積み上げました。
積み上げる条件 | 必要表面利回り | 累積プレミアム | その段階の寄与 |
|---|---|---|---|
運営面のみ(入居4年・3月決着85%・原状回復7.5万円) | 9.566% | ▲0.43pt | ▲0.43pt |
+家賃下落率を年▲1.5%に | 10.002% | ±0.00pt | +0.44pt |
+出口キャップを+0.5ptに | 10.350% | +0.35pt | +0.35pt |
必要プレミアムの構造は明確です。
つまり「学生は出入りが激しいから利回りが高い」という説明は、計算上は支持されません。必要プレミアムは、入替ではなく需要母数と出口から来ています。出口利回りの変化がIRRをどれだけ動かすかは出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるかでも検証しています。
家賃下落率を0.1pt刻みで動かし、必要プレミアムが変わる境界を探しました(出口キャップ+0.5pt、3月決着率85%)。
学生ケースの家賃下落率(年) | 必要表面利回り | 必要プレミアム | 必要値引き額 |
|---|---|---|---|
▲1.0% | 9.905% | ▲0.09pt | 41万円高くても可 |
▲1.11% | 10.00% | ±0.00pt | 0円(売出のまま) |
▲1.5% | 10.350% | +0.35pt | 146万円 |
▲2.0% | 10.817% | +0.82pt | 326万円 |
▲2.19% | 約11.00% | +1.00pt | 約392万円 |
▲2.5% | 11.307% | +1.31pt | 500万円 |
▲3.0% | 11.822% | +1.82pt | 666万円 |
▲3.10% | 約12.00% | +2.00pt | 約698万円 |
この条件下での転換点は3つです。
一般単身向けを年▲1.0%と置いているので、学生物件の家賃下落が一般より0.11pt速いだけで、運営効率の優位(出口キャップ+0.5ptの不利を含めて)を使い切ることになります。この境界は条件を変えれば動きますが、「運営効率の優位は小さなマージンしかない」という構造は変わりません。
ここまでは期待値の話です。しかし学生物件の実感としての怖さは、期待値ではなく単年の振れにあります。入替率25.0%×8戸=年2戸が入替対象で、その2戸が3月に決まるかどうかで年間収支が変わります。
中位シナリオの価格(4,174万円、借入3,339万円、年間返済212.3万円)で、1年目の収支を場合分けしました。
入替2戸のうち3月に決まらない戸数 | 年間空室月数 | 実効総収入 | NOI | DSCR | 年間税引前CF | 発生確率(p=85%・独立と仮定) |
|---|---|---|---|---|---|---|
0戸 | 1.0ヶ月 | 4,275,000円 | 2,972,050円 | 1.400 | 848,779円 | 72.25% |
1戸 | 7.5ヶ月 | 3,982,500円 | 2,694,175円 | 1.269 | 570,904円 | 25.50% |
2戸 | 14.0ヶ月 | 3,690,000円 | 2,416,300円 | 1.138 | 293,029円 | 2.25% |
参考までに、一般単身向けケースの1年目はCF 567,494円・DSCR 1.258です。
読み取れることは2つあります。
つまり学生物件のリスクは「平均が悪い」ことではなく、「年ごとの振れが大きい」ことです。10年で見れば期待値に収れんしますが、大規模修繕や設備更新の年に3月を外すと、手元資金が一気に削られます。この振れに耐えるための手元資金は、一般単身向けより厚く見ておく必要があります。
なお、確率は8戸が独立に決まることを仮定した二項分布です。実際には同じ大学の学生に依存する物件では、募集の成否は独立ではなく連動します(定員縮小や学部移転が起きれば、全戸が同時に埋まりにくくなる)。この点は後述の限界で触れます。
今回の試算は空室・入替・家賃下落の置き方を固定しています。自分の物件の戸数・賃料・空室率・家賃下落率で年次の収支とDSCRを確かめたい場合は、キャッシュフローシミュレーターで空室率と家賃下落率を変えて試算することができます。金利と空室率を変えたときのDSCRの変化や、CFがゼロになる損益分岐の空室率も確認できます。
「外すと7ヶ月空く」という設定は、年度途中に大学院生・編入生・社会人などで一部埋まることを想定したものです。ここを変えた場合の必要プレミアムを確認しました(家賃下落年▲1.5%、出口キャップ+0.5pt)。
外した場合の空室期間 | 3月決着85%の必要プレミアム | 3月決着70%の必要プレミアム |
|---|---|---|
5ヶ月 | +0.26pt(108万円) | +0.47pt(194万円) |
7ヶ月 | +0.35pt(146万円) | +0.67pt(270万円) |
9ヶ月 | +0.45pt(184万円) | +0.87pt(346万円) |
11ヶ月(ほぼ1年空く) | +0.54pt(222万円) | +1.08pt(422万円) |
もっとも厳しい組み合わせ(3月を外すとほぼ1年空き、決着率70%)でも必要プレミアムは+1.08ptです。3月の募集という学生物件固有のリスクは、価格で1pt程度吸収できる範囲にとどまります。それより大きいのは、やはり家賃下落率の置き方です。
必要プレミアムが融資条件で変わるのかを確認しました(家賃下落年▲1.5%、出口キャップ+0.5pt、3月決着85%)。
変更した条件 | 一般ケースの10年IRR | 学生ケースの必要表面利回り | 必要プレミアム |
|---|---|---|---|
金利2.0%・期間20年 | 6.048% | 10.334% | +0.33pt |
金利2.5%・期間20年(基準) | 5.028% | 10.350% | +0.35pt |
金利3.0%・期間20年 | 3.964% | 10.367% | +0.37pt |
金利2.5%・期間15年 | 4.661% | 10.356% | +0.36pt |
金利2.5%・期間25年 | 5.317% | 10.346% | +0.35pt |
保有5年 | ▲1.751% | 10.336% | +0.34pt |
保有15年 | 6.246% | 10.351% | +0.35pt |
金利が1pt動いても、融資期間が10年違っても、保有期間が5年でも15年でも、必要プレミアムは+0.33〜+0.37ptの範囲にしか動きません。一方で、一般ケースのIRRそのものは金利2.0%の6.048%から3.0%の3.964%まで2pt以上動きます。
これは「学生物件にいくら上乗せの利回りを求めるか」は物件側の問題であり、融資条件で調整する話ではないことを意味します。金利が上がったからといって、求めるプレミアムを増やす理由にはなりません(物件価格そのものを下げる理由にはなります)。
なお保有5年のIRRが▲1.751%とマイナスになるのは、諸費用8.5%と売却費用3.5%を5年で回収しきれないためです。保有期間とIRRの関係については出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるかで保有5年・10年・15年・20年を比較しています。
最後に、定員充足率のデータをもとに3つのプロファイルを作り、必要プレミアムを逆算しました。
プロファイル | 家賃下落率 | 出口キャップ | 3月決着率 | 必要表面利回り | 必要プレミアム | 成立する価格(1戸あたり) |
|---|---|---|---|---|---|---|
A 大都市・大規模大学依存(東京・大阪・福岡・愛知など充足率100%超) | 年▲1.0% | +0.0pt | 90% | 9.473% | ▲0.53pt | 4,560万円(570万円) |
B 地方中核都市・中規模大学依存 | 年▲1.5% | +0.5pt | 85% | 10.350% | +0.35pt | 4,174万円(522万円) |
C 地方小規模・単独立地大学依存(充足率80%台、定員100人未満) | 年▲2.5% | +1.0pt | 75% | 11.885% | +1.89pt | 3,635万円(454万円) |
同じ年間満室家賃432万円の8戸アパートでも、依存する大学のプロファイルによって成立価格は4,560万円から3,635万円まで、926万円(1戸あたり116万円)の幅があります。表面利回りに換算すると2.41ptです。
これらの数値は設定した条件に完全に依存します。プロファイルの区分は定員充足率の実データ(私学事業団)を根拠にしていますが、家賃下落率・出口キャップ・3月決着率の各数値は筆者が設定した仮定であり、実測値ではありません。
この分析をそのまま物件判断に当てはめる手順を整理します。
なお、今回の試算では出口キャップレートの上乗せを+0.0〜+1.0ptの幅で置き、NOIの変化率も年▲1.0〜▲2.5%に固定しています。実際の借入額・金利・保有期間・出口キャップは物件ごとに違うため、自分の条件での結果は変わります。売却・出口戦略シミュレーターで出口キャップレートとNOI変化率を変えてIRRを試算すると、目標IRRを満たすために必要な売却価格も逆算できます。
条件を固定したシミュレーションなので、次の点は扱えていません。
学生需要に依存するアパートの必要プレミアムは、条件によって▲0.53ptから+1.89ptまで動きました。大都市の大規模大学に依存する物件なら、一般の単身向けより低い表面利回りでも成立します。地方の小規模大学に依存する物件では、売出価格の約16%の値引きが必要という計算になりました。
そして、必要プレミアムを生んでいるのは入替の多さではありませんでした。18歳人口という確定した需要母数と、10年後に買い手が付ける利回りです。前者はすでに生まれた人数で2040年代前半まで決まっており、後者は今の判断では確かめられません。
この分析では収益性は維持されても出口価格への感応度が高い、という結果になりました。どちらを重く見るかは、保有期間と手元資金の厚さで変わります。「学生アパートは買い/買わない」ではなく、依存する大学のプロファイルを確認し、必要プレミアムを価格に織り込めているかで判断するのが、今回の数字から言えることです。
今回のように家賃下落率、空室率、入替コスト、出口利回りを同時に動かすと、確認する項目が増えて表計算では追いきれなくなります。RE-AIでは、こうした複数条件を収益性・融資・リスク・出口の各視点からまとめて確認できるよう設計しています。ただし、依存する大学の定員動向のような個別事情は、どのツールでも自動では拾えません。最後は自分で確認する必要があります。
キャッシュフロー、NOI、DSCR、IRR、売却価格の計算はすべて筆者(RE-AI編集部)が上記の設定条件に基づいて行ったものです。実際の物件の収支を保証するものではありません。本記事は投資判断の参考情報であり、特定の物件の購入・売却を推奨するものではありません。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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