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リスク・契約

学生アパートは表面利回りが何pt高ければ引き合うのか|入替・空室では一般単身より有利、必要プレミアム+0.35ptは需要母数と出口から来ていた

学生アパートは表面利回りが何pt高ければ引き合うのか|入替・空室では一般単身より有利、必要プレミアム+0.35ptは需要母数と出口から来ていた

大学の近くにある1Kアパートは、同じエリアの社会人向け物件より表面利回りが高く出ていることが多くあります。「学生需要は減るから、その分だけ利回りが高いのは当然」と説明されますが、「その分」が何ptなのかを計算した資料はほとんど見当たりません。

そこで今回は、年間満室家賃をそろえた2つの架空アパート(学生需要に依存するケースと、一般の単身社会人向けケース)を用意し、10年IRRが等しくなる表面利回りを逆算しました。

結論を先に書くと、運営面(入替頻度・空室期間・原状回復)だけを比べた場合、学生物件は一般単身向けより0.43pt低い表面利回りでも成立します。必要プレミアムを生んでいるのは運営ではなく、需要母数の確定的な減少と、出口で買い手が付ける利回りでした。中位シナリオでの必要プレミアムは+0.35pt(売出4,320万円に対して146万円の値引き)、地方の小規模大学に依存するケースでは+1.89pt(685万円の値引き)まで広がります。

情報確認日:2026年10月29日

この記事で検証した問い

  • 学生需要に依存するアパートは、一般の単身向けアパートより表面利回りが何pt高くないと、同じ投資成果にならないのか
  • その差は「入替が多いから」なのか、それとも別の要因なのか
  • 必要プレミアムが+1.0ptを超えるのは、どんな条件からか
  • 3月の募集を外した年、キャッシュフローはどこまで沈むのか

学生需要の母数は、すでに生まれた人数で決まっている

学生向け賃貸の特徴は、需要の母数が推計ではなく確定値で分かる点です。2026年に18歳になるのは2008年生まれで、その人数は厚生労働省の人口動態統計で確定しています。2040年代前半までの18歳人口は、すでに生まれた人数で上限が決まっています。

出生数(日本における日本人)の確定値から18歳人口を並べると、次のようになります。

18歳になる年

生まれ年

出生数

2026年比

2026年からの年率

2026年

2008年

1,091,156人

—

—

2030年

2012年

1,037,232人

▲4.9%

▲1.26%

2034年

2016年

977,242人

▲10.4%

▲1.37%

2036年

2018年

918,400人

▲15.8%

▲1.71%

2038年

2020年

840,835人

▲22.9%

▲2.15%

2040年

2022年

770,759人

▲29.4%

▲2.45%

2042年

2024年

686,061人

▲37.1%

▲2.86%

出典:厚生労働省「人口動態統計」確定値(2024年は概数)。年率は筆者による計算です。

注意すべきなのは、減少ペースが一定ではなく、2030年代後半から加速することです。2026年から2030年代前半までは年率1.3%前後ですが、2036年以降は年率1.7%→2.9%へと速くなります。これは2019年以降の出生数の落ち込みがそのまま18年遅れで現れるためで、今後の出生率がどうなろうと、2040年代前半までの母数は変わりません。

進学率の上昇は、いつまで減少を吸収するのか

ただし18歳人口の減少がそのまま大学生数の減少になるわけではありません。進学率が上がれば一部は吸収されます。文部科学省が2024年11月に公表した進学者数の将来推計(出生低位・死亡低位)を使って、18歳人口と大学進学者数の減少ペースを比べました。

年

18歳人口

年率

大学進学者数

年率

進学率

進学率上昇による吸収率

2025年

1,100,314人

—

623,368人

—

56.7%

—

2030年

1,051,986人

▲0.89%

612,514人

▲0.35%

58.2%

60.8%

2035年

964,129人

▲1.31%

570,194人

▲0.89%

59.1%

32.4%

2040年

739,050人

▲2.62%

440,489人

▲2.29%

59.6%

12.6%

出典:文部科学省「進学率・進学者数推計結果(出生低位・死亡低位)」(2024年11月)。年率と吸収率は筆者による計算です。

吸収率は、18歳人口の年率減少のうち進学率上昇で打ち消される割合です。2030年までは6割が吸収されますが、2035年までで3割、2040年まででは1割強しか残りません。進学率が6割に近づくほど、伸びしろが小さくなるためです。つまり、今の10年と次の10年では、同じ18歳人口の減少に対する学生数の減り方が変わります。

さらに「自宅外率」という下押し要因がある

賃貸需要になるのは、自宅から通わず下宿・アパートに住む学生だけです。日本学生支援機構(JASSO)の令和6年度学生生活調査(2024年11月調査)によると、大学学部(昼間部)の下宿・アパート等の比率は設置者で大きく異なります。

設置者

下宿・アパート等

学寮

自宅

学部学生数(令和7年度)

国立

59.2%

6.3%

34.5%

435,622人(16.5%)

公立

55.8%

3.8%

40.3%

149,758人(5.7%)

私立

28.0%

6.0%

66.0%

2,060,457人(77.9%)

出典:居住形態はJASSO「令和6年度学生生活調査結果」、学部学生数は文部科学省「学校基本調査」令和7年度ベースの集計。

学部学生数で加重平均すると、下宿・アパート等の比率は34.71%です。学生の約3人に1人しか賃貸需要になりません。そして自宅外率がもっとも低いのは私立(28.0%)で、その私立が学部学生数の77.9%を占めています。今後も私立のシェアが上がる、あるいは学費負担を理由に自宅通学が選ばれると、自宅外率そのものが下がります。

この2つを組み合わせて、自宅外進学者数(1学年あたり)を試算しました。

シナリオ

2025年

2035年

10年間の変化

年率

自宅外率 34.71%で横ばい

216,374人

197,917人

▲8.53%

▲0.89%

自宅外率 34.71%→33.0%へ低下

216,374人

188,164人

▲13.04%

▲1.39%

これは筆者によるシミュレーションで、実測値ではありません。学生向け賃貸の需要母数は、今後10年で年率▲0.9%〜▲1.4%程度のペースで縮むという見積りになります。

全国平均より、大学ごとの差のほうが大きい

ここまでは全国の数字ですが、物件が依存するのは特定の大学です。日本私立学校振興・共済事業団の「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」を見ると、私立大学594校全体の入学定員充足率は101.61%まで回復した一方、入学定員充足率が100%未満の大学は316校(53.2%)あります。

入学定員規模

学校数

入学定員充足率

100人未満

42校

79.74%

100人以上200人未満

104校

86.90%

300人以上400人未満

71校

91.01%

600人以上800人未満

44校

99.92%

1,000人以上1,500人未満

51校

104.09%

3,000人以上

26校

105.85%

地域別でも開きがあります。

地域

学校数

入学定員充足率

福岡

27校

106.95%

大阪

51校

105.06%

東京

115校

104.91%

愛知

45校

103.62%

東北(宮城を除く)

22校

85.57%

四国

10校

84.67%

中国(広島を除く)

21校

82.82%

近畿(京都・大阪・兵庫を除く)

14校

82.38%

出典:日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」。同資料は、未充足であることが直ちに経営状況の悪化を示すものではないと注記しています。

大規模大学と大都市では定員を満たし、小規模・地方単独立地では8割前後にとどまる構図です。定員充足率が8割の大学では、18歳人口の減少を待たずに、すでに2割分の空きが現実になっています。後半の分析では、この違いをシナリオとして分けます。

分析の前提条件:何を固定し、何を変えたか

ここから先は条件を固定したシミュレーションです。実際の物件統計ではありません。

ケースの設定理由

今回の分析は「同じ家賃を稼ぐ2つの物件を、学生依存かどうかだけで比べる」ことが目的なので、物件価格ではなく年間満室家賃を出発点に固定しました。価格は「年間満室家賃÷表面利回り」で後から決まります。

想定したのは、地方中核都市にある学生向け1Kアパート8戸です。1戸あたり月額賃料45,000円は、学生が負担できる水準として置きました。年間満室家賃は432万円になります。比較対象は、同じエリア・同じ戸数・同じ年間満室家賃の単身社会人向け1Kアパートです。

比較の基準となる一般単身向けケースの売出表面利回りは10.0%とし、価格は432万円÷10.0%=4,320万円(1戸540万円)となります。この水準にしたのは、融資条件(LTV80%・金利2.5%・期間20年)でDSCRが1.25前後になり、実際に融資が通る物件として比較の土台になるからです。表面利回りを9.0%に下げるとDSCRは1.13まで落ち、そもそも融資が通りにくい前提になってしまいます。

固定した条件(両ケース共通)

項目

設定

設定の考え方

戸数

8戸(1K)

地方の学生向け一棟アパートの標準的規模

1戸月額賃料

45,000円

年間満室家賃432万円

諸費用

価格の8.5%

仲介手数料・登記・不動産取得税等

借入

LTV80%・金利2.5%・期間20年(元利均等)

日銀の貸出約定平均金利(新規・長期)が2026年6月に約25年ぶりに2%を超えた水準に、アパートローンの上乗せを加えた設定

保有期間

10年

—

管理委託料

実収入の5%

—

固定資産税・都市計画税

年36万円(定額)

同じ建物・同じ評価額なので両ケース同額

共用部光熱費・損害保険

年8万円・年6万円

—

日常修繕・設備更新

満室家賃の6%

—

入替1回のAD・仲介

賃料2.0ヶ月分(AD1.5+仲介0.5)

両ケース同額として差を作らない

出口

11年目NOI÷出口キャップレート、売却費用3.5%

一般ケースの出口キャップは購入時キャップ6.401%+0.5pt=6.901%

変えた条件(学生ケースと一般ケースの違い)

項目

一般単身向け

学生向け

根拠

平均入居期間

3.25年

4.0年

一般は日管協短観(2022年・第26回)の単身世帯「3年3ヵ月」。学生は4年制の在学期間

年間入替率

30.8%

25.0%

1÷平均入居期間

1回の空室期間

2.0ヶ月(年間を通じて募集可能)

3月に決まれば0.5ヶ月、外すと7.0ヶ月

学生は退去が3月に集中し、募集機会が年1回に偏る

原状回復のオーナー負担

6.0万円/回

7.5万円/回

入居期間が長い分、経年劣化によるオーナー負担が増える

家賃下落率(年)

▲1.0%

▲1.0%/▲1.5%/▲2.0%/▲2.5%

需要母数の減少(年▲0.9〜1.4%)をどこまで家賃に転嫁するかで変える

出口キャップレートの上乗せ

なし

+0.0pt/+0.5pt/+1.0pt

売却時に買い手が同じリスクをどこまで織り込むかで変える

家賃下落率のシナリオは、需要母数の減少(年▲1.0%前後)を家賃にどれだけ転嫁するかで決めています。▲1.0%は転嫁率0%(古いアパートの取り壊しや用途転換で供給側が吸収する場合)、▲1.5%は転嫁率約50%、▲2.0%は約100%、▲2.5%はそれを上回る場合です。需要母数が減れば家賃が同率で下がる、という因果を前提にはしていません。家賃は供給の退出、留学生、再開発、学生以外の需要など複数の要因で決まるため、転嫁率そのものを分からないものとして幅で扱っています。家賃下落率の置き方そのものについては家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかで検証しています。

まず運営面だけを比べると、学生物件は不利ではなかった

「学生は出入りが激しいから損」という説明をよく聞きます。しかし数字を並べると逆でした。

項目

一般単身向け

学生向け(3月決着85%)

平均入居期間

3.25年

4.0年

年間入替率

30.8%

25.0%

1回あたり期待空室期間

2.00ヶ月

1.475ヶ月

年間空室損率

5.13%

3.07%

計算式は「年間空室損率=年間入替率×1回の空室期間÷12」です。学生向けは入替が少なく(4年在学=入替率25.0%)、3月の繁忙期に決まれば空室期間も短いため、年間空室損率は一般単身向けより2.06pt低く出ます。退去時期が3月に集中することの影響については退去が3月か8月かで、年間キャッシュフローは22万円違うでも検証しています。

ただし、この有利さは「3月に決まること」が前提です。3月に決まる確率pを変えると空室損率は次のように動きます。

3月に決まる確率p

1回あたり期待空室期間

年間空室損率

一般単身(5.13%)との差

95%

0.825ヶ月

1.72%

▲3.41pt

90%

1.150ヶ月

2.40%

▲2.73pt

85%

1.475ヶ月

3.07%

▲2.06pt

80%

1.800ヶ月

3.75%

▲1.38pt

75%

2.125ヶ月

4.43%

▲0.70pt

70%

2.450ヶ月

5.10%

▲0.03pt

3月決着率が70%まで落ちると、学生物件の空室損率は一般単身向けと並びます。言い換えると、3月決着率が7割を割らないかぎり、運営面では学生物件のほうが効率的という計算になります。

10年IRRが等価になる表面利回りを逆算する

比較の基準となる一般単身向けケースの数値は次のとおりです。

項目

金額・数値

購入価格(表面10.0%)

43,200,000円(1戸540万円)

借入/自己資金(諸費用込み)

34,560,000円/12,312,000円

1年目NOI(NOI率64.01%)

2,765,108円

購入時キャップレート

6.401%

年間元利返済額/DSCR

2,197,613円/1.258

1年目税引前CF

567,494円

10年累計CF

4,179,430円

11年目NOI/出口キャップ6.901%での売却価格

2,438,783円/35,341,031円

10年後残債/売却手残り(税引前)

19,426,608円/14,677,487円

10年IRR(税引前)

5.028%

この10年IRR 5.028%と等しくなる学生ケースの購入価格を、家賃下落率と出口キャップの上乗せを変えて逆算しました(3月決着率85%)。

学生ケースの家賃下落率

出口キャップ +0.0pt

出口キャップ +0.5pt

出口キャップ +1.0pt

年▲1.0%(転嫁率0%)

9.57%(▲0.43pt)

9.91%(▲0.09pt)

10.22%(+0.22pt)

年▲1.5%(転嫁率約50%)

10.00%(±0.00pt)

10.35%(+0.35pt)

10.67%(+0.67pt)

年▲2.0%(転嫁率約100%)

10.46%(+0.46pt)

10.82%(+0.82pt)

11.15%(+1.15pt)

年▲2.5%

10.94%(+0.94pt)

11.31%(+1.31pt)

11.65%(+1.65pt)

括弧内は一般単身ケース(10.0%)に対する必要プレミアムです。同じことを「売出4,320万円からいくら値引けばよいか」に換算すると次のようになります。

学生ケースの家賃下落率

出口 +0.0pt

出口 +0.5pt

出口 +1.0pt

年▲1.0%

196万円高くても可

41万円高くても可

94万円の値引き(2.2%)

年▲1.5%

1万円の値引き(0.0%)

146万円の値引き(3.4%)

273万円の値引き(6.3%)

年▲2.0%

190万円の値引き(4.4%)

326万円の値引き(7.6%)

445万円の値引き(10.3%)

年▲2.5%

372万円の値引き(8.6%)

500万円の値引き(11.6%)

611万円の値引き(14.1%)

注目したいのは左上です。家賃下落率も出口キャップも一般と同じと置いた場合、学生物件は表面9.57%(4,516万円)でも一般ケースと同じIRRになります。売出4,320万円なら196万円高く買っても成立する、という計算です。学生物件の表面利回りが高いこと自体が有利さの証明にはならないことが分かります。

必要プレミアムの要因分解

必要プレミアム+0.35pt(中位シナリオ)が、どの要因から来ているのかを段階的に積み上げました。

積み上げる条件

必要表面利回り

累積プレミアム

その段階の寄与

運営面のみ(入居4年・3月決着85%・原状回復7.5万円)

9.566%

▲0.43pt

▲0.43pt

+家賃下落率を年▲1.5%に

10.002%

±0.00pt

+0.44pt

+出口キャップを+0.5ptに

10.350%

+0.35pt

+0.35pt

必要プレミアムの構造は明確です。

  • 運営面は▲0.43ptのプラス寄与(学生物件のほうが効率的)
  • 家賃下落率の差が+0.44pt(需要母数の減少を家賃に半分転嫁した場合)
  • 出口キャップの0.5ptの上乗せが+0.35pt

つまり「学生は出入りが激しいから利回りが高い」という説明は、計算上は支持されません。必要プレミアムは、入替ではなく需要母数と出口から来ています。出口利回りの変化がIRRをどれだけ動かすかは出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるかでも検証しています。

転換点はどこにあるか

家賃下落率を0.1pt刻みで動かし、必要プレミアムが変わる境界を探しました(出口キャップ+0.5pt、3月決着率85%)。

学生ケースの家賃下落率(年)

必要表面利回り

必要プレミアム

必要値引き額

▲1.0%

9.905%

▲0.09pt

41万円高くても可

▲1.11%

10.00%

±0.00pt

0円(売出のまま)

▲1.5%

10.350%

+0.35pt

146万円

▲2.0%

10.817%

+0.82pt

326万円

▲2.19%

約11.00%

+1.00pt

約392万円

▲2.5%

11.307%

+1.31pt

500万円

▲3.0%

11.822%

+1.82pt

666万円

▲3.10%

約12.00%

+2.00pt

約698万円

この条件下での転換点は3つです。

  • 家賃下落が年▲1.11%を超えると、学生物件は値引きが必要になる(それ以下なら売出価格でも一般単身向けと等価)
  • 年▲2.19%で必要プレミアムは+1.0ptに達する
  • 年▲3.10%で+2.0ptに達する

一般単身向けを年▲1.0%と置いているので、学生物件の家賃下落が一般より0.11pt速いだけで、運営効率の優位(出口キャップ+0.5ptの不利を含めて)を使い切ることになります。この境界は条件を変えれば動きますが、「運営効率の優位は小さなマージンしかない」という構造は変わりません。

3月を外した年、キャッシュフローはどこまで沈むか

ここまでは期待値の話です。しかし学生物件の実感としての怖さは、期待値ではなく単年の振れにあります。入替率25.0%×8戸=年2戸が入替対象で、その2戸が3月に決まるかどうかで年間収支が変わります。

中位シナリオの価格(4,174万円、借入3,339万円、年間返済212.3万円)で、1年目の収支を場合分けしました。

入替2戸のうち3月に決まらない戸数

年間空室月数

実効総収入

NOI

DSCR

年間税引前CF

発生確率(p=85%・独立と仮定)

0戸

1.0ヶ月

4,275,000円

2,972,050円

1.400

848,779円

72.25%

1戸

7.5ヶ月

3,982,500円

2,694,175円

1.269

570,904円

25.50%

2戸

14.0ヶ月

3,690,000円

2,416,300円

1.138

293,029円

2.25%

参考までに、一般単身向けケースの1年目はCF 567,494円・DSCR 1.258です。

読み取れることは2つあります。

  • 全戸決まれば年CF 84.9万円(DSCR 1.400)で、一般単身向けより約28万円多く残る
  • 1戸外すと年CF 57.1万円まで落ち、一般単身向けとほぼ同じ水準になる。2戸外すと29.3万円(DSCR 1.138)まで沈む

つまり学生物件のリスクは「平均が悪い」ことではなく、「年ごとの振れが大きい」ことです。10年で見れば期待値に収れんしますが、大規模修繕や設備更新の年に3月を外すと、手元資金が一気に削られます。この振れに耐えるための手元資金は、一般単身向けより厚く見ておく必要があります。

なお、確率は8戸が独立に決まることを仮定した二項分布です。実際には同じ大学の学生に依存する物件では、募集の成否は独立ではなく連動します(定員縮小や学部移転が起きれば、全戸が同時に埋まりにくくなる)。この点は後述の限界で触れます。

今回の試算は空室・入替・家賃下落の置き方を固定しています。自分の物件の戸数・賃料・空室率・家賃下落率で年次の収支とDSCRを確かめたい場合は、キャッシュフローシミュレーターで空室率と家賃下落率を変えて試算することができます。金利と空室率を変えたときのDSCRの変化や、CFがゼロになる損益分岐の空室率も確認できます。

3月を外したときの空室期間をどう置くかで結論は変わるか

「外すと7ヶ月空く」という設定は、年度途中に大学院生・編入生・社会人などで一部埋まることを想定したものです。ここを変えた場合の必要プレミアムを確認しました(家賃下落年▲1.5%、出口キャップ+0.5pt)。

外した場合の空室期間

3月決着85%の必要プレミアム

3月決着70%の必要プレミアム

5ヶ月

+0.26pt(108万円)

+0.47pt(194万円)

7ヶ月

+0.35pt(146万円)

+0.67pt(270万円)

9ヶ月

+0.45pt(184万円)

+0.87pt(346万円)

11ヶ月(ほぼ1年空く)

+0.54pt(222万円)

+1.08pt(422万円)

もっとも厳しい組み合わせ(3月を外すとほぼ1年空き、決着率70%)でも必要プレミアムは+1.08ptです。3月の募集という学生物件固有のリスクは、価格で1pt程度吸収できる範囲にとどまります。それより大きいのは、やはり家賃下落率の置き方です。

融資条件や保有期間を変えても、必要プレミアムはほとんど動かない

必要プレミアムが融資条件で変わるのかを確認しました(家賃下落年▲1.5%、出口キャップ+0.5pt、3月決着85%)。

変更した条件

一般ケースの10年IRR

学生ケースの必要表面利回り

必要プレミアム

金利2.0%・期間20年

6.048%

10.334%

+0.33pt

金利2.5%・期間20年(基準)

5.028%

10.350%

+0.35pt

金利3.0%・期間20年

3.964%

10.367%

+0.37pt

金利2.5%・期間15年

4.661%

10.356%

+0.36pt

金利2.5%・期間25年

5.317%

10.346%

+0.35pt

保有5年

▲1.751%

10.336%

+0.34pt

保有15年

6.246%

10.351%

+0.35pt

金利が1pt動いても、融資期間が10年違っても、保有期間が5年でも15年でも、必要プレミアムは+0.33〜+0.37ptの範囲にしか動きません。一方で、一般ケースのIRRそのものは金利2.0%の6.048%から3.0%の3.964%まで2pt以上動きます。

これは「学生物件にいくら上乗せの利回りを求めるか」は物件側の問題であり、融資条件で調整する話ではないことを意味します。金利が上がったからといって、求めるプレミアムを増やす理由にはなりません(物件価格そのものを下げる理由にはなります)。

なお保有5年のIRRが▲1.751%とマイナスになるのは、諸費用8.5%と売却費用3.5%を5年で回収しきれないためです。保有期間とIRRの関係については出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるかで保有5年・10年・15年・20年を比較しています。

大学プロファイル別の必要プレミアム

最後に、定員充足率のデータをもとに3つのプロファイルを作り、必要プレミアムを逆算しました。

プロファイル

家賃下落率

出口キャップ

3月決着率

必要表面利回り

必要プレミアム

成立する価格(1戸あたり)

A 大都市・大規模大学依存(東京・大阪・福岡・愛知など充足率100%超)

年▲1.0%

+0.0pt

90%

9.473%

▲0.53pt

4,560万円(570万円)
売出より240万円高くても成立

B 地方中核都市・中規模大学依存

年▲1.5%

+0.5pt

85%

10.350%

+0.35pt

4,174万円(522万円)
146万円(3.4%)の値引きが必要

C 地方小規模・単独立地大学依存(充足率80%台、定員100人未満)

年▲2.5%

+1.0pt

75%

11.885%

+1.89pt

3,635万円(454万円)
685万円(15.9%)の値引きが必要

同じ年間満室家賃432万円の8戸アパートでも、依存する大学のプロファイルによって成立価格は4,560万円から3,635万円まで、926万円(1戸あたり116万円)の幅があります。表面利回りに換算すると2.41ptです。

これらの数値は設定した条件に完全に依存します。プロファイルの区分は定員充足率の実データ(私学事業団)を根拠にしていますが、家賃下落率・出口キャップ・3月決着率の各数値は筆者が設定した仮定であり、実測値ではありません。

結果から分かること

  • 学生物件の表面利回りが高いこと自体は、不利さの対価として十分とは言えない。条件次第で必要プレミアムは▲0.53ptから+1.89ptまで動き、同じ「学生アパート」でも必要な上乗せは2.4pt以上違う。
  • 「学生は出入りが激しいから損」という説明は、計算では支持されない。4年在学を前提にすれば入替率は25.0%で、単身世帯の平均居住期間3年3ヵ月(入替率30.8%)より少ない。3月に決まるかぎり、年間空室損率も一般単身向けより2.06pt低い。
  • 必要プレミアムを生んでいるのは需要母数と出口。要因分解すると、運営面は▲0.43ptのプラス寄与、家賃下落率の差が+0.44pt、出口キャップの上乗せが+0.35pt。
  • 需要母数の減少は、2030年代後半から加速する。18歳人口は2026年を起点に2036年まで年率▲1.71%、2042年まで年率▲2.86%。これはすでに生まれた人数で確定しており、出生率が今後どうなっても変わらない。
  • 進学率上昇という緩衝材は、2030年代半ばで効きが落ちる。18歳人口の減少に対する吸収率は2030年まで60.8%、2035年まで32.4%、2040年まで12.6%。保有期間が2030年代後半にまたがる物件は、この切り替わりを織り込む必要がある。
  • 3月の募集リスクは、価格で1pt程度吸収できる範囲。最も厳しい組み合わせ(外すとほぼ1年空く・決着率70%)でも必要プレミアムは+1.08pt。むしろ怖いのは単年の振れで、入替2戸のうち1戸外すだけで年CFは84.9万円から57.1万円へ、2戸で29.3万円(DSCR 1.138)まで落ちる。
  • 必要プレミアムは融資条件で動かない。金利2.0〜3.0%、期間15〜25年、保有5〜15年のいずれでも+0.33〜0.37ptの範囲。物件側のリスクを融資条件で調整することはできない。
  • 全国平均より、依存する大学の個別事情のほうが大きい。私立大学の入学定員充足率は全体で101.61%まで回復した一方、100%未満が316校(53.2%)、定員100人未満では79.74%。地域別でも福岡106.95%と近畿(京阪神除く)82.38%で24pt以上の差がある。

投資判断への使い方

この分析をそのまま物件判断に当てはめる手順を整理します。

  1. 依存している大学を特定し、入学定員充足率を確認する。私学事業団の入学志願動向、各大学の公表資料で、定員充足率と直近の定員変更(増員・減員・募集停止)を見ます。充足率が9割を割っている小規模大学への依存であれば、プロファイルCに近い前提で考えるべきです。
  2. 学生以外の需要がどれだけあるかを数える。レントロールで、学生以外の入居者(社会人・留学生・院生)の比率を確認します。学生比率が低ければ、必要プレミアムは一般単身向けの水準に近づきます。
  3. 家賃下落率の置き方を決める。需要母数の減少(年▲0.9〜1.4%)をどこまで家賃に転嫁するかが、必要プレミアムの最大の決定要因です。周辺の築古アパートが取り壊されているか、新築が供給され続けているかで転嫁率の見立ては変わります。
  4. 必要値引き額に換算して指値の根拠にする。「表面利回りが何pt足りない」では交渉材料になりません。中位シナリオなら売出価格の3.4%、プロファイルCなら15.9%という形にすれば、根拠を示した価格交渉ができます。
  5. 3月を外した年の収支で手元資金を決める。期待値のCFではなく、入替戸数の半分を外した年のCFとDSCRで、何年分の手元資金が必要かを決めます。

なお、今回の試算では出口キャップレートの上乗せを+0.0〜+1.0ptの幅で置き、NOIの変化率も年▲1.0〜▲2.5%に固定しています。実際の借入額・金利・保有期間・出口キャップは物件ごとに違うため、自分の条件での結果は変わります。売却・出口戦略シミュレーターで出口キャップレートとNOI変化率を変えてIRRを試算すると、目標IRRを満たすために必要な売却価格も逆算できます。

この分析で分からないこと

条件を固定したシミュレーションなので、次の点は扱えていません。

  • 家賃下落率の実際の値。需要母数の減少を家賃にどれだけ転嫁するかは設定値です。供給側の退出(築古アパートの取り壊し・用途転換)が需要減を吸収すれば家賃は下がりません。逆に新築供給が続けば想定より速く下がります。人口や学生数と家賃の関係は相関であり、因果を特定したものではありません。
  • 募集の成否の連動性。単年CFの確率は8戸が独立に決まる前提の二項分布です。実際には同じ大学に依存する物件では成否が連動し、悪い年は複数戸が同時に埋まりません。したがって表の2.25%は下限に近い見積りで、実際の「2戸外す確率」はこれより高くなります。
  • 大学の個別事情。学部移転、キャンパス統合、募集停止、学生寮の新設は、全国統計からは予測できません。大学が自前の寮を建てれば、周辺アパートの需要は一度に失われます。
  • 留学生と社会人学生。文科省の推計は外国人留学生数が現状のままという前提です。留学生政策や為替によって学生需要は増減します。
  • 自宅外率の実際の動き。学費負担や通学時間の許容度で変わります。今回は横ばいと低下の2通りを置いただけです。
  • 税金。すべて税引前の計算です。減価償却、売却時の譲渡所得税、法人・個人の違いは織り込んでいません。
  • 実際の融資条件。LTV80%・金利2.5%・期間20年は設定値です。地方の学生向けアパートでは、エリアと築年数によって条件が大きく変わります。
  • 建物・管理の個別事情。設備水準、インターネット環境、管理会社の学生対応力は、同じ立地でも入居率を左右します。
  • 出口の市場環境。10年後に買い手がどの利回りを求めるかは、金利や投資家の需要で決まります。

まとめ

学生需要に依存するアパートの必要プレミアムは、条件によって▲0.53ptから+1.89ptまで動きました。大都市の大規模大学に依存する物件なら、一般の単身向けより低い表面利回りでも成立します。地方の小規模大学に依存する物件では、売出価格の約16%の値引きが必要という計算になりました。

そして、必要プレミアムを生んでいるのは入替の多さではありませんでした。18歳人口という確定した需要母数と、10年後に買い手が付ける利回りです。前者はすでに生まれた人数で2040年代前半まで決まっており、後者は今の判断では確かめられません。

この分析では収益性は維持されても出口価格への感応度が高い、という結果になりました。どちらを重く見るかは、保有期間と手元資金の厚さで変わります。「学生アパートは買い/買わない」ではなく、依存する大学のプロファイルを確認し、必要プレミアムを価格に織り込めているかで判断するのが、今回の数字から言えることです。

今回のように家賃下落率、空室率、入替コスト、出口利回りを同時に動かすと、確認する項目が増えて表計算では追いきれなくなります。RE-AIでは、こうした複数条件を収益性・融資・リスク・出口の各視点からまとめて確認できるよう設計しています。ただし、依存する大学の定員動向のような個別事情は、どのツールでも自動では拾えません。最後は自分で確認する必要があります。

関連記事

参考資料・出典

  • 厚生労働省「人口動態統計」(出生数の年次推移、確定値/2024年は概数)
  • 文部科学省「進学率・進学者数推計結果(出生低位・死亡低位)」2024年11月公表
  • 独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「令和6年度学生生活調査結果」2024年11月調査
  • 文部科学省「学校基本調査」令和7年度(大学学部学生数の設置者別内訳)
  • 日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」
  • 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」第26回(2022年/単身世帯の平均居住期間)
  • 日本銀行「貸出約定平均金利」(新規・長期の水準。2026年6月に約25年ぶりに2%を超えたことはニッセイ基礎研究所「貸出・マネタリー統計(26年6月)」が整理)

キャッシュフロー、NOI、DSCR、IRR、売却価格の計算はすべて筆者(RE-AI編集部)が上記の設定条件に基づいて行ったものです。実際の物件の収支を保証するものではありません。本記事は投資判断の参考情報であり、特定の物件の購入・売却を推奨するものではありません。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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