
河川の近くや低地にある収益物件を検討していると、「水災等地によって火災保険料が変わる」という話を聞いて不安になることがあります。実際にはどの程度の差になるのか、そして保険料の差と物件価格への影響のどちらを重視すべきなのかを、公表データと木造アパートの架空例で確認します。
これまで火災保険の水災部分の保険料は、全国でほぼ一律でした。しかし台風・豪雨災害の頻発・激甚化を背景に、2023年6月に損害保険料率算出機構が届け出た「火災保険参考純率」の改定により、水災料率が市区町村単位でリスク別に5段階(1等地〜5等地、1等地が最もリスクが低い)へ細分化されました。
金融庁の有識者懇談会の報告書によれば、この見直しの目的は保険料負担の公平化です。ハザードマップが普及し、浸水リスクの低い地域の契約者が水災補償を外す動きが進むと、リスクの高い地域の契約者だけが残って保険の収支が悪化するおそれがある、という問題意識が背景にあるとされています。
参考純率はあくまで「参考」であり、これをそのまま使うかどうかは保険会社ごとの判断です。保険会社ごとに反映のタイミングは異なりますが、主要各社は2024年度以降、契約の更新時期にあわせて順次反映を進めています。既契約があるなら、次の更新時にどう変わるかを見積もりで確認する必要があります。
水災等地の区分そのものは損害保険料率算出機構が算出しているため、個人が自分の物件の等地を正確に特定する最も確実な方法は、保険会社・代理店に見積もりを依頼することです。
購入前の目安をつかむ方法としては、国土交通省の重ねるハザードマップで、対象地の想定浸水深や浸水頻度(洪水・内水・高潮など)を確認する方法があります。ただしハザードマップの想定浸水深と、保険料率上の等地区分は必ずしも1対1で対応していません。あくまで「おおまかな当たり」をつけるための情報として使い、最終的な判断は見積もりで確認してください。
損害保険料率算出機構が公表した「2023年6月届出 火災保険参考純率改定」では、都道府県別・等地別の改定率の例が示されています。建物保険金額2,000万円・家財1,000万円・築10年以上という条件で、改定前の保険料を100としたときの変化率は次の通りです。
都道府県 | 1等地 | 2等地 | 3等地 | 4等地 | 5等地 |
|---|---|---|---|---|---|
東京都 | ▲1.3% | +3.0% | +7.7% | +13.1% | +19.0% |
愛知県 | +1.9% | +5.9% | +10.3% | +15.1% | +20.6% |
大阪府 | +11.4% | +14.8% | +18.5% | +22.6% | +27.1% |
東京都は1等地では改定前よりも保険料が下がり(▲1.3%)、5等地では+19.0%まで上がるため、等地差そのものの幅が約20.3ポイントあります。一方、大阪府は1等地でも+11.4%からスタートし、5等地で+27.1%となるため、全体の水準は東京より高いものの、等地差の幅は約15.7ポイントと東京より小さくなっています。つまり「どの都道府県も同じだけ等地で差がつく」わけではなく、もともとの水準と等地差の大きさは別の軸として動きます。
以下は仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。実在する物件のデータではありません。
想定読者は、地方都市で初めて一棟物件の購入を検討する会社員投資家とします。河川に近い住宅地に建つ、築18年の木造アパート(1K×6戸)を候補とし、月額家賃5.3万円×6戸×12ヶ月=年間381.6万円(表面利回り10.8%)という条件から、物件価格を約3,530万円(381.6万円÷10.8%)と設定します。価格を先に決めるのではなく、想定読者と物件規模に合う家賃・利回りから価格を逆算している点がポイントです。
建物の再調達価格(保険金額の基準)を約3,000万円、改定前の年間火災保険料(水災部分を含む、ロ構造)を5.0万円と仮定し、上記の東京都の改定率を当てはめると、等地ごとの年間保険料は次のようになります。
等地 | 改定率 | 年間保険料(架空例) |
|---|---|---|
1等地 | ▲1.3% | 約4.9万円 |
3等地 | +7.7% | 約5.4万円 |
5等地 | +19.0% | 約6.0万円 |
1等地と5等地の差は年間で約1.0万円です。この物件の空室率を8%、運営費(保険料を除く)を実効収入の25%と仮定すると、保険料抜きのNOIは約263.3万円になります。等地差による保険料の増減(約1.0万円)は、このNOIの約0.4%に相当します。等地が悪化しても、単体ではキャッシュフローを大きく揺るがす水準ではないことがわかります。
等地による保険料差が年間1万円程度にとどまる一方で、同じ「水害リスク」という条件が、物件価格の判断にはもっと大きく影響することがあります。浸水想定区域の一棟アパートは、いくら安ければ買えるのかでは、日本銀行の地価推計を使い、価格8,000万円の一棟アパートで「区域外の物件と同じ10年IRRを確保するために必要な値引き額」を逆算したところ、32万円から338万円という結果になりました。
物件規模が異なるため単純比較はできませんが、桁で見ると、等地による保険料差(年1万円程度、10年累計でも10万円程度)よりも、水害リスクが物件価格の交渉材料として持つ影響の方がはるかに大きいとわかります。水災等地の悪さだけを見て「保険料が高いから危険」「保険料が同程度だから安心」と判断するのは早計です。保険料・価格・出口まで含めて同時に見ることが、水害リスクを一つの指標だけで判断しないための前提になります。
購入前のリスク確認は、水災等地だけで完結するものではありません。重要事項説明やハザード、権利関係まで含めた全体の流れは収益物件購入前のリスクチェック完全ガイドで整理しています。
火災保険の水災料率は2023年6月の参考純率改定により、市区町村単位で1〜5等地に細分化されています。東京都・愛知県・大阪府の例では、等地差そのものの大きさ(最大約20.3ポイント)も、全体の水準も都道府県によって異なっていました。木造アパート6戸の架空例では、1等地と5等地の年間保険料差は約1.0万円、NOIに対する比率は約0.4%にとどまり、単体では投資判断を左右するほどの金額ではありませんでした。一方、同じ水害リスクが物件価格の交渉に与える影響は、別記事の試算で32万円から338万円という規模になっており、保険料だけを見て水害リスクを判断すると、本来もっと大きい価格側の論点を見落とすおそれがあります。
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情報確認日:2026年10月24日。本記事の等地別改定率は2023年6月届出の参考純率に基づく例であり、各保険会社の実際の保険料は会社ごとの判断や契約条件によって異なります。本記事の数値例は条件を固定した架空の試算であり、実在物件の統計ではありません。実際の保険料・補償内容は保険会社・代理店の見積もりで確認してください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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