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学生に頼ったアパートは学生比率何%まで引き合うのか|DSCR1.20を10年守れる上限は39.5%、必要な利回りプレミアムは1.80ptだった

学生に頼ったアパートは学生比率何%まで引き合うのか|DSCR1.20を10年守れる上限は39.5%、必要な利回りプレミアムは1.80ptだった

大学の徒歩圏にある1Kアパートは、駅から遠くても埋まります。学生は駅ではなくキャンパスを基準に部屋を選ぶからです。その代わり、表面利回りは駅近の物件より高く出ます。「立地の弱さを利回りで買う」という構造は、収益物件としては珍しくありません。

ただしこの物件種別には、他のアパートにない固有の条件が2つあります。1つは、需要源が「大学」という単一の施設に集まっていること。もう1つは、入居者が在学期間で必ず入れ替わることです。

一般的な記事では、ここが「人口減少で学生アパートは危ない」という一文で片付けられます。しかし投資判断に必要なのは、危ないかどうかではなく、全戸のうち学生が何割までなら引き合うのか、そして学生比率が高い物件を買うなら利回りを何pt上乗せすべきかという水準です。

そこで今回は、文部科学省の大学進学者数の将来推計を年次に展開し、学生比率を0%・30%・60%・100%に変えて、DSCR・キャッシュフロー・10年/15年IRRがどこまで動くかを計算しました。あわせて、キャンパス移転や学部の募集停止という離散的なショックが起きた場合も検証しています。

この記事で分析する疑問

  • 学生比率が高い物件は、需要が細る前の「平時」の時点で何万円不利なのか
  • 文部科学省の推計どおりに進学者数が減ると、学生比率別にDSCRは何年目にどこまで下がるのか
  • DSCR1.20を10年維持できる学生比率の上限は何%か
  • 学生比率100%の物件を買うなら、必要な表面利回りプレミアムは何ptか
  • キャンパス移転のような一度きりのショックは、利回りプレミアムで補償できるのか

需要側のデータ:大学進学者数は2036年に▲12.1%、2041年に▲29.0%

まず、学生需要そのものがどう動くかを公開データで確認します。文部科学省が2024年11月に公表した大学進学者数の将来推計(出生低位・死亡低位、外国人留学生数が現状のままのケース)では、大学入学者総数は以下の見通しです。

年

18歳人口

大学進学率

入学者総数(留学生含む)

2021年(実績)

1,141,140人

54.90%

627,040人

2025年

1,100,314人

56.65%

643,539人

2030年

1,051,986人

58.22%

632,631人

2035年

964,129人

59.14%

590,102人

2040年

739,050人

59.60%

459,757人

2045年

697,120人

59.94%

437,018人

注目すべきは減少が一定ペースではないことです。2025年から2035年までの10年間の減少は▲8.3%にとどまりますが、2035年から2040年の5年間だけで▲22.1%落ちます。進学率の上昇が18歳人口の減少を吸収できるのは2030年代前半までで、その後は吸収しきれなくなる計算です。

この推計を年次に線形補間し、2026年を100とした指数に直すと次のようになります。これを本記事の「学生需要指数」として使います。

経過年

暦年

入学者総数(補間値)

学生需要指数(2026=100)

0年

2026年

641,357人

100.0

5年

2031年

624,125人

97.3

10年

2036年

564,033人

87.9

15年

2041年

455,209人

71.0

20年

2046年

435,150人

67.8

つまり今年買う物件を10年持つなら学生需要は▲12.1%、15年持つなら▲29.0%という前提になります。重要なのは、急な区間(2035〜2040年)が2026年に買った物件の経過9年目〜14年目に重なることです。10年保有なら急カーブの入口で売り抜ける形になりますが、15年保有ではその区間を通過したあとに出口を迎えます。

地方の大学はすでに全国平均より厳しい

全国の進学者総数は上記のとおりですが、その内訳は均等ではありません。日本私立学校振興・共済事業団の「令和8(2026)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」では、私立大学全体の入学定員充足率は102.7%(前年度比+1.1pt)、定員割れの大学は275校・46.2%(同▲7.0pt)と2年連続で改善しました。ただし内訳を見ると差が明確です。

区分

2026年度 入学定員充足率

私立大学全体

102.7%

収容定員8,000人以上(大規模)

前年から2pt低下

収容定員4,000人未満(小規模)・三大都市圏

101.5%(6年ぶりに定員充足)

収容定員4,000人未満(小規模)・その他地域

95%

地域別:九州

108%

地域別:近畿

104%

地域別:関東、北陸・東海

103%

地域別:北海道・東北、甲信越

100%未満

地域別:中国・四国

90%

私立大学の入学定員は2026年度に約2千人減り、小規模大学では直近2年で約8千人減っています。充足率80%未満の大学が2年間で182校から118校へ減ったのは、学生が増えたからではなく大学側が定員を削った結果という面があります。短期大学では来春の募集停止が14校公表されています。

この点は後述する「分析の限界」にも関わりますが、少なくとも地方の小規模大学に依存した物件では、全国平均の減少率より厳しい前提を置くほうが安全側だと言えます。

進学者数の減少がそのまま賃貸需要の減少になるとは限らない

ここは断定を避けます。進学者数と学生アパート需要の間には、自宅外通学率という変数が挟まっています。全国大学生活協同組合連合会の第61回学生生活実態調査(2025年10〜11月、13,277人回答)では、下宿・アパート等の自宅外生が57.3%、自宅生が42.7%でした。下宿生の住居費は月55,452円です。

進学者数が減っても自宅外通学率が上がれば、下宿需要は進学者数ほど減りません。逆に、大学が都市部のキャンパスへ機能を集約すれば、特定エリアの需要は進学者数の減少率を大きく超えて落ちます。進学者数の減少と賃貸需要の減少は相関しますが、イコールではありません。本記事は「学生需要指数の低下がそのまま学生入居部分の実効収入の低下として現れる」という前提を置いて計算していますので、その前提自体が1つの仮定であることをご承知ください。

前提条件:今回の基準ケースをどう決めたか

今回の分析は条件付きシミュレーションです。実在する物件の統計ではなく、以下の条件を設定した架空ケースです。

物件価格を先に決めるのではなく、分析目的から逆算しました。検証したいのは「学生需要に依存した物件の耐性」なので、物件は学生需要が主体になりうる間取り・立地でなければ意味がありません。そこで、地方中核市の大学徒歩圏にある1K12戸の木造アパート(築8年)を想定し、1戸あたり月額賃料を4.2万円に設定しました。前掲の下宿生の住居費全国平均55,452円は首都圏を含む値なので、地方中核市ではこれを下回る水準が現実的という判断です。

そこから年間満室想定賃料604.8万円を出し、この規模の物件を1棟目〜2棟目として買う個人投資家(自己資金1,300万円程度)が実際に検討する価格帯として6,500万円(1戸あたり542万円、表面利回り9.30%)を置いています。表面利回りが駅近物件より高めなのは、立地の弱さが価格に反映されている状態を再現するためです。

固定した条件

項目

設定値

物件価格

6,500万円(1K12戸・木造・築8年)

年間満室想定賃料

604.8万円(月4.2万円×12戸)

表面利回り

9.30%

借入額 / LTV

5,200万円 / 80%

金利 / 融資期間

2.4% / 25年(元利均等)

年間返済額

276.80万円

諸費用 / 投下自己資金

価格の8.5%(552.5万円)/ 合計1,852.5万円

稼働率(空室・滞納損)

95%(空室損30.24万円)

管理委託料

実効賃料の5%

固定資産税・都市計画税/保険/共用部光熱・清掃

38万円/9万円/18万円

経常修繕費

満室想定賃料の4%(24.19万円)

入替コスト(1回あたり)

22.5万円(原状回復+AD1.5ヶ月+フリーレント1ヶ月)

平均入居年数

学生3.2年 / 一般5.5年

運営費の年上昇率

年1.2%

非学生部分の家賃下落率

年0.5%

入口NOIキャップレート

6.27%(学生比率0%時のNOI 407.55万円÷6,500万円)

出口キャップレート

入口+築1年あたり0.08pt(保有10年で7.07%、15年で7.47%)

売却費用

売却価格の3.5%

変更した条件

  • 学生比率(12戸のうち学生が入居する割合):0%/30%/60%/100%
  • 保有年数:5年/10年/15年
  • 離散ショック:なし/学生需要▲15%(学部再編相当)/学生需要▲50%(キャンパス移転相当)。いずれも経過7年目に発生

IRRは税引前で計算しています。減価償却や法人化の影響は今回の変数に含めていません(この点は「分析の限界」で触れます)。

計算方法

各年の実効総収入(EGI)を、学生部分と非学生部分に分けて積み上げます。

  • 学生部分=満室想定賃料×学生比率×稼働率95%×学生需要指数(×ショック率)
  • 非学生部分=満室想定賃料×(1−学生比率)×稼働率95%×(1−0.5%)^経過年

ここで置いている仮定は1つだけです。需要が減った分は、空室として現れるか家賃を下げて埋めるかのどちらかになり、いずれにしても実効収入の減少として出る——これだけです。空室で出るか値下げで出るかは物件によって違うため、あえて区別していません。

NOIは、EGIから管理委託料・固定費・経常修繕費・入替コストを引いて算出します。入替コストは学生比率で変わります。年間入替回数=12戸×(学生比率÷3.2年+非学生比率÷5.5年)です。

DSCR=NOI÷年間返済額。出口価格=売却年のNOI÷出口キャップレート。IRRは投下自己資金を初期支出、各年の返済後キャッシュフローと売却時の税引前手残り(出口価格−売却費用−残債)をキャッシュインとして算出しました。

分析1:需要が減る前から、学生比率100%は年35.3万円不利だった

まず需要減をゼロとして、初年度だけを比べます。進学者数の話は一切入っていません。違うのは入替回数だけです。

学生比率

加重平均入居年数

年間入替回数

年間入替コスト

NOI

NOI率

年間CF

DSCR

0%

5.50年

2.18回

49.1万円

407.55万円

67.4%

130.74万円

1.472

30%

4.52年

2.65回

59.7万円

396.96万円

65.6%

120.16万円

1.434

60%

3.84年

3.12回

70.3万円

386.38万円

63.9%

109.57万円

1.396

100%

3.20年

3.75回

84.4万円

372.27万円

61.6%

95.46万円

1.345

学生比率0%と100%の差は年間35.28万円。NOI率は67.4%から61.6%へ5.8pt落ちます。これを物件価格6,500万円に対する表面利回りに換算すると0.54pt相当です。

ここが一般的な記事で抜け落ちやすい点です。学生アパートの不利は「将来の人口減」から始まるのではなく、買った初年度から、入替回数という形で発生している。満室稼働中のレントロールを見ても、この差は表に出てきません。入替コストそのものの水準については「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せる|退去1回30.7万円の入替コストを平均入居年数3年3ヶ月〜8年で試算で検証しています。

分析2:10年目でDSCRは1.313と1.028に分かれる

ここに文部科学省推計ベースの需要減を入れます。経過年ごとのキャッシュフローとDSCRです。

経過年

学生需要指数

学生比率0%

学生比率30%

学生比率60%

学生比率100%

初年度

100.0

CF 130.74万円/DSCR 1.472

CF 120.16万円/DSCR 1.434

CF 109.57万円/DSCR 1.396

CF 95.46万円/DSCR 1.345

5年目

97.3

CF 108.74万円/DSCR 1.393

CF 97.15万円/DSCR 1.351

CF 85.57万円/DSCR 1.309

CF 70.13万円/DSCR 1.253

10年目

87.9

CF 86.54万円/DSCR 1.313

CF 62.88万円/DSCR 1.227

CF 39.21万円/DSCR 1.142

CF 7.66万円/DSCR 1.028

15年目

71.0

CF 64.11万円/DSCR 1.232

CF 15.79万円/DSCR 1.057

CF −32.54万円/DSCR 0.882

CF −96.97万円/DSCR 0.650

学生比率0%でもCFは130.74万円から64.11万円へ半減します。これは運営費が年1.2%上がり、家賃が年0.5%下がる前提を置いているためで、学生依存とは無関係に起きる劣化です。比較すべきは絶対値ではなく、同じ経過年での差です。

差の内訳:10年目はほぼ半々、15年目は需要減が3倍重い

学生比率100%と0%のCF差を、需要・家賃要因と入替コスト要因に分解しました。

経過年

CF差(合計)

うち需要・家賃要因

うち入替コスト要因

10年目

−78.88万円

−39.12万円(50%)

−39.75万円(50%)

15年目

−161.09万円

−118.89万円(74%)

−42.20万円(26%)

これが今回いちばん使いどころのある結果だと考えています。保有10年までなら、学生依存の不利の半分は「人口減」ではなく「入替コスト」から来ている。入替コストは、AD水準の交渉や原状回復の仕様、入居年数を延ばす工夫で一定は動かせる変数です。一方15年保有では需要要因が74%を占め、こちらは個別物件の運営努力では動きません。保有期間の設計が、対処可能なリスクと対処不能なリスクの比率を決める構造になっています。

分析3:10年目でDSCR1.20を維持できる学生比率の上限は39.5%

ここから逆算に移ります。各基準を満たせる学生比率の上限です。

維持したい基準

許容できる学生比率の上限

5年目にDSCR1.20以上

100%(どの比率でも維持)

10年目にDSCR1.20以上

39.5%

10年目にDSCR1.00以上

100%(どの比率でも維持)

15年目にDSCR1.20以上

5.4%

15年目にDSCR1.00以上/年間CFが黒字

39.8%

12戸の物件なら39.5%は4.7戸に相当します。戸数単位で引き直すと次のとおりです。

学生入居の戸数(全12戸)

学生比率

10年目DSCR

15年目DSCR

15年目の年間CF

0戸

0.0%

1.313

1.232

64.11万円

2戸

16.7%

1.265

1.135

37.27万円

4戸

33.3%

1.218

1.038

10.42万円

5戸

41.7%

1.194

0.989

−3.00万円

6戸

50.0%

1.170

0.941

−16.43万円

7戸

58.3%

1.146

0.892

−29.85万円

この条件設定では、12戸のうち学生が4戸までならDSCR1.20を10年維持できるが、5戸になると1.194で割るという計算です。15年目の年間キャッシュフローが黒字を保てるのも4戸まで(5戸では年▲3.00万円)でした。1戸増えるごとに10年目DSCRが約0.024ずつ下がる関係になっています。

そして15年基準では上限が5.4%まで落ちます。これは実質「学生比率ゼロでなければ無理」という意味で、言い換えれば学生需要に依存した物件は、15年保有を前提にDSCR1.20を守る設計が成り立ちにくいということです。出口を先に決めておく必要がある物件種別だと言えます。DSCRが時間とともに劣化する一般的なメカニズムはDSCR1.30で買った物件は何年目に1.20を割るのか|家賃・稼働率・運営費を同時に劣化させ、10年維持に必要な初期DSCRを逆算でも扱っています。

分析4:学生比率100%の10年IRRは−7.26%、必要な利回りプレミアムは1.80pt

出口まで含めた税引前IRRです。

保有年数

学生比率

売却年NOI

出口価格

残債

税引前手残り

税引前IRR

10年
(出口cap 7.07%)

0%

363.34万円

5,139万円

3,484万円

1,475万円

4.41%

10年

30%

339.68万円

4,805万円

3,484万円

1,152万円

1.89%

10年

60%

316.02万円

4,470万円

3,484万円

829万円

−1.23%

10年

100%

284.47万円

4,024万円

3,484万円

399万円

−7.26%

15年
(出口cap 7.47%)

0%

340.92万円

4,564万円

2,459万円

1,945万円

5.86%

15年

30%

292.59万円

3,917万円

2,459万円

1,321万円

2.95%

15年

60%

244.27万円

3,270万円

2,459万円

697万円

−1.59%

15年

100%

179.83万円

2,407万円

2,459万円

−136万円

算定不能(元本回収せず)

学生比率が収益を2回削っていることが分かります。1回目は保有中のキャッシュフロー、2回目は売却年のNOIを通じた出口価格です。15年保有・学生比率100%では売却年NOIが179.83万円まで落ち、出口価格2,407万円に対して残債2,459万円が残り、売却費用を引くと手残りがマイナスになります。

では、この不利を価格で埋めるなら何pt必要か。学生比率0%と同じIRRに並ぶ価格を逆算しました。

保有年数

学生比率

並ぶために必要な価格

基準価格からの値引き率

必要表面利回り

必要プレミアム

5年

60%

6,123万円

5.79%

9.88%

0.57pt

5年

100%

5,872万円

9.65%

10.30%

0.99pt

10年

60%

5,869万円

9.71%

10.31%

1.00pt

10年

100%

5,448万円

16.19%

11.10%

1.80pt

15年

60%

5,483万円

15.65%

11.03%

1.73pt

15年

100%

4,804万円

26.09%

12.59%

3.28pt

保有10年なら表面利回りで1.80pt(価格で16.19%の値引き)、保有15年なら3.28pt(26.09%)が必要という結果です。この1.80ptの内訳も分解すると、入替コスト要因が1.06pt、需要減要因が0.74ptでした。保有10年なら、必要プレミアムの6割は人口減ではなく入居期間の短さから来ています。

こうした「物件固有の弱点を必要表面利回りに換算する」という考え方は、駅徒歩15分の物件は、表面利回りが何pt高ければ引き合うのか|賃料・稼働率・出口利回りの差から必要プレミアムを逆算や同じ表面利回り8%でも実質利回りは1.68pt割れる|戸数×賃料16通りで、小規模物件に必要な利回りプレミアムを逆算でも使っています。複数の弱点が重なる物件では、プレミアムも積み上がる点に注意が必要です。

分析5:キャンパス移転ショックは、利回りプレミアムでは補償できなかった

ここまでは需要が緩やかに減るケースです。しかし大学依存の本質的なリスクは、緩やかな減少ではなく一度に起きる離散的なショックにあります。学部の募集停止、キャンパスの都市部移転、大学の統合。前掲のとおり短期大学では来春の募集停止が14校公表されており、私立大学でも定員削減と再編が進んでいます。

経過7年目に学生需要が▲15%(学部再編相当)、▲50%(キャンパス移転相当)になった場合のDSCRです。

学生比率

ショックなし
7年目DSCR

▲15%
7年目CF/DSCR

▲50%
7年目CF/DSCR

0%

1.361

99.88万円/1.361

99.88万円/1.361

30%

1.308

62.03万円/1.224

7.77万円/1.028

60%

1.255

24.17万円/1.087

−84.33万円/0.695

100%

1.185

−26.30万円/0.905

−207.14万円/0.252

逆算すると、許容できる学生比率の上限は次のとおりです。

ショックの規模

DSCR1.20を維持できる上限

DSCR1.00を維持できる上限

学生需要▲15%

35.3%

79.2%

学生需要▲50%

14.5%

32.5%

そして最も重要な結果がこれです。学生需要▲50%のショックを織り込むと、学生比率100%の物件は価格をいくら下げても学生比率0%のIRRに並びませんでした。

理由は単純です。ショック後のNOIが経過14年目にマイナスへ沈むため、出口価格が成立しません。物件価格を下げれば借入額も返済額も下がりますが、NOIがマイナスになる事実は価格では変わりません。利回りプレミアムは「収益が薄い」ことへの補償にはなりますが、「収益源そのものが消える」ことへの補償にはならないという構造です。

ここから導かれる実務的な結論は、離散ショックへの対処は価格交渉ではなく物件選択でしか行えないということです。具体的には、学生比率を下げられる物件(一般単身者も入居する立地・間取り・設備か)を選ぶか、大学以外の需要源が同じ商圏にあるかを確認する、という方向になります。

シナリオ比較:BASE/STRESS/SEVERE(学生比率60%・保有15年)

シナリオ

内容

7年目CF/DSCR

15年目CF/DSCR

出口価格

15年IRR

BASE

文科省推計どおり

70.67万円/1.255

−32.54万円/0.882

3,270万円

−1.59%

STRESS

+学部再編で学生需要▲15%

24.17万円/1.087

−67.40万円/0.756

2,803万円

−11.35%

SEVERE

+キャンパス移転で学生需要▲50%

−84.33万円/0.695

−148.76万円/0.463

1,714万円

算定不能

学生比率を30%に下げると、同じSEVEREケースでも7年目CFは7.77万円(DSCR1.028)にとどまり、15年IRRは−4.65%です。依存度を半分にすることの効果は、価格を1〜2割値引きすることよりも大きいという関係になっています。

結果から分かること

  • 学生依存の不利は購入初年度から発生している。需要減をゼロとしても、学生比率100%は0%より年35.28万円(表面利回り0.54pt相当)不利。原因は入替回数(年2.18回→3.75回)。
  • 保有10年までは、不利の半分が入替コスト由来。10年目のCF差78.88万円のうち、需要・家賃要因39.12万円と入替コスト要因39.75万円がほぼ半々。15年目では需要要因が74%に拡大する。
  • 転換点は保有10年と15年の間にある。DSCR1.20を10年維持できる学生比率の上限は39.5%(12戸中4.7戸)だが、15年では5.4%まで落ちる。文科省推計の減少カーブが2035年以降に急になるためで、2026年に買って15年持つと、その急な区間が出口に重なる。
  • 必要な利回りプレミアムは保有年数で倍近く変わる。学生比率100%で保有10年なら1.80pt、15年なら3.28pt。保有期間を先に決めないとプレミアムの水準が決まらない。
  • 離散ショックは価格では補償できない。学生需要▲50%を前提にすると、学生比率100%はどの価格でも学生比率0%のIRRに並ばなかった。NOIがマイナスに沈むため。

投資判断への使い方

この分析をそのまま物件に当てはめることはできません。使い方としては、次の順で確認するのが実務的だと考えています。

  1. レントロールから学生比率を数える。満室の物件であっても、入居者属性と契約開始月(3月入居が集中していないか)、契約期間を見れば概算できます。レントロールの読み方はレントロールの見方|賃料のばらつきや入居日の偏りが意味するリスクを読み解くで整理しています。
  2. 保有期間を先に決める。今回の結果では、必要プレミアムが10年で1.80pt、15年で3.28ptと大きく変わりました。保有期間が未定のまま「高利回りだから」で買うと、どちらの基準にも足りない価格で買うことになります。
  3. 依存先の大学を個別に確認する。全国平均の進学者数より、その大学の入学定員充足率・学部構成・定員の増減のほうが効きます。前掲のとおり地方の小規模大学は充足率95%、中国・四国は90%です。人文科学系・家政系の定員削減が大きい点も、依存先の学部構成を見る材料になります。
  4. 学生比率を下げられる物件かを見る。離散ショックは価格で補償できないという結果から、対処はここに集約されます。一般単身者が選ぶ立地・設備水準か、大学以外の雇用・商業の集積が同じ商圏にあるかを確認します。エリア側の確認手順は賃貸需要の調べ方完全ガイド|収益物件のエリア判断に使う公的データと読み方と収益物件のエリア分析完全ガイド|人口・賃貸需要・空室率・再開発から購入判断を組み立てるにまとめています。
  5. 自分の数字でDSCRを引き直す。今回は借入5,200万円・金利2.4%・25年という条件を固定していますが、DSCRは借入条件で大きく動きます。

5番目については、検討中の物件のNOIを「需要が○%減った場合」に置き換えて入れ直すのがいちばん早い確認方法です。たとえば学生比率が50%で学生需要が20%減ると想定するなら、NOIをおよそ10%引いた値を入れてみる、という使い方になります。RE-AIのDSCRシミュレーターは、NOI・融資額・金利・融資期間を入れるとDSCRと返済後キャッシュフローを返し、あわせて金利を0.5ptずつ上げたときのDSCRと、DSCR1.00〜1.30を下回る金利水準も表示します(登録不要・無料)。需要減と金利上昇が重なったときの余裕を見るのに使えます。

分析の限界

今回の結果は、設定した条件のもとでの計算結果です。以下は本分析では分かりません。

  • 進学者数の減少が賃貸需要の減少とどの比率で連動するか。本記事は1対1で連動する前提を置きましたが、自宅外通学率(2025年調査で57.3%)が上下すれば比率は変わります。相関はしても因果が1対1とは限りません。
  • 依存先の大学の個別事情。全国推計を使っているため、特定大学の定員増減、学部新設、キャンパス統廃合は反映されていません。都市部の大学は定員を満たしており、地方の小規模大学が削られる構図なので、地方物件では本分析より厳しい前提が必要な可能性があります。
  • 留学生の動向。文科省推計には留学生を現状維持とするケースと増加するケースがあり、本記事は現状維持のケースを使いました。増加ケースでは2040年の入学者総数が485,099人(現状維持は459,757人)となり、減少率は小さくなります。
  • 需要減が空室で出るか値下げで出るか。本分析は「実効収入の減少」として一括で扱っており、空室期間の長期化と賃料下落を区別していません。実際にはどちらに出るかで原状回復費や募集費の発生タイミングが変わります。
  • 税効果。IRRは税引前です。減価償却、デッドクロス、法人化、売却時の譲渡税は含めていません。税引後では結論の水準が変わります。
  • 建物・設備の個別状態と大規模修繕。経常修繕費は賃料の4%で固定し、大規模修繕の山は織り込んでいません。
  • 実際の融資条件。LTV80%・金利2.4%・25年は設定値です。学生需要依存が強い物件では、金融機関が担保評価や融資期間を厳しく見る可能性があります。
  • 売却時の市場環境と買い手の融資環境。出口キャップレートは築年数に応じた一律の上昇としており、売却時点の金利水準や買い手の借入可能年数は反映していません。

今回のように学生比率・需要減・入替コスト・金利・出口価格を同時に動かすと、表計算では確認すべき組み合わせが急速に増えます。RE-AIでは収益性・融資・リスク・出口戦略を複数の視点から並行して確認できるよう設計していますが、個別物件の最終判断を代替するものではありません。

まとめ

学生需要に依存したアパートについて、今回の条件設定では次の結果になりました。

  • 需要減をゼロとしても、学生比率100%は0%より年35.28万円(表面0.54pt相当)不利
  • 10年目のDSCRは、学生比率0%で1.313、100%で1.028
  • DSCR1.20を10年維持できる学生比率の上限は39.5%、15年では5.4%
  • 必要な表面利回りプレミアムは保有10年で1.80pt、15年で3.28pt
  • 学生需要▲50%のショックを前提にすると、どの価格でも学生比率0%のIRRには並ばない

結論は「大学依存の物件は買うべきでない」ではありません。この条件では保有10年・学生比率4割までなら収益性は維持されるが、保有期間を延ばすほど出口価格への感応度が急に高まるという形になります。判断軸は少なくとも3つあります。保有期間を何年に置くか、学生比率を下げられる物件かどうか、そして離散ショックが起きたときに自己資金で何年持ちこたえられるか。利回りの高さだけで判断できる物件種別ではない、というのが今回の計算から言えることです。

参考資料・出典

データの種類について:大学進学者数の将来推計、入学定員充足率、自宅外通学率は公開データです。物件価格・賃料・融資条件・運営費・入替コスト・平均入居年数・学生比率は架空ケースの設定値であり、DSCR・キャッシュフロー・IRR・出口価格・必要利回りプレミアムは、その設定値から計算した条件付きシミュレーションの結果です。RE-AIの診断実績データは今回使用していません。

情報確認日:2026年11月1日

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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