
土砂災害警戒区域にある収益物件は、価格は割安に見えても「本当に買えるのか」が分かりにくいのが実情です。レッドゾーン(特別警戒区域)を架空の木造アパートで試算すると、悪化するのはDSCRではなく自己資金負担であり、同じ価格でも自己資金比率が35.5%から52.9%まで増える可能性があることが分かりました。
土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)に基づき、都道府県は土砂災害のおそれがある区域を指定します。指定には2段階あります。
収益物件の購入検討では、この2段階を区別しないまま「ハザードマップで色がついているから危ない」と直感的に判断してしまいがちです。しかし投資判断に直結するのは、警戒区域かどうかではなく、特別警戒区域(レッドゾーン)に指定されているかどうかと、敷地のうちどれだけの面積が区域に含まれているかです。
宅地建物取引業法第35条に基づき、対象物件が土砂災害警戒区域内にある場合、宅地建物取引士は重要事項説明でその旨を説明しなければなりません。特別警戒区域(レッドゾーン)の場合はさらに義務が重くなり、開発行為を行う際の許可(特定開発行為の許可)の有無や内容についても説明が求められ、許可を得ていない区域内の土地について広告や契約を行うことも制限されます。重要事項説明書全体の確認ポイントは「重要事項説明書で見落とすと危ない7項目、価格6,200万円の一棟アパートで検証しました」で整理しています。
特別警戒区域内に居室を有する建築物を新築・増築する場合、建築基準法施行令第80条の3に基づき、国土交通省告示で定める構造方法(土石等の衝突に対して耐えられる壁の構造など)を用いることが義務付けられます。既存の建物をそのまま賃貸に使う場合はこの規制の対象外ですが、将来増築や大規模な改修を行う際には適用対象になり得る点に注意が必要です。
特別警戒区域内の土地は、相続税・贈与税の評価において「特別警戒区域補正率」という形で評価額が圧縮されます。国税庁の通達(平成30年12月18日付)によると、敷地面積のうち特別警戒区域に含まれる割合に応じて、以下の補正率が路線価方式による評価額に乗じられます。
区域に含まれる面積の割合 | 補正率 |
|---|---|
10%以上40%未満 | 0.90 |
40%以上70%未満 | 0.80 |
70%以上 | 0.70 |
これはあくまで相続税・贈与税における土地評価のための補正率であり、売買価格や金融機関の担保評価にそのまま適用されるものではありません。ただし、公的機関が区域の重複割合に応じて評価を段階的に下げるという考え方を示している点は、投資家が担保評価の圧縮幅を見積もる際の参考になります。次章では、この補正率の考え方を参考にした架空の試算で、購入時に必要な自己資金がどこまで変わるかを確認します。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件や取引を示すものではありません。地方都市の傾斜地に立地する、築24年の木造アパート(8戸)を想定します。
項目 | 条件 |
|---|---|
物件種別 | 木造一棟アパート(8戸、築24年) |
物件価格 | 2,480万円 |
年間賃料収入(GPI) | 367万円(表面利回り14.8%) |
想定経費率 | 45%(NOI 201.9万円) |
土地の担保評価(補正前) | 1,800万円 |
建物の担保評価 | 200万円(築年数により低い評価) |
融資条件 | 金利3.5%、融資期間12年(木造の法定耐用年数22年に対し築24年のため短期化) |
金融機関が土地の担保評価に、国税庁の補正率と同じ考え方(区域重複割合に応じた圧縮)を仮に適用し、担保評価の80%を融資上限とした場合を試算すると、次のようになります。
区域重複割合 | 土地評価 | 最大融資額 | 自己資金 | 自己資金比率 | DSCR |
|---|---|---|---|---|---|
ゾーン外(基準) | 1,800万円 | 1,600万円 | 880万円 | 35.5% | 1.23倍 |
25%(補正率0.90) | 1,620万円 | 1,456万円 | 1,024万円 | 41.3% | 1.36倍 |
55%(補正率0.80) | 1,440万円 | 1,312万円 | 1,168万円 | 47.1% | 1.51倍 |
80%(補正率0.70) | 1,260万円 | 1,168万円 | 1,312万円 | 52.9% | 1.69倍 |
この試算から分かるのは、区域の重複割合が増えるほどDSCRは「悪化」するのではなく、むしろ上昇するという点です。融資額が減る分だけ年間返済額も減り、NOIに対する返済の余裕は増えるためです。本質的なリスクは、同じ物件を買うために必要な自己資金が、区域外の想定に比べて最大で1.5倍近くまで増える点にあります。手元資金が限られる投資家にとっては、DSCRの数値以上に、この自己資金負担の増加が購入可否を左右します。自己資金比率の基礎は「不動産投資の自己資金はいくら必要?頭金10%・20%・30%でDSCRと月々の返済を比較」で解説しています。
逆に、区域外の物件と同じ自己資金比率(35.5%)を保ちたい場合、価格はどこまで下がれば釣り合うかを逆算すると、重複割合25%で約9.0%引き(2,257万円)、55%で約18.0%引き(2,034万円)、80%で約27.0%引き(1,811万円)が目安になります。指値や価格交渉の起点として、こうした具体的な下落率を持っておくことが重要です。上限価格の考え方全般は「売出8,000万円の物件、自分はいくらまで払えるのか」でも整理しています。
実際の借入額やNOIを使って自分の条件で確認したい場合は、RE-AIのDSCRを無料で計算するツールで、融資額や金利を変えながら試算できます。
価格・融資・リスクを個別に見るだけでなく、物件全体としてどこまで成立するかを総合的に判断したい場合は、RE-AIの無料診断で物件条件を入力して確認する方法もあります。
情報確認日:2026年10月12日
本記事の試算は、記載した条件を前提とした簡略化した架空例であり、特定の物件や取引を示すものではありません。区域指定・規制の適用状況・担保評価・融資条件は個別の物件や金融機関により異なり、宅地建物取引士・建築士・金融機関への確認が必要です。税務については税理士等の専門家にご確認ください。本記事は特定物件の購入を推奨するものではありません。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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