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7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

管理・空室対策

退去が3月か8月かで、年間キャッシュフローは22万円違う|総務省の月次移動者数から募集期間を推計し、閑散期に偏った物件の必要値引き額を逆算

退去が3月か8月かで、年間キャッシュフローは22万円違う|総務省の月次移動者数から募集期間を推計し、閑散期に偏った物件の必要値引き額を逆算

収益物件の収支計算では、ほぼ必ず「空室率5%」「空室率10%」という一つの数字を使います。しかし空室損の正体は「率」ではなく、退去が起きてから次の入居者が決まるまでの月数 × 退去の回数です。そして日本の賃貸市場では、この「決まるまでの月数」が退去した月によって大きく変わります。

そこで今回は、総務省の月次移動者数から住み替え需要の季節性を測り、退去が何月に発生したかで空室期間・実効稼働率・年間キャッシュフロー・DSCRがどこまで変わるかを計算しました。さらに、退去月が閑散期に偏っている物件を買うときの必要値引き額と、退去を繁忙期へ移すために払える費用の上限を逆算しています。

この記事で検証する疑問

  • 住み替え需要の季節差は、公的統計で見るとどれくらいあるのか
  • 3月に退去された部屋と、8月に退去された部屋では、空室期間が何ヶ月違うのか
  • その差は年間キャッシュフローとDSCRをいくら動かすのか
  • 「空室率5%」という前提は、実際には何月の退去を想定した数字なのか
  • 退去月が閑散期に偏った物件は、いくら安く買う必要があるのか
  • 退去を繁忙期に寄せるために、1戸1回あたりいくらまで使えるのか

使用データの区分

数字の性質を混ぜないために、本記事では次のように区別します。

区分

内容

公開データ

総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」2025年(令和7年)各月結果の市区町村間移動者数(移動者)。住み替え需要の季節性の代理指標として使用。

シミュレーション

上記の季節性指数から、募集開始月別の期待空室期間を計算したもの。

架空ケース

収支計算に使う物件条件。実在物件の統計ではありません。

RE-AIの診断実データは今回使用していません。「RE-AIで◯件を分析した結果」という数字は本記事には含まれていません。

1.住み替え需要の季節性を公的データで測る

住民基本台帳人口移動報告は、転入届にもとづく移動者数の月次統計です。市区町村をまたぐ移動が対象なので、同一市内での引越しは含まれませんが、月ごとの住み替え需要の山谷を見るには十分な粒度があります。2025年の実績は次のとおりです。

月

市区町村間移動者数

年間に占める割合

季節性指数(月平均=1.00)

1月

327,312人

6.31%

0.757

2月

357,056人

6.88%

0.825

3月

905,179人

17.44%

2.093

4月

683,859人

13.18%

1.581

5月

382,823人

7.38%

0.885

6月

371,648人

7.16%

0.859

7月

398,417人

7.68%

0.921

8月

348,602人

6.72%

0.806

9月

367,877人

7.09%

0.850

10月

379,751人

7.32%

0.878

11月

309,853人

5.97%

0.716

12月

358,171人

6.90%

0.828

年計

5,190,548人

100%

-

3月だけで年間の17.44%、3月と4月の2ヶ月で30.62%が動いています。一方で11月は5.97%、1月は6.31%しかありません。需要が最も厚い3月は、最も薄い11月の2.92倍です。

「繁忙期は1〜3月」という言い方をよく見かけますが、移動届のベースで見ると1月と2月は月平均を下回っており、山は3月と4月に極端に集中しています。9〜10月にも小さな山があるという説明もありますが、2025年の実績では9月0.850・10月0.878で、いずれも月平均以下でした。

情報確認日:2026年9月27日(2025年12月分は2026年2月3日公表)。

2.募集開始月から空室期間を計算する方法

次に、この季節性指数を使って「何月に退去されたら、何ヶ月家賃が入らないか」を計算します。考え方は単純です。

  • 退去した月から募集が始まり、その月は家賃が入らない
  • 各月に部屋が埋まる確率を p(その月)= k × 季節性指数(その月) とする
  • 埋まらなければ翌月へ持ち越し、翌月の指数で再判定する
  • 期待空室期間 = 家賃が入らない月数の期待値

係数kは、12ヶ月すべての退去月を平均したときの空室期間が3.0ヶ月になるように調整しました。実務では「退去から3ヶ月以内に申込が入れば標準的」という目安が使われるため、その水準に合わせています。この平均値の置き方は結論の絶対額を動かしますが、月と月の差(本記事の主題)はほとんど動きません。後半の第6節で平均2.0ヶ月・4.0ヶ月に置き換えた場合も示します。

固定した条件と変更した条件を明確にしておきます。

区分

項目

固定

季節性指数(2025年実績)、平均空室期間3.0ヶ月、月あたり充填確率の上限95%

変更

退去が発生する月(1月〜12月)

計算結果:退去月別の期待空室期間

退去月

期待空室期間

3月退去との差

3月

1.79ヶ月

-

2月

2.30ヶ月

+0.51ヶ月

4月

2.61ヶ月

+0.82ヶ月

1月

2.72ヶ月

+0.93ヶ月

12月

2.97ヶ月

+1.18ヶ月

11月

3.26ヶ月

+1.47ヶ月

10月

3.30ヶ月

+1.51ヶ月

9月

3.37ヶ月

+1.58ヶ月

7月

3.40ヶ月

+1.61ヶ月

5月

3.41ヶ月

+1.62ヶ月

6月

3.42ヶ月

+1.63ヶ月

8月

3.46ヶ月

+1.67ヶ月

最短の3月退去(1.79ヶ月)と最長の8月退去(3.46ヶ月)の差は1.67ヶ月、比率で1.93倍です。同じ物件・同じ賃料・同じ管理会社でも、退去が起きた月だけで空室期間がほぼ2倍になる計算になります。

注意すべきは4月退去が2.61ヶ月と意外に長い点です。4月は移動者数の山ですが、退去した時点で山の終わりに差しかかっているため、その年の繁忙期をほぼ使い切ってしまいます。繁忙期の「入口」で空くのか「出口」で空くのかで結果が変わります。

3.架空ケースの設定

ここから収支に落とします。今回の分析対象は「退去のタイミングが収支を動かすか」なので、季節性の影響を最も強く受ける単身向け1Kの一棟木造アパートを想定します。学生・新社会人の入替が3〜4月に集中する間取りであり、かつ戸数が複数あるため退去月の偏りが年間収支に効いてきます。

金額は次の順序で整合を確認して決めました。「賃料 → 満室年収 → 表面利回り → 価格 → 借入 → 返済 → DSCR」の流れです。

項目

設定

設定理由

構造・間取り

木造 1K × 8戸、築6年、地方中核市

季節性の影響が最も出る単身向け。築6年は木造の残存耐用年数に余裕があり、融資期間の制約を分析から切り離せる

月額賃料

5.8万円/戸

地方中核市の築浅1Kの実勢帯

満室想定年収

556.8万円

5.8万円 × 8戸 × 12ヶ月

表面利回り

8.0%

上記エリア・築年の売出水準

物件価格

6,960万円

556.8万円 ÷ 8.0%。価格から逆算したのではなく、賃料と利回りから導出

借入額 / LTV

5,916万円 / 85%

築浅木造・地銀想定

金利 / 期間

2.0% / 25年(元利均等)

年間返済額 300.9万円

運営費

満室家賃の18%=100.2万円

管理委託料、固定資産税・都市計画税、火災保険、共用部電気・清掃、日常修繕。空室損と入替コストは別建て

1回あたり入替コスト

19.6万円

原状回復のオーナー負担8.0万円+AD1ヶ月5.8万円+広告・仲介相当1ヶ月5.8万円

平均入居年数

3.5年(年間退去2.29戸)

単身1Kの想定。第5節で2.5年・5.0年も検証

入替コスト19.6万円は1Kを前提にした金額です。ファミリー向けや広い間取りでは原状回復費が増えるため、別記事で検証した1回30.7万円という水準とは一致しません(「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せる)。

4.退去月別の実効稼働率・NOI・DSCR・年間CF

固定条件:物件価格、賃料、運営費、入替コスト、融資条件、平均入居年数3.5年。変更条件:退去が発生する月。

退去月

空室期間

年間空室損

実効稼働率

NOI

DSCR

年間税引前CF

3月

1.79ヶ月

23.7万円

95.74%

388.1万円

1.290倍

87.2万円

2月

2.30ヶ月

30.4万円

94.53%

381.3万円

1.267倍

80.4万円

4月

2.61ヶ月

34.6万円

93.78%

377.1万円

1.253倍

76.2万円

1月

2.72ヶ月

36.0万円

93.53%

375.8万円

1.249倍

74.9万円

12月

2.97ヶ月

39.3万円

92.94%

372.5万円

1.238倍

71.6万円

11月

3.26ヶ月

43.2万円

92.24%

368.6万円

1.225倍

67.7万円

10月

3.30ヶ月

43.8万円

92.14%

368.0万円

1.223倍

67.1万円

9月

3.37ヶ月

44.6万円

91.99%

367.2万円

1.220倍

66.3万円

7月

3.40ヶ月

45.0万円

91.91%

366.7万円

1.219倍

65.8万円

5月

3.41ヶ月

45.2万円

91.87%

366.5万円

1.218倍

65.6万円

6月

3.42ヶ月

45.4万円

91.85%

366.4万円

1.218倍

65.5万円

8月

3.46ヶ月

45.9万円

91.76%

365.9万円

1.216倍

65.0万円

計算式は次のとおりです。

  • 年間空室損 = 年間退去戸数(8戸 ÷ 3.5年 = 2.29戸)× 期待空室期間 × 月額賃料5.8万円
  • NOI = 満室年収556.8万円 − 年間空室損 − 運営費100.2万円 − 入替コスト(2.29戸 × 19.6万円 = 44.8万円)
  • DSCR = NOI ÷ 年間返済額300.9万円
  • 年間税引前CF = NOI − 年間返済額

結果から分かること

年間キャッシュフローの差は22.2万円(87.2万円 → 65.0万円、▲25.5%)。満室想定年収556.8万円に対して4.0%に相当します。DSCRは1.290倍から1.216倍まで0.074ポイント低下し、実効稼働率は95.74%から91.76%まで3.98ポイント落ちます。

もう一つ重要なのはフラットな区間の広さです。5月から10月の6ヶ月間は空室期間3.30〜3.42ヶ月でほぼ横並びでした。つまり「夏に退去されたら秋まで我慢する」という話ではなく、繁忙期を外した時点で結果はほぼ確定し、5月退去と9月退去の差は0.04ヶ月しかありません。有利なのは実質的に2月・3月の2ヶ月だけです。

「空室率5%」という前提はどの月に相当するか

このケースで空室率5.0%を成立させるには、1回あたりの空室期間が2.10ヶ月である必要があります。上の表と照らすと、これは2月退去(2.30ヶ月)と3月退去(1.79ヶ月)の間の水準です。

つまり収支計算で何も考えずに空室率5%を入れると、すべての退去が繁忙期に起きるという、かなり有利な前提を暗黙に置いていることになります。退去月が読めない段階では、このケースでの中間的な水準は空室率7%前後です。平均値としての空室率が持つ他の落とし穴については「空室率5%」は平均値でしかない|4戸・8戸・12戸・20戸・30戸でDSCR1.2割れ確率を20万回試算で検証しています。

5.複合条件:退去月 × 平均入居年数

退去月の影響は、退去の「回数」と掛け算になります。平均入居年数を2.5年・3.5年・5.0年に変えた場合の年間税引前CFとDSCRです。

退去月

入居2.5年
年CF

入居3.5年
年CF

入居5.0年
年CF

入居2.5年
DSCR

入居3.5年
DSCR

入居5.0年
DSCR

3月

59.8万円

87.2万円

107.7万円

1.199

1.290

1.358

2月

50.3万円

80.4万円

103.0万円

1.167

1.267

1.342

4月

44.5万円

76.2万円

100.1万円

1.148

1.253

1.333

1月

42.5万円

74.9万円

99.1万円

1.141

1.249

1.329

12月

37.9万円

71.6万円

96.8万円

1.126

1.238

1.322

11月

32.5万円

67.7万円

94.1万円

1.108

1.225

1.313

9月

30.5万円

66.3万円

93.1万円

1.101

1.220

1.309

8月

28.7万円

65.0万円

92.2万円

1.095

1.216

1.306

平均入居年数2.5年・8月退去という組み合わせでは、年間CFが28.7万円、DSCRは1.095倍まで落ちます。同じ物件が3月退去・入居5.0年なら年CF107.7万円・DSCR1.358倍です。物件も融資条件も同一なのに、年間CFが3.75倍違うことになります。

逆算:DSCR1.20を維持するには平均入居年数が何年必要か

退去月

DSCR1.20維持に必要な平均入居年数

3月

2.51年以上

4月

2.91年以上

11月

3.22年以上

8月

3.32年以上

3月退去なら平均2.51年の回転でDSCR1.20を確保できますが、8月退去だと3.32年必要です。要求される入居期間が0.81年(約10ヶ月)長くなるという意味で、これは入居者属性の選び方にも関わってきます。

6.基準化の置き方を変えても差は残るか

第2節で「平均空室期間3.0ヶ月」に基準化しましたが、この前提を2.0ヶ月・4.0ヶ月に変えても結論の向きが変わらないかを確認します。

平均空室期間の基準

3月退去 年CF

8月退去 年CF

差

3月 DSCR

8月 DSCR

2.0ヶ月

96.7万円

80.1万円

16.5万円

1.321

1.266

3.0ヶ月(本文の基準)

87.2万円

65.0万円

22.2万円

1.290

1.216

4.0ヶ月

73.9万円

51.4万円

22.5万円

1.245

1.171

CFの水準そのものは基準の置き方で動きますが、3月退去と8月退去の差は16.5万円〜22.5万円の範囲に収まり、符号も大小関係も変わりません。募集力が強い物件(平均2.0ヶ月)でも年16.5万円の差が残ります。

7.複合ストレス:退去月 × 金利

現実には退去月の偏りと金利上昇が同時に起こり得ます。他の条件を変えず金利だけを動かした場合のDSCRと年間CFです(平均入居3.5年)。

退去月

金利1.5%

金利2.0%

金利2.5%

金利3.0%

金利3.5%

3月 DSCR

1.367

1.290

1.218

1.153

1.092

4月 DSCR

1.328

1.253

1.184

1.120

1.061

11月 DSCR

1.298

1.225

1.157

1.095

1.037

8月 DSCR

1.289

1.216

1.149

1.087

1.030

3月 年CF

104.1万円

87.2万円

69.6万円

51.4万円

32.7万円

8月 年CF

82.0万円

65.0万円

47.4万円

29.2万円

10.5万円

転換点を読み取ると、3月退去の物件が金利2.5%でDSCR1.218倍を維持するのに対し、8月退去の物件は金利2.0%の時点で1.216倍です。つまり退去月が閑散期に偏っていることは、この条件ではおおよそ金利0.5ポイント分の耐性低下に相当します。金利3.5%まで進むと8月退去はDSCR1.030倍、年CF10.5万円で、事実上の余裕がなくなります。

これは本ケースの条件に限った結果で、借入額・融資期間・戸数が変われば換算幅も変わります。

8.逆算1:退去月が閑散期に偏った物件は、いくら安く買うべきか

ここが購入判断に直結する部分です。3月退去の物件と同じ年間CFを確保するために、閑散期に退去が偏った物件をいくらで買えばよいかを逆算しました。借入はLTV85%、金利2.0%・25年を維持し、価格の変化に応じて借入額も連動させています。

退去月

必要購入価格

3月退去物件との差

その価格での表面利回り

必要利回りプレミアム

3月(基準)

6,960万円

-

8.00%

-

11月

6,510万円

▲450万円(▲6.47%)

8.55%

+0.55pt

5月

6,462万円

▲498万円(▲7.16%)

8.62%

+0.62pt

8月

6,447万円

▲513万円(▲7.37%)

8.64%

+0.64pt

閑散期に退去が偏る物件は、価格で6.5〜7.4%、表面利回りで0.55〜0.64ポイントの差がないと、繁忙期に退去が集まる物件と同じ手残りになりません。8,000万円クラスなら500万円台、1億円クラスなら700万円台の差です。

この情報はレントロールの入居日から読めます。全戸の契約開始月が5〜11月に固まっている物件は、更新を重ねるほど退去も閑散期に集まりやすくなります。逆に2〜4月に揃っている物件は、それ自体が価値です。レントロールの読み方はレントロールの見方|賃料のばらつきや入居日の偏りが意味するリスクを読み解くで整理しています。

ただし注意が必要です。入居日が繁忙期に揃っている物件は、複数戸が同時に空くリスクも抱えます。1戸ずつの空室期間は短くても、同じ月に3戸空けば一時的な資金繰りは厳しくなります。同時空室と必要手元資金の関係は購入後の手元資金は家賃の何ヶ月分必要かで検証しています。

9.逆算2:退去を繁忙期へ移すために、いくらまで払えるか

退去月はまったく操作できないものではありません。契約開始月の設計、更新時期の調整、定期借家契約の期間設定、退去予告の運用などで、ある程度は繁忙期に寄せられます。では、そのために1戸1回あたりいくらまで使えるのでしょうか。上限は空室損の削減額です。

元の退去月

3月退去へ移せた場合の空室損削減額

賃料換算

8月

9.70万円

1.67ヶ月分

5月

9.42万円

1.62ヶ月分

11月

8.52万円

1.47ヶ月分

12月

6.83万円

1.18ヶ月分

1月

5.38万円

0.93ヶ月分

転換点は賃料1.67ヶ月分(9.70万円)です。この条件では次のように整理できます。

  • 採算内:フリーレント1ヶ月(5.8万円)、更新料の免除、賃料1ヶ月分程度の入居インセンティブ。8月退去を3月退去に移せるなら、9.70万円の枠に対して十分に収まります。
  • 境界線:フリーレント2ヶ月(11.6万円)。8月→3月でも9.70万円の枠を超えます。募集期間の短縮と引き換えに払う費用としては過剰です。
  • 効果が薄い:1月退去や12月退去を3月に寄せる施策。削減額は5.38〜6.83万円しかなく、手間に見合わないことが多くなります。

フリーレントやADを空室期間の短縮と天秤にかける考え方は家賃3,000円の値下げは、AD2.75ヶ月分に相当するでも扱っています。契約期間を能動的に設計する手段としての定期借家については定期借家契約は収益物件に向くかを参照してください。

10.投資判断への使い方

  1. レントロールの契約開始月を月別に数える。5〜11月に偏っていれば、空室率の前提を7〜8%側に置き直します。2〜4月に揃っていれば5%前後でも過小ではありませんが、同時空室の備えを厚くします。
  2. 空室率を一つの数字で入れず、下限・上限の2本で試算する。このケースなら4.3%と8.2%です。DSCRがどちらでも目標を上回るかを確認します。
  3. 閑散期偏重が確認できたら、価格交渉の根拠に使う。「入居日が夏に固まっているので、実効稼働率で3〜4ポイント不利になる」という主張は、レントロールという一次資料にもとづく指摘です。
  4. 繁忙期に寄せる施策は、賃料1.5ヶ月分を上限に設計する。それを超えると空室損の削減額より費用が大きくなります。
  5. 金利シナリオと重ねる。閑散期偏重は金利0.5ポイント分の耐性低下に相当します。金利上昇を織り込むなら、退去月の偏りも同時に見ます。

今回の試算は空室率4.26%と8.24%、金利2.0%、LTV85%という特定の組み合わせです。物件価格・賃料・戸数・融資条件が変われば、空室率が数ポイント動いたときのDSCRやキャッシュフローの反応も変わります。自分の検討物件の条件で空室率を4%台と8%台の両方で入れ替えて確かめたい場合は、RE-AIの無料キャッシュフローシミュレーターで空室率を変えながら試算できます。空室・滞納率を直接入力してNOI・DSCR・年間CF・損益分岐空室率まで表示されるため、本記事の2本立ての前提をそのまま置き換えて比べられます。

11.この分析で分からないこと

  1. 移動者数は募集の成約件数そのものではありません。住民基本台帳人口移動報告は転入届にもとづく統計で、同一市区町村内の引越しは含まれず、持家の取得や施設への入所も混在します。賃貸の成約季節性の代理指標として使っていますが、一致はしません。
  2. 相関と因果を分けて読む必要があります。3月に移動が多いことと、3月退去の空室期間が短いことは整合しますが、実際の充填速度は賃料設定、物件の競争力、周辺の新規供給、管理会社の客付け力、間取りと入居者属性の合致度にも左右されます。本記事のモデルはこれらをすべて季節性指数に押し込んでいます。
  3. 季節性の強さは間取りと地域で違います。学生・新社会人比率が高い単身向けほど3〜4月への集中が強く、ファミリー向けや高齢者向けでは平準化します。全国平均の指数をそのまま使っているため、地域差・間取り差は反映していません。
  4. 平均空室期間の水準は前提です。3.0ヶ月という基準化は実務の目安に合わせたもので、特定の物件の実績ではありません。第6節で感応度を示しましたが、絶対額はこの前提に依存します。
  5. 退去月を完全にコントロールできる前提は置いていません。第9節の逆算は「移せた場合の上限額」を示すもので、実際にどれだけ移せるかは入居者の事情次第です。
  6. 税引前の計算です。減価償却、所得税・法人税、フリーレントやADの損金処理タイミングは含んでいません。
  7. 2025年単年の季節性を使っています。外国人移動者の増加など構成変化が進んでいるため、年による指数の変動は残ります。

まとめ

  • 2025年の市区町村間移動者数は3月に年間の17.44%が集中し、最も薄い11月の2.92倍だった(公開データ)
  • この季節性から募集期間を推計すると、3月退去1.79ヶ月に対して8月退去3.46ヶ月と1.93倍の差が出た(シミュレーション)
  • 木造1K8戸の架空ケースでは、退去月の違いだけで年間税引前CFが22.2万円(▲25.5%)、DSCRが0.074ポイント動いた
  • 有利なのは2月・3月の2ヶ月だけで、5〜10月の6ヶ月間は空室期間がほぼ横並びだった
  • 「空室率5%」は1回2.10ヶ月に相当し、実質的に繁忙期退去を前提にした数字だった
  • 閑散期に退去が偏る物件は、価格で6.5〜7.4%、表面利回りで0.55〜0.64ポイントの差がないと同じ手残りにならない
  • 退去を繁忙期に移すために払える上限は賃料1.67ヶ月分。フリーレント1ヶ月は採算内、2ヶ月は超過する
  • 閑散期偏重は、この条件では金利0.5ポイント分の耐性低下に相当した

結論を一つに絞るなら誤解を生みます。この分析から言えるのは「閑散期に退去が偏る物件は買ってはいけない」ではなく、収益性は価格で調整可能な範囲の差であり、調整せずに買うと実効稼働率とDSCRの両方で想定を下回るということです。判断軸は、①レントロールの入居日分布、②その分布を価格に織り込めたか、③同時空室に耐える手元資金があるか、の3つに分かれます。

空室対策の全体像は収益物件の管理会社選びと空室対策|キャッシュフローを守るための完全ガイド、収支計算の指標そのものの使い方は収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方にまとめています。エリア単位の空室率の調べ方はエリアの空室率の調べ方を参照してください。

参考資料・出典

本記事の収支計算は、記載した架空ケースの条件にもとづくシミュレーションです。実在物件の実績ではなく、将来の家賃・空室率・金利・売却価格を保証するものではありません。投資判断は、個別物件の建物状態、周辺の新規供給、実際の融資条件、税務条件をご自身で確認のうえ行ってください。本記事は投資助言ではありません。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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