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単身向けアパートが有利なのは保有12年目まで|世帯類型の将来推計と入替コストを同時に織り込み、間取り構成別に20年IRRを比較

単身向けアパートが有利なのは保有12年目まで|世帯類型の将来推計と入替コストを同時に織り込み、間取り構成別に20年IRRを比較

「人口は減るが世帯数は増える。特に単身世帯が増えるから、ワンルームや1Kは将来も安全だ」――不動産投資の文脈でよく聞く説明です。実際、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の最新推計でも、単独世帯は2020年の2,115万世帯から2050年には2,330万世帯へ、+10.2%増えます。

ただ、この数字をそのまま「1Kが安全」という結論につなげるのは早すぎます。増える単独世帯の中身を年齢で割ると、65歳未満の単独世帯は同じ期間に▲9.5%減るからです。増加分はすべて65歳以上です。

そこでこの記事では、間取り構成だけが違う木造一棟アパート3タイプ(1K×12戸/1LDK×8戸/2LDK×6戸)を、延床面積と取得時表面利回りを揃えたうえで、①世帯類型別の将来推計、②間取りごとに違う平均入居年数と入替コスト、③設備更新費を同時に織り込んで、保有5〜24年のIRRを比較しました。

結論を先に書くと、1K型が最も有利なのは保有12年目まででした。13年目以降は1LDK型に逆転されます。そして逆転の主因は「将来の世帯数」ではなく「平均入居年数」でした。

この記事で検証した疑問

  • 単身世帯が増えるという推計は、本当に「単身向け間取りが有利」を意味するのか
  • 間取り構成の違いは、10年IRR・20年IRRに何pt効くのか
  • 将来の世帯数トレンドと、平均入居年数の差では、どちらが収益に効くのか
  • 1K型が2LDK型と並ぶには、平均入居年数が何年必要か。取得時表面利回りは何pt高ければよいのか

エリアの人口・賃貸需要・空室率・再開発をどう組み合わせて購入判断に落とすかは収益物件のエリア分析完全ガイドで体系的に整理しています。本記事はそのうち「世帯の中身」と「間取り構成」の関係だけを掘ったものです。また、賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかという一段前の論点は、賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかで、30年IRRは最大3.07pt変わるで検証しています。本記事はその続きとして、世帯を「類型別」まで分解します。

公開データ①:増える単独世帯の中身は「65歳以上」だった

社人研「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」から、家族類型別の一般世帯数を抜き出し、単独世帯を世帯主年齢で2つに割りました。

年

単独世帯 計

うち65歳以上

うち65歳未満

夫婦のみ

ファミリー※

2020年(国勢調査)

2,115.1万

737.8万

1,377.3万

1,121.1万

1,904.0万

2030年

2,403.6万

887.0万

1,516.6万

1,124.1万

1,877.9万

2040年

2,441.8万

1,041.3万

1,400.5万

1,067.9万

1,751.7万

2050年

2,330.1万

1,083.9万

1,246.2万

995.3万

1,615.6万

2020→2050

+10.2%

+46.9%

▲9.5%

▲11.2%

▲15.1%

※ファミリー=「夫婦と子から成る世帯」+「ひとり親と子から成る世帯」。単位は万世帯。「うち65歳未満」は、単独世帯計から世帯主65歳以上の単独世帯を差し引いた筆者の計算値です。

読み取れることは3点あります。

  • 単独世帯の増加は高齢単身の増加。65歳以上単独は+46.9%、75歳以上単独は417.2万→704.0万世帯(+68.8%)です。一方65歳未満単独は2030年の1,516.6万世帯がピークで、以降は減ります。
  • 単独世帯全体のピークは2036年(2,453.1万世帯)。一般世帯総数のピークはさらに早く2030年(5,773.2万世帯)です。平均世帯人員は2.21人→1.92人へ下がり、2033年に2人を割ります。
  • ファミリー世帯は全都道府県で減る。都道府県別推計では「夫婦と子から成る世帯」が2020→2050年に47都道府県すべてで減少し、青森県▲38.6%、秋田県▲37.6%が最大、東京都▲4.7%が最小です。

ここで投資判断に直結するのは、増える高齢単身世帯が賃貸需要にそのまま乗らないという点です。総務省「令和5年住宅・土地統計調査」(調査期日2023年10月1日)によると、高齢単身世帯761.7万世帯のうち借家に住むのは245.1万世帯、借家居住率は32.2%。持ち家が67.5%を占めます。65歳以上単独が300万世帯増えても、借家需要として現れるのはその3分の1程度という計算になります。

高齢単身を実際に受け入れる場合の収支影響は、単身高齢者の入居を受け入れると収支はどこまで悪化するのかで別途試算しています。

公開データ②:供給側はすでに小型化を終えている

需要だけを見ても判断できません。「単身向けが足りない」のであれば利回りに反映されますが、供給も同じ方向に動いていれば優位は消えます。国土交通省「建築着工統計」の貸家データ(不動産流通推進センター『2025不動産業統計集』収録)から、1戸当たり床面積を計算しました。

年度

貸家 着工戸数

床面積合計

1戸当たり床面積

2010年度

291,840戸

1,471.6万㎡

50.4㎡

2014年度

358,340戸

1,766.5万㎡

49.3㎡

2016年度

427,275戸

2,006.0万㎡

46.9㎡

2018年度

390,093戸

1,799.9万㎡

46.1㎡

2020年度

303,018戸

1,384.4万㎡

45.7㎡

2022年度

347,427戸

1,636.7万㎡

47.1㎡

2024年度

357,074戸

1,693.6万㎡

47.4㎡

1戸当たり床面積は2010年度の50.4㎡から2020年度の45.7㎡まで縮み、その後は47㎡台で横ばいです。新規供給の小型化は2010年代に進行し、すでに一巡していると読めます。つまり「単身世帯が増えるから単身向けを作る」という動きは、投資家が気づく前に供給側が終えています。賃貸用の空き家は443.6万戸(空き家総数の49.3%)で、総住宅数の6.8%に達しています。

都道府県別の需給バランスは賃貸の需給が緩んでいるのは16県だけだったで47都道府県分を計算しています。

分析の前提:間取り構成だけが違う3タイプ

ここからは条件付きシミュレーションです。実際の物件統計ではありません。

この記事の目的は「間取り構成の違いが長期の投資成績にどう効くか」を切り出すことなので、物件価格は主役にしません。固定するのは延床面積(=建築規模)と取得時表面利回りで、物件価格は満室賃料から逆算される結果にしています。延床300〜330㎡は地方中核市の木造一棟アパートとして現実的な規模で、賃料水準は「令和5年住宅・土地統計調査」の民営借家(木造)の全国平均家賃54,409円/月が1K帯に収まるよう設定しました。㎡単価は面積が大きくなるほど下がるという、賃貸市場で広く観察される関係を反映させています。

A:1K×12戸

B:1LDK×8戸

C:2LDK×6戸

専有面積/戸

25㎡

40㎡

55㎡

延床面積

300㎡

320㎡

330㎡

賃料/戸・月

55,000円

70,000円

82,500円

㎡単価

2,200円

1,750円

1,500円

満室想定年間賃料

792.0万円

672.0万円

594.0万円

取得時表面利回り(固定)

8.0%

8.0%

8.0%

物件価格(逆算)

9,900万円

8,400万円

7,425万円

平均入居年数

3.0年

4.5年

6.0年

退去後の募集期間

1.5ヶ月

2.0ヶ月

2.5ヶ月

稼働率(逆算)

96.00%

96.43%

96.64%

対応する需要セグメント

65歳未満単独世帯

夫婦のみ世帯

夫婦と子+ひとり親と子

空室率を一律「5%」と置かない点が重要です。ここでは稼働率=平均入居年数÷(平均入居年数+募集期間) で逆算しています。回転が速い間取りは空室率が高くなるという関係を仮定ではなく計算で出すためです。空室率を5%固定にしたときに何が起きるかは「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せるで検証しています。

入替コストと設備更新費

入替コストは原状回復のオーナー負担(専有面積×3,000円)とAD(賃料1ヶ月分)の合計とし、空室期間の賃料損失は稼働率側で処理して二重計上を避けています。

A:1K×12戸

B:1LDK×8戸

C:2LDK×6戸

原状回復(1回・1戸)

75,000円

120,000円

165,000円

AD(1回・1戸)

55,000円

70,000円

82,500円

入替1回あたり計

130,000円

190,000円

247,500円

年間入替コスト(棟全体)

52.0万円

33.8万円

24.8万円

満室賃料に対する比率

6.57%

5.03%

4.17%

設備更新費(年・棟全体)

45.2万円

43.0万円

42.0万円

満室賃料に対する比率

5.71%

6.41%

7.07%

設備更新費は給湯器15万円/20年、エアコン(1K=1台8万円、1LDK=2台16万円、2LDK=3台24万円)/13年、キッチン・浴室・洗面等(1K=60万円、1LDK=85万円、2LDK=110万円)/25年を年割りした金額です。興味深いのは、設備更新費は金額ではほぼ同じ(42.0〜45.2万円)なのに、賃料比では1K型が最も軽く、2LDK型が最も重いという点です。戸数が多いことによる設備点数の増加と、1戸あたり設備の高額化が、おおむね打ち消し合っています。設備の更新タイミングそのものはアパートの給湯器・エアコンはいつ壊れるかで年次展開しています。

固定した条件と変更した条件

固定:延床面積(300〜330㎡)/取得時表面利回り8.0%/構造(木造・築8年)/LTV 80%/金利2.3%/融資期間22年(元利均等)/運営費率15%(管理料・固都税・保険・共用光熱・小修繕。入替コストと設備更新費は別途計上)/購入諸費用8%/売却費用4%/建物経年による賃料下落 年▲0.5%(3タイプ共通)/需要弾性0.5/出口利回りは取得時+0.05pt×保有年数

変更:間取り構成(専有面積・戸数・賃料・㎡単価)/平均入居年数・募集期間(=稼働率と入替コスト)/設備構成/対応する需要セグメント/保有年数(5〜24年)

感度分析の対象:需要弾性(0.0〜1.2)/平均入居年数(2.0〜5.0年)/運営費率/出口利回り

「需要弾性0.5」は、対応する世帯セグメントの数が1%減ったときに賃料が0.5%下がる、という仮定です。これは推計値ではなく仮定なので、後段で0.0〜1.2まで振って結論が変わる範囲を確認します。賃料下落カーブそのものの置き方は家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかで扱っています。

保有年数別の需要インデックス

2026年を起点に、各間取りが対応する世帯セグメント数の累積変化率を出しました(推計値は10年刻みなので年次へ線形補間)。

保有年数

A:1R・1K(65歳未満単独)

B:1LDK・2DK(夫婦のみ)

C:2LDK〜3LDK(ファミリー)

5年(2031年)

+3.02%

▲0.39%

▲1.22%

10年(2036年)

▲0.95%

▲2.90%

▲4.56%

15年(2041年)

▲5.19%

▲5.54%

▲7.96%

20年(2046年)

▲10.47%

▲8.78%

▲11.56%

10年保有なら単身向けの需要はほぼ横ばい(▲0.95%)で、ファミリー向け(▲4.56%)より3.6pt優位です。ところが20年保有では単身向けが▲10.47%まで落ち、夫婦のみ世帯向け(▲8.78%)に抜かれます。需要インデックスで見た逆転は保有15〜16年目に起きます。

理由は単純で、65歳未満単独世帯が2030年にピークを打って以降、ファミリー世帯より速いペースで減るためです。「単身向けは人口減に強い」という説明は、保有期間を10年程度と暗黙に想定したときだけ成り立ちます。

結果:IRRの順位は保有12〜13年目で入れ替わる

上記の条件で税引前IRRを計算しました。

保有10年(出口利回り8.50%)

A:1K×12戸

B:1LDK×8戸

C:2LDK×6戸

物件価格

9,900万円

8,400万円

7,425万円

投下自己資金(頭金+諸費用)

2,772万円

2,352万円

2,079万円

実質利回り(初年度NOI÷価格)

5.50%

5.57%

5.60%

初年度NOI

544.2万円

468.1万円

415.9万円

初年度CF(税引前)

85.1万円

78.6万円

71.6万円

初年度DSCR

1.185

1.202

1.208

売却価格

8,820万円

7,410万円

6,495万円

10年IRR

5.26%

5.14%

4.99%

保有20年(出口利回り9.00%)

A:1K×12戸

B:1LDK×8戸

C:2LDK×6戸

売却価格

7,544万円

6,458万円

5,625万円

20年IRR

5.77%

5.95%

5.86%

保有10年では1K型が最も高く(5.26%)、2LDK型を0.27pt上回ります。ところが保有20年では1K型が3タイプの最下位に落ち、1LDK型が最も高くなります。保有年数を1年刻みで見ると、逆転点がはっきりします。

保有年数

出口利回り

A:1K

B:1LDK

C:2LDK

最良

5年

8.25%

2.32%

1.34%

1.14%

A

8年

8.40%

4.63%

4.33%

4.16%

A

10年

8.50%

5.26%

5.14%

4.99%

A

12年

8.60%

5.59%

5.58%

5.44%

A(差0.00pt)

13年

8.65%

5.68%

5.72%

5.58%

B

15年

8.75%

5.79%

5.88%

5.76%

B

18年

8.90%

5.80%

5.96%

5.86%

B

20年

9.00%

5.77%

5.95%

5.86%

B

24年

9.20%

5.65%

5.86%

5.78%

B

この条件では、1K型の優位は保有12年目で消えます。短期保有では1K型の「㎡単価の高さ=同じ建築規模でより多くの賃料を取れる」効果が効き、長期保有では入替コストの重さと需要の反転が効いてくるためです。もう一点、1K型のIRRは保有16〜18年あたりで5.80%前後に頭打ちになり、以降は下がります。これは出口利回りの上昇と賃料下落が、残債減少の効果を上回り始める水準です。

要因分解:効いているのは「将来の世帯数」ではなく「平均入居年数」

ここが今回最も意外な結果でした。世帯類型の将来推計を織り込む/織り込まないでIRRを比べると、影響は次の通りです。

保有20年

①需要トレンドを無視

②需要トレンドを織込み

差(需要要因)

A:1K×12戸

6.11%

5.77%

▲0.34pt

B:1LDK×8戸

6.36%

5.95%

▲0.41pt

C:2LDK×6戸

6.44%

5.86%

▲0.59pt

30年分の世帯推計を丸ごと織り込んでも、20年IRRへの影響は▲0.34〜▲0.59pt。間取り間の差はわずか0.25ptです。では何が効いているのか。1K型を基準(20年IRR 5.77%)に、前提を1つずつ動かしました。

動かした前提

20年IRR

基準からの差

平均入居年数 3.0年→2.0年

4.73%

▲1.04pt

運営費率 15%→18%

5.16%

▲0.61pt

出口利回り 9.0%→10.0%

5.19%

▲0.57pt

平均入居年数 3.0年→4.0年

6.30%

+0.54pt

需要トレンドを無視

6.11%

+0.34pt

需要弾性 0.5→0.8

5.55%

▲0.22pt

平均入居年数が1年短くなるインパクト(▲1.04pt)は、30年分の世帯推計を織り込むインパクト(▲0.34pt)の約3倍です。間取り構成を検討するときに見るべき数字は、将来の世帯数推計より先に「その間取りで実際に何年住んでもらえるか」だということになります。

これは直感に反するかもしれませんが、構造を考えれば理解できます。世帯推計の変化は年率に直せば▲0.5%前後と緩やかで、しかも賃料には弾性0.5を通して半分しか伝わりません。一方で平均入居年数は、入替コストと稼働率の両方に同時に効き、初年度から毎年効きます。

1K型の平均入居年数を振ると次の通りです。

1K型の平均入居年数

10年IRR

20年IRR

2.0年

3.95%

4.73%

2.5年

4.73%

5.35%

3.0年(基準)

5.26%

5.77%

3.5年

5.63%

6.07%

4.0年

5.92%

6.30%

5.0年

6.32%

6.63%

逆算:1K型が2LDK型に並ぶ条件

結果から条件を逆算します。2LDK型を表面利回り8.0%で買った場合のIRRを目標にすると、1K型に必要な条件は次の通りです。

逆算した条件

保有10年

保有20年

目標IRR(2LDK型・表面8.0%)

4.99%

5.86%

1K型に必要な取得時表面利回り

7.89%

8.05%

 必要プレミアム

▲0.11pt

+0.05pt

1LDK型に必要な取得時表面利回り

7.93%

7.95%

 必要プレミアム

▲0.07pt

▲0.05pt

1K型に必要な平均入居年数(表面8.0%のまま)

2.72年

3.13年

2つの逆算が示すことは対照的です。

取得時表面利回りで見ると、間取り構成の差はほぼ無視できます。20年保有でも1K型に必要なプレミアムは+0.05pt。満室想定賃料792.0万円で表面利回りを8.00%から8.05%へ上げるのに必要な値引きは約61万円、物件価格の0.62%にすぎません。「単身向けだから利回りを1pt高く買うべき」といった調整は、少なくともこの条件設定では過剰です。

一方、平均入居年数では境界がはっきり出ます。20年保有なら1K型に必要な平均入居年数は3.13年。基準に置いた3.0年をわずかに上回る水準で、平均入居年数3.1年が1K型と2LDK型の分岐点になります。地方で学生需要や単身転勤需要が薄く平均入居年数が2年台になるエリアでは、同じ表面利回りで買った1K型は2LDK型に構造的に負けます。逆に平均3.5年を安定して確保できる運営体制があれば、1K型は20年保有でも6.07%を出し、1LDK型(5.95%)を上回ります。

前提を変えると結論も変わる:需要弾性の感度

需要弾性は仮定なので、どこまで振ると最良タイプが変わるかを確認しました(保有20年)。

需要弾性

A:1K

B:1LDK

C:2LDK

最良

0.0(世帯数は賃料に影響しない)

6.11%

6.36%

6.44%

C

0.2

5.98%

6.20%

6.21%

C

0.4

5.84%

6.03%

5.98%

B

0.5(基準)

5.77%

5.95%

5.86%

B

0.8

5.55%

5.69%

5.48%

B

1.2

5.24%

5.33%

4.95%

B

弾性0.2以下では2LDK型が、0.4以上では1LDK型が最良になります。どの弾性でも1K型が最良にならないのが20年保有の特徴です。ただし弾性0.0〜0.2のケース、つまり世帯数の減少が賃料にほとんど伝わらない(=供給も同じだけ減る)前提では、入替コストの軽い2LDK型が勝ちます。供給側の調整がどこまで進むかで結論が変わるため、前述の貸家着工統計のような供給データを併せて見る必要があります。

もう1つ、売却時点から先の需要見通しを出口利回りに反映させた場合(需要▲1%につき出口利回り+0.05pt)も計算しました。

保有20年

売却後10年の需要見通し

出口利回り

20年IRR

基準からの差

A:1K

▲11.80%

9.59%

5.42%

▲0.35pt

B:1LDK

▲7.09%

9.35%

5.74%

▲0.21pt

C:2LDK

▲8.15%

9.41%

5.62%

▲0.24pt

買い手が将来の需要見通しを出口利回りに織り込むと、1K型の不利はさらに0.14pt広がります。順位は変わりません。

投資判断への使い方

この分析から取り出せる判断軸は4つです。

  • 保有期間を先に決めてから間取りを選ぶ。10年以内で売る前提なら1K型の収入効率が効き、13年以上持つ前提なら1LDK型が有利になります。「とりあえず利回りが高い物件」ではなく、出口の時期と間取りをセットで考える順番になります。
  • 「単身世帯が増える」を根拠に使わない。増えるのは65歳以上単独(+46.9%)で、その借家居住率は32.2%です。65歳未満単独は2030年がピークで、2050年には2020年比▲9.5%。高齢単身を受け入れる運営をするのかどうかで、同じ推計が逆の意味を持ちます。
  • 平均入居年数を物件ごとに確認する。IRRへの効き方は世帯推計の約3倍です。レントロールの入居日から平均入居年数を逆算できます。1K型なら3.1年が分岐点、2年台なら同じ利回りでは割に合いません。読み方はレントロールの見方にまとめています。
  • 利回りプレミアムで調整しようとしない。間取り構成の差は表面利回り0.05〜0.11pt相当です。「単身向けだから+1pt」のような調整は根拠がありません。差が出るのは利回りではなく運営(入居年数)の側です。

なお今回は取得時表面利回りを8.0%で揃えましたが、実際には同じエリアでも間取り・戸数によって売出利回りは異なります。戸数と賃料水準そのものが実質利回りをどう削るかは同じ表面利回り8%でも実質利回りは1.68pt割れるで16通り試算しています。

今回の試算は延床300〜330㎡・表面利回り8.0%・LTV80%・金利2.3%・融資期間22年という特定の条件に固定したものです。物件価格、賃料、空室率、運営費、融資条件、保有年数が変われば順位も分岐点も動きます。自分の検討物件の数字で確かめたい場合は、キャッシュフローシミュレーターで満室想定賃料・空室率・家賃下落率・保有年数を入力して試算すると、同じ指標(NOI・DSCR・CCR・損益分岐空室率・35年推移)を自分の条件で確認できます。間取り構成の比較をしたい場合は、入替コストを運営費に、回転率の差を空室率に反映させて2〜3パターン回すのが近い使い方です。

指標の定義や計算式そのものを確認したい場合は収益物件の収支計算完全ガイド、エリア側の判断手順は収益物件のエリア分析完全ガイドに戻ると、今回の分析をどこに位置づければよいかが整理しやすくなります。

この分析で分からないこと

条件付きシミュレーションなので、次の点は今回の計算では判断できません。

  • 個別エリアの需給。使ったのは全国推計です。都道府県別では単独世帯が2050年までに増えるのは32都道府県で、沖縄県+31.0%から高知県▲15.3%まで46pt開きます。市区町村単位ではさらに散ります。
  • 需要弾性の実測値。世帯数が1%減ったときに賃料が何%下がるかは、エリア・間取り・供給状況で変わります。今回は0.0〜1.2で感度を見ただけで、推定はしていません。
  • 相関と因果。世帯数が減ったエリアで賃料が下がったとしても、原因は世帯数だけではありません。新規供給、建物の陳腐化、雇用、鉄道ダイヤ、競合物件のリノベーションなどが同時に動きます。世帯推計はあくまで需要側の1要因です。
  • 平均入居年数の実勢値。3.0年/4.5年/6.0年は間取り別の一般的な傾向に基づく設定で、物件・管理会社・入居者層で大きく変わります。今回の結論が平均入居年数に強く依存することは、むしろこの数字を実物で確認すべき理由になります。
  • 建築費・取得価格の実際。延床を揃えても、1K12戸は水回り12セット、2LDK6戸は6セットで、新築時の建築費は同じになりません。中古取得を前提にしたため、この差は価格に織り込まれているものとして扱っています。
  • 税金。今回は税引前IRRです。減価償却、所得税率、売却時の譲渡税を入れると順位が変わる可能性があります。
  • 融資の実際。金融機関によって、戸数の多い物件や専有面積の小さい物件の担保評価・融資期間は異なります。今回は3タイプ同条件としました。

まとめ

  • 社人研の最新推計で単独世帯は2020→2050年に+10.2%。ただし65歳未満単独は▲9.5%で、増加分はすべて65歳以上(+46.9%)。高齢単身の借家居住率は32.2%にとどまる。
  • 供給側の貸家1戸当たり床面積は2010年度50.4㎡→2020年度45.7㎡→2024年度47.4㎡。小型化は2010年代に一巡しており、需要シフトは供給にすでに反映されている。
  • 延床と表面利回り8.0%を揃えた3タイプで比較すると、1K型が最良なのは保有12年目まで。13年目以降は1LDK型が上回り、20年ではA 5.77%<C 5.86%<B 5.95%となる。
  • IRRへの影響は、30年分の世帯推計を織り込んで▲0.34〜▲0.59ptに対し、平均入居年数3.0→2.0年で▲1.04pt。約3倍の差。
  • 逆算すると、1K型が2LDK型に並ぶのに必要な取得時表面利回りプレミアムは20年保有でわずか+0.05pt、必要平均入居年数は3.13年。調整すべきは利回りではなく運営側。
  • 需要弾性0.2以下なら2LDK型、0.4以上なら1LDK型が最良で、20年保有ではどの弾性でも1K型は最良にならない。

この条件では収益性そのものは3タイプとも大きく変わりません(20年IRRのレンジは0.18pt)。差が出るのは保有期間に対する感応度と、平均入居年数への依存度です。「どの間取りが有利か」は単独では決まらず、保有期間と運営体制とセットでしか決まらない、というのが今回の結果です。

今回のように、世帯推計・入替コスト・設備更新費・融資条件・出口利回りを同時に動かすと、確認すべき項目は急に増えます。RE-AIでは、収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を同じ物件条件からまとめて確認できるよう設計しています。ただし将来の需要や賃料を当てるものではなく、前提を変えたときに何がどれだけ動くかを見るための道具です。

参考資料・出典

情報確認日:2026年10月18日

  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」(2024年4月12日公表)https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/hprj2024_gaiyo_20240412.pdf ― 家族類型別一般世帯数、世帯主65歳以上・75歳以上単独世帯数、単独世帯数のピーク年(2036年)、平均世帯人員
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)令和6(2024)年推計」https://www.ipss.go.jp/pp-pjsetai/j/hpjp2024/gaiyo/gaiyo.pdf ― 都道府県別の単独世帯・夫婦と子から成る世帯の増減率、単独世帯割合
  • 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」(調査期日2023年10月1日、2024年9月25日公表)https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf ― 高齢単身世帯の借家居住率32.2%、民営借家(木造)1か月当たり家賃54,409円、賃貸用の空き家443.6万戸
  • 国土交通省「建築着工統計調査」(公益財団法人不動産流通推進センター『2025不動産業統計集(9月期改訂)[2]不動産開発』収録)https://www.retpc.jp/wp-content/uploads/toukei/202509/202509_2kaihatsu.pdf ― 貸家の新設着工戸数・床面積(1戸当たり床面積は床面積合計÷戸数で算出)

本記事の数値のうち、世帯数・家賃・空き家・着工床面積は上記の公開データです。物件価格・賃料設定・平均入居年数・入替コスト・設備更新費・融資条件・IRRは、記事内に明記した条件で筆者が計算した条件付きシミュレーションであり、実際の物件統計や取引実績ではありません。投資判断を保証するものではありません。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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