
「人口減少エリアだから空室が心配」というオーナーの一方で、「在留外国人が増えているから賃貸需要は底堅い」という声も聞きます。どちらも間違いではありませんが、両方を同じエリアに当てはめてよいとは限りません。外国人人口の増加が賃貸需要にどう効くかは、エリアの産業構造によって大きく変わるからです。
出入国在留管理庁の発表によると、2025年末現在の在留外国人数は4,125,395人で、前年末から356,418人(9.5%)増加し、4年連続で過去最多を更新しました。在留資格別に見ると、永住者が947,125人、技術・人文知識・国際業務が475,790人、留学が464,784人、技能実習が456,618人(ほぼ横ばい)、特定技能が390,296人(前年比37.2%増)となっています。都道府県別では東京都が801,438人で全国の19.4%を占め、大阪府・愛知県・神奈川県が続きます。
全国値としては確かに増加していますが、増加の中身(在留資格の構成比)は都道府県ごとに大きく異なります。この構成比の違いが、次章で説明するエリアごとの「効き方の差」につながります。
在留外国人の増加がどの賃貸住宅に向かうかは、在留資格の目的と結びついています。自分の物件がどのタイプに当てはまるかを確認することが、判断の出発点になります。
留学や技術・人文知識・国際業務の在留資格を持つ人は、大学・日本語学校やオフィス街の周辺に集まりやすく、都心部や主要都市近郊のワンルーム・コンパクトマンションの賃貸需要に結びつきやすい層です。
特定技能は製造業・農業・食品加工・建設などの現場で増えている在留資格で、前年比37.2%という増加率は他の資格より際立っています。受け入れ先の工場や物流拠点、農業地域に近い賃貸住宅は、人口減少が進む地方エリアであっても、この層の需要を取り込める可能性があります。地方エリアの人口減少リスクについては「人口減少エリアは危ない?不動産投資で見るべき判断基準」で詳しく扱っていますが、総人口の減少と現役世代の賃貸需要の減少は、必ずしも同じスピードで進むわけではありません。
近隣に外国人を雇用する事業所も、大学・日本語学校もない、戸建て中心の郊外住宅地では、在留外国人の増加という全国的な追い風がほとんど届きません。人口を世帯数とあわせて確認する考え方は「賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかで、30年IRRは最大3.07pt変わる」でも扱っており、在留外国人の構成も同じように、数字をそのままエリアに当てはめず、内訳まで確認する必要があります。
公的統計だけではエリア単位の賃貸需要までは読み切れないという限界もあります。この点は「収益物件のエリア分析は不動産情報ライブラリで足りるか」で扱った限界と同じ構造の問題です。全国的な供給過剰・過少の傾向については「賃貸の需給が緩んでいるのは16県だけだった」もあわせて確認すると、外国人人口の増加が「需要を押し上げる話」なのか「供給過剰を多少緩和する話」なのか、位置づけが整理しやすくなります。
国土交通省と、あんしん賃貸住宅推進協議会が公表している「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」(2009年3月改訂)は、連帯保証人の確保が難しい点や、ルール説明の行き違いが主なトラブルの原因になりやすい点を整理し、家賃保証会社の活用や、契約書の多言語対応、特約の明文化などを対応策として挙げています。ガイドライン自体は改訂から年数が経っていますが、保証会社を介した審査という基本的な考え方は、現在の賃貸実務でも広く使われています。
見落としやすいリスクとしては、無断転貸や同居人数の超過、帰国にともなう急な退去と未収家賃、ごみ出しや生活音をめぐる近隣トラブルなどが挙げられます。一方で、国籍のみを理由に一律で入居を断る運用は、あんしん賃貸支援事業の考え方にも沿わないとされており、空室対策として本来取り込めたはずの需要を自ら手放すことにもなりかねません。受け入れの可否は、保証会社の利用や管理会社の対応体制を前提に、物件・エリアごとに判断する話であって、国籍だけで一律に決める話ではないというのが、ガイドラインの基本的な立場です。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実際の入居率改善を保証するものではありません。
想定読者は、特定技能の受け入れ事業所が近隣にある地方都市で、木造アパートを保有する個人投資家です。物件は築15年・8戸の木造アパートで、価格3,400万円、家賃は1戸あたり月3.8万円(年間満室想定家賃364.8万円)とします。受け入れ体制を整える前の想定空室率を15%、保証会社の活用や多言語対応を整備した後の想定空室率を9%とした場合の試算は次のとおりです。
項目 | 体制整備前(空室率15%) | 体制整備後(空室率9%) |
|---|---|---|
実効収入(EGI) | 310.1万円 | 332.0万円 |
運営費(EGI比30%と仮定) | 93.0万円 | 99.6万円 |
NOI | 217.1万円 | 232.4万円 |
この架空例では、NOIの差は年間15.3万円です。還元利回り9%で単純に逆算すると、収益還元価格では約170万円(物件価格の約5%)に相当する差になります。ただし、この空室率の改善幅(15%→9%)はあくまで理解のための仮定であり、保証会社の手数料や多言語対応にかかる手間・費用を差し引いて初めて、実際に見合うかどうかが判断できます。自分の物件の家賃・戸数・運営費で試算したい場合は、キャッシュフローを無料で試算するツールで、空室率の前提を変えながら確認できます。
在留外国人の増加は、賃貸需要にとって無視できない追い風になり得ますが、収益物件の購入判断は需要の話だけで完結しません。受け入れ体制の整備は短期的なキャッシュフローを圧迫する一方、長期的な空室リスクの低減は保有期間中のCFだけでなく、売却時の価格形成にも影響します。RE-AIでは、収益性・価格・融資・リスク・出口戦略を切り離さず、時間軸をまたいで同時に確認する考え方を重視しています。エリアの需要動向を確認したうえで物件全体の購入判断まで整理したい場合は、RE-AIの無料診断で、収支・価格・融資・出口まで含めた総合的な判断材料を確認する方法もあります。
在留外国人数は400万人を超え、増加率は在留資格によって大きく異なります。特定技能のように地方の製造業・農業エリアで伸びている資格もあれば、留学のように都市近郊に集まりやすい資格もあります。全国の数字をそのまま自分の物件に当てはめるのではなく、近隣に受け入れ事業所や教育機関があるかを確認し、保証会社の活用や管理体制とあわせて、空室対策としての効果を見極めることが欠かせません。
(情報確認日:2026年10月16日)
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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