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金利1%上昇は、家賃が何%上がれば相殺できるのか|必要上昇率6.91%に対し、CPI民営家賃は年0.70%だった

金利1%上昇は、家賃が何%上がれば相殺できるのか|必要上昇率6.91%に対し、CPI民営家賃は年0.70%だった

金利上昇の話になると、必ず出てくる反論があります。「金利が上がる局面ではインフレも進んでいるのだから、家賃も上がって相殺されるはずだ」というものです。

理屈としては筋が通っています。ただ、この反論は「必要な家賃上昇率」と「実際に起きている家賃上昇率」を突き合わせていない点で検証が抜けています。金利が1%上がったとき、キャッシュフローを元に戻すには家賃が何%上がればいいのか。そして日本の家賃は実際に年何%上がっているのか。この2つを並べれば、相殺できるのかどうかは計算で判定できます。

今回はこの2つを実際に計算し、さらに「市場の家賃が上がっても、自分が保有している物件の家賃はすぐには上がらない」という日本特有の構造まで織り込んで、金利上昇の何%が家賃で埋まるのかを10年分のキャッシュフローで測りました。

情報確認日:2026年9月5日

この記事で検証すること

  • 金利が1.0pt上がったとき、キャッシュフローを維持するのに必要な家賃上昇率は何%か
  • その必要上昇率は、物件価格・借入条件・利回りによってどう変わるか
  • 実際の日本の家賃(CPI民営家賃)は年何%上がっているのか
  • 市場家賃が上がってから、保有物件の家賃に反映されるまで何年かかるのか
  • 10年間の累計キャッシュフローで見て、金利上昇の打撃の何%が家賃上昇で埋まるのか
  • 家賃上昇を前提にすると、耐えられる金利上昇幅は何ptまでか(逆算)

使用データの区分は次のとおりです。家賃の実績推移・居住期間・政策金利は公開データ、キャッシュフローの試算は条件を固定したシミュレーション、物件条件は架空ケースです。RE-AIの診断実績データは今回使用していません。

前提1|必要家賃上昇率は、実は物件価格に依存しない

先に結論から書くと、「金利上昇を相殺するのに必要な家賃上昇率」は物件価格が決まらなくても計算できます。式を展開すると価格が消えるためです。

年間返済額は「借入額 × ローン定数」で表せます。ローン定数(K)は、元本1に対して年間いくら返すかを示す比率で、金利と融資期間だけで決まります。

物件価格をP、LTVをL、表面利回りをyとすると、

  • 借入額 = L × P
  • 満室想定年間家賃 = y × P
  • 金利上昇による年間返済額の増加 = L × P × (Kの増加分)

家賃をg%上げたときにNOIが増える額は「満室想定家賃 × g × 転嫁率」です。転嫁率とは、家賃上昇分のうち手元のNOIに残る割合で、空室損失と管理委託料で目減りします。この2つを等しく置くと、

必要家賃上昇率 =(LTV ÷ 表面利回り)×(ローン定数の増加分)÷ 転嫁率

となり、物件価格Pが約分されて消えます。つまり5,000万円の区分でも3億円のRC一棟でも、LTVと表面利回りと融資期間が同じなら、必要な家賃上昇率は同じです。この記事で物件価格を主役に置かないのはこのためです。

前提2|固定した条件

以下を固定条件とします。

項目

設定

考え方

空室・滞納損失率

8%

入替期間と滞納を含む実効ベース

管理委託料

実効収入の5%

家賃に連動する変動費

固定運営費

満室想定家賃の12%

固定資産税・保険・共用光熱・小修繕。家賃に連動しない

NOI率

満室想定家賃の75.4%

上記から算出

家賃のNOI転嫁率

87.4%

家賃1%上昇でNOIは満室家賃比0.874%増

返済方式

元利均等・月次

起点金利

2.0%

変更する条件は金利・LTV・表面利回り・融資期間・家賃上昇率です。

なお固定運営費を「家賃に連動しない」と置いている点は重要です。家賃が上がっても固定資産税や保険料は自動的には増えないため、家賃上昇はNOIに対してレバレッジが効きます(家賃+1%でNOIは+1.16%)。この設定は家賃上昇側に有利な仮定であり、後半では固定費もインフレするケースを別途検証します。

検証1|金利1.0pt上昇を相殺するのに必要な家賃上昇率

まず、融資期間25年・LTV80%で、金利が2.0%から3.0%へ1.0pt上がった場合です。表面利回りごとに、年間キャッシュフローを元の水準に戻すために必要な家賃上昇率を計算しました。

表面利回り

必要家賃上昇率

5%

11.06%

6%

9.22%

7%

7.90%

8%

6.91%

9%

6.15%

10%

5.53%

表面利回り8%・LTV80%・25年という標準的な条件で、必要家賃上昇率は6.91%でした。計算の中身は、ローン定数が25年で5.086%から5.691%へ0.604pt上がり、これを(0.8 ÷ 0.08)=10倍して転嫁率0.874で割ったものです。

利回りが低いほど必要上昇率が跳ね上がるのは、同じ返済増加額を小さな家賃収入で吸収しなければならないためです。表面利回り5%の物件では、金利1pt上昇を家賃で相殺するのに11%の値上げが必要になります。

LTV別・表面利回り別のマトリクス

LTVを変えると必要上昇率は比例して動きます。金利2.0%→3.0%、融資期間25年での組み合わせです。

表面利回り\LTV

60%

70%

80%

90%

100%

6%

6.91%

8.07%

9.22%

10.37%

11.52%

7%

5.93%

6.91%

7.90%

8.89%

9.88%

8%

5.19%

6.05%

6.91%

7.78%

8.64%

9%

4.61%

5.38%

6.15%

6.91%

7.68%

表の対角線上に6.91%が並んでいるのが分かります。必要家賃上昇率を決めているのは「LTV ÷ 表面利回り」という1つの比率だからです。フルローン(LTV100%)で表面利回り6%の物件は、自己資金40%で表面利回り9%の物件と比べて、金利上昇を家賃で埋めるハードルが1.5倍高いことになります。

融資期間と金利上昇幅による違い

融資期間

ローン定数の増加

必要家賃上昇率

15年

0.565pt

6.46%

20年

0.585pt

6.69%

25年

0.604pt

6.91%

30年

0.624pt

7.14%

35年

0.643pt

7.36%

※LTV80%・表面利回り8%・金利2.0%→3.0%

融資期間が長いほど必要上昇率がわずかに高くなります。長期融資では返済額に占める利息の比率が高いため、金利上昇の影響を受けやすいためです。ただし差は15年と35年で0.9pt程度で、支配的な要因ではありません。

金利上昇幅による違いのほうがはるかに大きくなります。

金利上昇幅

必要家賃上昇率

+0.5pt(2.0→2.5%)

3.40%

+1.0pt(2.0→3.0%)

6.91%

+1.5pt(2.0→3.5%)

10.54%

+2.0pt(2.0→4.0%)

14.28%

※LTV80%・表面利回り8%・25年

検証2|日本の家賃は実際に何%上がっているのか

ここまでで「金利1pt上昇には家賃6.91%の上昇が必要」という基準が出ました。次に、実際の家賃上昇率と突き合わせます。

総務省統計局の消費者物価指数(CPI)のうち「民営家賃」の推移を確認すると、次のようになっています(2020年=100、各年1月時点)。

時点

指数

前年同月比

1995年1月

104.0

+2.06%

2000年1月

106.8

+0.09%

2010年1月

103.4

▲0.67%

2020年1月

100.0

0.00%

2023年1月

99.9

0.00%

2024年1月

100.1

+0.20%

2025年1月

100.4

+0.30%

2026年2月

101.1

+0.70%

※総務省統計局「消費者物価指数」(2020年基準)より

読み取れることは2つあります。

1つ目は、2000年前後から2020年代前半まで、日本の民営家賃は上がるどころか緩やかに下がり続けていたということです。1997年1月の106.1がピークで、そこから約29年間、指数は一度も回復していません。

2つ目は、直近では確かに上昇に転じていることです。2023年に約25年ぶりにプラス転化し、直近2026年2月時点で前年同月比+0.70%です。建設資材価格と人件費の高騰が新築コストを押し上げ、持家の代替需要として賃貸への需要が高まっていることが背景として指摘されています。

ただし、上昇に転じたとはいえ+0.70%/年です。金利1pt上昇の相殺に必要な6.91%を、この速度で積み上げると10年かかります。

一方で金利側の動きははるかに速く進んでいます。日本銀行の政策金利は2025年12月に0.75%、2026年6月に1.00%へ引き上げられ、約30年ぶりの水準になっています。変動金利で借りている場合、政策金利の変更は数か月から半年程度で貸出金利に反映されます。

金利は半年で動き、家賃は10年かけて追いつく。この時間差が、この記事の中心にある問題です。

検証3|市場家賃が上がっても、自分の家賃はすぐには上がらない

さらに厄介なのは、CPI民営家賃の+0.70%がそのまま自分の物件に反映されるわけではない、という点です。

財務省の分析によれば、日本の家賃には強い硬直性があり、その要因として次の点が挙げられています。

  • 契約更新時の継続家賃は据え置かれる割合が高く、入居者の入替時に比べて上昇割合が低い
  • 賃貸住宅の平均居住期間は全体で4年1ヶ月(単身3年3ヶ月、ファミリー5年1ヶ月)、最長で14年6ヶ月に及ぶ
  • 住宅総数が総世帯数を上回る供給超過構造が続いてきた

つまり家賃を上げられる機会は、原則として入居者が入れ替わるときだけということです。平均居住期間4年1ヶ月は、年間の入替率に直すと約24.5%にあたります。

この構造をモデル化してみます。市場の募集家賃が毎年+0.7%で上昇し、保有物件では毎年24.5%の住戸だけが市場家賃にリセットされ、残り75.5%は据え置かれる、と置きます(更新時の値上げはゼロと仮定した保守的なモデルです)。

経過年数

市場家賃

保有物件の家賃

乖離

5年後

+3.55%

+1.89%

1.66pt

10年後

+7.22%

+5.10%

2.12pt

15年後

+11.03%

+8.73%

2.30pt

20年後

+14.97%

+12.57%

2.40pt

30年後

+23.28%

+20.69%

2.59pt

乖離は2年前後で頭打ちになり、その後は約2〜2.6ptの水準で固定されます。永久にズレが拡大するわけではなく、「一定の遅れを抱えたまま並走する」のが実態です。

この遅れを織り込むと、必要上昇率6.91%に到達するまでの年数は次のようになります。

  • 市場の募集家賃ベース:10年
  • 保有物件の実際の家賃ベース:13年(このとき市場家賃は+9.49%)

居住期間が長いほど遅れは大きくなります。ファミリータイプ(平均5年1ヶ月、入替率19.7%)では10年後の反映が+4.57%にとどまり、単身タイプ(平均3年3ヶ月、入替率30.8%)では+5.61%でした。家賃上昇局面では、回転の速い単身向けのほうが追随が速いという結果です。

検証4|10年間の累計キャッシュフローで相殺率を測る

ここまでは「相殺に必要な水準」の話でした。次は、金利と家賃が同時に動いた場合に、実際のキャッシュフローがどうなるかを10年分積み上げます。

ここでは金額を示すため、満室想定年間家賃1,000万円あたりという単位で計算します。表面利回り8%なので物件価格は1億2,500万円、LTV80%で借入1億円、25年・元利均等です。読者の物件家賃が500万円なら数値を半分に、2,000万円なら2倍にして読めます。

初年度の状態は、NOI 754.0万円、年間返済額 508.6万円、年間キャッシュフロー 245.4万円、DSCR 1.482です。

金利は3年かけて2.0%から3.0%へ上昇し、その後横ばいとします。変動金利の返済額は毎年、その時点の残債と残存期間で再計算する簡易モデルです(実際には5年ルール・125%ルールで見直しが遅れる場合があります)。

4つのシナリオ

シナリオ

金利

市場家賃

S1

2.0%据置

据置

S2

3年で+1.0pt

据置

S3

3年で+1.0pt

年+0.7%(CPI実績並み)

S4

3年で+1.0pt

年+2.0%(強いインフレ)

S3・S4では、検証3の入替率24.5%モデルで保有家賃に反映させます。

年次キャッシュフロー(S3:金利+1.0pt、家賃 年+0.7%)

金利

満室家賃

NOI

年間返済

CF

DSCR

1

2.00%

1,000.0

754.0

508.6

245.4

1.482

2

2.33%

1,001.7

755.5

527.6

227.9

1.432

3

2.67%

1,004.7

758.1

546.2

211.9

1.388

4

3.00%

1,008.8

761.7

564.5

197.2

1.349

5

3.00%

1,013.5

765.8

564.5

201.3

1.357

7

3.00%

1,024.8

775.6

564.5

211.1

1.374

10

3.00%

1,044.1

792.6

564.5

228.0

1.404

※単位:万円(満室想定年間家賃1,000万円あたり)

注目したいのは、10年目でもキャッシュフローが初年度の245.4万円に戻っていない(228.0万円)ことです。谷は4年目の197.2万円で、そこから徐々に回復するものの、10年間で元の水準には届きません。

10年累計キャッシュフローの比較

シナリオ

10年累計CF

S2との差

打撃の回復率

S1(金利据置・家賃据置)

2,453.7万円

+447.9

S2(金利+1.0pt・家賃据置)

2,005.8万円

0%

S3(金利+1.0pt・家賃+0.7%)

2,167.4万円

+161.6

36.1%

S4(金利+1.0pt・家賃+2.0%)

2,481.5万円

+475.7

106.2%

金利1.0pt上昇による10年間の打撃は447.9万円(満室家賃1,000万円あたり)でした。これに対して、

  • CPI実績並みの家賃上昇(年+0.7%)が埋めるのは161.6万円=打撃の36.1%
  • 年+2.0%の強いインフレ家賃なら475.7万円=106.2%で、わずかに逆転

運営費もインフレする場合

ただしS3・S4は、家賃だけが上がって固定運営費(固定資産税・保険料・修繕費)は据え置かれるという、家賃上昇側に有利な仮定を置いています。インフレ局面では管理費も修繕費も保険料も上がるのが自然なので、固定運営費にも上昇率を与えて再計算しました。

家賃上昇率

固定運営費の上昇率

10年累計CF

打撃の回復率

+0.7%/年

据置

2,167.4万円

36.1%

+0.7%/年

+0.7%/年

2,128.9万円

27.5%

+0.7%/年

+2.0%/年

2,053.4万円

10.6%

+2.0%/年

+2.0%/年

2,367.5万円

80.7%

3行目が現在の日本に最も近い組み合わせです。家賃はCPI並みの年+0.7%でしか上がらない一方、建設資材費・人件費・保険料は年2%前後で上昇しているという非対称な状況です。この場合、金利1pt上昇の打撃447.9万円のうち埋まるのは47.6万円=10.6%にとどまりました。

また、家賃と運営費が揃って年2%上がるS4の修正版でも、回復率は106.2%から80.7%へ落ちます。「インフレなら家賃も上がるから大丈夫」という話は、コスト側のインフレを無視したときにだけ成立する、という結果です。

検証5|DSCRと出口価格では、ハードルがさらに上がる

ここまでは「年間キャッシュフローの金額を維持する」条件でした。DSCR(返済余力)の水準を維持しようとすると、必要な家賃上昇率はさらに高くなります。

DSCRはNOI ÷ 年間返済額なので、水準を保つにはNOIが返済額と同じ比率で増えなければなりません。金額ではなく比率で追いつく必要があるため、要求水準が上がります。

金利

返済額の増加率

CF維持に必要

DSCR維持に必要

2.0→2.5%

5.84%

3.40%

5.04%

2.0→3.0%

11.88%

6.91%

10.25%

2.0→3.5%

18.11%

10.54%

15.63%

※LTV80%・表面利回り8%・25年

金利1pt上昇でDSCRの水準まで維持しようとすると、必要家賃上昇率は6.91%から10.25%へ上がります。CPI実績並みの年+0.7%では、保有家賃ベースで20年近くかかる水準です。

出口についても同様です。金利上昇が出口利回り(Exit Cap Rate)の上昇に波及した場合、売却価格を維持するのに必要な家賃上昇率は次のとおりです。

出口利回り

+0.5pt

+1.0pt

+1.5pt

6.0%から

7.19%

14.38%

21.57%

7.0%から

6.16%

12.32%

18.49%

8.0%から

5.39%

10.78%

16.18%

出口利回りが7.0%から8.0%へ1pt上がった場合、売却価格を維持するには家賃12.32%の上昇が必要になります。キャッシュフロー維持(6.91%)の1.8倍です。

整理すると、必要な家賃上昇率のハードルはキャッシュフロー維持<DSCR維持<出口価格維持の順に高くなります。「家賃が上がるから大丈夫」と言えるかどうかは、何を守りたいのかによって答えが変わります。

逆算|家賃上昇を前提にすると、耐えられる金利上昇は何ptか

ここまでとは逆に、「家賃はこの程度しか上がらない」という前提を先に置いて、キャッシュフローを維持できる金利上昇幅の上限を逆算します。

前提は10年間で保有家賃が+5.10%(市場家賃が年+0.7%で上昇し、入替率24.5%で反映されるケース)です。起点金利2.0%、融資期間25年。

表面利回り\LTV

60%

70%

80%

90%

6%

+0.74pt

+0.64pt

+0.56pt

+0.50pt

7%

+0.86pt

+0.74pt

+0.65pt

+0.58pt

8%

+0.98pt

+0.85pt

+0.74pt

+0.66pt

9%

+1.10pt

+0.95pt

+0.83pt

+0.74pt

10%

+1.22pt

+1.05pt

+0.92pt

+0.82pt

この表は「家賃上昇で完全に相殺できる金利上昇幅」を示しています。標準的な表面利回り8%・LTV80%で+0.74pt。表面利回り6%・LTV90%のような低利回り・高レバレッジ物件では+0.50ptしか吸収できません。

日本銀行の政策金利は2025年12月から2026年6月までの半年間で0.75%→1.00%と0.25pt動いています。この表の水準は、「あと数回の利上げで、家賃上昇による相殺余地は使い切る」というオーダー感を示しています。

破綻ラインとの距離

ただし「相殺しきれない」ことと「危険になる」ことは別です。同じ基準ケースで、DSCRが1.2を割る金利水準を計算しました。

家賃の前提

DSCR1.2を割る金利

起点2.0%からの上昇幅

据置

3.92%

+1.92pt

+5.10%(10年・保有ベース)

4.48%

+2.48pt

+7.22%(10年・市場ベース)

4.70%

+2.70pt

+10.00%

5.00%

+3.00pt

DSCR1.482からスタートした場合、家賃据置でも金利3.92%までは1.2を維持できます。家賃が10年で+5.10%上がれば、この耐性は4.48%まで0.56pt分広がります。

つまり家賃上昇の効果は「キャッシュフローを元に戻す」には足りないが、「破綻ラインまでの距離を延ばす」効果は確かにあるということです。緩衝材としては機能します。

結果から分かること

今回の条件設定における転換点を整理します。いずれも設定した条件下での数値であり、一般則ではありません。

  • 6.91%:金利1pt上昇のキャッシュフローを相殺するのに必要な家賃上昇率(LTV80%・表面利回り8%・25年)
  • 13年:CPI民営家賃の直近ペース(年+0.7%)で、保有物件の家賃が6.91%に届くまでの年数
  • 36.1%:金利1pt上昇の10年累計打撃447.9万円のうち、年+0.7%の家賃上昇が埋める割合(運営費据置の場合)
  • 10.6%:同じ条件で運営費が年+2.0%上昇する場合の埋まる割合
  • +0.74pt:家賃上昇を前提にしても、キャッシュフロー維持で吸収できる金利上昇幅の上限
  • 0.56pt:家賃上昇によって延びる、DSCR1.2到達までの金利余裕

そして最も重要な構造的な発見は、「必要な家賃上昇率はLTV ÷ 表面利回りで決まり、物件価格には依存しない」という点です。金利上昇に対する家賃側の耐性は、物件の規模ではなく、レバレッジと利回りの組み合わせで決まります。

相関と因果について

ひとつ注意点を書いておきます。「金利が上がる局面では家賃も上がる」という命題自体は、因果としては証明されていません。金利上昇の背景は物価上昇であり、物価上昇の要因には輸入コスト・エネルギー価格・人件費など複数あります。家賃はそのうち一部にしか連動せず、日本では借地借家法や更新時据置の商慣習という別の要因が上昇を強く抑えています。

実際、2000年から2020年代前半にかけて日本の家賃は下がり続けましたが、その間に金利も下がっていました。両者が同じ方向に動いた期間があるからといって、上昇局面でも同じ関係が続くとは限りません。

投資判断への使い方

この分析は「買うか買わないか」を決めるものではありません。判断材料としては次の3つの使い方があります。

1|収支計画で家賃上昇を織り込むなら、上限を年+0.7%程度に置く

販売資料や自作のシミュレーションで家賃上昇を前提にする場合、CPI民営家賃の実績である年+0.7%が現実的な上限の目安になります。さらに保有物件への反映には入替率分の遅れがあるため、10年で+5%前後を上限と見るのが保守的です。年2%以上の家賃上昇を前提にした収支計画は、日本の直近30年の実績には裏付けがありません。

2|「LTV ÷ 表面利回り」を金利耐性の指標として見る

この比率が小さいほど、金利上昇を家賃で吸収する余地が大きくなります。LTV80%・表面利回り8%なら10、LTV90%・表面利回り6%なら15です。同じ金利上昇でも、後者は1.5倍の家賃上昇を求められます。

3|守りたいものを先に決める

キャッシュフローの金額を守るのか、DSCRの水準を守って追加融資の余地を残すのか、出口価格を守るのか。今回の計算では必要家賃上昇率が6.91%・10.25%・12.32%と倍近く違いました。目的を決めないまま「家賃も上がるから大丈夫」と判断するのは避けたほうが安全です。

なお、今回の試算は金利2.0%・LTV80%・表面利回り8%・25年という特定の条件に固定したものです。実際の借入額・金利・返済期間・NOIによって結果は変わります。自分の物件条件でキャッシュフローの変化を確認したい場合は、RE-AIの無料キャッシュフローシミュレーターで年次収支を試算することができます。DSCRの水準だけを確認したい場合は、DSCRを自分のNOIと返済額で計算するほうが早く確認できます。

この分析で分からないこと

  • 個別物件の家賃改定余地:CPI民営家賃は全国のストック平均です。再開発が進むエリアや供給が絞られた立地では市場家賃がこれを大きく上回る場合があり、逆に人口減少エリアでは下落が続く場合もあります。
  • 更新時の値上げ:今回のモデルは更新時の値上げをゼロと置いた保守的な設定です。財務省の資料でも近年は継続家賃の増額割合が増えていると指摘されており、実際の反映は今回の試算より速い可能性があります。
  • 変動金利の見直しルール:5年ルール・125%ルールがある場合、返済額の増加は今回のモデルより遅れます。ただし遅れた分は未払利息として残債に積み上がるため、出口の手残りには別の形で影響します。
  • 金利上昇と出口利回りの連動度:検証5では出口利回りの上昇幅を外から与えました。実際の連動率は市場環境によって変わります。
  • 建物の競争力低下:築年数が進めば、市場家賃が上がっても自分の物件だけ追随できない可能性があります。今回はこの経年劣化を織り込んでいません。
  • 税引後の影響:すべて税引前の計算です。減価償却の状況や課税所得によって税引後の結果は変わります。

まとめ

「金利が上がってもインフレで家賃も上がるから相殺される」という説明を、必要水準と実績の両側から計算しました。

金利1pt上昇の相殺に必要な家賃上昇率は6.91%(LTV80%・表面利回り8%・25年)。これに対してCPI民営家賃の直近上昇率は年+0.70%で、保有物件への反映まで含めると到達に13年かかります。10年間の累計キャッシュフローで見ると、金利上昇の打撃のうち埋まるのは36.1%、運営費のインフレまで織り込むと10.6%でした。

一方で、家賃上昇が無意味というわけでもありません。DSCR1.2に到達するまでの金利余裕は0.56pt分広がりました。相殺はできないが、緩衝材にはなるというのが今回の結論です。

金利・空室・家賃・修繕・出口を同時に動かして計算すると、確認すべき項目は表計算だけでは急速に増えていきます。RE-AIはこうした複数条件を一度に確認できるよう設計していますが、個別物件の家賃改定余地や建物の競争力までは代替できません。最終的な判断は、現地確認と金融機関・税理士への確認と組み合わせて行ってください。

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参考資料・出典

  • 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」2020年基準(民営家賃の指数推移・前年同月比)
    https://www.stat.go.jp/data/cpi/
  • 財務省「ファイナンス」2024年10月号 コラム経済トレンド124「我が国における家賃の動向」(家賃の硬直性、平均居住期間4年1ヶ月、更新時据置割合、経年劣化調整)
    https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202410/202410m.pdf
  • 公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「第27回 賃貸住宅市場景況感調査」(賃料変動件数割合・居住期間/財務省資料経由)
  • 日本銀行「金融政策決定会合」公表資料(政策金利の推移)
    https://www.boj.or.jp/

情報確認日:2026年9月5日。金利・家賃指数は公表時点の数値であり、その後変動する可能性があります。本記事は投資助言ではなく、条件を固定したシミュレーションによる分析情報です。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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