
「不動産投資ローン 年収」で検索すると、「年収の7〜10倍が借入の目安」という情報が数多く出てくる。しかし、その倍率をクリアすれば安心して返済を続けられるわけではない。実際に金融機関が見ているのは、年収という個人の属性だけでなく、物件そのものの収益力である。本記事では、年収倍率という「借りられる額」の目安と、DSCR(借入金償還余裕率)という「返せる額」の目安を並べて確認する。
不動産投資ローンの借入可能額について、複数の不動産投資メディアでは「年収の7〜10倍程度」がひとつの目安として紹介されている。年収500万円なら3,500万〜5,000万円、年収800万円なら5,600万〜8,000万円といった計算だ。
ただし、この倍率は金融機関が公式に定めた基準ではなく、業界内で広く言及されている経験則にすぎない。実際の融資可能額は、年齢・勤続年数・雇用形態・既存借入の有無といった個人の属性に加え、金融機関の種類(メガバンク、地方銀行、信用金庫、日本政策金融公庫、不動産投資向けノンバンクなど)によっても大きく変わる。金融機関ごとの審査の見方の違いについては「自己資金1,000万円、価格8,000万円の一棟アパート。金融機関3タイプで審査の見られ方はここまで違いました」で具体的に比較している。
つまり「年収の7〜10倍まで借りられそうだ」という数字は、あくまで属性面から見た入口の目安であり、その物件を実際に無理なく返済していけるかどうかは、別の指標で確認する必要がある。
DSCR(Debt Service Coverage Ratio、借入金償還余裕率)は、物件が生み出すNOI(純営業収益)を、年間のローン返済額(元利合計)で割って求める指標である。
DSCR = NOI(年間) ÷ 年間元利返済額
DSCRが1.0倍を下回るということは、家賃収入からNOIを差し引いた残りだけではローン返済をまかなえず、他の収入や貯蓄から補填しなければならない状態を意味する。金融機関の融資審査では、DSCR1.2倍前後を一つの目安とするケースが多いとされる。DSCRの計算方法や1.2倍を下回った場合に何が起きるかは「不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例」で詳しく解説している。
年収倍率が見ているのは「借主にどれだけ返済余力があるか」という属性側の指標であり、DSCRが見ているのは「物件そのものにどれだけ返済余力があるか」という収益側の指標である。同じ年収倍率であっても、物件の利回りや運営費率が違えばDSCRはまったく異なる数字になる。以下、2つの架空例で確認する。
以下は仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例であり、実在の物件や統計値ではない。想定読者は、年収500万円の会社員で、初めて中古区分マンション投資を検討しているケースとする。
項目 | 数値 |
|---|---|
物件価格 | 2,180万円 |
満室想定家賃 | 月9.6万円(年115.2万円) |
表面利回り | 約5.3% |
運営費(管理費・修繕積立金等、家賃の18%) | 年20.7万円 |
NOI | 年94.5万円 |
自己資金 | 180万円 |
借入額 | 2,000万円(年収の4.0倍) |
金利・融資期間 | 2.3%・30年 |
年間元利返済額 | 約92.4万円 |
DSCR | 約1.02倍 |
この例で注目したいのは、借入額が年収の4.0倍にとどまっており、「年収の7〜10倍」という目安からすれば十分に保守的な水準だという点である。それにもかかわらず、DSCRは約1.02倍しかなく、多くの金融機関が目安とする1.2倍を下回っている。区分マンションは表面利回りが低めに出やすく、運営費(管理費・修繕積立金)が家賃に対して一定の比率で継続的にかかるため、NOIが伸びにくい。年収倍率だけを見て「余裕がある借入」と判断すると、物件側の返済余力の薄さを見落とすことになる。区分マンション特有のキャッシュフロー構造は「区分マンション投資のキャッシュフローとDSCR|「空室=収入ゼロ」を試算で確認する」でも詳しく試算している。
こちらも同様に、理解しやすくするための単純化した架空例である。想定読者は、年収850万円で一棟アパート投資を検討している会社員とする。
項目 | 数値 |
|---|---|
物件価格 | 5,300万円 |
満室想定家賃 | 月42.0万円(年504万円) |
表面利回り | 約9.5% |
運営費(家賃の22%) | 年110.9万円 |
NOI | 年393.1万円 |
自己資金 | 800万円 |
借入額 | 4,500万円(年収の5.3倍) |
金利・融資期間 | 2.0%・25年 |
年間元利返済額 | 約228.9万円 |
DSCR | 約1.72倍 |
このケースでは、借入額が年収の5.3倍とケース1より高い倍率になっているにもかかわらず、DSCRは1.72倍と余裕がある。木造アパート一棟は区分マンションより表面利回りが高く出やすく、NOIの絶対額が大きいため、同じような運営費率でも返済余力が厚くなりやすい。年収倍率だけで見れば「ケース1の方が保守的」だが、物件の返済余力で見れば「ケース2の方が安全域にある」という、逆の評価になる。
ケース1とケース2を比較すると、次のことが分かる。
これは、収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を別々に見るのではなく、条件を組み合わせて確認する必要があるという、収益物件の投資判断全般に共通する考え方でもある。DSCRが目安を下回りそうな場合は、自己資金比率を上げて借入額を圧縮する、運営費の内訳を見直す、あるいは物件そのものを再検討するといった対応が考えられる。自己資金の目安については「不動産投資の自己資金はいくら必要?頭金10%・20%・30%でDSCRと月々の返済を比較」で、融資の基礎全般については「不動産投資ローンとは?審査基準・種類・金利をまとめて理解する基礎ガイド」で確認できる。
自分の年収や検討中の物件条件で実際のDSCRを確認したい場合は、RE-AIのDSCR計算ツールでNOI・借入額・金利・融資期間を入力して試算できる。借入額や金利、融資期間を変えたときに返済額や残債がどう動くかまで確認したい場合は、不動産投資ローンシミュレーションで試すこともできる。
金融機関が見ているのは年収だけではない。勤続年数、雇用形態(正社員か個人事業主か)、既存の借入状況、法人か個人かによっても審査の重点は変わる。法人と個人での融資の違いについては「不動産投資ローンは法人と個人でどう違う?審査基準・金利・個人保証を比較する」でまとめている。年収倍率もDSCRも、あくまで判断材料の一部であり、これだけで融資の可否を断定できるものではない点には注意したい。
「年収の7〜10倍まで借りられる」という目安は、属性面から見た入口の確認にはなるが、その借入を無理なく返済できるかどうかは、物件のNOIとDSCRを見なければ判断できない。年収倍率が保守的でもDSCRが低い物件もあれば、年収倍率が高めでもDSCRに余裕がある物件もある。どちらか一方だけで判断せず、年収側の目安と物件側の返済余力を重ねて確認する姿勢が、無理のない借入額を見極める助けになる。収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略までを物件単位で総合的に確認したい場合は、RE-AIの無料診断で全体像を整理することもできる。
情報確認日:2026年8月26日
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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