
変動金利で借りているアパートローンの返済予定表を見て、「金利は上がったはずなのに、毎月の返済額が変わっていない」と感じたことはないでしょうか。
これは記帳ミスでも銀行のサービスでもありません。多くのアパートローンの契約書には、金利が変わっても返済額は約5年間据え置き、見直すときも直前の1.25倍までを上限とするという規定が入っています。住宅ローンで「5年ルール・125%ルール」と呼ばれているものと同じ仕組みです。
住宅ローンの文脈では、これは「家計を守る仕組み」として紹介されます。では、収益物件のオーナーにとってはどうでしょうか。返済額が上がらないなら手元のキャッシュフローは守られます。しかし利息の支払いが免除されるわけではないので、元本の減りが遅れ、出口で返す残債が増えます。守られているのはキャッシュフローであって、資産ではありません。
この記事では、借入6,840万円・当初金利2.0%・30年・元利均等という条件を固定したうえで、「返済額を5年据え置く型」と「金利改定のつど返済額を見直す型」で、10年間のキャッシュフロー・DSCR・残債・売却手残り・IRRがどこまで違うのかを月次で計算しました。あわせて、125%の上限が実際に効き始める金利、未払利息が発生する金利、満期に残債が残る金利という3つの境界値を逆算しています。
まず、これが一般論ではなく契約条件であることを確認します。横浜銀行のアパートローン商品概要説明書(2025年10月1日現在適用中)には、元利均等返済について次の内容が明記されています。
重要なのは最後の1行です。125%の上限は支払いを免除するものではなく、先送りするものです。先送りした分は残債として残り、最終返済日に精算を求められます。
あわせて、次の3点も同じ説明書から読み取れます。この記事の結論は、契約タイプによって当てはまり方が変わります。
つまり同じ「変動金利」でも、返済額が据え置かれる契約と、金利改定のつど返済額が動く契約が併存しています。この記事ではこの2つを据置型・即時改定型と呼んで比較します。
据置ルールの効き方は物件の価格帯ではなく当初金利・融資期間・借入残高の関係で決まります。そのため、物件価格そのものは主役ではありません。ここでは「低金利期に長期・高LTVで借りた新築木造アパート」という、据置ルールの影響がもっとも大きく出る層を想定しました。
すべてシミュレーション(架空ケース)であり、実在物件の統計ではありません。
項目 | 設定 | 考え方 |
|---|---|---|
物件 | 新築木造アパート 1K×8戸(地方中核市郊外) | 劣化対策等級2相当で融資30年が出る想定 |
総事業費 | 7,200万円 | 土地込み。1戸あたり900万円 |
満室想定家賃 | 576万円/年(月6.0万円×8戸) | 表面利回り8.00% |
稼働率 | 95% | EGI 547.2万円 |
運営費 | 満室想定家賃の18%=103.68万円 | 管理料・固都税・保険・共用費など |
NOI(初年度) | 443.52万円 | NOI率77.0%/NOI利回り6.16% |
借入 | 6,840万円(LTV95%) | 自己資金360万円 |
諸費用 | 総事業費の6.0%=432万円 | 投下自己資金は合計792万円 |
当初金利/期間/方式 | 2.0%/30年/元利均等 | 年返済303.38万円、初年度DSCR 1.462 |
家賃下落 | 年0.7% | 建物経年による想定値 |
出口 | 10年目末に売却、Exit Cap 6.66% | 取得時NOI利回り6.16%+0.5pt |
売却費用 | 売却価格の3.5% | 仲介手数料等 |
固定する条件:物件価格、家賃、稼働率、運営費、家賃下落率、借入額、融資期間、出口利回り、売却費用率。
変更する条件:金利の推移パス(3シナリオ)と、返済額の改定ルール(据置型/即時改定型)の2つだけです。
金利シナリオは次の3本です。悲観を煽るためではなく、境界値がどこに現れるかを見るために設定しています。
なお、実際の金利見直しは年2回・適用は7月と1月の返済分からですが、本試算では年初に一括改定されるものとして簡略化しています。計算はすべて月次(360回)で行い、キャッシュフローは税引前です。
先に結論から書きます。当初2.0%・30年の当初返済額は月25.28万円で、その1.25倍は月31.60万円(年379.23万円)です。6年目の見直し時点で、本来必要な返済額がこの上限を超えるのは、金利が3.56%(+1.56pt)を超えたときでした。
計算方法は、3年目初に金利が一度だけ上がって以後一定という前提で、5年間据え置いたあとの残高と残存25年から本来の返済額を求め、それが上限に達する金利を二分法で探すというものです。
3年目以降の金利 | 6年目の本来の返済額 | 1.25倍上限 | 上限は効くか | 未払利息の最大額 | 30年満期の残債 |
|---|---|---|---|---|---|
3.0% | 月29.21万円 | 月31.60万円 | 効かない | 0万円 | 0万円 |
3.5% | 月31.34万円 | 月31.60万円 | 効かない | 0万円 | 0万円 |
4.0% | 月33.58万円 | 月31.60万円 | 効く | 0万円 | 0万円 |
5.0% | 月38.00万円 | 月31.60万円 | 効く | 64.9万円 | 0万円 |
6.0% | 月41.88万円 | 月31.60万円 | 効く | 313.9万円 | 0万円 |
7.0% | 月45.94万円 | 月31.60万円 | 効く | 833.9万円 | 1,377.4万円 |
8.0% | 月50.17万円 | 月31.60万円 | 効く | 1,583.9万円 | 4,188.7万円 |
この表から、金利水準ごとに3つの境界値が読み取れます(当初2.0%・30年・3年目初に上昇の場合)。
ここで注意したいのは、多くの投資家が実際に直面する金利上昇幅(+1〜2pt程度)では、125%の上限そのものはほとんど効かないという点です。「125%ルールがあるから返済額は1.25倍までしか上がらない」という安心の仕方は、この試算の範囲では的外れでした。実際に効いているのは上限ではなく、5年間の据置のほうです。以降の検証はここに絞ります。
未払利息は、毎月の利息が毎月の返済額を上回ったときに発生します。元利均等返済では返済額が残高と当初金利と期間だけで決まるため、この境界は借入額に依存しません。物件価格がいくらであっても同じ表になります。
式で書くと、当初金利をr、月利をi=r/12、返済回数をnとしたとき、未払利息が発生する金利は次の水準です。
未払利息が発生する金利 = r ÷ {1 −(1+i)−n}
融資期間 | 当初1.0% | 当初1.5% | 当初2.0% | 当初2.5% | 当初3.0% |
|---|---|---|---|---|---|
20年 | 5.52% | 5.79% | 6.07% | 6.36% | 6.66% |
25年 | 4.52% | 4.80% | 5.09% | 5.38% | 5.69% |
30年 | 3.86% | 4.14% | 4.44% | 4.74% | 5.06% |
35年 | 3.39% | 3.67% | 3.98% | 4.29% | 4.62% |
この表の読み方で意外なのは、有利な条件で借りた人ほど、未払利息までの距離が近いことです。当初1.0%・35年で借りた場合、金利が3.39%(+2.39pt)に達すると未払利息が発生します。一方、当初3.0%・20年で借りた場合は6.66%(+3.66pt)まで発生しません。低金利・長期の借入は、毎月の返済額に占める元本の割合が小さいため、利息が返済額を追い越しやすいという構造です。
なお上表は借入直後の返済額で判定したものです。返済が進めば残高が減るため、境界は上がります。たとえば当初1.0%・35年の場合、2年経過時点の残高で判定すると3.56%、当初2.0%・30年なら4.67%になります。
ここからが本題です。同じ金利パスをたどったとき、返済額の改定ルールだけが違うと結果がどう変わるかを見ます。
シナリオ | 改定ルール | 10年累計CF | 10年目DSCR | 10年後残債 | 売却手残り | 通算手取り | 10年IRR |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
BASE | 両方とも同じ | 1,264.2万円 | 1.372 | 4,997.6万円 | 992.9万円 | 2,257.1万円 | 17.55% |
STRESS | 即時改定 | 943.9万円 | 1.212 | 5,160.3万円 | 830.1万円 | 1,774.0万円 | 13.10% |
STRESS | 5年据置 | 1,028.3万円 | 1.188 | 5,267.7万円 | 722.8万円 | 1,751.1万円 | 13.86% |
SEVERE | 即時改定 | 835.6万円 | 1.097 | 5,218.9万円 | 771.6万円 | 1,607.2万円 | 11.71% |
SEVERE | 5年据置 | 1,028.3万円 | 1.188 | 5,444.6万円 | 545.8万円 | 1,574.1万円 | 12.46% |
SEVEREで比べると、据置型は10年間の累計キャッシュフローが192.7万円多い一方、10年後の残債は225.7万円多く、売却手残りは225.8万円少なくなりました。通算手取りは据置型のほうが33.1万円少ない結果です。
ところがIRRは据置型のほうが0.75pt高い(12.46%対11.71%)という逆転が起きています。通算の金額では即時改定型が有利、時間価値を織り込んだ利回りでは据置型が有利、という結論になりました。据置型は同じキャッシュをより早く受け取っているためです。
つまり、据置ルールは有利にも不利にもなり得ます。10年で売却して次へ回す前提なら早く受け取れるキャッシュに意味がありますが、長期保有して残債を減らしたい、あるいは次の融資枠を確保したい場合は、元本の減りが遅れることが効いてきます。
SEVEREシナリオの年次推移です。返済額の改定タイミングの違いが、DSCRにどう出るかを見てください。
年 | 金利 | NOI | 返済 | CF | DSCR | 返済 | CF | DSCR | 残債差 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2.0% | 443.5 | 303.4 | 140.1 | 1.462 | 303.4 | 140.1 | 1.462 | 0 |
2 | 2.0% | 440.4 | 303.4 | 137.0 | 1.452 | 303.4 | 137.0 | 1.452 | 0 |
3 | 3.0% | 437.3 | 343.4 | 93.9 | 1.273 | 303.4 | 133.9 | 1.442 | +41 |
4 | 3.0% | 434.3 | 343.4 | 90.8 | 1.265 | 303.4 | 130.9 | 1.431 | +83 |
5 | 3.0% | 431.2 | 343.4 | 87.8 | 1.256 | 303.4 | 127.8 | 1.421 | +126 |
6 | 3.0% | 428.2 | 343.4 | 84.8 | 1.247 | 350.6 | 77.6 | 1.221 | +122 |
7 | 3.0% | 425.2 | 343.4 | 81.8 | 1.238 | 350.6 | 74.6 | 1.213 | +119 |
8 | 4.0% | 422.2 | 379.5 | 42.7 | 1.113 | 350.6 | 71.7 | 1.204 | +153 |
9 | 4.0% | 419.3 | 379.5 | 39.8 | 1.105 | 350.6 | 68.7 | 1.196 | +189 |
10 | 4.0% | 416.3 | 379.5 | 36.8 | 1.097 | 350.6 | 65.8 | 1.188 | +226 |
11 | 4.0% | 413.4 | 379.5 | 33.9 | 1.089 | 395.9 | 17.5 | 1.044 | — |
単位:万円(残債差のみ万円、DSCRは倍)
据置型は3年目から10年目まで、DSCRが1.44から1.19へゆるやかに下がるだけです。即時改定型が3年目にいきなり1.27へ落ち、8年目に1.11まで下がるのと比べると、はるかに穏やかに見えます。
しかし11年目の見直しで、据置型の返済額は月32.99万円(年395.9万円)へ跳ね上がります。この1年でDSCRは1.188から1.044へ0.143低下し、税引前CFは65.8万円から17.5万円へ48.3万円減少しました。同じ年、即時改定型の変化はDSCRで0.008、CFで2.9万円にとどまります。
さらに、11年目以降の返済額は据置型(月32.99万円)のほうが即時改定型(月31.63万円)より高くなります。据え置いた5年分の元本を、残り20年で取り戻す必要があるためです。据置は返済を軽くするのではなく、後ろへ寄せる仕組みだと分かります。
実務上の注意点として、据置期間中のDSCRは「まだ改定されていないだけ」の数字です。この物件を10年目に売却しようとしたとき、買主の融資審査は当然そのときの金利水準で行われます。売主の返済予定表に載っているDSCR 1.19は、買主にとっての指標にはなりません。
今回の試算は借入6,840万円・当初2.0%・30年という1つの条件に固定したものです。ご自身の借入額・金利・残存期間で、返済額の見直し後にDSCRがどこまで下がるかを確認したい場合は、RE-AIの無料DSCRシミュレーターで、目標DSCRを下回る金利を計算することができます。改定後の返済額を入力すれば、その時点のDSCRと返済後CFがそのまま出ます。
契約書にある「最終返済日が到来しても未返済残高がある場合、原則として一括返済」は、どのくらい現実的なリスクなのでしょうか。
当初2.0%・30年・3年目初に金利が上がって以後一定という前提で逆算すると、30年の満期に残債が残り始めるのは金利6.56%(+4.56pt)からでした。7.0%なら1,377万円、8.0%なら4,189万円が満期時点で残ります。
日本銀行の政策金利は2026年9月時点で1.25%への引き上げが見込まれる水準にあり、短期プライムレートは2026年2月時点で2.125%です。ここから追加で4.56pt上昇するシナリオは、現時点では中心的な想定とは言えません。一括返済リスクは、通常の金利上昇局面では発生しない領域にあるというのが、この試算から言えることです。
ただし、これは「当初2.0%・30年」の場合の数字です。検証2で見たとおり、当初1.0%・35年のように低金利・長期で借りているほど境界は手前に来ます。また今回は元本の返済が最初から順調に進む前提ですが、途中で返済猶予やリスケジュールを挟むと前提は変わります。
この分析から実際に確認できることは、次の4点です。
金銭消費貸借契約書または商品概要説明書の「ご返済額の見直し」の項目に、据置期間(約5年など)と上限倍率(1.25倍など)の記載があるかどうかを見てください。記載がなければ、金利改定のつど返済額が動く可能性があります。元金均等返済を選んでいる場合、この据置ルールは適用されません。
固定金利指定型を選んでいる場合、固定期間が終了して変動へ移行する時点では、横浜銀行の規定では1.25倍の制限がありません。移行の年に返済額が一度に見直されるため、固定期間の満了日と、そのとき想定される金利水準をセットで把握しておく必要があります。
据置期間中の返済予定表から計算したDSCRは、現在の金利水準を反映していません。金融機関への次の融資相談、売却時の買主の目線、いずれも改定後の返済額で見られます。現在の金利で返済額を再計算したDSCRを、自分の管理指標として併記しておくと判断がぶれません。
据置型で手元に残る年60〜130万円は、将来の残債として計上されているお金です。使い切ってしまうと11年目の崖をそのまま受けることになります。繰上返済に回すか、修繕積立に回すか、次の物件の自己資金に回すかを、据置が終わる年から逆算して決めておくと、崖が計画された着地に変わります。繰上返済に回す場合の損得は余剰資金は繰上返済すべきか|期間短縮型・返済額軽減型・手元温存の比較で検証しています。
なお、借入額や融資期間を変えたときに将来残債と返済後CFがどう動くかは、RE-AIの無料ローンシミュレーターで5年後・10年後の残債まで試算することができます。
アパートローンの「5年ルール・125%ルール」を、返済額据置型と即時改定型の対比で10年分計算しました。
分かったのは、投資家が警戒すべきなのは1.25倍という上限ではなく、5年間の据置のほうだということです。当初2.0%・30年の条件で上限が効き始めるのは金利3.56%から、未払利息は4.67%から、満期の一括返済は6.56%からで、現実的な金利上昇幅では上限に触れません。触れるのは据置のほうで、SEVEREシナリオでは10年で残債が225.7万円多く残り、売却手残りが同額分減りました。
一方で、据置型はキャッシュを早く受け取れるためIRRでは0.75pt有利になります。「据置は不利」と言い切れる結果にはなりませんでした。10年で回すのか、長く持って残債を減らすのかという保有方針によって、同じルールの評価が変わります。
今回のように金利・返済額の改定ルール・残債・出口価格を同時に動かして比較すると、確認すべき項目は表計算だけでは増えていきます。RE-AIでは、金利・空室率・家賃下落率を変えたときのキャッシュフローとDSCRの変化を35年分まとめて確認できるよう設計しています。ただしローン契約の細目までは読み取れないため、据置ルールの有無はご自身の契約書での確認が必要です。
情報確認日:2026年9月14日
本記事の数値は、記載した条件にもとづくシミュレーション結果です。実在物件の統計や診断実績ではありません。また、投資判断を保証するものではなく、最終的な判断はご自身の責任で、金融機関・税理士等の専門家への確認のうえ行ってください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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