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余剰資金500万円は繰上返済すべきか|期間短縮型・返済額軽減型・手元温存を金利1.5〜4.0%×保有7〜30年で検証

余剰資金500万円は繰上返済すべきか|期間短縮型・返済額軽減型・手元温存を金利1.5〜4.0%×保有7〜30年で検証

手元に500万円の余剰資金ができたとき、繰上返済に回すべきか、手元に置くべきか。そして繰上返済するなら「期間短縮型」と「返済額軽減型」のどちらを選ぶべきか。

一般的な解説記事はここで「期間短縮型のほうが利息削減効果は大きい」と書いて終わります。それは正しいのですが、投資判断としては足りません。支払利息は経費なので、利息が減ると課税所得が増えて税金も増えます。そして、繰上返済は残債を減らす一方で手元流動性を失います。

この記事では、価格8,000万円・借入7,000万円・30年返済という条件を固定し、5年経過時点で500万円をどこに投じるかを3パターンで比較しました。比較指標は総支払利息だけでなく、税引後キャッシュフロー・DSCR・売却時手残り・通算IRRの4つです。金利は1.5%〜4.0%の6水準で計算しています。

結論を先に書くと、「期間短縮型が有利」という定説は、指標を総額から時間価値に切り替えた瞬間に、保有9年目あたりで逆転します。

この記事で検証する疑問

  1. 500万円の繰上返済で、支払利息は実際にいくら減るのか。税金を考慮した「実質の削減額」はいくらか
  2. 期間短縮型と返済額軽減型で、DSCR・年間CF・売却時手残り・IRRはどう変わるか
  3. 繰上返済せず手元に置く場合、その500万円は年何%で回せば繰上返済に並ぶのか(ハードルレートの逆算)
  4. DSCRが目標値を割っているとき、それを回復するには最低いくら繰上返済が必要か(逆算)

前提条件(何を固定し、何を変えたか)

本記事の数値はすべて条件を固定したシミュレーションであり、実際の物件統計でも、RE-AIの診断実績データでもありません。

固定した条件

項目

設定値

物件価格

8,000万円(土地3,200万円/建物4,800万円)

構造・築年

木造・新築(法定耐用年数22年/定額法・償却率0.046)

年間減価償却費

220.8万円(22年間)

満室想定年間家賃

640万円(表面利回り8.0%)

空室・滞納損

5.0%

運営費

満室家賃の20%(管理料・修繕・公租公課・保険等)

初年度NOI

480.0万円

家賃下落

年0.5%

借入

7,000万円/30年/元利均等/月次計算

初期自己資金

1,560万円(頭金1,000万円+諸費用560万円)

繰上返済額・時期

500万円/5年経過時点(60回返済後)

繰上返済手数料

繰上額の1.0%=5万円

限界税率

33%(所得税23%+住民税10%)

出口利回り

9.0%(購入時8.0%から1.0ポイント上昇)

譲渡費用・譲渡税

売却価格の3.0%/長期譲渡20.315%(取得費=簿価)

変更した条件

  • 500万円の使い道:①手元温存(何もしない)/②期間短縮型繰上返済/③返済額軽減型繰上返済
  • 借入金利:1.5%・2.0%・2.5%・3.0%・3.5%・4.0%
  • 保有年数:7年・10年・15年・20年・25年・30年

基準金利を2.5%としたのは、2026年8月時点の短期プライムレートが2.125%にあり、アパートローンの変動金利がこれに上乗せされる水準にあるためです(情報確認日:2026年8月14日)。日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で政策金利を1%程度へ引き上げており、上振れ側の3.0〜4.0%も検証範囲に含めています。

比較を公平にするための条件

3パターンとも「5年目に500万円を拘束する」点は同じとして扱いました。手元温存は500万円を現金のまま保有し(運用利回り0%)、売却時に額面のまま回収します。この扱いにしないと、温存は500万円を投じていないぶんIRRが見かけ上高くなり、比較になりません。

計算方法

元利均等返済を月次でシミュレーションし、繰上返済月に残高から500万円を控除しています。期間短縮型は月返済額を据え置いて残期間を自動的に短縮させ、返済額軽減型は残期間(300回)を据え置いて月返済額を再計算しました。

税引後CFの計算式は次のとおりです。

  • 課税所得 = NOI -減価償却費 -支払利息(元本返済は経費になりません)
  • 税引後CF = NOI -年間返済額(元利合計) -税額
  • DSCR = NOI ÷ 年間返済額
  • 売却時手残り = 売却価格 -譲渡費用 -残債 -譲渡所得税
  • IRR = 初期自己資金1,560万円と5年目の500万円を投資、各年の税引後CFと売却時手残りを回収とした通算内部収益率

自分の融資条件でDSCRを計算する(無料ツール)

結果1:名目403万円の利息削減が、税引後では265万円になる

まず、30年完済までの総支払利息がどれだけ減るかです。

金利

総支払利息
(温存)

期間短縮型
削減額

同・税引後
実質削減額

返済額軽減型
削減額

同・税引後
実質削減額

1.5%

1,697万円

214万円

139万円

100万円

62万円

2.0%

2,314万円

304万円

198万円

136万円

86万円

2.5%

2,957万円

403万円

265万円

173万円

111万円

3.0%

3,624万円

514万円

339万円

211万円

137万円

3.5%

4,316万円

638万円

422万円

251万円

163万円

4.0%

5,031万円

775万円

514万円

292万円

190万円

※税引後実質削減額=名目削減額×(1-限界税率33%)-繰上返済手数料5万円

金利2.5%のケースで見ると、期間短縮型は名目403万円の利息を削減します。ところが支払利息は不動産所得の必要経費なので、利息が403万円減れば課税所得が同額増え、限界税率33%なら133万円の税負担増になります。手数料5万円を引いた実質の手残り改善は265万円、名目の66%にとどまります。

500万円を投じて30年かけて265万円を回収する、と言い換えると印象が変わるはずです。一般的な繰上返済の解説記事が「403万円お得」と書くとき、この税効果は多くの場合含まれていません。

限界税率が高いほど、繰上返済の実質効果は小さくなる

限界税率

名目削減額

増える税負担

実質削減額

投じた500万円に対する回収率

20%

403万円

81万円

317万円

63.5%

30%

403万円

121万円

277万円

55.4%

33%

403万円

133万円

265万円

53.0%

43%

403万円

173万円

225万円

45.0%

50%

403万円

202万円

197万円

39.3%

※金利2.5%・30年完済・期間短縮型。限界税率は所得税+住民税の合算(復興特別所得税は計算に含めていません)

所得の高い投資家ほど繰上返済の実質メリットが小さくなる、という関係が確認できます。課税所得が大きい層では、繰上返済で確実な265万円を取るより、その資金を別の投資へ回す判断のほうが合理的になりやすい構造です。

結果2:DSCRを改善するのは「返済額軽減型」だけ

利息削減額だけを見れば期間短縮型の圧勝です。しかし融資の安全度を測るDSCRで見ると、評価は反転します。金利2.5%・繰上返済直後(6年目)の状態です。

項目

①手元温存

②期間短縮型

③返済額軽減型

年間返済額

331.9万円

331.9万円

305.0万円

月返済額

27.66万円

27.66万円

25.42万円

DSCR

1.410

1.410

1.535

年間税引前CF

136.2万円

136.2万円

163.1万円

年間税引後CF

104.8万円

100.6万円

127.6万円

6年末残債

5,985万円

5,473万円

5,500万円

完済時期

30.00年

27.33年

30.00年

ここが判断の分岐点です。期間短縮型は500万円を投じてもDSCRも月々のキャッシュフローも1円も改善しません。返済額が変わらないからです。改善するのは残債と完済時期だけです。 一方の返済額軽減型は、DSCRを1.410から1.535へ、年間税引後CFを104.8万円から127.6万円へ(+22.8万円)押し上げます。ただし総利息の削減額は173万円と、期間短縮型403万円の43%にとどまります。

見落としやすいのが、期間短縮型の6年目税引後CFが温存より4.2万円低い点です(100.6万円 vs 104.8万円)。手数料の話ではありません。繰上返済で年間支払利息が152.1万円から139.4万円へ12.7万円減ったぶん、必要経費が減って課税所得が95.2万円から107.9万円へ増え、税額が31.4万円から35.6万円へ増えたためです。

期間短縮型は、500万円を投じた翌年から毎年の手残りがむしろ減ります。返済額は変わらないのに税金だけが増えるからです。減った利息は残債という形で蓄積されており、売却または完済まで現金として戻ってきません。この「投じた直後にキャッシュフローが悪化する」という性質は、繰上返済を検討する際にほとんど説明されていない論点です。

金利が高いほど、両者の性格差は広がる

金利

期間短縮型
完済時期(短縮幅)

返済額軽減型
年間返済額の変化

返済額軽減型
DSCRの変化

1.5%

27.58年(-2.42年)

289.9→265.9万円(-24.0万円)

1.615→1.760

2.0%

27.42年(-2.58年)

310.5→285.0万円(-25.4万円)

1.508→1.642

2.5%

27.33年(-2.67年)

331.9→305.0万円(-26.9万円)

1.410→1.535

3.0%

27.17年(-2.83年)

354.1→325.7万円(-28.5万円)

1.322→1.437

3.5%

27.00年(-3.00年)

377.2→347.2万円(-30.0万円)

1.241→1.348

4.0%

26.83年(-3.17年)

401.0→369.4万円(-31.7万円)

1.167→1.267

500万円の繰上返済で短縮できる期間は、金利1.5%で2.42年、4.0%でも3.17年です。借入残高7,000万円に対する500万円という規模では、金利がどこにあっても「3年前後」の短縮にしかなりません。「繰上返済で完済が大きく早まる」という期待は、この規模では成立しにくいことになります。

結果3:年次推移で見ると、差がどこに出ているかが分かる

金利2.5%、手元温存と返済額軽減型の1〜12年目です。

NOI

温存
DSCR

温存
税引後CF

軽減型
DSCR

軽減型
税引後CF

温存
残債

短縮型
残債

1

480.0

1.446

119.7

1.446

119.7

6,841

6,841

3

475.2

1.432

113.8

1.432

113.8

6,512

6,512

5

470.5

1.418

107.8

1.418

102.8

6,165

6,165

6

468.1

1.410

104.8

1.535

127.6

5,985

5,473

8

463.4

1.396

98.6

1.520

121.7

5,612

5,073

10

458.8

1.382

92.3

1.504

115.7

5,220

4,653

12

454.3

1.369

85.9

1.489

109.5

4,807

4,211

※単位:万円(DSCRを除く)。5年目の軽減型CFが低いのは繰上返済手数料5万円を計上したためです

返済額軽減型は6年目以降、毎年およそ23万円ずつ税引後CFを上乗せし続けます。期間短縮型はこの列にまったく現れません。効果が残債の減少としてのみ蓄積し、売却または完済まで現金化されないためです。

結果4:IRRで見ると、保有9年目から順位が入れ替わる

ここが本記事の中心的な発見です。金利2.5%、保有年数別の通算IRRと売却時手残りを比較します。

保有
年数

売却
価格

IRR
①温存

IRR
②期間短縮

IRR
③返済額軽減

手残り
①温存

手残り
②期間短縮

手残り
③返済額軽減

7年

6,866

0.34%

0.46%

0.46%

817

1,343

1,288

10年

6,763

4.28%

4.47%

4.51%

1,185

1,751

1,608

15年

6,596

6.31%

6.47%

6.63%

1,903

2,545

2,239

20年

6,433

6.80%

6.91%

7.18%

2,766

3,494

3,004

25年

6,274

6.76%

6.83%

7.19%

3,941

4,765

4,067

30年

6,118

6.50%

6.57%

6.97%

5,379

5,379

5,379

※単位:万円(IRRを除く)。売却価格=翌年満室想定家賃÷出口利回り9.0%

売却時の手残り、つまり「最終的にいくら手元に残るか」という総額では、期間短縮型が一貫して勝ちます。保有20年で3,494万円対3,004万円、その差490万円は無視できません。

ところがIRRでは保有10年以降、返済額軽減型が期間短縮型を上回ります。保有20年では7.18%対6.91%で、0.27ポイントの差がつきます。

理由は資金の戻る時期です。返済額軽減型は6年目から毎年23万円を現金として回収するのに対し、期間短縮型は同じ効果を売却時まで塩漬けにします。IRRは早く戻ってくるお金を高く評価するため、総額で劣っていても順位が逆転します。

逆転が起きる保有年数は、金利で変わる

金利

返済額軽減型が期間短縮型のIRRを上回る保有年数

1.5%

7年目以降

2.0%

8年目以降

2.5%

9年目以降

3.0%

10年目以降

3.5%

11年目以降

4.0%

14年目以降

金利が高いほど期間短縮型の利息削減効果が大きくなるため、逆転までに必要な年数が延びます。金利4.0%では14年目まで期間短縮型が優位を保ちます。逆に金利1.5%の低金利環境では、7年目には返済額軽減型のほうがIRRで有利になります。

そもそも、繰上返済でIRRはどれだけ動くのか

金利

①温存

②期間短縮

③返済額軽減


(短縮-温存)

1.5%

6.59%

6.67%

6.73%

+0.08pt

2.0%

5.48%

5.60%

5.66%

+0.13pt

2.5%

4.28%

4.47%

4.51%

+0.19pt

3.0%

3.01%

3.26%

3.28%

+0.26pt

3.5%

1.64%

1.98%

1.96%

+0.34pt

4.0%

0.02%

0.48%

0.42%

+0.46pt

※保有10年で売却した場合

見落とされがちですが、この差はそれほど大きくありません。金利1.5%では500万円を繰上返済してもIRRは0.08ポイントしか動かず、2.5%でも0.19ポイントです。低金利下での繰上返済は、投資成績をほとんど変えません。効果が意味を持ち始めるのは金利3.0%以上の領域です。

同時に、この表は別のことも示しています。出口利回りが購入時から1ポイント上昇する前提では、保有10年のIRRは金利4.0%でほぼゼロになります。繰上返済の選択より、金利水準と出口利回りのほうが投資成績への影響がはるかに大きいということです。

逆算1:手元温存が繰上返済に並ぶには、年何%で回せばよいか

「繰上返済せず手元に置く」という選択が正当化されるのは、その500万円をより高い利回りで使える場合だけです。では、そのハードルはどこにあるのか。期間短縮型のIRRに並ぶために必要な、500万円の税引後複利利回りを逆算しました。

保有年数

期間短縮型のIRR

温存資金に必要な税引後利回り

10年

4.47%

年1.41%

15年

6.47%

年1.32%

20年

6.91%

年1.14%

30年

6.57%

年0.92%

※金利2.5%。5年目から売却年までの運用期間で複利計算

ハードルは年1%台前半です。想像より低いと感じるかもしれません。これは、繰上返済のリターンが「金利2.5%を節約する」ことではなく、税効果と手数料を差し引いた後の実効値だからです。

ただし年1.4%は税引後の数字です。普通預金では届きませんし、次の物件の頭金として使うなら、その物件が確実に利益を出すという別の前提が必要になります。「使い道が決まっていない500万円」を温存しても、この基準は満たせません。逆に言えば、具体的な次の投資案件がある場合、繰上返済を見送る判断は数字の上で十分に成立します。

逆算2:DSCRを回復するには、いくら繰上返済すればよいか

金利上昇で融資条件が悪化し、DSCRが目標を割ったケースを想定します。返済額軽減型で目標DSCRを回復するために必要な繰上返済額を逆算しました。

金利

現状のDSCR

目標DSCR

必要な繰上返済額

3.0%

1.322

1.40

約348万円

3.5%

1.241

1.30

約285万円

4.0%

1.167

1.20

約173万円

4.0%

1.167

1.30

約646万円

※5年経過時点・返済額軽減型で実行した場合の6年目DSCR

金利4.0%でDSCR1.167まで落ち込んだ状態から、金融機関が下限として意識することの多い1.2へ戻すだけなら173万円で足ります。しかし1.3まで引き上げようとすると646万円と、3.7倍の資金が必要になります。DSCRの改善コストは目標値に対して直線的ではありません。

この非線形性は、繰上返済を「DSCR防衛」の手段として使うなら、悪化してから大きく戻すより、早い段階で小さく手当てするほうが効率的であることを意味します。

500万円の繰上返済は、年利何%の「投資」に相当するか

金利

年間税引後CF
(温存)

年間税引後CF
(返済額軽減型)

増加額

500万円に対する
年間利回り

1.5%

123.5万円

145.1万円

+21.6万円

4.33%

2.0%

112.9万円

135.2万円

+22.3万円

4.46%

2.5%

101.7万円

124.7万円

+23.0万円

4.59%

3.0%

89.9万円

113.6万円

+23.7万円

4.74%

3.5%

77.5万円

102.0万円

+24.5万円

4.90%

4.0%

64.6万円

89.9万円

+25.3万円

5.06%

※7年目の比較

返済額軽減型を「500万円を投じて年間キャッシュフローを買う」と読み替えると、表面上は年4.3〜5.1%の利回りに見えます。ただしこの数字には注意が必要です。増加分のうち大部分は利息削減ではなく元本返済の先送り、つまり自分の資産を取り崩して現金化しているだけの部分を含みます。だからこそ、結果4のとおり売却時手残りでは期間短縮型に負けるのです。年間CFの増加率だけを見て判断すると、この構造を見誤ります。

複合ストレス:条件が同時に悪化したときの3択

単一条件の変化だけでなく、複数の悪化が同時に起きた場合も確認します。空室率10%、家賃下落年1.0%、金利3.5%という設定で、保有15年としました。

項目

①温存

②期間短縮型

③返済額軽減型

6年目DSCR

1.129

1.129

1.227

6年目税引後CF

48.8万円

46.9万円

77.1万円

15年通算IRR

1.30%

1.81%

1.77%

15年目売却手残り

1,283万円

1,992万円

1,633万円

15年間の税引後CF赤字年数

0年

0年

0年

ストレス下では基準ケースと違う姿が見えます。返済額軽減型がIRRで逆転する年が、基準ケースの11年目から18年目へ後ろにずれました。NOIが下がるとキャッシュフローの絶対額が小さくなり、早期回収の時間価値メリットが薄まるためです。そのため15年時点ではIRRは期間短縮型がわずかに上(1.81%対1.77%)で、売却手残りでも359万円勝っています。

一方でDSCRは温存・期間短縮型が1.129と、多くの金融機関が要注意とみなす1.2を下回ります。返済額軽減型だけが1.227を確保しています。この局面での判断は「どちらが儲かるか」ではなく「どちらが融資条件の悪化や追加借入の停止を避けられるか」に変わります。数十万円のIRR差より、DSCR1.2の攻防のほうが実務上は重い、という見方も成り立ちます。

結果から分かること

  1. 繰上返済の利息削減額は、税引後では名目の約3分の2になる。金利2.5%・期間短縮型で名目403万円、実質265万円。限界税率43%なら225万円まで下がる
  2. 期間短縮型は、DSCRも月々のキャッシュフローも改善しない。それどころか、利息が減って経費が減るぶん税金が増え、金利2.5%では年間の税引後CFが4.2万円減る。改善するのは残債と完済時期だけ
  3. 「総額」と「時間価値」で結論が割れる。売却時手残りは全期間で期間短縮型が優位、IRRは金利2.5%なら保有9年目以降で返済額軽減型が優位
  4. 低金利下では繰上返済の効果は小さい。金利1.5%で保有10年のIRR差は0.08ポイント。金利3.0%を超えて初めて0.25ポイント以上の差がつく
  5. 手元温存のハードルレートは税引後で年1%台前半。使い道が決まっていれば温存は合理的だが、決まっていなければ基準を満たせない
  6. DSCRの改善コストは非線形。金利4.0%でDSCR1.2への回復は173万円、1.3までなら646万円と3.7倍必要になる

投資判断への使い方

この分析からは、「どちらが正解」という単一の結論は出ません。判断軸を分けて考えることをおすすめします。

  • 長期保有・完済まで持つ前提で、総資産額を最大化したい→ 期間短縮型。ただし流動性は失われ、DSCRは改善しないことを承知の上で
  • 次の物件を買うために融資枠と手残りを作りたい→ 返済額軽減型。DSCRと年間CFが即座に改善するため、金融機関への説明材料になる
  • 金利が上昇し、DSCRが1.2付近まで下がっている→ 返済額軽減型を優先。IRRの数十bpより融資関係の維持が実務上重い
  • 具体的な次の投資案件が見えている→ 温存。ハードルは税引後年1%台前半で、それを超える見込みがあるなら繰上返済を急ぐ理由は小さい
  • 借入金利が2.0%以下→ 効果が小さいので、繰上返済そのものを急ぐ必要は薄い

実務上の注意点として、アパートローンでは繰上返済額の0.5〜2%程度の手数料がかかるのが一般的で、借入から5年程度は違約金が発生するケースもあります。固定金利特約期間中は繰上返済に制限がつくこともあるため、契約書の条項を先に確認してください。本記事では手数料1%を前提にしていますが、2%なら実質削減額はさらに5万円減ります。

今回のように金利、税率、DSCR、保有年数、出口利回りを同時に動かして比較すると、表計算ソフトでは確認項目が急速に増えます。RE-AIでは、こうした複数条件をまとめて確認できるよう設計しています。ただし個別の融資条件や物件固有の事情を代替するものではありません。

この分析で分からないこと

  1. 実際の融資契約条件:繰上返済手数料、違約金、固定金利特約中の制限、最低繰上単位は金融機関ごとに大きく異なります。本記事は手数料1%・制限なしという単純化を置いています
  2. 金融機関の評価:繰上返済によって次の融資が有利になるかは、DSCRの数値だけでは決まりません。取引履歴、属性、担保評価、支店の方針が影響します
  3. 税制と個別の税務条件:限界税率は他の所得によって変動し、青色申告特別控除、法人化の有無、損益通算の可否(個人の場合、不動産所得の損失のうち土地取得に係る借入金利子は損益通算できません)などで結果が変わります
  4. 物件固有の条件:建物状態、大規模修繕の実際の発生時期と金額、周辺の新規供給、競合物件との比較優位は織り込んでいません
  5. 売却時の市場環境:出口利回り9.0%固定という前提は、金利上昇局面では楽観的すぎる可能性があります
  6. 金利の経路:本記事は各金利水準を「借入期間中一定」として計算しています。変動金利が期中に上昇する経路は検証していません
  7. 繰上返済のタイミング:5年経過時点に固定しています。実行時期を変えれば結果は変わります

また、本記事の数値はすべて条件を固定したシミュレーションです。実際の取引統計でも、RE-AIの診断データでもありません。同じ条件で他の物件が同じ結果になることを保証するものではありません。

まとめ

500万円の繰上返済という一つの選択について、4つの指標で計算した結果、指標ごとに答えが変わることが確認できました。

名目の利息削減額では期間短縮型が403万円と圧勝します。税引後では265万円まで縮みます。売却時の手残りでは期間短縮型が保有20年で490万円勝ちます。IRRでは保有9年目以降、返済額軽減型が逆転します。DSCRと年間キャッシュフローでは、返済額軽減型だけが改善し、期間短縮型は何も変わりません。

「繰上返済は期間短縮型が有利」という一般的な説明は、総支払利息という一つの指標に限れば正しく、それ以外の指標では成立しません。自分がいま守りたいのが「最終的な総額」なのか「手元の安全余裕」なのか「資金効率」なのかを先に決めることが、型を選ぶより先にすべき判断です。

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参考資料・出典

情報確認日:2026年8月14日

本記事の計算は上記の制度・データを前提に、筆者が元利均等返済の月次シミュレーションを実装して算出したものです。AIによる分析結果は投資成果を保証するものではなく、最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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