
収益物件を検討していると、同じ物件に対して3つの違う「価格」が出てきます。売出価格、収益還元価格、そして銀行が担保として見る積算価格です。
3つの評価手法そのものの違いは収益物件の価格査定は何を見る?収益還元法・取引事例比較法・原価法の使い分けと確認手順で整理していますが、投資判断で本当に知りたいのは、その3つがズレたとき、結局いくら借りられて、自己資金はいくら必要になるのかです。
そこで今回は、売出価格8,000万円・年間満室家賃640万円(表面利回り8.0%)の一棟アパートという条件を固定したうえで、構造を木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造(RC造)の3パターン、築年数を0年から30年まで動かし、収益還元価格・積算価格・DSCRの3つの天井を21通り試算しました。
結果は、事前の想定とは逆でした。積算価格が借入額を決めているケースは、この条件下ではほぼ存在しませんでした。
本記事の数値は、実際の物件統計や実際の融資実行データではなく、条件を固定したシミュレーションです。使用した建築単価と法定耐用年数は公開データですが、物件条件そのものは説明のために設定した架空ケースです。
項目 | 設定値 |
|---|---|
売出価格 | 8,000万円 |
年間満室家賃 | 640万円(表面利回り8.0%) |
空室損 | 満室家賃の5% |
運営費(管理費・修繕・税金等) | 満室家賃の20% |
NOI | 480万円(=640×0.95−640×0.20) |
土地面積 | 400㎡ |
延床面積 | 400㎡ |
土地の評価単価 | 10万円/㎡(土地評価4,000万円) |
担保掛目 | 積算価格の70% |
金利 | 年2.5%・元利均等 |
融資期間 | 法定耐用年数−築年数(上限30年) |
建物の再調達原価は、国税庁「建物の標準的な建築価額表」の令和5年分を使用しました。この表は国土交通省「建築着工統計」の構造別工事費予定額を床面積で割って算出されたものです。
構造 | 建築単価(令和5年) | 法定耐用年数 | 延床400㎡の新築時建物評価 |
|---|---|---|---|
木造 | 204.1千円/㎡ | 22年 | 8,164万円 |
鉄骨造 | 281.1千円/㎡ | 34年 | 11,244万円 |
RC造 | 314.3千円/㎡ | 47年 | 12,572万円 |
建物評価は「再調達原価 × 延床面積 × (法定耐用年数−築年数)÷ 法定耐用年数」で計算し、積算価格は「土地評価+建物評価」としました。実際の金融機関は独自の再調達単価表や経済的残存耐用年数を使うため、この計算は金融機関の評価そのものではなく、その構造を模した試算です。積算価格の基本的な計算式(路線価×土地面積、再調達価格×延床面積×残存率)と、構造ごとの架空の計算例は積算価格はいくらになるかで詳しく解説しています。
まず収益還元価格です。NOI480万円を固定し、還元利回り(キャップレート)だけを変えました。
還元利回り | 収益還元価格 | 売出8,000万円との差 |
|---|---|---|
4.5% | 10,667万円 | +2,667万円 |
5.0% | 9,600万円 | +1,600万円 |
5.5% | 8,727万円 | +727万円 |
6.0% | 8,000万円 | ±0万円 |
6.5% | 7,385万円 | −615万円 |
7.0% | 6,857万円 | −1,143万円 |
7.5% | 6,400万円 | −1,600万円 |
8.0% | 6,000万円 | −2,000万円 |
還元利回り6.0%でちょうど売出価格と一致します。つまりこの物件は「還元利回り6.0%を許容できる買主にとっては適正価格、7.0%を求める買主には1,143万円高い」という関係です。
収益還元価格は物件の性能ではなく、買主が求める利回りで決まります。還元利回りを4.5%から8.0%まで動かすと価格は4,667万円動きました。売出価格の58%に相当する幅です。「収益還元法で計算したら妥当だった」という表現には、必ず「どの還元利回りを使ったか」がセットで必要になります。
日本不動産研究所「第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)」の賃貸住宅一棟(ファミリータイプ)の期待利回りは、東京・城南3.6%、横浜・大阪4.2%、名古屋・福岡4.5%、札幌4.9%、仙台・広島5.0%でした。仮にこの水準を当てはめると、NOI480万円の収益還元価格は9,600万円〜13,333万円になります。
ただしこの調査は機関投資家が投資適格と考える都市部の物件を対象にした中央値であり、個人が購入する地方の一棟アパートにそのまま適用できる数字ではありません。個人向け一棟物件の実勢は、この水準よりかなり高い利回りで取引されるのが一般的です。ここでは「還元利回りの前提差が価格にどれだけ効くか」を示す参考としてのみ挙げています。
次に積算価格です。土地評価4,000万円を固定し、構造と築年数を変えました。
構造 | 築年数 | 建物評価 | 積算価格 | 積算×70% | 8,000万円との差 |
|---|---|---|---|---|---|
木造 | 0年 | 8,164万円 | 12,164万円 | 8,515万円 | +515万円 |
5年 | 6,309万円 | 10,309万円 | 7,216万円 | −784万円 | |
10年 | 4,453万円 | 8,453万円 | 5,917万円 | −2,083万円 | |
15年 | 2,598万円 | 6,598万円 | 4,618万円 | −3,382万円 | |
20年 | 742万円 | 4,742万円 | 3,320万円 | −4,680万円 | |
25年以上 | 0万円 | 4,000万円 | 2,800万円 | −5,200万円 | |
鉄骨造 | 0年 | 11,244万円 | 15,244万円 | 10,671万円 | +2,671万円 |
10年 | 7,937万円 | 11,937万円 | 8,356万円 | +356万円 | |
15年 | 6,283万円 | 10,283万円 | 7,198万円 | −802万円 | |
20年 | 4,630万円 | 8,630万円 | 6,041万円 | −1,959万円 | |
25年 | 2,976万円 | 6,976万円 | 4,883万円 | −3,117万円 | |
30年 | 1,323万円 | 5,323万円 | 3,726万円 | −4,274万円 | |
RC造 | 0年 | 12,572万円 | 16,572万円 | 11,600万円 | +3,600万円 |
10年 | 9,897万円 | 13,897万円 | 9,728万円 | +1,728万円 | |
15年 | 8,560万円 | 12,560万円 | 8,792万円 | +792万円 | |
20年 | 7,222万円 | 11,222万円 | 7,856万円 | −144万円 | |
25年 | 5,885万円 | 9,885万円 | 6,919万円 | −1,081万円 | |
30年 | 4,547万円 | 8,547万円 | 5,983万円 | −2,017万円 |
構造 | 積算価格が8,000万円を下回る築年数 | 積算×70%が8,000万円を下回る築年数 |
|---|---|---|
木造 | 築11.2年 | 築2.0年 |
鉄骨造 | 築21.9年 | 築11.5年 |
RC造 | 築32.0年 | 築19.2年 |
同じ売出価格8,000万円、同じ土地4,000万円、同じ家賃640万円という条件でも、積算価格が価格に届かなくなる築年数は木造11年・鉄骨造22年・RC造32年と、3倍近い差が出ました。
法定耐用年数で定額に評価を落とす計算では、目減りは築年数に対して一定です。
構造 | 建物評価の年間目減り | 積算×70%の年間目減り |
|---|---|---|
木造 | −371万円/年 | −260万円/年 |
鉄骨造 | −331万円/年 | −231万円/年 |
RC造 | −267万円/年 | −187万円/年 |
木造の場合、築年数が1年進むだけで担保評価上の融資可能額が260万円落ちるという計算になります。5年落ちの物件と10年落ちの物件では、価格が同じでも積算ベースの融資枠に1,300万円の差が生まれます。
ここまでは「積算価格が高い物件のほうが融資が出やすい」という一般的な説明とおおむね一致します。しかし、ここから結果が変わります。
積算価格の70%まで借りられたとして、その借入額を実際に返済できるのかを確認しました。融資期間は「法定耐用年数−築年数(上限30年)」、金利2.5%、DSCRは「NOI480万円÷年間返済額」で計算しています。DSCRという指標そのものの意味と目安は不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例で解説しています。
構造 | 築年数 | 融資期間 | 借入額(積算70%) | 年間返済額 | DSCR |
|---|---|---|---|---|---|
木造 | 0年 | 22年 | 8,515万円 | 504万円 | 0.95 |
5年 | 17年 | 7,216万円 | 521万円 | 0.92 | |
10年 | 12年 | 5,917万円 | 571万円 | 0.84 | |
15年 | 7年 | 4,618万円 | 720万円 | 0.67 | |
20年 | 2年 | 3,320万円 | 1,703万円 | 0.28 | |
鉄骨造 | 0年 | 30年 | 10,671万円 | 506万円 | 0.95 |
10年 | 24年 | 8,356万円 | 463万円 | 1.04 | |
15年 | 19年 | 7,198万円 | 476万円 | 1.01 | |
20年 | 14年 | 6,041万円 | 512万円 | 0.94 | |
25年 | 9年 | 4,883万円 | 606万円 | 0.79 | |
RC造 | 0年 | 30年 | 11,600万円 | 550万円 | 0.87 |
10年 | 30年 | 9,728万円 | 461万円 | 1.04 | |
15年 | 30年 | 8,792万円 | 417万円 | 1.15 | |
20年 | 27年 | 7,856万円 | 400万円 | 1.20 | |
25年 | 22年 | 6,919万円 | 409万円 | 1.17 |
21通りのうち、DSCRが1.2以上になったのはRC造築20年の1ケースだけでした。木造は築年数にかかわらず全ケースでDSCRが1.0を下回っています。
木造の場合、積算価格が高い新築時ほど借入額も大きくなりますが、同時に融資期間が22年に制限されます。築年数が進むと借入額は減りますが、融資期間も同じスピードで短くなります。分子(借入額)と分母(期間)が同時に縮むため、年間返済額はほとんど下がらないか、逆に増えます。木造築20年では残存2年となり、年間返済額1,703万円という現実的でない数字になりました。
逆にRC造は、築15〜25年でも期間30年前後を確保できるため、借入額が7,000万円前後でも年間返済額は400万円台に収まります。DSCRが最も高くなったのはRC造築20年(1.20)で、新築(0.87)より良好でした。
ここが今回いちばん意外な結果です。「積算価格の70%」と「DSCR1.3を維持できる借入額」の2つを並べ、どちらが先に効くかを比較しました。
構造 | 築年数 | 期間 | 積算天井(70%) | DSCR1.3の天井 | 実質の借入上限 | 効いている条件 | 必要自己資金 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
木造 | 0年 | 22年 | 8,515万円 | 6,243万円 | 6,243万円 | DSCR | 1,757万円 |
5年 | 17年 | 7,216万円 | 5,109万円 | 5,109万円 | DSCR | 2,891万円 | |
10年 | 12年 | 5,917万円 | 3,825万円 | 3,825万円 | DSCR | 4,175万円 | |
15年 | 7年 | 4,618万円 | 2,369万円 | 2,369万円 | DSCR | 5,631万円 | |
20年 | 2年 | 3,320万円 | 720万円 | 720万円 | DSCR | 7,280万円 | |
鉄骨造 | 0年 | 30年 | 10,671万円 | 7,787万円 | 7,787万円 | DSCR | 213万円 |
10年 | 24年 | 8,356万円 | 6,659万円 | 6,659万円 | DSCR | 1,341万円 | |
15年 | 19年 | 7,198万円 | 5,580万円 | 5,580万円 | DSCR | 2,420万円 | |
20年 | 14年 | 6,041万円 | 4,358万円 | 4,358万円 | DSCR | 3,642万円 | |
25年 | 9年 | 4,883万円 | 2,973万円 | 2,973万円 | DSCR | 5,027万円 | |
RC造 | 0年 | 30年 | 11,600万円 | 7,787万円 | 7,787万円 | DSCR | 213万円 |
10年 | 30年 | 9,728万円 | 7,787万円 | 7,787万円 | DSCR | 213万円 | |
15年 | 30年 | 8,792万円 | 7,787万円 | 7,787万円 | DSCR | 213万円 | |
20年 | 27年 | 7,856万円 | 7,244万円 | 7,244万円 | DSCR | 756万円 | |
25年 | 22年 | 6,919万円 | 6,243万円 | 6,243万円 | DSCR | 1,757万円 |
15ケースすべてで、効いていた条件はDSCRでした。積算価格が借入上限を決めていたケースは一つもありませんでした。
木造新築のケースを見ると、積算価格は12,164万円で売出価格8,000万円を大きく上回り、掛目70%でも8,515万円と価格を超えます。数字だけ見れば「フルローンが出る物件」です。しかしDSCR1.3を維持できる借入額は6,243万円で、必要自己資金は1,757万円になりました。
RC造も同様です。築15年で積算価格12,560万円、掛目70%で8,792万円ですから担保は十分に余っています。それでもDSCR1.3の天井は7,787万円で、担保余力1,005万円分は使えません。
構造 | 築年数 | 積算天井 | DSCR1.2の天井 | 実質上限 | 必要自己資金 |
|---|---|---|---|---|---|
木造 | 0年 | 8,515万円 | 6,764万円 | 6,764万円 | 1,236万円 |
木造 | 10年 | 5,917万円 | 4,143万円 | 4,143万円 | 3,857万円 |
鉄骨造 | 0年 | 10,671万円 | 8,436万円 | 8,436万円 | 0円(フルローン可) |
鉄骨造 | 10年 | 8,356万円 | 7,214万円 | 7,214万円 | 786万円 |
RC造 | 10年 | 9,728万円 | 8,436万円 | 8,436万円 | 0円(フルローン可) |
RC造 | 20年 | 7,856万円 | 7,848万円 | 7,848万円 | 152万円 |
DSCR基準を1.3から1.2に緩めるだけで、鉄骨造新築とRC造築10年は計算上フルローンの領域に入ります。ここでもやはり天井はDSCR側で、DSCRを0.1動かすことのインパクトは、積算価格を数千万円積み上げることより大きいという結果になりました。
では、積算価格が借入上限を決めるのはどういう物件なのか。価格8,000万円・掛目70%・DSCR1.3・金利2.5%を固定したまま、「積算天井まで借りられるようになる表面利回り」を逆算しました。
構造 | 築年数 | 期間 | 積算天井 | 必要な表面利回り |
|---|---|---|---|---|
木造 | 0年 | 22年 | 8,515万円 | 10.91% |
10年 | 12年 | 5,917万円 | 12.38% | |
15年 | 7年 | 4,618万円 | 15.60% | |
20年 | 2年 | 3,320万円 | 36.91% | |
鉄骨造 | 5年 | 29年 | 9,513万円 | 10.00% |
15年 | 19年 | 7,198万円 | 10.32% | |
25年 | 9年 | 4,883万円 | 13.14% | |
RC造 | 10年 | 30年 | 9,728万円 | 9.99% |
15年 | 30年 | 8,792万円 | 9.03% | |
20年 | 27年 | 7,856万円 | 8.68% | |
30年 | 17年 | 5,983万円 | 9.37% |
最も条件の良いRC造築20年でも表面利回り8.68%が必要で、木造築15年では15.60%、築20年では36.91%という非現実的な水準になります。
つまり、表面利回り8%前後の物件では、積算価格をどれだけ積み上げても借入額は増えません。担保評価が借入額の制約になるのは、表面利回りが概ね9%を超える領域に入ってからです。
RC造築15年・期間30年に固定し、金利だけを動かしました。
金利 | 積算天井 | DSCR1.3の天井 | 実質上限 | 効いている条件 | 必要自己資金 |
|---|---|---|---|---|---|
1.5% | 8,792万円 | 8,916万円 | 8,792万円 | 積算 | 0円 |
2.0% | 8,792万円 | 8,325万円 | 8,325万円 | DSCR | 0円 |
2.5% | 8,792万円 | 7,787万円 | 7,787万円 | DSCR | 213万円 |
3.0% | 8,792万円 | 7,298万円 | 7,298万円 | DSCR | 702万円 |
3.5% | 8,792万円 | 6,852万円 | 6,852万円 | DSCR | 1,148万円 |
4.0% | 8,792万円 | 6,445万円 | 6,445万円 | DSCR | 1,555万円 |
金利1.5%では積算天井が効いていますが、金利1.5%から2.0%の間で天井がDSCR側に入れ替わります。そして金利2.5%から4.0%まで1.5ポイント上がると、実質の借入上限は7,787万円から6,445万円へ1,342万円減り、必要自己資金は213万円から1,555万円へ約7倍になります。
担保評価は金利が変わっても動きません。動くのはDSCR側だけです。金利上昇局面では、「同じ物件・同じ担保評価でも、必要自己資金が増える」という形で影響が出ます。
参考として、日本不動産研究所の同調査では、2027年3月末の長期金利水準を「2%超〜3%以下」と予想した回答が61.7%と最多でした。また今後のリスク要因として「金利の上昇」を挙げた回答は142社中122社と最も多く、次点の「建築費の高騰、管理費等ランニングコストの上昇」73社を大きく上回っています。
視点を変えて、自己資金1,000万円を固定した場合の購入可能価格を逆算しました。ここでは制約の緩い「積算×70%+自己資金1,000万円」で計算しています。
構造 | 築0年 | 築10年 | 築20年 | 築30年 |
|---|---|---|---|---|
木造 | 9,515万円 | 6,917万円 | 4,320万円 | 3,800万円 |
鉄骨造 | 11,671万円 | 9,356万円 | 7,041万円 | 4,726万円 |
RC造 | 12,600万円 | 10,728万円 | 8,856万円 | 6,983万円 |
ただし前述のとおり、この物件条件(表面8%)では実際にはDSCRが先に効くため、DSCR1.3基準で改めて逆算すると次のようになります。
融資期間 | 金利2.0% | 金利2.5% | 金利3.0% |
|---|---|---|---|
10年 | 3,344万円 | 3,264万円 | 3,187万円 |
15年 | 4,781万円 | 4,615万円 | 4,456万円 |
20年 | 6,082万円 | 5,807万円 | 5,548万円 |
25年 | 7,259万円 | 6,859万円 | 6,489万円 |
30年 | 8,325万円 | 7,787万円 | 7,298万円 |
NOI480万円でDSCR1.3を維持できる借入額は、期間10年なら3,264万円、期間30年なら7,787万円(いずれも金利2.5%)。金利0.5ポイントの差より、融資期間5年の差のほうがはるかに大きく効いています。期間20年→25年で1,052万円、25年→30年で928万円動くのに対し、金利2.0%→3.0%の差は期間30年でも1,027万円です。融資期間そのものがキャッシュフローと出口の手残りに与える影響は、融資期間25年・30年・35年で何が変わるか|自己資金4パターン×12通りでDSCR・CF・出口の手残りを検証で別途検証しています。
この条件では積算価格が借入額を決めていませんでした。ただし積算価格が無意味というわけではなく、担保余力は追加融資の可否、金融機関の稟議の通りやすさ、担保の差し替え、売却時の買主側の融資可否に影響します。借入額の上限を占う指標としてではなく、余力の指標として読むほうが実態に近いという結果です。
木造の担保評価は築1年で260万円落ちますが、より深刻なのは融資期間が同じスピードで短くなることです。木造築15年で期間7年、築20年で期間2年という計算になり、DSCRは0.67・0.28まで落ちました。築古木造で「利回りが高いから成立する」と考える場合、その高い利回りが融資期間の短さを補えるかを先に確認する必要があります。
RC造は法定耐用年数47年に対し融資期間の上限を30年としたため、築0〜17年の範囲では期間30年が確保できます。この間は築年数が進むほど借入額だけが下がり、期間は変わらないため、DSCRは改善します。新築0.87に対し築20年1.20という結果です。構造ごとに「DSCRが最も良くなる築年数帯」が存在することになります。ただしこれは返済余力だけの話で、修繕費や賃料下落は別途評価が必要です。
金利上昇の影響は、一般に「毎月の返済額が増える」と説明されます。今回の結果では、DSCRが天井になっている状況では返済額が増える前に、そもそも借りられる額が減るという形で先に現れます。金利2.5%→4.0%で借入上限は1,342万円減少しました。同じ物件を同じ価格で買うには、その分を自己資金で埋める必要があります。
この分析結果は、物件検討の順番に落とすと次のようになります。
今回のように、構造・築年数・融資期間・金利・DSCR・積算評価を同時に動かすと、確認すべき組み合わせは急速に増えます。表計算でも作れますが、条件を1つ変えるたびに全体を再計算する必要があります。RE-AIでは、こうした複数条件をまとめて確認できるよう設計しています。ただし実際の融資条件は金融機関ごとの内部基準で決まるため、試算はあくまで検討の出発点です。
今回の試算には、以下の重要な限界があります。
したがって本記事の数値は「この条件下ではこうなる」という条件付きの結果であり、個別物件の融資可否や適正価格を判定するものではありません。
収益還元価格・積算価格・DSCRは、それぞれ違う質問に答える指標です。収益還元価格は「その利回りを求める買主にとって妥当か」、積算価格は「担保余力がどれだけあるか」、DSCRは「いくらまで借りて返せるか」。この3つのうち、購入時に自己資金額を決めているのはDSCRでした。一方で、収益性は成立してもDSCR天井が低い物件は、出口で買主の融資が付きにくいという別の論点も残ります。単一の指標で買う・買わないを決められる構造ではありません。
情報確認日:2026年8月12日
期待利回り、長期金利見通し、建築価額表はいずれも時点依存のデータです。上記確認日以降に更新されている可能性があります。
データ区分の明示
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。