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価格査定

売出8,000万円の一棟アパート、銀行はいくらまで貸せるのか|収益還元価格・積算価格・DSCRの3つの天井を木造/鉄骨/RC×築0〜30年で試算

売出8,000万円の一棟アパート、銀行はいくらまで貸せるのか|収益還元価格・積算価格・DSCRの3つの天井を木造/鉄骨/RC×築0〜30年で試算

収益物件を検討していると、同じ物件に対して3つの違う「価格」が出てきます。売出価格、収益還元価格、そして銀行が担保として見る積算価格です。

3つの評価手法そのものの違いは収益物件の価格査定は何を見る?収益還元法・取引事例比較法・原価法の使い分けと確認手順で整理していますが、投資判断で本当に知りたいのは、その3つがズレたとき、結局いくら借りられて、自己資金はいくら必要になるのかです。

そこで今回は、売出価格8,000万円・年間満室家賃640万円(表面利回り8.0%)の一棟アパートという条件を固定したうえで、構造を木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造(RC造)の3パターン、築年数を0年から30年まで動かし、収益還元価格・積算価格・DSCRの3つの天井を21通り試算しました。

結果は、事前の想定とは逆でした。積算価格が借入額を決めているケースは、この条件下ではほぼ存在しませんでした。

この記事で検証する疑問

  • 同じ売出価格・同じ家賃の物件でも、構造と築年数で積算価格はどれだけ違うのか
  • 積算価格が売出価格を下回るのは築何年からか
  • 積算価格の70%まで借りられるとして、その借入額でDSCRは足りるのか
  • 結局、借入額の上限を決めているのは積算価格なのか、それとも家賃なのか
  • 自己資金1,000万円で買える上限価格は、構造と築年数でどう変わるのか

前提条件(すべてシミュレーション)

本記事の数値は、実際の物件統計や実際の融資実行データではなく、条件を固定したシミュレーションです。使用した建築単価と法定耐用年数は公開データですが、物件条件そのものは説明のために設定した架空ケースです。

固定した条件

項目

設定値

売出価格

8,000万円

年間満室家賃

640万円(表面利回り8.0%)

空室損

満室家賃の5%

運営費(管理費・修繕・税金等)

満室家賃の20%

NOI

480万円(=640×0.95−640×0.20)

土地面積

400㎡

延床面積

400㎡

土地の評価単価

10万円/㎡(土地評価4,000万円)

担保掛目

積算価格の70%

金利

年2.5%・元利均等

融資期間

法定耐用年数−築年数(上限30年)

変更した条件

  • 構造:木造 / 鉄骨造 / RC造
  • 築年数:0・5・10・15・20・25・30年
  • 還元利回り:4.5%〜8.0%

建物の再調達原価に使った公開データ

建物の再調達原価は、国税庁「建物の標準的な建築価額表」の令和5年分を使用しました。この表は国土交通省「建築着工統計」の構造別工事費予定額を床面積で割って算出されたものです。

構造

建築単価(令和5年)

法定耐用年数

延床400㎡の新築時建物評価

木造

204.1千円/㎡

22年

8,164万円

鉄骨造

281.1千円/㎡

34年

11,244万円

RC造

314.3千円/㎡

47年

12,572万円

建物評価は「再調達原価 × 延床面積 × (法定耐用年数−築年数)÷ 法定耐用年数」で計算し、積算価格は「土地評価+建物評価」としました。実際の金融機関は独自の再調達単価表や経済的残存耐用年数を使うため、この計算は金融機関の評価そのものではなく、その構造を模した試算です。積算価格の基本的な計算式(路線価×土地面積、再調達価格×延床面積×残存率)と、構造ごとの架空の計算例は積算価格はいくらになるかで詳しく解説しています。

結果1:収益還元価格は還元利回り3.5ポイントで4,667万円動く

まず収益還元価格です。NOI480万円を固定し、還元利回り(キャップレート)だけを変えました。

還元利回り

収益還元価格

売出8,000万円との差

4.5%

10,667万円

+2,667万円

5.0%

9,600万円

+1,600万円

5.5%

8,727万円

+727万円

6.0%

8,000万円

±0万円

6.5%

7,385万円

−615万円

7.0%

6,857万円

−1,143万円

7.5%

6,400万円

−1,600万円

8.0%

6,000万円

−2,000万円

還元利回り6.0%でちょうど売出価格と一致します。つまりこの物件は「還元利回り6.0%を許容できる買主にとっては適正価格、7.0%を求める買主には1,143万円高い」という関係です。

収益還元価格は物件の性能ではなく、買主が求める利回りで決まります。還元利回りを4.5%から8.0%まで動かすと価格は4,667万円動きました。売出価格の58%に相当する幅です。「収益還元法で計算したら妥当だった」という表現には、必ず「どの還元利回りを使ったか」がセットで必要になります。

売出価格を説明するために必要なNOIを計算する

参考:機関投資家の期待利回りとの距離

日本不動産研究所「第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)」の賃貸住宅一棟(ファミリータイプ)の期待利回りは、東京・城南3.6%、横浜・大阪4.2%、名古屋・福岡4.5%、札幌4.9%、仙台・広島5.0%でした。仮にこの水準を当てはめると、NOI480万円の収益還元価格は9,600万円〜13,333万円になります。

ただしこの調査は機関投資家が投資適格と考える都市部の物件を対象にした中央値であり、個人が購入する地方の一棟アパートにそのまま適用できる数字ではありません。個人向け一棟物件の実勢は、この水準よりかなり高い利回りで取引されるのが一般的です。ここでは「還元利回りの前提差が価格にどれだけ効くか」を示す参考としてのみ挙げています。

結果2:積算価格が売出価格を下回るのは、木造で築11年から

次に積算価格です。土地評価4,000万円を固定し、構造と築年数を変えました。

構造

築年数

建物評価

積算価格

積算×70%

8,000万円との差

木造

0年

8,164万円

12,164万円

8,515万円

+515万円

5年

6,309万円

10,309万円

7,216万円

−784万円

10年

4,453万円

8,453万円

5,917万円

−2,083万円

15年

2,598万円

6,598万円

4,618万円

−3,382万円

20年

742万円

4,742万円

3,320万円

−4,680万円

25年以上

0万円

4,000万円

2,800万円

−5,200万円

鉄骨造

0年

11,244万円

15,244万円

10,671万円

+2,671万円

10年

7,937万円

11,937万円

8,356万円

+356万円

15年

6,283万円

10,283万円

7,198万円

−802万円

20年

4,630万円

8,630万円

6,041万円

−1,959万円

25年

2,976万円

6,976万円

4,883万円

−3,117万円

30年

1,323万円

5,323万円

3,726万円

−4,274万円

RC造

0年

12,572万円

16,572万円

11,600万円

+3,600万円

10年

9,897万円

13,897万円

9,728万円

+1,728万円

15年

8,560万円

12,560万円

8,792万円

+792万円

20年

7,222万円

11,222万円

7,856万円

−144万円

25年

5,885万円

9,885万円

6,919万円

−1,081万円

30年

4,547万円

8,547万円

5,983万円

−2,017万円

転換点:積算価格が売出価格8,000万円を割る築年数

構造

積算価格が8,000万円を下回る築年数

積算×70%が8,000万円を下回る築年数

木造

築11.2年

築2.0年

鉄骨造

築21.9年

築11.5年

RC造

築32.0年

築19.2年

同じ売出価格8,000万円、同じ土地4,000万円、同じ家賃640万円という条件でも、積算価格が価格に届かなくなる築年数は木造11年・鉄骨造22年・RC造32年と、3倍近い差が出ました。

築1年で融資可能額はいくら減るか

法定耐用年数で定額に評価を落とす計算では、目減りは築年数に対して一定です。

構造

建物評価の年間目減り

積算×70%の年間目減り

木造

−371万円/年

−260万円/年

鉄骨造

−331万円/年

−231万円/年

RC造

−267万円/年

−187万円/年

木造の場合、築年数が1年進むだけで担保評価上の融資可能額が260万円落ちるという計算になります。5年落ちの物件と10年落ちの物件では、価格が同じでも積算ベースの融資枠に1,300万円の差が生まれます。

ここまでは「積算価格が高い物件のほうが融資が出やすい」という一般的な説明とおおむね一致します。しかし、ここから結果が変わります。

結果3:積算価格の70%まで借りると、DSCRが成立しない

積算価格の70%まで借りられたとして、その借入額を実際に返済できるのかを確認しました。融資期間は「法定耐用年数−築年数(上限30年)」、金利2.5%、DSCRは「NOI480万円÷年間返済額」で計算しています。DSCRという指標そのものの意味と目安は不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例で解説しています。

構造

築年数

融資期間

借入額(積算70%)

年間返済額

DSCR

木造

0年

22年

8,515万円

504万円

0.95

5年

17年

7,216万円

521万円

0.92

10年

12年

5,917万円

571万円

0.84

15年

7年

4,618万円

720万円

0.67

20年

2年

3,320万円

1,703万円

0.28

鉄骨造

0年

30年

10,671万円

506万円

0.95

10年

24年

8,356万円

463万円

1.04

15年

19年

7,198万円

476万円

1.01

20年

14年

6,041万円

512万円

0.94

25年

9年

4,883万円

606万円

0.79

RC造

0年

30年

11,600万円

550万円

0.87

10年

30年

9,728万円

461万円

1.04

15年

30年

8,792万円

417万円

1.15

20年

27年

7,856万円

400万円

1.20

25年

22年

6,919万円

409万円

1.17

21通りのうち、DSCRが1.2以上になったのはRC造築20年の1ケースだけでした。木造は築年数にかかわらず全ケースでDSCRが1.0を下回っています。

木造の場合、積算価格が高い新築時ほど借入額も大きくなりますが、同時に融資期間が22年に制限されます。築年数が進むと借入額は減りますが、融資期間も同じスピードで短くなります。分子(借入額)と分母(期間)が同時に縮むため、年間返済額はほとんど下がらないか、逆に増えます。木造築20年では残存2年となり、年間返済額1,703万円という現実的でない数字になりました。

逆にRC造は、築15〜25年でも期間30年前後を確保できるため、借入額が7,000万円前後でも年間返済額は400万円台に収まります。DSCRが最も高くなったのはRC造築20年(1.20)で、新築(0.87)より良好でした。

結果4:借入額の天井を決めていたのは、積算価格ではなくDSCRだった

ここが今回いちばん意外な結果です。「積算価格の70%」と「DSCR1.3を維持できる借入額」の2つを並べ、どちらが先に効くかを比較しました。

構造

築年数

期間

積算天井(70%)

DSCR1.3の天井

実質の借入上限

効いている条件

必要自己資金

木造

0年

22年

8,515万円

6,243万円

6,243万円

DSCR

1,757万円

5年

17年

7,216万円

5,109万円

5,109万円

DSCR

2,891万円

10年

12年

5,917万円

3,825万円

3,825万円

DSCR

4,175万円

15年

7年

4,618万円

2,369万円

2,369万円

DSCR

5,631万円

20年

2年

3,320万円

720万円

720万円

DSCR

7,280万円

鉄骨造

0年

30年

10,671万円

7,787万円

7,787万円

DSCR

213万円

10年

24年

8,356万円

6,659万円

6,659万円

DSCR

1,341万円

15年

19年

7,198万円

5,580万円

5,580万円

DSCR

2,420万円

20年

14年

6,041万円

4,358万円

4,358万円

DSCR

3,642万円

25年

9年

4,883万円

2,973万円

2,973万円

DSCR

5,027万円

RC造

0年

30年

11,600万円

7,787万円

7,787万円

DSCR

213万円

10年

30年

9,728万円

7,787万円

7,787万円

DSCR

213万円

15年

30年

8,792万円

7,787万円

7,787万円

DSCR

213万円

20年

27年

7,856万円

7,244万円

7,244万円

DSCR

756万円

25年

22年

6,919万円

6,243万円

6,243万円

DSCR

1,757万円

15ケースすべてで、効いていた条件はDSCRでした。積算価格が借入上限を決めていたケースは一つもありませんでした。

木造新築のケースを見ると、積算価格は12,164万円で売出価格8,000万円を大きく上回り、掛目70%でも8,515万円と価格を超えます。数字だけ見れば「フルローンが出る物件」です。しかしDSCR1.3を維持できる借入額は6,243万円で、必要自己資金は1,757万円になりました。

RC造も同様です。築15年で積算価格12,560万円、掛目70%で8,792万円ですから担保は十分に余っています。それでもDSCR1.3の天井は7,787万円で、担保余力1,005万円分は使えません。

DSCRを1.2に下げるとどうなるか

構造

築年数

積算天井

DSCR1.2の天井

実質上限

必要自己資金

木造

0年

8,515万円

6,764万円

6,764万円

1,236万円

木造

10年

5,917万円

4,143万円

4,143万円

3,857万円

鉄骨造

0年

10,671万円

8,436万円

8,436万円

0円(フルローン可)

鉄骨造

10年

8,356万円

7,214万円

7,214万円

786万円

RC造

10年

9,728万円

8,436万円

8,436万円

0円(フルローン可)

RC造

20年

7,856万円

7,848万円

7,848万円

152万円

DSCR基準を1.3から1.2に緩めるだけで、鉄骨造新築とRC造築10年は計算上フルローンの領域に入ります。ここでもやはり天井はDSCR側で、DSCRを0.1動かすことのインパクトは、積算価格を数千万円積み上げることより大きいという結果になりました。

結果5:逆算すると、積算天井まで借りるには表面利回り9〜12%が必要

では、積算価格が借入上限を決めるのはどういう物件なのか。価格8,000万円・掛目70%・DSCR1.3・金利2.5%を固定したまま、「積算天井まで借りられるようになる表面利回り」を逆算しました。

構造

築年数

期間

積算天井

必要な表面利回り

木造

0年

22年

8,515万円

10.91%

10年

12年

5,917万円

12.38%

15年

7年

4,618万円

15.60%

20年

2年

3,320万円

36.91%

鉄骨造

5年

29年

9,513万円

10.00%

15年

19年

7,198万円

10.32%

25年

9年

4,883万円

13.14%

RC造

10年

30年

9,728万円

9.99%

15年

30年

8,792万円

9.03%

20年

27年

7,856万円

8.68%

30年

17年

5,983万円

9.37%

最も条件の良いRC造築20年でも表面利回り8.68%が必要で、木造築15年では15.60%、築20年では36.91%という非現実的な水準になります。

つまり、表面利回り8%前後の物件では、積算価格をどれだけ積み上げても借入額は増えません。担保評価が借入額の制約になるのは、表面利回りが概ね9%を超える領域に入ってからです。

結果6:金利が上がると、天井の入れ替わりも起きる

RC造築15年・期間30年に固定し、金利だけを動かしました。

金利

積算天井

DSCR1.3の天井

実質上限

効いている条件

必要自己資金

1.5%

8,792万円

8,916万円

8,792万円

積算

0円

2.0%

8,792万円

8,325万円

8,325万円

DSCR

0円

2.5%

8,792万円

7,787万円

7,787万円

DSCR

213万円

3.0%

8,792万円

7,298万円

7,298万円

DSCR

702万円

3.5%

8,792万円

6,852万円

6,852万円

DSCR

1,148万円

4.0%

8,792万円

6,445万円

6,445万円

DSCR

1,555万円

金利1.5%では積算天井が効いていますが、金利1.5%から2.0%の間で天井がDSCR側に入れ替わります。そして金利2.5%から4.0%まで1.5ポイント上がると、実質の借入上限は7,787万円から6,445万円へ1,342万円減り、必要自己資金は213万円から1,555万円へ約7倍になります。

担保評価は金利が変わっても動きません。動くのはDSCR側だけです。金利上昇局面では、「同じ物件・同じ担保評価でも、必要自己資金が増える」という形で影響が出ます。

参考として、日本不動産研究所の同調査では、2027年3月末の長期金利水準を「2%超〜3%以下」と予想した回答が61.7%と最多でした。また今後のリスク要因として「金利の上昇」を挙げた回答は142社中122社と最も多く、次点の「建築費の高騰、管理費等ランニングコストの上昇」73社を大きく上回っています。

結果7:自己資金1,000万円で買える上限価格

視点を変えて、自己資金1,000万円を固定した場合の購入可能価格を逆算しました。ここでは制約の緩い「積算×70%+自己資金1,000万円」で計算しています。

構造

築0年

築10年

築20年

築30年

木造

9,515万円

6,917万円

4,320万円

3,800万円

鉄骨造

11,671万円

9,356万円

7,041万円

4,726万円

RC造

12,600万円

10,728万円

8,856万円

6,983万円

ただし前述のとおり、この物件条件(表面8%)では実際にはDSCRが先に効くため、DSCR1.3基準で改めて逆算すると次のようになります。

融資期間

金利2.0%

金利2.5%

金利3.0%

10年

3,344万円

3,264万円

3,187万円

15年

4,781万円

4,615万円

4,456万円

20年

6,082万円

5,807万円

5,548万円

25年

7,259万円

6,859万円

6,489万円

30年

8,325万円

7,787万円

7,298万円

NOI480万円でDSCR1.3を維持できる借入額は、期間10年なら3,264万円、期間30年なら7,787万円(いずれも金利2.5%)。金利0.5ポイントの差より、融資期間5年の差のほうがはるかに大きく効いています。期間20年→25年で1,052万円、25年→30年で928万円動くのに対し、金利2.0%→3.0%の差は期間30年でも1,027万円です。融資期間そのものがキャッシュフローと出口の手残りに与える影響は、融資期間25年・30年・35年で何が変わるか|自己資金4パターン×12通りでDSCR・CF・出口の手残りを検証で別途検証しています。

この結果から言えること

1. 積算価格は「借りられる額」より「担保余力」を見る指標として使う

この条件では積算価格が借入額を決めていませんでした。ただし積算価格が無意味というわけではなく、担保余力は追加融資の可否、金融機関の稟議の通りやすさ、担保の差し替え、売却時の買主側の融資可否に影響します。借入額の上限を占う指標としてではなく、余力の指標として読むほうが実態に近いという結果です。

2. 木造の築年数リスクは「担保評価」より「融資期間」に出る

木造の担保評価は築1年で260万円落ちますが、より深刻なのは融資期間が同じスピードで短くなることです。木造築15年で期間7年、築20年で期間2年という計算になり、DSCRは0.67・0.28まで落ちました。築古木造で「利回りが高いから成立する」と考える場合、その高い利回りが融資期間の短さを補えるかを先に確認する必要があります。

3. RC造は新築より築15〜25年のDSCRが良い

RC造は法定耐用年数47年に対し融資期間の上限を30年としたため、築0〜17年の範囲では期間30年が確保できます。この間は築年数が進むほど借入額だけが下がり、期間は変わらないため、DSCRは改善します。新築0.87に対し築20年1.20という結果です。構造ごとに「DSCRが最も良くなる築年数帯」が存在することになります。ただしこれは返済余力だけの話で、修繕費や賃料下落は別途評価が必要です。

4. 金利上昇は「借入額が減る」形で現れる

金利上昇の影響は、一般に「毎月の返済額が増える」と説明されます。今回の結果では、DSCRが天井になっている状況では返済額が増える前に、そもそも借りられる額が減るという形で先に現れます。金利2.5%→4.0%で借入上限は1,342万円減少しました。同じ物件を同じ価格で買うには、その分を自己資金で埋める必要があります。

投資判断への使い方

この分析結果は、物件検討の順番に落とすと次のようになります。

  1. まず期間を確認する。構造と築年数から想定される融資期間を出す。ここでDSCRの天井がほぼ決まります。
  2. 次にNOIを詰める。表面利回りではなく、空室損と運営費を引いたNOIで計算する。今回の条件では表面8%がNOI利回り6.0%になりました。計算手順は収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方にまとめています。
  3. DSCR天井と積算天井を両方出す。低いほうが実質の借入上限です。
  4. 差額を自己資金として見積もる。売出価格−実質借入上限が必要自己資金です。
  5. 金利を1〜1.5ポイント上げて再計算する。必要自己資金がどこまで増えるかを確認します。

今回のように、構造・築年数・融資期間・金利・DSCR・積算評価を同時に動かすと、確認すべき組み合わせは急速に増えます。表計算でも作れますが、条件を1つ変えるたびに全体を再計算する必要があります。RE-AIでは、こうした複数条件をまとめて確認できるよう設計しています。ただし実際の融資条件は金融機関ごとの内部基準で決まるため、試算はあくまで検討の出発点です。

この分析で分からないこと

今回の試算には、以下の重要な限界があります。

  1. 金融機関の実際の評価方法とは異なります。本記事は国税庁の建築価額表と法定耐用年数を使いましたが、実務では独自の再調達単価表、経済的残存耐用年数、建物の維持状態による調整、土地の形状・接道による補正が入ります。掛目70%も金融機関・属性によって変わります。
  2. 融資期間を「法定耐用年数−築年数」で機械的に置きました。実際には耐用年数超過でも融資する金融機関、逆に耐用年数より短くする金融機関の双方があります。借主の属性・年齢・自己資金・取引実績も期間に影響します。
  3. 建物の実際の状態を反映していません。同じ築15年でも、修繕履歴・設備更新状況・外壁や屋根の状態で収益力と評価は変わります。
  4. 個別物件の競争力・周辺供給・賃貸需要を織り込んでいません。家賃640万円が維持できるかは立地と競合次第です。
  5. 税務・売却時の市場環境を含みません。減価償却の効果、法人・個人の税率差、売却時のキャップレート変動は考慮外です。
  6. 相関と因果を区別する必要があります。「RC造のDSCRが良い」という結果は、融資期間の上限を30年に置いた前提から導かれたものです。前提を変えれば結論は変わります。RC造そのものが優れているという意味ではありません。
  7. 土地評価4,000万円を全ケースで固定しています。実際は構造の違いは立地の違いを伴うことが多く、木造アパートとRCマンションが同じ土地条件で並ぶケースは限られます。

したがって本記事の数値は「この条件下ではこうなる」という条件付きの結果であり、個別物件の融資可否や適正価格を判定するものではありません。

まとめ

  • 収益還元価格は、還元利回りを4.5%→8.0%に動かすと10,667万円→6,000万円と4,667万円変動した。価格の妥当性は「どの還元利回りを使うか」で決まる。
  • 積算価格が売出価格8,000万円を下回る築年数は、木造11.2年・鉄骨造21.9年・RC造32.0年。担保評価の年間目減りは木造260万円、RC造187万円(掛目70%後)。
  • 積算価格の70%まで借りると、21通りのうちDSCR1.2以上になったのはRC造築20年のみ。木造は全ケースで1.0未満だった。
  • 積算天井とDSCR天井を比較すると、15ケースすべてでDSCRが先に効いた。木造新築は積算8,515万円に対しDSCR天井6,243万円で、必要自己資金1,757万円。
  • 積算天井まで借りられるようになるには、表面利回り8.68〜36.91%が必要。表面8%前後の物件では積算価格を積み上げても借入額は増えない。
  • 金利2.5%→4.0%で実質借入上限は1,342万円減少し、必要自己資金は213万円→1,555万円になった。金利上昇は返済額増より先に「借入額の減少」として現れる。
  • DSCR1.3維持の借入上限は、金利0.5ポイントの差より融資期間5年の差のほうが大きい

収益還元価格・積算価格・DSCRは、それぞれ違う質問に答える指標です。収益還元価格は「その利回りを求める買主にとって妥当か」、積算価格は「担保余力がどれだけあるか」、DSCRは「いくらまで借りて返せるか」。この3つのうち、購入時に自己資金額を決めているのはDSCRでした。一方で、収益性は成立してもDSCR天井が低い物件は、出口で買主の融資が付きにくいという別の論点も残ります。単一の指標で買う・買わないを決められる構造ではありません。

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参考資料・出典

情報確認日:2026年8月12日
期待利回り、長期金利見通し、建築価額表はいずれも時点依存のデータです。上記確認日以降に更新されている可能性があります。

データ区分の明示

  • 公開データ:建築単価(国税庁)、法定耐用年数(国税庁)、期待利回り・長期金利予想・リスク要因(日本不動産研究所)
  • シミュレーション:収益還元価格、積算価格、DSCR、融資上限、必要自己資金、逆算した表面利回り・上限価格のすべて
  • 架空ケース:物件価格8,000万円、家賃640万円、土地400㎡・延床400㎡、路線価10万円/㎡、掛目70%、空室率5%、運営費率20%
  • 実データ:本記事では使用していません

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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