
収益還元法を調べると「直接還元法」と「DCF法」という2つの方法が出てきて、結局何が違うのか分からなくなった投資家に向けて、DCF法の計算方法と、直接還元法と比べたときに価格がどこまで動くのかを、架空の数値例で確認します。
収益還元法は、その不動産が生み出す収益から価格を逆算する考え方で、直接還元法とDCF法の2種類に分かれます。直接還元法の計算式や、提示価格の妥当性を自分で確認する手順については「収益物件の価格査定は何を見る?」で解説しています。この記事では、直接還元法よりも仕組みが複雑なDCF法に絞って、計算方法と直接還元法との違いを整理します。
DCF法(Discounted Cash Flow法)は、保有期間中の毎年の純収益(NOI)を現在価値に割り引いた金額の合計に、保有期間終了時点で売却すると想定した価格(復帰価格)の現在価値を加えて、収益価格を求める方法です。国土交通省の不動産鑑定評価基準では、DCF法による収益価格は「保有期間中の純収益の現在価値の総和」と「復帰価格の現在価値」の合計として定義されています。
計算式を分解すると、次の3つの要素が必要になります。
直接還元法は1年分の純収益だけを使うのに対し、DCF法は保有期間中の複数年の純収益の変化を織り込める点が最大の違いです。家賃下落や空室率の悪化を年ごとに反映できるほか、売却時点の還元利回りを購入時点と別の数値に設定できるため、「保有中に市場の期待利回りが上がった場合」のような変化も価格に反映できます。保有期間終了時点の還元利回りが変わったときの影響については「出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか」でも試算しています。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件データではありません。
初年度の純収益(NOI)を500万円とし、家賃下落を見込んで毎年1%ずつ減少すると仮定します。割引率は6.0%、保有期間は5年、出口時点の還元利回り(ターミナルキャップレート)は建物の経年により市場が求める利回りが上がると仮定し6.5%とします。
年 | NOI(万円) | 現在価値(万円) |
|---|---|---|
1年目 | 500.0 | 471.7 |
2年目 | 495.0 | 440.6 |
3年目 | 490.1 | 411.5 |
4年目 | 485.2 | 384.3 |
5年目 | 480.3 | 358.9 |
5年分の純収益の現在価値を合計すると約2,067万円になります。次に復帰価格を計算します。6年目の想定純収益(約475.5万円)をターミナルキャップレート6.5%で割り戻すと、復帰価格は約7,315万円です。これを5年分の割引率6.0%で現在価値に割り引くと、約5,467万円になります。
DCF法による収益価格=純収益の現在価値の合計(約2,067万円)+復帰価格の現在価値(約5,467万円)=約7,533万円
同じ初年度NOI500万円を使い、還元利回り6.0%で直接還元法を計算すると、価格は500万円÷6.0%=約8,333万円です。同じ物件・同じ初年度NOIを前提にしても、DCF法の方が約800万円(約9.6%)低い価格になりました。
この価格差は、DCF法が優れているから生じたわけではありません。「家賃が毎年1%下落する」「出口の還元利回りが購入時より0.5ポイント上がる」という、この試算独自の仮定を織り込んだ結果です。仮に家賃が下落せず、出口の還元利回りも購入時と同じ6.0%のままなら、DCF法の価格は直接還元法に近づきます。
ここはRE-AIが繰り返し伝えている考え方ですが、DCF法の価格は「入れた仮定」次第で数百万円単位で動きます。1つの割引率・1つの家賃下落率で出した価格を確定値のように扱うのではなく、金利や空室率と同じように複数のシナリオで動かして確認する視点が欠かせません。金利と空室率を同時に悪化させた場合にキャッシュフローがどこまで縮むかは「金利上昇×空室率、同時に悪化したら」で試算しています。
不動産鑑定評価基準では、直接還元法とDCF法のどちらを使うかについて「収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択する」とされています。個人投資家が提示価格を簡易的に確認する場合は、まず直接還元法で十分なケースが多く、その計算方法は「収益物件の価格査定は何を見る?」で解説しています。
一方で、長期保有を前提に家賃下落や修繕費の増加を織り込みたい場合や、IRR(内部収益率)とあわせて投資判断をしたい場合は、DCF法の考え方が役立ちます。純収益の計算方法そのものは直接還元法と共通しており、家賃収入から手残りまでの計算手順は「収益物件の収支計算完全ガイド」で整理しています。
DCF法は直接還元法より精緻に見えますが、割引率・家賃下落率・出口の還元利回りのすべてが仮定である点は変わりません。特に出口の還元利回りは、5年後・10年後の市場がどう動くかという予測であり、確実に当てられるものではありません。一部の紹介記事のように「DCF法の方が正確」と断定することはできず、どちらの方法も、使う数値次第で結果が変わる試算であることを踏まえて利用する必要があります。
複数の割引率・還元利回りのパターンで価格や借入可能額がどう動くかをまとめて確認したい場合は、RE-AIの無料診断でも価格・収支・融資条件を同時に確認できます。
DCF法は、保有期間中の純収益の変化と復帰価格を織り込んで価格を求める方法で、1年分の純収益だけを使う直接還元法と比べて、家賃下落や出口の還元利回りの変化を反映できる点が特徴です。ただし、その分だけ割引率や家賃下落率、出口の還元利回りという複数の仮定が結果を左右するため、1つの試算結果を鵜呑みにせず、条件を変えたときにどこまで価格が動くかを確認する姿勢が重要です。
※本記事で使用した割引率6.0%、出口の還元利回り6.5%、家賃下落率年1%は、DCF法の計算構造を説明するために設定した仮の数値であり、実勢データにもとづくものではありません。実際の水準は物件のエリアや種類により異なるため、個別の投資判断には利用しないでください。情報確認日:2026年8月18日。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。