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賃貸の需給が緩んでいるのは16県だけだった|貸家着工・滅失・世帯増から「純供給圧」を47都道府県で計算し、必要な利回りプレミアムを逆算

賃貸の需給が緩んでいるのは16県だけだった|貸家着工・滅失・世帯増から「純供給圧」を47都道府県で計算し、必要な利回りプレミアムを逆算

賃貸需要を調べるとき、多くの記事は人口や世帯数を見ます。しかし賃貸市場の空室は、需要が減ったときだけでなく、需要の伸び以上に新しい部屋が建ったときにも増えます。つまり需要側だけを見ていても、需給は分かりません。

そこで今回は、建築着工統計の「貸家着工戸数」と、住民基本台帳の「世帯増加数」、そして住宅・土地統計調査から逆算した「賃貸住宅の滅失率」を組み合わせ、1年あたり何ポイントずつ賃貸の需給が緩む(または締まる)のかを47都道府県で計算しました。

結果は直感に反するものでした。全国では賃貸の需給は年0.38ポイントずつ締まっています。緩んでいるのは16県だけで、そのトップは人口が増えているはずの熊本県でした。そして最も締まっているのが東京都です。

さらに、この「純供給圧」を投資判断へ翻訳し、DSCR1.2を維持するために必要な表面利回りがどこまで上がるかを逆算しました。物件価格を1円も決めずに答えが出る構造になっています。

この記事で検証した疑問

  • 新築の賃貸住宅は、増えた世帯数に対して多すぎるのか、少なすぎるのか
  • 賃貸住宅は年に何%が取り壊されているのか(公開データから逆算できるか)
  • 需給が緩むスピードは都道府県でどれだけ違うのか
  • その差は、購入時に要求すべき表面利回りを何ポイント動かすのか

賃貸の需給を1つの数字にする

賃貸住宅のストックは、毎年つぎの3つの力で増減します。

  • 新規供給:その年に着工された貸家
  • 滅失:取り壊されて市場から消える賃貸住宅
  • 需要の増加:新たに生まれた世帯

この3つを、いずれも「賃貸ストックに対する年率(%)」に揃えて差し引きしたものを、この記事では純供給圧と呼びます。

純供給圧(pt/年)= 新規供給率 − 滅失率 − 世帯増加率

純供給圧がプラスなら、その年は需要より供給が多く、需給は緩む方向です。マイナスなら締まる方向です。単位はポイント/年で、「空室率がこのペースで上がる(下がる)方向の力が働いている」という意味になります。

賃貸住宅の滅失率は年0.98%だった

滅失戸数は直接の統計がありません。そこで、ストックの実績と着工の実績から逆算しました。

住宅・土地統計調査によれば、居住中の借家と賃貸用の空き家を合わせた賃貸ストックは、2018年の2,339万2千戸から2023年の2,389万8千戸へ、5年間で50万6千戸増えています。一方、この5年間(2019〜2023年)の貸家着工は合計165万9,392戸でした。

差額の115万3千戸が、5年間で市場から消えた賃貸住宅ということになります。年あたり23万678戸、平均ストック2,364万5千戸に対して年0.98%です。

ちなみに同じ方法で住宅全体を計算すると、滅失率は年0.51%でした。賃貸住宅は住宅全体の約2倍のスピードで取り壊されていることになります。木造アパートの比率が高く、建て替えサイクルが短いことと整合します。

全国:賃貸の需給は年0.38ptずつ締まっている

2024年の実績を上の式に入れます。

項目

数値

賃貸ストック比

貸家着工戸数(2024年)

342,092戸

1.43%

滅失(逆算)

約230,678戸

−0.98%

世帯増加数(2024年中)

508,853世帯

−0.84%

純供給圧

−0.38pt/年

全国で見ると、新しく建つ貸家より、取り壊される分と新しく生まれる世帯の合計のほうが多いという結果です。需給は緩むどころか、年0.38ポイントずつ締まる方向に動いています。

この結果が妥当かを、別のデータで確かめます。賃貸住宅に占める賃貸用空き家の割合は、2018年が18.5%(4,327千戸÷23,392千戸)、2023年が18.6%(4,436千戸÷23,898千戸)でした。5年間でわずか0.1ポイントの上昇です。「賃貸の空室が全国的に急増している」というイメージとは異なり、実績もほぼ横ばいでした。計算結果と実績の方向は一致しています。

47都道府県の純供給圧

同じ計算を都道府県別に行いました。滅失率は全国値0.98%を全県共通で使用しています(後述の「分析の限界」を参照)。

順位

都道府県

貸家着工
(2024年・戸)

新規供給率
(%/年)

世帯増加率
(%/年)

純供給圧
(pt/年)

1

熊本県

7,722

2.64

0.77

+0.90

2

岩手県

2,487

1.60

0.05

+0.58

3

山形県

1,745

1.62

0.08

+0.57

4

宮城県

9,175

2.13

0.72

+0.43

5

北海道

17,158

1.50

0.11

+0.42

6

和歌山県

1,407

1.27

-0.05

+0.34

7

長崎県

2,876

1.38

0.12

+0.29

8

富山県

2,003

1.81

0.57

+0.27

9

山口県

2,254

1.07

-0.15

+0.24

10

秋田県

769

0.83

-0.35

+0.20

11

鳥取県

889

1.21

0.10

+0.13

12

島根県

982

1.12

0.02

+0.12

13

青森県

1,205

0.79

-0.24

+0.05

14

高知県

514

0.45

-0.57

+0.04

15

大分県

2,811

1.40

0.40

+0.02

16

鹿児島県

2,824

0.99

0.01

+0.00

17

広島県

6,766

1.32

0.36

-0.01

18

宮崎県

2,013

1.16

0.20

-0.02

19

佐賀県

1,835

1.67

0.77

-0.07

20

京都府

7,684

1.51

0.61

-0.08

21

滋賀県

3,488

1.89

1.00

-0.09

22

香川県

1,761

1.32

0.51

-0.17

23

岡山県

3,300

1.10

0.38

-0.25

24

福島県

2,437

0.96

0.27

-0.29

25

愛媛県

1,486

0.66

0.00

-0.32

26

石川県

1,347

0.82

0.19

-0.34

27

徳島県

715

0.67

0.04

-0.35

28

三重県

2,418

1.09

0.48

-0.36

29

奈良県

1,697

1.06

0.46

-0.37

30

大阪府

37,322

1.78

1.18

-0.37

31

長野県

3,250

1.27

0.68

-0.39

32

新潟県

2,121

0.87

0.33

-0.44

33

静岡県

6,157

1.17

0.66

-0.46

34

兵庫県

10,237

1.09

0.60

-0.48

35

千葉県

19,411

1.80

1.32

-0.49

36

岐阜県

2,740

1.23

0.77

-0.52

37

埼玉県

20,258

1.65

1.23

-0.56

38

神奈川県

27,044

1.40

1.02

-0.60

39

福岡県

17,497

1.43

1.07

-0.61

40

愛知県

19,877

1.40

1.09

-0.67

41

福井県

991

1.19

0.96

-0.75

42

茨城県

4,749

1.19

0.98

-0.76

43

群馬県

2,846

1.12

1.03

-0.88

44

沖縄県

5,202

1.32

1.30

-0.96

45

栃木県

2,321

0.85

0.86

-0.98

46

山梨県

868

0.75

0.77

-0.99

47

東京都

65,433

1.49

1.57

-1.05

数値は小数第3位以下を四捨五入しているため、表示上の「新規供給率 − 0.98 − 世帯増加率」と純供給圧が0.01ポイント程度ずれる場合があります。

緩んでいるのは16県だけだった

純供給圧がプラス、つまり需給が緩む方向にあるのは47都道府県中16です。残り31都府県はマイナスでした。

最大は熊本県の+0.90pt/年です。熊本県は世帯数が年0.77%増えており、決して需要が弱い県ではありません。しかし2024年の貸家着工が7,722戸(前年比+11.6%)と急増し、新規供給率が2.64%と全国最高になりました。需要が伸びている県でも、それ以上に建てば需給は緩みます。

2位以下は岩手県+0.58、山形県+0.57、宮城県+0.43、北海道+0.42と続きます。これらは供給率そのものが突出して高いわけではなく、世帯増加率がほぼゼロであることが効いています。

和歌山県(+0.34)、山口県(+0.24)、秋田県(+0.20)、青森県(+0.05)、高知県(+0.04)の5県は、世帯数が純減しているのに貸家が建っている県です。高知県の新規供給率0.45%は全国最低ですが、世帯増加率が−0.57%のため純供給圧はプラスに転じます。

東京都が最も締まっている

最もマイナスが大きいのは東京都の−1.05pt/年でした。東京都の新規供給率は1.49%で全国平均(1.43%)より高く、絶対戸数も6万5,433戸と全国の19%を占めます。それでも世帯増加率1.57%がそれを上回るため、需給は締まる計算になります。

ここが、貸家着工の絶対数だけを見ると判断を誤るポイントです。「東京は供給過剰」「地方は供給が少ないから安全」という見方は、ストック比と需要の伸びを揃えると逆になります。新規供給率と世帯増加率の相関係数は+0.49で、建つ場所と人が集まる場所はある程度重なっているためです。

賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかによる差については、賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかで、30年IRRは最大3.07pt変わるで別途検証しています。

純供給圧と空き家率には明確な相関がなかった

純供給圧が高い県では空き家率も高いのか。2023年住宅・土地統計調査の空き家率と突き合わせました。

組み合わせ

相関係数

純供給圧 × 空き家率(総数)

+0.25

純供給圧 × 賃貸・売却用空き家率

−0.24

いずれも弱く、方向も一致しません。単年の純供給圧から空き家率は説明できないという結果です。理由として次の3点が考えられます。

  • 空き家率は数十年かけて積み上がったストック指標であり、1年分のフロー指標とは時間軸が違う
  • 都道府県別に取得できるのは「賃貸用+売却用」の合算で、別荘地を抱える県(山梨11.7%、長野11.2%、静岡10.8%)では売却用が混ざる
  • 空き家率の調査時点は2023年10月、純供給圧は2024年の実績で、時点が異なる

つまり純供給圧は、空き家率の代替指標ではなく、これから需給がどちらへ動くかの方向を見る指標として使うのが妥当です。現時点の空室率そのものの調べ方はエリアの空室率の調べ方|「賃貸用空き家率」とポータル数値がズレる理由にまとめています。

なお、相関が弱いことは「供給が空室に影響しない」ことを意味しません。ここで確認できたのは、この2つの指標の間に単純な比例関係が見られなかったという事実だけです。

純供給圧を投資判断へ翻訳する

ここからは、純供給圧の差が購入条件をどれだけ動かすかを計算します。

分析条件

固定する条件

  • 運営費率:満室想定年間賃料の20%(管理委託料・修繕・保険・公租公課などを含む固定額として扱う)
  • 返済方式:元利均等
  • DSCRの基準:1.20
  • 現在の稼働率:95%
  • 純供給圧は今後10年間、2024年の水準が続くと仮定

変更する条件

  • 稼働率:75〜100%
  • LTV:70%・80%・90%
  • 金利:2.0〜3.5%
  • 純供給圧の稼働率への転嫁率:0%・50%・100%

基準となる融資条件は金利2.5%・期間25年としました。築浅の木造一棟アパートを地方銀行のアパートローンで購入する想定です。この記事の目的は「エリアによる需給差が購入条件をどれだけ動かすか」を測ることなので、金利や期間そのものは比較の土台として固定し、複数水準での感応度も併記します。

必要な表面利回りは、物件価格を決めなくても計算できる

DSCR1.2を満たす購入価格の上限は、次のように書けます。

NOI = 満室想定賃料 ×(稼働率 − 運営費率)
年間返済額 = 物件価格 × LTV × ローン定数K
DSCR = NOI ÷ 年間返済額 = 1.2

これを表面利回り(=満室想定賃料 ÷ 物件価格)について解くと、満室想定賃料も物件価格も約分されて消えます。

必要表面利回り = 1.2 × LTV × K ÷(稼働率 − 運営費率)

つまり必要な表面利回りは、物件が5,000万円でも2億円でも変わりません。決まるのは融資条件と稼働率だけです。ローン定数Kは金利2.5%・25年で5.383%になります。

稼働率

LTV70%

LTV80%

LTV90%

100%

5.65%

6.46%

7.27%

95%

6.03%

6.89%

7.75%

90%

6.46%

7.38%

8.31%

85%

6.96%

7.95%

8.94%

80%

7.54%

8.61%

9.69%

75%

8.22%

9.40%

10.57%

金利2.5%・25年・LTV80%・運営費率20%の前提。DSCR1.2を満たす必要表面利回り。

金利を変えると次のようになります。

稼働率

金利2.0%

金利2.5%

金利3.0%

金利3.5%

95%

6.51%

6.89%

7.28%

7.69%

90%

6.98%

7.38%

7.80%

8.24%

85%

7.51%

7.95%

8.40%

8.87%

80%

8.14%

8.61%

9.10%

9.61%

LTV80%・期間25年・運営費率20%の前提。

稼働率が95%から85%へ10ポイント下がる影響(+1.06pt)は、金利が2.5%から3.5%へ1.0ポイント上がる影響(+0.80pt)より大きいという関係になります。金利と空室を同時に動かした場合の影響は金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減るかでも検証しています。

今回の試算は稼働率95%・運営費率20%という固定値を置いています。実際のNOIは物件ごとに違うので、自分の満室想定家賃・空室率・運営費でDSCRを計算すると、手元の条件でどこまで返済余力があるかを確認できます。

供給プレミアム:需給の差は利回り何ポイントか

純供給圧が10年間続き、そのうち何割が稼働率の低下として現れるかを転嫁率と置きます。転嫁率0%は需給が緩んでも稼働率は下がらないケース、100%は純供給圧がそのまま空室率になるケースです。現実は、既存物件の競争力・賃料調整・立地内の偏りによって、その中間になります。

都道府県

純供給圧
(pt/年)

転嫁0%
稼働率/必要利回り

転嫁50%
稼働率/必要利回り

転嫁100%
稼働率/必要利回り

熊本県

+0.90

95.0%/6.89%

90.5%/7.33%

86.0%/7.83%

岩手県

+0.58

95.0%/6.89%

92.1%/7.17%

89.2%/7.47%

宮城県

+0.43

95.0%/6.89%

92.8%/7.10%

90.7%/7.31%

北海道

+0.42

95.0%/6.89%

92.9%/7.09%

90.8%/7.30%

大阪府

−0.37

95.0%/6.89%

96.9%/6.72%

98.0%/6.63%

東京都

−1.05

95.0%/6.89%

98.0%/6.63%

98.0%/6.63%

現在稼働率95%・LTV80%・金利2.5%・25年・運営費率20%・DSCR1.2。稼働率の上限は98%として頭打ちにしています。

転嫁率50%の場合、熊本県で購入するなら、東京都と同じ返済余力を10年後も維持するために表面利回りを0.70ポイント高く(7.33%対6.63%)買う必要がある計算になります。基準(現在95%)との差で見れば熊本県は+0.44ポイントです。

転換点を逆算すると、純供給圧が年1.01ポイントを超えると、必要表面利回りが0.5ポイント以上上がります(転嫁率50%の場合)。今回の47都道府県ではこの水準を超えた県はなく、最大の熊本県で+0.90でした。裏を返せば、都道府県単位の需給差は、必要利回りを0.5ポイント動かすほどではないということです。

これは重要な含意を持ちます。純供給圧が投資判断を左右するとすれば、都道府県より小さい単位——市区町村や駅勢圏——で見る必要があります。実際、同じ県内でも新築アパートが集中する地区と、まったく建たない地区があります。

損益分岐稼働率で余裕の大きさを測る

必要利回りは「買えるかどうか」の基準ですが、買った後にどこまで耐えられるかは損益分岐稼働率で測れます。税引前キャッシュフローがゼロになる稼働率です。

損益分岐稼働率 = 運営費率 + LTV × K ÷ 表面利回り

こちらも物件価格に依存しません。

表面利回り

LTV70%

LTV80%

LTV90%

6%

82.8%

91.8%

100.8%

7%

73.8%

81.5%

89.2%

8%

67.1%

73.8%

80.6%

9%

61.9%

67.9%

73.8%

10%

57.7%

63.1%

68.5%

12%

51.4%

55.9%

60.4%

金利2.5%・期間25年・運営費率20%。稼働率がこの値を下回ると税引前CFがマイナスになります。

表面利回り6%・LTV90%では損益分岐稼働率が100.8%となり、満室でも税引前CFがマイナスという計算です。一方、表面利回り8%・LTV80%なら73.8%まで耐えます。現在95%なら21.2ポイントの余裕があり、熊本県の純供給圧+0.90pt/年が100%転嫁されても、到達には23年以上かかる計算になります。

ここで注意すべきは、稼働率が下がる前に賃料が下がることが多い点です。需給が緩んだ市場では、オーナーは空室を埋めるために賃料を下げます。その場合、稼働率は維持されても満室想定賃料そのものが目減りし、実質的な影響は上の表より大きくなります。賃料下落の織り込み方は家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかで検証しました。

また上の表は全戸を平均した稼働率ですが、戸数が少ない物件ほど実際の稼働率は平均から大きく振れます。この点は「空室率5%」は平均値でしかない|4戸・8戸・12戸・20戸・30戸でDSCR1.2割れ確率を20万回試算で確認できます。

自分の物件の表面利回り・借入条件で損益分岐がどこに来るかは、キャッシュフローシミュレーターで年間・35年の収支を試算すると、金利と空室を同時に動かしたときの変化まで確認できます。

投資判断への使い方

今回の結果から、実務で使える判断軸は次のとおりです。

  • 貸家着工の絶対数では判断しない。東京都は全国の貸家着工の19%を占めますが、世帯増加率がそれを上回るため需給は締まる方向です。ストック比と需要の伸びを揃えて初めて比較できます。
  • 「人口が増えている県=安全」ではない。熊本県は世帯数が年0.77%増えていますが、供給がそれ以上に増え、純供給圧は全国最大でした。需要の伸びは供給を呼び込みます。
  • 世帯数が純減している県では、供給が少なくても需給は緩む。高知県の新規供給率0.45%は全国最低ですが、世帯増加率−0.57%のため純供給圧はプラスです。
  • 都道府県単位の差だけで購入可否を決めない。最大の熊本県でも、必要表面利回りへの影響は転嫁率50%で+0.44ポイントにとどまります。同じ投資判断を変えるほどの差を見つけるには、市区町村・駅勢圏まで解像度を上げる必要があります。
  • 影響が出るのは購入価格より融資条件と稼働率。必要表面利回りも損益分岐稼働率も物件価格に依存せず、LTV・金利・期間・稼働率だけで決まります。同じエリアでもLTV70%と90%では必要表面利回りが1.7ポイント以上違います。

エリアの需給を含めた総合的な見方は収益物件のエリア分析完全ガイド|人口・賃貸需要・空室率・再開発から購入判断を組み立てる、公的データの調べ方は賃貸需要の調べ方完全ガイドにまとめています。家賃下落率と出口利回りから購入価格を逆算する方法は人口減少エリアでも成立する購入価格を逆算するを参照してください。

この分析で分からないこと

  • 市区町村レベルの需給。都道府県内の分散は見ていません。同じ県でも新築が集中する地区とそうでない地区では需給が大きく異なります。
  • 滅失率の地域差。全国値0.98%を全県共通で使っています。築古木造アパートの比率が高い県では実際の滅失率はこれより高く、純供給圧は過大評価されている可能性があります。逆も同様です。
  • 借家ストックの推計誤差。都道府県別の借家戸数は「居住世帯のある住宅数 − 持ち家数」に全国比(0.893)を掛けて所有関係不詳を按分し、さらに賃貸用空き家分(全国比1.228倍)を加えた推計値です。全国合計は実績の2,389万8千戸と一致しますが、県別には誤差があります。
  • 世帯増加と賃貸需要の関係。世帯増加率をそのまま賃貸需要の伸びとみなしています。実際には新規世帯のうち持ち家を取得する割合、既存世帯の持ち家取得による賃貸からの流出があり、賃貸需要の伸びとは一致しません。
  • 単身用・ファミリー用の区分。貸家着工は間取り別に分けていません。単身用が過剰でファミリー用が不足しているといったミスマッチは捉えられません。
  • 公営住宅の扱い。建築着工統計の「貸家」には公的資金による貸家が含まれます。民営賃貸だけの需給を見る場合はこの分を差し引く必要があります。
  • 賃料の調整。需給の緩みは稼働率ではなく賃料で吸収されることがあります。今回の試算は稼働率だけで受け止めるモデルです。
  • 出口価格への影響。需給が緩むエリアでは出口利回りも上昇しやすく、売却価格が下がります。今回はDSCRと損益分岐稼働率のみを見ており、出口は織り込んでいません。
  • 単年のフローであること。2024年の1年分です。着工は景気・金利・相続税対策などで年ごとに大きく振れるため、継続して確認する必要があります。

相関についても補足します。純供給圧と空き家率の相関が弱かったことは、供給が空室に影響しないという意味ではありません。指標の時間軸が違うこと、データの時点がずれていること、賃貸用と売却用が分離できないことなど、複数の要因が考えられます。

まとめ

  • 貸家着工・滅失・世帯増加を賃貸ストック比に揃えて計算すると、全国の純供給圧は−0.38pt/年。賃貸の需給は締まる方向にある。
  • 賃貸住宅の滅失率は公開データから逆算して年0.98%。住宅全体(0.51%)の約2倍。
  • 純供給圧がプラスなのは16県。最大は熊本県+0.90pt/年で、世帯数が増えている県でも供給がそれ以上に増えれば需給は緩む。
  • 最も締まっているのは東京都(−1.05pt/年)。貸家着工の絶対数では判断できない。
  • 純供給圧と空き家率の相関は+0.25/−0.24と弱く、単年のフローから空き家率は説明できない
  • DSCR1.2に必要な表面利回りは物件価格に依存せず、LTV・金利・期間・稼働率だけで決まる。金利2.5%・25年・LTV80%・稼働率95%なら6.89%。
  • 純供給圧が10年続き50%が稼働率に転嫁されると、必要表面利回りは熊本県で+0.44ポイント。必要利回りが0.5ポイント上がる転換点は純供給圧+1.01pt/年で、今回はどの県も届かなかった。
  • 都道府県単位の需給差は、購入可否を単独で決めるほど大きくない。判断に効く差を見つけるには市区町村・駅勢圏まで解像度を上げる必要がある。

今回のように、供給・滅失・需要・融資条件・稼働率を同時に動かして確認しようとすると、表計算だけでは前提の管理が難しくなります。RE-AIでは、こうした複数条件を1つの診断でまとめて確認できるよう設計しています。ただしAIによる診断は投資判断を保証するものではなく、最終的な判断はご自身と専門家の確認によって行ってください。

参考資料・出典

本記事の数値は2026年9月15日時点で公表されている最新データに基づいています。

滅失率(年0.98%)、都道府県別の賃貸ストック推計、純供給圧、必要表面利回り、損益分岐稼働率はいずれも上記の公開データをもとにRE-AIが計算したものです。実際の物件統計ではなく、明示した前提条件による試算値です。

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鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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