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賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかで、30年IRRは最大3.07pt変わる|社人研の将来推計で19都道府県を試算

賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかで、30年IRRは最大3.07pt変わる|社人研の将来推計で19都道府県を試算

「このエリアは30年後に人口が4割減るから、投資対象にならない」——収益物件を検討していると、こうした説明をよく目にします。ただ、賃貸住宅を借りるのは「人」ではなく「世帯」です。人口が減っても世帯が分かれれば、借り手の数は人口ほどには減りません。

では、その違いは投資判断を変えるほどの大きさなのでしょうか。今回は国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計を使い、まったく同じ物件を、賃貸需要の分母を「人口」とした場合と「世帯数」とした場合の2通りで30年間シミュレーションし、通算IRR・キャッシュフロー・売却手取りがどれだけ変わるかを計算しました。

結論から書くと、19地域のうち差がもっとも大きかった秋田県で、通算IRRは4.82%と7.88%——同じ物件、同じ融資条件で3.07ポイントの開きが出ました。そして、どちらが正しいかを決める前に確認すべき前提が別にあることも分かりました。

この記事で検証する疑問

  • 都道府県別に見て、人口の減少率と世帯数の減少率はどれだけ違うのか
  • その違いは、同一物件の30年間のCF・IRR・売却手取りをどれだけ変えるのか
  • 賃貸需要が何%減ると、キャッシュフローやDSCRは危険域に入るのか(転換点)
  • 需要減少率ごとに、購入時の表面利回りは最低何%必要か(逆算)
  • 「世帯数は人口ほど減らない」を、そのまま安心材料にしてよいのか

出発点:人口と世帯数は、同じペースでは減らない

社人研は人口と世帯数を別々の推計として公表しています。総人口は『日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)』、世帯数は『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)(令和6年推計)』で、どちらも2020年(令和2年)を基準に2050年までを推計しています。

この2つを同じ表に並べると、両者が大きくずれていることが分かります。以下は、社人研の公表資料に数値が明記されている19地域を抜き出したものです(【公開データ】)。

地域

2050年 総人口
(2020年比)

2050年 一般世帯数
(2020年比)

乖離幅

全国

-17.0%

-5.6%

11.4pt

東京都

+2.5%

+9.9%

7.4pt

千葉県

-9.5%

+2.9%

12.4pt

埼玉県

-9.7%

+2.2%

11.9pt

神奈川県

-7.7%

+1.5%

9.2pt

宮城県

-20.5%

-6.1%

14.4pt

茨城県

-21.7%

-6.1%

15.6pt

栃木県

-22.3%

-7.7%

14.6pt

群馬県

-21.6%

-8.1%

13.5pt

石川県

-20.8%

-8.2%

12.6pt

福井県

-25.3%

-10.6%

14.7pt

富山県

-26.4%

-12.0%

14.4pt

福島県

-32.0%

-17.2%

14.8pt

新潟県

-30.7%

-18.3%

12.4pt

北海道

-26.9%

-18.4%

8.5pt

山形県

-33.4%

-20.7%

12.7pt

岩手県

-35.3%

-22.3%

13.0pt

青森県

-39.0%

-27.1%

11.9pt

秋田県

-41.6%

-29.1%

12.5pt

乖離がもっとも大きいのは茨城県で、人口は21.7%減るのに世帯数は6.1%減にとどまります。その差は15.6ポイント。千葉県・埼玉県・神奈川県にいたっては、人口が減るのに世帯数は増えます。原因は単純で、1世帯あたりの人数が減っているためです。社人研によれば平均世帯人員は2020年の全国2.21人から2050年に1.92人まで下がり、単独世帯の割合は38.0%から44.3%へ上昇します。

ここまでは公表資料を読めば分かる話です。問題は、この15.6ポイントの差が投資判断をどれだけ動かすのかが、どこにも書かれていないことです。

分析の前提条件

ここからは【シミュレーション】です。実在する物件の統計ではなく、条件を固定した計算であることを最初に明記します。

固定する条件(すべてのケースで共通)

項目

設定値

物件価格

8,000万円(一棟アパート・木造想定)

購入諸費用

物件価格の7%=560万円

満室想定年間家賃

640万円(表面利回り8.0%)

借入額

7,000万円(自己資金1,560万円)

金利/返済期間

年2.0%・30年・元利均等(年間返済額312.5万円)

運営費

満室家賃の20%=年128万円(金額固定)

初期空室率

5%

購入時NOI

640万円×95%−128万円=480万円(NOI利回り6.00%、DSCR1.536)

保有期間

30年(保有終了時に借入完済)

出口NOI利回り

7.5%(購入時6.0%から1.5pt上昇)

売却諸費用

売却価格の4%

変更する条件

変えるのは「30年間の賃貸需要の変化率」だけです。これを、

  • 人口ベース:社人研の2050年総人口(2020年比)をそのまま使う
  • 世帯ベース:社人研の2050年一般世帯数(2020年比)をそのまま使う

の2通りで設定し、30年間で年率一定の複利で変化すると仮定して各年に内挿しました。需要変化は実効収入(空室損と賃料下落を合わせた後の収入)に比例して効くものとします。つまり需要が20%減れば実効収入も20%減る、という単純比例の仮定です。

金利2.0%という設定は、日本銀行が2025年12月に政策金利を0.50%から0.75%へ引き上げ、2026年3月会合で据え置いた後の、アパートローンの下限帯にあたる水準を置いたものです(情報確認日:2026年8月17日)。金利を動かした場合は後半で別途検証します。

結果1:需要の分母を変えるだけで、通算IRRは最大3.07pt動く

同じ8,000万円・表面8.0%の物件を、19地域それぞれの人口ベース/世帯ベースで30年保有した結果です。IRRは自己資金1,560万円に対する税引前の通算内部収益率です。

地域

人口ベースで試算

世帯ベースで試算

IRR差

30年累計CF

売却手取り

通算IRR

30年累計CF

売却手取り

通算IRR

東京都

5,258万円

6,339万円

12.22%

5,942万円

6,914万円

12.92%

+0.70pt

千葉県

4,114万円

5,405万円

10.89%

5,296万円

6,370万円

12.26%

+1.37pt

神奈川県

4,289万円

5,545万円

11.11%

5,165万円

6,261万円

12.12%

+1.01pt

全国平均

3,373万円

4,821万円

9.90%

4,491万円

5,708万円

11.35%

+1.45pt

茨城県

2,898万円

4,455万円

9.19%

4,443万円

5,669万円

11.29%

+2.11pt

富山県

2,413万円

4,089万円

8.39%

3,869万円

5,210万円

10.57%

+2.18pt

北海道

2,361万円

4,051万円

8.30%

3,233万円

4,712万円

9.69%

+1.39pt

福島県

1,821万円

3,654万円

7.29%

3,353万円

4,805万円

9.87%

+2.58pt

山形県

1,670万円

3,545万円

6.99%

3,000万円

4,533万円

9.34%

+2.36pt

岩手県

1,464万円

3,397万円

6.54%

2,837万円

4,409万円

9.09%

+2.55pt

青森県

1,057万円

3,109万円

5.59%

2,340万円

4,035万円

8.26%

+2.68pt

秋田県

765万円

2,907万円

4.82%

2,129万円

3,879万円

7.88%

+3.07pt

読み取れることは3つあります。

1つめ。差は「人口減少が激しいエリアほど」大きくなります。東京都では0.70ptしか変わりませんが、秋田県では3.07pt変わります。人口で判断するのか世帯数で判断するのかという方法論の違いが、地方物件ほど結論を左右します。

2つめ。差は投資判断の閾値をまたぎます。秋田県のケースは、人口ベースなら通算IRR4.82%。自己資金を30年間拘束するリターンとしては物足りない水準です。世帯ベースなら7.88%で、多くの投資家の要求水準を満たします。同じ物件が、需要の見方ひとつで「見送り」にも「検討可」にもなるということです。

3つめ。累計CFの差は金額として大きい。秋田県で1,364万円、福島県で1,532万円の開きです。これは自己資金1,560万円とほぼ同じ規模の金額であり、誤差として無視できるものではありません。

結果2:転換点は「需要▲27.5%」にある

次に、地域名をいったん外し、需要変化率そのものを動かして、どこで何が起きるかを調べました。前提条件は上記と完全に同じで、変えたのは30年間の需要変化率だけです。

30年間の需要変化

30年目の実効収入

30年目のNOI

30年目の年間CF

30年目のDSCR

30年累計CF

売却手取り

通算IRR

0%

608.0万円

480.0万円

167.5万円

1.536

5,024万円

6,144万円

11.96%

-5%

577.6万円

449.6万円

137.1万円

1.438

4,548万円

5,755万円

11.42%

-10%

547.2万円

419.2万円

106.7万円

1.341

4,065万円

5,366万円

10.83%

-15%

516.8万円

388.8万円

76.3万円

1.244

3,573万円

4,977万円

10.18%

-20%

486.4万円

358.4万円

45.9万円

1.147

3,071万円

4,588万円

9.45%

-25%

456.0万円

328.0万円

15.5万円

1.049

2,558万円

4,198万円

8.64%

-30%

425.6万円

297.6万円

-14.9万円

0.952

2,034万円

3,809万円

7.71%

-35%

395.2万円

267.2万円

-45.3万円

0.855

1,497万円

3,420万円

6.62%

-40%

364.8万円

236.8万円

-75.7万円

0.758

945万円

3,031万円

5.30%

-45%

334.4万円

206.4万円

-106.1万円

0.660

377万円

2,642万円

3.65%

-50%

304.0万円

176.0万円

-136.5万円

0.563

-211万円

2,253万円

1.42%

境界値を細かく詰めると、この条件では次のようになります。

  • 需要▲17.3%:30年目のDSCRが1.2を割る
  • 需要▲27.5%:30年目の年間CFがゼロになり、同時にDSCRが1.0を割る
  • 需要▲41.0%:通算IRRが5.0%を割る
  • 需要▲48.2%:30年間の累計CFがマイナスに沈む
  • 需要▲52.4%:通算IRRがゼロ(=自己資金の元本割れ)になる

この転換点を先ほどの表に重ねると、意味が見えてきます。秋田県の世帯ベース(▲29.1%)は、30年目の年間CFがゼロになる境界(▲27.5%)をすでに超えています。「世帯数で見れば人口ほど減らないから大丈夫」という結論には、この条件では届きません。世帯ベースで見ても、保有終盤には毎年の手残りが消える計算です。

いっぽう茨城県の世帯ベース(▲6.1%)は、DSCR1.2割れの境界(▲17.3%)にも遠く届きません。同じ「人口が2割減るエリア」でも、秋田県と茨城県では立っている場所がまったく違います。

結果3:年次で追うと、どの年に折れるかが分かる

累計値だけを見ていると、いつ何が起きるのかが分かりません。秋田県のケースを年次で追いました。

経過年

世帯ベース(▲29.1%)

人口ベース(▲41.6%)

実効収入

年間CF

DSCR

実効収入

年間CF

DSCR

1年目

601.1万円

160.5万円

1.514

597.2万円

156.6万円

1.501

10年目

542.1万円

101.6万円

1.325

508.2万円

67.7万円

1.216

20年目

483.4万円

42.9万円

1.137

424.8万円

-15.8万円

0.950

30年目

431.1万円

-9.5万円

0.970

355.1万円

-85.5万円

0.727

人口ベースでは20年目にCFがマイナスへ反転し、世帯ベースでも30年目には赤字寸前です。1年目のDSCRはどちらも1.5台で、購入時点の数字だけを見れば安全に見えます。買った瞬間の指標は、30年後に何が起きるかを何も教えてくれないということが、この表の意味です。

なお、DSCRの読み方そのものについては「不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例」で整理しています。

逆算:需要減少率ごとに、必要な購入時表面利回りは何%か

ここまでは「表面8.0%で買ったらどうなるか」を見てきました。順序を逆にして、「通算IRR5.0%を確保するには、購入時の表面利回りが最低いくら必要か」を逆算します。価格8,000万円・自己資金1,560万円・金利2.0%・30年・出口NOI利回り7.5%をすべて固定し、満室想定家賃だけを動かして求めました。

30年間の需要変化

必要な満室年間家賃

必要な購入時表面利回り

該当する地域の例

±0%

463万円

5.79%

-5.6%

480万円

6.00%

全国平均(世帯ベース)

-10.0%

494万円

6.18%

富山県(世帯ベース)近傍

-17.0%

520万円

6.50%

全国平均(人口ベース)

-20.0%

532万円

6.65%

山形県(世帯ベース)近傍

-27.1%

563万円

7.04%

青森県(世帯ベース)

-29.1%

573万円

7.16%

秋田県(世帯ベース)

-35.0%

604万円

7.55%

岩手県(人口ベース)近傍

-41.6%

644万円

8.05%

秋田県(人口ベース)

この表は、地方の高利回り物件を検討するときの換算表として使えます。たとえば——

秋田県で表面8.05%の物件を買うことは、需要が横ばいのエリアで表面5.79%の物件を買うことと、30年通算IRRの上では同じです。

「地方だから利回りが高い」のではなく、高い利回りは需要縮小の対価として最初から差し引かれているという見方になります。表面利回りの差2.26ポイントは、そのままリスクプレミアムの実額です。逆に言えば、需要が▲29.1%と見込まれるエリアで表面7.0%しか出ていない物件は、この条件では要求水準に届いていない、と機械的に判定できます。

購入価格そのものを逆算する切り口については、「人口減少エリアでも成立する購入価格を逆算する|家賃下落率×空室率×出口利回りを24通り試算」で別の角度から検証しています。

複合ストレス:金利が同時に上がるとどうなるか

現実には、需要縮小と金利上昇が同時に起きる可能性があります。人口ベースの需要変化を固定したまま、金利だけを2.0%から3.5%まで動かしました。

地域(人口ベース)

金利2.0%

金利2.5%

金利3.0%

金利3.5%

東京都(+2.5%)

12.22%

11.12%

10.03%

8.95%

茨城県(-21.7%)

9.19%

7.94%

6.70%

5.48%

北海道(-26.9%)

8.30%

7.00%

5.70%

4.43%

岩手県(-35.3%)

6.54%

5.12%

3.70%

2.31%

秋田県(-41.6%)

4.82%

3.24%

1.68%

0.15%

注目したいのは金利1.5ポイント上昇の重みが、エリアによって違うことです。東京都は3.27pt低下にとどまりますが、秋田県は4.67pt低下し、IRRはほぼゼロになります。需要が縮小するエリアではNOIの絶対額が小さくなっていくため、同じ金利上昇でも吸収余力が残っていないからです。

需要リスクと金利リスクは足し算ではなく、掛け算で効きます。「地方だが高利回りなので金利が上がっても大丈夫」という説明は、この計算では成り立ちません。

ただし「世帯数=賃貸需要」ではない

ここまで読むと「世帯ベースで見れば地方物件はまだ戦える」という結論に見えるかもしれません。しかし、この分析でもっとも注意が必要なのはここです。

世帯数が減らないことと、賃貸住宅の需要が減らないことは、別の話です。世帯数の減少が緩やかなのは、単独世帯と高齢世帯が増えて世帯が細分化しているためであり、その中身を見ると賃貸需要としての性質はかなり異なります。同じ社人研の推計から、いくつか数字を挙げます。

  • 世帯数を支えているのは高齢世帯です。2050年に一般世帯総数に占める世帯主65歳以上の世帯の割合は、秋田県で60.6%、東北・四国など21県で50%を超えます(東京都は35.6%)。世帯数は残っても、その6割が高齢世帯という地域が出てきます。
  • 高齢単身世帯は持ち家に住み続ける割合が高く、新規の賃貸需要には直結しにくい。また施設への移行も増えます。2050年の施設等の世帯人員の割合は青森県6.6%、秋田県6.2%、長崎県6.0%で、東京都の2.1%の3倍前後です。
  • そもそも地方では単独世帯すら減り始めます。全国では2050年の単独世帯数は2020年比+10.2%ですが、高知県▲15.3%、秋田県▲12.4%、青森県▲12.2%など15道県では減少します。世帯細分化による下支えは、人口減少が最も激しい地域では効きません。
  • 世帯主65歳以上の世帯数そのものも、16県では2050年に2020年を下回ります(秋田県▲13.9%、山口県▲12.3%、高知県▲11.7%)。高齢化による世帯数の下支えにも期限があります。

加えて、方法論上の注意もあります。人口が減った地域で家賃が下がったという関係が観察されたとしても、人口減少だけが原因だと断定はできません。同時期の新築供給量、既存ストックの除却ペース、雇用や大学の立地、金利環境、建築費の推移も家賃に影響します。今回のシミュレーションは「需要が◯%減ったら実効収入が◯%減る」という単純比例を置いただけであり、需給の実際の弾力性を測定したものではありません。

したがって、この分析から言えるのは「世帯ベースが正しい」ではなく、「人口ベースと世帯ベースの間に、投資判断が変わるほどの幅がある。だから両方を計算して、狭い方(保守側)でも成立するかを確認するべきだ」ということです。

出口利回りを動かしても結論は変わるか

ここまでの試算は出口NOI利回りを7.5%で固定していました。実際には需要が縮小する地域ほど出口利回りは高く(=売却価格は安く)なる可能性があります。そこで、秋田県のケースで出口利回りだけを動かしました。

出口NOI利回り

世帯ベース(▲29.1%)

人口ベース(▲41.6%)

7.5%

7.88%

4.82%

8.5%

7.62%

4.40%

9.5%

7.39%

4.03%

10.5%

7.19%

3.69%

12.0%

6.93%

3.23%

出口利回りを7.5%から12.0%まで4.5ポイント動かしても、IRRの低下は世帯ベースで0.95pt、人口ベースで1.59ptにとどまります。30年保有では出口価格の影響はかなり薄まるためです(借入を完済し終えており、キャッシュの大半を運営期間中に回収しているため)。今回の結論——需要の分母をどう置くかでIRRが最大3.07pt動く——は、出口の置き方を変えても覆りません。

ただしこれは保有30年だからで、保有期間が短いほど出口の重みは跳ね上がります。この点は「出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるか|保有5年・10年・15年・20年で検証」で、保有5年なら出口利回り+1ptでIRRが11.92pt下がることを検証しています。

投資判断への使い方

今回の計算から、実際の物件検討で使える手順を整理します。

  1. エリアの数字を2つ集める。社人研の将来推計から、対象エリアの総人口と一般世帯数の両方を確認します。都道府県単位だけでなく市区町村別の人口推計も公表されています。
  2. 保守側(人口ベース)で成立するかを先に見る。両方で計算し、悪い方でも要求水準を満たすなら、需要の見立て違いによって判断が覆るリスクは小さくなります。
  3. 「需要▲27.5%」を目安に持っておく。この条件(表面8.0%・自己資金1,560万円・金利2.0%・30年)では、需要が3割近く減ると保有終盤の年間CFが消えます。エリアの見込み減少率がこれを超えるなら、利回りか自己資金かどちらかの条件を変える必要があります。
  4. 必要表面利回りに換算して比較する。需要▲29.1%なら表面7.16%、▲41.6%なら表面8.05%。この換算をしないと、都市部の6%台物件と地方の8%台物件を同じ土俵で比べられません。
  5. 世帯数の「中身」まで確認する。世帯数が横ばいでも、その増分が高齢単身世帯なら賃貸需要としては期待しにくい。対象物件のターゲット層(学生・単身社会人・ファミリー)に対応する世帯類型が伸びているかを、家族類型別の推計で確認します。

エリアデータの具体的な集め方は「賃貸需要の調べ方完全ガイド|収益物件のエリア判断に使う公的データと読み方」にまとめています。人口減少エリアへの投資の是非そのものについては「「人口減少エリアは危ない」は本当か。賛成派と反対派、それぞれの根拠」で両論を整理しました。

今回のように、需要変化・金利・出口利回り・保有年数を同時に動かすと、確認すべき組み合わせは急速に増えます。表計算ソフトで1本ずつ作ると見落としが起きやすい領域です。RE-AIでは、こうした複数条件をまとめて確認できるように設計しています。ただし将来推計はあくまで仮定値であり、AIの計算結果が投資の成否を保証するものではありません。

この分析で分からないこと

今回のシミュレーションには、次の限界があります。

  1. 都道府県単位の推計しか使っていません。賃貸需要は同じ県内でも駅距離や学区で大きく違います。県平均が▲29.1%でも、中心市街地の駅近と郊外では別の数字になります。
  2. 需要と実効収入を単純比例で結びました。実際には供給側(新築着工と既存ストックの除却)が同時に動くため、需要が20%減っても空室率や家賃が20%分そのまま悪化するとは限りません。逆に供給過剰なら、より悪化する可能性もあります。
  3. 運営費を年128万円の固定額としました。築年数が進めば修繕費は増えますし、物価上昇も反映していません。修繕費の実態については「修繕費「家賃の5%」で足りるのか|国交省の長期修繕計画事例4件から逆算し、CF・DSCR・IRRへの影響を検証」を参照してください。
  4. 大規模修繕と入退去コストを織り込んでいません。初期空室率5%という置き方が実態より楽観的である点は「「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せる|退去1回30.7万円の入替コストを平均入居年数3年3ヶ月〜8年で試算」で検証しています。
  5. すべて税引前の計算です。減価償却、所得税・住民税、売却時の譲渡所得税は含めていません。個人か法人か、保有年数が5年超かでも結果は変わります。
  6. 将来推計そのものが確定値ではありません。社人研の推計は過去の趨勢を延長した仮定値であり、移動率や出生率の前提が変われば結果も変わります。国勢調査ごとに改定されます。
  7. 個別物件の競争力は一切考慮していません。同じエリアでも、間取り・設備・管理状態によって稼働率は大きく変わります。エリアの需要が縮小しても、競合より選ばれ続ける物件は存在します。

まとめ

  • 2050年に向けて、人口の減少率と世帯数の減少率は都道府県で最大15.6ポイント(茨城県)乖離する。千葉・埼玉・神奈川は人口が減るのに世帯数は増える。
  • 価格8,000万円・表面8.0%・金利2.0%・30年という同一条件で試算すると、賃貸需要の分母を人口とするか世帯数とするかで通算IRRは最大3.07pt(秋田県:4.82%と7.88%)変わる。地方ほど差が大きい。
  • この条件での転換点は、需要▲17.3%でDSCR1.2割れ、▲27.5%で30年目の年間CFがゼロ、▲41.0%で通算IRR5%割れ、▲52.4%で元本割れ。
  • 逆算すると、通算IRR5.0%の確保に必要な購入時表面利回りは、需要横ばいで5.79%、▲29.1%で7.16%、▲41.6%で8.05%。地方の高利回りは需要縮小の対価として最初から差し引かれている。
  • 金利上昇の影響は需要縮小エリアほど大きい。金利2.0%→3.5%で東京都は3.27pt低下だが秋田県は4.67pt低下し、IRRはほぼゼロになる。
  • ただし世帯数を賃貸需要と同一視してはいけない。2050年の秋田県では世帯の60.6%が世帯主65歳以上、単独世帯数自体も▲12.4%。世帯細分化による下支えは、人口減少が最も激しい地域では働かない。
  • 実務的な結論は「どちらが正しいか」ではなく、保守側(人口ベース)でも成立するかを先に確認すること。

参考資料・出典

  • 国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)-令和2(2020)~32(2050)年-』(都道府県別総人口・指数)
    https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/t-page.asp
  • 国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)(令和6(2024)年推計)-令和2(2020)~32(2050)年-』(一般世帯総数・家族類型別世帯数・平均世帯人員・施設等の世帯人員割合)
    https://www.ipss.go.jp/pp-pjsetai/j/hpjp2024/t-page.asp
  • 国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6(2024)年推計)』(全国の単独世帯割合・平均世帯人員)
    https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/t-page.asp
  • 日本銀行 金融政策決定会合(政策金利の水準:2025年12月に0.50%→0.75%へ引き上げ、2026年3月会合で据え置き)
    https://www.boj.or.jp/

本記事の数値のうち、人口・世帯数は上記の公的推計から引用した【公開データ】、収支・IRR・DSCR・転換点はすべて記載の前提条件にもとづく【シミュレーション】です。RE-AIの診断実績データは使用していません。情報確認日:2026年8月17日。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

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