
「この利回り、本当に達成できるのか」「営業担当に契約を急かされているが、この物件は大丈夫なのか」——不動産投資の勧誘や販売図面を前にしたとき、多くの個人投資家が感じる不安です。この記事では、詐欺の手口を並べるだけでなく、表示されている利回り・レントロール・融資条件を自分の手で数値検証する具体的な方法を解説します。
独立行政法人国民生活センターが2019年3月28日に公表した資料によると、2018年度に寄せられた投資用マンションに関する相談は1,350件、うち20歳代からの相談は405件で、2013年度の160件から約2.5倍に増加しています。同資料では、20歳代の平均契約購入金額は2,776万円と報告されています。これは投資用区分マンションの勧誘トラブルを中心とした2018年度時点のデータであり、現在の相談件数や一棟収益物件全体の傾向をそのまま示すものではありませんが、「強引な勧誘」や「説明と実態の乖離」が継続的に相談の中心になってきたことがわかります。
手付金詐欺、二重譲渡、根拠のない将来性の強調など、不動産投資詐欺の類型はすでに多くのメディアで紹介されています。しかし、いま検討している物件や営業トークがどの類型に該当するのかは、手口の名前を知っているだけでは判断できません。必要なのは、販売資料に書かれている利回りやレントロールの数字を、自分で再計算して整合性を確認する習慣です。以下では、収益還元法とDSCR(債務償還比率)という2つの指標を使って、表示条件の妥当性を検証する手順を、架空の物件例で確認します。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件や取引を示すものではありません。
価格4,200万円、木造8戸のアパートで、販売図面には「満室想定表面利回り9.2%」と記載されているとします。逆算すると、満室想定家賃の合計は年間386.4万円、1戸あたり月額40,250円です。8戸のうち6戸は現在この水準で入居中で家賃実績があるものの、空室2戸の「想定家賃」も同じ40,250円で計上されているとします。ここで、周辺の募集事例を確認した結果、同条件の部屋の実勢家賃はこれより月5,000円低いと分かった場合、空室2戸分で年間12万円、満室想定家賃全体では374.4万円まで下がります。この時点で表面利回りは9.2%ではなく、実質8.91%です。
次に、この実勢家賃をもとに収益還元法で価格の妥当性を確認します。運営費率を家賃収入の20%と仮定するとNOI(純営業収益)は約299.5万円です。この地域・築年数クラスの還元利回りを仮に7.5%とすると、収益価格は299.5万円÷7.5%で約3,994万円となり、表示価格4,200万円との差は約206万円(約4.9%)です。この差が、説明のつく範囲(立地評価や設備水準など)か、それとも根拠の薄い上乗せかを、次に確認すべきポイントになります。
この収益価格の試算は、家賃条件を自分で入力し直すだけで確認できます。収益還元法で物件価格を試算する(無料)を使うと、還元利回りや家賃条件を変えながら、表示価格との乖離を素早く確認できます。
販売資料に「家賃保証あり」「サブリースで安心」と書かれている場合も、保証家賃が将来どう変わり得るかを、返済能力の指標であるDSCRで試算しておく必要があります。先ほどの物件例で、自己資金630万円(価格の15%)、借入3,570万円、金利2.5%、融資期間25年とすると、年間元利返済額は約192.2万円です。
表示された満室想定家賃をもとにしたNOIでDSCRを計算すると約1.61倍、実勢家賃で再計算したNOIでは約1.56倍です。ここまでは大きな問題に見えません。しかし、サブリース契約は多くの場合、契約から2年程度で保証家賃が見直される条項が含まれています。仮に保証家賃が10%下がるとDSCRは約1.40倍、20%下がると約1.25倍まで低下します。一般に金融機関の融資審査ではDSCR1.2〜1.3が目安とされることが多く、保証家賃の見直し幅次第では、返済に余裕がない水準まで落ち込む可能性があります。
保証家賃が何%下がるとDSCRがいくらになるかは、借入条件によって変わります。DSCRを無料で計算するで、自分が検討している借入額・金利・家賃下落幅を入れて試算しておくと、営業担当の説明を鵜呑みにせずに判断できます。
2018年には、金融機関が投資用不動産向け融資で審査書類の改ざんを見過ごしていた問題が明らかになり、金融庁が当該金融機関に業務改善命令を出しました。焦点の一つが、実際の売買価格より高い金額を記載した「二重の売買契約書」や、自己資金・年収を実態より多く見せる資料が審査に使われていた点です。個人投資家の側でも、「このほうが融資が通りやすい」といった理由で、実態と異なる金額の記載された契約書や資料への署名を勧められた場合は、応じるべきではありません。契約書の記載価格と実際の支払額が一致しているか、自己資金の出どころを裏付ける通帳等の資料と申告内容が一致しているかは、契約前に自分で確認できる項目です。
数値検証に加えて、次の点も契約前に確認しておくと安心です。宅地建物取引業者の免許番号は、国土交通省の「宅建業者検索システム」で行政処分歴の有無を確認できます。レントロールの見方については「レントロールの見方|賃料のばらつきや入居日の偏りが意味するリスクを読み解く」で詳しく解説しています。また、契約後に「満室」表示と実態が異なっていたことが判明した場合の対応については「収益物件の契約不適合責任とは」も参考になります。「今日中に決めないと他の人に取られる」といった急かし方をされた場合は、一度持ち帰って検証する時間を確保することが基本です。不安がある場合は、国民生活センターの消費生活相談窓口(電話番号188)や、都道府県の宅建業担当課への相談も選択肢になります。
不動産投資詐欺への対策は、手口のパターンを覚えることだけでは不十分です。表示利回りの前提になっている家賃が実勢と合っているか、その価格を収益還元法で再計算するとどうなるか、保証家賃が見直された場合にDSCRがどこまで下がるか——これらを自分の手で試算する習慣が、契約前の最後の歯止めになります。個別の物件について収益性・価格・融資・リスクを総合的に確認したい場合は、RE-AIの無料診断で物件情報を入力し、複数の観点からの評価を確認することもできます。
本文中の物件価格・家賃・利回り・融資条件は、検証手順を理解しやすくするために設定した架空の数値例であり、実在の物件・統計上の平均値を示すものではありません。制度・金利・保証条件は変更される場合があるため、最新の情報は各公的機関・金融機関でご確認ください。(情報確認日:2026年9月23日)
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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