
「金利が上がってから、収益物件の返済がギリギリになった」「空室が増えて、家賃収入だけでは毎月の返済を払いきれない」——そんな状態になったとき、多くの人が最初に検索するのは「売るべきか」です。しかし実際には、売るかどうかの前に確認すべき段階がもう一つあります。本記事では、不動産投資ローンの返済が厳しくなったときの3つの選択肢(リスケジュール・任意売却・競売)の違いと、何を基準にどちらへ進むべきかを、架空の数値例で整理します。
返済が厳しいと感じたとき、取れる選択肢の幅は「気づいた時点」によって大きく変わります。一般的な住宅ローン・事業用ローンの滞納では、おおむね次のような流れをたどるとされています。
重要なのは、滞納する前に動けるかという点です。滞納が進むほど、金融機関との交渉余地は狭くなり、最終的には任意売却という選択肢すら取れなくなることがあります。DSCR(NOI÷年間返済額)が1.0を下回ったという事実そのものより、「その状態に気づいてから、滞納する前に金融機関へ相談できたか」のほうが、使える選択肢の数を左右します。
リスケジュールとは、金融機関と協議して返済条件そのものを見直すことです。一般的には、返済期間の延長、一定期間の元金返済の据置(利息のみの支払いに切り替える)、返済額の一時的な減額などが選択肢になります。不動産投資ローンでは、住宅ローンと異なり借り手が事業者(個人事業主・法人)として扱われるため、事業の収支計画書や今後のキャッシュフロー見通しの提出を求められることが一般的です。
リスケジュールは、滞納が始まる前、できれば「このままだと数ヶ月後に厳しくなりそうだ」と分かった時点で相談するほど選択の幅が広がります。滞納後の相談でも応じてもらえる場合はありますが、金融機関側の判断材料として「滞納していない間に自ら相談してきたか」が重みを持つことがあります。
リスケジュールに応じてもらえても、無条件ではありません。多くの金融機関では返済条件の変更に事務手数料がかかり、また一度リスケジュールをした履歴は、次の物件購入時の融資審査や、他の金融機関との新規取引において不利に働く可能性があります。延長した期間分、総支払利息は増えることも踏まえておく必要があります。
任意売却は、金融機関の同意を得たうえで、所有者自身が仲介会社を通じて売却を進める方法です。競売と違い、通常の不動産売却と同じ流れで買主を探せるため、一般的に市場価格の8〜9割程度での売却が目安とされています。売却スケジュールや引っ越し時期についても、ある程度所有者側の意向を反映できます。
売却代金で残債を完済できない場合でも、任意売却自体は可能です。その場合は金融機関と協議し、残った債務(残存債務)について分割返済などの返済計画を新たに取り決めることになります。この点は、下で見る競売の場合とほぼ同じですが、任意売却のほうが売却価格が高くなりやすいため、結果として残存債務は小さくなる傾向があります。
金融機関への相談や任意売却の手続きを取らずに滞納が続くと、金融機関は裁判所に競売を申し立てます。競売では、裁判所が定める売却基準価額が市場価格より3割程度低く設定されるのが一般的とされ、実際の落札価格は市場価格の5〜7割程度、場合によってはさらに下がることもあると紹介されています。加えて、売却時期や引っ越しの都合は所有者の意向にかかわらず裁判所の手続きに従って進みます。
以下は仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。実際の金額は物件・金融機関・契約条件によって大きく異なります。
想定した投資家・物件
個人投資家が、木造一棟アパート(8世帯)を購入価格4,200万円・自己資金630万円(15%)・融資3,570万円・当初金利2.3%・融資期間25年で購入。5年後の残債は概算で約3,050万円です。
当初の状態(健全時)
年間NOI 325万円、年間返済額 189万円 → DSCR=325÷189≒1.72倍。
ショック発生後(金利上昇+空室悪化が同時に起きた架空のケース)
変動金利が2.3%→4.0%に上昇し、同時に空室が増えてNOIが325万円→210万円に低下。残り20年・残債3,050万円・金利4.0%で返済額を再計算すると、年間返済額は約224万円に増加します。DSCR=210÷224≒0.94倍。NOIだけでは年間の返済額を賄えない状態です。
この状態から、物件の想定売却価格が3,400万円まで下落していたとして、3つの道を比較します。
選択肢 | 売却価格の目安 | 売却後の目安 |
|---|---|---|
リスケジュール | 売却しない | 残債3,050万円を維持したまま、返済条件を見直して保有を継続 |
任意売却(市場価格の85%と仮定) | 約2,890万円 | 仲介手数料等(約102万円)を引いた手残りは約2,788万円。残債3,050万円との差額、約262万円が残存債務 |
競売(市場価格の60%と仮定) | 約2,040万円 | 残債3,050万円との差額は約1,010万円。執行費用等は個別事情により変動するため本記事では金額を確定しません |
このケースでは、任意売却を選べた場合と競売に至った場合で、残存債務に数百万円単位の差が出る計算になります。差が生まれる理由は売却価格そのものだけでなく、「所有者の意向で売却時期とプロセスを選べるかどうか」にもあります。
今回の架空例が示しているのは、「DSCRが何倍を切ったら危険か」という数値だけでは、取れる選択肢の数は決まらないということです。分かれ目になるのは次の2点です。
自分の物件が今どのDSCR水準にあるのかを確認したい場合は、DSCRを無料で計算するでNOIと融資条件を入力し、現在の返済余力と、金利がどこまで上がるとDSCRが1.0や1.2を下回るかを確認できます。また、今売却した場合に残債・売却費用・税額を引いた手残りがいくらになるかは、売却・出口戦略シミュレーターで試算するで確認できます。どちらも登録不要で、入力内容はブラウザ内でのみ計算されます。
DSCRが悪化したとき、多くの情報は「売るべきか」「待つべきか」のどちらかを単独で検討させようとします。しかし実際には、金利シナリオ・空室シナリオ・残債の減り方・売却価格の下落シナリオを同時に動かして比較しないと、どの選択肢が自分にとって有利かは見えてきません。RE-AIの35年キャッシュフロー分析やストレステスト機能は、こうした複数条件の同時変化を一つの画面で確認するための仕組みです。物件全体を総合的に見直したい場合は、無料診断で現在の条件を入力して確認することもできます。
返済が厳しくなったときの選択肢は、リスケジュール・任意売却・競売の3つに大きく分かれますが、どれを選べるかは「気づいた時点」と「滞納する前に動けたか」で決まります。DSCRが1.0を下回ったという事実は危険信号ですが、そこから先に何ができるかは、数値を確認したうえで、できるだけ早く金融機関や専門家に相談することで変わります。本記事の金額はすべて理解のための架空例であり、実際の対応は金融機関・弁護士・任意売却の専門業者等に個別に確認してください。
情報確認日:2026年10月5日。本記事は投資助言ではありません。返済条件の変更・任意売却・競売に関する実際の対応は、必ず金融機関・弁護士・任意売却の専門業者など専門家にご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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