
収益物件を「築古になる前に売って、また築浅を買う」という戦略があります。減価償却が終わる前に入れ替え、融資期間をリセットし、建物を若く保つ。理屈は通っているように見えます。
では、その買い替えは実際に手残りを増やすのでしょうか。今回は同じ自己資金・同じ30年を前提に、「1棟を持ち切る」「15年で1回買い替える」「10年ごとに買い替える」の3戦略を同じ式で計算し、30年IRRと通算手残りを比較しました。
結論を先に書くと、金利2.5%の前提では10年ごとの買い替えは持ち切りより30年IRRが1.54pt低くなりました。15年で1回の買い替えは+0.08ptで、ほぼ互角です。そして買い替えが明確に有利になるのは金利2.0%以下のときだけで、2.62%を超えると優位は消えました。
以下は実在の物件統計ではなく、条件を固定したシミュレーションです。実データではありません。
買い替え戦略は「築年数で融資期間と償却年数が動く構造」を前提にしているため、その感応度が最も大きい木造一棟アパートを分析対象にしました。規模は、自己資金1,400万円台で1棟目を取得し、2棟目・買い替えを検討し始める個人投資家の水準に合わせています。
項目 | 設定 | 根拠・考え方 |
|---|---|---|
物件 | 木造一棟アパート8戸・築10年 | 耐用年数22年に対し残り12年。融資期間・償却年数の感応度が高い |
物件価格 | 6,000万円 | 投下自己資金1,410万円。個人が買い替えを検討し始める規模 |
満室年間家賃 | 480万円(5.0万円×8戸) | 表面利回り8.0% |
NOI率 | 満室家賃の75%=360万円 | 空室5%+運営費(管理・修繕・税・保険) |
借入 | LTV85%=5,100万円/金利2.5%/25年 | 2026年のアパートローン変動金利は1.5〜3%台。中央寄りの2.5%を基準 |
購入諸費用 | 物件価格の8.5% | 登録免許税・不動産取得税・仲介手数料等 |
減価償却 | 建物比率55%/14年(年235.7万円) | 中古木造:(22−10)+10×0.2=14年 |
所得税・住民税 | 実効33% | 給与所得と合算した中間層を想定 |
家賃下落 | 年0.8% | 長期の賃料逓減を一律で反映 |
出口価格 | 翌年NOI÷Exit Cap | 築10年で6.0%、以後築1年ごとに+0.06pt |
売却費用 | 売却価格の4.0% | 仲介手数料(3.3%)+印紙・その他 |
譲渡税 | 長期20.315% | 取得費は簿価(購入価格−償却累計)で計算 |
買い替え時 | 税引後手取りを全額再投下し、再びLTV85%で築10年・表面8.0%を取得 | 余剰を引き出さない前提 |
初年度は、NOI360万円に対して年間返済275万円、DSCR1.31、税引後CF86万円というスタートです。
すべての戦略で固定:投下自己資金1,410万円、30年という検証期間、表面利回り8.0%、NOI率75%、金利2.5%、LTV85%、諸費用率、家賃下落率、Exit Capの決まり方、税率。
戦略間で変更したのは1点だけ:買い替えのタイミングと回数。
戦略 | 内容 | 保有した物件 |
|---|---|---|
A | 持ち切り | 1棟(築10年→築40年) |
B | 10年ごとに買い替え | 3棟(各築10年で取得) |
C | 15年で1回買い替え | 2棟 |
戦略 | 30年IRR | 持ち切りとの差 | 通算手残り |
|---|---|---|---|
A 持ち切り30年 | 5.17% | ― | 4,586万円 |
C 15年で1回買い替え | 5.26% | +0.08pt | 3,847万円 |
B 10年ごとに買い替え | 3.63% | ▲1.54pt | 2,569万円 |
(投下自己資金1,410万円に対する、30年間の税引後CFと最終売却手取りのIRR)
「建物を若く保てば有利」という直感に反して、頻繁な買い替えほど成績が落ちました。Bでは通算手残りが持ち切りの56%まで縮んでいます。
時点 | 売却価格 | ローン残債 | 譲渡税 | 手取り | 次に買えた物件 |
|---|---|---|---|---|---|
10年目 | 5,034万円 | 3,431万円 | 242万円 | 1,159万円 | 4,933万円 |
20年目 | 4,139万円 | 2,821万円 | 199万円 | 953万円 | 4,056万円 |
30年目(最終売却) | 3,403万円 | 2,320万円 | 163万円 | 784万円 | ― |
10年目の手取り1,159万円は、当初投下した自己資金1,410万円を下回っています。10年運用して、投下資本が縮んだ状態で次を買い直していることになります。
買い替えを1回だけ行うとして、その年を5年目から25年目まで変えて30年IRRを再計算しました。
買い替える年 | 30年IRR | 持ち切りとの差 | 乗り換えられた物件価格 |
|---|---|---|---|
5年目 | 3.26% | ▲1.92pt | 3,664万円 |
8年目 | 4.09% | ▲1.09pt | 4,349万円 |
10年目 | 4.56% | ▲0.62pt | 4,933万円 |
12年目 | 4.93% | ▲0.24pt | 5,622万円 |
15年目 | 5.26% | +0.08pt | 7,062万円 |
18年目 | 5.17% | ±0.00pt | 9,162万円 |
20年目 | 4.98% | ▲0.19pt | 10,709万円 |
25年目 | 4.10% | ▲1.08pt | 15,116万円 |
買い替えなし | 5.17% | ― | ― |
符号が反転するのは13年目と14年目の間、そして17年目と18年目の間です。つまりこの前提では、買い替えが持ち切りを上回る窓は14〜17年目という4年間しかなく、しかも最大でも+0.08ptでした。
早すぎる買い替えが不利なのは、元利均等返済の初期は元金がほとんど減らず、売却しても残債を返すと手元に戻る現金が少ないためです。遅すぎる買い替えが不利なのは、築年数が進んだ物件は融資期間が短くなり、売却できた資金を効率よく再レバレッジできないためです。
買い替えで発生するコストは「売却費用」「譲渡税」「次の物件の購入諸費用」の3つです。これを、売却直前の自己資本(売却価格−ローン残債)と比べました。
買い替える年 | 売却直前の自己資本 | 売却費用 | 譲渡税 | 新規購入諸費用 | 摩擦コスト合計 | 自己資本比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
10年目 | 1,602万円 | 201万円 | 242万円 | 419万円 | 862万円 | 53.8% |
15年目 | 2,198万円 | 185万円 | 354万円 | 600万円 | 1,139万円 | 51.8% |
20年目 | 2,969万円 | 170万円 | 282万円 | 910万円 | 1,362万円 | 45.9% |
1回の買い替えで、その時点の自己資本の46〜54%に相当する金額が外部に出ていきます。最大の費目は譲渡税ではなく、次の物件の購入諸費用です。買い替えで規模を大きくするほど、諸費用は物件価格に比例して増えます。
注意点として、譲渡税が相対的に小さく見えるのは、減価償却で簿価が下がった分が譲渡益として課税されているためです。保有中に減らした税金は、売却時に戻ってきています。
15年目の買い替えは+0.08ptでした。この改善が「建物の若返り」によるものなのか、「再レバレッジによる規模拡大」によるものなのかを切り分けます。
売却手取り1,660万円を使って買う物件の価格を変え、借入額とLTVが変わるようにして再計算しました。
乗り換え先の価格 | 新規借入 | LTV | 30年IRR | 持ち切りとの差 |
|---|---|---|---|---|
4,000万円 | 2,680万円 | 67.0% | 4.78% | ▲0.40pt |
5,000万円 | 3,765万円 | 75.3% | 4.94% | ▲0.23pt |
6,000万円(同規模) | 4,850万円 | 80.8% | 5.10% | ▲0.08pt |
6,500万円 | 5,393万円 | 83.0% | 5.17% | ±0.00pt |
7,062万円(LTV85%上限) | 6,003万円 | 85.0% | 5.26% | +0.08pt |
同規模(6,000万円)に買い替えた場合は▲0.08ptで、持ち切りに負けます。プラスに転じるのは物件価格6,500万円を超えてから、つまり借入を増やして規模を拡大したときだけでした。
この前提では、「築年数のリセット」単独の効果はマイナスであり、買い替えのIRR改善はすべて再レバレッジ由来だという結果になります。
実際、規模拡大版では借入が次のように変わります。
時点 | ローン残債 | NOI | 年間返済額 | DSCR |
|---|---|---|---|---|
買い替え直前(15年目) | 2,427万円 | 322万円 | 275万円 | 1.17 |
買い替え直後(16年目) | 6,003万円 | 424万円 | 323万円 | 1.31 |
DSCRは1.17から1.31へ改善しますが、残債は2.5倍になります。IRRの+0.08ptは、この借入増加と引き換えに得たものです。
IRRがほぼ互角でも、毎年の税引後CFの形は大きく異なります。
年 | A 持ち切り | C 15年で1回買い替え |
|---|---|---|
1年目 | 86万円 | 86万円 |
10年目 | 57万円 | 57万円 |
14年目 | 43万円 | 43万円 |
15年目 | ▲38万円 | ▲38万円 |
16年目 | ▲42万円 | +101万円 |
20年目 | ▲56万円 | +86万円 |
25年目 | ▲74万円 | +67万円 |
中古木造築10年の償却年数は14年なので、14年目で減価償却が終わり、15年目から課税所得が一気に増えます。持ち切りでは、そこから最終売却まで税引後CFがマイナスで続き、持ち出しを15年間続けることになります。買い替えると償却が再設定され、CFは+101万円に戻ります。
つまりこの2戦略は「どちらが儲かるか」ではなく、「同じくらいの利回りを、どういう形で受け取るか」が違います。持ち切りは出口に集中し、買い替えは毎年の手残りを平準化します。
金利だけを変えて同じ計算を繰り返しました。
金利 | A 持ち切り | C 15年で1回 | 差 | B 10年ごと | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
1.5% | 6.14% | 6.83% | +0.68pt | 5.66% | ▲0.49pt |
2.0% | 5.66% | 6.07% | +0.41pt | 4.68% | ▲0.99pt |
2.5% | 5.17% | 5.26% | +0.08pt | 3.63% | ▲1.54pt |
3.0% | 4.68% | 4.38% | ▲0.30pt | 2.51% | ▲2.17pt |
3.5% | 4.18% | 3.44% | ▲0.74pt | 1.30% | ▲2.88pt |
境界を二分法で詰めると、金利2.62%が分岐点でした。これを超えると、15年で1回の買い替えも持ち切りに劣後します。
理由は単純です。買い替えの利点は再レバレッジなので、借入コストが上がるほど利点が薄れます。一方、摩擦コスト(売却費用・譲渡税・購入諸費用)は金利と無関係に発生します。日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で政策金利を1%程度へ引き上げており、アパートローンの調達環境は1.5〜3%台へ移っています。買い替え戦略が語られてきた超低金利期と、前提が変わっている点は押さえておく必要があります。
「乗り換え先で少し高い利回りを拾えば買い替えは成立する」という考え方もあります。そこで、乗り換え先の表面利回りだけを変数にして、持ち切りと同じ30年IRRになる水準を逆算しました(金利2.5%)。
戦略 | 持ち切りに並ぶために必要な乗り換え先の表面利回り | 当初8.0%との差 |
|---|---|---|
C 15年で1回 | 7.93% | ▲0.07pt |
B 10年ごと(2回) | 8.66% | +0.66pt |
10年ごとの買い替えを選ぶなら、毎回、前の物件より0.66pt高い表面利回りの築10年物件を、2回連続で取得し続ける必要があります。8.0%→8.66%→9.32%という積み上がりです。この前提では、それができて初めて持ち切りと引き分けになります。
ここまでは修繕費をNOI率75%の中に均していました。築25年時に外壁・屋根の大規模修繕300万円が別途発生する前提を加えると、結果は次のように動きます。
戦略 | 30年IRR(修繕なし) | 30年IRR(築25年に300万円) | 低下幅 |
|---|---|---|---|
A 持ち切り | 5.17% | 4.82% | ▲0.35pt |
C 15年で1回 | 5.26% | 4.62% | ▲0.64pt |
B 10年ごと | 3.63% | 3.63% | ±0.00pt |
持ち切りは30年間で1棟が築25年を迎えるため修繕は1回ですが、15年で買い替えると2棟とも築25年に到達するため、修繕を2回負担します。「買い替えれば大規模修繕を避けられる」というのは、30年という期間で見ると成り立ちません。避けているのではなく、次の買主に渡しているだけで、その分は売却価格に織り込まれます。10年ごとの買い替えでは、どの物件も築25年に達しないため影響が出ませんが、それでもIRRは最下位のままです。
今回の試算では金利2.5%・LTV85%・表面利回り8.0%を基準にしていますが、売却年ごとのIRRや税引後手残りは、NOI・Exit Cap・残債・保有期間の組み合わせで大きく動きます。自分の物件と融資条件で確かめたい場合は、売却・出口戦略シミュレーターで保有年ごとのIRRと手残りを試算することができます。保有1〜35年を同じ式で計算し、どの年のIRRが最も高いかを確認できます。
金利2.5%・木造築10年・LTV85%という前提で30年間を計算した結果は、次のとおりでした。
ただしIRRが互角でも、税引後CFの形は正反対です。持ち切りは16年目以降マイナスで推移し出口に集中、買い替えは毎年プラスを保つ代わりに残債が2.5倍になります。どちらが正しいかではなく、自分が必要としているのが毎年の手残りなのか、30年後の総額なのかを先に決めるべき論点です。
金利、LTV、融資期間、Exit Cap、償却年数を同時に動かすと、この程度の条件でも符号が何度も入れ替わります。RE-AIでは、収益性・融資・出口を切り離さず同じ前提でつないで確認できるよう設計していますが、実際の融資条件や建物状態までは代替できません。数字はあくまで判断材料の一つとしてお使いください。
情報確認日:2026年9月24日
※本記事の数値は、上記前提を置いた条件付きシミュレーションです。RE-AIの診断実績データや実際の取引統計ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。